Fate/stay nitro 第壱拾弐話

作者 くま

 

 

 

 

 

 

 

「うぬ!?逃げおったか…」


「だな、 どうやら基点の一つでは在ったらしいが、今のが本体じゃないだろうな。

 ああいう輩の常套手段では在るさ。

 ま、あの様子じゃ随分と弱ってるから、当面の危険はなさそうな感じだけどな…」

 

臓硯と臓硯の操る蟲を九郎が切り裂き、その肉片をアルが放つ魔術が焼き尽くしていた。

焼き尽くされた蟲等が全てが灰になり、それでも臓硯を仕留めきれずに、

その意識が逃げたのを感じ取った九郎たちは、そんな言葉を交わしていた。

そんな二人に助けられた由紀香は、

彼女にとって非日常である臓硯の存在が見えなくなるにつれ、

随分と落ち着きを取り戻していた。

ゆっくりと立ち上がると、尻餅をついた所為でスカートについた汚れを手で掃い、

恐る恐る二人に近寄って行く。

近寄る由紀香に気がついた二人が、視線を彼女に向けるのに合わせて、

由紀香は二人に向けて深々と頭を下げる。

 

「ありがとうございました。

 本当に助かりました。

 正義の味方って本当に居るんですね!」

 

キラキラと表現しても良いぐらいに瞳を輝かせ、二人に礼を言う由紀香。

その憧れの混じったまっすぐな視線に九郎は照れ、アルは何かを探るような視線を向ける。

 

「えと、まあ、とりあえずは、どう致しましてと言っておくよ。

 ともかくさ、俺達がやった事はあまり気にしないでくれ。

 やりたくてやってる事だから、正面切ってそう礼を言われると、少し恥ずかしいしな」


「左様、我らは我らのありようとして行った事だ。

 汝の窮地を救ったのは、結果的にそうなったに過ぎん。

 感謝をするならば、かのようなタイミングで我らと出会えた、汝のその幸運に感謝するのだな」

 

ほほをぽりぽりと掻きながらの九郎の言葉に続け、腕を組んだままのアルが口を開く。

そんな二人に由紀香はその二人の思惑とはずれたポイントで感心していた。

正義の味方は謙虚なものなんだな、と。

そんな由紀香の様子をじっと見ていたアルが再び口を開く。

 

「さて、マギウス、本題に入ろうではないか。

 汝はどうするつもりなのだ?」

 

アルにそう問いかけられた由紀香はすぐに反応できなかった。

きょとんとした表情でいたが、アルがじっと自分を見つめている事により、

どうやら自分に訊いているのだろうと、やや間をおいた後ようやく理解をした。

 

「あのー、私に訊いてるんですか?

 でも、私の名前は三枝由紀香ですし、

 あだ名でも『マギウス』なんて呼ばれたことは無いですよ?

 ひょっとして、誰かと勘違いしてませんか?」

 

由紀香はまるで心当たりの無いアルの言葉に、不安になりながらもそう答えていた。

記憶にある限り、目の前の少女、アルと出合うのは始めてのはずだが、

ひょっとしたら自分が忘れてしまっただけで、以前に出合ったことがあるのかもしれない…。

そう思ってしまったからだった。

 

「とぼける気か、マギウス。だいたい「あー、悪い、悪い。こっちの人違いだった」

 

由紀香の答えに不敵な笑みを返し、更に追求しようとするアル。

そんなアルの言葉を後ろから口を塞ぐ事で止めながら、軽い口調で答える九郎。

その明るい九郎の言葉に、曇っていた由紀香の表情も晴れやかなものに変っていく。

 

「ま、ちょっとした勘違いってヤツだな。

 コイツも口は悪いが、悪気が在った訳じゃないんだ。

 許してやってくれると、俺としては嬉しいんだが…」

 

背後からアルの口を塞いだままそう続ける九郎。

口を塞がれたままのアルは、息苦しいのか手足をばたつかせてもがくが、

よほどしっかり押さえているのか、九郎の手は外れなかった。

 

「いえ、別に気にしてませんから」

 

そんなアルの様子を、微笑ましいと表情を崩して由紀香は答える。

 

「そうか、そいつは何よりだ。

 それよりも、由紀香ちゃんだっけかな、

 その持ち物からすると買い物か何かの途中だろ?

 行かなくて良いのか?」

 

噛み付かれた事もあり、アルから手を放した九郎が、

由紀香の持つ、鈴の付いたあまり似合わない大きな財布と買い物かごを見てそう訊ねる。

噛み付かれた手の平の痛みに目じりに涙を浮かべる九郎だったが、

その指摘に驚いていた由紀香はそれに気が付かなかった。

 

「そ、そういえば、そうでした。

 私、晩ご飯の買い物に行く途中だったんです」

 

言いながら左の手首に着けている愛用の腕時計に目を落とす由紀香。

時間が差し迫っている為か、少し困ったように眉を寄せた。

 

「なら、早く行かないとな。

 それと、今日ココであった事は早く忘れた方が良い。

 俺たちのことを含めてな。

 …魔は魔を呼ぶからな」

 

口元には笑みを浮かべそれでも真剣な眼差しの九郎は、由紀香に言い聞かせるようにそう語る。

正直、由紀香にはピンと来なかったが、

自分を助けてくれた正義の味方がそう言うのだからそうなのだろう、

とりあえずそう思うことにした。

 

「はい、解りました。

 じゃあ、私、もう行きますね」

 

にっこりと笑顔を九郎たちに向けそう告げる由紀香。

うー、と不満顔で九郎を睨んでいたアルも、

アルに睨まれてちくちくと精神的な苦痛を味わっていた九郎も、

その笑顔を守れたことは誇らしく思えた。

 

「本当にありがとうございました、じゃあ」

 

深々ともう一度頭を下げて、手を振りながら笑顔でその場を後にする由紀香。

由紀香に釣られるように笑顔になりながら、由紀香を見送る九郎とアル。

その姿が、曲がり角の向こうに消えるまで二人はそうしていた。

 

「さて、どういうつもりだ、九郎。

 無論、何かの考えがあってのことであろうな?」

 

由紀香が消えた瞬間に笑みを消し、じろりと九郎を睨みながら放たれるアルの言葉。

 

「まあな。

 何らかの確信があるわけじゃないし、推測交じりの俺の考えでしかないけどな。

 ともかく、ここじゃ何だし、落ち着いて話したいところだな」

 

九郎もまた真顔に戻り、アルにそう答える。

そして二人は場所を変えるために歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これから皆さんにちょっと殺し合いをやってもらいます」

 

聖の口から語られたその言葉に、その場に居た六人のマスター達は硬直する。

これまでにそれぞれのサーヴァントから聞いていた内容を、完全に否定するものだったからだ。

思考停止にも似た静寂が満ちる中、

真っ先に行動を開始したのは凛のサーヴァントである玲二だった。

一足で聖の懐へと滑り込み、無手の右手をその胸部へと打ちつける。


トン


「バトルロワイヤルかよ!」

 

否、それはただの突っ込みだった。

ただの突っ込みであるが故に、手刀が聖の胸板を貫くことは無かったし、

聖が吹き飛んで壁に叩きつけられることも無い。

 

「えー、じゃ、じゃあ、皆、ニューヨークへ行きたいか」


「今時、アメリカ横断クイズかよ!」


「そして、優勝者には、この唐草模様のジャケットを進呈します」


「今度は、お笑いウルトラクイズかよ!唐草模様のジャケットは何気に欲しいけどな」


「バラバラになったミート君を生き返らせる為、お前達は勝利するしかないのだ」


「キン○マンの悪魔超人編かよ!というか何気にミート君不死身だな」


「………」

「………」

「………」

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

約2分ほどそんなやり取りをした後に、互いにサムズアップを交わす玲二と聖。

何が起こったのかわからずにポカンとしてる他のメンバーにも関わらず、

二人は一仕事終えた後の良い笑顔を見せる。

 

「と、言うわけで、アサシンチームは10万ポイント獲得です」


「「「はぁ!?」」」

 

いきなりの聖の宣告に対し、マスター達は反射で聞き返す。

あまりに息の合ったその行動に、聖は多少引きながらも言葉を続ける。

 

「えっとですね、つまり今回の聖杯戦争はポイント制で争われるって事です。

 基準のポイントに付いては、僕が独断と偏見で決めますんで、

 皆さんよく考えた上で行動してください。

 あ、マイナスポイントもありますんで、アサシンチームは油断しないように。

 それと聖杯戦争の期間ですけど、

 一週間後に僕が竜堂寺の地下空洞に発現させる【この世の全ての悪】が倒されるまでです。

 【この世の全ての悪】と言っても本物じゃなく、

 冬木の聖杯である僕が生み出せる一杯一杯のものですから、

 決して打倒できないものではないでしょう。

 もっとも、倒せなかったときは、きっと大変なことになるとは思いますけどね。

 あ、ちなみに、【この世の全ての悪】を倒したチームには『一本』、

 ポイント換算で53億ほどが入りますんで、皆さん頑張ってくださいね」

 

末尾に音符でもつきそうなくらいに気楽な声の聖。

それとは対照的にマスター達の間には緊張感が漂っていた。

もっとも、約一名良く解らなかったけど周りに合わせてみたというのも居たが。

 

「【この世の全ての悪】ってどういうものなんだ?」

 

皆に先駆けて聖にそう問いかけたのは士郎だった。

そんなことも知らないのと言いかけた凛だったが、

聖の答えを優先させたのか、口をつぐんだままだった。

 

「彼は、かつての聖杯戦争で呼び出されたアインツベルンのサーヴァントなんですよ。

 他の英霊達と比べるべくも無く脆弱だった彼は、すぐに聖杯戦争からリタイヤし、

 聖杯である僕の元へと戻されました。

 ですが、『願望機』である僕とは妙なところで波長が合ってしまって、

 それからは座に帰らずにずっと僕の中に留まり続けているんです。

 でも僕の『聖』と言う属性と彼の『悪』と言う属性は合うものじゃなくて、

 僕にとって随分と負担になっていたんです。

 で、僕の中に居る彼には、発現させるという形で、出て行ってもらうことにしたんです。

 本来なら発現させてお終いなんですけどね…。

 ま、アフターケアという事で、今回の聖杯戦争が行われる事になったんです。

 要するに今回の聖杯戦争は、僕からのサービスで開かれるんですよ」

 

軽い口調のままで、今回の聖杯戦争はおまけのようなものだと告げる聖。

ある意味聖杯戦争に人生をかけていた、幾人かのマスターはピクリと反応したが、

問いかけた士郎は納得し、【この世の全ての悪】を倒すことを決意していた。

大変なことになるのならば、とにかくそいつを倒さなければならない。

そう心に決めた士郎は傍らに控えていたセイバーに視線を送り、

そしてセイバーもまたその視線に頷くことで応えた。

アイコンタクトで今後の方針を決めた士郎、

マスター同士の戦いは無いのだと安心する桜、

自らは打って出る気が無かった総一郎、

そしてなんだか良く解らないけれどうんうんと頷いている大河。

その4人は聖の説明に頷いていたが(ただし大河は頷いているだけで理解してないが)、

凛とイリヤだけは鋭い視線を聖に向けたままだった。

 

「その話を信じろって言うの?」

 

じろりと聖を睨みつけ、詰問するのはイリヤだった。

それに同調するように凛もまた半眼の視線を聖へと向ける。

 

「信じる信じないも、イリヤ姉さんは全て解ってるんでしょう?」

 

睨みつけられていてもあくまで軽やかに答える聖。

イリヤを姉だと言うその言葉に驚いたのは、イリヤ本人だけではなかった。

 

「アインツベルンには、いいえ、私には貴方みたいな弟はいないわ」

 

いきなり姉であると呼ばれたことに動揺しつつも答えるイリヤ。

 

「イリヤの家じゃないなら、一体、どこで子供作ってきたんだよ爺さん」

 

とつぶやくのは士郎。

 

「き、切嗣さん、またね、またなのね」

 

とショックを受け、ずずーんと落ち込む大河。

そんな大河を見るに見かねてと言うわけでもないのだが、聖は説明を続ける。

 

「確かに、僕の方が随分と前に、

 そして、アインツベルン、マキリ、トウサカの三家によって作られた訳ですから、

 そういう意味では弟ではないのかもしれません。

 けど、『器』が人型をとるという情報は貴女から得たものですし、

 僕がこういう形を取ったのも最近のことですから、やっぱり貴女の方が姉だと思うんですよ。

 それに貴女と対になるようにと、付いてるものが付いてるわけですしね」

 

あくまで軽い口調を崩さずにそう続ける聖。

何なら見てみます?と聞き返されたイリヤは、

真っ赤になって、結構よ!と答えるのが精一杯だった。

そんな二人のやり取りを傍からながめていた凛だったが、

考えがまとまったのか、ゆっくりと口を開き、確認するように聖へ問いかける。

 

「つまり、『聖杯』であるあなたは、自分の生み出した【この世の全ての悪】、

 アンリ・ユマを始末させるために今回の聖杯戦争を開催したというわけよね?

 どうしてそんな回りくどい事をするのかしら?

 あなたがそれを生み出す理由は解らないでもないけれど、それを消し去らない理由が解らないわ。

 自分のやったことの始末ぐらい、自分でつけるつもりは無いの?」

 

半眼で聖を睨みつけたまま、投げかけられる凛の言葉。

それもそうだな、と今更ながらに頷く士郎の頭を、凛は何も言わずに小突いた。

何すんだよ、そう言いかけた士郎だったが、凛にひと睨みされ沈黙した。

そしてそんな二人のやり取りを眺めていた聖は頃合を計りながらも問いかけに答えていく。

 

「それは僕が『聖杯』、つまり『願望機』であるが故なんです。

 僕が彼を【この世の全ての悪】を生み出すのは、

 ただの人間であった彼が、

 人々に【この世の全ての悪】であるように望まれて英霊と成った存在だからです。

 そして、ただの人間を英霊と成してしまうほどの強くそして堅固な願いを、

 『願いを叶える為に存在する僕』は無視できない。

 むろん、彼を消せない理由もそこにあるのです。

 彼を英霊足らしめるのと同程度に、

 彼の抹消を願うのはこの世の誰であっても出来ないことですから。

 そして、矛盾を感じるかもしれませんが、

 本来、冬木の聖杯に願う権利を有するのは、聖杯戦争の勝利者のみ。

 勝利者でも無いのに、彼の消滅を願うのは虫が良すぎるというものです。

 それ故に、僕の都合で生れ落ちる【この世の全ての悪】もまた、

 不完全な形で生れ落ちるんですけどね。

 僕の話は詭弁に聞こえるかもしれませんが、

 僕が比較的真っ当な『願望機』であるうちに彼を如何こうするには、

 この方法しか、僕には取れなかったんです。

 侵された聖杯の恐ろしさは、前々回のアレで皆さん十分に解ってみえるでしょう?」

 

先ほどとは違い、真剣でそれでいて、どことなく沈んだ様子で聖は語る。

その聖の様子にイリヤは眉を寄せて口を開く。

 

「聖は、『聖杯』で『願望機』なのよね?

 望みを叶える為の存在なら、

 【この世の全ての悪】の望みだけ叶えれば、それで事足りるはずよね。

 どうして、こんな風に私達が【この世の全ての悪】に対抗できるような手段を用意したりするの?

 道具は道具らしく、ただ、その目的だけに使われていれば良いとは思わないの?」

 

聖を真正面から見詰め、イリヤが投げかける言葉。

それはイリヤ自身にも響く言葉だったのか、イリヤもまたその表情を少し曇らせていた。

聖は軽く笑みをもってイリヤの視線を受け止め、ゆっくりと答えとなる言葉を紡いでいく。

 

「イリヤ姉さんの言うことも尤もだと思いますよ。

 でもね、僕がこの地に作られてから、結構な時間が経ってるんです。

 その所為でしょうね、僕はこの地が、そしてこの地に暮らす人々が愛おしい。

 それは僕の在り様と同じくらいに強くそう思うんです。

 ただ、それだけなんです」

 

真剣に、それでいて優しささえも表情に浮かべて、聖はそう答える。

集まった6人のマスターは、あるものは決意を新たにし、

そしてあるものは訝しげな表情のまま、聖の言葉を受け止めるのだった。


あとがき

ごめんなさい、説明だけで終わってしまって、全然新たな場面とか在りませんでした。

まあ、それも皆さんの予想の範囲ですよね?

でも、もう少し説明ばっかの話が続きます。

見捨てずに読んでやって頂ければ幸いです。

ではまた。


感想

さて、本日はお日柄もよろしく……ってまあ、聖君と玲二君息が合ってますね〜♪

つーか、くまさんの書く玲二君はノリツッコミの得意なキャラだった事を今思い出しました!(爆)


聖杯というものは、霊体としての願望を適えるシステムでしたっけ。

霊体なのか、上位次元のなのか、魔力的になのかその辺りの解釈はよくわかりませんが。

実体のない魔力の塊のような物で、サーバント6体のエネルギーを媒介に願いをかなえるらしいですね。

イリヤは体中に魔術紋を刻み込み、聖杯そのものとなった訳ですが……

それはどちらかと言えば、世界と聖杯の中のエネルギーを繋ぐ門のような役目だった様子です。

だから、桜も同じ様に聖杯となる要素を持っていましたし。

聖杯になる素養の無い者でも、ある程度の力は召喚できたのだろうと思います。

まあ、本当の所は知っている人に聞かないとさっぱりですが(爆)

結局 何が言いたいんですか?

駄作家の貴方が下手に語りに入っても、誰も聞きませんよ。

大体下手な台詞で墓穴掘るのは貴方なんですから。

あんまり語らない方が身のためですよ。


うう…申し訳ない。

で、大十字・九朗とアル・アジフはマスターと別行動をとったわけだね。

彼らは一応キャスターと言う事になるのかな?

彼ら何か唱えてましたっけ?

アレを召喚するとき以外は呪文唱えているの見たこと無い……(汗)

それだと本当にキャスターかは怪し い所ですね……

それはそれで面白いと思うけどね。

この先は玲二君の活躍と士郎君の活躍、どっちがメインとなっていくのか、気になる所だね〜



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