Fate/stay nitro 第壱拾話

作者 くま

 

 

 

 

 

 

 

 

「だって戦争でしょ?

 なら仕方が無いんじゃ無いの?

 学園の皆に迷惑かけるわけにもいかないし」

 

ずずずー、とお茶をすすりながら、士郎に対しあっさりそう答えたのは大河だった。

今日も学園を休む事を士郎が告げた事に対する、

そのあまりに物分りの良過ぎる答えに、

居間に居合わせた凛を始めとする面々は驚きの表情を隠せない。

ちょと、どうしちゃったのよ、藤村先生は?

と脇腹を肘で小突くことで士郎に訊ねる凛。

無論、士郎とて何か解る訳でもなく、首を横に振るだけだった。

 

「ホントは何で士郎達が何でそんなものに参加してるのか、きちんと教えて欲しいんだけどね。

 士郎や桜ちゃん達がそういう人達だってのは解ってたけど、

 黙って見て見ぬフリするのが大人だって、キリツグさんも言ってたから…」

 

と更に続けた事に居間に居合わせた面々に衝撃が走る。

独自路線を突っ走るというか、いつも暴走してる大河に、

自分たちの正体、つまり魔術師であることがばれているとは、誰一人考えていなかったからだ。

 

「あ、でも、私が当事者になった場合のことは、

 キリツグさんにも聞いてなかったな…。

 むむむ、どうしよう…」

 

そんな面々を放っておき、独りそう唸りながら頭をかかえ考え込んでしまう大河。

そして驚いていた面々の内、最初に再起動を果たしたのはイリヤだった。

 

「ねえ、タイガ、どうして私達がそういう人だって解ったの?

 誰かに聞いたわけでも無いんでしょう?」

 

自身では正体を悟られるような無様は晒していないという自信からだろうか、

差して重要で無いはずの、どうして大河がその結論を出したか、と言う疑問をイリヤは訊ねた。

一瞬だがチラリと視線を向けた先は士郎の方だった。

(シローが原因よね)

(士郎の所為ね)

(先輩が…)

心中までイリヤと同じだったのか、同じ様に士郎に向けて視線を投げかける凛と桜。

その視線が何を意味するのか、朴念仁と言われる士郎も流石に気が付 き、

一瞬ムッとする表情を見せるも、すぐさまがっくりとうなだれる。

自身が未熟者であることは言われなくても解っていることだし、

少なくとも凛のような、ある意味完璧な立ち振る舞いを、自分はすることが出来ないと士郎は自覚していた。

そしてその未熟さが原因で、大河に自分が魔術師であることを悟られた可能性を否定できなかったのだ。

尤も、士郎の心配などお構い無しの答が、大河からは返ってきた。

 

「なんていうか、『キリツグさんと同じ方向性のにおい』がするのよね。

 もちろん皆の『におい』はバラバラなんだけど、 やっぱり、皆同じ カテゴリーの『におい』なのよね。

 お爺ちゃんを始めに藤村組の人達は、普通の人とは違って、やっぱり 『そういうにおい』がするし、

 それと同じ様に、士郎たちの『におい』も普通の人とは違うのよね。

 あ、でも、士郎はそういう『におい』が、最近になって格段と強くなった感じだけど…。

 まあ、とにかく、私の嗅覚を持ってすれば、なんてことは無いのよ」

 

手を腰にあて、むふー、と鼻をならしながらの自慢げな大河の答えに、またも唖然とする面々。

まさか自分たちのことを、文字通りに嗅ぎ分けられる、とは到底考えられ無かったからだ。

恐るべし、野生の力、そう戦慄を覚える士郎達だった。

「まあ、藤ねえだしな」

と一番に納得したのは士郎だった。

普段から大河の不条理な言動に振り回されている故の納得でもあったが。

「そ、そうですね、藤村先生ですし…」

「ま、まあ、タイガだし…」

「納得いかないけど、藤村先生だものね…」

残る三人も各々そう洩らし、そう言う事もあるのだと納得した様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうそう、家の郵便受けにね、手紙が入ってたの。

 さすがに郵便屋さんは朝には来ないはずし、誰が置いて行ったのか解らないんだけど」

 

そう言いながら大河はスカートのポケットから幾通かの封筒を取り出す。

その封筒に書かれていた宛名は士郎達の名前。

この場にいる全員に対し一通ずつ、白い封筒の手紙は存在した。

 

「トレースオン」

 

手紙を大河から奪い取った士郎は小さく呟き、己の得意とする解析の魔術を発動させる。

その手紙をスキャンし、何ら仕掛けの無いことを確認した士郎は、ほっ と息を吐く。

 

「大丈夫、何の変哲もないただの紙だよ」

 

そう説明しながら、各人宛の手紙をそれぞれに配ろうとする士郎。

が、じっと自分を睨みつける大河以外の皆の視線に、思わず士郎はたじろいでしまう。

 

「な、何だよ」


「「「はあー」」」

 

そう洩らす士郎にため息で答える凛と桜とイリヤ。

 

「先輩、それはちょっと…」

 

言いよどみ、目線を伏せる桜。

 

「そうね、でもこの馬鹿は、何を自分がしでかしたのかすらわかってないわね」

 

じっと半眼で士郎を睨みつつ、そう口にする凛。

 

「ま、別に良いんじゃない、それがシローらしさなんだし。

 それに、タイガは私が後で何とかするから」

 

チラリと士郎の方を見た後、ニヤリという例の悪魔っ娘的な笑みを大河に向けるイリヤ。

三者三様の態度を見せる三人。

話題の中心である士郎は、何でそんなことを言われてるのか理解してなかったし、

イリヤに何とかすると言われた大河は、うわー私なんとかされちゃうんだ、と明らかに怯えの色を見せていた。

 

「ま、士郎の断罪は後で行なうとして、問題はこの手紙よね」

 

皆の顔を見渡しながらそう口にするのは凛。

「え、俺、断罪されるんだ」

と驚く士郎をよそに、凛は自分あてに配られた手紙を手に取る。

裏には差し出し人らしき『HIJIRI・N』の文字。

その名前を見ても何も引っかからなかった凛は迷わず手紙の封を切る。

無論、何らかの魔力的な気配を感知しなかったと言うのもその行動の裏づけの一因だ。

それに倣い、他の三人も同じように自身あての手紙を封を切た。

封筒の中から出てきたのは3つ折にされた1枚の紙。

ガサゴソと皆がそろって広げた紙には、行間を十分に取った四行分の文字が書かれていた。

 

『第六回聖杯戦争説明会のご案内

 日時:本日18時〜

 場所:衛宮邸の居間

 注…マスターは可能な限り参加してくださいね(はあと)』

 

その書かれていたあまりの内容に、一瞬我を忘れる四人。

 

「「「「なんじゃいそりゃー!!」」」」

 

正気に戻った四人が、まるで何時もの大河のような叫び声を上げる中、

そのモデルとなったはずの大河は湯呑みを傾け、ずずずとお茶をすすり、一言洩らすのだった。

「皆、元気が良いわねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロボ!ロボ!ロボ!ロボ!ロボ!ロボ!ロボ!ロボ!!」

 

道場に響く掛け声と共に振るわれる、エルザの両手に構えられたトンファー。

破壊せんと迫る暴風にも似たそれを、はじき、受け流すのはセイバー。

が、セイバーは受けに回るのみならず、刹那の見切りでトンファーをかわし、

お返しとばかりに不可視の剣で切りかかかる。

 

「!!」

 

咄嗟に床を蹴り大きく跳び退ることで、セイバーの斬撃を回避するエルザ。

その一撃で勝負を決めると思っていたセイバーは、少しの驚きと共に感心した様子を見せた。

 

「今のをかわすとは…、貴方も中々出来る様ですね。

 なぜ貴方があの男を庇いだてするのかは知りませんが、相手に不足はないようですね」

 

軽く笑みすら浮かべながら剣を構えなおしつつ、その身を魔力で編み上げた鎧で覆うセイバー。

下段に構えられたを剣の封印は解除され、その輝く刀身を相手の眼前にさらけ出していた。

 

「ふん、これからが本番というわけロボか。

 良いロボよ。

 どうしようもない博士を義理で守るためとはいえ、エルザも本気で相手をするロボ」

 

セイバーにそう答え、両手のトンファーを握りなおすエルザ。

そして二人は互いの出方を伺いつつ、徐々にその間合いを詰めていく。


ガゥン!!


その二人の間を銃声と弾丸が突き抜ける。

咄嗟に飛び退り、二人が視線を向けた先は、銃を構えたままのキャルの方向だった。

 

「そこまでにしときなよ」

 

銃口から硝煙を立ち昇らせたまま、二人からの視線を受け止めるキャル。

 

「つーかさ、あんた等、今回の聖杯戦争の何たるかを全く解ってねーだろ?

 今、このタイミングでガチンコ勝負はありえねえ。

 どうしてもって言うんなら、あたしは止めないけど、やるんなら表でやりな」

 

言いながら道場の出口を指し示すキャル。

今、正に激突せんとしていたセイバーとエルザは、それぞれの得物を構えるのを止めた。

ただ単にキャルの言葉に説得されたわけではなく、

キャルの背後で銃を構えるレイジとエレンの姿を認めたからでもあった。

良くても3対2、ヘタを打てば4対1という構図を、セイバーもエルザも好まなかったのだ。

そして、先に引くことを決めたのはセイバーだった。

魔力で編み上げた鎧を解除し、封印を開放していた剣をしまう。

エルザもまた、それに倣うように両手のトンファーを腰のベルトに戻した。

 

「すまないね、二人とも。

 時が来るまでは安寧に過ごしたいというのが、俺たちの方針でね。

 何時ものとは違って、ゆっくり出来そうな環境ではあるからな」

 

構えていた銃を、吊るしたホルスターに戻しながらのレイジの言葉。

同じように銃を構えていた他の二人もそれに倣い各々の銃を下ろした。

 

「ひとつ訊ねたい。

 その『時』とは何時のことなのですか?」

 

道場に満ちた緊張感も薄れた頃。

セイバーの口からはそんな疑問がこぼれ出ていた。

セイバーがじっと見つめるのは『時が来れば…』と言っていたレイジ。

その横では、ロボロボ、とエルザも頷き、レイジからの答えを促していた。

疑問を投げかけられたレイジは、エレンとキャルと顔を見合わせ、怪訝な表情を見せる。

 

「おおよその話は、アイツから聞いているはずだが?」

 

不審げな表情を隠しもせずに、逆に問い返すレイジ。

その横ではそうだそうだとばかり、にエレンとキャルも頷いている。

 

「博士は知ってるかも知れないけど、エルザは知らないロボよ」

 

そう言いながらエルザが指をさすのは、道場の床に転がっている物体こと、ドクター=ウエストの姿。

ピクリとも動かないぐらいに気を失っているは、

エルザが道場に現れるまでに行われたレイジ達の説得の結果だった。

白をも黒と言わせるレイジたちの説得、一般的には拷問とか洗脳などと呼ばれるそれは、

彼の意識を覚醒状態から遠ざけるのに、十分な威力を持っていたという結論を導き出したのだ。

 

「わ、私は、その、泥酔してまして…」

 

と羞恥に顔を赤くしながら、小さな声で答えるのはセイバー。

その後すぐさまがっくりと落ち込んだのは、土蔵での失態を思い起こしたからだった。

 

「ともかく、具体的な日までは聞いてないが、

 この聖杯戦争はいつまでも続くわけではなく、期限があるってことさ。

 それもサーヴァントの勝敗に左右されない期限がね。

 詳しいことはアイツの口から聞けば言い」

 

セイバーの態度に苦笑を漏らしながらも続けられるレイジの言葉。

 

「アイツとは誰ロボか?」

 

状況を把握できていないエルザからは、そんな疑問が投げかけられる。

エルザの問いに対し、軽く笑みを見せながら答えるのはレイジ。

 

「決まってるさ、聖杯の野郎だよ。

 アイツもこの地で実体化してるはずだからな」

 

そのレイジからの答えに、驚きを隠せないセイバーとエルザだった。

 

 

続く


あとがき

というわけで第10話でした。

前回の拍手の感想にもあったけど、今回も中身がスカスカかも…。

精進あるのみですね。

では、また。


感想

くまさん連続投稿です!

感想はまとめて次に書かせて頂きます。

押して頂けると作者の励みになりますm(__)m

くまさん への感想は掲示板で お願いします♪



次の 頁に進む    前 の頁に戻る



戻 る

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.