「皆さん聞いていましたね。ナデシコC、火星ユートピアコロニー跡に向け発進です」
何かごたごたとしている間に、火星へ出発する事となったナデシコCであった…
「ここが火星の後継者残党の集結地点か」
木星圏と一口に言っても色々と有る。最も内側を回る、イオ、ガニメデ、カリスト、エウロパの四つの衛星から成るガリレオ衛星群…
その外側をレダ、ヒマリア、リシテア、エララ、さらに外側にアナンケ、カルメ、パシファエ、シノぺ等の衛星が回っている…
何でもこれ等の名前は全て
ジュピターの女の名前らしい。
最も外側にある衛星シノぺ周辺に、火星の後継者の残存艦隊が集結しているのが見える…
内訳は小型艦300隻、ミサイル艦100隻、駆逐艦70隻、巡洋艦33隻、戦艦8隻、れいげつ型弩級戦艦1隻。
ルリちゃんがナデシコCで火星圏に現れた連中を全て押さえたとは言え、まだ一割程度の戦力は木星圏に残っていたようだ。
流石にアカツキは情報が早い。最も調べたのはおそらくプロスさんだろうが…
もちろんこれを連合宇宙軍や統合軍に知らせるだけでも事は終わる。しかし、今の俺は戦いを欲していた。
「ヤタガラス…ユーチャリスは最大戦速で敵艦隊に接近、グラビティブラスト四連射の後戦闘宙域離脱」
【イエス、マスター】
ユーチャリスがステルスを解除し姿を現す。敵艦隊からのグラビティブラストの一斉射撃が迫ってくるが、
この距離ならディストーションフィールドで充分防げる。第二射までの間にユーチャリスは距離を詰め、敵艦隊を射程距離に捉えた。
たが、ユーチャリスは止まらない。より多くの敵艦を有効圏内に収める為更に接近していき、そして…
ユーチャリスの四つの砲門が順にフルパワーのグラビティブラストを放つ!
ドゴォォォォッ!!
戦艦二隻と巡洋艦、駆逐艦が十数隻まとめて吹き飛んだ。
今のユーチャリスには複雑な戦闘機動は行えない。グラビティブラストの目標も戦艦クラスのみとしている。
だがユーチャリスの強力なグラビティブラストは、その機動をカバーして敵陣中央部に大穴を開ける事に成功した。
「ブラックサレナ出る!」
【マスター、ご武運を】
ユーチャリスのハンガーデッキから直接ボソンジャンプで敵艦隊中央部に出る。
そこから最大加速でれいげつ級に向かうが、先のグラビティブラストによる援護のおかげで中央部の迎撃は鈍い。
それでも秒間数十発のビームやミサイルが迫ってくる。それをかわし、あるいは逸らし…
直撃を受けないような角度でディストーションフィールドに当てる。ブラックサレナのスピードがあってこその防御法だ。
しかし、完全に防御出来る訳も無く…サレナの増加装甲に無数の小さな傷が出来る。
だが俺はそれを無視し、れいげつ級に肉迫する。
「沈めぇぇぇぇーー!!」
れいげつ級のディストーションフィールドを
ディストーションアタックで
突き破って
そのまま艦内に突っ込み、エンジンブロックにカノン砲の雨をお見舞いする。
そして直ぐにディストーションアタックで壁をぶち抜きながら離脱…
僅かなタイムラグの後、後方でれいげつ級が光に変わったのが分かった。
ユーチャリスの第四射で戦艦がまた吹き飛ぶ…小型艦なども合わせるともうすでに100隻以上がユーチャリスによって撃破されている。
ユーチャリスが反転を開始した事を確認しつつ俺はブラックサレナを戦艦に向け、最大加速のディストーションアタックで貫く…
高機動ユニットにより通常のカスタムエステの数倍の加速力がつく為このような芸当ができるのだ。
最も今の衝撃で半壊してしまったが…
使い物にならなくなった高機動ユニットをパージして、
駆逐艦数隻と無数のステルンクーゲルをディストーションアタックで撃破しながら、次の戦艦へと向う。
そして戦艦をカノン砲の射程内に捕らえた、その時…
【マスター、敵艦隊より通信。降伏を申し入れています】
「……」
【マスター!】
「ん、ああ……分かった、この場所を統合軍にでも報告しておけ…」
【イエス、マスター】
本当は分かっていた…ユーチャリスに戦艦の半数を沈められ、れいげつ級を撃破された今、
敵は指揮系統を分断された、ただの烏合の衆だという事は…
だが俺の、
こいつ等全てを消してやりたいという、その思いが戦闘終了
を躊躇わせていた。
【マスター…】
「ヤタガラス、回収をたのむ」
だが、これで復讐は成った。ユリカも助けた…今回の事でクリムゾンも力を失うだろう。
俺は疲れていた…もうやり残した事も無い。後は……
【マスター、次の目的地を決めて下さい】
「次の目的地は……」
「ねールリィ、何でテンカワ・アキトがユートピアコロニーに来るって分かるの?」
「簡単な事です。アキトさんは私達に会うのを避けています…その上で帰ってくる事が出来る所は、
私の知る限りネルガルかユートピアコロニーの二つだけです。しかし、ラピスも置いて行ったという事は
もうネルガルに戻るつもりが無いという事でしょう。ですから、後残されるのはユートピアコロニーだけという訳です」
ナデシコCは現在火星軌道に乗った所だ。イネスやユリカが居るのだからボソンジャンプで飛べば良いだろうと思う所だが、
ユリカはまだ体力が回復していないのでまだボソンジャンプを行う事が出来ないし、
イネスが戦艦クラスの物をボソンジャンプさせるには、きちんとしたジャンプフィールドを作り出せる物があっても一日一回が限度だ。
すでに火星から月に一度ボソンジャンプで戻って来ているので本日は打ち止め、
ジャンプフィールド発生装置の方も現在故障中なので、ターミナルコロニー経由で火星軌道上へとやって来たのだ。
「でも、アキトはユートピアコロニーで何するつもりなんだろ?」
ルリの艦長席の横に特別に席を作ってもらったユリカが言う。
ユリカは本当なら絶対安静の身で、点滴を打っていないと気絶してもおかしくないほど衰弱している筈なのだが…
…愛の力か天然なのか、見た目は元気一杯だ。
「アキトハナニモシナイ…」
「え?」
「復讐モユリカノ救出モ終ワッタ、ダカラモウナニモシナイ…」
ユリカの膝の上でラピスが少し俯きながら言った…
ラピスはアキトと長い間リンクしている内に、アキトの事が何となく解るようになっていたのだ。
「ふぇ? でもでも火星には食料も無いし、アキトも長い間は居られないよ」
「……ナノマシン実験のせいでしょう、おそらくアキトさんは…」
ルリが言葉を濁し、その言葉にユリカもハッとなり顔を俯かせる。
ユリカはアキトのナノマシン実験を直に見ていた…しかし、忘れていたかったのだ。
「私は……」
私は一週間ほどで遺跡に埋め込まれてしまったため、それ以後の事は知らない…
でも、その一週間の間だけでもアキトの悲鳴が何度となく響き渡り、他のA級ジャンパーの人達も次々死んでいったのを覚えている。
……イネスさんに聞いた所によると、アキトがネルガルシークレットサービスに救い出されたのは、二ヵ月後の事らしい。
その地獄に二ヶ月もいたというだけでも心が張り裂けそうだというのに、
それのせいでアキトが回復不能の障害を負ったというのだ、考えただけでも寒気がする。
なのに、その上アキトの命が長くない等と…認める事は出来ない。
やっと皆で会えるというのに……
やっと安心できると思ったのに……
それでも私はアキトの妻、アキトの為に出来る事をしなければならない…
「イネスさん、アキトの命は後どれくらい持ちますか?」
私は背後にいるイネスさん(ユリカが倒れたりしないか、点滴をきちんと刺しているかを見るため)に聞いた。
「そうね、持って三ヶ月と言ったところかしら…」
「アキトが助かる方法は?」
「無いわ…」
「ウソ!」
「何故そんな事が言えるのかしら、ミスマル・ユリカ」
「あなたが、それを考えていない訳無い! アイちゃんであるあなたが!」
その言葉を聞いてイネスさんは一瞬目を見開いた、けど、すぐに理解の色をしめした。
「それは、つまりアレね」
「ええ、アレです。
それと…」
「それと何?」
「私の名前はテンカワ・ユリカです! エッヘン!」
「でもまだ籍は入れて無いんでしょ」
「うっ(汗)」
そんな話をしている間にもナデシコCは火星の大気圏に突入し、ユートピアコロニー跡に向かっている。
このコロニーはチューリップが激突して出来たクレーターが有る為、他のコロニーと比べても原形を止めていない。
「ユートピアコロニー視界に入ります…」
復活したハーリーが到着を知らせる。
「ジャミング検索、有視界での確認を御願いします」
周囲のメンバーに指示を伝えるルリ。
セントラルドック跡の壊れたチューリップに不自然な<歪み>が発見された。暫くすると、それは大きくなりつつある事が分かる。
「ボース粒子増大! 戦艦クラスボソンアウトします!」
フィィィ−−−ン
「ボソンアウト、艦影確認…これは、ユーチャリスです!」
ハーリーがユーチャリス到着をつげる、艦内の緊張が高まった。ルリがウインドウボールを展開しながら指示を行う。
「ハーリー君、ユーチャリスへのクラッキングを。私がサポートを行います、オモイカネ級AIを行動不能にして下さい」
「えぇ?! 艦長がメインじゃ無いんですかぁ!?」
「私は他にもする事があります。それじゃ、頼みましたよ」
「は、はい!」
ハーリーはルリに頼まれた事によって機嫌を直していた。
ルリに認められていると感じたのだ。
ミナトがそんなハーリーを横から見てウインクを送り、
「がんばれ!」
それを聞いたハーリーが顔を真っ赤にしたのは言うまでもない。
ハーリー達がそんな事をしている間にもルリはハッキングを行い、通信を強制オープンにした。
「アキトさん、アキトさん応えて下さい、アキトさん!」
正面のパネルを介してコミュニケウインドウが開く。
そこに黒いバイザーをして黒ずくめの格好をした男が映る…
『……』
「…アキトさん…もう帰りましょう。
味覚が無いとか、合せる顔が無いとか、そんな事如何でも良いんです。
あなたが、私達にとって大切な人だから…だから帰ってきて欲しいんです。
ユリカさんも、私も、ラピスだって…みんな少しでもあなたと一緒にいたいんです!」
ルリが必死の表情で言うが、アキトは顔色ひとつ変えない……
『その話はもうした筈だ。テンカワ・アキトは死んだ、そう言ったはずだが?』
「アキトったら、久しぶりに私に会うからって照れちゃってぇ…大丈夫、アキトは私が
好き! みーんなわかってるっ!」
アキトのその拒絶の言葉にかぶせる様に、ユリカが会話に割り込む。
「でもでも、アキトはルリちゃんもラピスちゃんも好きなんだよねぇ〜、これって浮気?」
「ワタシハアキトノ一部」
『……』
間が悪かったっぽい……空気がビミョーに冷たくなる。
「そうだ、テンカワてめー、このラピスとかって子に何した!」
「リョーコも人の事言えないよねぇ、たか…」
「わっわっやめろ、テンカワの前で、ってああ!」
「いいんだいいんだー、どーせ俺なんてテンカワの代わり…」
「おい、待てよ、別にそんな事言ってねえだろ!」
「ユーチャリスのクラッキング開始しました」
間がいいのか悪いのか分からないハーリーの声によって一連のコントが停止した。
『クッ…』
アキトの表情が歪む。その隙にユリカがルリとラピスに耳打ちする。
「ユリカさん、そんな事して大丈夫なんですか?」
「うん、大丈夫だよ、イネスさんの許可ももらったし」
「私は許可してないわよ、ミスマル・ユリカ!」
「でもイネスさん、そうしないとアキトが…」
「はいはい。けど、私も付いて行きますからね」
「ぶぅー」
「では皆さん、私の周りに集まって」
イネスの指示でユリカの椅子の後ろにルリがやって来る。
「ジャンプ」
フォン…
四人の人間がナデシコCから姿を消した…
フォン…
「テンカワ・ユリカ到着で〜す、ブイ!」
ユーチャリスのブリッジに、ユリカ、ルリ、ラピス、イネスが姿を現す。それに対しアキトは困惑の表情を浮かべる。
「…何故来た?」
パシーン!
ユリカがアキトの頬を張り飛ばす。アキトが見返すと、そこには涙をためたユリカの顔があった。
「そんな悲しい事を言わないで! 私もルリちゃんもラピスちゃ
んもアキトと一緒にいたいの、それだけなの!」
「…だが」
「聞いたよ、アキトの体の事……もう長くは生きられない事も」
「…そうだ。視覚と聴覚はバイザーの補助を受けて常人の七割程度、しかもタイムラグが0.05秒程度ある。
触覚はこのスーツで三割、味覚・嗅覚はまったく無い。今はラピスとのリンクで多少回復しているが…
ナノマシンの暴走で体の壊死が始まっている。三ヶ月と持たない俺には、静かに死んでゆくぐらいしか望みは無い」
「そんな事ありません! アキトさんが助かる方法がきっと有る筈です!
ヤマサキのラボを調べてみます!それがだめでも他の方法を探します!」
「落ち着きなさいホシノ・ルリ、ヤマサキラボはもう調べたわ…結論から言うとヤマサキは
アキト君に二十種類以上ものナノマシンを打ち込んでいる。しかも、どれもこれも規定量以上ね…
つまり、ヤマサキラボに全ての種類のナノマシンの除去法が有ったとしても、除去途中で体力の限界が来て死ぬわね」
「そういう事だ」
その言葉にルリはショックを受けた。
ヤマサキラボの事もだが、アキトが平然としている事が辛い…
「そんな…なら、他の方法を…」
「あるよ」
「何ですかユリカさん、説明してください!」
「よろしい、説明しましょう」
ルリの言葉に反応し説明の準備を始めるイネス。どこに置いてあったのかポインタとホワイトボードを取り出し、
更に人数分の椅子と机を用意する。最後に何故かアンティーク感漂う
片眼鏡を
かけた。
……こんな事もあろうかと、ユーチャリスに積んでおいたのだろうか?
「全国の良い子のみんなお久しぶり、他のSSで見ている人にはごきげんよう、なでなにナデシコユーチャリス版、説明
おねーさんのイネス・フレサンジュよ。さて、今回の質問…
どうやってアキト君を助けるかだけど、まずボソンジャンプのおさらいから始めないといけないわね。ボソンジャンプは物質をレトロスペクトに変換することで
一度物質を過去に送り出し、それを一定の時間で停止。もう一度物質に変換、現在の別の場所へと送り返すというものよ。つまり、ボソンジャンプは空間移動の
類では無く、時間移動という事になる。ここまでは良いわよね」
「・・・」
「はあ(ユリカさんに聞いたはずなのに)…」
アキト…だけでなくルリも、唐突に始まった<なでなにナデシコ>について行けず、戸惑っている。
「ここからは仮説を交えて話す事になるけど…ボソンジャンプが時間移動なら、未来にだって行けるはずというのが今回のコンセプトなの。その事を踏まえて説
明すると、今までボソンジャンプで時間移動をした時…まず、私がアキト君のボソンジャンプに巻き込まれた時は、中継する宇宙人かどうかは分からないけどそ
ういう存在のいる時間まで私は行った。よって移動時間は分からず。ナデシコが火星から月までチューリップを通って帰った時が
プラス八ヶ月。アキト君がゲキガンタイプを月に飛ばした時が
マイナス二週間。私が遺跡から飛ばされた時が
マイナス二十年。これらの例から分かる事は時間移動はランダムジャンプ、それも
遺跡に近い所で起こる可能性が高いという事が分かるわ。そこで今回私達が行おうというのは、人為的なランダムジャンプよ…それも、<未来に向けて>の」
「でも、一体どうやってそれを行うんですか」
「過去一回しか例が無いから確実な事は言えないけど…火星から月に帰った時、私達は未来への不安で一杯だった。だから不安でも輝ける未来でも、アキト君と
の妄想でも良いから未来を思い描いてジャンプすれば未来に行けるのではないかしら」
ルリは頭の中で吟味していたが、困惑気味に質問した。
「成功の確率がかなり低いように感じますが?」
「大丈夫! アキトは私とのラブラブな未来を想像するだけ!」
ベシッ
イネスのポインタによるツッコミがきまった。そして、凄みのある笑顔で、
「説明の邪魔しない」
「ふぇ、イネスさん怖い」
ユリカは冷たい笑顔の怖さに負けて隣りのアキトに抱きつこうとしたが、アキトの膝の上にラピスが乗っていた為失敗してしまった。
「ラピスちゃん、ずるい、アキトの膝の上占領するなんて!」
「私はアキトノ一部。何時モアキトノ側二イル」
「…ラピス、それは違うぞ」
「アキトハラピスガイラナイノ?」
「アキト! ラピスちゃんとラブラブしちゃダメー!!」
「説明を最後まで聞きなさい!!」
「……俺、何かしたか?」
「アキトさん…もう少し女心を勉強して下さい」
ナデシコメンバーの前では、アキトがいくらシリアスでもあっという間にギャグに成ってしまう。正直少し頬が緩んでくるアキトだった。
――火星極冠遺跡――
過去に草壁春樹が占領しようとし、大規模な戦闘が起こった。
火星の後継者としても、ここに本拠を構えた。
ボソンジャンプを管理すると見られる<遺跡>の存在は、戦後の今もなお大きい。
実際この遺跡をどこが管理するかで、現在も宇宙軍と統合軍のにらみ合いが起こっている。
極冠遺跡周辺には宇宙軍と統合軍の艦隊が駐留している。両軍あわせて六千隻に及ぶ大艦隊だ。
もっとも…内訳は統合軍五千、宇宙軍千という大きな開きがあるが。
だが、アキト達にとっては如何でもいい事だった。
ユーチャリスとナデシコCが並んで航行し、火星極冠遺跡へと向かう。
やがて……火星極冠遺跡が見えた辺りで停止する。
「ハーリー君、後の事はよろしく」
「本当に行くんですか? 艦長」
「アキトさんは私の大事な
家族です。家族の為に出来る事をしてあげた
いんです」
「…分かりました…」
二人の会話はぎこちない。もっとはっきり言えば良いのにと思う…でも反面、
ハルカ・ミナト 愛の劇場
|
「アキトさんの所に行きます」
「そんな! 僕の所にいて下さい艦長!」
「私はアキトさんの事が好きなんです。ハーリー君なんかお呼びじゃありません」
「そんな、かんちょー!!」
スタ スタ スタ…… |
……もしそうなったら怖いとも思うミナトであった。
「…準備はいいか?」
「うん!」
「大丈夫です」
「イイヨ」
「ええ、いいわ」
アキトの周りに女性陣が集まっている。右手にルリ左手はラピスがそれぞれ掴まっている。
そしてユリカは首から手を回している。イネスだけは掴まっていないが。
「ジャンプ」
フォン…
――遺跡の最下層・演算ユニット設置場所――
ユリカが囚われてた演算ユニットが、現在はそのままになっている。
その真中に、ボソンアウトした四人が立っている。その一人、イネス・フレサンジュがスタスタと動き回っていろいろ準備している。
「さて、ジャンプする前にこれ、あなたのカルテ。それから、これはウリバタケ・セイヤから」
唐突にアキトに近づいて来たイネスが、数枚の記録用ディスクをアキトに握らせる。
「ありがとう、イネスさん」
「あと、プレートはきちんと持った?」
「…これは、本当にもらっても良いのか?」
「ええ、出来る事なら自分で解き明かしたかったけど。なんだか、
あの時《渡してくれ》って言われたのは…アキト君に、という様な気がするのよ」
「……」
「さて、アキト君…準備出来たわ。後はあなたのイメージだけ。
…先に言っておくわ…成功確率は高くないわよ。
未来に行く保証はないわ…それどころか、文明の有る時代に行けるかどうかも…
そうじゃなければ、真っ先に勧めていたもの…」
「…ああ」
それだけ言うと、イネスはユリカ達に向き直った、そして、表情を厳しくし言う。
「貴女達には言うだけ無駄だろうけど、もう帰ってこれないわよ」
「大丈夫、何とかなるって。だってアキトが居るんだもん」
「私は、アキトさん達の居る所に帰りたいんです。
このままではまた家が無くなってしまう。
だから、アキトさん達について行きたい。
ナデシコCの皆には悪いと思いますけど…」
「ワタシハアキトノ一部、ハナレルコトハ無イ」
アキトと女性陣はさっきの体勢のままだ。
演算ユニットの動きに反応してか、周囲のユニットが光り始める。
しばらくして、周りにボソンの光が現れる。その時…