「ラピスの場所はココ、アキトのイル場所…」


ラピスの感情が表に出ている…

今のラピスには驚かされる事ばかりだ。

その言葉にサチコお嬢さんが戸惑い、

俺の方を見た。

そして呟く…






「もしかして…

 アキトちゃん?」






呆然としたような空気の中、俺は何も言えなくなってしまった…





機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜





第二話 「『闇の慟哭』みたいな」(後編)



AD2195/10/01 AM9:39 ユートピアコロニーホーリアストリート


少女と父親はホーリアストリートの一角にやって来ていた。


「見えてきたぞ」


二人の目の前には寂れたビルが今にも倒れそうにたっている。

何というか取り壊し寸前と言う風情だ…


「これが、火星支社ですの?」

「ああ、前に来た時とはずいぶん違ってるな…」

「変わりすぎですわよ!」

「う〜ん…これではここが営業しているのかも怪しいな」

「一目瞭然ですわ。これで営業できるわけ無いですわよ」


二人は少し考え込んでいたが…


「やはりな」

「ですわね」


何か納得したように頷き合うと、きびすを返した…







AD2195/10/01 PM0:00 ユートピアコロニー火星駐留軍基地


ここはフクベの執務室…フクベは先程入ったばかりの報告書を読んでいた。

それは多少手直しが入っているものの、先日『チューリップの化け物』

とだけ残して消息を絶った、偵察艦トラユリの報告である。


「どうして、今まで報告に来なかったのかね?」


フクベが感情を押し殺した声で言う。その目からもかなりの威圧感をかもし出している…

ムネタケは苦虫を噛み潰したような表情で返答を返した。


「事の真偽を調べていたのよ…」

「真偽を確かめるのは私の役目だった筈だが?」

「いや、だって…チューリップが襲ってきたなんて笑い話にしかならないでしょ…」

「私は、そのような事を言ったかね。内容を偽った報告のほうがよほど問題だと思うが」

「チューリップなんて言葉を信じる方がどうかしてるわよ!」


開き直っているムネタケを一睨みで黙らせ、腰をあげる。


「まあいい、全軍に緊急招集…軌道上に展開させる!」


チューリップの到達予想時刻はPM6:30。

今から作戦を立て全軍を召集、展開出来るような時間は無い。

駐留軍は軌道上に主力を上げる事しか出来なくなっていた…






AD2195/10/01 PM1:03 ユートピアコロニーホーリアストリート


あの後説明を求められた俺は、色々と話す羽目になった…

話せない事や、俺がアキトである事を隠しながら素性を話すのは骨が折れた。

昼になったので、俺は皆とサチコお嬢さんを食事に誘いレストランへと向かう。

俺が流動食しか食べられない事など驚かれたが…食事は終わり、皆がデザートを頼み始める。

その合間にサチコお嬢さんが話しかけてきた…


「じゃあ、本当にアキトちゃんとは関係ないのね?」

「…ああ」

「じゃあ、何でラピスちゃんはあなたの事をアキトと呼ぶの?」

「俺は見てのとおり犯罪者だからな、偽名が沢山有るのさ…」


まだサチコお嬢さんは疑わしそうにしていたが、

これ以上聞いても無駄だと思ったらしく追求をやめた…

その代わり、ラピスの事を聞いてきた。


「それで、あなたラピスちゃんとどういう関係?」


かなり疑わしく思っているのだろう、疑惑の視線が突き刺さっている…

俺はコーヒーを口に含みながら考える。

ここは無難に、養女という事にしておいた方が良いだろう。

そう思いカップから口を離そうとした時…


「私ハアキトノ目、アキトノ耳、アキトノ手、アキトノ足、私ハアキトノ一部、私ノ体ハ アキトノモノ…」


        ブーッ!!


俺は盛大にコーヒーを吹き出した。

顔にもナノマシンの光が浮き出している…


「へ、変態! あなたなんかにラピスちゃんは任せておけませ ん!」


呆然とする俺の前でサチコお嬢さんがラピスを連れて出て行こうとした…


「そんなー、ジョーさんが変なのはセンスだけですよ〜」


紅玉が止めてくれているが、相変わらずピントが合ってない…

しかしラピス、私の体は…なんて何処で覚えたんだ?


「も〜、ジョーさんも止めてくださいよー!」

「アキトハラピスガイラナイノ?」

「変態よー!」


こいつを静めるのは苦労しそうだ…






AD2195/10/01 PM2:57 崑崙コロニーメインストリートの路地裏


「どうだ、決心がついたか?」

「ああ」


小柄な男がラネリーの意思を確認する。

ここは昨日と同じ路地裏。そして昨日と同じように、ラネリーと小柄な男が向かい合っている…


「で…準備は出来たのか?」

「ああ、研究資料ならここに…」

「他には無いんだな?」

「ふむ…まあ、俺にとって必要なのはこれだけさ…」


小柄な男はあきれたのか、肩をすくめる。

ラネリーは気にした様子も無く、へらへらとしたいつもの表情をしている。


「では行くか…」


その言葉と共に小柄な男は懐から青い宝石のような物を出す…


「一応聞いておくが、おまえは火星生まれだったな」

「ん、ああ…しかし、それがどうしたんだ?」

「いや、ならば問題ない…」


そう言った頃には小柄な男の持つ宝石が青い光を放ち始めていた。


「ジャンプ…」


その言葉が終わった時、そこにはもう誰もいなかった…






AD2195/10/01 PM3:30 ユートピアコロニー南50km付近の岩 場


観光名所のように旗のたった岩場の周辺を、観光に来た人々がたむろしている。

といっても10人ほどだが…

そこに、意気揚々とシゲルがやって来た。


「ふふん、ふん、ふん〜♪」


シゲルは岩場の周辺を回りながら、遺跡っぽいものは無いか探していた。

とてもご機嫌だ…

興奮のあまり周りの人たちの事さえ気づいていないようだ。


「お、これはもしかして火星文明の…やや! あれは♪」


そんな風に地面に顔をくっつけそうな勢いで岩場を回る。

実際見つかったのは、人の手の形に良く似た岩だけなのだが、

今のシゲルは今世紀最大の発見に出会った時の様な感動と、

自分がこの謎を解明してやるという意気込みで一杯だった…





AD2195/10/01 PM6:30 火星軌道上


「敵は真っ直ぐ火星へと向かっています。大気圏突入後の予想到達地点は同南極!」


通信士がコンピューターの弾き出す予想進路を読み上げる。


「敵の目的が侵略である事は明白である。奴を火星に降ろしてはならん!」


旗艦リアトリスの艦橋に立ちフクベは戦闘の開始を告げる。

ほぼ同時にチューリップから100隻近い艦艇が射出される…


「各艦照準合わせ! チューリップに向けて一斉射撃!」


フクベは敵がディストーションフィールドとグラビティブラストを持つ事を

ジョーから聞いてはいた。だが、本当なのか疑ってもいたのだ。

それは、第一射で証明されるだろう…


「てェーッ!!」


フクベの命令により300隻の艦艇が一斉にビーム砲を発射する…

敵艦隊からもほぼ同時に、何か黒い光の様なものが発射される。

黒い光はレーザーに干渉するらしく、レーザーは全て捻じ曲げられ相手側まで届かない。

だが光の効果はそれだけに留まらない。前衛に出ていた数十隻がまとめて損傷を受ける。

敵の黒い光の帯は、味方の装甲を紙のごとく突き破り次々と撃破していくのだ…




「わが方のビーム、全て捻じ曲げられました!」

「ムゥ…重力波か」


やはり、ジョーの言っていたとおりになった。

重力を操るとなれば光学兵器は一切効くまい。

効くのは質量兵器のみだろう…


「チューリップから多数の機動兵器射出!」

「レーザー一斉発射!

 …ッ、ダメなの…!!」


レーザーは黒い光に干渉されなかったが、当たったと思った瞬間、

今度は艦隊の展開する<何らかの力場>によってねじ曲げられる。


「各艦ミサイル攻撃に切り替えろ! 光学兵器は一切効かん!」


フクベが、ムネタケの指示を取り消す指示を出すがその間もチューリップは接近していた。


「チューリップ衛星軌道に侵入! あと60秒で火星南極点に到達します!」


もう普通に迎撃していては間に合わない…


「総員退避! 本艦をぶつける!!」


やはり、質量兵器を使い進入角度を変えて地表到達までに燃やしてしまうのが一番だろう…

フクベはそう思い艦橋を分離、船体に特攻をかけさせた。

しかし、その事によってチューリップがユートピアコロニーに向かう事になるとは、フクベには分かる筈もなかった…







AD2195/10/01 同刻 ユートピアコロニーレインボータウン


アキトは厨房で皿洗いをしていたので、突然の避難警報に驚いた…


「何だって言うんだ…」


外を確認する。道はすでに、このコロニーから出て行こうとする車で一杯だった。

周りの人々もシェルターに向かう者や、コロニーから逃げ出すために車に乗り込もうとする者、

他人の車を奪っていく者等、すでにパニック状態だった…

何事かと空を仰げば、空中から飛来する巨大なチューリップが垣間見える。アキトは急いで中に入り…


「師匠! 師匠! 何処にいるんですか!?」

「おう、如何した?」


厨房に入ってきて包丁を研ぎながら、いつもの調子でトウジが言う。


「避難警報ですよ! 師匠聞こえて無かったんスか!?」

「ん…ああ、だが俺はサチコを待たねばならんからな」


トウジは何か悟ったような顔をしる、

アキトはもどかしさに叫び出しそうになりながら…


「何言ってんですか! サチコお嬢さんだってもう避難している 筈です!」

「そうかもしれん。しかし、違うかもしれん…」

「分かりました! 俺が探してきます!

 師匠もすぐに避難してくださいよ!」

「分かった分かった、早く行け」


あまり真剣さの感じられないトウジの言葉が気になったが、

アキトはこうずきを飛び出し、自分が仕入れに使っている自転車に飛び乗ると、

自転車を蹴立てて走り出した…


「サチコお嬢ーさ〜ん! ラピスちゃ〜ん!」


大声で呼び掛けながら人の合間を縫い、自転車を走らせる。

しかし慌て過ぎている為か、ペダルが少し重い事に気付いていない。

……自転車は、今朝仕入れたみかんの箱(5kg)を荷台に積んだままだった。







AD2195/10/01 PM6:35 ユートピアコロニー上空


「…来たか」


あの後、俺はどうにかサチコお嬢さんにラピスの養父だと納得してもらい、

ラピスをサチコお嬢さんと紅玉に任せて戦闘機に乗り込んだ。

この戦闘機はIFS方式なので俺にも操縦出来る。

ラピスとのリンクが繋がった事により全身の感覚が回復しているため、視覚のタイムラグは殆ど無い。

これなら何とか戦闘機動を行えそうだ…

俺はマスドライバーの照準をいち早く行う為に、艦隊の無線を傍受しながらチューリップの進路上に上がって来ていた。

遥か上空にチューリップの存在を確認…アメジストとのリンクを強化する。


「方位・射角…よし。」


アメジストを通して、向こう側のマスドライバーのことを意識する。

マスドライバー施設では、チューリップに向けて撃ち出す岩塊を急ピッチでセットしている。

チューリップはぶつかったリアトリスを引き離しながら徐々に大きくなってくる…


「「第一射、発射」」


向こうのアメジストと俺の声が重なる…もっとも聞いている人間はいないだろうが…

オリンポス山の方からものすごい勢いで何かが近づいてくる…そのまま俺の上空を通過しチューリップにぶつかる。



    ドッゴ オ…!!



チューリップの破片と岩の破片がパラパラと落ちる。

頼んでおいたより少し小型だな…これでは2・3発では仕留めきれないだろう。

アメジストとのリンクを使い、マスドライバー施設の制御を行っている人達に指示を出す…

始めは渋っていたが設計図の話を出すと大人しく従った。


「「続けて第二射装填……発射」」


今度は先程よりも大きい岩を装填させた。

そのままマスドライバーの内部を加速しながら通り抜け発射する。

巨岩は物凄いスピードで俺の上空を通過する…

しかし、今度は徐々にチューリップの花びらが開き、岩の前にジャンプフィールドを形成する。

巨岩はすぐには吸い込まれなかったが、少しずつチューリップの中に消えていった…

そして、いまだに閉じないチューリップの口から無数のバッタ達が射出され始める。


「クッ…不味いな…」


このまま何事も無く行くとは思ってなかったが…

バッタだけとはいえ、この戦闘機でどこまで持つのか…

何時までもチューリップの相手だけしている訳にはいかないと言うのに…






AD2195/10/01 同刻 ユートピアコロニーホーリアストリート


「紅玉さんシェルターに向かわないんですか?」

「ええ。ジョーさんがここに居ろと言ったんですから、大丈夫ですよ」

「ウン、アキトハ帰ッテクル」


避難警報が発令され、ユートピアコロニー中が騒然とする中、

この一角だけは、本当に穏やかだった、

紅玉はナースキャップを直しているし、ラピスはただ空を見上げている。

サチコはどうしてそんなに落ち着いていられるのかと思う。

自分などは『戦艦並みの質量のある物がユートピアコロニーに降ってくる』

そう聞いただけで、震えが止まらないというのに…


「あなた達はどうしてそんなに落ち着いていられるの?」


何とか気を紛らわすため紅玉達に聞いてみた。

紅玉はその事を聞かれると、少し戸惑い、はにかんで…


「ふふっ…そうですね〜、簡単な事なんです。

 何ていうか、ジョーさんっていつも一生懸命なんですよ。

 それも、自分のためって言うより周りの人のために…

 言葉は悪ぶってますけどね…

 だから、信じてあげたくなるんです。きっとラピスちゃんもそうだと思いますよ」

「……」


そう言った時の紅玉はとても輝いて見えた。

ラピスも無言だったが少し頬に朱がさしている…

サチコは思った。

あのジョーと言う人物はそんなにすごい人物なのだろうか…?

どうすればこれほどの信頼を得られるというのか、と…

サチコは感心して、自分もコーヒーでも飲んで落ち着こうと席を立った。

しかしその時、

ラピスの顔色が変わった…


「だめ、アキト…そんナ事…アキトがシンジャウ!」

「どうしたのラピスちゃん!?」


突然取り乱すラピスに紅玉も驚きラピスに詰め寄る。


「コノママジャ、アキトがシンジャウ! 早くイカナイと!!」

「分かったわ、ジープで出る。案内して!」


紅玉がラピスに言うが、ラピスは取り合わずにあせった声で言う…


「ソレジャ間に合ワナイ! モット速いモノでナイト!」


その言葉に紅玉もどうして良い物かと考え込む。

そこにコーヒーを片手に戻ってきたサチコが、


「あの〜…私、一応IFS持ってるんだけど」


その言葉が終わるより早く、紅玉とラピスはサチコを引きずって外に出て行った…







AD2195/10/01 同刻 ユートピアコロニーレインボータウン付近のシェ ルター入り口


「押さないで! ちゃんと全員が入れる広さが有りますから!」


シェルターの扉を開き、警備の兵が声を上げている。

そこには何千という人々が押しかけている…

他にもコロニーから逃げ出す人や、他のシェルターに向かう者…

皆一様に必死な顔で、せわしなく動き回っている。

そんな中、元気な子供の姿があった。

母親に連れられてシェルターに向かう途中の様である。

しかし、入り口は込んでいるためあまり進んでいない…

そんな事とは知らない子供が遊んでいると、

走りこんできた大人が、子供にぶつかる。


「邪魔だ!」

「あぅ!」


      ポテッ…


子供が転ぶ。

それを母親が抱き起こし、

労わる様に微笑みながら…


「大丈夫? アイちゃん?」

「うん!」


母は、偉いよとアイの頭を撫でるのだった…






AD2195/10/01 PM6:36 ユートピアコロニー上空


「くそ! これじゃあマスドライバーを使っても無駄か…」


あれから何度かマスドライバーによる岩石の投擲を行ったが、チューリップのジャンプフィールドに吸い込まれるだけだった。

バッタの攻撃は単純なので何とか避けているが、いい加減地表到達までの時間が押し迫ってきた。

初弾のおかげで減速させることに成功したが、チューリップの降下角度を変えられた訳でもない。

このままでは<前回>の焼き直し…再びユートピアコロニーは壊滅してしまうだろう……


「こんな時だと、ブラックサレナが欲しい所だな…」


あの後、チューリップより射出されるバッタどもに何度かミサイルを叩き込んだものの、バッタの数は一向に減っていない…


「ゴホッ…! ゴフッ…! ゲフッ!


コックピットにボタボタと血が落ちる。

今ごろになって、また喀血とは…

だが、今は体の事に構っている暇は無い。


「ちぃッ! 後20秒もすれば、地表に激突か…」


もう他に手は無いのか考える…

質量弾は今の状態ではチューリップの速度を鈍らせるのがやっとだし、

武器弾薬はディストーションフィールドで弾かれる…

皆を逃がすだけの暇も無い…

……だが……


「ある!」


そう言うと同時に戦闘機を加速させる…バッタどもが迫ってくるが、

マスドライバーに支援攻撃をさせて、進路上のバッタどもを何十匹か蹴散らす…


「邪魔をするな!」


バッタどもの攻撃を最小限の動きで避けながら、チューリップに接近する…

チューリップが目前に迫った時、俺は戦闘機のコックピットを開けた。

戦闘機の外は凄い風で、立っているのもままならない。

…俺は風に逆らってコックピットを飛び出し、チューリップに向けてダイブした…


「うおおおおおおお!!!」


チューリップへとダイブしながら、見える範囲で一番遠い場所をイメージする…


「ジャンプ!!」


チューリップクリスタルで出来たチューリップが光を放ち始める…

ボソンの煌きがチューリップを包み、その上にゆっくりと巨大な穴が開いてゆく…

チューリップの巨大な質量がボース変換されながらゆっくりと上昇し、吸い込まれていく…

意識が朦朧とし始めた俺もその穴へと吸い込まれる…

ジャンプと同時に俺は意識を失った……





AD2195/10/01 PM6:37 ユートピアコロニー南50km付近の岩 場


シゲルは幸せの絶頂だった。

遺跡を調査していると、今まで見た事も無いような<変わった物>が見つかったのだ…

白い石と言ってしまえばそれまでだが、真円を描くライン・宝石のような輝き等とてもただの石とは思えない。

シゲルがその石を太陽にかざして見ていると…

空に黒いしみが見えた…


「あれ、何だ?」


目を凝らして黒いしみを見ようとした時、遠くで避難警報の鳴る音が微かに聞こえた…


「な、早く逃げないと…」


他の人々はすでに車に乗り、逃げ始めていた。

シゲルも自転車に乗り逃げ始める…

しかしそうこうしている内に、空が一瞬光ったと思うと黒いしみは見えなくなっていた…


「…いなくなったのか?」


そう思い一息ついたのもつかの間…

今度は周り中が光に包まれる。

シゲルが何事かと思う暇も無く、

巨大な黒い物体がシゲルの近くに現れる…




     ドッグゥォ オオオン!!!




シゲルは吹き飛ばされながらこの光をきれいだと感じていた…

だが、落ちてくる黒い巨大な物の破片が体に突き刺さる。


     ドシュッ!


「ゲフッゥ!!」


体に異物が入る不快感と、腹部の激痛・嘔吐感が同時に襲ってくる。

何とか動かなきゃという思いはあるが、徐々に体に力が入らなくなってくる…

シゲルは薄れゆく意識の中で、学校に行っとけば良かったかなぁと思うのだった…






AD2195/10/01 PM6:50 同所


「ぶはっ…!」


俺が目を覚ました時、周囲は砂とチューリップの破片で埋まってしまっていた。

どうやら、ここはユートピアコロニーではない様だ。

何とかジャンプに成功したんだろう…


「これで、何とかチュ−リップによるユートピアコロニーの壊滅だけは防げたな…」


そう言いながら俺は周辺を見回す。

遠くに見えるのはユートピアコロニーだろう。

まだ安心できる訳では無いが、今は無事を喜ぶとしよう。

近くにはチューリップの破片が散らばっている。


基本的に、ボソンジャンプはC・Cを消費する。そして今回は、

C・Cと同じ組成――巨大なC・Cとも言える、チューリップその物を消費して跳んだ。

辺りにチューリップの破片が散らばっているのは、おそらくその時…チューリップの

体積の何パーセントかを消費させた所為で、強度が維持できなくなったのだろう。


とにかく、このチューリップからはもう戦力を出す事は出来ないはずだ。

その事を確認し俺はまた周囲に目を凝らす…

他には、手の形をした岩が近くに見える。

その下のほうで何か…

まさか!


「くそ、動け!」


俺はどうにか体を引きずり、手の形をした岩の下まで行く…

そこには原形を止めていない自転車の残骸と、

腹部にチューリップの破片が食い込んでいる少年…

その顔を見たとき、

ふと少年の頃の記憶が蘇る…

…は! もしかして…


「シゲル…シゲルなのか!」

「…ん…何だ…お前アキトなのか…変な格好してるな……」


どうやら意識が戻ったようだ。しかし、かなり朦朧としている…

まだ生きてはいるが、すぐに止血しなければ助からないだろう。

シゲルの手当てをしようと一歩踏み出したその時、


ゲッハア! ゴホ、ゴプッ!」


     ……ドサッ…


俺は勢いよく喀血し、倒れた。

体がだるく、意識が朦朧とする……

まずい、もう限界が来ているというのか…

俺は這いながらシゲルの元に向かうが、もうすでに腕の感覚が無くなってきていた…

そして、全身の感覚が薄れてゆく…




くそっ、くそくそくそう!動け動け!


俺は…


俺はまた守れなかったとでも言うのか!!


ほんの一分でいい!


頼む、動いてくれっ!


そうすれば、シゲルを止血してラピスにリンクで知らせる事が出来るんだ…





しかし、そんな考えすらも意識の底に消えていく…


必死の抵抗でどうにか意識を繋ぎ止めているものの、それも限界に近づきつつある…


もうだめか、と思ったその時…


(アキト! アキト、しっかりシテ! まだ意識を手放シテはダ メ!)


ラピスの意識が俺の心に直接響いてきた。

まだ俺からはリンクは繋いでいない筈なのだが…


(もう少しダカラ、私タチが着くマデ待っていて!)


その言葉が心に届くとほぼ同時に、


         バリバリバリバリ・・・・・・・・・


ヘリのローター音が聞こえてくる…


そうか…

サチコお嬢さんの運転だな…

そんな愚にも付かない事を考えつつ、俺はヘリの到着を待つ。

やがてへリは、チューリップの破片の無い所を選んで着陸した。

俺から20mほど離れた所だ…

ヘリのローターが止まるのを待たず、薄桃色の髪の少女が駆け出す。


アキト! アキト!  ダイジョウブ?アキト!……


ラピスの言葉を聞きながら、俺は意識を失った…





次回予告

一難去った火星に襲い掛かる危機また危機!

死の淵に立ったアキトは何を思う…

純粋なラピスが涙を流す時、

奇跡の足音が聞こえてくる…

作品監修、脚本、

結局誰も変わってくれるわけでもないので本人が送る…

機動戦艦ナデシコ〜光と闇に祝福を〜

第三話「どこにでもある『奇跡』」をみんなで見よう!






あとがき

はあ、やっと終わりました…

まさかたった4日分で3回も投稿する羽目になるとは…

まあその分密度の濃い話になったと自負しておりますが、

黒髪の少女の名前はどうなった? とお思いの方どうもすみません。

次回に持ち越しでございます。

次回はその辺も含めて書きますのでおゆるしを。

いつも感想を下さるChocaholicさんとタイコさんには本当に感謝しております。

それでは、これにて。


押していただけると嬉しいです♪

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