「…はっ! アキトさんは!?」


しばらく呆然としていたカグヤだったが、落ちていったアキトのことを思い出して階段を駆け降りる。

30段ほど下にアキトは倒れていた。だが……その頭からは大量の血が流れ出していた。


「アキトさん! アキトさん、アキトさん!!

 御願い目を覚まして! ねえ! 起きてよ!! アキトさん!!


 嘘よね…再開したばかりなのに、

 デートするって約束したじゃない…」

「カ…

 カグヤ…ちゃんは泣き虫だな…

 俺は大丈…夫…」


アキトはその言葉を紡ぎきると気絶した。

後には嗚咽するカグヤだけが、アキトの前に佇んでいた…






機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜




第三話 「どこにでもある『奇跡』」(後編)



あの後…俺は小柄な男を、エステのブーストジャンプを繰り返して追かけたが

犯人がボソンジャンプで逃げるのを阻止する事が出来なかった。

あの男…CCが生体ボソンジャンプのトリガーだと言う事を知っている…

だが、今の優先事項は負傷者の救助だ…今回の追跡は諦める事にする。

撃たれた人の治療を急がねば…

あまり時間をかけてもいられないのですぐに引き返し、自分がうがった穴の所まで戻る…

穴に手を引っ掛けて機体を固定すると、コックピットハッチを開けて外に出る。

そこには、アイちゃん親子がいた…

アイちゃんは何が起こったのか分からず眠い目をこすっていたが、

アイちゃんの母親は青い顔をし下を指差している。

俺は頷くと下に向かって駆け出す…


「まずいな、間に合え!」


俺は階段を飛び降りると、その場に降り立つ…


(アキト…もしかして、あれ……)


アメジストが言葉をかけてくるが、俺には返す事が出来なかった…

そこにいるのは座り込んでいるカグヤちゃんと、

頭から血を流して倒れている…俺…

俺は状況を確認する為、倒れている俺…いや、アキトに近づき脈を取る。

生きてはいるようだ…頭の傷は出血程にはひどくない。弾丸は掠っただけだろう…

しかし、その後階段を落ちた衝撃がどういう風に影響しているか分からない…

兎に角、俺はカグヤちゃんに気付けをほどこし、服の袖を引きちぎってアキトの止血を行う。

アキトがどういう状況なのか分からない以上、そのままアキトを動かすのは得策ではない。

俺はアキトをカグヤちゃんにまかせて試作エステに戻り、先行した人々を呼びに戻る…


(大丈夫かな…)

「少なくとも、死ぬ事は無い筈だ…」


その後、先に行っていた人たちを呼び戻し、

タンカを仕立ててアキトをヘリに運び込み、ネルガル火星研究所へと向かう。

崑崙コロニーよりは近いし、何よりチューリップ第二陣が来るまで時間が無い…

木連の擁するプラントはエウロパの重力圏に存在している。

エウロパの公転周期は約3,55日――

木連はチューリップをエウロパの公転をカタパルト代わりにして発射している筈なので、

次のチューリップは早くても後2日は来ないはずだが…

どちらにしろ、今から他の場所に行くのは危険だろう。


「とにかく、今日はここまでだ。

 おやすみ、アメジスト…」

(うん…)


ネルガル火星研究所に着くと同時にアメジストとのリンクを切る。

さすがに俺も疲れていたようだ。リンクを切ると同時に眠りに落ちた…










火星駐留艦隊が民間船の火星脱出の支援を始めて二日目

現在、火星駐留軍は殆ど不眠不休で脱出支援を行っている。

…とはいえ、フクベは部下達に交代で短い休息をとらせていたが…

指揮する立場故か、或いは本人の意思なのか、まだフクベは一度も休憩を取っていない……

だがその甲斐あってか、 今までに脱出した人間は40万を越えていた。


「艦隊を次のポイント、ユートピアコロニー上空へ」


フクベが次の指示を下す。




艦隊はユートピアコロニー上空に向かって加速させる。

ユートピアコロニー第五陣、ユートピアコロニー上で滞空していた最後のシャトル達…

この中には、ユートピアコロニー市長フェンドリック・ハウマンの乗るシャトルも有った…

流石にシャトルでは地球までは推進剤や食料、空気等も持たないため、艦隊に収容される事になっている。

先程より、そのシャトルを熱心に見ている男がいた…


(あのシャトルには確か、ユートピアコロニーの市長が乗っている筈よね…

 …だったら通信設備も有るはず)


ムネタケはブリッジの上からシャトルを確認すると、フクベに休憩を申し出てブリッジを出た…


「確か、提督の通信はタイムラグが殆ど無かった…

 つまり、監視のための艦隊が来ているという事よね…」


タイムラグの事を知っているという事は、フクベの通信を覗いているという事なのだが、

ムネタケは気づかずに口にしていた…

そしてムネタケはエレベータに乗り、シャトルを係留しているハンガーデッキまで降りる。


「あの声からすると来ているのは、第六艦隊司令リヒャルト・ローゼンシュタイン中将ね…

 目的は敵戦力の把握と、第一艦隊の監視及び撤退支援という所かしら…」


ハンガーデッキまで来ると出てきた市長たちを歓迎するフリをしながらやり過ごし、シャトルの中へと入り込んだ…

途中警備の兵士に見咎められたが、『極秘指令よ』の一言で黙らせ、

シャトルの通信施設に入り込む…


「フフフッ…私の目は節穴じゃないのよ。艦内の通信設備を使えば嫌でも提督にばれちゃうけど、

 ここのを使えば『市長が通信していた』とでも言えばいいんだし、

 艦隊が近くに来ているならシャトルの通信でも通じる筈。

 あ・と・は、第六艦隊の通信コードを打ち込むだけ…」


ムネタケはシャトルの通信端末に第六艦隊の通信コードを打ち込む…


「こちら、地球連合宇宙軍第一艦隊参謀ムネタケ・サダアキ中佐…

 第六艦隊旗艦ラケナリア応答願います」


通信回線を開き暫く待つ…


『こちら、地球連合宇宙軍第六艦隊旗艦ラナケリア、

 第一艦隊参謀ムネタケ中佐、通信の目的を述べてください』

「現在、第一艦隊司令フクベ・ジン少将は撤退命令を受け撤退を開始すべき立場にありながら

 悪戯に戦線を開き、艦隊を窮地に陥れかねない状況にあります。

 フクベ少将に撤退命令を徹底させるよう、ローゼンシュタイン提督より勧告をお願いしたいと思い通信しました」

『了解しました、提督にはその様に伝えておきます』

「提督にはお取次ぎ願えないのですか?」

『現在提督は睡眠の時間です、緊急の時以外は起すなと命令を受けております』

「なっ…」

ムネタケは通信士のあまりの物言いに絶句した、

《リヒャルト・ローゼンシュタイン中将は親の七光り》と言う噂があったのは知っていたが、ここまでとは…

自分が同じように言われてきただけに、この男の事は許せそうにない。

しかしムネタケも軍人である…感情を押し殺し無表情を作る。


「分かりました。ローゼンシュタイン提督にはよろしくお伝えください」

『はっ!』


ムネタケは通信が終了した後もしばらく通信画面を睨みつけていた…


「そうよ、私のやり方は間違っていないわ…

 あんな奴らが上層部に居る限り、まともな方法で出世なんて出来ないじゃない…」


そう言ったムネタケの拳は震えていた…

しかし、このムネタケの行動により火星駐留艦隊の撤退が1日早まる事となる…







オリンポス山の麓 ―― 一言で言えば簡単だが、その範囲はかなり広い。

オリンポス山の外縁は500km…自動車でも二日ががりで一周できるかどうかという広範囲である。

その外縁部の一角にネルガル火星研究所はある…

ネルガル火星研究所…現在ここにはユートピアコロニーからの脱出者、約7万人が入り込んでいる。

元々ここにシェルターがある事は知られていたが、これだけの人間がここに集まった事については理由があった。

昨日試作エステに助けられた者は、ほぼ例外なくここに連れてこられたからである。

その中にオガワ・トウジの姿も有った…

彼は、本当はブルーベリィハイツと言うマンションを三つ経営している。

彼にとって借家人は子も同然…彼は店を離れず、借家人達が来た時の為に店を開けているつもりだった。

しかし、バッタが店を破壊したため仕方なく家を出る事になった。最も、あの巨人が現れなければ死んでいただろうが…

そんな訳で家から何ももって出られなかった事もあり、

今の姿は白いエプロンと黄色い服といういつもの格好で、持っている物も包丁位だった…


(こんなんで大丈夫かね…

 …うむ。まあ、どうにかなるだろ…あの巨人、ここのらしいしな。

 しかし、結局アキトの奴サチコとラピスを見つけられたのかね?)


そんな事を考えながら研究所下部にあるシェルター内をうろうろしていると、

その横をどかどかとタンカを抱えた一団が駆け抜けるが…別に珍しい事ではない。

昨日からだいたい一時間置きにタンカを抱えた一団が行ったり来たりしている。

別に何か特別にこちらへ行きたいと思ったわけではないが、トウジはその一団の後ろを付いていく事にした…


(まさかとは思うが、知り合いが入院しとるかも知れんし…少し行ってみるか)


トウジはシェルター内の病院に顔を出した。

最初の内は真剣に身内が居ないか探していたが、成果も上がらず気力も失せて来た。

ここには三千人以上の人々が入院している為、探し出そうにも殆ど不可能に近かいうえ、

誰が誰の身内かも分からない状況にあるらしく、混乱の極みにあったからだ…

しかし、ふと気になるものが目の前に飛び込んできた。

女性ばかり三人がいる所だ…

別にその女性達に興味があったわけではない。

しかしその一人である、小学校低学年位の子供がしているペンダントが気になった。

あれはアキトが両親の形見として持ち歩いている物だ…

あれだけ大きな宝石で、あれだけ飾り気のないペンダントに入っている物は他に見た事が無い。

同じ物かどうかは分からないが、知り合いの可能性もある…そう思い声をかけてみる事にした。


「あー、君達…もしかしてアキトの知り合いじゃねえか?」


少女達はびくりと反応する。そしてそのうちの一人、黒髪の少女が言葉を発した…


「あ、あの私カグヤ・オニキリマルと言います、その…

 アキトさんとは幼馴染なんですが…その…」


少女は何か言いにくそうにしている。

気まずさにトウジはポリポリと鼻をかきながら…


「所で、アキトの奴は何処にいるか知らねえか?」


気の無い感じで聞いてみる…

しかし、その言葉にこの場に居る全員が凍りつく。

その空気に我慢できなくなったトウジが口を開こうとするが…


「うえーん! お兄ちゃんが…! お兄ちゃんが…! 目を覚ま さない の!!」

「なっ…?」


低学年の少女が突然泣き出し、その母親がなだめている。

そして、カグヤと言った黒髪の少女は意を決したように口を開いた…


「アキトさんは私を狙った銃弾から私を庇って…

 撃たれた傷はそれほど問題ではなかったのですが、その時階段を落ちた衝撃で…

 ……今は昏睡状態にあります」

「それじゃあ…」

「はい…アキトさんは今、この病院に入院しています…」


それを言い終わると目からこぼれ出した涙を拭い、

表情を引き締めてカグヤは言う…


「今は何も出来ませんが、地球に脱出した際は…

 アキトさんは私が明日香インダストリーの総力を使ってでも、必ず治してみせます!」


明日香インダストリー ―― その名はトウジも聞いた事が有った。

地球企業の中でもトップクラスの企業だった筈だ…

そしてそこの社長令嬢の名前が、確かカグヤ・オニキリマルとか言ったか…


(アキトの奴…とんでもねえお嬢様を引っ掛けたもんだ)











全身の感覚が薄い…

周りの感覚がかなりあやふやだった…

しかし、ガヤガヤと煩く周りで騒いでいる声は良く聞える。

俺は、その声につられて眠りから覚めた。


(あっ、アキト起キタ?)


ラピスがリンクを使って俺に話しかけてくる…

ラピスがいる事はぼんやりと分かるが、

リンクで補強していても、やはりバイザー無しでは殆ど見えない…


「ああ。ラピス、バイザーを出してくれ…周りが良く見えん」

(ウン、ワカッタ)


ラピスには俺のバイザーの予備を預けてある。

ラピスはそれを取り出し、俺の顔へと押し付けた。

バイザーが俺の視覚とリンクし、視界が開ける…

全体的に暗い視界だがその事についてはもう諦めている、

それよりも、今は周囲の把握が先だ。

そう思い視界を巡らそうとすると、ラピスがすねたような顔をして話かけてきた…


「アメジストって誰?」

「はっ?」

「アキト、昨日寝言で言ってた」


なっ何?

昨日アメジストとリンクしている間は自分の感覚が無かったので、

動いていなかったとばかり思っていたが…もしかして……


「ソレニ、昨日別ノ人にリンクシテイタノを感じた」

「グッ!」

「教エテ、ダレトリンクシテイタノ?」


最後の台詞には感情が全くこもっていなかった。

かなり、怒っているな…

しかし、まさかラピスがこんな事を言うとは…


「ああ、そのだな…」


俺はアメジストとの出会いをかいつまんで話した。

最初は落ち着いて聞いていたラピスだが、時間と共に表情が強張っていき…


「アキト、モウその子とリンクしちゃダメ!」

「え?」

「アキトはダマサレテイルノ!」

「ええっと…?」


もしかして、周囲にまた何か吹き込まれたのだろうか?

まあ、内容から見てサチコお嬢さんあたりか…

その後ラピスに《俺がどう騙されているのか》を延々聞かされる羽目になった…







二時間ほどしてようやくラピスの話が終わった時、俺は疲れきっていた…

どんよりとしている俺は気付かなかったが、いつの間にか紅玉が部屋に入って来ていた。


「あの、ジョーさんの治療なんですけど…」


紅玉はナースキャップを手に取り、もみ潰しながら言いにくそうに佇んでいる…


「ラピス…すまないが、ナースセンターに昼食を出すよう言ってきてくれないか」

「…ウン、ワカッタ…」

俺はラピスを部屋の外に出すため、必要の無い用事を言いつけた。

ラピスは何か気づいた様だったが、あえて言わずに部屋の外へと向かう…

しかし、二人きりになっても紅玉はなかなか口を開こうとしない。

多分、限界が近いんだろう…俺を治療できるぐらいならイネスさんがもうやっている筈だしな…


「構わん、言ってくれ」

「はい………私の……

 私の考えていたクローニングによる治療を行うには、もう…

 …ジョーさんの体力が足りないんです…」

「ああ…」


俺は冷静に答える。これは分かっていた事…

未来に飛べなかったあの時から…

ユリカ、ルリちゃん…

会えずに死んでしまう俺を許してくれるだろうか……

それとも、これが今までの行いの報いなのか…

そう考えていると…

我慢しきれなくなったのか、悲壮な顔をした紅玉が俺に詰め寄る。


「あの、それだけですか?

 あれだけ治療すると言っていた私がこんな事を言っているのに…

 他に言う事は無いんですか?」

「ああ……

 そうだな…

 確かに心残りはある。

 俺は、本当は人を探している…

 ラピスと同じ俺の<家族>を…

 そして、出来る事ならこれから起こる悲劇を止めたい…

 だが、俺の体はもうそれさえまともに出来ない…

 動く事さえままならない俺には…」


紅玉は俺のその言葉を聞き顔を俯かせる。

しかし、俺には別の懸念があった…

落ち込んでいる紅玉には悪いが、何時までも崑崙コロニーに居るわけにも行かない。

不安要素はできるだけ排除しなければ…


「それよりも聞きたい事がある。周囲の騒がしさはどういう事だ?」

「え、あ…はい。あの…

 崑崙コロニーの南西30km付近であの機械の昆虫を見たっていう噂があって、

 都市部の人たちが脱出を始めているんです」


そうか、もうここまで…

おそらく、ユートピアコロニーの人達はもう…

いや、今更そんな事を考えても仕方が無い。

そんな事より、今はこの崑崙コロニーの人々を救う事を考えなければ…


「その人達に<ネルガル火星研究所>の方へ避難する様に言う事は出来るか?」

「父に言えば何とか…でも、ネルガル火星研なんかに行ってどうするんです?」

「憶えてないか? あそこで輸送船を建造させている事を」


紅玉は一瞬きょとんとした。しかしすぐに表情を直すと、


「でも、依頼したのって確か一昨日でしたよね!?

 輸送船ってそんなすぐに出来るんですか?」

「…ああ、あの船は特別だからな」

「そ、そうなんですか…(汗)」


紅玉は納得していなかった様だが、

いつまでもここに居ればバッタ達は兎も角、チューリップの第二陣が来てしまう…

おそらく、次のチューリップは一つではない筈だ。

下手をすると十を超える数を投入してくる事もありうる。

急がなければ…











十月二日も終わりに近づいた頃、火星駐留軍は突然の撤退命令に戸惑っていた…

ムネタケの報告により業を煮やしたリヒャルトが、ブリッジに直接撤退を勧告してきたのだ、


『フクベ少将、君には失望したよ…

 私は直ぐに地球に帰れといった筈だね?

 君は子供の使いも出来んのかね…』

「しかし、現在のように確実に成果が上がると思われる戦場を放棄する訳には…」

『その様な事どうでも良いのだよ。

 私の目的は敵戦力の把握、そしてその目的はもう果たした…

 別に私は無理に君の撤退を支援しなくても良いのだよ?』

「クッ…」


現状で撤退支援もなしに宇宙船の脱出を支援する事は不可能に近い…

フクベの艦隊はもう半数近くまで減りこんでいたし、

マスドライバーも余りに無茶をさせたため暫くは発射できない。

バッタは兎も角カトンボはグラビティブラストを持っている為、下手をすると一瞬で逆転される事もありうる…

そして何よりも…二日間不眠不休で戦っているため、艦隊の人員が限界に近づいていた。

ただでさえ援軍が来るかどうかも分からない不安と戦っていた駐留軍の兵士にとって、

リヒャルトの今の言葉は死刑宣告に等しい言葉だった…



兵士達は一様にフクベの動向をうかがっている…

フクベは暫く一言も発さずにモニターを睨みつけていたが、

やがて気を取り直すように通信士に向き直り


「全軍に通達…シャトルの回収を急げ。

 回収終了と同時に撤退を開始する」


「りょ…了解。

 全軍に通達、シャトルの回収を最優先に…

 回収終了と同時に撤退開始」


フクベの司令は数秒で全軍に行き渡った。

指令を出した後、一瞬何か考え込んでいるようだったが、

フクベは後の事を任せると直ぐにブリッジを出て行った…


(ジョー君、賭けの配当はここまでの様だ。

 無責任かもしれんが君の活躍に期待しているよ…)


そう心の中で思いながら司令室に戻るフクベの胸には、どうしようもない後悔が渦巻いていた……












「…え? アキトの事ですか?」

「ああ。どういう奴なんだ?」

「いや、大した奴じゃ無いっすよ。どうしてまたそんなこと聞くんです?」

「俺をそいつと間違えていたからな。

 そっちの女もそうだが」


俺はサチコお嬢さんを指しながら言った…

サチコお嬢さんは隣に居るラピスにしきりに話しかけている様だ。

紅玉がネルガル火星研究所へ皆を誘導するため父親と同行する事になったので、

残った俺達はヘリでサチコお嬢さんに運んでもらう事になったのだが…

まだ安静にしていなければいけないはずのシゲルが、ラピスを珍しがったり

俺に勘違いした事を謝ったり、サチコお嬢さんに言い寄ったり…



はしゃぎ回っていた。



確か、腹部裂傷出血多量だった筈なのだが…

まっ、バカは風邪引かないとかいうし大丈夫か。

関係無い気もするが…


仕方ないので、シゲルが落ち着いてきた頃を見計らって適当な話を振ってみたのだが…

失敗だったか?

そう思い始めていた頃、不意にシゲルが口を開く…


「アキトは…

 俺と同じキッチン科の三年生です。

 帰る方向がたまたま似ていたんで、友達になったんですよ。

 けっこう気のいい奴なんだけど、引っ込み思案なとこが有るから…あいつあんまり友人が無いんですよ。

 でも、不思議と女の子には人気が有るんです。まあチョコの数では俺の勝ちですがね。

 あ! そうそう、あいつの下宿先…こうずきってレストランの二階なんですけどね、

 あそこのレストランのオヤジが経営してるマンション…

 確か…そのブルーベリーハイツとかって住居表示になってるんですよ。

 変でしょ、レストランの二階なのに…」


シゲルにとっても俺が…いやアキトが友人だった事は喜ばしい事だが、

話がどんどん脱線していくのは何とかならないのか…

そう思いながらも結局最後まで聞く羽目になる。自分で振った以上仕方ないのだが…

いつの間にかラピスが聞き耳を立てていたのはご愛嬌という奴だな。


そうしている間にもヘリは夜空を飛びながら、オリンポス山の麓へと向かい続ける。

やがて、山の陰になっていて見えなかった建物が姿を現し、ネルガル火星研究所の光が見え始める。

…しかし、そこにはいくつもの爆光が煌いていた。

バッタどもの襲撃か…!

火星研究所の重要施設はほとんどがシェルターの中にあるので大丈夫だろうが、宇宙船のドックは外にある。

船が心配だ…そう思いながら研究所周辺を見やる。ぼんやりとしか見えないが、戦闘が始まっているのが分かる。

駐留軍の兵士達が戦闘機で戦っているが、性能の差のせいで上手く戦えていない…

しかし下からの援護が正確なおかげで、どうにか互角にやりあえている。

地上を見ると試作エステの砲撃がバッタを次々と撃破していく…

あの機動、俺の動きに似ている…?

…まさか、アメジストが出ているのか!


「くそ! こんな時に俺は!」


俺は一人ごちてアメジストとのリンクを開く。

ラピスが何か言いたそうにしていたが無視し、アメジストと話す…


(アメジスト! 今どの位バッタが来ているんだ?)

(大体20機位。正確にはちょと分からないけど…)

(そうか…)

(これ位なら私だけでも何とかなる。

 いまは体を休めて…)

(しかし…)

(大丈夫。それに、アキトは明日の為に休んでおかなきゃ…)

(……いや、分かった)


そうだ、俺に出来るかどうか…

だが、今は体力を失うわけにはいかない。

アメジストはかなり良い動きをする…恐らく、リョーコちゃん並みの動きをしている筈だ。

後はスタミナの問題だが、それも…


「ゲキガンシュート!!」


これを使えば解消できる。

今の攻撃で10機近いバッタがディストーションフィールドに巻き込まれ爆発した。

その隙に、俺達の乗ったヘリはネルガル火星研究所に着陸したのだった…












次の朝、俺は戦闘の音で目覚めた。

直ぐに収まったが、恐らくバッタどもは間断なく攻め寄せているのだろう…

リンクで確認したアメジストにも疲労の色が濃い…


(アメジスト大丈夫か?)

(私は……大丈夫だから! …)

(…はぁ…似なくてもいい所ばかり似るもんだ…)

(…何よそれ)

(いいから、休んでおけ)

(……うん)


俺は紅玉を呼び、俺に車椅子を出してくれるように頼む。

紅玉は何故か嬉々として車椅子を出してきた…


「はい、補助しますからね〜。肩に捕まって下さーい」

「えらく嬉しそうだな…」

「だって、車椅子を押すのって<看護婦の憧れ>じゃないですか〜!」

「…IFS方式じゃ無いのか?」

「もっちろん!」


自分で押す為にわざわざ<IFSを積んでいない車椅子>を持って来るとは…

何考えてるんだこいつ…

仕方ないので紅玉に車椅子を押させて、宇宙船ドックまで移動する。


ドックでは輸送船の調整が最終段階に入っていた。

その姿は、四本の柱に貫かれた五枚の黄色いお盆だっ た。

上から100m、200m、300m、200m、100mの大きさのお盆が順番に重なっている…


「あの…あれ、何ですか?」

「何って、輸送船だが…」

「いや、あのぉ…何と言って良いか…

 前衛的…ですね…あはは〜」


紅玉は引きつったような笑みを浮かべて何とか言い繕おうとしている。

まあ、確かに仕方ない事なのだが…


「もう、ほぼ完成しているな。

 紅玉、シェルター内に避難している人達を集めてきてくれ。

 確かに不恰好だが、性能は十分だ…

 何とかシェルターの人々を説得して欲しい」

「えっ…でも〜、ジョーさんはどうするんです?」

「そこまでラピスが来ている…あいつに任すさ」

「ぶう」

「ほら、行け…!」


紅玉は車椅子を押せなくなる事に不満がある様だが、時間が無い。

今日の内にここを出なければチューリップの第二陣が来てしまう…


…しぶしぶ歩き出そうとした紅玉が、ふと足を止めて俺に聞いた。


「あのー…この船、名前あるんですか」

「いや…そういえば形式名さえも無いな…」

「じゃあ、私決めちゃって良いですか?」

「ああ」

「ハス」

「…ハス?」


俺が困惑顔をしている内にも紅玉は話し続ける。


「別に花の形じゃないですけどそっくりじゃないですか。」

「…葉っぱの方か…」

「じゃあ、そういう事で!(///)

「…ああ」


紅玉は少し頬を赤くしながら走って行ってしまった…

少し不審に思ったが、考えないようにしておく。

紅玉が去って行くのを確認してから、この輸送船のことを考える。

兎に角、この船に何人乗せられるか…それが問題だ。

現在ネルガル火星研究所には12万人の人々が住んでいる。

せめて、この人々だけでも救わねば…

考え事をしている内にラピスがやって来た。

まだ、すねている様だが話さなくては…


「あのな、ラピス…」

「…」

「ラピス?」

「アキトノ浮気モノ」

「ぶっ…!!」


まさか、ここまで自我が発達してきているとは…

これは、嫉妬なのか?

それにしてもサチコお嬢さん…

あんまりラピスに変な事教えないでくれ。頼むから…(泣)


「ラピス、車椅子を押してくれ…所長の所に行きたい」

「…嫌」

「ラピス…頼むから」

「じゃあズット私トリンクシテテ」

「ずっと…それは駄目だ」

「ドうしテ?」


ラピスは真剣な表情になり、俺に問い返してくる。

リンクを開くのは簡単だ。しかし……


「ラピス…お前は今、様々な感情を育てつつある。

 しかし俺とリンクしていれば、また感情が薄れてしまう…

 だから、俺は必要な時以外ラピスとリンクしない。

 もちろん、それはアメジストも同じ事だが…」

「そんナ事…」

「兎に角、今は俺を所長の所まで押して行ってくれ…」

「…ワカッタ」





――ハス(仮)建造指揮所――


ネルガル火星研究所の所長は現在、輸送船の下にあるここで寝泊りしていた。

嫌がっていたわりには嬉々として指揮を取っている。

コスモスの設計図が効いたのか、元々こういうことが好きなのか良く分からないが、効率的に動いてくれるのは良い事だ…


「所長、現在の進行状況はどの位だ?」

「あ、SSの方…お待ちしておりました。

 現在、ほぼ全てのパーツが組みあがりました。

 後は動作チェックを残すのみです」

「…動作チェックは最小限に止めて、シェルターに避難している人々を全て乗せるんだ…

 いま、劉氏の娘に呼びに行かせた。すぐに集まってくる筈だ」

「全てですか…? 食料や空気は? 予備の燃料に補修部品、あとベッドも必要です。とてもじゃないですが乗せきれませんよ」

「…動けない者のベッドは必要だが、後は必要ない。

 これは上層部が示してきた<新しい移動方法>の実験だ。

 上手くいったらお前も栄転間違い無しだ」

「そっ…そうなのですか! 分かりました!」


所長は今の話で信じた様だ…まあ、大体は間違っていないのだが。

後俺に出来る事は、待つ事だけ…





そして時がたち…ほぼ全ての人々が宇宙船ドックに集まった。

危機感を抱き近づかない者、すでに乗船を始めている者等様々だが、

皆一様に不安そうな顔をしている…

紅玉やサチコお嬢さん、それにネルガル火星研究所の面々が

必死で彼らを船に乗せようとしている。駐留軍も協力している様だ…

俺はラピスに車椅子を押してもらい、輸送船最上段のお盆の中央に陣取る。

そして他の人々が乗船するのを待った…










アメジストは宇宙船ドックに向かって急いでいた…

その動きは女らしさとは無縁な俊敏な動きだ。ゴシックロリータな服装のせいで

走りにくそうではあるが、その容姿とあいまって不思議な印象となる…

もっとも、彼女の動きは全てアキトの記憶を基にしている為仕方の無い事なのだが…


「早く…早くしなくちゃ間に合わない…」


宇宙船ドックにたどり着いた時…そこにはすでに人の山と言っていいものが出来上がっていた。

皆、ネルガル職員や駐留軍の兵士により誘導を受けている。

とてもではないが先に行く事など出来そうになかった…


「ん〜…仕方ないか」


アメジストは考えるフリをしたが、実際はもう考えを決めていた。

体内のナノマシンを組み替える。右手からパイロットIFSが消えて行き…

その代わり、両手両足に光の筋が走った。


「アメジスト特攻形態…なんちゃって(///)


自分で呟いた言葉に顔を赤くして俯いてしまう。かなり恥ずかしかった様だ…

しかしその言葉は伊達ではなく、身体能力はかなり上昇している。

その力を使い、アメジストは人の頭の上をピョンピョンと飛び越していった…







アキトの車椅子を押して最上階のお盆の上まで来たラピスは、心の中でため息をついた…


(アキト…もう長く生きラレ無いンダ…)


あれだけの強さを誇っていたアキトが、今は車椅子で押してもらわなければ移動も出来ない……

この事実は自らを<アキトの一部>であると思っているラピスにとって、かなりの衝撃だった。

――アキトが居なくなってしまえば自分も消える――

この恐怖は消え去った訳ではない。感情が発達してきているとはいえ、まだそこまで一人立ちしている訳ではないのだ…

ラピスはお盆の中央部まで来ると、そのままの姿勢で立つ。

その無表情さは、まるでその場で石化してしまったかの様な印象を他者に与えた…

暫くするとそこにわらわらと人が集まり始める。

それに合わせてネルガル職員達がやって来た。

アキトが所長を呼び止め会話を始める…


「…そうか、ご苦労…」

「はい…しかし…」



何かを話している様だが、ラピスの耳には届いていない。


(ラピス…ラピス…)


リンクの回線を伝って誰かが話しかけてくる…


(アナタは誰?)

(私はアメジスト、アキトに名付けてもらった…)

(ソレハ私も同ジ…アナタは何者?)

(私はアキトの影、アキトを支える者…)

(ソレハ私、私はアキトノ一部、アキトと共にアルモノ)


ラピスにとって、今アキトと居る事は存在理由といって良い。

アメジストにそれを否定されたような気がして、ラピスはイライラを募らせていた。

しかしアメジストはそんなラピスの心理を知ってか知らずか、不思議な提案をしてきた…


(それなら、アキトを助けたいと思わない?)

(オモウ…でも方法ハ?)

(本当ならルリが居れば心強いけど、私達と紅玉ならあるいは…)

(デモ…紅玉にワケをドウヤッテ話すノ?)

(それは…私に任せておいて……)

(ワカッタ)

(それじゃあ、後で…)


ラピスは息をつき、考えを巡らす。

自分が出来る事、そのためにしなければいけない事、時間はあまり無い…

アメジストに感じていたわだかまりは、アキトを助けられると言う提案によって綺麗に忘れ去られていた…












下の階からエレベーターが上がって来るのが見える。

俺はただ待つというのは苦手だが、今回は準備が整うまで待つしかない…

何回かに分けて乗船してくるとはいえ…流石に<12万人>を乗せるとなれば

四本の支柱にそれぞれ六つ、計24あるエレベーターをフル稼働させても二、三時間はかかる…

ましてや、最終的には人口密度がほぼ一人1u以下という無茶な事態になるのだ。

いくら持ち込み物に制限をかけているとは言え、どうなるかは火を見るより明らかだろう…

まあ、全員すんなり乗り込んでくれればいいのだが、嫌がる人も出るはずだ。

それを見越して、時間を組んではいるが…

問題は火星駐留艦隊が撤退した事だ。彼らが引き付けていたカトンボの艦隊がどう出るか…


数時間が経ち、日が落ちる頃…

人混みを掻き分け、所長とネルガル職員達がやって来た。


「一般人の誘導、ほぼ完了しました」

「相転移エンジンバイパス及び、フィールド発生装置の確認終了です」

「クレーンによるトランクの引き上げ作業完了です」

「病人及び寝たきりの人用の簡易ベッドの据付、完了しました」

「…そうか、ご苦労。では早速だが、これより発進準備に取り掛かる」

「はい…しかし、我々はこの後どうすれば良いのでしょう?」

「所長、トランクに<例の物>は入っているだろうな?」

「はっ…はい! 確かに」


俺は所長に向けて、加減した殺気を放ちながら言う。

ネルガルにはあれがある筈だとは思っていた。

両親の死のきっかけになったあれが…

あれは、この計画の要だ…もし足りなければこの計画は破綻する。

今は所長を信用するしかない…


「それでは出港準備に取り掛かる。

 通信機は持ってきているか?」

「はい!」

「ではまず、タラップを上げて…」

そう俺が口にしたとき…



            ズガァーーーン!!



   ガラガラガラ……




宇宙船ドックの外壁を砕きながらカトンボが現れる…

くそ! もう嗅ぎ付けたか!

俺は即座に命令する。


「ディストーションフィールド展開!」

「はッ!」


この船の相転移エンジンのエネルギーは、全てディストーションフィールドの維持に回される仕組みになっている。

試作のエンジンなので30分が限界だが、フィールドの強度はナデシコよりも上だ。

初期のカトンボ程度のグラビティブラストなら簡単に弾くはず。

実際、何度か喰らっているが振動も殆ど来ない…


「どうするんです?

 あと30分もすればオーバーロードでディストーションフィールドを維持できなくなります!」

「ああ、そうだな…

 船の上に固定してある、クレーンの荷物をはなせ」

「そんな事をしたら、中身がぶちまけられてしまいます!」

「かまわん。この実験に必要な事だ」

「…分かりました」


不平はある物の、また殺気をぶつけられたら堪らないと思ったのか所長は素直に従った。

所長が持っていたコントローラーのスイッチでクレーンがトランクを放す…

鍵のかかっていないトランクが口を開いて中身がこぼれ出し、

中に入っていた無数のCCがディストーションフィールドに接触する。

ふと横を見ると、ラピスが俺の手を掴んでいた。


(ダイジョウブ…?)

「ああ…」


ラピスも不安なのだろう、手を握り返してやる。

ラピスははっとした顔をし、僅かに力を抜いた…


「イメージ…佐世保宇宙軍基地…」


口に出して言うのは初めてだが、十二万もの人間と300mの輸送船を

火星から地球までとなれば、かなりしっかりとしたイメージングが必要になる……

今はどんな事をしてでもイメージを固めねば…

俺の体中のナノマシンが活性化しているのが分かる。

ディストーションフィールドの周りに飛び散ったCCが光を放ち始め、

俺の全身をナノマシンの光が駆け回り始める…

条件は整った。後は…




「ジャンプ!」




そして、全てが光に包まれた…










アメジストは紅玉を探しながら、ハスの最下層を回っていた。

最下層には病人や怪我人、寝たきりの人達用のベッドが設えてあるのだが…

その中を、相変わらず特攻形態のままで駆け回る。

アメジストは体力の限界をどうにかナノマシンで補っているが、流石にもう持たなくなったきているようだ。

今はもう普通の人より少し早いという程度に過ぎない…

紅玉は直ぐに見つかった…トウジ達に捕まって、事情の説明とアキトの看病を頼まれている。

アメジストはスピードを落そうとするが、足をもつれさせて紅玉に激突した。


         ドン!


「いたたた〜…何するんですかー!」


潰されて抗議を上げる紅玉を無視し、紅玉をエレベ−ター付近まで引っ張って行くと、

アメジストは息つく暇なく話し始める。


「紅玉、頼みがあるの。

 あなたでなければ出来ない…

 アキトの未来に係わる事」

「えっ…アキトって、

 あっちの人じゃなくてジョーさんに?

 どういう事です?」


体制を立て直していた紅玉は驚き、不審に思うが

アメジストの顔を見て事態を察したのか、真剣な表情になって話を聞く。


「アキトは最後の力を振り絞って、ボソンジャンプをするつもり」

「ボソンジャンプって何です?」

「ワープとタイムワープをまぜたもの」

「へっ…?」


紅玉の思考は完全にフリーズしてしまった。

しかし、驚いている暇も無く…




            ズガァーーーン!!



   ガラガラガラ……




宇宙船ドックの外壁を砕きながらカトンボが現れる…

それを見て紅玉は悲鳴を上げるが、

アメジストは紅玉が持っていた空の注射器を奪い取り、

自らに突き刺す…


「時間が無い…

 兎に角、そこのアキトにこれを注射して!」


アメジストはそう言いながら注射器を出す。

しかし、紅玉には全く付いていけない…


「え?…これ何です?」

「私のナノマシン。これを注射すれば<通り道>が出来る…」

「どういう…」

「早くして! 植物状態のアキトと、ナノマシンスタンピートで死の淵にあるアキトを 救うにはこれしかないの!」

「わっ…分かりましたー!」


紅玉が注射器を持って駆け出していく。

紅玉ならうまくやる筈だ。元々看護婦なのだし、それに…


アメジストは、その場で崩れ落ちるように倒れた…

もう体力は限界に来ている。

しかし、アキトを救うためにリンクを開かなくてはならない…

ラピスは上手くリンクを開いている。

後は、こっちのアキトとのリンクを開くだけ…



紅玉はうまくやった様だ…


CCが放つ光の中、アメジストは全てのリンクの道を開いた……















ぼんやりとした意識が湧き上がる・・・・・


俺は・・・


そうだ、火星からボソンジャンプを・・・・・


上手く行ったのか?


それに俺はどうしたんだ・・・・・


死んだのか・・・?


俺は・・・


俺は何かに成れたのだろうか?


・・・・・・・・・・


・・・・・・


・・・


次第に意識がはっきりしてくる…


ぼんやりと薄桃色の何かがゆれている…


周りは…白い…


いや、これは…部屋の色か…


なら、揺れている薄桃色のものは…


「ラピス…」

「アキト!

 アキト!アキト!!アキト!!

「うわ!」


やはり、ラピスだった様だ、

視界が開けてきたせいでラピスが俺にすがり付いている事が分かる…

柔らかなラピスの髪をなでてやる…

そうしながら不思議な事に気づいた…

バイザーも無しに何故こんなにはっきりと見えるんだ?

もしかして、またアメジストとのリンクで感覚が移動しているのか?

しかし、その考えは扉を開けて入ってきたアメジストによって否定された。

どうなっているのか問おうとして、ラピスに視線を向けると…


「アキト…アキトハ三ヶ月も寝テイたンだよ…」

「そう…なのか?」

「ええ」


それから、ラピス達に現在の事をきいていたが…


「今、アキトの体ハ17歳ダヨ」


その言葉を聞き…


「へー17歳って…えーーー!!?



俺は生まれて初めて、驚きで失神したのだった……










次回予告

火星の住民の何割かを救ったアキト達、

しかし、その生活を支える明日香インダストリーに危機が!

若者達は事態究明のためにある洋館へと向かう…

そこに待つ者とは…
                 かっこ            かっことじ
メイ度当社比「175%」で送る問題作!

機動戦艦ナデシコ〜光と闇に祝福を〜

第四話「メイドさんはいかが?」をみんなで見よう!







あとがき

どうも、黒い鳩です

すみません、某小説のメイ度をそのまま使ってしまいました…

さて、とうとうアキトの精神を逆行させることが出来ました。

精神の逆行は今ありふれているのでひねってみようと思い、

こういった形してしまいました。

後、三話後編は少し書きたい事が多かったので、倍近い量になってしまいました。

今回も感想を頂いた皆様方のおかげで、どうにか仕上げられましたので本当に感謝しております。

それではまた。


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