私たちが望む世界…


木連の人達の望む世界…


地球の人達の望む世界…


時として、それぞれの中でさえ望む世界は違っています。


アキトさんが目指しているのはそんな矛盾をはらんだ望み…


世界を救うという欺瞞。


それは、助けられなかった人を助けると同時に、起こらなかった筈の事件や事故を起こすという事。


その事によって、新たな悲劇を生む可能性すらあります。


ですが、それ自体は私たちの望みでもあります。


戦争反対なんて簡単に言えるものではないですが、


その戦争が私たちの破滅へとつながっている以上、何としても止めなくてはと思います。


でも、アキトさんの望みは時々見えなくなります。


それは、私たちの望みとすれ違っているという事なのでしょうか…?


機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜





第十六話「いつもの『自分』に休息を」その@



「ぬふっふっふ、覚悟は出来ていますよね〜」

「…(汗)」

「毎回毎回何かしら怪我してきて、アキトさんは私に看病してもらいたいんですねー?」

「いや…あのな…」

「アキトさんがナースフェチとは知りませんでした。私も着た方がいいでしょうか?」

「う〜ん、アキトはロ○ッ娘好きだと思ったたんだけどね〜」

「アキトさんはそんな下賎な趣味はありませんわ! こんな場所にいると変な菌が付いてしまいます。

 アキトさんはもっと静かに出来る療養所に入るべきですわ。

 面会は私以外不許可です!」

「あの…な」

「お兄ちゃんはナース好きでちゅか?」

「そんな事は…」

「好きに決まってますー 統計では全男性の7割がナース好きって出てますからー♪」

「えぇ〜? メイドさんが一番ですよぉ、ご主人様。見捨てないで下さい〜」

「よしよしでちゅ」

「ふえぇ〜何だか慰められて傷つく私は間違っているのでしょうか!?」

「いや、あのな…」

「しかしアキトをこれだけ痛めつけるなんて、そいつはどんな奴だ?」

「まあ、熱くならないの、もう死んだらしいからね?」

「それは、アキトさんを傷つけた人間は私が冥府に送ってあげたいぐらいですが…」

「い〜かげんにしてくれ!!」

「「「「「「「「しゅん……」」」」」」」」


いや、そんなにみんなでごちゃごちゃしゃべられても…

誰が何をしゃべってるのかさえ分からなくなる(汗)

はぁ…兎に角、事情の整理からはじめよう。

ここはサツキミドリ二号の近くにある、大型の居住用コロニー、フタバアオイ内にある病院である。

住んでいる人間が100万人を超えるコロニーはまだ珍しいのだが、このフタバアオイには200万人が住んでいたらしい。

火星に住んでいた人間の三分の二に相当する人口になる…ある意味で火星が地球連合に軽視されるのも仕方ないのかも知れない。

もっとも、戦争が地球圏に到達する前に半数は逃げたという事で、現在このコロニーはかなりガラガラである。

両手両足と肋骨を骨折している上に内臓の幾つかも痛めていた俺は、

一度精密検査を受けねばならないと判断された為、ナデシコを降りてすぐここに移された。

元々、ナデシコクルーとして一緒に乗っていたルリやラピス、

コーラルとアイちゃんも一緒にコロニーに移っていたので、見舞いに来てくれる事も多い。

そこに、カグヤちゃんとムラサメ、紅玉とアメジストの四人がコロニーに上がってきて見舞いをしてくれた。

それはいいのだが…8人が8人とも一緒になって喋られては、内容も把握できないと言う物である。

俺の額に漫画っぽい冷や汗が浮かぶのも仕方がないと言える……のだろうか。


「じゃあ、先ずは私から言わせて頂きますわね」

「あぁ、カグヤちゃんには報告もしなければと思っていたからね」

「そうですわね、情報交換が必要になりますものね。ではまず…」


カグヤちゃんは現在の大まかな世界情勢と明日香インダストリーの現状を語ってくれた。

おおよそではあるが、ネルガルはナデシコを前面に押しつつコスモスの竣工を目前に控えているらしく、

ソレが完成次第、月面奪還作戦が開始されるそうだ。

明日香としては、建造中の艦が間に合えばその作戦に参加させる方向だとか。

ほぼ完成の状況のまま、竣工を待つのみの状況で俺から頼んで待ってもらっていたのだ、明日香としても早く動きたいだろう。


クリムゾンは今のところ大きな動きは見られないものの、一点だけ…

シャロン・クリムゾンが貴族と結婚してシャロン・ウィードリンとなった事が気になるらしい。

なぜなら、ヨーロッパ貴族の動きが活発になっているという情報が入っているとの事。

前回では全く気が付かなかったが、策動していたのだろうか?

正直比較しようにも、前回はそういった事の分かる立場にいなかった。

だから彼らの動きがどういう事なのかは分からない。

ただ…

貴族は、コーラルのアイドクレーズ家等のように資産家との結婚を繰り返して巨大な資本を持つ所も少なくない。

社交界を通した貴族連盟といったような組織があるらしく、集団として動けば実力は計り知れない。

なにしろ、ピースランド国王やイギリスの女王も名を連ねているらしく、資本だけなら世界有数なのだとか。

それゆえ、本格的に動けばネルガルや明日香、クリムゾンといった巨大資本に対抗できるほどの力があってもおかしくない。

更に、貴族とは切っても切れない間柄の“権力”。これは確実に企業を上回る。

出来れば敵にしたくはない相手ではある。


そして、明日香インダストリー内の異分子排除を進めている事も聞いた。

問題は情報部門で、難航が予想されるようだ。

ネルガルやクリムゾンに動向を捕まれると不味いので、徹底的にやるといっている。

それでも、ある程度は漏れるだろうが、現在の明日香インダストリーはIFS強化体質の人間が多いため、ハッキングは難しいだろう。

重要設備を何とかすれば、ある程度は情報漏洩も防げるはず。

そういう見地で動いているらしい。


「やれやれ、俺みたいな人間がどうこう出来る所じゃないな。

 所詮俺に扱えるのは暴力だけだ。つまりは戦術まで。

 権力や資本の話は君に任せるしかないな」

「そう言われると恐縮ですわ…私自身も本当は戦術の操り方しか習っておりません。

 帝王学等は習っていませんし、ホウショウがいなければ立ち行かない所でした。

 それに…アキトさんがアイドクレーズ家の問題を解決してくれていなければ、今頃ネルガルとクリムゾンに吸収合併されていた事でしょう。

 持ちつ持たれつ、ですわ」

「そう言ってくれると嬉しいよ。でも、俺の方からは大したことは言えない…申し訳ないけどね…」


そう、俺は前置きをして、カグヤちゃん達に大まかな事と、カグヤちゃんの父親の行方について話した。

カグヤちゃんの父親は俺達が救出に行く前に、火星を脱出していた。

唯一の成功例、ただし、あえて外周側のアステロイド方向に移動したらしい。

現在の星の配置から言えば、地球⇔火星間の距離よりも地球⇔木星間のほうが近い。

つまり木星方向に向かえば一応は地球に近づく事になる。

しかし実際、惑星を追いかける方向に加速するのはまともな考えではない。

惑星は常に高速で移動しているため、船などで移動する場合は通常、惑星を待つ方向で飛ぶ。

ナデシコでさえ難しかったのだ。シャトルで行うのは自殺行為だといっていい。

そういう意味では火星のほうが近いのだ。

そのあたりは兎も角、可能性としては火星⇔木星間のアステロイドベルト辺りに潜伏していると考えられる。

そうカグヤちゃんには伝えておいた。

生死不明となんら変わらないという事であるが…


「そうですか…アステロイドベルトにいるとなれば、手を出すのは難しいですね…」

「ああ…だが、月面を奪還できれば状況も変わるだろう」

「月面の奪還…それは重要ですが。戦局が疲弊してしまわないか不安ですね。

 父の事は後回しでいいと思います。死んだ訳でないのなら…あの父なら、自力で帰還しますわ」

「強いな…」

「いえ、強くなどありません。でも…ここで折れてしまってはその先が無いですもの…」


カグヤちゃんはそういった後、俺に向かって気丈に微笑む。

俺のような後ろ向きな人間では、そういうことは出来ないだろうと感じさせる。

正直心苦しくはある。

カグヤちゃんは父親の事を抱えたままだ。それなのに明日香インダストリーの切り盛りをしつつ、

俺に協力もして戦艦やエグザの建造に携わっている。

社内の反発もかなりの物だろう事が予測される。

そっちは自社内の整理が進んでいるなら、少しは落ち着いてきているのだろうが…


「はいはい、その辺で暗いお話は終わり。大体そういったことは、次の株主総会ででもやればいいんですよー

 もう六月の株主総会が二ヶ月後に迫ってるんですから。

 それよりも、完全看護をしてあげないと気がすみません。

 また知らないところで大怪我をして!

 アキトさんのこの怪我は、私への挑戦と受け取りますー(ギラッ)」


うっ…この病院のナースというわけでもない紅玉が俺の看護に回れるとは思えないんだが…

紅玉の目は妖しい光を放っている。

何か尋常じゃない鬱憤がたまっている感じだ…

何をされるのか、怖い…(汗)


「24時間完全介護で、食事も、お風呂も、トイレに至るまで見事お世話して見せましょう!」

「…ヤメテクレ(汗)」

「とは言っても、三ヶ月ほどは安静にしてなきゃいけないのは事実ですしー

 骨折は一週間もすれば一応くっつくと思いますがー、内臓は流石にすぐに回復と言うわけに行きませんからー

 やっぱり、介護生活なのは仕方ないですよー?」

「うぅ…それはそうかも知れないが…」

「大丈夫ですよー、戦線が崩れないように明日香からも量産型エグザバイトを提供し始めていますから、その辺りは心配ないです」


心理を見透かされた?

紅玉は時々凄いな…(汗)

(それはそうだよ)

ん?

(だって、心理カウンセラーの資格も持ってるそうだし)

アメジストか……確かに、紅玉のような天才型なら持ってても不思議ではないか。

(うん、私も時々読まれてびっくりする、でもアキトは読みやすいときがあるから、その所為かも?)

俺が読まれやすいか…確かに、ルリもそんな事を言っていたな…

(でもね、紅玉がアキトの健康を心配しているのは本当だよ)

確かに、それはありがたい事だと思う。

(本当に感謝しているの? アキトはどうも自分のことに無頓着だよね)

それはな…まあ、復讐を誓ったあの時から自分のことはあまり考えないようにしている。

エゴを満たすためには、他を捨てるしかないという考えが染み付いているからな。

(…)

気にするな、言える事は即ちその程度の事という事だ。今は多少だが克服している。

(本当?)

ああ…言える事はな

(え?)

いや、何も…ただの雑念だ。

(……)

……

(そういえば、私のナノマシンの話だけど)

ん? ネオスの件か?

(今、紅玉も言ってるけど、ちょっと新しい事が分かったみたい)

そうなのか…だとすれば…


「もしもしー、聞いてますかー?」

「あ、いや、すまん」

「ならもう一度説明しま…」

「ちょっとまったでちゅ!」

「え!?」

「ちっちっちっ、説明は貴女の役どころじゃないのでちゅ!

 お兄ちゃんもきっと、あたちの説明を聞きたくてわざと聞き逃したのでちゅ。

 だから!」


そういったかと思うと、アイちゃんは壁にあったナースコールのボタンを押した。

俺は止めに入ろうとしたが、アイちゃんの方が一歩早かった。

そりゃ両手両足&肋骨の骨折があるんだから当然かもしれないが、まるで豹のような動きであったと思う。

そして、ボタンが押された事でナースが入ってくるかと思ったら、おかしな事が起こった。

なんと部屋の一部が開閉し、まるで忍者屋敷の壁のように回転したのだ(汗)


回転した壁の前に設けられているのは、妙に胡散臭い感じのする、子供が見たときに喜びそうなセット…

『3…』

そして、やたらとやる気を損なうそのデザインセンス…

『2…』

あぁ…見た目が子供とはいえ、彼女もやっぱり…

『1…』

イネスさんなんだね(汗)


『どっかーん!』


何だか見た事のある格好をした二人の絵が、机の上に飛び出す。

お姉さんとウサギ…キャラクターは変わらないのか…


『みんな集まれー』

『集まれでちゅ♪』

『なぜなにナデシコ始まるよー』

「ナデシコと関係なくてもナデシコなのは内緒でちゅ」


どうやら、お姉さん役はアイちゃん、ウサギ役はアメジストがやるらしい。

イメージ的には元気のないウサギにならないか心配…って、そんな事はどうでもいいんだが…

しかし、確かになぜなにナデシコって、ここの場所を考えるならサッパリ関係な…


ギラッ…


アイちゃん、イネスさんからもらったのは知識だけではないのか!?

アイちゃんの凄みに、少しおとなしくしていた方が無難と判断した俺は視線をそらす。

そんな事をしている間にもセットは展開し、なでなにナデシコは始まった。


「今日はアメジストとネオスの関係についてお話ちまちゅ、

 ネオスはアメジストのナノマシンを取り込んで強化された一般人なのはご存知でちゅね?」

「ぼくウサギだから分からないや」


小声で、棒読みすぎると突っ込まれるアメジストを横目で見ながら、少し考える。

確かにおかしくはある、アメジストのナノマシンは俺も打たれている。

だが、ネオスのように強化された事も無ければ副作用もない。

しかし、ネオスはあと一年普通に生活していれば既に命が危ないとされているのだ…


「でも、お兄ちゃんは違うんでちゅ、紅玉が念のためにお兄ちゃんの定期健診をネルガルに依頼したんでちゅが…

 健康面では全く弊害が見られないという事でちゅ」

「じゃあアキトと他の人は違うという事?」

「そうでちゅ、この理由はまだ100%の証明にはなりまちぇんが、

 アメジストが近くにいたメイド達に、これといってナノマシンスタンピードが緩和された様子も無い事から、

 彼女の近くにいればいいというわけでも無い様でちゅ。

 でちゅが、ナノマシンの中心であるアメジストにも変調が見られない事からちゅると、元からおかしなナノマシンというわけでも無い様でちゅ。

 それらの事実から、考えられる事はみっちゅ。

 お兄ちゃんが特異体質なのか、お兄ちゃんに打たれたナノマシンが特殊なのか、条件によってナノマシンが主を異分子と判断するかでちゅ」

「一つ聞きたいんだが」

「質問は手を上げてからしてくだちゃい」


相変わらず凄いプレッシャーのアイちゃんに引きつつ、ギブスで吊った手を少し持ち上げる。

それを見てアイちゃんは満足したのか、一つうなづくと、


「なんでちゅか? アキト君」

「なんで、質問するとアキト君になるのか分からんが…聞きたいのはナノマシンの事だ。どうにか制御して延命する方法は無いのか?」

「現状では難ちいと思いまちゅ。理由は純粋にナノマシンのサイズの問題でちゅ、

 このナノマシンは私たちの知るナノマシンのサイズよりはるかに小さいナノマシンのようでちゅので」

「そうか…」

「でも、絶望するほどの事はありまちぇん」

「?」

「あくまで仮説でちゅが…、このナノマシンにはマスターを見分けるプログラムが存在しているのかもしれまちぇん」

「マスターを見分ける?」

「そうでちゅ、仮説でちゅので、まだ分からない事が多いでちゅが…

 アメジストはもちかしたら、ナノマシンを大量に溜め込んでいるかもしれまちぇん。

 アメジストが彼女の姉妹を吸い込んだように見えたのも、

 アメジストの姉妹がナノマシンによって生かされていたからだと思いまちゅ…

 つまり…」

「アメジストの体内には姉妹達のナノマシンも住んでいるという事か?」

「そうなりまちゅ、そしてお兄ちゃんにもかなりの量のナノマシンが体内に残留してると思いまちゅ。

 だけど、不思議なのはコーラルでちゅ。

 コーラルも同じようにネオスの処理を施されていまちゅ。

 でも、ネオスとしての能力が発現していまちぇん」

「何!? コーラルもネオスなのか!?」

「はい、分析結果上ではそうらしいでちゅ。

 今までの経緯と状況から、もしかしたら糸口が見つかるかもしれまちぇん」

「確かに…俺やアメジスト、それにコーラルといった発祥しない例がいるのなら、要因を探る事は不可能じゃないかもしれないな」

「はい、お兄ちゃんからは既に体細胞の一部と、血液、その他の体液の採取もさせてもらっていまちゅ。

 他の人達は一度地球へ降りて再検査と、ちょっとした実験の手伝いをしてもらいまちゅ。

 でちゅから、研究の助手として今までネオスを見てきた紅玉と、発祥(はっちょう)ち ていないネオスであるコーラル、

 それからナノマシンのことを詳ちく調べるためにアメジストを連れて行きまちゅ

 だいたい、一ヶ月程度で結果を出してみせまちゅ」

「えーちょっとまってくださいぃ〜、私がいなくなったら誰がご主人様のお世話をするんですか?」

「そうですねー、看護が必要なのは事実ですしー」

「それじゃあ、私がする!」

「ごめんなさいね、ラピスさん。貴女にはヤタを教育しなおしてもらいたいんですけど(怒)」

「え!?」

「アメジストさんの言う事は何とか聞きますが、あの船、私たちの操船を受け付けませんのよ?

 一体どういう事かしら?」

「あっ…(汗)」

「もちろん、地球に下りてくださいますわよね?」

「あーうー、ワカリマシタ(汗)」

「説明を途中でさえぎらないでくだちゃい」

「「「「「「「「はい(汗)」」」」」」」」


そんなこんなで、俺の知らないうちに色々と決まってしまったようだった。

その後も、しばらくはなでなにナデシコを聞かされたが、途中からナノマシン理論の方に移っていったのでさっぱりだった。

ただまあ、まだネオス達を助ける手段が残されているという事が分かっただけでも僥倖だろう。

ラピスは多少ごねていたが、船の名前を好きにつけていいという事で落ち着いた。

ついでに、俺の新型エグザの調整もやってくれるらしい。

あの機体には思い入れもある、できるだけきっちりと頼むと言っておくが、

その時【もう貸し5つたまってるんだからね】と言われた事は光速で忘れる事にした。(汗)
















一度みんなが去った後、俺は一息ついてこの先のことを考えていた。

俺は今こんな所で止まっている暇はない。むしろ、やるべき事が山積している。

出来るだけ早く回復して月面を奪還し、戦力を整え、地球圏の意見をまとめて和平に持ち込む。

その為にも、時間は幾らあっても足りない。

そもそも、前のときはナデシコで行った和平は失敗した。

実質許せる事ではないが、成功していなくて良かったとも言える。

なぜなら、ナデシコ一隻で和平を成立させた場合、地球圏はそれについてこない可能性が高いからだ、

ユリカの見通しが甘かったとは言わない、

ミスマル・コウイチロウ中将をはじめとしてコネの多いユリカの事だ、ある程度の目算はあったのかもしれない。

しかし、それでもやはり地球圏は木連排除に動いただろう……つまりはナデシコがピエロになり、

そして、地球圏の敵となった可能性が高いということ。

勝手に和平をしたうえ、裏切られて孤立無援になり、海賊か何かとして狩られる最悪の運命であったろう。

それと比べれば、言っては悪いがあの草壁の企みは悪くない方向に働いたと言えるだろう。


だから和平をしたければ、先ず地球圏の意見を和平でまとめ、草壁派を排除して木連を和平派でまとめた後という事になる。

両政府の首脳陣をどれ位挿げ替える事になるか想像も付かない。

しかし、それをやらなければ和平は長続きしないだろう。

その証拠が<火星の後継者>なのだから…


コンコン…


没頭していたせいか気配に気づくのが遅れた、来ているのは二人…

殺気は無いな…

これは…カグヤちゃんとルリの気配か、珍しい取り合わせだな…


「どうぞ」

「失礼します」


言葉を言い終わるか言い終わらないうちに、二人は病室に入ってきた。

二人とも何か申し合わせた風に笑顔を貼り付けている。

どこか、いたずらを思いついたような風情があった。

俺はこの手の表情を前に自分を押し通せた事が無いな〜と少し冷や汗をたらしながら、入ってきた二人に聞く。


「何か用か?」

「はい、先ほど話し合ったのですが…

 私は残念ながら、明日香インダストリーの取りまとめにもう少し時間がかかります。

 断腸の思いですが、本社へ帰還して社内整理に勤めますわ」

「そうしてくれ、社内事情は俺には分からないしな。

 株主総会の時にコーラルの付き添いで行く事になると思うが、その時までにやっておかなければならない事も多いだろう」

「はい、ですがアキトさんもまさかそんな状態で戦線に復帰とかは考えてませんよね?」

「ああ…リハビリもあるしな…出きればすぐに戻りたいところだが、しばらく時間が必要だな…」

「そこで、アキトさんにお願いがあります」


カグヤちゃんはいい笑顔をしている、どこかいたずらを思いついたような感じでいて、少し凄みがある。

何か、両方の心が見え透いているような…(汗)

逆に、ルリは無表情に戻っているが、ちょっと変わったオーラを発しているような…


「…何だ?」

学校に通ってください」

「!?」


ちょっと、待て。

今何といった?


「実はもう手続きも済んでいるんです。後は学校に行って顔合わせすれば完了です」

「いやまて、何で学校に?」

「アキトさんは自覚がないと思いますが…貴方は高校は調理師学校に通っていて中退。実質中卒です」

「ルリさんは全く通っていなかった訳ですわね」

「うっ…」

「はぁ、私は籠の鳥をやった後は殆ど放任でしたし」

「ぐっ!」


その通りである、俺の中卒云々は兎も角、ルリを結局学校に通わせる事ができなかった…

学力的に見れば、10歳当時で既に大学卒業レベルの知識が詰め込まれていたから、どうしても強く出られなかった部分もある。

まあ、ルリも短期ながら士官学校は出た模様だが…

どっちにしろ、そんな学歴今はない。


「それで、何をしろと言うんだ?」

「学校と言っても年齢的にも、高校までは試験を受けた事にして資格をとってあります。

 ですから、ルリさん共々大学に通っていただきます」

「しかし…俺はそう長くここにいる事は出来ないが?」

「その辺りは私が何とかしますわ。ですが、このコロニーには興味深い特徴がありますの」

「何だ?」

「地球連合高官や貴族の子弟の為の大学…私が何を言いたいのか分りますわよね?」

「抱き込み工作を俺にしろと?」

「そこまでは言っていませんわ、でも知己を得ておくと言うのは重要だと思いません?」

「流石に抜け目ないな…」


確かにカグヤちゃんの言う事は一理ある。

それに、今の状況では戦闘関連では役に立てない。

しかし…

ルリはいい、知識面でも問題ないだろう…

だが、俺は…


「だが、俺には大学生としての学力がない。それは無理と言うものだ」


俺がそう言った時、二人は目を見合わせた。

そして、ルリがちょっと頬を染めて俺に言う。


「大丈夫です。動けるようになるまでの看病と、大学レベルに追いつけるだけの学力は私が引き受けます」

「!?」

「観念して、勉強に励んでくださいね♪」

「なっ? ちょ…」

「大丈夫です。優しく教えてあげますから♥ 


焦る俺に、ルリは極上の笑みで答える。

助けを求めてカグヤちゃんを向けば、カグヤちゃんはプレッシャーを放ちつつも笑顔のまま部屋を出て行こうとしていた…

ちょっとまて、今更学業に励めと言うのか!?

(アキト大変だね♪)

(うんうん、私との約束を知らないフリした罰だよ)

アメジストとラピスまで!?

というか、覗いてたのか…


「さあアキトさん先ずは、何から勉強します?

 個人的には数学がお勧めですね、基本的なテイラー展開,ローラン展開辺りから説…あ、いえ解説しましょう」


ていらー? 楼蘭? 都市の名前か!?

ルリは嬉しそうに俺を見て、色々教えようとしてくる。

俺だが、基本と言われても全くわからない…

仮にも俺は中卒なんだ…分るように言ってくれ…(汗)


「先ずはテイラー展開について話しましょう。sin(0.1)はどの位の値かと言う事を調べるにあたって sin(0)が0なので、sin(0.1)は 大体0となります。でも、sin(x)はxがπの倍数でなければ0ではないので、sin(0.1)は0ではないが0に近い数です。ですので、sin(x) のグラフにx=0で接線を引いて見れば。接線という位になりますので、x=0の近くでは、相当sin(x)に近いはずです。そこで、sin(x) の微分はcos(x)なので、求める接線の傾きはcos(0)=1となります。更に、点(0,0)を通るので、接線の方程式は……」


俺は、ルリちゃんもやっぱりイネスさんの同類に違いないと思いつつ、

あまりにも聞いた事のない異次元の言葉に眠気を誘われはじめると、

ルリはいきなり顔を近づけてこう言った。


「いきなりはやはり無理ですね。ごめんなさい、式とその理由さえ暗記しておけば数学は比較的楽な教科だと思ったものですから…」

「いや、すまない。俺は中卒程度の知識しかないのでな」

「はぁ…いえ、三角関数のsin(サイン)、cos(コサイン)、tan(タンジェント)は習っていると思うのですが…」

「うっ!」


さすがの俺も三角関数くらいは知っている。

しかし、既に昔聞いた事なので内容はさっぱりだ。そんな状況で難しい解説の中に含まれていても全くわからない(汗)

こんな状況でやっていけるのか、早速不安に襲われる俺に、ルリはにっこりと笑ってこう言った。


「24時間付きっ切りで教えてあげますから、頑張りましょう」


ルリのその笑顔を前に、俺は視界が暗くなるのを感じた……(泣)







なかがき


ひさびさにちょっと長めのお話に行きます。

今回は大学編。

アキトとルリの大学生活をお楽しみにっていうのは半分で、

もう半分はちょっとこの先への伏線となるお話しです。

まあ、それ程長くならないように気をつけますが、本気でやると10本くらいになりそうで怖い(汗)

丁度いいじゃないですか。私は最近出番無くて鬱憤が貯まってたんです!

ガス抜き大いに結構です。

一年位かけて大々的にやりましょう♪

だって、大学内なら
お邪魔虫もいませんし♥ 

お邪魔無視かぁ…さてどうなるだろうネェ(二ヤリ)

まさ か、オリキャラを増やすつもりじゃないでしょうね!? 既に飽和状態を突破して誰が誰だか分らなくなっているっていうのに!

これ以上増やしたら、キャラの見分けをどうつけるつもりですか!?


うっ…(汗)

でも、政治とかの部分まで言及する為には人数が必要なんだよ〜(滝汗)

政 治っていうとまさか、文中にある貴族なんかを出そうとか考えているんですか!?

既に結構出てるんだよ〜

先ずシャロンは貴族に嫁入りしたし、クリムゾン家も貴族とは縁戚と言う事になる。

コーラルはアイドクレーズ伯爵家の当主だし。

連合宇宙軍第六軍の提督になるリヒャルト・ローゼンシュタイン中将も実はローゼンシュタイン侯爵家という貴族の子だったり。

リヒャルト・ローゼンシュタイン……
誰ですか?

あう(汗)

でもま、わからんでもないか…リヒャルトは私のSSでは何回か登場しているどら息子だ。

最初は火星から人々を逃がす為に奮闘していた(第三話)フクベを帰らせたり。

月面の撤退戦(第五話)で真っ先に撤退したり。

そういう活躍をしてくれる数少ないいいキャラだ!

なる ほど、いわゆるザコキャラですね…可哀想 に…

キノコすら救いを考えるから更に不幸なキャラができるんです。


ぐぁ!?

確かに…その通りであります(汗)



WEB拍手ありがとう御座います。

皆様に支援していただいておりお陰で書くことができます。

そこで、皆様からリクエストの多かったアキト×ルリなお話を暫く書く事にします。

今後も頑張りますので、よろしく!



押していただけると嬉しいです♪

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