「……」
「次は我が行くぞ、良いか?」
「……好きにしろ」
「近親憎悪か、面白い。貴様も心弱き者よな」
「うるさい! 俺はまだやる事があるんだ! 貴様などに構っていられるか!」
「クククッ、では我は退散しよう。吉報を待つがいい」
来たときのように突然気配が消える。
達人という呼び名が生ぬるいほどの使い手、外道を標榜する男。
底が見えない……だが。
男は虚空を見つめながらつぶやいた。
「この程度の状況で敗れるならその程度の男だったと言う事だ……」
それは、去った北辰に向けられたのか、それとも……。
黒ずくめの男は立ち上がりエレベーターから出て行った。
機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜
第十七話「それぞれにある『正義』」その4
火星の後継者の宣戦布告から9時間後、連合宇宙軍の動きが慌しくなる中、地球を飛び出していくエウクロシア。
ユーチャリスのマイナーダウンバージョンともいえるその船は、それでも、
現在の艦船の中では考えられないほどのスピードで熱圏を突破し、中間圏へと到達、静止衛星軌道にあるコロニーフタバアオイを目指していた。
その食堂にはちょっと珍しいタイプのウェイトレスが揃っていた。
黒い仕事用のドレスとエプロン、それにヘッドドレスをした少女達がお盆を持ってテーブルを右往左往してる。
その姿は一般的に言ってウエイトレスではなくメイドというものである。
「いらっしゃいませー♪」
「え、お帰りなさいませじゃないの?」
「何言っているのよ、ウエイトレスはいらっしゃいませでしょ?」
「でも、メイドカフェとかっていうのがあるって」
「ここは、普通の食堂なの! 私達がしているのも、メイドじゃないの!」
「ぇーでも、メイド服のままでもいいって」
「格好は兎も角!」
服装というかメイドであるのかを言い争っている背の低い少女達、
見た目も良く似ていて、ハニーブロンド(蜂蜜色)の髪をそれぞれ右と左に束ねている。
自己主張のつもりなのか、鏡合わせのつもりなのか、その髪型の違いが無ければ判別は難しいだろう。
「こら! 喧嘩はいけませんよ。コーニャ、キュール。いったいどうしたの?」
「あっはい、食堂のお手伝い、私達どうお客様を迎えればいいのかなって」
「<おかえりなさいませ>がいいと思うなー、雰囲気が出るし」
「遊びじゃないんですから、<いらっしゃいませ>です。練習したでしょ?」
「「はーい」」
見た所、ハニーブロンドを右に束ねているのがコーニャ、左に束ねているのがキュールのようだ。
コーニャは少し落ち着きがなく、キュールはどちらかと言えば物静かなタイプのようだが、
二人そろうとどっちがどっちなのか分からなくなるというのが現状だった。
金髪碧眼で整った顔立ちのメイドが、腰に手を当てて、その少女メイド達を諭す。
ストレートのロングヘアを綺麗に結い上げたその姿からは、気品さえ漂っていた。
こういう食堂にはそぐわない組み合わせではある。
「まぁまぁ、そんなに硬い事言わないでいいじゃない、ロマネさんもここではメイド長じゃないしさ」
「ラオ、私はメイド長だった事はありませんよ。ヘッド・ハウスメイドはあくまで一般家事女中頭です」
「似たようなものじゃない、ハウスキーパーは実質メイドの事なんてまったく構ってくれてなかったんだし」
ラオと呼ばれたメイドは軽い感覚で返事をする、ドレッドヘアをした黒い肌の女性だ。
身長が180cmを超えており、女性としては長身である。
メイド長と呼ばれていたロマネですら170弱であるため4人の中では一際背が高く見える。
しかし、バランスの良い体つきのせいか女性としての魅力は損なわれていない。
モデルのように引き締まった体はある種の野生を感じさせる。
「さっ、仕事! 仕事!」
そういって、ロマネは全員を配置に戻す。
しかし、ふと振り向くとまだラオが何か言いたそうにしていた。
お互いメイドとしては長いので、仕事をしながらでも色々と時間を作る事は出来る。
皿洗いや、料理の隙間を縫って話しかけてきたラオにロマネは注意をせず聞く事にした。
「でも、どうしてロボットのパイロットを譲ったんだい?
ロマネが一番シミュレーションの数値が高かったって聞いたけど」
「仕事をするにはまとめ役が必要です。あちらにはカールアがいますしね」
「それだけじゃないだろ? コーラルがこっちで働いているからじゃないかい?」
そう言って、顔を向けるとそこには、
小柄で胸が大きい栗色の髪のメイドがバランスを崩している所が見える。
目が大きく、肩までで切りそろえた髪がかかって独特の魅力をかもし出しているが、
バランスが悪いのもその胸のせいかもしれない。
「はぁ……」
「やっぱりねぇ、ほっとけないって事だろ?」
「ちょっ、ちょっと待ってください。別にそういうわけじゃありません!」
「他に何かあるのかい?」
「はい、この船は戦艦です。場合によっては白兵戦要員が必要になるでしょう。それは、私の仕事だと思いませんか?」
「……なるほどね、確かにミスパーフェクトだけの事はある。あの子を守れるのは私達ってことか」
「そういう事です」
彼女達はただのメイドではない、マロネーという、アイドクレーズ家を騙る人間に色々な特殊技術を叩き込まれ。
さらには、未知の技術で作られたフェムトマシン(ナノの100万分の一の大きさ)を体内に取り込んでいる。
副作用を緩和する方法を手に入れた彼女達は以前の能力も使う事が可能になっていた。
<ネオス>そう呼ばれるフェムトマシン強化兵としての能力である。
とはいえ、反動の大きい力であるため普段は使わないが、それでも彼女らは多くの技術を持っていた。
特にロマネやラオは白兵戦能力も高い。
マロネーは自らの護衛を彼女らに任せる事が多かった事からもその事実が伺える。
「きゃー助けてくださいぃー」
例外なのが、倒れながらお盆を死守しようとして頭から料理をひっかぶったコーラルだ。
彼女の能力は偏っているのでメイドとしては使えない……。
「コーラル、また倒れたの?」
「あぅーロマネさんごめんなさい」
「いっ、いえ、いいのよ。これからは気をつけなさいね」
「はい。でも……最近は料理とかも失敗せずに作れるようになってたのにぃ」
泣きべそをかいているコーラルは殺人的に可愛かった、本来そっちのけは無いはずのロマネも時折くらっとくる。
カールアがいつもスキンシップを図りたがるのも分かる気がした。
「うぅ、これも貴女の能力かもね(汗)」
「えっとぉ、何か言いましたか?」
「あ、えっと、料理を頭からかぶったまま仕事されても困るから一度シャワーでも浴びてきなさい」
「あっ、はいご迷惑おかけしますぅ」
「早く行きなさい!」
「はい!」
とてとてとコーラルが走っていく、やはり胸がたゆんたゆんゆれて邪魔なようだ。
ロマネから見てうらやましくもあるが、体とバランスが取れていないのだろう、彼女のドジはそこに起因する部分も多い。
なんというか世の中上手くいかないという事だろう。
「まったく面白い子だねぇ」
「ふふ、危なっかしいからつい面倒を見てあげたくなってしまう。人徳かしらね?」
「そういえば、あの子がご主人様を語る時も似たような事を言っていたね」
「結局はそういうことかもしれないわね」
「メイドの因果って奴かね、ところで……なんでアイツを地上に置いてきたんだい?」
「アイツっていうのは?」
「アイツって言ったら一人しかいないだろう、9人目さ」
「……安定していないからよ」
マロネーが雇っていた100人のメイドの内ネオスに改造されていたのは23人。
半数以上、島の防衛戦時に重傷を負ったか、フェムトマシンの副作用で死んでしまった。
生き残ったのはコーラルを含め9人、そのうち8人はエウクロシアに乗り込んでいる。
あとの一人は未だ症状が安定しないため、地上に残る事になっていた。
「そんなはずは無いだろ? アイツは頑丈さでは誰にも負けないというか……」
「性格で分かることは無い?」
「……あ!? そういうことかい」
「そういうこと」
「ロマネ、あんた策士だねー」
「そうでもないわ、生き残るために一手指しただけよ」
そう言ったロマネの声は冷えていた。
ラオはロマネが必要とあれば冷淡な行動も取れる人物だという事を思い出していた。
「出来ればアンタの敵にはなりたくないね」
「現状ではもう敵になるのは不可能だと思うけど?」
「あぁ、それもそうだね(汗)」
彼女らメイドはフェムトマシンの制御方が分かるまで、ずっと病院に入院していた経緯がある。
現在はフェムトマシンの制御をある程度行う事が出来るのだが、それも条件付きなのだ。
その条件をどうにかしない限り彼女らには自分達で主人を決める事も適わない。
そんな一風変わった食堂で、桃色の長髪がゆれている、どうやらラーメンを食べているようだ。
ラピスはアメジストと交代でオペレーターをしている、現在は休憩時間というわけである。
ラーメンを頼んだのは特に意味はないが、やはり思い入れがあるからだろう、とはいえまだアキトに作ってもらった事はない。
当然このラーメンも作ったのはロマネという事になる。
メイドとラーメンのミスマッチはかなりな物だが、ロマネはそつなくこなしている様で、ラピスからも文句は出ていない。
そうして黙々と食事をしていたラピスに近づいてくる人物がいた。
カイオウである。中佐の階級章をつけた連合軍の制服のままで食堂にきているらしい、
この男、大きな体と白人特有の鷲鼻をしているが、名前はシンイチロウという純和風な名前である。
「相席いいかね?」
カイオウはラピスにそう言葉をかけた。
確かに食堂は今かなり混雑している、相席を断る理由も無かったのでラピスは平然と頷く。
「ありがとう、助かるよ」
「……」
ラピスはずるずるとラーメンを食べながらカイオウを少し見ていたが、興味を失ったようにラーメンに視線を戻す。
カイオウは少し苦笑すると、更に話しかけてきた。
「ラピス君、一つ聞きたいのだが……」
「……何?」
「この船、ラピス君が一人で操船する事が出来るというのは本当かい?」
「何故そんな事を聞くの?」
どうやら、警戒されてしまったらしい。
そうカイオウは判断した。
しかし、必死に笑顔を取り繕い話しかける。
「今後の作戦の参考にね」
「……まぁいいか、秘密でもないしね」
「?」
「完全には行かないかな。戦闘機動が出来るほどヤタが育っていないし」
「ヤタ?」
「ヤタガラス、遊撃戦艦エウクロシアのAIって言えば分かる?」
「ああ、なるほど」
カイオウは頭をかきながら、その話を思考する。
ラピスの言っている事が事実なら戦艦の運用法が根底から覆る可能性があった。
一人で戦艦を使えるなら人員削減が一気に進むだろう。
整備する人間、ロボットのパイロット、戦術指揮の提督、そして艦長(オペレーター)。
これだけいれば、戦艦の運用ができてしまう事になる。
艦内に突入して白兵戦を挑まれた場合の対処も必要になるが……。
守る区画も少なくてすむ事になる。
つまり、技術力において明日香インダストリーは最先端にいるといっていい事になる。
「明日香インダストリーは最先端技術をどうやって手に入れたんだろうね?」
「カイオウ中佐だっけ、貴方は政治家にでもなるの?」
「そんなつもりはないが」
「だったら、そんな事どうでもいいでしょ?」
「……それもそうだな。ちょと不思議に思ったんでね」
ラピスは軍人に対してあまり良い感情を抱いていない、アキトの影響ではあるのだが、
実際戦ってきたのは軍であったことが多かったせいもある。
二人の間に緊張した時間がながれる。
しかし、その緊張はかけられた声によって一気に霧散した。
「ご注文の品をお持ちしましたぁ、ボンゴレロッソ・ホタテ仕込みでよろしいですか?」
「え? いやまだ注文は?」
「よろしいですかぁ?」
「注文……」
「よろしいですよね?」
「うっ……はい」
割り込むように入ってきたコーラルが強引にボンゴレロッソ・ホタテ仕込みというなんだか分からない代物を置いて行ってしまった。
カイオウは料理を見て沈黙する。
どうみても、ホタテをバターで焼いた物がパスタの上に乗っかっているだけだ。
ボンゴレロッソというのは、本来アサリとプチトマト、を使ったパスタだ、白ワインや高の爪、にんにく等で味をつけている。
だが、これはホタテを乗せたゆでパスタだ……アサリもプチトマトも乗っていない。
「……これは(汗)」
「ご馳走様」
「え!?」
ラピスは食べ終わったのかそのままテーブルを立ち、すたすたと出て行ってしまった。
だが、カイオウは目の前のボンゴレロッソ・ホタテ仕込みを前に硬直して動けずにいた……。
食堂から出てきたラピスは、ブリッジに行こうとしたが途中の休憩室というか、自販機部屋にアメジストがいるのを見つけた。
アメジストはいつものゴシック服ではなく、エウクロシアのブリッジクルーの制服を着ている。
戦艦に長く乗り込めば見慣れた光景になるのだろう、しかし、ラピスにもそれは珍しく思えた。
本来はブリッジにどちらか一人いるべきなのだが、今は自動操縦でも構わないので、オペレーターは特に必要とされない。
多分ブリッジでカグヤ辺りから休むように言われたのだろう。
しかし、アメジストは沈んでいるように見える。
「どうしたの、アメジスト」
「え? ああ……ラピス」
「アキトが無事な事は貴女もリンクをしているなら分かっているでしょう?」
「うん、そうね」
「別の悩み事?」
ラピスとアメジストは仲がいい、友人と言ってもいいかもしれない。
アキトの事、リンクの事で一度は激しく反発した事もあるが、それでも、今は歩み寄っている。
もちろん、ラピスはアキトを譲る気はないが、アメジストのそれは思慕とは少し違っているようにも思える。
その辺りがアメジストに気を許している理由の一つかもしれない。
「私は……」
アメジストはラピスに何かを話そうとして言いよどむ、ひどく真剣な表情をしている所を見ると、言うのが難しい事なのかもしれない。
「アメジスト、聞くけどそれはあの偽者のアキトの事?」
「ううん、それも気になるんだけど……」
「なら、貴女自身の事?」
「……うん」
アメジストはトレードマークの薄紫色の髪を束ねたポニーテールをゆらしながらうなずく。
その姿はひどく儚げだった。
「ふふ、アキトの影を自称するだけはあるって事かな?」
「え?」
「自分で何でも抱え込んで、人に話そうとしない。かと思えば他人にはやさしくてさ」
「?」
「黒いアンダースーツに身を包んだ私のもっともよく知るアキトだって、お人よしは直ってなかったよ。
アキトの記憶から自分を作ったっていう貴女もやっぱり同じなんだってね?」
「……そう、かもしれないね」
アメジストはラピスの言葉に反応して少し顔を上げて微笑む。
ラピスも同じように微笑み返した。
二人は何か通じる物があったのだろう、一つうなずき、ベンチに腰を下ろす。
その時は、たわいもない会話を始める程度にアメジストも戻っていた。
アメジストは自分の本当の目的、いや自分の目的というよりは、自分を作り出した者が与えた命令を実行する事に躊躇していた。
それは、破滅の引き金になりかねないから……。
しかし、望むと望まざるとに係らず、歴史は加速し、そして、自分の力を使わざるを得ない場面が増えてくる。
何れは必要とされるときが来るのは間違いないだろう、それでもアメジストは明かしたくなかった、破滅の引き金と言えるそれを。
出来れば、その場面が来なければいいと今でも思っていた。
一方シミュレーションルームでは、パイロットのメイド三人とイツキ・カザマによる模擬戦闘が始まっていた。
それぞれ、互いの実力を測るために行う事である。
三人とは、カールア、エール、カシスの事である。
「ちょっとまった! てぇえ!?」
紺色の機体がイツキの駆る紫色の機体に追い込まれる。
しかし、上手く誘い込むようにしていたのか、左右から機体が飛び出してきた。
「くっ、そうきましたか!?」
「食らいな! これで三対一なんてなめた事言わせないぜ!」
「ふぇ〜〜怖いです〜〜」
イツキを挟んだ二体の機動は連携していたが、ピンク色の機体は少し出遅れがあるようだ。
橙色の機体の方が少し早い。
「あ、バカ! タイミング合わさないと!」
そう、紺色の機体にいるカールアが叫んだ時には既にイツキは突撃してきた方、つまりエールの橙色の機体に向かって軌道を変更していた。
イツキの紫色の機体とエールの機体が激突する。
エールはライフルを連射するものの、近づきすぎて上手く当てられない。
細かい機動制御ではまるで勝負にならず、回り込むようにイツキはエールをすり抜ける。
「思い切りはいいようですが、機体制御がまだまだです」
イツキはそういいつつ、背後に回りこんでイミティエッドナイフで腰の部分を切り裂く、橙色の機体が上下に裂けた。
「ヒュー。さすが、連合軍のエースは違うね……」
「うぇ〜〜〜、怖いですよぅ〜〜」
「カシス、アンタも少しは気合いれな(汗)」
「でもぉ〜」
「シミュレーションではロマネについで2番だたんだろ?」
「やっぱり、怖いですよぅ」
「だー(汗)」
カールアはカシスをどうにか奮い立たせようとしているが、いまいち効果は薄いようだ。
実際、三人とも訓練をあがったばかりにしては良く動いてはいた。
しかし、実践に出しても良いかどうかは迷うというのがイツキの評価だ。
二人の話す隙を突いて、イツキは反転してカシスへと向かう、カールアとは距離も離れていたし、
カシスの位置はカールアとの間になるため、盾代わりに出来ると踏んだからだ。
「うわ〜〜来ますぅ〜〜、どうすれば!?」
「迎撃しつつ時間を稼ぎな、今そっちに向かうから」
「分かりましたぁ〜〜! でも早く来てくださいねぇ〜〜」
結論から言えば、カシスは良く動いた。
カシスの乗るピンク色の機体は、細かい動きで、イツキの機体の射線を上手くはずし、直撃を受けないように動き続けていた。
直撃さえ受けなければ、ディストーションフィールドのあるエグザバイトはダメージを受けない。
もっとも、直撃でも、近距離でなければそうディストーションフィールドを貫く事は出来ないだろうが。
だが、イツキはそうして牽制しながら加速し、機体の拳を突き出した。
ナックルガードが拳を覆い、ディストーションフィールドが集中する。
「キャァァァァァ〜〜〜!?」
そのまま、体当たりによってカシスの機体を貫いたのだった。
しかし、フィールドを張っているのは向こうも同じ、干渉がおこって多少のダメージは受けたようだが。
「こりゃ分が悪いねー、付け入るスキが見当たらない……」
そういいつつも、牽制のためにライフルを連射するのは忘れていない。
カールアはそうして時間を稼ぎつつ、イツキの動向を探った。
イツキは、ディストーションアタックの状態を維持したまま、一気に近づいてきた。
牽制に放った弾丸は上手くそらされ直撃弾は少ない。
ダメージは負っているようだが、このままではディストーションアタックの餌食になると判断したカールアは、
ライフルを捨ててチャフを仕込んだスタングレネードを放つ。
選択武器に入れておいたのだ、これを投げた後は一気に距離をとる、スタングレネードは上手く作動し、レーダーを使用不能にした。
視界も悪くなったので、今のうちに障害物に身を隠そうとしたその時。
「うそぉ!?」
飛び出してきた紫色の機体に突撃された。
イツキは逃げる方向を今までの戦いから予測し、ほぼ真っ白になったディスプレイを目測で図りながら突撃したのだ。
流石に、そんな手で来るとは思わなかったカールアは何も出来ずに爆散した。
それらを確認してから、イツキはヘルメットを取り黒いストレートのロングヘアを背中からたらし、シミュレーターからゆっくりと出る。
そして、ショボンとしている三人に話しかけた。
「みなさん、お疲れ様でした」
「お疲れさん」
「お疲れ様ですぅ〜〜」
「……」
それなりに三人とも、戦い方を考察しているようだ。
しかし、素人の域を出ないのは仕方ない。
彼女らは白兵戦はこなした事があるようだが、チームとしての完成度はまだまだ低い。
個々の戦闘力は並みのエスピシアのパイロットより光るものはあったが、連携はまだ甘い。
「今ので皆さんの実力はだいたい把握させていただきました」
「ちょっと、コレだけで判断しないでよね! 私はまだまだやれるんだから!!」
ちょっと切れたように飛び込んできたのはエールという少女。
年齢はイツキと同い年くらい、
日に焼けて褐色がかった肌と赤色にも見える栗毛の髪をショートヘアにした、健康的美人といった感じの少女だ。
スレンダーな体だがスタイルはよく、綺麗というよりは格好いいと評したほうがいいタイプである。
「んー、エールさんは、思い切りのいい機動を行うので反応はいいんですが、少し突出しすぎです。
カシスさんとバランスが取れていませんでしたね?」
「うっ」
「カシスさんも、怖いかも知れませんがもう少し前に出て戦わないと、連携を崩してしまいますよ。
でも、機動は良かったですね。被弾率は低いと思います」
「はいぃ〜〜」
カシスと呼ばれた少女は、動きがワンテンポ遅いものの、
幸せそうな顔をしているので見ているだけで何かほわんとしてくるものがあった。
背は170cm近くあり、髪の毛はアッシュブロンドでふんわりとしたカールがかかっていて、
16歳とは思えない程バランスの取れた体をしている。
「カールアさんは指揮をとるのは手馴れていらっしゃるようですが、
まだエグザバイトでの戦闘を想定した作戦は練れていないようですね」
「うっ、まあ即席パイロットだからねー(汗)」
カールアは黒髪を結い上げた東洋系の女性で三人の中ではリーダーのようだ。
年齢は26歳、胸も大きいが引き締まった体をしている。
だが、軽い感じは否めない所で、既にイツキも一度胸をもまれていた。
「ですが、三人とも素質はあると思います。もう少し時間があれば実践訓練での検証も出来るんですが……」
「後、39時間……」
「これって、地球の危機って事になるのかね?」
「怖いです〜〜〜(泣)」
そう、作戦が目前に迫っている。
そして、39時間以内にフタバアオイを開放しないと場合によっては地球に核の雨が降ることになる。
人質にとられた政府高官の子弟のことも気がかりだが、どちらにしろ、犠牲なしに事を終わらせるのは不可能に思えた。
イツキは少し険しい顔になるものの、すぐに顔を上げ、二コリと微笑んだ。
「はい、時間が無いのでもう一回訓練しましょう」
「「「ええぇーーー!!!!?」」」
少しでも底上げをしておかねばとイツキは思う。
戦場で死んで欲しくは無い。
同じ人間と戦うという事を考えれば余計に……。
なかがき
今回も話はあまり進んでいませんね(汗)
アキトが動くのは次回という事で……。
今回はメイド達の現状を書いて見ました(爆)
4話で出てきたネオスとして強化されたメイドたち、
副作用で死を待つばかりだったんですが、ある理由で助かります。
バカみたいな理由なんで、後で笑われそうですが(汗)
それはともかく、ネオス強化メイドのうち助かった9人はメインキャラに格上げです。
・パーラー・メイド(給仕係)
コーラル、エール、カシス、コーニャ、キュール
・ハウスメイド(一般家事女中)
カールア、ラオ
・ヘッド・ハウスメイド(一般家事女中頭)
ロマネ
本来はハウスメイドの方が多いんですが、
一般メイドだったので強化メイドとして治療を受けていたわけでもなく、現在は二人しか残っていません。
そして9人目のメイドは秘密♪(爆死)
というわけで、これらのキャラはエウクロシアに乗りラピスやカグヤ、アメジストらと行動を共にしています。
アキトを主人と仰ぐかどうかは別にして、メイドは華やかでいいですやね(爆)
ただまぁ、エウクロシアの女性比率が無茶苦茶あがっていますが(汗)
今後……どうしよう(滝汗)
WEB拍手の返信
今回も沢山の拍手を頂いた事ありがとうございます。
コメントが少なかったのはさびしいですが……。
SS執筆速度が不定期な私が問題なんでしょうし……申し訳ないところです(汗)
8月30日0:14 継続は力なり、ですぞ。
ありがとうございます。完結まで行けるようにがんばりますね。
9月2日23:40 何時も拝見させてもらってます。頑張って下さいね。
ありがとうです! 正直感想をいただけるのが楽しみで続けているという所もありますので、嬉しいです!
それでは、今後ともよろしくお願いします。
押していただけると嬉しいです♪
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