火星から地球にボソンジャンプでやって来た私達。

世間では<謎の英雄>とされているアキトも、

逆行者としての肉体はネルガルに移送され…

今の肉体の中で二人のアキトの精神が融合を開始している。

アキトがいない今は何もしたくない…

…それでもお腹は空くし、眠くなる…

今を生きる以上、何かしなければならないのかな…アキト…






機動戦艦ナデシコ
〜光と闇に祝福を〜
外伝




「アメル、ラピスの『細腕繁盛 記』」その1



輸送船ハスに乗って火星を脱出した私達は今、サセボの宇宙軍基地に拘留されている。

ただ、ジョーと名乗ったアキトの肉体は早々にネルガルが引き取っていった…

私達はネルガルの人達が来る前に<形見分け>といってそれぞれアキトの持ち物を隠したんだけど…

本来そういう部分まで探りを入れる筈のネルガルの人達も、何故か持ち物には手を出さなかった。

後になって判った事だけど、カグヤが手を回していてくれたらしい…

自分もアキトの事や会社の事があるのに、ここまで気を使うなんて凄いと思う。


私達は殆どタコ部屋とでも言うのか、一部屋に十人近く押し込められる事がざらで、不平を言う人も多い。

でも、当然といえば当然…サセボの宇宙軍基地に押し寄せたハスの乗員は12万人。

普通に軍に護衛されて脱出した人達と違い、私達はボソンジャンプで現れた…

軍にとって私達は“監視対象”の筈だから中々開放されない…

でも…ただ居るだけなら兎も角、生活させるとなれば殆ど不可能な数だし、

普通なら直ぐに幾つかの基地に分散して監視されるんだろうけど…

ネルガルと明日香インダストリーの強硬な姿勢の所為で釈放が早まり、分散させている暇も無い…

そんな訳で、無茶な狭さを我慢しつつ自分のスペースにどうにか潜り込む。

でも、やっぱりずっと同じ姿勢で寝ていると、床に毛布を敷いただけだから体が痛くなってくる。

仕方ないので身じろぎすると、やっぱり隣の人に体が当たった…謝ろうと思って隣を見る…

隣で寝ているのは紅玉なんだけど…今にも死にそうな顔をしていた。

紅玉…やっぱりアキトの事、気に病んでるんだ…



私は心の中でアキトに問いかけた…

私の中のアキトは、いつも後悔している…自分がやった事は正しかったのか? って…

でも、私思うの…正しい選択って、何? 

皆を助ける方法なんて無い…生きる為には何かを食べなきゃいけないし、食べる事は殺す事。

結局正義なんて誇張された存在でしかないし、大義名分は強いものにある…

でも、それじゃやるせないよね…自分が助けたいと思った人くらい、助けたいよね?


…だからアキトは、後悔しながら進むんだね…


きっと、紅玉もそうなんだと思う。でも…アキトの事で紅玉は止まってしまっている。

だから…ちょっと背中を押す位良いよね…私、アキトの事話そうと思う…

アキトには怒られるかもしれないけど…

でも、アキト…分かってくれるよね?

だって…アキトだもんね…


「紅玉、聞いて欲しいことがあるの…」

「…」


紅玉は反応を示さない…毛布の上に座り込み、

アキトの黒い全身タイツのスーツを抱きしめながら、ただ虚空を見つめている…

私の声も聞こえたのかどうか分からない…

いつもはトレードマークと化しているナースキャップすら、毛布の上に落とし踏みつけたままになっている…


「ジョーの事なんだけど…」

「…」


表面上は何も起こらなかった様に見えるけど、私は一瞬紅玉の眉が震えるのが見えた。

聞こえてない訳じゃないみたい…だったら…


「ジョーは死んでないよ」

「…!」


紅玉は驚きと共に私を見つめる…ううん、睨みつけてる…

彼女の目が下手な慰めは要らないと言っている…


「嘘は付いてないし、慰めでもないよ」

「…どういう事?」


紅玉の目は怒りに曇っている…でも、さっきよりはマシね。

ただちょっと…やっぱり紅玉って“元・ゾク”とか言ってただけあって、かなり怖い。

セミロングの赤毛がまるで逆立ったみたいに浮き上がって見えるし、本来背の低い彼女が一回り大きく見える…

でも私は恐怖心が薄い方なので、そういう事で動きが鈍るということは無い…


「ジョーの遺伝子データ、見たことある?」

「…うん」

「ジョーの遺伝子って、誰かの遺伝子と同じじゃなかった?」

「…あの、アキトっていう人と同じだった…」

「何で同じだったか分かる?」

「……クローン人間?」


普通に考えて、三〇億塩基からなる塩基配列の全てが一致する事など無い。

クローン人間ですら、劣化による遺伝子の“誤差”が生じる事も多い…

紅玉の様に医学に詳しい者なら、その程度の知識はある筈…


「本当にそう思う?」

「ううん…出来るとは思うけど…アキトって言う人もジョーさんも、そういう痕跡は無かった…」


クローニングで作られた者はどうしても“生まれてからの期間”が短い為、

骨格がしっかりしていない者や記憶が形成出来ていない者等、まともに行動する事が出来ない者も多いし、

中には小脳に<呼吸する>という命令が無い為、生まれて十分としない間に死んでしまう者もいる…

最も、これらも非合法の実験の成果でしか無いんだけど…

同じ期間を同じ成長速度で過ごせば、ほぼ同等の存在になれるけど…そうして育った場合は遺伝子データで残る。

少なくとも年少のアキトが<オリジナル>という事は無いと言える…でも、遺伝子データは

年少のアキトをデータとして出す…つまりは殆どありえないと言う 事…



「それに、ジョーは知りすぎているとは感じなかった? 例えば木星トカゲの事や、駐留軍の事、ネルガルの事…

 どれも、普通の人には判るはずが無いレベルの 話ばかりだとは思わない?」

「アメルちゃん! 一体何が言いたいの?!」

「簡単な事。ジョーは<未来のアキト>なの」

「…バカにしてるの? タイムスリップなんて御伽噺の類じゃない!」

「でも、他に彼の行動を説明できる? それに、瞬間移動なんて既に御伽噺だと思うけど?」

「…」

「彼は悲劇を止め、自分の家族を救う為にやってきたの…ううん、

 きっと火星三百万の人全て…これからの木星トカゲとの戦いで<失われる筈の全て>を…」

「そんな事、出来る訳が無いじゃない…バカよ…」

「そうね…でも、そんな彼だから皆付いて行きたいと思う…死んで欲しく無いと思うんだよね?」

「…うん」

「だから、紅玉…良く聞いて欲しいの…私はアキトに救われた…

 彼はアキトなの…ジョーという名前はこの時代でアキトが生きていく為に名乗っていただけ…

 そして、私は彼の心を今のアキトへと移したの…紅玉に頼んだあの注射は、アキトの心を通す道を作る為の物…

 だからアキトは、今も生きているの」

「…もしそれが本当だとしたら、元々いたアキトさんはどうなるの?」

「多分融合して一人のアキトになる…どちらがベースになるかは判らないけど…」

「そっか…まだ、ちょっと信じられないけど…アキトさんが目覚めた時ちょっとカマをかけてみよ…」

「それがいいと思う」


良かった、紅玉の顔に生気が戻ってる…

私の言う事じゃやっぱり説得力が足りなかったみたいだけど…これで良いよね…?

この後、二人で吹き出す様に笑った後、直ぐに眠りに付いた…












三週間程して、私達は釈放された…全員が一度にとは行かなかったから、最後の人は一月以上後だったけど。

でも、半数近い人々が地球に身寄りの無い人ばかりだったから、保護を必要としていた…

日本の政府から援助金等を貰って、直ぐに仕事が見つかれば問題ないんだけど…

そういう人達はごくまれで、殆どが途方にくれている状態なのに政府はそれ以上の援助を行わなかった。

もちろん、被災者用の仮説テントのような物はあったけど、六万人も入る筈もなく…

色々な所に飛ばされる事になるとみんなが噂し始めた頃、ネルガルと明日香インダストリーが

それぞれマンション等の頭金や向こう半年の家賃、仕事の紹介すら含め面倒を見てくれると言い出した。

もちろんマンションも仕事も系列の物だけど、当然殆どの人は飛びついた…

…いい加減狭い所での生活が限界に来ていた所為もあると思う。



紅玉は父親から『ネルガルに一緒に来ないか』と誘われていたけど、

アキトが移送される明日香系列の病院に入る為あえて断ったみたい…

あの後の紅玉は凄かったと思う。カグヤに直接会って自分を売り込み、アキトの専属になる事を了承させたんだから…

その後は、紅玉が私の保護者として一緒に住んでくれる事になったり…

ラピスがオガワ・トウジの所に引き取られたり…と、結構色々あった。

そうそう、アキトの友達のサタケ・シゲルは両親と妹の四人でネルガルに行ったらしいんだけど…

シゲルだけは、サチコに会うために良くこっちに来る様になった。

後は、博士号を持っていると分かったアイちゃんのお母さん、シノダ・ツバキさんをネルガルと明日香が取り合ったんだけど…

『行っても良いど、まだ働くのは先にしたい』というツバキさんの言葉を明日香は喜んで聞いたみたい。

まあ、電算と造船に明るい博士なんて、あの説明おば…ごほん、ごほん…もとい、

説明お姉さん以外では初めて聞くし…あ、でも考えてみれば母親なんだから当然かも…

それから暫くは引越しや周囲の環境に慣れる事で日が過ぎて行ったんだけど…


十一月の始め頃、オガワ・トウジが店を開くって紅玉が言って来た。

私達、アキトの事では繋がりがあるけど面識は殆ど無かったから、どうしようか悩んでいたんだけど…紅玉が、


「ラピスちゃんと会うの久しぶりでしょ? 一緒に行きましょうよ」


だって。

ラピスとは時々リンクで話してるんだけど、 会うのは半月ぶりだからそれも良いかなと思ったので付いて行く事にした…












「あら、アメルちゃん久しぶり♪ へえ、今日は帽子付きなんだ〜♪」


店に入るなりサチコに抱きつかれた…

今日の服は紫の生地を基本に、姫袖になっている両腕部分と腰のコルセット、

短めのティアードスカート(横に切り替えがついているスカート)は黒いロリータ服…

そして頭にボンネット(後頭部から覆うように被る帽子)をつけている…もちろん紅玉の趣味だ。

一応ポニーテールだけは崩していないけど、これを着けていると後頭部が見えない為に

正面からだとストレートと変わらない…ただ、このボンネットはポニーテールを通す穴が開いてるんだけど…

別に私はそれ程ロリータ服に抵抗は感じていない。

慣れと言うのは恐ろしいと言うけど、私の場合初めて着たのがこの服だったから…

その前のは研究員達の服を被っただけだったから、着たというのもおかしいし。

でもサチコの歓迎はかなり効いた…頬ずりされたり、頭を撫でられたり…

お陰で髪型が崩れて直す羽目になったりしたけど…ラピスは毎日こんな感じなのだろうか?

……私の保護者が紅玉でよかった(汗)


「サチコさん、お店の開店おめでとう御座います♪」

「あら、紅玉ちゃん。ごめんね、気付かなくて…」

「いえ、良いんですよ♪ でもサチコさんも相変わらず可愛い子には目が無いんですね〜」

「ははは…そうかも…でも性分だしね。紅玉ちゃんも可愛いわよ♪

 どっちかっていうと、貴女もひらひら系の方が似合うんじゃないかしら?」

「うーん…私も好きなんですけど、やっぱりアメルちゃんに着せてる方が楽しいし〜


この人達は…

まあアキトが目覚めるまでは仕方ないけど…

…目覚めたらすぐアキトの所に逃げよう。

兎に角…


「…店の入り口であんまり話してるとお客さんの邪魔になるよ」

「相変わらずアメルちゃんクールね〜♪」

「大丈夫! 今日は身内だけだから♪」


紅玉達にこんな事言っても無駄だった…でも紅玉が明るくなったのは正直嬉しい。

おもちゃにされるのは嫌だけど…

私は紅玉を説得する事を諦め、店内へと足を踏み入れた。

中は綺麗に作られているけど、和風というか…大衆食堂の雰囲気をもっている。

親しみ易い様になのかも知れないけど、レストランには見えない…

カウンター席にテーブル席…仕切りがなされていないし、テーブルも飾り気が無い。まあ別にいいけど…

それでも厨房はかなり大掛かりな物で、レストランと言っても差し支えないレベルがある様に見える。

既に中にはトウジの知り合いが十何人か集まっていて、厨房ではトウジが料理を作っている…

知り合いと言っても、火星で経営していたマンションの顧客が中心みたいだけど…

後、ラピスがオレンジ色のウエイトレス服を着てちょこまかと動き回っていた。

周りの人達も微笑ましそうにその様子を見ている…


「ハイ、中華丼」

「ありがとう、ラピスちゃん」

「ンッ」

      トッタタタタ…

ラピスが運んでいくと、皆しきりにラピスの頭を撫でたがる…どうも、みんなサチコ寄りの人ばかりみたい。

でも、流石にラピスも人見知りするらしく、直ぐに駆け去る…

運んでは駆け去る事を繰り返しているみたい。アキト以外の人は正直怖いんだろうけど…

まあ、トウジやサチコ位は慣れた頃かな…?

私は厨房へと走りこんでいくラピスに声をかける事にした…


「ラピス、久しぶり」

「ヒさシブリ、アメジスト」

「貴女、店の手伝いをする事にしたの?」

「ウン」


…どういう心境でそれをやろうと思ったのかは分からない。

でも、ラピスは決意に満ちた目をしている…

お金が必要な事でも出来たのだろうか?

ラピスにお金が必要になる事……もしかして…


「ラピス…それってアキトの入院費の為?」

「…ウン、アの時ハアメジストがアキトを救っタ…ダカラ今度は私が頑張ル」

「でも、カグヤが出してくれるって…」

「デモ…私カグヤノ事良く知らナイ…ダカラ…カグヤガ駄目になっタ時の為二…」


そう言えば…アキトの記憶では、明日香インダストリーはアキトのナデシコ出航時、既に解体されていた。

ネルガルやクリムゾンの傘下企業になっていた筈…ラピスがその事を言っているとは思えないけど…

だとしたら、私も何かしなくては…でも何をすればいいんだろう?


アキトにリンクの思念を送ってみる…

…やっぱりまだ融合が始まったばかりで、深い眠りの中にあるみたい。

多分、今年中に目覚める事は無い…だったら、私もお金を稼いだ方が良いかな…?


「ラピス、私も手伝わせて欲しいんだけど…」

「私ダケで良いヨ…だって私ハアキトの一部…アキトの為に動くノハ当たり前ダケド…アナタは影デショウ?」

「…影は主の見ていないところで動くんです」

「ムッ…」


ラピスが少しむっとした顔をした…仕方ないかな…ラピスが一人でしたいのなら私は別の仕事を探そう。

そう思っていたんだけど、話に集中していたので背後から接近されている事に気付かなかった…


「アメルちゃん捕まえた〜♪」

「えっ?」


サチコが私を後ろから抱きしめ、頬ずりしてきた。

そう言えば…彼女、ラピスの所為で可愛い者に抱きつく癖が出来たとか言ってたけど…

私…可愛いかな?

自分の特徴を考えてみる…無表情、無愛想、ゲキガンガーが好き…他に何かあったっけ?

…あまり可愛くは無いかも(汗)

服装は結構奇抜だから、目立ってるとは思うけど…

まあ、私の基準って結局アキトの記憶によっている部分が大きいから、男っぽい物かもしれないけど…


「どうしたのアメルちゃん? 考え込んじゃって…」


サチコが私に顔を近づけて聞く…背の高い彼女は膝を付いて私と目線をあわせた。

ラピスは既に次の人へ料理を運んでいる。

…あの人見知りの激しいラピスが、アキトの為に…

それを見て私は首を振る…


「何でも無い」

「も〜、アメルちゃんたら…ラピスちゃんに気を使ってるのね?」

「…」

「でもね、仲良くなるには一緒にいる時間が長いほど良いわ。私としてもウエイトレスが増えるのは大歓迎よ♪」

「…良いの?」

「大丈夫! 全部私に任せなさい♪」


その日は結局、料理を食べて帰ったんだけど…

ラピスが数日後尋ねてきてこう言った。


「やリタかっタらやってモ良い…ウエイトレス服着ル事になるケド…」

「ありがとう」

「別に…タダ二人ノ方が沢山オ金が貯めラレると思ったダケ…」

「うん、そうだね」


サチコがどうやってラピスを解き伏せたのかは知らないけど、私のような年齢で働かせてくれる所はそう多くない。

ありがたく働かせてもらおうと思った…











それから更に日が経ち、十二月――

紅玉にバイトを認めさせて、私はレストランこうずきで働いている。

因みに<こうずき>の由来をトウジに聞いてみた所…


「火星には二つ月がある。どっちも小さいがな…

 フォボス(Phobos)デイモス(Deimos)つ うんだが、そのフォボスって言うのが変わってるんだ。

 高度六千kmを飛んでるもんだから、大気圏内にあるんだ。だもんで、大気とナノマシンの関係で夕方赤く輝く…

 それが紅月(こうづき)、つまりは店の名前の元だ」

「なんで、“づ”じゃ無くて“ず”にしたの?」

「いや、カッコいいじゃねえかその方が…」

「…??」


トウジの思考法は変わってるのかな…それとも、私?

個人的にはガンガーが良いと思うけど…


兎も角、トウジの元でウエイトレスをするのも慣れてきた頃…

一人の男性が尋ねてきたの…私はその男性が入って来た事にびっくりして一瞬目を見開いた。

ウリバタケ・セイヤ…セイヤさん。アキトにとってホウメイさんやサイゾーさん、トウジに並ぶ人生の師…

私が貰った記憶はナデシコ時代の物が多い。だから鮮明に分かる…あれはセイヤさんだ…


「いらっしゃいませ」

「おう」


サチコの挨拶に律儀に返事をして入って来た。

サチコもどうやら彼が只者ではない事に気付いたらしく、対応は自分でしようとする…

でも、私は少し確かめたい事もあったので、サチコに代わって貰う事にした…


「お客様、ご注文はお決まりですか?」


私はお決まりの台詞と共にセイヤさんの前に出る。もちろんお冷をテーブルに置くことも忘れていない…

セイヤさんは一瞬息を呑む様な表情をしたけど、その時は沈黙してしまった…そして、遠慮がちに…


「あ、ああ。じゃあ…カツカレー一つ」

「かしこまりました…あの、近くに住んでるんですか?」

「え? いや…近くって言う訳じゃないんだが、この店の噂を聞いてね…」

「?」

「可愛いウェイトレスがいるってね」

「…はあ(汗)」


やっぱり、間違いなさそう…趣味に生きてる…

アキトが目覚めたら彼の助けが必要になるかも知れないし、知り合いにはなっておくべきかも。

でも、急ぐ必要も無いか…


そうして、私が厨房に注文を伝える為にカウンターまで戻ろうとすると…背後から声がかかった…


「…ちょっと良いかな…?」

「はい、なんでしょうか?」

「君…名前はなんて言うんだい?」

「アメジスト…」

「アメルちゃんか、良い名前だ…」

「…(汗)」


言った途端に略された…もしかして、紅玉やサチコの同類

そんな事を考えている間にもセイヤさんは矢継ぎ早に質問をする…


「毎日ここでバイトしてるのかい?」

「毎日と言う訳では無いけど…週に三・四日は…」

「そうか…でも良くOKが出たな。まだ中学に入ったばかりじゃないのか?」

「…少し複雑な事情があるので、学校には行っていません」

「何!?」


セイヤさんが目をむく…まあ、当然かな…

学校に行くべき…と、 紅玉に言われてはいるんだけど…

アキトが目覚めるまでは行く気になれない。

それはラピスも同じみたい…


私は…この世界で目覚めた時、既にこの姿だった…

多分どこかの遺跡――アキトの記憶にある、古代火星人の遺跡の様な所――で私は眠っていた。

もっとも、私は起きた後も何も考えていなかった…ただ目の前を過ぎる情景を憶えているだけ。

…アキトと会うまでは…

だから、私にとって<アキトのくれた記憶>こそが自分を成り立たせている。

実は その所為で、今更学校なんてと言う思いも在る…


「じゃあ、生活が苦しいのか…」

「別に苦しくは…」

「アメルちゃーん! 注文とり終わった〜!?」

「はい…それでは」

「ああ…」


その時話した事はそれだけだった。

だからその時は、セイヤさんが常連になるなんて考えてなかった…





でも…

それから、毎日の様にセイヤさんが現れる様になった。

と言っても、その時はただ来るだけだと思っていたんだけど…

セイヤさんの私やラピスを見る目は、ちょっと尋常じゃなかったと思う…

でも、サチコと紅玉で耐性がついてしまった私達にはあまり気にならなかった。


「ラピスちゃん、今日も可愛いねー♪」

「ラピスちゃんこっち向いて〜♪」

「ウン♪」

「アメルちゃん、今日は一段とミステリアスだね♪」

「アメルちゃん、俺に微笑んでくれ!」

「…」


ラピスも結構ご機嫌みたいだけど…

私に声ををかけるのが一段と濃い連中なのは、ちょっとやだな。

でも日に日に客が増えているのは不思議でならなかった…

どうも、セイヤさんがラピスと私の情報を友人達に公開したみたい(汗)

もちろん中には本格的に危ない人達もいて、帰りに待ち伏せされたりもしたんだけど…

そういう人達は決まって常連さんが引きずっていった。どこで見ているんだろう…(汗)


後になって知ったのは、ファンクラブが結成されていたらしいと言う事…

私のファン…正直良く分からない…





それからのこうずきは本当に賑やかだった。

ファンクラブどうしで喧嘩まがいな事もやってたらしいけど、

私達の前ではみんな料理を食べて喜んで帰ってくれる…

こういうのも良いな…そんな風に思い始めた頃、

クリスマス販売合戦とでも言うべき戦略を色々な店が展開し始めた頃…

トウジの預金を預けていた銀行が突然潰れたの。


今にして思えば…あれは明日香系列の銀行だったから、

ネルガルかクリムゾンの攻撃を受けたんじゃないかな。

トウジも一応幾つかに分散して資産を持っていたんだけど…今度明日香にお世話になったから、と

定期を解約して明日香系の銀行に変えたのが裏目に出たみたい…

トウジが回収できた貯金は三割に届かなかった…


店は途端に経営難となり…

私達はその事に対し、何の対抗策も持っていなかった。

クリスマスを前に、レストランこうずきは経営の危機を迎えたの…









なかがき


三周年おめでとう御座います。


すみません…まさか外伝で分割する羽目になるとは…(汗)

正直今回の分は前フリです…

ウリバタケ氏も出てファンクラブ結成しましたが…活動はまだしておりませんし…

その2はこうずき経営再建計画とあいなります…どこまでいけるか分かりませんが…

ともかく次回は三人称で行きたいと思います…

一人称ではギャグが入れ難い…(汗)

その2は400万ヒットの折にでも…


それと、前々から言われておりました四話と五話の改定を本格的に行う為全ての話を改定する事にしました…

一ヶ月ほど時間を頂きたいと思います。

よって、十一話は来月になります。

ご迷惑をおかけしますがご了承を。

それでは、これにて


リバホ300万ヒット記念投稿だったので、ちょっとなかがきに問題ありですね(汗)

その辺平にご容赦を。


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