「一つ、聞いていいですか?」
「うん、別にいいけど…」
「どうして銃を武器に選んだんですの? 手入れも訓練も大変でしょう?」
「…?
ああ、その事…」
ソノラは一戸惑っていたがベルフラウの質問の意図を察して、質問に答えることにしたようだ。
「多分ね一番あたしが役立つ方法だったんだと思う」
「え?」
「あたし、背も低いし殴り合いとかじゃあどうがんばったって不利なんだよね…でも、銃が使えればそんなの関係無しに戦えるでしょ?」
「確かに…」
「海賊やってるからには女だからって、ハンパじゃいけないもんね」
「そうなんですの…」
ベルフラウは少し納得する、ソノラは実はベルフラウと近いところにいたと気付いたのだろう。
その後、ベルフラウは一拍間を置き、付け加えた。
「カイル達にも心配かけずにすむからですのね?」
「あ…うん…やっぱ、バレバレ?」
「その通りですわ♪」
「ビビ〜ビ〜!」
すっかり元気を取り戻したベルフラウと、ちょっとばつの悪そうなソノラを見つつ、俺は自分が少し安らいでいるのを感じていた…
Summon Night 3
the Milky Way
第四章 「悲しい陸海賊」第三節
次の日の朝、私は起き抜けにカイルさんに呼び止められて、二人で海岸線を歩いています…
カイルさんは基本的に朝型人間なのでしょう、既に体調は万全といった感じです。
私も、軍にいた頃から、規則正しい生活というものを徹底的に叩き込まれましたから朝は強い方なんですが…
カイルさんほどではないみたいですね…まだ夜明けの輝きが見え始めたばかりなのに全然眠そうじゃないんですから(汗)
私がそんな事を考えていると、カイルさんは真剣な顔で私に振り向き言いました。
「なあ、先生…あんたは、本気で、この島の連中とうまくやれると思うかい?」
カイルさんの表情には不安というか、出来れば関わらずにこの島から出たいと言うような雰囲気が漂っています。
でも、それはこの前に、この島が研究者の人間に捨てられたはぐれ召喚獣の島だという事を知って同情している所為なんでしょう。
これ以上傷付けるのは可哀想ですし、一朝一夕には認めてもらえない、そう感じるからでしょう。
でも、あえて聞いてみることにしました。
口に出して言うという事は、大切ですしね。
「カイルさんは違うんですか?」
「違うってワケじゃねぇんだがよ…正直、やりにくいぜ、きっかけってもんがなにもねえからな、多分向こうもそう思ってんじゃあねえのかな…」
「たしかに、それはあるかもしれませんね…」
きっかけですか…
確かに、もう少しお互いを認識できる機会があれば、何か進展するかも知れません。
何かいい方法はないでしょうか?
結局カイルさんとの会話は、結論を見ませんでしたが、それでも私の心に少し残る物がありました…
俺は朝の鍛錬を終わらせて、少し休憩をしていた。
鍛錬をしている所を出来るだけ見せないようにしてはいるが、それでも一応はやっておかなければ体がなまる。
とはいえ、木連式の鍛錬は独特だ、このやり方を憶えるだけで強くなれる者は強くなる。
特に呼吸法で精神を極限状態に持って行き一種の自己催眠で肉体の限界を引き出す、肉体操作系の鍛錬はあまり人に見せたくない。
常人には死んだように見えるだろうし、それを憶えた事で手がつけられない人間になる事もある。
力が人を変えるという事はままあるのだ。
そういった特殊な鍛錬をするため、鍛錬の後はそれなりに疲れている、そんな訳で休憩をしていたのだが…
ふわふわとした感じで近づいて来る気配に向かって駆け出す、警戒せねばならない類のものではないとは思うが、やはり、初めての気配は気になる物だ。
ただ、その気配に向かって赤い物体…いや、オニビだったか…兎も角、近づいていくのが分る…
止めるべきか?
視認出来るところまで来ると、既にオニビと何かが接触した所だった。
「ビビーッ!」
「ひゃあ!?」
「?」
オニビは嬉しそうにその何かにじゃれついている、その何かは抵抗らしき行動を取ってはいたが、いかんせん体格が負けている所為で引き離す事だできない様
だ…
スピードでもそれほど違いは無いらしく、俺が見た時は、鬼ごっこの様な様相を呈していた。
「なんで、どうしてマルルゥを追っかけるですかーっ???」
「ビービビー!」
「ああ! そこの黒いひと! たすけてくださいよぅ!!」
目ざとく俺を発見したそれは、俺に助けを求めてくる。
その見た目は、身長50cm弱の妖精といった所か…
姿で花を体現しているのか、服は葉を編んで作ったように見えるし、両腕の袖口にあたる所に一輪づつと、臀部に二輪チューリップの様な花をつけている。
髪の毛も緑だから、確かに花の妖精に見える。ただ不思議なのはオニビと同様、翼というか羽というか、そういった飛ぶ為の器官が存在しない事だ。
重力中和でも使っているのだろうか…
俺は現状把握すると、オニビをいさめる事にした。
「ん? ああ、そうだな。オニビ、困っているみたいだから止めてやれ」
「ビー…」
「うう…助かったですよぉ」
「それで、何をしに来たんだ?」
そういわれて、妖精の様なそれは、俺のまわりをぐるぐると回る。
俺の事を観察しているらしいな…俺の質問も聞こえているのかどうか…
「あ、はじめましてマルルゥというです。」
「テンカワ・アキトだ」
「テン…ごめんなさい、マルルゥ名前おぼえるの苦手です。クロクロさんって呼んでもいいですか?」
「ああ、好きにするといい」
「ありがとうです♪ それでですねーここに、先生さんって人はいるですか?」
「…?
ああ、アティの事か、わかった…ついて来い」
「あや、それはありがとうですよー」
この妖精…マルルゥを連れて俺は海賊船の方に戻ることにした。
用件は多分、アティに従ってお互いの認識を深めようといった所か…
まあ、向こう側からの歩みよりはアティにとっては大歓迎だろうな。
私は朝食の時間が近いので、アキトさんを迎えに、森の方に向かおうとしました。
アキトさん朝は鍛錬をしているらしいんですけど、私達には決してそれを見せようとしません。
カイルさんなんかはかなり本気で教えて欲しそうですけど、アキトさんはこの技は体への負担が並じゃないからと教えてくれません。
アキトさんが言うには、一時的には強くなれるそうなんですけど、きっちりと自制して維持しないと死ぬこともあるらしいです。
アキトさんは気配を読むのが上手なので、私達が近づく前に鍛錬を止めてしまうので、見た人はいません。
やっぱり私も少し興味あるんですけどね。
で、甲板に一度上がって、なわばしごから降りるんですけど、ちょっと手間がかかるんですよね、
でも元々船なんですから陸での人の出入りを考慮に入れた設計な訳はありまんし、仕方の無いことなんですけどね。
一度は船室の窓から出入りする案もあったんですけど、窓が狭くてカイルさんが出入りできなかったので、甲板からと言う事になっています。
それで、なわばしごから降りようとしたんですけど、アキトさんは意外に早く戻って来ていて、
私が船を出ようとした時には丁度鉢合わせのような格好になってしまいました。
「あっ、アキトさん」
「アティか、丁度よかった、お前に客だぞ」
「え? お客さんですか?」
そう言って、私がアキトさんの周りに視線をめぐらすと、アキトさんの肩の辺りに妖精がとまっていました、緑色の服と髪、黄色いお花が両腕と臀部にありま
す。
そして、髪型はピンクの花を髪留め代わりにして後頭部付近で二つの房を作っています。いわゆるツインテールですね。
妖精さんはアキトさんの二の腕と同じぐらいの大きさですから花の妖精としては大きめなようです。
その妖精さんは、私の視線に気付くと飛び上がり、正面まで来てからペコリと挨拶しました。
「はじめまして、マルルゥといいます」
「ご丁寧にどうも、アティです。よろしくね」
「よろしくです♪」
マルルゥちゃんは嬉しそうに私の周りを飛び回ります。
「う〜ん、白いお服と、赤いお服ですね〜、赤白さんです♪」
「…構わんが、お前が探していた先生は彼女だぞ?」
「え? ああ! 先生さんだったんですか! だったら、先生さんでいいですね♪」
「え〜っと、どういうことでしょう?」
その後、アキトさんからマルルゥちゃんが名前を覚えるのが苦手だと聞かされました。
でも、アキトさんがクロクロさんなのには笑っちゃいましたけど♪(笑)
私は話の内容を考えると、みんなに知らせた方がいいだろうと思い、一度みんなに集まってもらってから、
マルルゥちゃんのお話を聞くことにしました、幸い朝食前だったので、みんな食堂にいました。
みんなの前でマルルゥちゃんが何の為にやってきたのか話してくれます。
みんなは真剣に聞いているようでした。でも今一つ浮かない顔ですね…
「集落に、ですか?」
「はいです、先生さんたちに来てもらおうって、護人さん達に頼まれて、マルルゥ迎えに来たですよ」
「そうなんですか」
私は、護人さんたちが心を開いてくれようとしている事が嬉しくて、笑顔になって聞いていました。
でも、みなさんは複雑そうな顔をしています。
アキトさんは無表情に成り行きを見守っているという感じですが…
ベルフラウちゃんの表情も硬いですね。
「迎えに、ねぇ…」
何か、踏み出しあぐねている感じです。
やっぱり、カイルさんが言ったようにやりにくいと感じているのでしょうか?
「先生さんたちのこと、みなさんもすごく気になってるです。だから遊びに来てくれれば、きっとなかよしになれるですよ」
「いいですね、それ。
私もみんなとなかよしになりたいし…連れてってくれますかマルルゥちゃん?」
「よろこんでー♪」
マルルゥちゃんは明るくていい子みたいですね、それに私たちに対するわだかまりも無いみたいです。
このこなら、ベルフラウちゃんも友達になれるかも。
それでも、ベルフラウちゃんの表情は変わりません。
「…」
「ベルフラウちゃんも一緒に行こうよ?」
「結構ですわ……」
「あやや、それは残念です…」
マルルゥちゃんがちょっと気落ちしちゃいました、そうですよね、せっかくのお誘いなのに…
他の人たちも、みんないきたく無さそうにしています。
私もちょっと、悲しくなりました…
そうだ!
「アキトさんは来てくれますよね!」
「なぜ俺には断定なんだ?」
「だって、マルルゥちゃんと最初にお友達になったのはアキトさんじゃないですか」
「クロクロさんは来てくれるんですか。うれしいです♪」
マルルゥちゃんは私の話を聞いて、キラキラ光りながら宙を舞っています。
明るい所では分らなかったけど、彼女が飛んだ後の軌跡には光の残像が出来るみたいですね。
「それじゃ、ちょっと行ってきますね」
「…」
ベルフラウちゃんのいきたいようなそれでも動き出せないような、そんな微妙な表情がちょっと、複雑な気持ちにさせます。
もう一歩踏み出すきっかけ…何か無いものでしょうか?
私とアキトさんと、マルルゥちゃんの三人は、しまの中央にある山の麓に向けて歩いていました…
まず、護人の人たちからお話があるので、一度来て欲しいということです。
「うーん、みんなも来れば良かったのに」
もっとみんな仲良くなれるチャンスなんですけど…どうしてみんな踏み出すのをためらうんでしょう?
そんなに警戒しなくても、みんないい人だと思うんですけどね。
ソノラなら喜ぶっておもったんですけど彼女も駄目でした…ちょっと悲しくなっちゃいます。
「ごめんね、マルルゥちゃん、せっかく迎えに来てくれたのに…」
「気にしないで下さい、おあいこですから」
「え?」
申し訳なく思って謝る私に、マルルゥちゃんも申し訳なさそうに返してきます。
どういうことでしょう?
「マルルゥもですね先生さんを呼びに行く時に、おともだちを誘ったですよ
でも、みんなついていかないよって断られちゃいました」
「そうなんですか…」
まだ、私たちのこと警戒してるんでしょうねきっと。
やっぱり、 すぐに打ち解けるのは難しいのでしょうか…
「きっと、みなさん恥ずかしいんですよ。でも、きっとすぐ仲良くなれるですよ」
「ええ、そうですよね」
マルルゥちゃんの明るさは見ている方が嬉しくなっちゃいます。
やっぱり仲良くしなくちゃ、ううん、そうなるように私もがんばらないと…
私達が集いの泉にやってくると、キュウマさんとヤッファさんが出迎えてくれました。
アキトさんは少し不思議そうに、ヤッファさんを見ています。
ヤッファさんは眠そうにしていますが、それが気に触ったのでしょうか?
ううん、アキトさんはそういう人ではありません。
ヤッファさんの警戒心のなさに驚いているのでしょう。
そうこうしているうちに、キュウマさんが近づいてきて、席を勧めてくれます。
「ご足労恐縮です、アティ殿…それと、アキト殿ですね」
「ああ」
「お招きありがとうキュウマさん、それにヤッファさんも」
「へいへい、ご苦労さん。」
ヤッファさんは頭をぼりぼりかいて、眠そうに対応しています。
アキトさんはそれを見てぼそりと呟きました。
「ライオンの獣人か?」
? どういうことでしょう…
…うーん。
……
あ、そうですか! ライオンのオスはいざと言う時意外は殆ど仕事をせずに寝ているそうです。
狩りもメスの仕事なんだとか、だから、必要な時以外のライオンのオスは寝てるか縄張りの見張りくらいの仕事のみです。
だから、眠そうなヤッファさんにそういう印象を抱いたという事ですね。
私が悩んでいた間にもヤッファさんはマルルゥちゃんと話を続けています。
「ほれマルルゥ、あっち行ってろ」
「えー? でもぉ…」
「いいから、シッシッ! 行った、行った!」
「ううう…先生さん、じゃあまたあとでー」
「うん、マルルゥちゃんまたね」
マルルゥちゃんが出て行った後、二人は私たちに席をすすめます。
アキトさんも着席してくれました、そして、二人も席に着き話を始めます。
「まずは、ありがとうございます。島のみんなに説明をしてもらえたおかげで、あれ以来こっちは平穏そのものですよ」
「礼は不要ですよ。無駄な戦は、我等も望んではいません」
「けどよ、中にはオレらの話を聞こうとしなかったり言葉自体が通じない連中だっている」
「そういった者達が貴女たちを襲うこともあるでしょう。ゆめゆめ、油断はしないでください」
「わかりました」
確かに、召喚獣というくらいですし、人ばかりでなく、リィンバウムにおける獣や虫にあたる何かが相手では彼等も説明のしようがありませんよね。
話の通じる相手でも、かたくなな人もいますし。
「さて、彼女から聞かされているとは思いますが。貴方たちをお呼びしたのは一度我等の郷を見てもらいたかったからなのです」
私にとっては願ったり、かなったりです。
みなさんと顔見知りになる事ができれば、もっと仲良くできると思いますし…
でも、アキトさんは表情を崩さず、言葉を返します。
「本当にそれだけか?」
「…」
「建前はよしときなキュウマ。
こいつらの事を他の連中に見せるってのが、本音だろうが」
「ヤッファ殿!?」
「へっ」
ヤッファさんは、キュウマさんに、手を横に振って見せながら、言います。
キュウマさんは驚いてはんのうしますが、ヤッファさんはどこ吹く風といった表情でそっぽを向きます。
アキトさんは話しを聞いて納得した風にうなずきます。
も〜私だけ仲間はずれじゃないですか。
「あの、それってどういうことです?」
「言葉だけでは説明しきれない部分もあるということです。
貴方たちが、本当に島の仲間として受け入れられるのか否か…納得してもらうには、じかに皆の者と話をしてもらうしか無いのです
お腹立ちであろうとは思いますが…」
「気にしてませんよ。それに私も一度はみなさんに会っておきたかったですし、楽しみです♪」
「かたじけない…」
「他の護人たちは、それぞれの集落であんた達を待ってる。
一通りの集落の連中にあいさつしたら、もう一度ここに戻ってきてくれや、細かい話はそれからだ」
「はい、わかりましたそれじゃ行ってきますね」
私が集いの泉から出て行こうとした時、何かおかしな事に気付きました。
出て行くのは私一人。
残っているのは一人、二人…三人…って、アキトさん!
「行ってきてくれ」
「アキトさんも来てください!」
「…なぜ?」
「途中で投げ出さないで下さい!」
「俺は特に必要ないと思うが」
「何言ってるんですか、アキトさんも一緒に仲良くなりましょうよ」
「…はぁ」
何か呆れられてしまったみたいですが、アキトさんを連れ出すことには成功したみたいです。
ちょっと悲しいですけど、前向きに行かなくちゃいけませんね。
はふう…
暫く歩き、
集いの泉を出て直ぐの所、四方の集落へと通じる道の分かれ道に差し掛かった辺りで、
私とアキトさんは立ち止まりました。
「さてと、どこからまわろうかな?」
「どこでもいいだろう、結局ここに戻ってくるんだ、順番くらい好きに決めればいい」
「とはいっても、やっぱりどこから行ったらいいのか決めておかないとちょっと…」
私がどこから行こうか迷っていると、木の上から、ひらひらと何かが降りてきました。
「先生さん、先生さんおでかけですかー?」
「マルルゥちゃん、もしかして、待っててくれたんですか?」
「はいですよーマルルゥもっと先生さんたちとなかよしになりたいですから」
「そっか…ありがとうね」
「みなさんのところに行くなら、マルルゥがご案内するですよ?」
「それじゃ、お願いしちゃおっかな?」
「よろこんで〜♪」
そんな感じで、私たちは、マルルゥちゃんの案内のもと、最初に風雷の郷を訪ねることとなりました。
アキトさんはあまり乗り気ではないみたいですが、それでも結局私に付き合ってくれている辺り結構人がいいです♪
そんな訳で、やってきたのは風雷の郷、とはいっても二度目なんですけど、中には入った事が無いんですよね。
「ここがシルターンのみなさんが暮らしている鬼妖界の集落なのです。『風雷の郷』って名前の村なのですよ」
「一応、二回目になるが、中は初めてだな、だが…俺の知っている風景に似ている、小さい頃俺も見ていた…」
「そうなんですか〜、クロクロさんいろんな所に来てるんですね」
アキトさん、何か思い出しているようですね…この風景に似た所って、どこなんでしょう?
でも、触れてはいけない、そんなはかない表情をしています…
失われた場所に思いをはせているのでしょうか…
雰囲気を変える為に、私はつとめて明るい表情で言います。
「学生時代に、一度シルターン自治区には遊びに行ったけど雰囲気が違いますね…ずっと落ち着いていて素朴な感じ」
「この集落にはお姫さまさん、ってエライ人がいまして。その人を中心にして、みなさん仲良く暮らしてるです。
畑でお野菜を育てたり、森で狩りをしたり」
「そうですね、あそこに見えるのは水田かしら?」
「おコメのゴハンとってもおいしいです。たまに、マルルゥもごちそうになるですよ」
「へぇ…」
「ここの護人さんはニンニンさんですね、ニンニンさんは集いの泉でまってるですから、お姫様さんにあって行きますか?」
ビク! って、アキトさんが表情を変えました…
あっ、お姫様って、ミスミさまですね。
会って置きたいですけど、アキトさんまたべったりしちゃうんでしょうか、ちょっともやもやします。
でも、ご挨拶はしておかないと。
俺たちは、郷の中を散策しつつ、郷の中心である屋敷へと向かう…
どうにも、歓迎されているとは言い切れない、郷の中に気配はするのだが、それぞれの家から出てくる様子が無い。
興味はあるようだが、出てくる勇気が無いといった所か。
「みんなはずかしがりやさんなんです、でも、みんないいひとなんですよ〜」
「そうなんですか、早く仲良くなれるといいですね」
「はいです〜」
マルルゥはアティと話すのが気に入ったようだ。
先ほどからしきりに話しかけている、微笑ましい風景ではあるな…
そうした会話をしているうちに、屋敷へとたどり着いていた。
中では、下働きらしき角を持つ女達が働いている。
その一人に案内され、屋敷の奥まった部屋へと通された…
「よく来てくれたな、客人たちよ」
「鬼姫…じゃなくって! えっと、ミスミさま?」
「あはは、よいよいそう、かしこまるな。改めて挨拶しよう、ミスミじゃ」
「アティです」
「うむ、良い響きじゃな、面構えに似合うておる」
「ありがとうございます」
「アキトも来てくれたのじゃな、うれしいぞ」
「来たくてきた訳じゃないが…」
「そう照れずとも良かろう、わらわの顔を見に来たと素直に言えばよかろうに」
何が言いたいんだ…そもそも会ったのはまだ二回だけだろう。
相変わらずミスミと名乗る女は俺を微笑みながら見ている…
比例してアティの機嫌が悪化していく、俺何か悪い事したか?
「話したい事は山のようにあるが、それは後ほどで良かろう、余り時間も無いのじゃろうしな」
「え、あ…はい」
アティが少しどもった…あの顔は、他の集落に行く事を忘れかけていたに違いない。
「それで、どんな話を聞かせてくれるんだ?」
「なに、風雷の郷はわらわが取りまとめておるが、本来はキュウマが行わねばならない筈であった…」
「そうなんですか?」
「うむ、護人とは、兵の統率役の事ではなく、その集落の頭領の事ゆえの…」
「ならば、なぜそうなっていない…社会システムの違いか?」
「難しい言い回しじゃの、じゃがそうじゃな、確かにシルターンの風習ゆえともいえよう」
「あの、それって…」
「あの者は、元々わらわの国の者じゃった、この世界に呼ばれるまではの…それゆえ、キュウマはわらわの上には決して立とうとせぬ。今でも忠義を貫いておる
というわけじゃ」
「え…それって…」
「さて…その辺りはまた次の機会と言う事にしておこうかの」
アティはまだ聞きたそうだったが、ミスミはこれ以上話そうとはしなかった…
釈然としない物は感じていたが、以前の時といい、思わせぶりなことを言うのがすきなのだろうと察する。
それだけでは無いのかもしれないが、あまり、深く係るのはごめんだ。
俺はミスミの話が終わった事を確認すると、アティとマルルゥを伴い部屋から出ようとするが。
「アキトはもう少しゆっくりしていかんか? わらわも少し退屈していた所じゃしのう…
少しくらい構ってくれてもばちは当たらんと思うぞ」
「俺には特に用は無い、出来ればさっさと帰りたい所だが…」
「さっ、アキトさん行きましょう。次の集落の方たちが待ってますよ」
「だそうだ…」
「尻にしかれておるのう…最初が肝心じゃぞ」
「わっ、私達別にそういう関係じゃ…(///)」
俺の意思はどこにあるというのか…(汗)
ミスミは、俺の事を哀れそうに見ている。
アティは俺を見て真っ赤になっている…
俺はこの状況を打破すべく、唯一その雰囲気に染まっていない存在に、話しかける。
「マルルゥ、次行くか?」
「はい、おまかせですよ〜♪」
おかしな雰囲気の二人を置き去りに、俺たちは次の機界の集落へと、向かう事にした…
「ああ! アキトさん! 待ってくださ〜い(泣)」
「先生さん置いていっていいですか?」
「ほっといても追いついてくる、さっさと次の集落に行くぞ」
マルルゥは少し迷ったような表情をしていたが、何か納得した風にうなずくと。
「わかりましたです!」
アティの情け無い声を遠くに聞きながら、俺たちは機界の集落へと急ぐのだった…
あとがき
今回は遅れに遅れました(汗)
この調子で行くと、次の〜光と闇に祝福を〜の方が三月にもつれ込んでしまいそう…
出来れば二月中に11話完結と行きたかったんですけどね(泣)
今後の為にも、せめてナデシコ出航編は終わらせたいな〜
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
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