アキト達が去った後、アルディラはクノンに向けてはなしかけた。


「どう?」

「はい、DNAサンプルとして、髪の毛の採取に成功しました。DNAパターンは殆ど一致しています」


切羽詰ったようなアルディラの問いに、クノンは淡々と答えていく。

それを聞くうちに、アルディラの顔が安堵に変わる。


「そうなの…だったら、可能性はあるのね?」

「はい、不可能ではないと言う程度のものですが、実質成功の確率は0.126%程度であると思われます」

「それでも…それでも構わない…一度だけでも…」

「ですが、それでは…」

「分っているわ、場合によっては私の命に代えてでも償いはしなくてはね…でも、それでもやらなくちゃいけないのよ」


また、アルディラの表情が思いつめた物となる…

彼女の事を思うと、クノンは何もいえなくなる。クノンは本来感情は無いはずだが、長年、反応を繰り返すうちに感情を学習し始めていた。

クノンはこの孤独な主に幸せが訪れる事を祈っていた。





Summon Night 3
the Milky Way




第四章 「悲しい陸海賊」第五節




「なあ…」

「なんです?」

「そろそろ、終わりにしないか?」

「そんな…アキトさんは私を捨てるって言うんですか…」

「いや、そういう訳ではなくてだな…」

「だって、私…貴方の所為で…」

「…」

「こんなにもてあそばれてしまって…私もうお嫁にいけません!」

「…アティたのむ、妙な芸風を身につけないでくれ(汗)」


俺の背中に乗っかったまま、捨てられる女の芸風を使うアティ…

というか、彼女は基本的に無心に他の人に奉仕するタイプだと思ったのだが…

何故俺をからかう様な事をする? 分からん(汗)


「だって、私を降ろそうとするんですもん」

「別にもういいだろう? 流石に俺も疲れた…」

「う〜ん…仕方ないですね…マルルゥちゃん、少し休憩にしましょうか」

「はい、構いませんですよ〜♪ 残る集落は後二つですし、ゆっくり回っても今日中に回れますですよ」

「はあ」


俺は息をついて座り込む、流石に人一人背負って20km近く歩けばそうもなる…

もう少しで、メイトルパの集落の筈だが、息が上がっていた。

この辺りになると、森も少し開けてきて、下に広がる草原が見える。

広さ的には大陸の上にあるわけでもないのだ、たいした事は無いはずではある、しかし、今までの山道を思うと無限の広さがあるようにすら思えた。

流石に獣人達の住むというだけあって、この辺りに生える木は実をつけているものが多い。

それに、草原も気持ちのいい風が吹き抜けているのが分かる。

本来風を感じる事ができないはずの俺にとって、とても気分のいいものだ。

気が付けば隣にはアティが座っている。気を読めば簡単に近づいている事が分かったはずだが、今はただ風を感じていたかった…


「アキトさん…」

「なんだ?」

「アキトさんは、思いつめすぎだと思います。ここにきてからアキトさんがくつろいでいる時って殆どないじゃないですか…」

「そんな事を気にしていたのか?」

「そんな事って言いますけど、アキトさんがぴりぴりしてると、気になっちゃいます。もうちょっと楽に生きましょうよ」

「…それでか、あんな事をしたのは」

「…あれはまあ、半分本気でしたけどね?」

「…」


半分本気…アティは嬉しそうにころころ笑う。

結局これも、俺のことを元気付けようと言う意思の元だという事だろう。

もちろん、半分面白がってという事になるが…

まあ、アレは結構疲れたが、お陰であまり、考えずにすんだとも言える。

アティは俺に一通り話し終えると近くを飛ぶマルルゥとじゃれあい始めた。


まあ、確かにあまり緊張ばかりしていても仕方ないかもしれんな…

今、俺を追う者も、断罪するものもいない…こんな状況下で、緊張を保っていてもおそらくは意味が無い。


しかし…一朝一夕に変われるものでもない、大体俺自身、自分の罪を許せたわけでもない。

俺のした事は間違っていると思っているわけではない、だが、他に方法が無かろうが殺した事実は消えない…

コロニーを直接爆破したのは北辰だったかもしれない、しかし、そうやって追い詰め、多数の命を奪った事は同じ。

俺は…


「アキトさん、行きましょう。そんな所で思いつめていても、何にも変わりませんよ?」

「ああ…そうだな。すまない…」

「アキトさんの悩みは分りませんけど、きっと大丈夫ですよ。アキトさん強いですもん」

「…そうかな?」

「はい!」


呼びかけるアティに従い、俺は立ち上がってアティ達の後を追った。















私達は草原を下って、メイトルパの集落にやってきました。

そこは、巨木とその下にある集落から出来ています、なにか巨木に守られた村と言う感じです。

三度めですし手馴れて来たのでしょう、マルルゥちゃんが良いタイミングで振り返ります。

そして、集落の説明を始めました。


「はーい、ここがメイトルパの集落<ユクレス村>です。マルルゥもここに住んでるですよ〜♪」


マルルゥちゃんの住んでいる所…考えてみれば当然なんですけど、マルルゥちゃんの暮らしが想像できません。

どんなお家に住んでいるのか気になりますね。


「ユクレスというのは、村はずれにあるおっきな木の事で、お願い事を聞いてくれるんだってシマシマさんがいってたですよ」

「へぇ」


他の集落は特徴的な集落でしたから少し警戒していたんですが、亜人の集落ってそんなに人間の村と違っているわけじゃないんですね。

どこか故郷の村に雰囲気が似ている気がします。

南国だから似るのは当たり前な部分もありますが、やはり種族の違いで生活習慣が違うのってくるものですから…


「先生さん、この村を気に入ってくれたですか?」

「ええ、なんだかほっとしちゃいます。素敵な村ですね」

「よかったですよ〜♪ ここ護人さんはシマシマさんです。護人さんに会う必要はありませんですから、村の紹介だけしますですよ。」

「よろしくお願いね、マルルゥちゃん」

「よろこんで〜♪」


そうして、マルルゥちゃんに先導してもらいながら、ユクレス村の中を回ります。

とはいっても、実質それほど大きくない村ですから、一回りするのにそれほど時間を要した訳ではありません。

マルルゥちゃんの提案で最後にユクレスの木の方に向かう事にしました、ヤッファさんがよく昼寝をする場所の一つなんだそうです。

ヤッファさんは寝るのが好きで時々一日中ぼ〜っとしている事があるそうです。


「マルルゥいつも注意しているんですよ〜、シマシマさんはもう少し働き者になっても良いと思います」

「そうなんですか」


アキトさんもしぶしぶついて来てくれていますが、マルルゥちゃんのお話に興味が無いのか表情を崩しません。

もっとも、アキトさんが表情を崩すのは良くて一日一回ですから仕方ないんですが…

アキトさんが気兼ねなく笑ったり出切るようになるまで頑張らなきゃと思います。


そうしてユクレスの木の下辺りまで来ると、突然マルルゥちゃんを呼ぶ声がしました。


「おーい、マルルゥー!」

「この声は…」

「おっす、マルルゥ。そいつらが、母上たちが言ってたニンゲンか?」


木の下で遊んでいたんでしょう、おかっぱの髪を少しボサボサにしたような髪型の少年が声をかけてきました。

健康そうな肌、首に巻いた赤いマフラー? と、白地に刺繍の施されたシルターン風の服、その上からカキ色の袖なし服を羽織っています。

雷みたいに一房だけ跳ね上がった髪が額辺りから出ていて、耳が少しとんがっています。人間では無いようですね、でも亜人でも無い様子です。

少しツリ目がちな目と良く変わる表情が勝気そうな印象を抱かせます。何と言いますか、一言で言えば悪戯っ子でしょうか?

そんな事を考えているうちにも、話は進んでいる様子です。


「むー、ヤンチャさん、ニンゲンなんて言い方失礼ですよー?

 先生さんのお名前はえっと、名前…あや? あやや???」

「アティですよ」

「そうでしたー!」

「なんだい、変な名前」

「やんちゃさん!?」

「おいらの名前はスバル、いい加、減覚えとけよマルルゥ?」

「イジワルですよぉマルルゥが、お名前おぼえるの苦手って知ってて…」

「スバル君ですね、君は鬼の子なのかな?」


何か話がそれていきそうでしたので、スバルくんに話しかける事にしました。

鬼族の子供には角が無いことも多く、特徴は耳がとがっているだけということもままあります。

ですので、少しカマをかけてみたのですが、正解だったみたいですね。


「おう! おいらは鬼神の血をひく一族のまつえいなんだぞ!」

「へえ、そうなんだ?」


鬼神の血を引く鬼族は基本的に他の鬼族よりも召喚術に長けているといいます。

正確には、彼等の妖力が高いので、使っているそれも召喚術以外の何からしいのですが…

鬼神の血を引く鬼族自体が殆どリィンバウムにいないので、詳しい事は分かっていません。


「あ、ヤンチャさんワンワンさんとは一緒じゃないんですか?」

「あっち」

「う…」


そう言ってスバルくんが指差した先には、真っ白な毛並みをした亜人の少年がいました。

ユクレスの木の後ろから覗き込むように私達を見ています。

やっぱり、初めてですし緊張しているんでしょう。

…アキトさんが怪しすぎるからかも知れませんが…(汗)


基本的に亜人、獣人と呼び分けられる事はありますが、両者は同じですので、つまり彼は獣人の一族と言う事になります。

彼の特徴は、白系統の色で全てを統一している事でしょうか、服はくすんだ灰色のような色で、マフラーは白とカキ色のチェックになっています。

手袋もしていて、手のひら部分のカキ色が非常に目立ちます。顔はスバル君とは対照的に気弱げで、耳がたれているせいで余計にそう見えます。

種族は耳や毛並みから犬系だろうと予想できますが…


スバル君は一向に近くに来ようとしない彼を揶揄するように告げます。


「ニンゲンはコワイいから近づきたくないってさ」

「こわくなんかないってば!」

「だったらちゃんと先生さんに挨拶するですよー」

「う…っ」


二人に言われて、亜人の少年がおずおずと私の方に近寄ってきました。

アキトさんからできるだけ遠い方に(汗)

まあ、仕方ないですよね…

アキトさんは無言ですが、傷ついて無いでしょうか…心配です。

でもやっぱり、あの服装は何とかしていただいた方がいいかもしれませんね…(汗)


「お名前は?」

「パ…パナシェっていいます」

「パナシェ君は亜人の子なのかな?」

「う、うん…ボク、バウナスです」

「確か犬に近しい種族だったよね」

「はい、だからワンワンさんですよ」

「これからよろしくね?」

「う…うんっ」

「スバル君もね?」

「おう!」


よかった、二人とは仲良くなれそうです。

スバル君もパナシェくんも良い子みたいで良かったです。


「ところで…そっちの黒いのは?」

「…俺か?」


スバル君がアキトさんの方を指差します。

そういえばアキトさんは会話に参加していませんでしたね…

でも、緊張しているのでしょう、パナシェ君からは明らかな動揺が伝わってきます。

どうしましょう…上手く取り持ってあげたいのですが…


「そうだよ、お前は誰だ?」

「テンカワ・アキトだ」

「ふ〜ん、おいらたちの所でつけるみたいな名前だな…」

「偶然だろう」

「そうかもな、なあ、あんた強いのか?」

「どうだろうな? 相手にも寄る」

「つまりそれほど強くないわけか、じゃその格好は怖がらせて勝つためのもんだろ!?」

「言われてみれば、そうかもしれんな…」

「やっぱりな、大丈夫だぞパナシェ」

「べっ…別に怖がってなんか…」

「…」


アキトさんは無言ですが、なんだか少し傷ついているみたいな感じを受けました。

やっぱり、服装を変えるのは急務ですね…



















ユクレス村で少し遅いお昼をご馳走になり、その足で最後になる霊界の集落へと向かう事となりました。

霊界の集落へと近づいてきて思ったのは、他とは随分違うと言う事です。

先ず、建物が見えてきません、森の奥へと進んでいくうちだんだん光が届かない薄暗い場所になってきました。

周囲には不思議な光が舞っています。燐光とでも言うのでしょうか、淡い光が見られます。

これは、魂なのでしょうか、聞いた事が有ります。霊界の住人はその殆どが精神生命体であると…

つまり、光の一つ一つが集落の住人ということになるのでしょう。


「ここがサプレスのみなさんが暮らしている霊界の集落ですよ、<狭間の領域>って呼ばれる、ちょっと不思議な森なのです」


霊界サプレスの森<狭間の領域>なんだか、寂しい所ですね…

さっきよりも木々がまばらになっていますが、その間には水晶の柱が幾つも地面から生えています。

全体的に薄暗く、飛び交う燐光がなければ視界もままならないような所のようです。

アキトさんは平然と歩いていますが…


「アキトさんはこんな暗い所でも歩くの不安にならないんですか?」

「いや、そのための訓練というのも受けているからな」

「訓練ですか?」

「ああ、俺も一時期ある組織の中にいたことがあってな、そこでやらされた。目が見えなくても戦えるように…」

「あやや!? クロクロさんはそんな事してたんですか? でもマルルゥは、暗い所だと飛ぶのが疲れるですよ」

「まあ、俺みたいに特殊な事をする必要は無いだろう、普通は必要の無い能力だ」

「そんな事はないと思いますけど…」


アキトさんも波乱にとんだ人生を送っているんですね…

実際私は軍を首になるまでは、特別変わった人生でもありませんでしたから…

人生経験では全然敵いませんね。

…そういえば、集落の説明途中でした。

私はマルルゥちゃんを促して続きをお願いする事にしました。


「サプレスのみなさんはおひさまよりも、おつきさまの方が好きなのですよ。だからほとんどのみなさんは昼間は出歩かないのです」


サプレスの生き物はたしか、この世界では肉体の形を維持する為に常に魔力を消耗しているはずですよね…

魔力が切れた状態か、実体化をやめたときは、光になると言う事でしょうか。

だから、肉体を維持しないと世界に何も干渉できなくなりますし…

月の光はマナが豊富だから、その方が過ごしやすいってことなのかも?


「ここの護人さんは、ヨロイさんですね…

 ヨロイさんはぴかぴかした洞窟でじいっとしてるです。シマシマさんみたいに、寝ぼすけなのかもしれません」

「ねぼすけ…」

「でも、天使さんにお願いすれば、きっと大丈夫ですよ。さあ、いきましょう」


良く分かりませんけど、ファルゼンさんには、お付の人がいるみたいですね。

私たちはマルルゥちゃんを追って<狭間の領域>に足を踏み入れる事となりました。










マルルゥちゃんが案内する中、集落の中を進んでいくのですが、誰とも行き違いません。

正直少し寂しくなってきました。

アキトさんが横に並んでくれているので、気はまぎれるのですが、余り話しかけてくれる人じゃありませんしね。


「どうした?」


いつの間にかアキトさんの方を見つめていたみたいです。

何か気恥ずかしいですね…


「いえ、ただ…この集落、昼間は誰もいないんだなーと」

「そう言えばそうだな…気配は多いが…

「そんなことないぞー?」


アキトさんが言おうとした語尾はその言葉に消されました…

アキトさんが何を言いたかったのか気になりますが、それ以上にいきなり会話に参加してきた誰かがどこにいるのか気になります。

私は周囲を見回し姿を探しますが、見当たりません。


「あの、もしもし、いるんだったら姿を見せてくれませんか?」


その時、アキトさんが私の後ろを指差します。


「そこだ」

「え?」


唐突に私の背後に私とソックリの人が現れました。

髪型も服装も何もかも私とソックリです。

流石に顔形は鏡を見た時と微妙に違う気がしますが、それは左右が逆に写る鏡の特徴の所為でしょう…


「うわ!?」

「うわ!?」

「あなたは何者ですか!?」

「あなたは何者ですか!?」

「まねしないで下さい!!」

「まねしないで下さい!!」

「おい、アティ乗せられるな、そういう奴の相手をしているときりが無いぞ」

「あっはい…」

「あっはい…」


アキトさんに言われたのは良いのですが、まだソックリさんは私のマネをしています。

どうすれば良いのか、考えていると、突然ソックリさんの頭を誰かが小突きました。


「フギャ!」


見るとそこには、金髪碧眼で白い肌をした天使さんが飛んでいました。

白と黒で統一された服を纏っていて、一目で好青年と分るような面立ちをしています。

天使さんは、直ぐに着地すると羽をまるでなかったかのようにしまいこみ私に話しかけました。


「すいません、彼は他人を真似てからかうのが大好きな幽霊なんです」

「その通り、ワシは、霊界一の物まね名人まねまね師匠じゃ」


天使さんとの会話にソックリさんが割り込みます。

つまり、ソックリさんは私とソックリに変身しているということでしょうか…

こういう人もいるんですね〜なんだか脱力してしまいます。


「たしかに、言うだけあって見た目はそっくりかも…」

「さあ、師匠わかりましたからおふざけはやめなさい」

「やなこった〜」

「なっ!?」

「やめて欲しければ、わしと物まねで勝負じゃ!」


私も、頭に血が上っていたのでしょう、勢い込んで勝負を受けたんですが…

その後の事は聞かないで下さい…あまりにも情け無いので…

最後に腰がつってしまったとだけ言っておきます(泣)













腰がつったアティを支えてやりながら、俺は集落の中心に当たる洞窟へと足を進めていた。

マルルゥが案内すると言っているが、一応ブレイズという天使に先導を任せる事にした。

名前は物まね合戦の間に聞いた…アティは熱くなっていたようだから聞いて無いだろうが…


「マルルゥが案内したかったですよ〜」

「まあ、そういわないで下さい、私もファルゼン様の副官としての立場と言うものがありますので、お客様を迎えていながら案内を怠ったと言われはやはり問題 なのです」

「あやや〜、そう言われるとそうですね、ごめんなさいです」

「いえ、御気になさらず。マルルゥさんの案内したいと言う気持ちは良いことだと思いますので、むしろ水を差して申し訳ないと思っています」

「そんな事無いですよ〜マルルゥはみなさんが幸せなら幸せなのですよ♪」


マルルゥは建前を言ったりする子ではないから、それは真実なのだろう…

アティに聞いたところによると妖精はある種の感情を求める性質があるらしい。

マルルゥのそれは、喜びや幸せといった感情なのだろう。


水晶の柱の狭間から<瞑想の祠>と呼ばれる洞窟に入る。

中は一面の水晶だった。

もっとも、全てが水晶と言う訳ではないだろうが、水晶を含有しているのだろう。

洞窟は確かに光り輝いていた。

その奥まった場所に、広場のような殺風景の場所があった…

直径にして十数メートルの空洞の中央に2mを超える鎧が静かに立っている。

ある種荘厳ですらある風景だが、俺はどこか儚さを覚えた…

そうして、俺たちがその場を動かずにいると、アティも腰が回復してきたらしく、俺の肩から手を離す。


「大丈夫なのか?」

「はい、まだちょっと痛いけど歩けないほどじゃありません」

「そうか、ならいくぞ」

「はい」


ファルゼンは俺たちに気付くとゆっくりと体勢を変えて俺たちに向き直る。

そして、どこか二重に聞こえるその声で俺たちに話しかけた。


「ヨク、キタ…カンゲイ。スル…」

「いえ、こちらこそ招いてくださって感謝してます」

「ファルゼン様の身体は言語を用いることに、あまり適してはおりません。私、副官のフレイズが代理人としてお話しする事を、あらかじめお許しください」

「わかりました」


アティは何の疑問も抱かなかったようだが、今の会話には不自然な点があった…

考えてみれば、ファルゼンは集いの泉にフレイズを連れて行っていない。

確かに、集いの泉は四人のみの議会を行う場かもしれないが、通訳ならばついていかねばならないだろう。

それは…いや、俺が深入りする必要は無いな…


「お聞きになったように、私たちは貴方たちと交流をもつことに同意いたしました。

 ですが、精神生命たるサプレスの住人たちは人間とは異質な文化を持ってい ます。

 無理にお互いを理解するよりも、自然な流れで交流を進めていく私たちの考えに同意していただけますか?」

「ええ、もっともだと思います」

「コワレレバ…キョウリョクハオシマヌ…」

「ありがとうございます、ファルゼンさん」

「デハ、ノチホドイズミデ…」


そうして、俺たちは四つ目の集落を後にし、集いの泉へと向かう事になった。

マルルゥがファルゼンに一緒に行こうと言っていたが、ファルゼンはまだ少しやる事が有るといって俺たちを先に行かせた。

怪しいと言えば怪しいが…俺には関係あるまいとその場を後にする事にした。













その洞窟には、人影が三つあった…

一つはフレイズ、一つはファルゼン、そしてファルゼンの肩の上にもう一つの…

フレイズはもう一つのひと影に向き直る。

人影はフレイズに話しかけた…


「フレイズ…どう思いますか…」

「それは、何についてですか?」

「作為的なものを感じます。だって、あれは…」

「そうでしょう…偶然とは言い切れませんね」

「もしかして、エルゴの…」

「いけません、その言葉は聞かれる可能性があります」

「そうでしたね…でも、本当に…」

「良いではないですか、喜ぶべき事ですよあなたの為にも」

「そうですね、ならば…彼を守る事がきっと…」

「はい、あの方の御意思にかなうのではないでしょうか?」

「私に出来ることは、そう多くないでしょうけど…彼が無事この島を出る事が出来れば良いわね…」

「私も微力ながらお手伝いします。さっ、そろそろ泉に向かいませんと間に合いませんよ」

「そうですね、それでは後を頼みます」

「はっ!」


いつの間にかその場にはフレイズだけしかいなくなっていた。

ファルゼンもファルゼンの肩の人影もまるで消え去ってしまったかのように…

人影のいた場所をフレイズは何時までも見つめていた。








なかがき


ふう、どうにかこうにか集落紹介を終了しました。

次回でどうにか、あの人の登場にこぎつける事ができそうな予感(爆)

しかし、良く考えてみると、集落紹介の間アキトとアティのねたをかましすぎた…

あれさえなければ、これほど長引かなかった物を…(汗)

まあ、おこってしまったものを嘆いても仕方ないですし。

お許しを(泣)










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