その洞窟には、人影が三つあった…
一つはフレイズ、一つはファルゼン、そしてファルゼンの肩の上にもう一つの…
フレイズはもう一つのひと影に向き直る。
人影はフレイズに話しかけた…
「フレイズ…どう思いますか…」
「それは、何についてですか?」
「作為的なものを感じます。だって、あれは…」
「そうでしょう…偶然とは言い切れませんね」
「もしかして、エルゴの…」
「いけません、その言葉は聞かれる可能性があります」
「そうでしたね…でも、本当に…」
「良いではないですか、喜ぶべき事ですよあなたの為にも」
「そうですね、ならば…彼を守る事がきっと…」
「はい、あの方の御意思にかなうのではないでしょうか?」
「私に出来ることは、そう多くないでしょうけど…彼が無事この島を出る事が出来れば良いわね…」
「私も微力ながらお手伝いします。さっ、そろそろ泉に向かいませんと間に合いませんよ」
「そうですね、それでは後を頼みます」
「はっ!」
いつの間にかその場にはフレイズだけしかいなくなっていた。
ファルゼンもファルゼンの肩の人影もまるで消え去ってしまったかのように…
人影のいた場所をフレイズは何時までも見つめていた。
Summon Night 3
the Milky Way
第四章 「悲しい陸海賊」第六節
私たちは集落を全て回り、集いの泉へと戻ってきました。
4つの集落全てを回りきるのにはやはりかなりの時間がかかり、今は既に夕方です。
泉も夕焼けに染まり幻想的な風景を作り出しています。
私たちが集いの泉に戻ってみると、既に護人の人たちは全員泉に集っていました。
ファルゼンさんなんて、私たちより後から来た筈なのに私たちより先に来ているんですから…
一体いつ抜かれたんでしょう?
アキトさんに聞いてみても気配がしなかったと言っています。
霊界の人ですから、何か特殊な移動方を持っているのかもしれません。
私たちが泉の会議場に着いたのを見計らい、護人さんたちが立ち上がります。
そして、ちらっと私たちに視線を送った後、一礼して私たちに椅子を勧めます。
なんだか、大仰な気もしなくは無いですが、形式というものも必要なのでしょう。
そうして、全員が座りなおした後、アルディラさんが口を開きます。
「さて、あらためて代表全員が集まったところで話があるわ。鬼妖界と幻獣界で以前から問題になっていた件についてよ」
「以前から出始めた野盗たちの事についてですね」
「野盗?」
「野盗というよりはコソ泥だな、夜のうちにやって来て作物なんかを盗んでいく連中がいるんだよ」
「ソレモ、ドウヤラ、ニンゲン、ラシイ」
ファルゼンさんの話しを聞いて、私はびっくりしました。
人間の野盗…帝国軍でしょうか…いえ、そんな事をするとは思えません。
帝国軍はあれだけ集落に人達を嫌っているんですから、好んで作物を盗みに入るとは考えられません。
それに、軍規もありますから、そう無茶はしないはず…
本当ににんげんなのでしょうか?
「人間ですか!?」
「最初は貴方たちが犯人ではないかと思いましたが…時期が一致しません…奴らは、前の嵐より以前から出没しているのです」
「当然、先日に戦った帝国軍というグループでもない…」
「この島にまだ私たち以外の人間が…」
「いずれにしろ、このまま放置しておく訳にはいきません。所在を見つけ出して対処せねば…そこで、貴方がたに協力してもらいたい」
「野盗討伐に参加してもらいたいの」
「え!?」
アルディラさんが私たちに向けて言います。
野盗討伐…つまり、人間を倒すのに協力しろといって来ている事になります。
出来ればこの島の皆さんとは仲良くしたい…でも、その人たちもやむにやまれぬ事情があるかもしれません…
私が決めかねていると、今度はヤッファさんがどこか無関心そうな声で、
「無理なら無理とはっきり言いな」
「…っ」
「待て」
私の悩みをよく通る声が遮ります。
ふと隣を見ると、アキトさんが言葉を発していました。
「お前たちが用心深くなるのも分らなくは無いが、余り人を試すのは感心しないな」
「どういう事です?」
「その案件、どう考えてもこの場でしなければならないほど重要な案件に見えん。意図が見え透いているぞ」
「その様な事!」
「クク、確かにな。アルディラ…絡め手でばかりじゃ、そっちの兄さんは騙せねえ見てえだぜ」
「…からめ手等ではありません! 問題になっているのは事実です!」
「だが、個々の集落でも対処可能な案件だろう?」
「それは…」
アキトさんの発言に場が凍りつきます。
もしかして、彼らはまた私たちを試そうとしているのでしょうか?
帝国軍と相対した時の様に…
「ふう、頭が切れるのね…そうよ、確かにそういう側面があることは否定しないわ。私たちの中でもまだ貴方たちが完全に信用できると言えない状況…
だから、この件の対処の仕方を見て貴方たちがどんな人間なのか判断しようとしている…でも、さしあたり野盗を速やかに何とかしなければいけないのも確か
よ。
このままでは鬼妖界と幻獣界の食糧事情が悪化するわ」
「無論我等とて性急に事を構えるつもりはありません、話し合う努力はします。それがもし、理不尽なものであれば…その時は、力ずくでとめる事になるでしょ
う」
「…」
どうしよう…
アルディラさんたちの言う事はもっともだと思う、でも相手が人間なら私たちとしては極力穏便に済ませたいと思う。
でも、アキトさんの言うように私たちを試す側面があるのだとしたら、ちょっと悲しいかも…
でも、この場でやめるわけにはいかなくなった…仕方ないか…
「わかりました協力します」
私は、みんなにつっこまれるだろうな〜とは思いつつそれでも、言葉に出して言った。
アキトさんは無言でしたが、特に反対と言う訳でもないようです。
話を聞いてみると「引き受けるのは良いが、事情を理解していない状態で引き受ければ後々困った事になる場合も有る」ということだそうです。
その日は、もう遅かった為日が暮れるのにあわせ一度船に戻る事となりました。
私たちはあの後直ぐに船に直行しましたが、既に日は暮れており、時間も無いので夕食の場でみんなにこれまでの事を告げる事にしました。
コソ泥がどんな理由で盗みを行っているのかは分りませんが、できれば争わないで解決したいものです。
「なるほどな、事情はわかった」
「ごめんなさい、どうしても断りきれなくて…」
出来れば試されている事は告げたくなかったので、私が勝手に引き受けた事にしました。
まあ、事実勝手に引き受けたわけですし…(汗)
でも、ベルフラウちゃんはそのことが気に入らなかったらしく、声を荒げて抗議します。
「押しに弱いのにも限度がありますわ!」
「まあまあ、今更断れる話でもないししかたないじゃない?」
スカーレルさんがフォローしてくれていますが、なんだか怒りが収まらない感じです。
私、そんなに悪い事したでしょうか?
一通り話し終えた後、食事をいち早く終わらせたカイルさんから質問がありました。
「なあ先生よ、連中は戦うつもりで行くわけじゃないって言ったんだな?」
「ええ、それは間違いありません」
キュウマさんはそう言っていましたし、護人の人たちは律儀な人たちみたいですから問題は無いと思うのですが…
それでも、人でなければ良いとは思います。
「そこに希望を繋ぐしかないですね…」
「なるようになるしかないってことだね」
ヤードさんも、できれば人間とは戦いたくないと思っているようです。
ソノラは達観したような事を言っていますが…
こんな狭い島ですし、できればすんでいる人たち全てと仲良くしたいんですが…
世の中はそう上手くは行かないみたいですね…
そうして話にひと段落付き、緊張感がなくなると、途端に私に向かって質問が浴びせかけられました。
アキトさんのほうには一人も聞いてない辺りなんだか不公平です…
「でさ…それはそれとしてどんなだった!? 集落の様子って?」
「おうよ、俺もそいつを聞きたいって思っていたんだよ!」
「それならみんなで行けばよかったんじゃないですか?」
思わず言い返しちゃいましたけど、それでもみなさんめげることなく聞いてきます。
私もちょっとたじたじですね(汗)
「はははは…まあ、確かにその通りなんですけど…」
「もう、いいから〜ケチケチしないで教えなさいってば」
そうして、私がみんなに質問攻めにあっていると、ベルフラウちゃんが参加していない事に気づきます。
ふと目をそちらに向けてみるとベルフラウちゃんは沈黙し、何か考えているみたいです。
「……」
「ビビ〜!」
ベルフラウちゃんどうしたんだろう?
そう思って話しかけようとすると、ベルフラウちゃんはスーッと食堂から出て行ってしまいました。
私は追いかけようとしますが、周りの人たちが放してくれず、結局追いかけることが出来ませんでした。
何事も無いと良いんですが…
「いたたまれなくなったか?」
「…!」
ベルフラウが甲板に上がるのを見かけた俺は様子を伺っていたのだが、
ベルフラウの落ち込みようから見て、先ほどの食堂の件だろうとあたりをつけたオレはベルフラウに話しかけてみることにした。
「何が言いたいんですの? 私はただここに涼みに来ただけよ。あんな雰囲気の所にいたくなかったし…」
「ビビ?」
ベルフラウは俺を見て必死に強がっているが、内心動揺している事は声が裏返りかけている事からも明白だ。
甲板上には月が出ていてかなり明るい、ベルフラウの表情は今にも泣きそうな、不安を浮き彫りにした表情だ。
「相談事を出来るような雰囲気ではないな…」
「当たり前ですわ! だからとっととどっかいって!」
ベルフラウは怒りの表情で俺を見ている、やはり彼女は不安を人に話すのは苦手のようだ…
恐らく心を許せる人間というものが彼女の近くにいなかったのだろう。
父親は不在がち、母親は死別したと聞いている、更に頭の良さそうなこの子の事だ、使用人が自分に注いでいるのは、愛というよりは金の為である可能性に気付
いていたのだろう…
アティに聞くだけでも彼女が孤独になる要素は十分だった。
そんな彼女が、父親の前ですら強がってしまうような性格をした彼女が、悩みを相談できる人間というものを持っていなかったとしても不思議ではないだろう。
だから、オレは少しアプローチの仕方を変える事にした。
「これは知り合いの話なんだが…」
「何よ唐突に」
「ビビ〜?」
「いや独り言なんだがな」
「独り言ならよそに行ってやって!」
「独り言だからどこで言うかは決めていない、聞きたくなければ自室にでも戻ってくれ」
「…!」
ベルフラウはそれを聞いて一瞬怒りの顔を作るが、ここで部屋に戻っては自分の負けのような気がしたのだろう動き出す事もなかった。
俺はその事を確認し、話を続けることにする。
「その男はある戦争で恋人と呼べる存在に出会った」
「…」
「戦争が終わり、自分で食べていけるようになった頃結婚を決めたのだが…」
「…」
「結婚時に、自分と恋人が誘拐されるということになった、その時無茶をされた所為で身体がガタガタになったがそれでも男は復讐の為に立ち上がった。」
「一体何が言いたいんですの?」
「さあな、兎も角、復讐を始めた男は力を欲し自分の人格すら変えた。敵対する勢力の最強といわれる男に勝つほどに…」
「凄いですわ…でも…」
「しかし、その男は世界から受け入れられなかった。いや、受け入れられないと思い込み、自分に向かって伸ばされた手を振り払い、ついには亡霊になった」
「…」
「急激な変革は可能だが、それをした者には必ずある種の報いが与えられる」
「でも…」
「直ぐにあの中に溶け込む必要は無い。少しずつで良い」
「…そんな事が言いたいんですの?」
「俺に言える事はそれだけだ、お前が心配しているような事にはならないさ。アティも俺たちもお前の事は気にかけている」
「…なにもかも、分った風に言って! 私そんなの気にしてませんわ! 気にしてっ…無いんだからッ!!!」
そういいながらもベルフラウは涙が溢れそうになりそれを隠す為に俺の胸に飛び込んだ。
そして、俺の胸を叩きながら泣きじゃくる。
「何で! 何でそんなに私の事を気にしますのっ!? 私! こんな所でずっといるつ
もりは無いんですのにっ!!」
「さあな、俺にも判らないさ…ただ人付き合いは俺も苦手だったからな…」
俺自身、人付き合いが出来るようになったのはナデシコのお陰と言う部分もある。
本音でぶつかったり、他人の事を考えるということのほとんどはナデシコで身につけたものだ。
ここが、この子にとってのナデシコとなればと俺は思う。
だが、この船がナデシコとなるには不足している物がある。
それは人生経験豊富な大人だ…海賊連中も若い者ばかりだし、最年長は俺という有様だからな…その俺ですらまだ二十五…
ホウメイさんやプロスさん、フクベ等に相当する人間がいないのは問題だな。
泣きじゃくって気が済んだのか、ベルフラウは俺から身体を離すと俺に告げる。
「グスッ…今の事は他の方には絶対内緒ですわよ! ないしょなんですからッ!」
「わかった」
「貴方の言う事、少しだけ考えてみますわ…でも今は無理。頭の中がごちゃごちゃになってますもの…」
「ああ、ゆっくりで良い」
「では、失礼しますわ」
「ああ、おやすみ」
そういうと、ベルフラウは甲板から降りる階段へと歩き出す…
だが、何を思ったのか途中で顔だけ振り向くと。
「たとえ話、あれって貴方の事でしょう?」
「さあな、どうだったか忘れた」
「ふふ…まあ良いですわ今日は珍しい話が聞けたと思っておく事にします」
「ああ、そうしてくれ」
そして、ベルフラウは階段を下りて行った…
ふいに、周囲にの風が凪ぐ…
俺にとってここはどういう場なのか…答えは出ていない。
自分の問題を抱えたまま他人の相談に乗ろうとは、おこがましいな…
「いつまで隠れているつもりだ?」
俺はマストの方に向かって話しかける、するとまるでマストの柱から浮き上がるようにスカーレルが姿を現した。
スカーレルは見つかった割には取り乱すことなく、気楽に俺に話しかけてきた。
「あら、気付いていたの? これでも気配を消すのは自信あったんだけど…これは迂闊だったわ」
「ふん、俺にそういった気遣いは無用だ、別に独りになりたかった訳じゃない」
「あらそう、でも以外ね〜アンタ子供には優しい表情も見せるんだ?」
「なっ?」
「自分で気付いてなかったの?」
なっ、俺は特に表情を変えたつもりは無かったが…
やはり、懐かしいと思ってしまったのだろうか…意地っ張りで孤独な少女…
どこか娘として引き取った少女を思い出させる…違う部分もあるが…それでも、似ている所もある。
そういった、感傷的な部分が表情に出ていたのか?
「何、驚いたような顔してるのよ? そんなに自分で意外?」
「ああ…久しくそういった事を指摘された事が無かったからな」
「ふ〜ん、良く分からない慰め方だったけどあの子一応納得してたみたいだし、合格かしらね?」
「それは光栄だな」
「でも、先生がこなくて良かったわ」
「まあな、コンプレックスの原因だからな」
「そうね、彼女…綺麗すぎるから…」
「まるで磨き上げられた鏡だな」
「ふふっ、アンタ上手いこと言うわね。そう鏡よね彼女…何でも映し出しちゃう」
「磨かれた鏡はくっきりものを映し出す。しかし映し出される物がキレイに見えるとは限らないからな…むしろ見たく
ない部分だけが際立ってしまう事もある」
「ええ、鏡に罪は無いけどね…」
「ベルフラウは、アティの行動が素晴らしいと感じると同時に、自分が駄目な人間の様に思えている」
「そうね、多分…」
「更に、アティがあまりに上手く事を運ぶ為に、自分が見捨てられる様な気がして気が気ではないのだろう」
「先生はそんな事出来っこないのにね…口に出して相談すればむしろ泣いて謝るんじゃないかしら?」
「多分な、だがベルフラウは人に相談できるような性格じゃない」
「そうね…できるだけ私たちでフォローしましょ」
「ああ」
「それじゃ、コソ泥の捜索に参加するんでしょ? 明日は早いから早めに寝なさいな?」
「分った」
適当に会話を終わらせ、スカーレルが自室に下りて行く…
俺は、動く気にもなれなかったので夜空に浮かぶ半月の月を見上げながら、物思いにふけった。
今頃、地球はどうなっているだろう?
ユリカやルリちゃん、ラピス…元気でやっているだろうか…
ナデシコクルーの顔が浮かんでは消える…何もかもが懐かしい…
だが、俺はもうあの中には戻れない…俺自身がそれを許せないのだ。
もっとも、現在は物理的にも不可能になったが…
もしかしたら、俺はほっとしているのかも知れない…自分の罪を知るものの無い世界…浅ましい考えだが…
罪が許されないなら、罪から逃げる…そんな考えが心の隅にあることは事実だろう。
本来ならベルフラウに何か言う資格など無いのだろうな俺は…
なかがき
申し訳ない(汗)
おヒゲのおじさんは次回になります。
お膳立てで一回消費してしまうとは…侮れないな(爆)
まあ、今回は既に次回の分を書き始めていますので、今週中には出せると思いますが…
こんなんばっかりです(泣)
WEB拍手ありがとう御座います♪
Summon Night 3 the Milky Way
は本日4月10日正午までにおいて、105回の拍手を頂きました。大変感謝しております。
コメントを頂きました分のお返事です。
3月31日15時 とても面白かったです^^次回楽しみにしてます!頑張ってください!
ありがとう御座います! 次回は割と早めに出せると思いますのでよろしくです!
3月31日17時 とても面白いです。これからも頑張ってください。
がんばらさせて頂きます♪
4月2日11時 アキトをもっと活躍させてください
ううむぅ、結構活躍させてるつもりなんですけど…戦闘シーンは最近少なめですからね〜(汗) がんばります。
4月4日13時 面白かったです。次回の更新を楽しみにしています。
がんばって楽しい話に仕上げますね〜♪
4月6日16時 面白かったです!がんばってください!
頑張りますのでよろしくです!
それでは、他のそれは、作品が出たときにお返事させて頂きますね。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
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