「<レストロ・メニエ>の果物畑のたるとって知ってますか?」
「知ってる知ってる! コース料理の最後に出てくるヤツでしょ?」
「こーんなに、たくさん果物が乗ってて……」
「サクサクとした生地が重ねられてて……」
「……」
「……」
気まずくなって止まる私たち……
帝国……懐かしいな……
あ、でもここが居心地悪いわけじゃなくて……
「やっぱよしましょこの話題は……」
「そうですね……無性に食べたくなって困っちゃいます……」
「「はぁ……」」
でもやっぱり、郷愁っていうものもありますよね。
私たちは、ちょっと不毛なこの会話をため息と共に打ち切ったのでした。
Summon Night 3
the Milky Way
第六章 「求められしは……」第ニ節
さて、今日もベルフラウの授業を始めようと思います。
でも、いつも同じように部屋の中だけと言うのも少し問題ですね……
今日は少し変わった授業をしてみましょう。
うーん、どんなのがいいでしょう?
そう考えていると、ベルフラウが私に話しかけてきました。
「で、今日は何を教えてくれますの?」
「そうですね、今日の授業は……集落の見学にいってみましょう」
「はぁ、取って付けたような理由ですわね?」
ベルフラウは半眼で私に言いました。
私は一瞬きょとんとして、どう返事をしていいのかわかりません……
「……ぇ?」
「本当はお見舞いに行くついでに授業もしてしまおうって言う魂胆でしょう?」
「うっ!?」
たっ、確かに考えてなかったと言えば嘘になります。
でも、それほど意識していたわけでもないんですが……
「でも、私も気持ちはわかりますわ、テンカワさんが怪我をするなんて信じられませんでしたし」
「うぅ……ごっ、ごめんなさい」
「よろしい、私も心配はしてましたし。一緒に行きましょう」
「はい!」
そう答えてから、ふと気付いたのですが、これじゃどっちが教師だかわかりませんね(汗)
やっぱり私には荷が勝ちすぎるのでしょうか……
「ほら、ぐずぐずしてないで、行きますわよ?」
「あっ……ちょっとベルフラウちゃん置いてかないでくださいー」
「その呼び方やめるんでしょ?」
「あうー」
自分がとことん駄目な瞬間ってありますよね?
この時は私、まさにそんな感じでした……
なんだか泣けてきちゃう……
そんなこんなで、ロレイラルの勉強をするために、ラトリクスへとやって来ました。
でも、私も詳しい事を知っているわけじゃないんですよね。
軍学校で習った知識以上のことは難しいです。
特に科学と言う物については、使用法が分かっても原理が分からない物が多いです。
「うーん、どこから話しましょう?」
「決めてないんですの? というか、先に見舞いに行ったらどうですか?」
「いえ、そうは行きません。アルディラさんにもベルフラウの授業をしてからと言いましたしね」
「はぁ、律儀ですわね……」
そんな訳で、ラトリクス内を色々と見て回る事になりました。
アルディラさんにことわった所、立ち入り禁止区域以外は自由に出入りしていいとの事です。
ラトリクスの工業製品を一通り見て回るころには、お昼前になっていました。
「……とまあ、ここにある品々を見てまわってわかったと思うけど、
ロレイラルの機械は道具をより発展させたものって事になるんです
<科学>と呼ばれる機界ならではの技術体系のよってね」
「なるほど……つまり、こういった技術こそが機界の特徴という事ですわね?」
「ロレイラルはどうやら他の世界と比べると極端にマナの力が少ないらしいの」
「では、マナを使わない技術体系という事ですわね」
さすがベルフラウ、頭の回転が速いですね。
機転も利く方ですし、挫折も体験しています。
この調子なら教える事なんてすぐになくなりそう……
「はい、ロレイラルの製品は帝国内でも多く流通しています。貴女のお父様が扱う商品の中にもそういった工業製品がかなりありますよ」
「そうなんですの? じゃあお父様もロレイラルには詳しいんですわね」
「マルティーニ家は大商として有名ですし。他の3世界の特産物も大体は扱っているとは思いますが……
やはり、ロレイラルの工業製品は日持ちのするものが多いですから重宝されています」
「へー、でも確かにそういうものばかりでしたわね、先ほどの製品を見る限りは、所で缶詰ってどれ位持ちますの?」
「うーん、限界は保存する場所によってまちまちですが、半年以上は持つはずです」
「そんなにっ!? ……じゃあ旅をするときは欠かせませんわね」
「はい、今では旅の友と言っていいと思います」
ベルフラウも分かってきた様子ですが、ロレイラルの特徴は日持ちのする物を大量に生産できる所にあります。
戦闘などでは硬い鎧や銃器の威力に目が行きがちですが、ロレイラルも人(融機人)の住む世界である以上、
独自の文化が発達しているのは当然でしょう。
その辺りに目が行くというのは重要な資質だと私は思います。
「さて、授業もひと段落つきましたね」
「ふふっ、じゃあお見舞いにいきますのね?」
「……ええ、まあそうですが」
「では行きましょう? 早くしないと面会時間が終わってしまいますわよ?」
「なに言っているんですかっ! まだ日が暮れるまでは結構ありますよ!」
「まあいいじゃありませんの。あの人が倒れるなんて珍しいですわよ?」
「はははは……(汗)」
まあ、私も確かにアキトさん達の見舞いをしたいと思っていなかった言ったら嘘になります。
でも、授業は授業ですし、おろそかにしていいものじゃないですよね。
「それじゃ、いきましょうか?」
「そうですわね、で……どちらの病室に先に行きますの?」
近くまで来ていたので、すぐにメディカルセンターの方にたどり着きました。
でっ、病棟までやってきているんですが……
ベルフラウが少し口元を緩めながら聞いてきます。
「あっ、いや……決まっているじゃないですか。
数日前から安定しているアキトさんと違って、
あっちの人は目を覚ましたばかりなんですから!」
「ふーん、そうですの?」
「うっ、っそ……そうですよ。もちろん!」
「ふふふ、顔に出てますわよ」
「へ!?」
思わず顔を押さえた私に、ベルフラウがププっと噴出しました。
「からかいましたね!?」
「ふふふ、先生ったら、百面相しておかしいですわ♪」
「うぅ〜こら! 大人をからかっちゃいけませんよ!!」
「ふふふ♪」
もう、最近はベルフラウにやり込められる事が多くて困ります(汗)
そんな会話をしながら、イスラさん……でしたっけ?
本人から聞いたらしいんですが、私は初耳ですし。
アルディラさんもそれしか教えてくれなかったですから……
兎に角、その男の人の所に向かう事にしました。
「この部屋みたいですね」
「にしても、クノンさんもいなかったみたいですわ、どうしたんでしょう?」
「多分忙しいんですよ、クノンはメディカルルームの仕事以外にもアルディラさんの身の回りの仕事もしてますし」
「そうなんですの、じゃあ仕方ありませんわね。それで、お部屋ここではありませんの?」
「そうみたいですね、ノックしてみますか」
お部屋の前でノックする準備をしていると、突然どこからともなく声がかかりました。
『どうぞ、お入りください』
「あっクノン?」
私たちが声の主に驚いている隙に病室の扉が横にスライドして開きます。
ヴィーンと言う音と共に……
自動ドアていうもののようですね。
「どうも、はじめっ!!? ……」
「どうしたんですの? 何かおかしな事でっ!?」
私たち二人は部屋の入り口で固まってしまいました。
何があったかって、アキトさんが……アキトさんが……ぷっ……
「……プククっ!」
「……っ、ぶっ! なんですの、車座になって!」
「あっ、いや……その何だ……」
「ははは、ハサハさんにあや取りを教えていただいてたんですよ」
「(コクコク)」
「私はただ見ていただけです」
そう、私たちの目の前にはアキトさんとクノン、ハサハちゃん、それとイスラさん、
四人が車座に座ってあや取りをしている、かなりシュールな光景でした(汗)
ハサハちゃんやクノンは女の子だからいいですけど、
アキトさんもイスラさんも大人の男の人ですしね……
でも、考えてみれば二人とも線が細い男性だからいいのかな?
いえ、アキトさんはむしろ筋肉質ですけど、顔は少年みたいですし(汗)
「でもあや取りですか、ハサハちゃんの考案ですね?」
「(コクコク)」
「ああ、俺もびっくりしたよ」
「皆さん優しくしてくださるので、ボクも嬉しいです」
イスラさんが笑顔になっています。
やはり、こういうコミュニケーションの取り方って大事ですよね。
でも、アキトさんも相変わらず付き合いがいいです。
「そういえば、イスラさん……どういう症状なんです? 見たところ元気みたいですけど?」
「それは……逆行性健忘症の兆候が見られます」
「えーっと、すみません(汗)」
「いえ、記憶喪失、もしくは記憶の混乱を引き起こしています」
「記憶の混乱、ってどういうことです? だって、検査の結果は異常ないって……」
「その通りです、再検査でも、なんら肉体的な異常は発見されませんでした。
推測される可能性はおそらく……心因性疾患でしょう」
「え?」
「心の病と言うことだな?」
「はい」
「すみません、どうして難破した船に乗っていたのかとかはわからないんです。
でも聞いたところによるとボクは皆さんが着てからかなりたってから流れ着いたみたいですし……
違う船に乗っていたのかもしれませんね」
「……」
それは……
ありうる話だとは思いますが……
ジャキーニさん達、私とベルフラウ……それから帝国軍の人たち、カイル一家の皆さん、それ以外にとなると……
ここ数ヶ月の内に4隻も難破している事になります。
偶然にしては多すぎることが気にかかります。
だって、それ以前は殆どこの島に流れ着く人はいなかったらしいんですから……
「所でアティ、何か用じゃないのか?」
「あっ、そうでした! インパクトの強い出来事だったので、目的をわすれてました!」
「……(汗)」
アキトさんはうろんな目で私を見ます。
だって、仕方ないじゃないですか、病室であやとりやっているなんて誰も思いませんもん。
とっ、とりあえず……イスラさんとお話しないと。
「アティです。貴方を見つけてここにつれて来たのが私なんです」
「君が、僕を……」
イスラさんは一瞬私を呆けたように見ていましたが、
直ぐに表情を戻すと、私に微笑みかけてきました。
「そうか……この人たちから説明してもらってはいたけど……
ありがとうございます。君は、僕の命の恩人だ」
「そんなに大げさに感謝されちゃうと困っちゃいますよ。
困っている時は、お互い様っていうことで……」
「僕はどうして、そんなところに倒れていたんだろう……」
「わからないんですか?」
「はい……イスラというのが自分の名前であるとか、
小さな頃の思い出や昔の事はだいたい思い出せるんですが……
肝心の、ここ最近のことだけが、ぽっかり抜けてしまっていて……
すみません……」
「……」
うーん、せっかくあや取りで気分が良くなっていたみたいなのに、
私の所為で気分を悪くしてしまったのでしょうか?
コレはまずいです。
アキトさんもジト目で見てますし……
「……そうです! イスラさん、私たちと外に出かけませんか?」
「外に?」
「ベッドに寝っぱなしでいたら、気分だって滅入っちゃいますし。
気分転換も兼ねて、ほら! 行きましょう!」
「え、あっちょっと……」
イスラさんを口実にしてアキトさんやハサハちゃんも一緒に連れ出しました。
ベルフラウはアルディラさんに会っていくと言ってましたから、帰ってきたときに合流すればいいでしょう。
クノンはまだ仕事があるそうですので、4人で外出する事になりました。
俺たちは、アティの提案によって外に連れ出されていた。
まあ、俺の体調は既に完全と言ってよかったのでどうと言う事はない。
ハサハの方は少し心配だったが、問題になるほど疲れてもいない。
イスラもどうやら体調に問題は無いようだ。
そんな訳で道中特に何事も無く、半時間弱歩いてユクレス村までやってきた。
「ここはメイトルパの亜人の人達の集落で、ユクレス村といいます」
「ふーん、なるほど。確かに亜人ばかりだね」
「でっ、ですね……」
「あっ! 先生!」
「え?」
パナシェと言ったか、犬のような亜人の少年がアティに話しかけている。
「えーっと、木の実をきょうじゅうに取り入れてしまいたいんです。でも……」
「ごめんね、今日はイスラさんの案内が……っ……あ! それいいかも!」
「え?」
「イスラさん一緒に果物を取りませんか?」
「果物?」
「はい、みんなで取れば直ぐ終わるでしょうし、それに、美味しいんですよ! ここの果物」
「はははっ、いいですよ」
イスラは朗らかに笑っている、記憶を失った人間にしては気楽なものだ。
いや、俺も記憶を失えばああやって笑えるのかもな。
そんな風に考えていると、何か引っ張る感じがしたので下を見てみると、服の袖を引っ張っている存在に気付く。
「どうしたハサハ?」
「おにいちゃんも、くだものとるよね?」
「……ああ、そうだな」
少し躊躇うものはあったが、俺だけこの中でただ見ていると言うのも礼儀に反するだろう。
それに、体が動かしたかったのは本当だしな。
そうして、俺たちはパナシェを手伝って果物を収穫した。
畑の広さもかなりあったため、6人がかりで数時間程度必要とした。
途中でマルルゥも参加したが、殆ど戦力外だったと言っていいだろう。
取り終わるころには日が赤くなり始めていた。
「ふう……これで、カゴいっぱいになったかな?」
「なりましたですよー」
「皆さんはどうですか?」
「ああ、どうにかな」
「(コクコク)」
「ボクも終わりました」
「ごめんね、みんな……ボクのお手伝いをさせちゃって」
「いいんですよ、私もちょっとお腹がすいてましたから」
「気にしないで下さい、ボクもこういったのは楽しいなって思っているんです」
イスラも少し疲れたようだが、気分は晴れているようだ。
体を動かすのは確かに悪いことじゃないしな。
しかし、子供たちは耳ざとく、アティの言葉を聞きとがめた様子だ。
「先生さんのお目当てはナウパの実ですよね?」
「大好物だもんね?」
「えへへへ……先生のいた村ではね、ナウパの実って病気の時しか食べられなかったのよ」
「あやや、そうなのですか!?」
「ここの果樹園みたいにいつでも果物がとれるわけじゃないですし」
「ナウパの実はとても栄養があるんだって、お母さんが言ってたよ」
「ええ、それに甘くておいしいしね」
なるほど、アティのいっている意味を考えるなら、俺たちの世界ではメロンに相当することになるな。
しかし、見た感じは一回り大きなリンゴと言った所か、食べてみないと何とも言えないが。
「でも、これだけ種類があるならアレも作れそうだけど……」
「ん?」
「あっ、えっとですね。
帝国のレストラン<レストロ・メニエ>のコースメニューのデザートに出てくる”果物畑のたると”っていうお菓子なんですけど。
果物だけならその上に乗っている果物が揃っているなーと思いまして」
「好きなのか?」
「はい! 多分一番好きなお菓子です!」
「なるほどな」
「そうなんですか、一度ボクも食べてみたいですね」
「ボクもボクもー!」
「あっ、マルルゥだけおいてけぼりは嫌ですよー、マルルゥも食べます!!」
「わたしも……」
「うっ、でもね、ここじゃ食べられないんです。料理の仕方わからないし。タルトを作るにしてもオーブンも無いですし……」
まあ、今の技術力では船にオーブンを乗せておくのは危ないしな。
それに、魔法技術も、召喚術では暖めるのも難しいだろう。
だが……
「ない事もないぞ、オーブンなら」
「え!?」
「ラトリクスはそういった技術も発達しているからな。調理器具もそれなりに揃っているようだった」
「そうなんですか!」
「ああ」
だが、それだけで全てが何とかなる訳でも無いがな。
「だが、レシピが無い。違うタルトになるのは間違いないだろうな」
「それでもいいです! それに、私も憶えている限り手伝います。ですから……」
「(こくこく)」
みんなの視線を集めている。
こういうのは久しぶりだな……
俺のこの手で作った料理……抵抗が無い訳じゃない。
だが、料理そのものに罪があるわけじゃない。
ただ、俺が罪悪感に浸りたがっているだけだ。
そう、この世界に俺を責める者は俺以外いないのだから……
「……やってみるか」
何が変わったわけじゃない、しかし、この暖かい世界で、
俺も少しだけ前に進んでみようと思った……
なかがき
一応連続投稿(爆)
反応が一番多かったからとか言う理由が表向き。
実は三本分の資料があったので、その二本目です。
でも、最近うまく平行連載を回せない……
はぁ、なんとかせねばな(汗)
でも、なかなかやる気がおきないんです……
駄作家だからからなぁ……
WEB拍手ありがとう御座います♪
コメント頂き感謝です!
4月4日23:47 久しぶりのサモンクロス更新お疲れ様です〜。今回も面白かったです。アティの名前の呼び方が、少しずつ変化
するのが、やっぱりらしくていいですね。
そう言っていただけると嬉しいです♪ やはり、アティには少しどもったりとかも残していきたいですね。
お話できうる限り頑張らせていただきます!
4月5日0:26 カイルがそろそろ他人行儀を止めてくれというようなイベントがあったと思いますが
ありましたよ、というか……このSSにもあります。でも、イベントはきっかけですから、その時全て変わったら寂しいかなと思いまして。
4月5日9:18 アティとスカーレルの最後の会話はお約束ですねb by煎り豆
煎り豆さんお久しぶりです♪ 最後の会話、今回も引っ張りました。次回製作でっす!!
4月5日18:26 これからも頑張ってください←こんなベタことしか言えなくてすいません・・・
ありがとう御座います!! そう言っていただけることが幸せなんですよ。だって、反応無いと寂しいじゃないですか……(泣)
4月5日22:58 続きがかなり気になります。頑張って下さい。
何とか続きをあげました、また次回もがんばりますので、よろしくお願いします!
4月8日13:58 …アキトならタルトを作ってしまいそうと思ってしまいました(笑)。
ははははは、貴方の予想は大当たりです。でもまーアキトも料理人としては別に一流ではないですし、レストランの味を出せるのかと言われれば難しいでしょう
が……
次回もまた頑張ります!
感想は書く気力を回復してくれるので、嬉しいです♪
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
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