メディカルセンターを抜け出して、また海辺に来る。

俺は何者なのか……

そんな疑問に突き動かされたのかもしれない。

もう退院してもいいだろう、それは体調から分かっている。

どうやら回復力も尋常ではないようだ。

都合のいい事が逆に恐ろしいと感じるのは俺の気のせいなのか……



「こんばんは……また会いましたね。テンカワさんもこの場所好きなんですか?」


そんなことを考えていると、また幽霊少女と会った。

昨日たまたまいたのではなく、ここは彼女の場所という事らしい。


「いや、ただメディカルセンターから一番近い浜辺だからな……」

「うふふ……夜の浜辺にやってくる人は、ロマンチストなんですよ?」

「じゃあ、お前はロマンチストなのか?」

「ええ、だって……月の下にいると今でも思い出すんです。兄さんの事とか……」

「……そうか」


過去の思い出……しかし、その顔に浮かんでいるのは悔恨の表情。

無念……そういえば、幽霊はやり残した事があるからこそ地に留まり続けるのだったな。


「あ、でも勘違いしないで下さいね。別に天に召されたいとか思っているわけじゃないですから」

「……だが、ここにいるのなら。それだけ強い目的があるはずだな」

「ええ、私は……生前はこの島の召喚実験を行っていた研究者の一人なんです。

 でも、だからこそみんなを守る事で償いになればって……こんな考え方、甘いですか?」


泣きそうな顔で俺を向くファリエル。

その表情は、自責の念で押しつぶされそうだった。

言ってやるべきなのだろう、島の住人達に償うなどと言う事自体が自己満足なのだと……

死者は戻らず、犠牲は犠牲のまま、元の世界に帰したとしても彼らは救われない。

時間を戻してやるのでもなければ……

だが、口をついて出た言葉は全く違う言葉だった。


「いや、それがお前の意志なら貫き通せばいい……得られる物があるかどうかは知らないが……」

「私……見返りを期待してやっているわけじゃないです。

 誰にも理解されなくても、別に構わない……

 でも、時々話してもいいですか?

 私を知っている人はもうテンカワさんの他にはフレイズさんだけしかいませんから……」

「それで気が晴れるなら好きにすると良い……」

「はい、ありがとうございます」


俺も甘いのだろうな、だが……

この世界の人達にならそれも似合うのではないかと思えた……



Summon Night 3
the Milky Way




第六章 「求められしは……」第一節



一昨日の事件から、こちら授業は順調に進んでいます。

とはいっても、アキトさんは欠席状態なのでちょっと寂しいですが……

それでも、みんなそれぞれ考える所もあったんでしょう。

新しく授業に参加するようになったマルルゥも、授業の受け方が分ってきたみたいです。


「だからナウパの実が五本あるって考えて、二人で分けたらどうなるかって考えてみて?」

「えっとぉ…… ひい、ふう、み……み、み……みぃぃぃぃ???」


でもマルルゥはまだ3つ以上数える事が出来ないみたいです。

せめて10までは数えられるようになってもらわないと、足し算や引き算は難しいかな?

そう思って、指折りに合わせて数字を教えようとしたら、今度は別の方向から声がかかりました。


「先生、ここのところがわかりません!」

「おいらも!」

「はいはい、ちょっとだけ待ってくれますか?」


どうやら、パナシェ君とスバル君は同じ所で躓いているみたいですね。

でも、マルルゥも途中ですから、もう少しまってもらわないと……


「しょうがないわねえ、ほら、みせなさい?」

「あ、はい……っ」

「先生、この子たちは特別に、私がみてさしあげますから感謝なさいよ?」

「ベルフラウ、お願いできるかな?」

「まあ、私はみんなの委員長ですからね」


ベルフラウちゃ……っと、ベルフラウに委員長を任せたのは正解ね……

まだ全員は無理だけど出来るだけ肩肘張らないよう、呼び方は気をつけるようにしています。

全員呼び捨てだと流石に混乱しそうだけど……

次はアキトさんを……アキトって……(///)

まだ無理かな……



チリンチリンチリン……


そうこうしている間に授業も終わりみたいですね。

みんなもそれぞれ帰り支度を始めています。


「またな!」

「さようなら、先生」

「さようなら、気をつけて帰ってね」

「お疲れさま」


挨拶をしていると、ベルフラウちゃん……あははは……

声に出しては言わ無いんですけどね(汗)

とにかく、ベルフラウにねぎらいの言葉を貰いました。

ベルフラウもかなり良い方向に変わってるんですね。


「本当にね……」

「アルディラさん!?」


いつの間にか背後にアルディラさんが立っていてかなりびっくりしました(汗)

クールビューティなものですから、それでも不思議じゃないって思えてしまいます。


「ちゃんと学校になっているみたいじゃない?」

「どうして、ここに?」

「クノンから伝言を頼まれて来たのよ。貴女が助けた例の彼、ようやく話が出来るようになったわよ」

「本当ですか!? よかった……」

「ただ、ね……」

「どうかしたんですか?」

「とにかく一度、面会に来てちょうだい。詳しい説明はあの子がしてくれるから」

「わかりました、この子の授業の後で必ずうかがいます」


アルディラさん……

でもどうしてここまで来たのかは少し気にならなくも無いです。

だって、彼女はあまり出歩くタイプではないですし……

でも、確かにクノンさんは動く訳には行かないでしょうから当然ですよね。

私はとにかく支度もしないといけませんし、一度船に帰る事にしましょう。














「ん?」


俺は視線を感じて身を起こす。

ベッドで寝ていてもそれなりに気配は読めるのだが、流石に生き物でなければ気配は感じにくい。

身を起こして振り向くと、殆ど触れ合うほど近くにクノンの顔があった。


「!?」


俺は慌てて少し身を引く、しかし、クノンは特に動揺した様子も無く俺を見ている。

そして、頭を下げておじ気をし、俺に話しかけてきた。


「おはようございます、テンカワ様。健康状態のチェックを行っていたのですが、起こしてしまったようですね。申し訳ありません」

「いや、別に構わないが……なぜこんな時間に?」

「本日及び先日の深夜にお出かけになられていたようですので、体調に変化が無いか確認させていただいておりました」


流石……といったところか、人間なら先ず見つからないだろうし、監視カメラの視界には入っていなかったはずだが……


「常時部屋の装置でパイタルチェックはしておりますので、おおよそですが把握しております」

「なるほど、埋め込みか」

「はい、現状まだテンカワさんの状態が安定しているのか判断できませんので」

「見ての通りだ、もう完全に回復している。それよりも、もう一人についてなくていいのか?」

「イスラ様は既に目を覚まされました、しかし……」

「?」

「逆行性健忘症の症状が見られます」

「逆行性健忘症?」


健忘症というのは、確か老人の痴呆などがそれに当たるはず。

打ち上げられたのは少年だったと聞いたが……


「逆行性健忘症は医療用語です。一般的には記憶喪失と呼ばれる症状です」

「記憶喪失……なるほどな」

「精神科関連を除く治療は終了しています。現在の彼は健康体なのは間違いありません」

「では、お前にできる事はもう無いと言う事か?」

「はい、私の姿は患者を安心させる為のものだったことを考えれば、私は欠陥品という事になりますが、

 患者の精神安定に供する事が出来ないということです」


クノンは自らの欠陥を指摘して、俺に淡々と自らの足りない部分を解説している。

淡々としているだけに、クノンの問題点が浮き彫りにされても俺には分かりづらかったが……

だが、それは同時に矛盾でもある。

自分の欠点をあげつらうのは後悔の証だ、そして、後悔も感情の一つ……

その事に本人は気付いていないようだが……


「では、私はイスラ様の状態を確認してきます。ハサハ様が来ておられますのでお呼びしてもいいでしょうか?」

「ああ、それからイスラとかいったか、その少年にも会ってこよう」

「ありがとうございます」


クノンは一通り話し終えると、「失礼します」と言いながら会釈をして出て行った。

プログラムに知性が宿るというのは、俺から言わせればそれほど珍しい事ではない。

オモイカネ級のAIにあった人格を考えてみると俺にはその辺り不思議とも思えない。

むしろ、クノンを見ていると地球の技術力ではまだあそこまでのものは作り出せないだろう。

AIもオモイカネ級のものが積まれていても不思議ではない。

そんな事を考えていると、ハサハが近づいてくる気配があった。


「おにいちゃん入ってもいい?」

「ああ」


俺が答えた瞬間ハサハが部屋に入ってくる。

ハサハも最初は入院しなければならないかと思われていたが、疲労以外は目の治療のみだったため、二日目には退院している。


それにしても、最近は俺もこの世界に馴染んできている。

入院してから数日だが、20人近い人(?)たちが見舞いに来た。

特にアティやハサハなどは毎日訪ねてきては話をしていく。

こういう状況に俺は心のどこかで安心しているのを感じている……


「おにいちゃん、どうしたの? こわいおかおしてるよ?」

「……ああ、すまない。別に何でもないんだ」

「でも……」

「はは、いやすまない。所で、その手に持っているのは?」


良く見ればハサハは手元に宝玉を持っていない。

宝玉は着物の袖に入れているようだ。

その代わりに、赤い糸を両手で持っている。


「あやとり、だよ」

「……そうか、入院している少年に教えるんだな?」


確かにいい考えに思えた、俺はハサハの頭を思わず撫でていたが……

ハサハはふるふると首を振った。


「ううん……ちがうの。おにいちゃんも……やろ?」

「……本気か?」

「(こくん)」


これは……ちょっと辛い……

大人がやる事ではない気もするが……

出来れば、イスラとか言ったか、彼に押し付けよう。

少しぎこちなさが残る顔で俺は頷き、ハサハを伴ってイスラの部屋に向かう。


俺はほぼ健康体である事は疑いないため、メディカルセンター内をうろつき回る事は止められていない。

夜に出歩く事は、少し咎められた訳だが……


「さて、この部屋だな……」


俺はネームプレートを確認する。

そして、ノックをした。


「どうぞ、開いてますよ」

「ああ……」


初対面の相手にああはないだろうと自分でも思うが、この辺り慣れなのか直せない。

とは言え、今更人に好かれようという気持ちがわいてこないのも事実だ。

そんな事を考えつつ、扉を開く。


「……初めての人ですね。ボクと同じ患者ですか?」

「まあ、そんな所だ。ここに入院している人間は珍しいのでな。話でもして見ようと思って来た」


部屋に入ると、そこにはベッドに座る少年と脈を取っているクノンがいる。

少年は病弱そうな線の細い感じで、髪は前髪が長めの黒髪だ。

妙なアクセサリをつけているが、服装そのものは黒と白を基調とした清潔そうなものだ。


「俺の名はテンカワ・アキトだ。よろしくな」

「ボクはイスラといいます。そちらのお嬢さんは?」

「……ハサハ……」

「ハサハちゃん、よろしく」


ハサハは俺の後ろから出ようとしない、別に怯えている訳じゃなく、

人見知りをしているだけらしい、

しかし、この少年は警戒心を抱かせるタイプとも思えないが……


「ほら、ハサハ」

「う……うん」


ハサハはおずおずと俺の前に進み出る、そしてイスラに赤い糸を結んだものを渡す。

俺も既にもらっているが、取り合えずここでやる事にしたらしい。


「これは?」

「あやとり……」


微笑を浮かべてイスラがハサハに聞く。

ハサハは少しだけうつむき加減にしてイスラに一言だけ言った。


「そっか、あやとりか……」

「……うん、やってみる?」

「そうだね……じゃやってみよう」


どうにか逃れようと俺は一歩引いていたが、

ハサハは俺の方を見て頬を膨らます。


「……だめ」

「……」


正直、こういうのは苦手なのだが……

仕方なく、三人であやとりをする事になった……















私とベルフラウは船に戻って、授業の準備を整える事にしました。

なんだかんだと言っても、ベルフラウは言語や数学以外にも教えなければいけない事が多いです。

スバル君やパナシェ君は郷で基本的なことを教えていますから、私達はその辺りの事を独自に知らなければなりませんし。

召喚術の授業や戦闘訓練も軍学校に入るためには必要です。

そのために、別個にまた教える事が必要なのです。

一通りの準備が終わって、ベルフラウの部屋に行く途中スカーレルさん……おっと、スカーレルが何か悩んでいる姿を見かけました。

私は、何事かと思い少し近づいて見ると、スカーレルは私の事に気付いて声をかけてきました。


「あ、センセ! いいところに来てくれたじゃないの」

「どうしたんですか? スカーレルさ……いえ、スカーレル」

「ふふふ……なかなか馴染めないみたいねー、まあゆっくりでいいんじゃない?」

「ありがとうございます」


私は少し赤面しました。

だって、これでもかなり気を使ってるつもりなんですけど、村にいたときなんて同い年の人が殆どいませんでしたから……

さん付けは当然だったんです。


「えーっと、それでどうかしたんですか?」

「ズバリ、今晩のオカズ何食べたい?」

「え?」

「持ち回りの食事当番、今日はアタシの番なんだけどさぁ、さすがに献立も尽きてきちゃってねぇ、お知恵を拝借ってワケなのよ」


なるほど〜

スカーレルさんは料理上手ですしねー

でも、なんでもいいって言われるとやっぱり思い出しますね。


「食べたいものですか……だったら私は大好きな果物をたくさん食べたいですね!

 ナウパの実とかシルドの実とかダリマの実とか、ご飯がなくてもそれだけで満足できちゃうかも……」

「ああっ、わかるわよ! その気持ち……

 私だったら、断然ケーキやお菓子だわ♪ 帝国って、お菓子職人が多いものねぇ」

「<レストロ・メニエ>の果物畑のたるとって知ってますか?」

「知ってる知ってる! コース料理の最後に出てくるヤツでしょ?」

「こーんなに、たくさん果物が乗ってて……」

「サクサクとした生地が重ねられてて……」

「……」

「……」


気まずくなって止まる私たち……

帝国……懐かしいな……

あ、でもここが居心地悪いわけじゃなくて……


「やっぱよしましょこの話題は……」

「そうですね……無性に食べたくなって困っちゃいます……」

「「はぁ……」」


でもやっぱり、郷愁っていうものもありますよね。

私たちは、ちょっと不毛なこの会話をため息と共に打ち切ったのでした。












なかがき


ははは……

最近進んでなかったですから、調子が合わない……

でも、六話から突然アティがキャラを呼び捨てにし始めるので戸惑いました(汗)

五話以前からそうだったのかもだけど……

まあ、私の方は少しづつにしたいと思います。

アティは礼儀正しいのがいい部分もありますし。




WEB拍手ありがとう御座います♪

どうにかこうにか、このWEB拍手も復帰、まだコメント入れてませんが(汗)

自分の分に関しては後短編のみですな……

でも、全員終わるのは何時の事か(汗)

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