そう思っては見るものの、俺自身興味が無いわけではなかったので、ロビーへと足を運ぶ。
そこでは、戦闘用の服へと着替えたアルディラが立っていた。
横にはクノンも控えている。
これはいったい……。
「テンカワ・アキトさん、貴方、自分の事知りたくない?」
「……? 何が言いたい」
「私は貴方の事を知っているわ、元の世界の事は知らないけど、今の貴方の事は良く知っている」
「……まさか」
「そうね、答えが聞きたければついてきてくれない?」
その言葉は俺にとって甘いささやきに等しかった。
今までの不可解さを解消してくれる、その言葉をどれだけ待っていた事か……。
分ってはいた、何かの罠が、毒が含まれた言葉だと……。
しかし、俺に出来た事は……ただ頷く事、それのみだった。
Summon Night 3
the Milky Way
第六章 「求められしは……」第四節
俺は普段は通らない道を案内されながら、アルディラとクノンの後をついていく。
アルディラもクノンも俺の疑問に答えると言った割には終始無言で、どうやらただ教えるというわけでもないらしい。
俺の中にある警戒心が首をもたげる、しかし、同時にこうも思う。
どうせ一度は終わったと思っていた命、今更何を惜しむのかと。
「何を考えているのですか?」
俺が考え込んでいるのが見えたのか、クノンが話しかけてくる。
考えてみればこの中で機械の彼女が一番気を使っているというのも皮肉だな。
俺は少し顔を上げて前を見る。
「考え事をしているのはお前の主人じゃないか?」
「はい……」
それを聞いて、クノンは心なし首をうつむける。
その仕草は、心配を如実に表している。
表情は動かなくても、やはり感情は動いているようだ。
とうの主人は俺達の少し前を行きながら、ある種の冷気をまとっているように見える。
何かを思いつめているのは明白だ。
「そんなお前達に付き合う俺も酔狂だがな……」
自分の正体を知りたいとは思う、しかし、この状況が疑問の多いものであることは明白だ。
俺がそれでもついてきているのは、やはり命の認識が軽いからか……。
そして、彼女も俺がその事を自分の命と天秤にかけられると知っているからこそ、普通に誘ったと見るべきかだろう。
俺が倒れている間に何かをしてしまう方法もあったはずだからな。
「ここよ」
俺達がたどり着いたのは、島の中央部、山間に作られた遺跡の様な場所だった。
見て分かるのは、積み上げられた建物は意外に綺麗なのだが、破壊された後が無数にあり。
そして、樹木の根に侵食されているためかなり古く見える。
「ここと俺の事をお前が知っているということと何が関係有るんだ?」
「この遺跡……<喚起の門>は……正確に言えば廃墟ね。かつてこの島にいた召喚師たちが実験のために作り上げた施設……」
「なるほどな、お前達を召喚した場所か」
「そうよ……そして、それは完全に活動を停止しているわけじゃない」
「……」
「変だと思わなかった? 私たち護人が、召喚獣でありながら召喚術を行使できるという事実を……」
「この世界の知識か……」
「学んだのよ……施設には、そういった知識が豊富にあるこのことは、私たち護人だけが知る秘密。
もし、心無き者が悪用をしたならば……。この島はきっとまた戦いに巻き込まれる。
そう判断したからなの」
「そんな場所を俺に教えていいのか?」
「問題……でしょうね、なにしろこれは私の独断なのだから……」
「……」
「でもね、貴方には必要ない知識でしょう? アティに直接習っているようだし。それに真剣に世界と係りたいとは思っていない」
「確かに……な」
「本来、召喚術は誓約の儀式を経て、一体ずつ召喚獣を喚ぶものよね。
でも、この島で行われていた実験のためには、それでは手間がかかりすぎる。
そこで召喚師たちは、この門を作りあげたの。
彼らの召喚術の知識、その全てを統合したデータベースを作り。
自動的に召喚と誓約を実行する装置を作った。それが、この門。
理論上ではあらゆる世界から、様々な召喚獣を喚び出せると聞くわ」
「では俺もこの装置で召喚されたのか……」
「いいえ、それは違うわ……召喚したのは彼女。でも、貴方を召喚したわけじゃない」
「呼び出していない?」
「そう、貴方は呼び出されていない。呼び出されたのは……力」
「力?」
アルディラはそこで言葉を区切り俺の反応をうかがっている。
その表情に見えるのは、途惑い……だろうか、表情をあまり動かしていないので分からない。
「そう、貴方は呼び出されたのではなく、貴方の魂とでも言うべきものが、呼び出された力に乗り移った」
「……」
「力の名はエルゴ……世界を表す言葉。そして、世界の意思を表す言葉」
「世界? 俺が世界に乗り移った?」
「貴方の肉体は今でも元の世界にいるはず。その姿も貴方が望むからその姿であるだけ」
「それは……それはつまり、俺はこの世界の夢を見ているだけだと言うことなのか?」
「そうね、貴方から見れば似たようなものかもしれない。でも、二度とさめないかもしれないわ」
アルディラはそう言うと、俺を<喚起の門>の内部に案内した。
特殊な空気……今にも放電現象がおこりそうなほど、張り詰めた空気が満ちている。
門の内部を覆っているこれがエルゴの力なのだと、そうアルディラはつぶやき。
そして、中央にある台座を指差し、こう言った。
「貴方が元の世界に戻りたいと願うなら、その台座に触れなさい。魂と力を分離してくれるわ」
「そうすれば俺は元の世界に帰れるのか……」
「さあ、100%の保障は出来ないわ。そうするのかは貴方の自由だけど……怖気づいた?」
「ククッ……確かにな。しかし、俺は……」
そう言って、俺は台座に向かって一歩目を進む。
台座が徐々に光をまとい始める。
アルディラが何か興奮しているのが分かる。
彼女にとって俺がいなくなる事は重要な事らしい。
まあ、その事については気にするつもりもない。
例えここで俺が消滅したとしても、問題になるような事はない。
アティやハサハは悲しんでくれるかもしれないが……。
俺の生きる目的はなくなってしまっているのだから。
俺が近づいた事で台座が活性化したのか、鳴動を始める。
俺自身も体中で暴れだしている何かを感じる。
確かに、この体は俺のものではないらしい。
クノンが俺に何か訴えるような目をしている。
俺は口元を少しだけ吊り上げ、最後の一歩を……。
踏み出そうとした瞬間。
「待つのじゃ!」
俺の目の前に突然人が現れた……。
いや、人というのは正確ではない。
そこに現れたのは、人ならざる美貌を宿し、額に二本の小さな角をつけた鬼の姫君。
どうして気付かれたのかそれすら分からないが、俺は……。
「何故止める?」
「おぬし、自分に無頓着なその性格、少し直した方が良いぞ。せっかく登場したのだから素直に驚け」
「確かに、気配もしなかったな」
ミスミは俺に呆れのため息をつくと、俺を真正面から見つめた。
「よく聞け。お主は元の世界に戻れると思っていたようだが、喚起の門に力を返した時、肉体を失って魂魄のみの存在となる。
それも、サイプレスやリィンバウムなら幽霊となっても存在できるが、お主では消滅してしまうかもしれん」
「そうなのか」
「そうじゃ……のう、アルディラよ」
ミスミは言いながらアルディラを振り向く、そこには悔しそうに表情を歪めたアルディラがいた。
「クッ!?」
「お主がその力にハイネルを宿したいと思っている事も承知しておる。やめておく事じゃ」
「なぜ止めるの? 貴女だってリクト殿を蘇らせたいのではないの?」
「それで、蘇ったハイネルやあの人が喜ぶとでも思っておるのか!? わらわは一生あの人に軽蔑されながら生きるのはごめんじゃ」
「それでも! それでも私は……」
アルディラはその場に膝をつき、泣き崩れるように座り込んだ。
頬を光の筋が伝う、余程そのハイネルという人物が好きだったのだろう。
いや、むしろミスミの方がさばさばしすぎていると言うべきか。
「何を不思議そうな顔をしておるのじゃ?」
「いや、なぜそんなに落ち着いていられる? 夫を生き返らせる方法が見つかったのだろう?」
「ああ、その事か……。
昔、あの人と約束をしてのう。
どちらかが死して後、生き返らせようなどという馬鹿はするなと。
地獄にいてもいつでも誇りにしていられるように、常に胸を張って生きよと」
「それを実行していると言うわけか」
「そうじゃ。まぁ……それだけでもないが。わらわはお主の味方じゃといったじゃろう?」
「そうだったな」
冗談かと思っていたが、意外にも本気だったらしい。
しかし、アルディラもやはりそれだけでは諦め切れなかったようだ。
俺達が話している間に、立ち上がり近づいてくる。
「私は諦めないわ。あの人さえ蘇るなら、私が死んだっていい!」
「うむ、その思いは天晴れじゃ、しかし、させるわけには行かぬな」
アルディラとミスミがにらみ合う、同じように好きな人を喪った二人、だがその思いは別の方向に向かっている。
俺は、どうするべきなのか迷っていた、しかし、状況は俺の迷いなど飲み込んでいく。
そして一触即発のその状況で、最初に動いたのは……遺跡だった。
「Gasyyyaaaaa!!」
「……!?」
「Gyeeeeeeッ!!」
「もしやこれは!?」
「データバンクにも一致しない……まさか、新しく召喚されてきたモノ!?」
「くるぞ!」
台座の近辺から雷光とともに巨大な影が現れる。
これは……、虫?
一匹一匹が全長3mにも達するような白アリとでも言えばいいのか……。
凶悪なその姿はそれ自体が暴力的ですらある。
しかも、出てきたのは一匹や二匹ではない。
少なく見積もっても、二十を軽く超える数がひしめき合って出てきた。
「この数は……厳しいですわね」
「なんじゃ、戦う前から弱音か? ならば黙って見ておるが良い。
アキトよ。リハビリにはちょうど良いと思わぬか?」
「ふん、そうだな……」
「私を誰だと思っていますの?」
もちろん、俺とてこの状況でリハビリ云々というのを本気にしているわけではない。
ミスミは俺達にハッパをかけているのだ。
「来ます」
クノンはそういうと同時に、腕を前へと向ける。
いったい何をするつもりなのかと思っていたら、突然腕が凄い勢いで前に向かって飛び出す。
腕はつながったままだ、ロケットパンチとは違うのだろう、しかし、その手は巨大なシロアリに突き刺さる。
そして、シロアリの巨体を腕の一撃で吹き飛ばす。
シロアリはすぐに起き上がってまた行動しようとしているが。まだ平衡感覚を取り戻せないのだろう、妙な感じにもがいている。
威力は相当なものだな。
「ほほう、やるのうクノンよ。わらわも負けておられぬのう……来たれ、狐火の巫女!」
ミスミが腕を突き出すと、その空間に突然幻視のごとく巫女姿の女が出現する。
しかし、その顔は上半分を狐の面で覆われており表情は伺えない。
しっぽが生えていることからメイトルパの住人かとも思えたが、服装から考えればシルターンの者なのだろう。
「炎陣符を見舞ってやるがよい」
ミスミがそう言うと、巫女は袖に大量に結び付けられている呪符を袖を振って解き放つ、
符は意思あるもののようにシロアリ達に向かって飛び、張り付くと突然燃え上がった。
炎は3匹ほどを巻き込んで燃え上がり、炭化したところで、燃え尽きた。
「だがそれでは、お前が戦っていることにはならないのじゃないのか?」
「うむ、それもそうだの。ではアキト。何匹倒すか競争せぬか?」
「……好きにしろ」
「ふふっ、わらわが勝ったら、どんな事を聞いてもらおうかのう?」
「ちょっと、真面目にして。奴らまだ増えるわよ」
アルディラが注意を喚起する。
そう、また新しく召喚されたシロアリが俺達へとむかって近づいている。
さっきのすらまだ倒しきれていない所だ、この現状はかなり厳しいものだろう。
奴らの中に飛び込み、正面のシロアリに掌をたたきつけ、重ねるようにもう一方の掌をたたきつける。
振動が体内に伝播する事で、敵の内臓を破壊する、柔を習っていたころ同時に憶えた武術の一つだ。
投げに持ち込める可能性が低いと考えていたころ、突き詰める意味で俺はいくつも武術を取り込んだ。
その一つがこれだ、俺は浸透波と呼んでいる。
浸透波を受けて、正面のシロアリが崩れ落ちる。
俺が止まっている事を見て取ったのか、いっせいに攻撃をしかけてくるシロアリたち。
俺は、その場で飛び上がり気を練った。
纏によって身体強化をおこなっても、奴らの固い外骨格を貫いて脳や心臓部を破砕するのは骨が折れる、
俺は、<浸空>を飛ばして、一気に片をつけることを考えていたが、
奴らは自分達を下敷きにして、飛び上がった俺のところまで届くほどに、縦に積み重なった。
俺は体勢をを変えて<浸空>を放とうとするが、奴らは俺に向かって飛び掛ってこようとしていた。
「風刃!」
ミスミの声と同時に、俺にかかってこようとしていたシロアリが真っ二つに裂ける。
俺はすぐに体勢を立て直しながら<浸空>を放ち数匹にわたる巨大な穴を開けた。
「ふう、相変わらず無茶をしおるの」
「性分だ」
「そんな事いっている場合ではないわよ。ドリトル、ドリルラッシュ!」
ドリトルと呼ばれた、ドリルのついたロボットがシロアリに突貫する、俺はその間にシロアリたちから距離をとった。
シロアリに突貫したロボットはそのままシロアリに穴を開けながら突進していく、
正直あそこまで速度の出せる機械とも思えないのだが(汗)
「それにしても、今回は多いのう。いつもは大量には出てこんのだが……」
「俺のせいなのか?」
「さあ、それはわからぬ。だが関わりはあるやも知れんな」
ミスミは考え込むように言いながら、どこからともなく取り出した槍を振るう。
その一閃で近寄ってきていた二匹を同時に切り裂いた。
「ミスミ、すまんが俺にも武器をくれるか?」
「何がいい? 召喚可能なら何とかするぞ」
「じゃあ刀を頼む」
「分かった」
ミスミは襟巻きにしている雲に手を入れるとぬっと刀を取り出した。
それを俺に投げてよこす。
「それ、便利だな」
「まあの、空間を捻じ曲げる術を施してあるゆえ。蔵の中のものを自由に取り出せるというわけじゃ」
「……四次元……いや、忘れてくれ」
「?」
思わず青い猫型ロボットを思い出してしまった。
この世界に知っているのがいるとも思えないが。
俺は手渡された刀を振るってシロアリを切り裂いていく。
やはり、このタイプは素手で相手をするものじゃない。
銃もあまり効果がないだろう。
バズーカやロケットランチャーなら別だろうが、正直この場でそこまでは望み薄だしな。
「くそ! 数が多すぎる」
「時間を稼いで頂戴。上手くここにくれば……」
「どういうことだ?」
「とっておきがあるのよ」
「なるほどな」
アルディラの台詞を反芻しながら、俺は間合いを取って少しずつ数を減らす作戦に切り替える。
喚起の門に新たな敵はいないが、この場だけでも30はくだらない数が残っている。
時間を稼ぐというのも苦労しそうだ。
「くそ、まだ全快とはいかないな……」
もう息が切れてきた、体力は十分あると思っていたが、病み上がりには違いないようだ。
シロアリ一匹一匹がそこそこに強いため、一度に倒すことが出来ず、その間に既に次のシロアリが来ている。
回避したり、下がっている間に間合いが開き、必殺とはいかなくなるのだ。
だから奇襲が必要になる。
壁をけって高く飛び上がり、目標のシロアリへと向かう。
着地と同時にシロアリの頭蓋を叩き割りつつ、周辺を見回す。
倒した敵が多くなってきたため、自慢が奴らの死体で埋まり始めている。
視界が利かないのは不利だ。
「はぁはぁ、術もそろそろ種切れじゃ、アルディラとっておきとやらはまだか?」
「来たわ! 自動照準、目標ロック、支援砲撃開始! みんな! この場所から離れて!」
「わかった!」
「うむ」
「了解しました」
アルディラの指示の元、全員が飛び散るように逃げ出す。
シロアリは一瞬何のことかと動きを止めるが、一斉に俺達を追い始めた。
俺達が出口まで駆け込むと同時に上からすさまじい轟音が響き渡る。
この時、出入り口は完全にふさがれてしまった。
「これは後片付けが大変そうじゃの」
「ええ、でも今回はとりあえずこれで収まったと思うわ。次はもっと大人数で制圧するしかないでしょう」
「しかし、いいのか?」
ミスミと話しているアルディラはどこかさばさばとした表情をしている。
俺は不振に思い、そのことを問いただそうとしたが、クノンが俺の服を引っ張って制止していた。
「アルディラ様はまだあきらめた訳ではないですが、優先されることが出来たのだと思われます」
「そうなのか」
「はい、ミスミ様もその事が言いたかったのではないかと」
「俺よりよほど二人のことが分かっているんだな」
「医療用である私は、人の観察も活動目的のうちですから」
俺は、唇の端を少し持ち上げてニヤリと笑う。
この世界の住人にも闇の部分があることが分かっただけでも、収穫かもしれない。
だが、俺は自己の秘密を知ったわけではない。
この体がエルゴと呼ばれる力の塊であったとして、なぜ俺なのか、この世界に来た訳は?
肉体が俺の姿をしているのはなぜなのか、疑問は尽きない。
しかし、今それを調べても答えは出ない、不思議とそう思えた。
なかがき
皆様お久しぶりです。
駄作家こと黒い鳩です。
WEB拍手で続きの事を求めてくださってうれしいです♪
しばらく、他の諸事情で忙しくSSを出せずにいたわけですが、久しぶりに更新しております。
光と闇に祝福をも山場ですから早くしたいんですが、まだ面倒ごともありますので、どうなるかは不明ですね(汗)
すてプリは……今月出せるかな?
とりあえず、がんばりますのでよろしくです。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
<<前話 目次 次話>>
作家さんへの感想は掲示板のほうへ♪