「これは後片付けが大変そうじゃの」
「ええ、でも今回はとりあえずこれで収まったと思うわ。次はもっと大人数で制圧するしかないでしょう」
「しかし、いいのか?」
ミスミと話しているアルディラはどこかさばさばとした表情をしている。
俺は不振に思い、そのことを問いただそうとしたが、クノンが俺の服を引っ張って制止していた。
「アルディラ様はまだあきらめた訳ではないですが、優先されることが出来たのだと思われます」
「そうなのか」
「はい、ミスミ様もその事が言いたかったのではないかと」
「俺よりよほど二人のことが分かっているんだな」
「医療用である私は、人の観察も活動目的のうちですから」
俺は、唇の端を少し持ち上げてニヤリと笑う。
この世界の住人にも闇の部分があることが分かっただけでも、収穫かもしれない。
だが、俺は自己の秘密を知ったわけではない。
この体がエルゴと呼ばれる力の塊であったとして、なぜ俺なのか、この世界に来た訳は?
肉体が俺の姿をしているのはなぜなのか、疑問は尽きない。
しかし、今それを調べても答えは出ない、不思議とそう思えた。
Summon Night 3
the Milky Way
第六章 「求められしは……」第五節
俺がラトリクスへと帰り着いたとき、既に夜はあけて朝になろうかという時間だった。
疲れがたまっていた俺はそのまま崩れ落ちるように眠りに付いた。
起きたのはもう日が中天をさす頃だったろうか、やけに明るい。
そして起きた俺の周囲には数人の気配があった。
「ん……むぅ……どうしたんだ?」
俺はベッドの隣に座り込んでいるアティに聞く。
「あっ、目を覚ましたんですか。本当に心配したんですから」
「心配と言われてもな……」
「先日あの後でまたでかけたそうですね……」
「うっ……」
やぶへびだったらしい、アティは俺を睨みつけている。
俺は何か上手いいいわけは無いかと周囲を見回すが、アティの背後ではハサハがやはり同じように泣きそうな顔で俺を睨みつけていた。
だが一体どこまで伝わっているのだろう?
戦った事か、それとも俺がアルディラについていった理由まで知っているのか?
「なんです? その探るような目は? もう、心配したんですからね! アキトさんがジルコーダと戦ったって聞いて」
「ジルコーダ? ああ白アリか……別の目的だったんだが、遭遇してしまってな」
「だからって30匹以上のジルコーダ……いえ、巨大白アリの方が分かりやすいですね、
をたった4人で……アキトさんは病み上がりの自覚がなさ過ぎます!」
「(こくこく)」
二人して俺に訴えるような眼差しを向けている。
ハサハ、頼むからうるうるとした目で俺を見ないでくれ……(汗)
「分かった、分かった、降参だ。これからは逃げられるときは逃げる事にするよ」
「そうしてください! アキトさんは自分の命を軽く見すぎています!」
「おにいちゃん……」
「悲しむ人間が少なくともここには二人います。それにカイルさんたちやこの島の人たちが悲しまないとでも思うんですか!?」
「だが、自分の身ばかり考えていると身動きが取れなくなってしまう……」
「そんなときのために仲間がいるんです。一人ではできない事も沢山の人が集まれば難しくありません。
実際この後では巨大白アリ退治のために全ての集落が協力してくれる事になっています」
「そうか、なら俺も……」
「駄目ですっ! 今回くらいは大人しくしていてください!」
ははは、今回は完全に病人扱いだな……(汗)
しかし、白アリは結構手ごわい、俺達が相手をしたのが全てなら問題はないのだが。
もしも、あの白アリが普通の白アリと同じなら百匹単位で活動している可能性もある……。
そして、何よりあれが最初だったという保証も無い。
「数は分かるのか?」
「白アリの……ですか?」
「そうだ」
「ミスミさまやアルディラさんに聞いたところ取り逃がしたのは十数匹、後は先に出現し森を食い荒らした白アリですが……。
こちらの方は数がわかりません、森の被害からおそらく多くても三十匹程度じゃないかと予想しています」
「そうか」
白アリに大した知能があったとは思えない、なら数自体はそれほど差は無いだろう。
4つの郷の戦力は護人達だけでなく、他にも戦闘力の高い者は多い。
とはいえ、守りをおろそかにも出来ないだろうが、海賊達が加われば10人を越えるだろう。
最大限多く見積もって一人当たり5匹といった所か……。
「大丈夫です。私達これでも結構強いんですよ♪」
「ああ、知っているさ」
確かに心配しすぎなのだろう、何も俺が守らなくても十分強い者達なのだ。
特に召喚などを使えば味方の数も少なくは無いだろう。
俺は一息つくと、ハサハに向き直る。
「ハサハ、お前はどうするんだ?」
「ここに……いる」
ハサハは絶対に俺から目を離すまいとしているかのように俺を見つめている。
俺はアティに視線を戻したが、アティは
「大丈夫ですよ、クノンの許可は得ました。アキトさんも殆ど回復しているそうですし、ハサハちゃんの事、お願いしますね」
「ああ、分かった」
それを聞いてアティは安心したように微笑んでから部屋を出て行った。
ハサハはうとうととしはじめたのか、頭をこっくりと下げたり上げたりしている。
少し見ていたい気もしたが、頭にぽんと手を置く。
「ありがとうな」
「(こくり)」
微笑むハサハに俺も微笑みに見えるよう顔を作り、その頭をなでてやりながら、
俺はなぜこの世界に呼ばれたのか、その理由を考えていた。
私はアキトさんと話した後すぐに<集いの泉>までやってきました。
護人達との会議をしないといけませんから。
泉には既に4人の護人とカイルさん達が集まっています。
皆一様に緊張した面持ちで席についているのが印象的です。
私が席に着いたとき開口一番ヤッファさんが私に問いかけました。
「なあ先生よ、もう一度だけ確認しとくんだが……。
帝国軍の奴らの動きはこの際考えなくても良いんだな?」
「ええ、向こうの狙いは私の持っている剣です。
目的がはっきりしている以上、それ以外の対象に攻撃を仕掛けたりはしないと思います。
彼女は昔からそういう性格ですから」
「わかった……これで懸念が一つ消えたわけだ」
「そうね、懸念を潰しておくのは大事よ。でもジルコーダに関して言えば一刻を争うわ」
アルディラさんは視線をきつくしながら私達にいいます。
彼女の顔が憂いに沈んでいるのはジルコーダの事だけでしょうか?
アキトさんたちと遺跡に行った時に何かあったのではないか……。
私にはそう思えてなりません。
「しかしねぇ、一体どこに行けばいいの?
大本を潰さないとああいうのはしつこそうよ?」
「あたしも、追いかけっこは苦手だなー、やっぱこう銃でバンバンって」
「二人とも、ですから我々がここに集まっているのでしょう。先ずは情報を整理しないといけませんね」
ヤードさんが話をまとめにかかります。
二人の気持ちは分かるんですけどね。
「先ほど衛星からの映像を拾ったのだけど、ジルコーダは巣を作っている。これはつまり、女王がいるという事よ」
「女王!? それって増えるって言う事ですか!?」
「そうだな、ジルコーダってのは普段は俺達の世界でもおとなしい方なんだが環境が変わると爆発的に増える。
それに女王を守るために凶暴化するって言う所が厄介なんだ」
「どれくらい……ですか?」
「分かっている限りじゃ一年で女王一匹から数百匹の巣が出来上がるくらいって事くらいだ」
「それって……っ」
「そう、手が付けられねぇって事さ、奴らは白アリと同じで木を食って育つからその規模まで成長している間にこの島の森なんて全て禿山になっちまうぜ?」
「では、早速駆除をしなければなりませんね」
「まぁ、巣に襲撃をかけるのが一番よさそうだな」
ヤッファさんの答えから察するにメイトルパの住人のようなんですが、かなり厄介そうですね。
キュウマさんも緊張気味のようです。
カイルは豪快な事を言っていますが、それが出来るかどうかは規模次第という所でしょうか?
「ヤッカイナアイテノヨウダ……イソガネバナルマイ」
「そうだな、あいつらには同情できなくも無いが俺達も生きていかなくちゃなんねぇ、だが……。
もう一つだけ出発の前に片付けておく事があるようだ」
「え?」
「隠れてないで出てこい! マルルゥっ!!」
ヤッファさんの怒鳴り声に驚いたのか、柱の影から小さな姿がぴょこんと飛び出しました。
縮こまっているのは、確かにマルルゥのようです。
「……」
「マルルゥ!?」
「留守を守るって約束はどうした?」
「そっそれは……っ」
「心配するんじゃねぇさ、ぱぱっと行って、片付けてくるんだからよ」
「シマシマさん……」
「心配しないでマルルゥ。皆が一緒なんです。力をあわせれば絶対大丈夫です!」
「先生さん……」
「宴会の準備でもしてまってろって、な?」
「わっ、わかりましたです。皆さんきをつけてくださいですよ!」
ヤッファさんの不器用ななぐさめにマルルゥは少しだけ考えている風でしたが納得してくれたようでよかったです。
私達はアルディラさんの指示した方へと歩を進めます。
途中何度かジルコーダと遭遇しましたが、
それは、喚起の門と呼ばれる遺跡からさほど離れていない森の中、巨木の根元に大きな穴を作っていました。
その数おおよそ100匹くらいでしょうか?
大きすぎて穴を掘れないのか、巣が地面に露出しているので、
どうにか巣の全容が見渡せますが、こうも白アリばかりだと吐き気を催す光景ではあります。
「これがジルコーダの巣……っ!?」
「GiGGee……」
「うじゃうじゃいやがる、早く気付いて正解だったって事か」
「気色悪いわねぇ……」
「あれだけの数に一度に襲い掛かられたら手の付けようがありませんよ」
「ワカッテイル……」
「狙いは巣の奥にいる女王だけでいい」
「そいつを叩けば、これ以上こいつが増える事は無くなる」
「二手に分かれて一方が他の虫を巣から引き離すのその隙に、もう一方が女王を叩くのよ」
「なるほど……」
確かにそれなら最小限の労力で最大限の効果が狙えます。
実際ジルコーダの習性がアリと同じなら女王がいなくなればさして長い間存在できないでしょうし。
とはいえ、被害をゼロにするのは難しそうではありますが。
「陽動は私がやるわ、支援砲撃もここなら問題ないでしょう」
「デハ、ワタシハアルディラノゴエイヲヒキウケヨウ……」
「私も参加しますわ」
「三人だけで大丈夫ですか?」
「いざとなれば、召喚獣に乗って逃げるわよ」
「ワタシハユウレイダ、シヌコトハナイ」
「どうせ突撃班にはいれてくれませんもの……精一杯やりますわ」
ははは、そうですね……(汗)
あちらの準備は万端のようです。
では、私の役目は当然……。
「女王を倒す役目は私が引き受けます」
「先生!?」
「わかってんの? もし陽動だ失敗したら一番危険なのよ!?」
「ええ……だからこそ、私が行くべきだと思うんです。
いざとなったら<碧の賢帝>の力を使う事ができますから……」
皆一様に押し黙ります。
あの力は確かに有用ですから、皆さんも分かってくれるとは思うのですが……。
「助太刀いたしますよ」
「ああ、そうだなあんただけに苦労輪させられねぇ」
「俺達を忘れんなよ」
「まーうちの家訓は一蓮托生ってね?」
「キュウマさんヤッファさん……みんな……」
「そういうわけだからよ、そっちは任せたぜ」
「わかったわ、そっちは任せて」
「ココロエタ……」
「それじゃ……みなさん行きましょう!!」
「ビビ〜ッ!!」
そうして私達はジルコーダの巣へと進入して行ったのです。
ハサハは俺の事で心配しすぎたのか数分もしないうちに、ベッドに突っ伏し寝息を立てはじめる。
俺は毛布をかけてやり、寝顔の微笑ましさに少し頬を緩めかけたが、
さっきから気になっていた窓の方に向かって声をかけた。
「どうした? 入ってこないのか?」
「ゲッ!? まさか、見つかっちゃった?」
「気配をわざと消してないのかと思っていたが、素か?」
「あっちゃー、メイメイさん油断しちゃったねぇ、んじゃ、ちょっとお邪魔して」
窓の下に張り付いていたメイメイは俺の呼びかけに対し殆ど重力を無視して指先を支点に窓まで飛び上がる。
そして俺の空けた窓から中に飛び込んできた。
「ジャジャーンっ! 皆のアイドルメイメイさん登場!」
そして着地点で妙なポーズを決めていた。
「もーアキトったらノリ悪いな〜、もっと明るくしないと駄目だよ?」
「ハサハが起きる、場所を移そう」
「……もう、つれないな〜」
メイメイはふざけているのか眼鏡をくいっと指で持ち上げつつ俺についてくる。
廊下から少し歩いて、ビル中央の室内公園に出る。
基本的に自然と触れ合う機会の少ない融機人のための自然公園ということらしい。
30m四方の部屋には所狭しと植物が茂っていたが、虫や鳥などは全く見かけない。
木が送風機からの風で揺れる音以外全くない、ある意味不自然極まりない公園だ。
そして、俺達は監視カメラの視界から外れる位置に陣取った。
「完全に声が聞かれない場所というわけではないが、病室の近くだこれが限界だな」
「にゃはははは〜こんな人気の無いところに呼び出してどうするつもりっ? まさかっ私の……っ!?」
「……」
「もう、おに〜さんったらノリが悪いんだから!」
俺の前で百面相をしているメイメイを冷ややかに見ていると、額をつんと指で突かれる。
俺はため息をつきそうになった、メイメイは真面目に話す気があるのだろうか?
「はいはい、もうっ、折角楽しく話しをしようと思ったのに。興がそがれちゃった。
じゃあ簡潔に言うけど。アキト、貴方はもう戦わない方が良いわ」
「どういう意味だ?」
「あの娘達から聞いたんでしょう? エルゴの事を」
「耳ざといな」
「ふふー、占い師は伊達じゃないのよ」
「それだけか?」
「さあ?
でもここではあんまり重要な事じゃないでしょ、
重要なのは、エルゴというのはその体を形作ってはいても力の塊だという事。
それも意思のある、ね?」
「エルゴに意思がある? そういえば聞いたな……」
「そう、だから貴方がその体を使っているのはとっても不自然な事なんだな〜」
メイメイは何もかも見透かしたように俺を見る。
核心をぼかして他人の心を誘導するやり口、それは俺の嫌悪するものの一つだ。
駆け引きに乗るのはしゃくだが、口を開く事にする。
「エルゴの意思と俺の戦闘を禁止する理由、そのつながりはなんだ?」
「簡単よ、アキトがほんの一部にしか過ぎないとはいえエルゴを乗っ取ることが出来たのは、
生へ渇望、貴方はまだやりたい事があったという事」
「生きる目的などとうに失った俺が生への渇望だと!?
そんな事が……」
「それがあるんだにゃー、自己嫌悪、もう一度やり直せたら、助けたかった。
こういうのも立派に生きる意思だもん。
かなり屈折してるけどにゃ〜♪」
俺に向かって顔を近づけながら指を振るメイメイ、どこか楽しげに、それでいて真剣に彼女は語る。
俺の渇望、それは、考えていたとは思えないがどこかうなずけるものがあった。
「でも、アキト最近少し満たされているよね。それが渇望を低下させているし、戦闘はエルゴを活性化させる事になる。
そう、牙王アイギスと戦った時のように」
「……なるほどな、ならば……」
「あ〜ん♪ りりしい顔しちゃってぇ! メイメイさんといるのがそんなに楽しい?」
メイメイが急に俺に抱きついて小さく「続きはお店で♪」と言って来た。
俺はそれにうなづくと、引き剥がし、言う。
「あまりからかうようなら俺にも考えがあるぞ?」
「えぇ〜どんな? メイメイさん知りたいな〜♪」
「クノンに言いつける」
「ぐっ、おに〜さんそれは反則だよ……(汗)
クールな顔してエグイ所もす・て・き♪」
また俺の額をつんとつついてから足早に逃げていく。
クノンに言うとうるさい事この上ない、なにせ規則についてはかなりうるさいし、何より各種ロボットを使って追いかけてくる。
ラトリクスにいるかぎり彼女にはそうそうかなうものじゃない。
「さて」
しかし、メイメイが話を打ち切った事には別の理由がある。
今俺達の会話を立ち聞きしていた奴がいた、そういう事だ。
気配の絶ち方も堂に入っていた、
しかし、メイメイは誤魔化せなかったらしい、俺が気付くよりも早く発見していたのだからかなりのものだ。
只者ではない事は感じていたが、まだ本質をつかませない、本気を出せばこの島にいる誰より強いのかもしれない。
それは兎も角、気配の主が逃げた方向に歩いてみる。
公園を出て廊下を進むと窓が開いていた。
はめ込み式のはずの地上10階の窓である、普通ならここから進入したとは考えにくい。
しかし、ここでは召喚獣がいるのだし不可能ではないだろう。
だが……。
「監視カメラを壊している……か」
「どういうことでしょう?」
俺が振り向くとそこにはクノンの姿があった。
彼女は俺に向かって詰問をしている。
彼女から見れば普通、犯人は俺か。
実際ここから出たのならラトリクスの警戒網にかからないはずも無いな。
「テンカワ様、貴方はラトリクスの警戒網をご存知のようです。
そして、ここの窓が外され、監視カメラがいくつか破損している。
この状況を見れば容疑者としてテンカワ様を拘束すべき理由にはなると思うのですが」
「……そうだな」
「残念です」
言い訳の言葉も見つからない。
とはいえ、こうも時間がかかってしまっては盗み聞きの犯人を捕まえるのは無理そうだな。
「では、テンカワ様を拘束させていただきます」
「事情聴取はしないのか?」
「それはアルディラ様の仕事です。そして現在はアティ様達と巨大白アリを退治しに行っております」
「なるほどな」
仕方なく俺はクノンに両手を突き出す。
つい地球の知識が突いて出たのだが、クノンは?という感じで首をかしげる。
「腕を拘束しないのか?」
「はい、テンカワ様の罪状は確定しておりませんし。
窓及び監視カメラへの物損は軽犯罪の域を出ていません。
機密のある領域への侵入、または接近は感知されておりませんし、
ラトリクスの基準においては罰金か強制労働ということになります」
「はいは〜い! それでは強制労働をして欲しいのですよ〜♪」
外された窓の前に小さな少女が飛び込んで来た。
演出なのか不明だが、恐らく彼女の手引きだろう……。
そうでなければこのタイミングでは来れまい。
アフターケアまでやっていくとは、流石というべきか。
「マルルゥ様、正面玄関から入ってきてください」
「でもここからの方が入りやすいのですよ、大目に見るのですよ〜。
それに私は護人の皆さんから重大な任務を仰せつかったのですよ♪」
「重大な任務……ですか?」
「はいなのですよ〜♪」
楽しげに言うマルルゥと無表情に困惑するクノン……。
こうして俺は強制労働をさせられる事になった……。
ジルコーダの女王はかなり手ごわかったですが、知能はさして高くないのか陽動には簡単に引っかかり、
手薄になった巣を壊滅させるのにはさして時間はかかりませんでした。
女王を倒し、統制を失ったジルコーダを追い散らし、一息つくことにしました。
全て倒す事は出来ませんでしたが、少なくとももう増える事は無いはずです。
「これで、ようやく片付いたわね?」
「ええ……」
「先生?」
「私達とこの虫は一緒に暮らせはしない、分かってはいるけど……。
なんかイヤですよねこういうのは……」
「…………」
ベルフラウに声をかけてもらいながら、それでもうわのそらで考え事をしている私。
甘いと思うときはあります。
でも、共存の道は無いのか、どうしても気になってしまいます。
私も犠牲そのものを否定する気はありません。
例えば私だって食べなければ生きていけませんし。
そのために動植物を殺して食べている事に違いはありません。
でも……。
ジルコーダはこの世界の住人ではない、つまり何の役目も与えられていないにも拘らずただ邪魔だから消す。
何かまだ出来る事があったかもしれないのに……。
こういうしこりが私には我慢ならないのです。
「みなさーん!」
「ビ〜ビビ〜♪」
「マルルゥ、お迎えにきてくれたの?」
「はいですよ〜♪ 灯りが見えたので呼びに来たんですよ」
「呼びに来た、って?」
「シマシマさん言ってたじゃないですかー?」
「宴会の準備をして待ってろって」
「おいおい、マルルゥまさかお前……」
「えっへん! ばっちり準備は出来てますですよ!
さあさあ、皆で楽しくお鍋を囲むですよー♪」
「こっ、コラっ! 耳を引っ張るな!?」
マルルゥに引っ張られて連れられて行くヤッファさんを見ながら、私はつい悩んでいたことが小さなことのような気がしてきました。
確かに、ジルコーダにはかわいそうな事をしました、でも、これで私は自然に付き合える間柄に近づく事が出来たと感じたからです。
集いの泉の前で、大きなおなべを前に格闘しているアキトさんが楽しげだったせいもあるかもしれません。
「……だってさ」
「鍋か……、かーっ、いいねぇ!」
「アタシもぉ、お腹ぺっこぺこだわよ」
「先生は……」
ぎゅるる〜〜
「あ……」
「はしたないですわね、まったく……」
「では、ご好意に甘えましょうか?」
「みんなでお鍋で宴会しちゃおう!」
「「「「「おー♪」」」」」
私たちはアキトさんとクノンの作った大きなおなべを車座に囲んで食べました。
みんなと楽しく過ごす時間は本当に楽しくて。
一つのお鍋を囲むとそれだけでいつもより食事もおいしくて。
たくさん、たくさんおしゃべりをしました。
一つの目的のために力をあわせてがんばったこと。
それがみんなの距離を縮めてくれたんだと思います。
語り合う言葉が、自然なまま、飾らないままで、暖かくてうれしかった。
でも、ただ一人……。
あの人だけが、無言のままその輪から立ち去った事が気にかかります……。
「こんな所にいたのか」
「あっ……見つかっちゃいました?」
「お前は自分が幽霊だからか、気配を消そうとしない。見つからないはずは無いな」
「ふふ……それはテンカワさんくらいですよ。天使のフレイズでもそうは行きません」
「まあ、五感がまともに働かなくなれば他の器官が発達する。俺の気配を察する能力もそうして手に入れたものだ」
「え? そう……なんですか、ごめんなさい」
「何を謝る? むしろこのお陰で助かっている事も多い……」
「そういっていただけると助かります」
目の前のファリエルは、はかなく、今にも消えてしまいそうに見える。
幽霊なのだし、少女なのだから力強さとは無縁だろうと普通は思うだろうが、彼女はいつもかなり元気な娘だ。
「お前は……俺と同じなのか?」
「……っえ?」
「後悔から死に切れなかった存在。俺もこの世界では幽霊の様なものらしい」
「……体の事、知っちゃったんですね」
「ああ……」
「多分同じだと思います。でも、私はテンカワさんほど強くない。エルゴを従える事なんて出来ない……」
「エルゴとは何なんだ?」
「そう、ですね……偉そうな事を言っていますけどみんな殆ど分かっていないんだと思います」
「……?」
「エルゴと接触する方法はいくつかあります。でも、接触した者は例外なく気が触れるか、死にますから……。
あくまで推測、いえ憶測の域を出ないかもしれません」
「俺の体はそんなもので形作られているのか……」
「そんなものなんて言っちゃ駄目ですよ。エルゴは世界そのもの、
つまりこの世界にあるものは山や海、草木一本に至るまでエルゴによって出来ているんですから」
「……まて、それでは」
「そう、ある意味普通ではないテンカワさんの体ですが、この世界ではきわめて普通の存在とも言えます」
「分かりにくいな」
「はい、私だって本当の事がわかっているとはいえません」
「だが、詳しいんだな」
「それはっ! それは……、今は聞かないでくれますか?」
ファリエルの姿が揺らいでいる。
それだけ俺が彼女の核心に触れたという事なのだろう。
それはつまり、トラウマ。この世界に彼女をとどめている理由につながるもの。
俺はまた踏み入る所だったらしい、ただ自分の事について少しでも知りたかっただけなのだが。
「いつかきっとお話できるときが来ると思います。
だけど……。
時間をください、私が勇気を持って過去と向き合える時間を……。
「わかった」
「……あっ!?」
俺は背を向けて立ち去ろうと一歩目を踏み出しかけた。
しかし、その声にふと振り返る。
「私、テンカワさんに見つけてもらいたかったのかも?
だからここにきていたのかもしれません」
「?」
「だって、テンカワさんって悪ぶってますけど、困っている人をほっとけない人ですから♪」
「なっ!?」
「ぷっ……ふふふっ♪」
くすくす笑うファリエルに俺は二の句も告げずそのままきびすを返す。
しかし、笑い声は小さいにも拘らずなかなか聞こえなくならなかった。
あとがき
戦闘シーンをすっ飛ばして6話終了。
やる気と感想の量が比例する駄目作家黒い鳩っす。
最近サモン3を出してといってくる人が増えたので、また書いてみました。
面白いかどうかは賛否両論あるかと思いますが、割合いろんなキャラを出しまくれたかな?
メイメイさんに今種明かしされると秘密が減りそうなので匂わせるだけにしておきました。
とはいえ、結構情報開示しちゃったなあ(汗)
アキトの体は実はエルゴの力の塊で、本来<碧の賢帝>に収まるべき力である事はほぼ分かったと思われます。
一話からそのネタ結構引っ張ったつもりだけど、6話で開示してしまったなw
まぁもう一回どんでん返しを考えてはいますが上手く行くかな?
こっちはかなり引っ張らないと……。
色々考えてはいるんですがね。
書くかどうかは気力次第という事で!(爆死)
失礼します。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
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