花畑をかき分けて現れたのは……クノンでした。
私たちはものすごい速度でお互いをひきはがし、10mくらい飛びずさりました。
「ああ、おかまいなく……私はアルディラさまの部屋に飾る花を摘みに来ただけですので」
「日が沈む時間にですか?」
「はい、この時間に摘んでおくと次の日の朝にきれいに咲くのです。花にもいろいろありますので」
私は一瞬感心するが、いろいろ深読みをしてしまう……。
まさか、クノンにそんなことはできないと思うけど……。
何となく居心地が悪いまま、私とアキトさんはクノンが去っていくのを待ちました。
「……帰ろうか」
「……そうですね」
私たちはすっかり日常以下のテンションまで落ちてしまい、さっきのどこかむずかゆい感覚はすっとんでしまっていました。
徒労感を深めつつ船に帰った私たちは、船でまたはやし立てられるのですが……。
今日はこの辺で失礼しとうございまする……はぁ……。
Summon Night 3
the Milky Way
第九章 「休日の風景」第三節
日が暮れる頃、あれだけ恥ずかしかった事もなんだかいい思い出の様で……。
アキトさんを直接見る事はできませんがぽかぽかした気持ちになりました。
この島に来て、色々な事がありました。
確かに、島に来てから私はお休みなんて持てなかったけど充実していたんだなと思います。
それに……。
まだ答えを出せるほどじゃないですけど、ミスミ様には負けられないなって思いますし。
だからこそ、こういう日を過ごしていく事はうれしい事なんだって思うんです。
「こんなに楽しい休日、本当に久しぶりだった気がしますね」
「そうだな……皆も楽しそうにしていた」
隣にいるアキトさんに話しかけるのは恥ずかしかったですけど……。
やっぱり楽しいです。
まあ、一度はテンションが下がってしまっていましたが(汗
ともあれ……今日はこれで……。
「また、こうやって時間を作って出掛けるのもいいかもしれないな」
「はい、後はご飯を食べて、たっぷりと眠って明日からまたがんばりましょう!」
「ああ……、じゃあ俺は夕飯用の魚でも釣って帰るとするかな」
「あっ、はい! 大きいお魚期待してますね♪」
そうして私たちは海賊船の前まで戻ってきました。
アキトさんは一服するわけでもなく、釣竿をひっつかむとゆったりとした動きで釣に向かいます。
私もついて行こうかなと思ったんですけど、先ほどの温泉の件がぶり返してしまったので辞めておく事にしました。
代わりにハサハちゃんがついて行くようです。
私は部屋に戻って一息つこうと食堂を抜けて部屋に向かう途中、食堂にいたベルフラウが話しかけてきました。
「あら、お帰りなさい。その、随分早かったですわね」
「ええ、温泉につかりに行っただけですし……」
「貴方ね……、進展させる気あるんですの?」
「応援してくれるのはうれしいですけど……こればっかりはね……」
ベルフラウは最近私とアキトさんをくっつけようと時々画策してくるようになりました。
私の事を思っての事だと思うんですけど……、まだちょっと……私には早いかななんて思ったり。
というか、アキトさんの事を認めてるっていうことなんですかね?
最近は私達には気兼ねなく接してくれますし。
「それで……、どうでしたの?」
「ええっと……どうって?」
「決まってるでしょ! 少しは進展したの? って聞いているのですわ!」
「うぅ……、そう言われても……。それに、お話は弾んだんですよ!」
「はぁ……全く進展していませんのね……そんなだとライバルのミスミさまとの差が開くばかりですわよ」
「うっ……」
私はその言葉にかなりダメージをうけてしまいました。
なんというか、図星過ぎてどうにもできません。
そうなんですよ……ミスミさまがアキトさんに近づいて行くのは私……。
一体どうすればいいんでしょう……、恋とか今までした事がなかったのに。
こんなにやきもきする事になるなら、もうちょっと恋についても勉強しておくんでした……。
そんな風に打ちのめされている時でした。
ドォォォン!!
「!?」
「今の爆発はユクレス村のほうです!」
ここからユクレス村まで行くには少し時間がかかりますが。
急いで向かえば間に合うかもしれません。
何が起こったのか分からないですが、帝国軍でなければいいと思いながら他には思いつきもしませんでした。
村に着いたら人だかりができていたのでどこに向かえばいいのかはすぐに分かりました。
「どうしました!?」
「ああ、やっぱり気がついちまったか」
「出来れば貴方の手をわずらわせたくはなかったのですが……」
「まさか、帝国軍ですの!?」
「いっそ、そのほうがややこしくなかったのですが……」
「アレヲ……、ミロ……」
「えっ!?」
私達が見たのは、道を占拠して胸を張るごっついおじさん……。
ああ、ジャキーニさんじゃないですかッ!
いつもの6つ子マッチョさんたちを引き連れてジャキーニさんが道に海賊旗を立てています。
丁度ユクレス村とラトリクスをつなぐ街道が封鎖されている格好です。
その気になれば迂回出来ない事もないですが……うざったいですね……。
「わーっはっはっはっはァ!! どうじゃ、ワシらの怒りを思い知ったかァ!!」
ん……怒り……ですか。
何に対しての怒りなのか気になりますね。
ジャキーニさん達、最近は割と楽しげに働いていたような気もするんですけど。
「わらわが帰って来て直ぐのことじゃ、騒ぎが起こったのは。
まあやっている事といえばあの一角に陣取って、通りがかる人達に嫌がらせをするくらいじゃがの」
「困ったもんだぜ」
「あのバカ……こりもせず何のつもりだよ?」
ミスミ様とヤッファさんが渋い顔をしています。
カイルさんは同じ海賊として居たたまれない感じになっているようです。
どこかで身内というつもりがあるのかもしれないですね。
「どうも本人は謀反のつもりらしいのですが……」
「ドウミテモ……タダ、クダヲマイテイルダケトシカミエン……」
「とはいえ、このまま放置しておくわけにもいきませんし」
「だったらさっさとどかしちゃおうよ」
「できりゃあとっくにやってるさ、けどよ。見な?」
私達はヤッファさんが差す指先のほうを見ます。
視線を向けてみるとおかしなものを見る羽目になりました。
オウキーニさんが6つ子のムキムキ船員の一人につかまっているんです……。
「下手なマネをしたら人質の命は保証せんからのう!」
「た……、たすけてええー……」
ええっと……(汗)
確か、オウキーニさんはジャキーニさん達の船の副長だったんじゃ……。
「な……」
「バカだとは思っていたけど……、あそこまでバカだとは思わなかったわね……」
「じゃが、本気だったらどうするつもりじゃ?」
「ですね……あの人のやる事だけに否定できない……」
「そんなわけで、手のつけようがないのよ……」
「困ったものです」
「……」
あうあう……、なんというか……。
一言で表すと、付き合わされているオウキーニさんご愁傷様。
「兎に角、話を聞いてみましょう。何か要求があってあんな事をしているんでしょうし……」
「どうせ碌でもない事だと思うけどよ」
碌でもないというよりは、多分、私達からするとどうでもいい願いという気がヒシヒシとしますが。
だからこそ、話せば要求を受け入れる事も可能かもしれないですね。
「ジャキーニさん、どうしてこんな事をしたんですか?」
「自由を勝ち取るために決まっとるわい!
今日までワシらは海賊として屈辱の日々を過ごしてきた!
自由の海の男であるワシらが、何故に畑仕事にこき使われねばならんのか!?」
「「「「「「ならんのか!?」」」」」」
「そりゃ悪さをして捕まったからでしょ」
スカーレルさん厳しい……っていうか、海賊の発言じゃないですよね(汗)
「ワシらは負けた、しかし、それは正当な敗北であったと言えるのか!?」
「「「「「「言えるのか!?」」」」」」
「どう考えたって完璧に負けてるってば」
ソノラもきつい事を……、かなり毛嫌いしているようですね……。
「否!! 否否否! 断じてそんな事はありえない!!
ワシらが負けたのは貴様らが召喚術等という反則技を使ったせいじゃ!!」
「「「「「「そうだ、そうだー!!」」」」」」
「反則技……」
存在自体が召喚獣なキュウマさん達にはきつい言葉かも……。
「で、結局のところ何が望みなんだよ?」
「再戦じゃ!! 貴様らと再戦して、ワシらは失われた誇りを取り戻す!
そして、自由の日々を勝ち取るのじゃァ!!」
「「「「「「おー!!」」」」」」
「こりゃ、口で言ってもわかりそうにねぇな……」
「仕方ありません、それで納得してくれるのなら勝負しましょう」
「えー」
ソノラは嫌な顔をしていますが、納得してもらうには他に方法がありませんしね。
これから先、どれくらい一緒に生活していくことになるのかわからないんですし、
不満は早いうちに出しておくにこした事はないですよね。
「その代わり、負けたらみんなに迷惑をかけるような事はやめてくださいね」
「おう! 負けたら土いじりでもなんでも、好きなだけ働いてやるわい!」
「あらまぁ、いいの〜? 戦力的に変化がないなら再戦しても結果が同じだってこと、わかってる?」
「ふっふっふー、それはどうかのう?」
「出てくるんじゃあ!! 化け物ども!!」
「ゲルケルゲェ!!」
ジャキーニさん達が緑色のサモナイト石を懐から取り出してかかげました。
すると……召喚獣が複数飛び出してきて私達を威嚇します。
あれは……。
「ええっ!?」
「いつの間にあんな召喚術を……」
「わっはっはっはははァ!!
今日まで貴様らの留守を見計らっては使わずに置いて行ったサモナイト石を片っ端からくすねていったんじゃい!」
「なっ……」
せっ、せこい……でも効率的かもしれませんね。
とはいえ、私達はサモナイト石を置いて行ったりはしていないと思うんですが……。
「ヤッファ殿……あれはメイトルパの召喚獣のような気が……」
「面目ねぇ」
「ええい! ろくに掃除もしないからあんな事になるのじゃぞ!」
アルディラさんとミスミ様から突っ込まれてたじたじのヤッファさん。
普段ならほほえましい気もしますが……。
「フタリトモ、イマハやっふぁヲセメテモシカタアルマイ……」
「がぁはっはっは!! どうじゃ、謝るなら今のうちじゃぞい!」
「謝るのはヒゲヒゲさんのほうですよ!」
「あっ……」
「ま、マルルゥ!?」
そう、ジャキーニさん達の前に躍り出たのはマルルゥでした。
そういえば、ジャキーニさんの仕事を監督していたのって主にマルルゥでしたね。
もしかして、責任を感じているんでしょうか?
でも、危ない事はやめてほしいです。
私は思わず一歩前に出たのですが、マルルゥはまるでマシンガンのようにトークを炸裂させています。
「シマシマさんの物を勝手に持っていったり、
道を通せんぼしてみんなを困らせたり……いい加減にしないと、マルルゥ本気で怒るですよ?」
「ぐぅ……」
「さ、ダダをこねるのはやめてみんなに謝るですよ」
「う、うるさいわいっ!!
お前みたいなちびっこに海の男の生き様はわからんのじゃあ!!」
「ちびっこ……………………」
「おい! マルルゥ!?」
「マルルゥは、マルルゥは本気で怒ったですよぉ!!」
「なっ、なんですのっ!?」
マルルゥの逆鱗ってそこだったんですね……。
マルルゥが顔を真っ赤にして起こる所なんで始めてみました。
ちっちゃい事はいい事だと思うんですけど……可愛いですし。
「言う事聞かない悪い子には、おしおきするです!」
「の、望むところじゃぁ! かかってこい……!」
「落ちつけマルルゥ! 戻ってこい!」
「ああ……なにがなんだか……」
「他にどんな召喚術を隠し持っているのかも分かりません。皆さん、くれぐれも油断しないで」
一人だけ冷静なヤードさんに驚嘆を覚えつつも、確かに約束した事ですし頑張らないとと考えなおしました。
ジャキーニさんも根は悪い人じゃないと思いますしね。
「いくぞ野郎共、戦争じゃぁ!!」
「「「「「「へい、船長!!」」」」」」
そんなグダグダな感じで戦闘が始まってしまいました……。
俺は、ハサハを伴い釣りに出る事にした。
場所はいつものごとく難破した海賊船より少し北にあるラトリクス近くの岩礁。
浜辺と違い、入り組んで影もできているし、少し深くなっているので釣りには適しているのだ。
ただ、今日は少し波が出ているので、のんびり釣りをするには向かない日だったかもしれない。
「ハサハ、あまり動き回るんじゃないぞ」
「(こくり)」
ハサハはじっと俺が釣りあげた魚を見ている。
今日の収穫はアオハタ、ヒラアジといった干潮時によく釣れるもので潮が引き始めている事を示している。
大きさもさほど大きなものではないが、アオハタは出目金みたいに目が出っ張りヒレが飛び出しているのでハサハも面白いのだろう。
ちょこちょこつっついては、指を引き上げて警戒している。
俺はそれを時々ほほえましいと思いながら見つつ、釣り糸に動きがないか確認していた。
「今日は全員分の魚の確保は難しいか……」
「おさかな、たりないの?」
「そうだな……まあ、魚料理をメインにしなければ問題ないと思うが、少ないのは確かだな」
「……」
実際、船にはカイルら4人と船員10人、そしてアティ、ベルフラウ、俺、ハサハの18人が住んでいる。
魚は小ぶりなものが多いので一人一匹必要だとすると18匹、今釣ってある魚は5匹。
後2時間もすれば夕食の時間になる、料理の時間を引いて1時間と少しではとても間に合わない。
ハサハは考え込んでいる、俺が晩飯用の魚を確保できないと言う事についてなのか、別の何かなのかはわからないが。
その真剣さは迂闊に声をかけられそうになかった、まあちょうどいいので釣りに集中しようとする。
しかし、その考えはすぐに打ち破られる事になった。
「おさかな、とる」
「ん? 釣りをするのか?」
「(こくん)」
「む……つり竿が今一本しかないからな……」
「ハサハがんばる」
「そうか……ではラトリクスでつり竿をもらってくるか」
ここから行ける範囲で竿がありそうな所はメイメイの店か霊界以外の集落と言う事になる。
時間もないので、近いラトリクスのほうに行く事にする。
元々近くの海辺だった事もあり、10分もしないうちにラトリクスについた。
中央塔にあたるビルまで来てから、クノンを呼び出す。
しかし、応答してきたのはアルディラだった。
『あら……いらっしゃい……』
「ん? クノンじゃないのか?」
『私が応対したら問題かしら?』
「いや、そんな事はないが今まではいつもクノンだったのでな」
『まあ、そうよね……、それで用件は?』
「ハサハが自分も釣りをしたいというので、つり竿を貸してもらえないか」
『少し待って』
一分もしない間にアルディラがエレベーターを下って表れる。
その表情はどちらかというと、困ったと言うか、疲れたというかそう言う感じだった。
「どうかしたのか?」
「ちょっとね……」
アルディラは俺達をつり竿がある商業区画に案内する役を買って出てくれた。
アルディラとは少し因縁めいたものがあるが、今はそれどころではないと言った感じだ。
理由はおおよそ察せられた。
「クノンになにかあったのか?」
「わかっちゃう……わよね、当然……」
「まあ、今の行動を見ていればな」
「あるでぃら、かなしいの?」
「ありがと、ハサハ。そうね……、黙っていても仕方ないし。
……ちょっとね、最近クノンの様子がおかしくて」
「クノンが?」
「ええ……極端に口数が少なくなってしまったり、私のいう事を聞き逃していたり。
今日みたいに連絡が入っても気付かない事もあるわ」
「それは……」
「それに、時々、私の事を避けているような感じを受けるの」
「避ける……」
アルディラが心配するのも分かる話だな……。
となると、考えられる事は2つか……、故障か、それとも感情回路が進化していく過程の暴走か。
オモイカネも暴走した事があるからわからなくもない。
「何か理由はわからないのか?」
「分からないわ、少なくとも私には……。
クノンがよく話していたのは、私以外では入院していた貴方とイスラくらいかしら。
後はアティとも時々話していたみたいだけど、何か聞いてない?」
「いや……、ただ、故障じゃないのなら心当たりはなくもないが」
「えっ!? 分かるの?」
「いや、下手の考え休むに似たりってな。本人に確認を取るのが一番だろう」
「クノンに……」
「ああ」
つり竿をハサハに渡し釣り場に戻るつもりだったが、このまま帰ると言うのも後味が悪そうだな。
ハサハも気になっている様子でもあるし。
「なんならついて行こうか?」
「……そうね、お願いするわ」
中央塔に戻り、リペアセンターの扉を開く。
アルディラはクノンがいる事を確認して、しかし、ぼーっとしているように見える事を気にする。
だが、戸惑っていても始まらないと思ったのか意を決して声をかけた。
「クノン?」
「!」
無表情だったクノンはアルディラの姿を確認すると一瞬何かを表情に宿しそうになるが、先ほどよりも冷たい表情に変わる。
これは、やはりアルディラに対し何か思う所があるのだろう。
それは自分に対する事かも知れないし、アルディラに言いたい事なのかもしれない。
それを確認する事は出来ないが、やはりこれは感情の表れのようだった。
「……なにか、私に御用でしょうか?」
だが、その拒絶の表情にアルディラは戸惑い、気後れしてしまうようだった。
確かに感情は育っているようだが、それがプラスに現れるとは限らないといういい証拠だな。
これは、かなり難しいことになってしまったようだ。
オモイカネのように、ただ、そう言う部分を制御出きる程度に伐採するというわけにもいかないだろう。
「用があるのは俺なんだが、聞いてもらえるか?」
戸惑うアルディラを横に俺はクノンに声をかけていた……。
なかがき
前回の投稿、意外に好評だったようなので、ちょっと頑張って書いてみました。
正直色々忘れてるよ私(汗
2年のブランクは大きいね……。
ですが、再度書き始めてみるとちょうどクノンのシーンだった事を思い出し、ちょっとやる気が出てきました。
9章は次回で何とか終われるかな?
10章以後はまだ未定ではありますが、9章は2月中くらいに終わらせられるように頑張りたいと思います。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
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