人類は惑星<カギロイ>に閉じ込められた一部を除いて、まだ戦い続けていた…
異星生命体<HI>と人類の手によって名づけられたその敵と…
もっとも、封じられた一部以外の人類に対し<HI>は容赦なかった。
人類側には知られていない事だが、<HI>は既に目的を達していた。
外部に居る人類の消去は<HI>にとって事後処理に過ぎない。
しかし、それだけに惑星<カギロイ>の外に対する攻撃は激しかった。
スクラップド・プリンセス
トロイメライ
オーバーチュアー
封ぜし世界の『序曲』
<軌道要塞ビスマルクY>、それは<ブラウニン機関>の最終防衛ライン、火星軌道上に位置する文字通り人類最後の砦である。
マウゼルWの裏切りにより、<HI>は一気に太陽系に雪崩れ込んだ。
マウゼルWは地球にいた人間達や、殆どの人間を近隣の星系にある殖民惑星<カギロイ>に閉じ込めた。
難を逃れたのは地球圏の中では僅かに百万人程度に過ぎない。
しかし、マウゼルWの裏切りの後の<HI>は本格的な殲滅戦を展開した。
今や地球上にも人類と呼べるものは殆ど残っていない。
閉じ込められた人類の解放のため<ブラウニン機関>は数万人程度の人員と残っているほぼ全てのドラグーンを<プロビディンスブレイカー>作戦に投じ、
太陽圏にはまともな戦力が殆ど残っていなかった。
もう、太陽系から人類が居なくなるのは時間の問題だった…
そんな緊張した時期、<ビスマルクY>の下部領域を移動する人影があった。
観察してみると白衣の人間が二人、一人は白髪になり既に老境に達していると思われる枯れ木のような体躯の男。
もう一人は、背の低い中年の男だ。
二人は、エスカレーターの様に移動する床をさらに歩きながら移動し、目的の部屋の前まで来ると勝手に移動床が停止した。
そのまま二人は部屋の中に入り込む、部屋は少しだけ緑色がかった白い色の壁に少しクスリの匂いが漂う清潔感のある部屋だった。
中にはベッドが一つしつらえられている、しかし、いわゆる普通のベッドではなく、筒状の外界と完全隔離が可能になっている物である。
イメージとしては、人口冬眠用のベッドだと思っていただければいいだろう、実際そういう装置も内蔵している。
それを見て、老人が脇の中年に話しかける。
「彼がそうかね?」
「はい、火星圏最終警戒網にぼろぼろの旧式人型戦闘機に乗って現れました。それも、まるで突然何も無いところから出現したように見えます」
「マウゼル\、Pシステムはどういう予知を出しておる?」
中年に言葉を聞いた後、老人はおもむろに虚空に向かって話しかける。
すると、突然中空に薄い紫色の髪色をした少女が浮かび上がる、立体投影システムのようだ…
少女はかなりの美人だが、中年の方は彼女が現れると同時に渋い顔になる。
老人は気にしていないようだが、中年は嫌悪の表情を隠しても居ない、少女はそれを見て少し寂しそうな顔をする。
しかし、彼女は不快を訴えることなく老人に向き直る。
彼女は、投影が始まると老人を見つめはなし始めた。
『はい、博士。彼がその人である確立は67.24%であるという結果が出ています』
「ふむ、お主の予知にしては中途半端な数字だな…」
『何分未知のことですので、不確定要素が多すぎます』
「なるほどな…じゃが、もう時間が無いのじゃろう?」
『…はい』
「一応聞いておこうか、カウントダウンはどうなっておる?」
『99.943817%の確立で後2時間37分が限界でしょう』
「分った、ならば彼を送ってやってくれんか」
「な!? 博士! まさか…」
『やる…のですか、そうなればここは…』
「構わん、とうにここは限界だ。我等は我等で脱出する」
「しかし! コイツは! 裏切り者と同じ、シリア・マウゼルのクローンなのです!」
「ばかばかしい」
「は…?」
「ばかばかしいと言ったのだ私は…世界がここまで持ち堪えてこられたのは彼女等の<Pシステム>のお陰だ! 今更彼女抜きで作戦をどうこうできると思う
か!?」
「は…はい。確かにその通りです」
中年は老人にさとされ、何とか納得する、もちろん本当に納得した訳ではないのだろうが、もう議論しあう時間すらないのである。
もう、この<ビスマルクY>に向かう<HI>の大軍の事は確認されている、Pシステムは戦いにおける<ビスマルクY>内の人間の生存の可能性を0.
327%と割り出した。
ギガス
だが、もう脱出に使える船と呼べるものは存在していない、戦力としても最後まで残った数体のドラグーンと<竜巨人>が十機程度、幾万の数で攻める<HI>
に比べるべくもなかった。
しかし、一つだけこの場から脱出する方法がある…
「しかし、成功のおぼつかない作戦よりは、あえて彼に賭けて見るのもいいかも知れん」
『成功率は7,13%増と言った所でしょう。ですが…』
「我々よりもマシだろうな…」
「そう、なのでしょうか?」
「ああ、彼はナノマシンを体内に取り込んでいる、恐ろしく旧式のものだったので取り替えてはいるが、それでも、波長は合うだろう」
「なるほど、では、私はそろそろ失礼させて頂きます。作戦部にも顔を出さねばならないので」
「すまないな、私がもう少し…」
「それは言わない約束ですよ。<ブラウニン機関>はこれで終わる訳ではありません。<プロビディンスブレイカー>作戦は人類が生き残る為に行われているの
ですから」
「そうだったな…べクナム君達に未来を託すとしよう」
「はい、では博士」
「ああ」
中年の男が部屋を離れる。
その場に残されたのは、特殊なベッドで眠り続ける男と老人の二人…いや、立体映像を含めて三人が残されている。
「さて、では私も最後の仕事をしようかのう」
『よろしいのですか?』
「そういえば、話していなかったの…まだ少し時間もある、聞いていかぬか?」
『なんでしょう?』
「なに、お主のオリジナルは良い女だったと言う話じゃよ」
『経歴だけなら、私も知っていますが…』
「身近でおった訳ではないじゃろう?」
『はい』
「あ奴は、シリアは元々異星人とのコンタクトを目的とする我々に真っ向から敵対しておった」
『その頃から予知を開眼されていたと伺っています』
「そうじゃな、じゃが、当事は予知など的中精度の高い物ではなかったので我等は無視して異星人達との接触を行った訳じゃ、まあ結果は見ての通りなのじゃ
が…」
『…』
「まあ、奴らは結局我々の事を下等な存在としか見ていないんじゃろうな。そうでなければドールタイプなどといった人道的に絶対に使われない兵器を使ってく
るわけは無いじゃろう」
『考え方が異なっているだけかも知れませんが…』
「かもしれん、じゃが、そうでなければ惑星<カギロイ>に人を閉じ込めたりはすまいよ…」
『そうかもしれませんね』
「彼女は行動力のある女じゃった、予知能力者は幾人かいたが彼女ほど行動力のある人間はいなかったじゃろう、
何せ私達が帰ってきた時には既に防衛用の兵器の開発を指示していたんじゃからな、
Pシステム自体提唱したのは彼女じゃ、まあ自分のクローンばかりを使われるとまでは考えていなかったようじゃが…」
『では』
「そう、<ブラウニン機関>の根本を作ったのは彼女なのじゃよ」
『そうなのですか…凄い方だったのですね…』
「それでな、マウゼルWのことじゃが」
『はい』
「彼女は精神的に弱い所があった、16人のクローンの中でもかなりな」
『しかし、予知はかなりの精度だったと記憶しています』
「その所為なのじゃないかのう、彼女は人類の未来が覗けてしまった…じゃから、あえて降伏した…そんな気もするわい」
『否定はしません、現状まさにそのようになっていますから』
「そうじゃの、まあ私の様な凡人には分からない事ばかりじゃ、しかし、彼…確か機体内のデータ抽出時に名前が分った筈じゃな。
名を知らぬまま託すのもなんじゃし、教えてくれんか?」
『テンカワ・アキトとなっていました、火星出身のようです』
「ふむ、日系か…まあ、見た感じもそういうところじゃのう」
『博士、リミットが迫ってきました。そろそろ』
「…ん、そうか…名残惜しいな…」
そう言うと、博士と呼ばれている老人は部屋の中にあるスイッチを押す、すると何も無かったはずの部屋に線が入り冬眠用のベッドが部屋の下に沈んでいく…
下の方には、脱出ポッドと思しきものが据えつけられていた。
この要塞内に脱出する人間はもう彼だけだ、彼は何も知らないままここを出るだろう、運が悪ければ太陽系を出る前に死ぬかも知れない。
しかし、博士と呼ばれた老人にできる事はただ一つ、可能性にかけるだけであった。
彼が<プロビディンスブレイカー>作戦の支援者となる事を祈って…
「テンカワ・アキトよ…お主は私達の事など知らずに目覚めるじゃろう、しかし、出来れば人たるものの為に行動してくれる事を祈るぞ」
老人はその言葉を言い終わると部屋を後にした…
そして、僅か2時間後、激しい戦いの末<ビスマルクY>が大破し、人類側戦力はその九割を失う事になる。
その後、<HI>は残党狩りの様に暫く人類を狩り続けるが、ある程度人類の衰退を確認すると、いつの間にか消え去ってしまった。
そして、惑星<カギロイ>…いや<封棄世界>を賭けた長い長い戦いが始まるのであった…
あとがき
すてナデ第一弾と言う事で、ちょっと無茶な設定の話を作ってみました。
今回は小説を読んでいないと分かりづらいかもしれません(汗)
次回からは、本編ですのでTVと同じ流れに乗ります。
後、アキトは出ていますけどひとことも話せない状況です。
出てくるのは博士と助手兼要塞の司令部の人、そしてシリア・マウゼル\です。
アニメ版の設定ではマウゼルはオリジナルくさいですが、原作においては四番目のクローンです。
それも16人居る内の1人に過ぎません。
よって、裏切っていない15人の内の一人ぐらい生き残っていてもいいんじゃないかと言う事でちょっと出してみました。
姿形はTVのマウゼルに準じる方向で(爆)
後、この話は伏線を引くために用意したんですが、あからさまになり過ぎないように伏せた部分もあったりしますので(汗)
それでは、今後はこの作品もがんばります。
☆ギガスに関する補足
ギガスに関しては、私のオリジナルと言う事になります。
別にギガスじゃなきゃならんかったわけでもないんですが(汗)
実際は戦闘機とかかも知れませんが…
ドラグーンは僅か26体、当初の約8分の一にまで減りこんでおり、ヴァルキリィに関しても実戦投入は遅れていたらしいです。
そこで繋ぎとして使っていた何かが必要だろうと言う意味で、使ったのですが(汗)
ようは、ザコ戦闘員がいればな〜と言う意味です。
何か別のいい名前があったらお願いします(泣)
まあ、言い訳ですが一応説明はあります、エミュレーション・ドラグーン・システムとしてのギガスは確かにラクウェルが作り出した物でしょう。
しかし、以前にギガス(竜巨人)が存在しているからこそ、ギガスとピースメイカーが呼んだとも取れるわけです。
つまり、見た目は似たり寄ったりでも、システムの違うギガスが以前在ったのではというこじつけです(爆死)
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