「うるっさいの! 我がまま言うのはこの口か! この口か!」
「ひゃう、ひゃめれひょー!! ひゃっひぇひゅうっほひょほへ」
「ちょっと待て、分らん」
「だったら、放しなさいよ! まったく! だって、ずーっと馬車に乗って野宿してま
た馬車に乗って野宿して! もうお尻痛いしお風呂だって入りたいし〜!!」
「あ〜、わーったわーった、明日になったら町に着くからそん時な」
「うぇ〜、ラクウェル姉あの若年性恍惚老人何とかして〜!!」
「グッ、パシフィカ! てめ…」
「だって、本当の事じゃん! このビュ〜ティホ〜な妹がこんなに困っているのに、そ
んな、全く私には関係ありませ〜んみたいな事言ってさ、可哀想だとは思わないわけ?」
「誰がビューティホーだ! お前なんてブーでしょーで十分だ!」
「まあまあ♪ 二人とも仲良しさんね…お姉ちゃんちょっと妬けちゃうわ」
「「誰が!!」」
「あうぅ…」
ある意味恐ろしいまでに二人の息はあっていた…
兄であるシャノンも、妹のパシフィカも結局じゃれあっているだけだ、こうしている今が一番楽しいから…
ラクウェルはそれを微笑ましく見ながらこんな一日がずっと続くと良いと思っていた…
スクラップド・プリンセス
トロイメライ
シャンソン
旅人と異人の『世俗歌曲』
第一章:旅人と異人
<大熊亭>は騒がしい…
この宿は元々付近の巡礼宿と違い年中営業ではあったが、宿そのものは特別よいと言う訳ではない。
ただ、この宿はひときわ安い為、金のない客や長期滞在の客を泊める為には適していた。
だが、タウルスの街はマウゼル教の巡礼地の一つとしては兎も角、あまり旅人の立ち寄るような観光資源と呼べるものは無かった。
そのため、今の時期殆どの宿は閑古鳥が鳴いているのが普通である。
だが、一月ほど前から長期滞在の客を泊めるようになっていた。
<大熊亭>としては珍しい事だが、巡礼の時期外れだと言うのに今日新たな客がやってきていた…
しかも、新たな客は三人連れである。
宿の店主代理…というか、殆ど一人で切り盛りしている少女ウィニアは、あまりの珍しさに目をむいたほどだ。
まあ、宿代を半値近くまで値切られたのにも驚いたが…
三人の旅人は男性一人と女性が二人という珍しい組み合わせだ、本来旅に出る人は男性が多い、女性はどうしても体力が無いし病気などにもかかりやすい。
野盗にも狙われやすくなる、その為普通は女性が旅に出る場合、巡礼の集団に入れてもらうか、隊商等に一緒に乗せて行ってもらう。
そういった意味でも、変わった旅人だとウィニアは思う。
先に泊まっているアキトもそうとう変わっているが、その辺は棚に上げておくことにした。
「うはは♪ ふっかふか! ベッドなんて久しぶりだよ!」
三人のうち一人は十代半ばの少女だ…
ベッドの上でごろごろ転がっているのでだらしなくも見えるが、少し釣り目がちな瞳は好奇心で輝いている。
髪はきちっと結い上げた黄金色の髪である、ラインヴァン王国では王侯貴族によく見られる髪の色だ。
最近は、貴族かぶれの庶民が、よく髪の色を金に染めるのが流行しているが、彼女のそれはあまりに自然でそれが地毛だろう事を感じさせる。
はしゃいで転げまわっている彼女だが、どこか高貴なそれで居てしたたかな野良猫のような独特の雰囲気を身にまとっている。
少女の名前は宿帳ではパシフィカ・カスールとなっていた。
パシフィカは部屋からベランダ部分に出る、二階にあるのと、宿が少し高台にあるお陰でタウルスの街をほぼ視界に収めることができる。
「あ〜、教会も村はずれにあるね」
「検問を越えたばかりだから、少しは気が抜けると思うわ」
パフィシカの右に立ちベランダの手すりにつかまりながら、長身痩躯の女性が呟く。
黒衣に身を包んだ美しい女性だ。年の頃は二十歳過ぎ艶やかな黒の長髪と、潤んだような黒の双眸が印象的である。
その容姿は既に大人の女性として完成していながら、どこか童女の様な幼さを残している。
その所為で、美人にありがちな近寄りがたさと言うものはない、だが、いつも幸せそうに緩んだその表情はおっとりさんの一言で片付けていいのか疑問が残る…
ウイニアはラクウェル・カスール(同じく宿帳記載)を見ていると劣等感に苛まれる。
思わず神の不公平を愚痴りたくなるほどに…
癖の強い赤毛、そばかす、妙に大人びて淡白なl琥珀色の瞳。
美しくない。可愛くもない。
不細工と言うほどでは無いが、魅力と言えるようなものもない、それがウイニアの自分に対する評価だ。
実際、十七年の人生を振り返ってみても美しいとか可愛いといった積極的な褒め言葉とは縁が無い。
それだけに、この美しい姉と可愛い妹の二人を見て自分では敵わないと感じてしまう。
パシフィカはもう外を眺めるのに飽きたのか、振り返って背後に居る青年に言う。
「ね〜、晩御飯はなんか美味しい物たべに行こうよ?」
「駄目だ」
物憂げに答えるその青年は長身痩躯、ラクウェルとよく似た姿をしている。
服装までも同じなので、ペアルックなのかと考える者もいるだろう。
シャノン・カスール(同上)はどこか気だるげなまま階段を下り始める。
部屋の案内を終えたウイニアは、下で干していたシーツを畳んでいるのだが、段々近づいてくる足音にふと目をやる。
まあ双子なのだから似ていて当然なのだが、やはりシャノンとラクウェルはよく似ている。
しかし、ラクウェルがいつも幸せそうな微笑を湛えてのんびりとした印象なのに対し、シャノンはどこか物憂げで、めんどくさそうな表情が張り付いている。
ラクウェルに似ている以上美形には違い無いのだが、いつも疲れたような雰囲気を漂わせているので妙にふけた印象を皆が持つだろう。
「なんでよ」
「金がない」
「え〜!?」
「宿代払うだけで精一杯なんだ」
「そ〜んな〜!?」
「お前がベッドで寝たいって言うからだろうが!」
「シャノン兄みたいな若年性老化健忘症候群と違って私は乙女なんだからね!」
「そんな口の悪い乙女は居ない」
「ここにいるわよ」
「ったくこいつ、このまま縛ってどっかの軒先につるしてやろうか? お前みたいのは、つるした方が良く眠れるんだよ」
「何よそれ、保存食作っているんじゃないんだから」
「っさいな、暫く干物にでもなっていてくれよ」
取り合うつもりはないと言った感じでシャノンはパシフィカに背を向けて一階に降りてくる。
パシフィカはその態度に腹を立てたのか、追いすがってシャノンの顔を潰したり広げたりする。
「ならアンタがなりなさいよ! ひらめとか〜! ふぐとか〜!」
「ひゃめろっへ!」
シャノンとパシフィカはもがもがやりながらカウンター前までやってくる。
物憂げなはずの印象も変な人々でくくってしまいそうになるウイニアだ…
アキトとはかなり違っているなウイニアは考える。アキトはいつも少し張り詰めたような印象がある。
そして童顔で美形と言うには少し大きい目をしているのだが、表情や行動がそれを裏切っている。
だが根本的に何かに膿んでいるような印象はどちらも同じかも知れないとウイニアは思う。
「お元気ですね、お二人とも」
「ごめんなさいね、騒がしくて」
そんな中いつの間にか手前に来ていたラクウェルにウイニアは皮肉を言う…
ラクウェルは謝ってくるが、ウイニアにとって見ればそんな事はどうでもいいことだった、
実際は仲のいい二人を見ていて羨ましいだけなのだ、だからウイニアはつい皮肉で返してしまう。
「店内を汚したり備品を壊さないのなら、殴り合いのケンカをしようが、輪になって踊ろうが、お好きにしてください」
この小さな安宿の従業員は二人。
その一方である祖母は身体が弱く、奥の部屋で寝ている事が多いため、<大熊亭>の実質的主人はウイニアである。
アキトが来てからは、手伝ってもらう事もあるが、長期滞在の上、値段をまけている身である、その程度は当然だろう。
「ついてからずっとお二人はケンカしているようですが…兄妹ってそういう感じなんですか?」
「さあ…他人の事は分からないけど……
ウチはちょっと事情が複雑だから…」
何気なくウイニアがした質問にラクウェルは困ったような表情で返す。
いつの間にかパフィシカはシャノンに首根っこというか、服の襟元を引っつかまれて宙吊りにされていた。
「さて、吊るすのにいい軒先でも探しに行くか」
「ちょっと! それが臣下が示す態度!? いい? 臣下っていうのはね、主人のそばにいられる事を無常の喜びとすべきで…」
「お姫様、アンタに態度どうこう言われたかねーですな」
「お黙り!」
確かに普通の兄妹とは違うらしかった…
「…(汗)」
この二人を見てのほほんとしていられるラクウェルもかなりの大物だとウイニアは思った。
淡い闇の中で、四つの影が佇んでいる。
ただ、その四人の男の姿は何もかもが相似しており、異様なまでの統一感があった。
同じ様な髪型、背丈、衣装…しかし、それよりも不気味なのは、表情すら全く無くただただそこに向ける空洞のような瞳にあった。
そう、感情など感じられない人形のような統一感、それが四人を不気味に浮き立たせている。
よく見れば、別に顔自体は似通っていない、髪の色や肌の色すら完全に統一されては居なかった。
しかし、それでも四人はそっくり同じに見えた。
統一されたかのような同じ行動と、同じ意思によって…
「…謹聴せよ」
暗闇に差し込んでくる白光…
闇に慣れためにはまぶしすぎるその光に四人は躊躇することなく振り向く。
四人は白光を、いやその中に浮かぶ人物を見た。
パージャース
「<粛清使>よ」
それが、男達の名前。
個人の名称など無い、その必要も意味も無いからだ。
「汝等に新たな使命を与える」
男達に白光に浮かぶ人物の声が響く。
白光の中の人物の姿は、光の中で見えないが、影となる均衡だけでもその姿が完全に近い、そうある種の神秘めいた物であることが分る。
「主なるマウゼルの名において、呪われた魂を浄化せよ」
だが、その美しさを前にしても彼等の表情に変化は無い。
彼等は信仰の為に存在し、信仰の為に生き、進行の為に死ぬ、そういう存在だ。
それ以外は彼等の脳には届かない。
「呪われた魂の名は、パシフィカ」
男達は小さく身じろぎする、目標を定められ引き絞られた弓だ震える様に。
はいき
「<廃棄王女>パシフィカ・カスールだ」
やはり、男達の表情に変化は無い。
彼等は、いかなる障害も貫いて、目標を<浄化>するために人間性の全てを捨ててきた者たちなのだ。
「行け」
彼等は一糸乱れぬ動きで一礼をすると、次の瞬間にはその場から掻き消えていた。
引き絞られた矢はただ放たれるのみ。
彼等は、ただ機械の様に正確に目的を果たす。躊躇いも、疑いもない。
たとえ、光の中の人物に、本体には存在しない筈の巨大な翼の影があったとしても。
中央大通りに立ち並ぶ商店。
その一つ、タウルスで最も大きな雑貨屋の中にパフィシカたちの姿はあった。
ここ20年ほどラインヴァン王国では戦争も無かった為、物資の流通は行き届いてる。
元々王都にしかなかったような総合店舗といっていいものだが、最近では流通経路のある町では結構見かけるようになっている。
大量入荷する為、品物が安くそれなりに繁盛しているようだ。
そんな店の中で…
「ああ! 可愛いわ♪ あれ可愛いわ♪ ね? そう思わない? あ、これも可愛いわ♪」
パタパタとまるでハムスターの様に小刻みに駆け回っているのはパシフィカ…ではなく、実はラクウェルの方であった。
ウィニアに町の案内を頼んだパシフィカの保護者としてついてきたはずなのだが、保護が必要なのはむしろラクウェルの方だ…
小物雑貨のコーナーでどうにも押さえられないかのように、色々物色して回っている。
もっとも、衝動買いしない程度にはまだ理性が残っているらしいが…
「これも可愛いわ! これもこれも可愛いわ! あああこれも…」
長年一緒にいるパフィシカは今更驚きもし無いが、流石に初めてみるウイニアは驚きを隠せない。
黒衣の美女が、幼女の様にはしゃぎ回るその姿は…妙に微笑ましくはあった。
「ちょっと外で休もうか?」
パフィシカは苦笑してそういった後、はしゃぎ続けるラクウェルに話しかけた。
「ラクウェル姉、私たち向かいの屋台で休んでるから」
ラクウェルが可愛いわと連発する合間に手を振ったのを確認すると、
向かいにある屋台の果実水を売る店に入る。
「お! 見ない顔だねお嬢ちゃん。旅行者かい? 今の季節には珍しいが…」
「うん、そう」
パシフィカはまるで旧知の間柄でもあるかのように気さくに応じる。
ウイニアにはこういう事すら羨ましいと思えた。
「おじさん、お勧めのやつ二杯ね」
「困ったな、どれもお勧めだよ。うちのはさ」
「うにゅ、それは失礼」
パシフィカはパシッと自分の額を叩いてみせる。
それが受けたのか、店主は相好を崩しながら、
「ま、今年はリンゴが一番良い出来かな?」
「じゃあ、それ」
「あいよ」
出てきた果実水のカップにはこれでもかと生クリームが乗っていた。
「これはオマケだ、可愛いお嬢ちゃん」
「またまた、そういうことされちゃうと惚れちゃうじゃないの!」
「はっはっは、滞在中ごひいきに」
等と言う会話の後、屋台の近くに並べられている椅子の一つに座る。
ウイニアもパフィシカに習うように隣に腰を下ろした。
パフィシカはそれを確認した後。
「変な姉でしょ? 黙ってれば美人なのにね?」
それを言うならパシフィカもそうなのだが、自分の事は見えないのだろうとウイニアは納得すると。
愛想笑いを浮かべ果実水を受け取った。
「でも、夢中になれるものがあるのは素敵だと思います」
「まあ、ラクウェル姉、昔からああいうのかなり集めてたんだけどね…」
ラクウェルの部屋と言えば、整頓はされているものの、それでも限界近いものが収納されていたとパシフィカは思い出す。
姉はそれらの小物一つ一つに愛情を注いだでいた事を。
「でも、旅に出るときにまとめて処分しちゃったから。久しぶりに見ると嬉しくなっちゃうんだろうね」
そして、未練を断ち切る為に全てを火にくべていた姉の姿も。
「はあ、ではパシフィカさんたちは何の為に旅を?」
「んー、聞きたい?」
「そうですね、失礼とは思いますけど…ウチのお客さんの中には、ワケありの人も多いので…」
「ワケあり?」
ぴくりとパシフィカの表情が動く。
「借金取りに追われている人とか、宿代を踏み倒そうとする人とか。やはり安宿ですし、殆ど私一人で経営しているような物だからなめられちゃうのかも…」
「ああ、そっかー、なるほどね、うん、大変だね〜」
パシフィカは顔をクリームだらけにしながら重々しくうなずく。
「まあ、慣れましたけど」
「そりゃー、客の素性も知りたくなるわよね」
「いえ、カスールさんには一週間分の宿代をもらってますし、無理にとは…」
「その、<お客さん用>の話し方をやめてくれたら話してもいいかな」
「あの…」
ウイニアは普段から、人と深く付き合わないことを心に課してきた、自分が外国の人との混血だから苛められる事が多く、
また唯一の友達だと思っていた少年に、「あんなのと友達の分けないだろ」と言われた為に心の傷がそうさせてきたのだ…
それでも…
「いえ、あの…」
「…ん?」
パシフィカは打算も無くウイニアの表情を覗き込む。
打算など感じられないだけにその瞳はウイニアを追い詰めた。
「うん…」
その明け透けさの前に観念したウイニアは
それでも、どこかここちいいものを感じていた。
「教えて、パシフィカ」
「うん、そうだね…私…ひとつ所に定住しない方がいいの」
「え?」
「だから、シャノン兄もラクウェル姉も私に付き合って行くあての無い旅をしてくれてるのよ」
パシフィカの表情に変化は無かった、しかし、それでもウイニアには何か愁いを帯びているように見えて仕方なかった。
旅人と言えば聞こえはいいが、基本的に収入が無いのだから持って出たお金が底をつけば殆ど乞食と変わらない…
しかも、旅の途中人のいないところで病気や怪我をすれば、自分達で何とかするしかないのだ。
とてもでは無いが、簡単にできる事ではない。
「私が奪っちゃったんだよね、シャノン兄やラクウェル姉の趣味も、友達も、故郷も、平凡な生活全て…」
「ど…どういう意味?」
「それは…」
パシフィカは僅かに言いよどむ…
教えると言っても、どこまで話してよいのか迷っているのだ。
「それは、汝そのものが禁忌であるがゆえ」
断じるその言葉は、パシフィカたちの背後から響いてきた…
俺は、ほぼ毎日ボランド商店に出て働いている。
ボランド商店は最初の印象と違い特に金銭的に不自由している風ではなかった。
店自体も木造ではあるものの、落ち着いた雰囲気でとても安らげる風に作りこんである。
それに、ボランド商店の出すパンは凝った物が多く評価も高い、客の入りも良かった。
ただ、同じ中央大通りにあるクーナン商店とは町に来てからずっと張り合ってきていたようだ。
この店は、別の町でもっと大きな店を出していたのだが、使用人が金を持ち逃げしたため、
元の店をたたみ、この町に店を出したらしい、元々老舗だった事もあってか客は直ぐについた。
その為、クーナン商店は客をとられて一時困った事になっていたらしい、
その後暫くして客が回復したクーナン商店はボランド商店を目の敵にするようになったそうだ。
それに対し、ミシェルは負けてなるかとクーナン商店に対抗していたらしい。
その所為もあって、この前の時は凄い剣幕だった訳だ、
もっともミシェル・ボランドと言う女性はまあクーナン商店と張り合いたいと言う思惑もあったが、元々お祭り好きな傾向にあるらしい。
俺が来てからは俺を使った販促活動に余念が無い。
その甲斐もあってか、最近はボランド側が顧客を獲得している。
「今日のパンは大体はけたみたいだな」
「そうね、流石アキトさん! アキトさんが来てくれる様になってからマダム客が増えて増えて! よっこの! 後家殺し!」
「ぶっ、あのな…」
「でも本当にね、女性客の殆どこっちに流れてるみたいだからびっくりしてるんだよ私も」
「まあ、旅人のバイトは珍しいからな。それにミシェルが怪しい引き込みで獲得した客も多いだろう?」
「あはは…ばれたか(汗) でも、引き込んでみてもパンが不味くちゃ長続きしないしね、このカレーパンなんて凄いよ実際」
「惣菜をパンに詰める発想は別に俺が考えた訳じゃない。旅先でであった物を覚えていただけだ」
「ふーん、アキトさんって色んな所旅してきたんだね。私ももともといた町からこっちに来なくちゃならなくなった時は少し旅したけどさ、巡礼以外で旅をする
人は珍しいよ」
「まあ、ちょっとな…」
ミシェルは俺の事に興味を持った様子で話を繋げようとする。
しかし、まさか私は別の世界から来ましたというわけにも行かない。
俺は言葉を濁してその追求を避けた。
ミシェルは不満そうだったが、それでもその先を聞いてくることは無かった。
俺は手早く後片付けを済ますと、店じまいにする。
一日にパンを焼く量は大体決まっている、今まで売れた量を概算してから作るのでほぼ夜になる頃には売り切れる。
しかし、今日はわりあい早く売り切れた。
まだ夕方と言うにも少し早いだろう…
今日の給金をもらい、俺は裏口から外に出ようとする。
だが、ミシェルに呼び止められた。
「ねえ、日雇いをやめて本格的にウチで働いてみる気はない? アキトさんのパン人気だし。出来ればこれからも働いて欲しいんだけど」
「…考えさせてくれ、今すぐ答えを出す事はできない」
「うっ、うん…いい返事待ってるよ」
正直パン屋をやらないかと言われた事は嬉しい。また料理に関係する仕事に就けるとは思っていなかったからだ…
だが、俺はこの先どうしていいのか決めかねていた。
このまま平和に暮らせればそれでいいのかもしれない。しかし、俺は…
そんな事をふと考えていると。俺の前を異様気配を持った集団が通り抜けた…
俺には関係ないこと…そう思おうとしたが、何か引っかかる。
俺は気配を消してその集団の後をついていく事にした。
「ウイニア逃げて! 早く!」
先ほどの集団に追いつくと、少しカール気味の金髪をきちんと結い上げた少女が少し年上の赤毛の少女をかばっている所に出くわした。
どうにも、この集団は金髪の少女を狙っているらしい…明らかな殺意が放射されている。
金髪の少女は赤毛の少女、よく見れば<大熊亭>でお世話になっているウイニアだ。
の前に出て、ウイニアに言い聞かせるように話す。
「あいつ等の狙いは私だから、逃げればウイニアまでは追ってこないと思うわ」
少女は気丈に言い放つ。
こういう場合、俺にできる事はそう多くない。
なぜなら、少女がウイニアを庇うのが演技である可能性は低い、先ほどからの殺気や、彼女の気の持ちようを見ていればわかる。
少女は本気でウイニアを逃がそうとしている、ならば…
「あまり穏やかじゃないな」
「え?」
「あ、アキトさん」
少女とウイニアが同時に俺を見る。
先ほどのやつらの気も一時的にではあるが、こちらにそれたようだ…
気配を消して近づいていたから当然だが、やつらは俺の存在に気付いていなかったらしい。
「誰?」
少女は警戒する先を俺に変える。
しかし、ふと気付いたようにウイニアに確認を取る。
「ねえウイニア。彼、知り合い?」
「え、あ…まあ、知り合いというか…アキトさんはうちに泊まっているお客さんです」
「ふ〜ん、アキトって言うんだ。それで、教会とか軍の人?」
「いえ、パン屋でバイトしている人です」
「じゃあ、アキト! 危ないから逃げて!」
この少女は俺の事まで心配してくれるらしい。
しかし、見たところ十台半ば…そんな少女に呼び捨てにされる俺って…(汗)
一応これでも二十五なんだが…
男達は俺を無視する事に決めたようだ。
金髪の少女に向かい疾駆する。
しかし、俺は瞬間的に木連式の肉体操作術である<纏>を使い加速。
男達と少女の間に割り込む。その際に、一人目の後頭部に膝を叩きこんだ。
一人目は、その場に倒れこむ。打撃の精度からいって昏倒した筈だ、半日は動けまい。
残った三人は、同時に懐から三日月の形をした刃を二つ重ね合わせた武器を取り出す。
確か双月刃という暗殺用の武器だろう、火星の後継者の連中の中には使う奴もいた。
パージ
「粛清」
唱和するように、連中が声をそろえる。
見たところ、連携もなっている、しかし、それぞれの意思と言う物が感じられない…
リーチの無い俺では少女から離れて戦えない…
場を据えて戦うのは、無手は不利だな。
そう考える間もなく、三人はそれぞれ別方向から襲い掛かって来た。
俺は、交差の隙に倒す為の構えを取るが、気配がしたので跳び下がった。
「…壁よ・阻め!」
…しゃん!
涼やかな音が通りに響き渡ると共に、目の前に光の幾何学模様が現れる。
魔法…なのか?
異世界だけあってそういう事には事欠かないらしい。
気配の方を振り向くと、黒い旅装束に身を包んだ黒髪で長身痩躯な女性が片手を構えていた。
ある種の凛とした美しさがそこにはあった、しかし、その湛えられた微笑と、
もう一方の手に抱えている小物雑貨で溢れかえった紙袋が緊張感を台無しにしてはるが…
「ラクウェル姉!」
金髪の少女がラクウェルと呼ばれた黒髪の女性に駆け寄る。
ウイニアはどうしていいのか分からずその場にとどまっているが、少女はそれなりに場数を踏んでいるのだろう、至極落ち着いたものだった。
こういうことにいつもあっていると言うことか、どちらが悪いとは言わない。しかし、問答無用で殺しに来る人間と比べればマシの筈…
余計なおせっかいかも知れないがな。
「…<粛清使>の方々。妹に何か御用ですか?」
ラクウェルと呼ばれた女性は何か日常会話でもするような気軽さで<粛清使>と呼ばれた男達に話しかける。
<粛清使>と呼ばれた男達は先ほど阻まれて砕けた双月刃を放り捨て、何事も無かったようにまた双月刃を懐から取り出す。
ある意味異様な事態ではあった…しかし、彼女はそのままの表情で…
「炎の民よ・踊れ」
その声が終わると同時に爆音が辺りにはじけた。
突如として生じた爆発に、人々が悲鳴を上げて地に伏せる。
もうもうと舞い上がる爆煙と砂塵が辺りを白く塗りつぶした。
「パシフィカ、パシフィカ」
煙にまぎれて、ラクウェルが俺達のいる方に駆け寄ってきた。
「逃げましょ」
「倒したんじゃないの?」
「いや、気配を見るに。直撃ではなかったようだな」
「え? そんなの分るんですか?」
俺が、口を挟んだのが不思議だったのか、ラクウェルは俺を見てきょとんとしている。
「それより、逃げるとしてどこへ行くつもりだ?」
「取りあえずは<大熊亭>へ、そこに弟がいます。弟の…シャノンの剣なら何とかなるかもしれない。急ぎましょう!」
「うん、行こ!」
そう言って、ラクウェルと金髪の少女は駆け出す。
そして、金髪の少女に引っ張られてウイニアも走り始めた。
俺は、今の状態なら3人程度何とかなるだろうと、その場に留まろうとしたが、いつの間にかラクウェルに腕を引っ張られていた。
戦闘に関係ないと考えていた所為で反応が遅れた…お陰で、俺も一緒になって逃げる羽目になった…(汗)
あとがき
はあ、いろいろ失敗しました(泣)
分りやすくしようとすると、小説の流れのまんまになったり(爆)
それだけでもなく、アキトの出番少な!
とか、情け無い気持ちで一杯です。
でも、これなら多分すてプリ初めての人でも分ってくれるかも?(爆死)
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
WEB拍手ありがとう御座います♪
スクラップド・プリンセス・トロイメライは5月24日零時から5月27日23時までにおいて、166回の拍手を頂きました。大変感謝しております。
コメントを頂きました分のお返事です。
5月24日1時 楽しく拝見させていただいております。
ありがとうございます! これからも楽しい作品を心がけますね♪
5月24日1時 すてプリは好きなので楽しみにしてます。頑張って下さい
はい、期待を裏切らないよう頑張らせていただきます! 今後もよろしく!
5月24日3時 アニメ版のステプリは知りませんが、楽しみにしています。
小説版がメインになると思いますので、問題はないと思いますよ。今後もよろしくです♪
5月24日7時 すごく面白そうです。続きが楽しみです
はい! 今後も楽しい作品になるよう努力させて頂きます! ありがとうございます!
5月24日7時 序章でのアキトの状態から誰かに拾われると思ってたけど、まさかベルケンスでくるとわ!
ベルケンスは、なんだか扱いやすいキャラな気がしたので(爆) 今後も出るかも?
5月24日12時 この先がどうなるかとても楽しみです^^
色々コネタは考えていますが、今の所はアキトの行動次第ですね。頑張りますのでよろしくです♪
5月24日12時 つぎも早く書いてください楽しみに待ってます
はい、頑張ります。次回はサモンの方の予定です。そっちもよろしくです♪
5月24日14時 お早い続き希望w
次回も頑張って早くあげるよう努力いたします! 限界近いですが(爆)
5月24日15時 ラクウェル
5月24日15時 宣伝対決楽しみにしてます
はい、でもまだそこまで行きそうにありません(汗) もう少々お待ちを。
5月24日15時 最初に出会うのがベルケンスだったのにびっくりしました。あそこのパン屋の新作といえば……スーピィ君!
スーピィ君私も早く出したいです(汗) 何故私は展開が遅いのだろう(泣)
5月24日15時 シャノンたちとの出会いがどのようになるのか楽しみです
更に、次回ということで…申し訳ないです。(汗)
5月24日18時 アキトがどんな活躍をするか楽しみです!
今後、少しずつアキトの活躍が増やせれば思っております。頑張りますのでよろしくです♪
5月24日18時 次の話を楽しみにしてます。
ありがとうございます! 次回も頑張ります!
5月24日22時 おもしろいです!がんばってください!
はい、そう言っていただけると嬉しいです! 今後もがんばらさせて頂きます!
5月25日5時 サレナはどうなったの?
ははは…まあ、壊れて無くなってます。全く関係しないとも言い切れないですが…
5月25日14時 竜機神は小説版というのは同意しますねー。あーゼフィリスでるのが楽しみだ。
次回やっとちょこっとだけ、出せます(爆) あの名シーンは外したくないので(笑)
5月27日16時 これから、どういう風にクロスしていくのか楽しみです。
まだまだ、クロスと言うには早い程度しか一緒になっていませんので、少しずつ何とかしていきたいですね。次回もよろしくです!
それでは、他のお返事は、作品が出たときにお返事させて頂きますね。
感
想はこちらの方に。
掲示板で下さるのも大歓迎です
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