トランスバール皇国暦402年、ジェラール皇帝が王位に就く、ジェラールはこの際に軍隊を率いて白き月に侵攻し、直轄地とする。


トランスバール皇国暦407年、エオニア王子は、禁忌を犯して皇国辺境へ追放された。


エオニアはジェラールに対し次期王位権をめぐりクーデターを起こしたのである。


しかし、エオニアをクーデターに扇動したシグルド・ジーダマイア少将が開戦と同時にジェラールに寝返ることにより未然に阻止されてしまった。


誰の目にもジーダマイアがジェラールと共謀してエオニアを陥れたのは明らかであった。






ギャラクシー エンジェル
新緑の萌芽









「そして、エオニアはトランスバール暦412年、そう、一ヶ月前にクーデターを引き起こしたのじゃ」

「なるほどな……」



こうして聞くと、確かにエオニアにも同情に値する部分はある。

煽られて、立ち上がってみたら既に回りは敵だらけ、いたたまれない話ではある。

おそらくジェラールに反旗を翻す可能性のある者を排除するための旗頭にされただけなのだ。

だが……。



「そうじゃ、お主もわかるじゃろ?」

「ああ、だからといって再度のクーデターで人がついてくるわけがない。

 前回で既にあらかた反逆の心を持ったものは狩られていたはずだ。

 だがさっきの正当なんたらの話を考えれば、トランスバールの軍隊の何割かは寝返ったということになるはず」



正面に座るルフト・ヴァイツェン、元はトランスバール皇国士官学校の校長で、現在は近衛艦隊の司令官でもある。

いつもただ、不敵なのかひょうきんなのかわからない笑いをたたえている男だが、今は真剣な表情をしている。



「だとすれば、テコ入れがあったという事になるな」

「その通りじゃ、それもただのテコ入れではないぞ。

 とはいえ、その出元は不明、見た目は我らの艦隊と同じじゃがおそらくは無人の黒い艦隊を率いてきおった。

 強さは並程度じゃが数が違う、用心のためか我らの10倍ほど揃えてきおった、抵抗むなしく皇都は陥落、惑星内ほとんどの都市が全滅じゃ……」

「なっ!?」



ルフトが渋い顔になるのもうなづける。

それはつまり、既にトランスバール皇国は敗北しているということでもあるのだ。

今の艦隊そのものが残党だといってもいい。



「じゃが、希望はある」

「希望?」

「そうじゃ、あの時近衛艦隊以外の艦隊は近くにおらなんだ、全体から見れば寝返ったものもまだ2割に満たぬ。

 急ぎ全艦隊を召集し、まだ生きておられるシヴァ王子の下に戦えば勝てるじゃろう」

「……成功率は?」

「さあの、甘く見積もって30%というところかの」

「だろうな……」

「じゃが、白き月が進行を阻んでいる今しかないのじゃ、突破されれば0%じゃしの」



ジェラールが白の月のシャトヤーンと婚姻を結んだことで、白の月そのものが現在の皇都といっても過言ではなくなっている。

そして、惑星トランスバールは壊滅した今、もう縋れるのはシャトヤーンとその息子であるシヴァ王子しかいないというわけか。

部の悪い賭けだ……。



「それでお主の役目じゃが、この儀礼艦得エルシオールで辺境宙域を逃げ回れ」

「……オトリか」

「艦隊を集めるまでの時間が必要じゃからの」



簡単に言ってくれる。

相手の戦力すら把握できないというのに。



「その代わり、エンジェル隊をつけるぞ、最強の部隊の名は伊達じゃないことはわかったと思うが?」

「……」



否定はしない、前回のような艦隊規模なら相手にもならないだろう。

しかし、こんな血みどろの戦いに少女達を参戦させるのはどうなのか……。

特に、人の心配ばかりするあの小さな少女が人を殺すというのは考えたくない。

確かに、この世界の戦争では脱出装置関連はかなり強化されていて、人死には出にくい。

しかし、エオニアのように都市へ向けて発砲すればその限りではないし、何より100%などありえない。



「もし、俺が断るといったら?」

「はは、そりゃありえんな。お主にあいつらを見捨てることなどできまいよ」



とたん、背後の気配が乱れ、扉がきしんで開く、そして5人の少女達が雪崩を打って倒れこんできた。

いることはなんとなくわかっていたが、聞き耳を立てていたとはな。



「あはは……ごめんなさい……」

「ちょ、そそのかしたのはミントでしょ!?」

「えーなんのことですの? 知りませんわ」

「まあ、気にしないこった。興味があるのは悪いことじゃないだろ?」

「……」



5人がそれぞれ言い訳がましいことを言ったり知らんふりを決め込んだりしている。

確かに、言いたいことはわかるが……。



「まあ、そういうことじゃ、がんばるんじゃな若人」

「……」



俺は楽しそうにしているルフトをにらみつける。

殺気すら放っているのだが、ルフトはどこ吹く風で、更に言う。



「そうそう、この艦にお主の私物も積み込んでおいたぞ」

「私物?」

「ロボットじゃよ」

「エステバリスか!?」

「そう呼ぶのかの? あのままにしておくのも危ないと思って白き月に預けておったのだが。

 解析して少し改造したようじゃの、

 あのままでは起動に必要なエネルギーが得られないとか言っていたからその当りではないかの」

「改造……」



一瞬セイヤさんの顔が浮かぶ、しかし、ブラックサレナの外装は破損していてもう無いはず。

内部のテンカワSPもがたがただったろう。

そう考えると、どうなっているのか気になり俺は急いでハッチのある方向へ向かった。



「新機能じゃが……っと、もう行ってしまったか。まあ、実戦で知るのもいいかの」



エンジェル隊を押しのけるようにしながら急ぐ俺には、

含み笑いのような表情をした老人のつぶやきは、聞こえなかった……。






俺はエルシオールのハンガーデッキに走りこむとざっと内部を見まわす。

さすがに大きい、下手をするとハンガーデッキ内にナデシコが入ってしまいそうだ。

40m〜60m級の紋章機を5機も発着させ整備するのだから当然ともいえるが。

だが逆にそんなハンガーデッキだからこそエステは悪目立ちしている……。



「……ど真ん中じゃないか」



そう、ハンガーデッキは正確には予備も含めて6つあり、横に並んでいるのだが、その丁度真ん中にエステを整備するハンガーが存在している。

それも、40m級の紋章機に挟まれると6mしかないエステはおもちゃのようだ。

ど真ん中にあるだけに居たたまれない……。

あのおっさんめ……わざとだな……。



「おっ、来たね艦長」

「……君は?」

「整備班長のクレータ、よろしくね」



鼻のあたりに少しそばかすのある空色の目をした女性は俺にいたずらっぽく微笑む。

方まである金髪をカチューシャで縛り、つなぎを着ているところからすれば確かに整備班なのだろう。

しかし、胸の部分をはだけて黒いインナーを出しているのは汚れやすい整備班としてはどうか。

まあ、そんな事を考えても仕方ない。



「エステバリスを改造したと聞いたが?」

「うん、今最終チェックをさせている処。艦長がいつでも使用できる状態にしておくのが私の仕事さ」



そう言われてテンカワSPを見る、サレナの増加装甲はつけていないが、

見た目はあまり変わっていない、細かい点はいくつか違うようだがどんな機能があるのかは判別がつかない。

とりあえず、整備班長に聞いてみることにする。



「所で、どういう風に改造されているんだ?」

「細かいレスポンス関係はむしろ私たちが学ぶことのほうが多かったけど、

 エネルギーシステムが外部からのものになっていたから、内蔵式に変えておいたよ。

 後何点か武装の変更と……」

「出力はどんなものだ?」

「以前と同じっていうわけにはいかないかもね、システムが重力波エネルギーで動いていたから。

 その代り、一次的ならブーストできる、その時なら以前を上回る動きができるかも?」

「なるほどな」



つまりは、相転移エンジンからの供給と同じわけにはいかない、だが内蔵式なので一時的ならリミッターカットがきくということか。

なんにせよ、エステの最大の欠点であるエネルギー供給艦から長時間離れることができないという点は解消されているというわけか。



「それで、ディストーションフィールドは張れるのか?」

「ああ、あのバリアね。問題はないはずよ、システムが完全に解明されてないから何とも言えないけど、エネルギーは足りるはず」



それは、ある意味重要なことではあった、技術流出はまだ起こっておらず、フィールドは張れるので戦闘も可能。

なにせ6m級だ、フィールドアタック(ゲキガンフレア)以外の武装では戦艦に対して大きな損傷は与えられない。



「それと、新しい……」

ヴォー!!ヴォー!!ヴォー!!


「どうした!?」

『アキト! おお、ハッチにいたか。早急にブリッジにきてくれ!! 敵艦隊が現れた!』

「レスター、ここに敵配置を転送しろ」

『わかった』



格納庫の小型スクリーンに敵の配置図を呼び出す。

敵艦は100隻近い、それも高速巡洋艦がメインだ。

なるほど、以前の倍を超える艦隊、で押し込むつもりか。

しかし、今は俺の艦隊以外にも近衛艦隊の残存戦力がある、何よりエンジェル隊にとってはさしたる障害ではないだろう。

おそらく後詰めか、挟撃用の艦隊も配置されているはず。



「レスター! 無人哨戒機を飛ばせ、おそらく別動隊がいるはずだ」

『わかった、それで正面の敵にはどう対応する?』

「相手は方矢の陣形をしいている、突っ込んでくる敵には通り抜けてもらえ」

『……なるほど、ではその方針で配置する』



レスターは二ヤリと唇をゆがめて応じる。

レスターは士官学校の首席をとったこともある男だ、方矢の陣形のつぶし方はよく知っている。

俺に聞いたのは一応俺が上官だからにすぎない。



「ところで……何をしているのかな?」

「うぇぇぇ……挟まっちゃいましたぁ……」



例の如く例によってというか、俺を観察していたらしいエンジェル隊だったが、

その一人桃色の髪をした少女、ミルフィーユ・桜庭がドアの上のほうに挟まって更にクレーンに服をひっかけている。

このままでは、服が破れてさらにバランスが取れなくなって扉に挟まった足を支点にして頭を地面にぶつけるだろう。

どうやったらこうなるのか?



「ちょっと! いやらしい目で見てないで手伝いなさいよ! このままじゃえらいことになるでしょうが!!」

「ああ……そうだな」



少し茫然としていたらしい、まずいな、今は戦闘の最中だ。

むしろ、彼女らには急いで紋章機に乗ってもらわねばならないのに。

しかし、そういう考えとは裏腹に、こういうことに懐かしさを覚えてもいる。

ナデシコに乗っていたころもハプニングは日常茶飯事だった。

エステの整備をしていた整備員達にも手伝ってもらいどうにか彼女を助け出すことに成功した。



「あら、あらあら……アキトさん面白い過去を持ってらっしゃるのね」

「……ミント・ブラマンシェ確か君は……」

「そうですわ、私心が読めますの。できればそのナデシコとかいう船のこともっと詳しく知りたいのですけど?」

「語るのは構わないが、今は戦闘中だ、後にしてもらおう」



ミント・ブラマンシェ。青い髪の毛と青い瞳をもつ少女、もっとも俺と同じで童顔であるので

17歳だが見た目は小学生……。



「ア・キ・ト・さん?」



まあ、ともかく名門ブラマンシュ財閥のお嬢様である。

人の心を読む力(超能力)と場の空気を読む力(洞察力)を両方持っているらしいが……。

あまり読まれたくないこともある、お互いのためにも。



「さて、あたしらは紋章機で待機ってことでいいかい?」

「ああ、よろしく頼む。別動隊を発見次第叩いてもらいたい。今の状況おまま終わるとは思えない……」

ドォォォォン!!!



いきなり、俺のエステの近くに大穴があく。

エルシオールの防御力はかなり高いはずなのだが、それでも抜けてくる砲撃がないわけじゃない。

それでも、今回の砲撃はかなりまずい位置だった、俺達があのまま、エステの近くにいれば死んでいただろう。



「またったくミルフィーユの悪運のおかげかねぇ」

「どういう……」

「見たまんまさ、ああいう子なんだよ。それよりも」

「ああ、急いで乗り込んでくれ、シェルターが下りれば空気流出は止まるが、次がないとも限らない。

 整備班も生活区画のほうへ!」

「アンタはどうするんだい、アキト?」



軍帽とモノクル(片眼鏡)をした赤毛の女性が聞いてくる。

大きな胸を近づけながら、俺に迫るその姿はある意味そそるものがあるが、眼は笑っていない。

まだ俺の軍人としての資質に疑問を持っているというところか……。



「現時点ではブリッジに戻るよりはエステに行ったほうが早い。エステバリスから指示を出す」

「ほう、あのちっこいのでねぇ。大丈夫なのかい?」

「まあ、あれはあれで強いのさ」

「お手並み拝見だね、じゃあアタシも行くよ」



俺もシェルターの降りるのを待ち、エステへと向かう。

エステバリスに乗り込んで思ったのは、予想以上にシステムが変更されている事だった。

IFSはどうやら機能しているようだが、アサルトピットによる脱出機構が排除されている。

その代りに見たこともないようなエンジンが搭載されている。

武装もあらかた排除されており、ワイヤードフィストやラピッドライフルもない。

残っているのはイェミテッドナイフくらいか、後は巨大な槍のようなものを持たされている。

後、見たこともないようなシステムがいくつも組み込まれているようだが、実質的に役に立つのか疑問だった。



『天頂方向に黒い艦隊を発見、その数……200隻。いけるか?』

「正面の戦力は頼むぞ、レスター」

『ああ任せておけ、数もほぼ同数なんだ、まず負けないさ』



黒い艦隊……敵の主力の一部ということだろう。

だがここで打ち破らねばこちらの負けだ。

プロープからの情報をエステで確認したところほとんどが高速巡洋艦。

つまりは一撃離脱でこちらのどてっぱらに穴をあける気だろう。

時間もない、突撃して向こうの進行を阻害し、こちらの艦隊がオトリ艦隊をつぶすのを待つのがベターだな。



「エンジェル隊出撃、目標、天頂方向の黒い艦隊だ」

『『『『『了解!』』』』』



時間もかけず5機の紋章機が出撃していく。

どの機体も特徴的な形をしており、それぞれ戦法も違う。

テンションによって能力が変わるらしいが、現在は特に高くも低くもないように見える。

黒い艦隊200隻を相手に勝てるかどうかは戦力をいかに使うかということだろう。

俺も少し遅れて発進する、機体の確認のためにもちょうどいい。



「フィールドの出力も安定している。いけるな」



この槍、フィールドの収束用に用意してくれたようだな。

これなら、ある程度大きなものを貫いても問題ないだろう。

俺は先行する紋章機達の動きを見ながら、目星をつけた一隻にフィールドを纏ったままつっこむ。



「おおおお!」



サレナほどの加速力はないが、槍の収束力のおかげで宇宙船の装甲を貫き反対側まで突き抜ける。

この調子なら戦闘に支障はなさそうだ、だが、それはつまり白き月のエンジニア達がエステバリスのシステムをほぼ把握しているということ。

あまりほめられた事態ではないが、久々のエステでの戦いは俺を興奮させた。



「沈め!!」



次々と高速巡洋艦に風穴をあけていく。

その数が10を数えたころ……。



『ちぃ! すまん。敵が太陽風にまぎれて接近していたことを無人哨戒機が見逃していたらしい。

 そこから10時の方向にもう一艦隊100隻を確認した!』

「距離は!?」

『後3分ほどでそっちに接触する!』

『確認しましたわ、艦隊規模確かに100隻。内訳戦艦16、巡洋艦30、駆逐艦50それにこれは……空母ですわ』

「なるほど、数で押す作戦か、戦闘機を一機一機落とすのはつらいな」

『大丈夫ですわ、私の紋章機も空母ですのよ?』



向こう側は4機の空母を押し立ててエンジェル隊の左から攻めかかる。

それに対し、ミントの操るトリックマスターはそれに対し、格納していたらしい小型の砲塔を飛ばす。

砲塔は自立飛行し、いくつもの目標へマルチロックでビームを放つ。

ミントはそれらを管理ロックする作業を平行してやっているらしい。

まるでルリやラピスのような凄まじい計算能力だ。

しかし、状況はあまりよくならない、既にエンジェル隊は100隻近い戦果を挙げていたが、相手は無人艦らしく、ひるむ様子も無い。

対してこちらは疲労が蓄積し、更に敵に囲まれるという状況の圧迫感が彼女らのテンション低下につながり始めているようだ。

このままではまずいな……。



「一度下がって大勢を立て直す。どちらにしろ限界も近い、合流してから撤退ということもありうる」

『ええ? ちょっと、私は今燃えはじめてきたところなんだから!』



金髪の赤いチャイナ服を着た娘、蘭花・フランボワーズ資料には彼女は何でも一生懸命な熱血漢とあった。

なるほど、他のメンバーのテンションが少し下がり始めたのに対し、彼女のそれだけは上がり始めている。

それに、彼女のカンフーファイターにある電磁式ワイヤーアンカーだけは弾数制限など気にせずエネルギー切れを起こすまで戦える。

それにクロノ・ストリング・エンジンは彼女らのテンションが失われない限り紋章機にエネルギーを送り込み続ける。

つまり、彼女の機体は気力が続く限り戦えるということになる。

それでも……。



「どちらにしろ、囲まれたのは俺の戦術ミスだ。このまま戦っても勝てる見込みは低い」

『そんなこと、やってみなくちゃわからないでしょ!?』

「何も、負けるつもりはないさ。挽回する策も練ってある」

『本当でしょうね?』

「ああ」


本当は確実に勝てる策があるわけではない、しかし、このままジリ貧になるよりは、敵を一度合流させ、その間に彼女らの補給を行う。

当然その場合時間稼ぎの後詰めが必要になる。

だが、幸いこのテンカワSPも今ならエネルギー切れはない。

それに、ブーストを使うことも視野に入れれば俺の生存率もそれほど悪くは無い。



「さあ、まずは一転突破を……!?」

『きゃああーーー、どいてください!!!?』




ミルフィーユ・桜庭の機体ラッキースターが俺のエステに向かって一直線に、いや、きりもみ飛行で飛んでくる……。

更に凄いことに、俺がどう回避するのかわかっているかのごとくにぴったりと。



「なっ、桜庭少尉!?」

『ミルフィでいいですぅぅぅ!!!』

「いや、それは今言うところでは……」



そういう会話をしている間にももう目前まで近づいてきていた。

GA-001 ラッキースターは全長 49.6m 全幅 28.0m 全高 21.0m(基本翼端まで29.2m) 。

エステは全高6mしかない……このまま衝突すれば速度差で弾き飛ばされるだけではすむまい。

ディストーションフィールドがある程度は防いで……?



「な!?」



ラッキースターが目前に迫ったその瞬間、テンカワSPは唐突にディストーションフィールドを解除した。

もしや、敵味方識別の? と一瞬疑ったがその後に起こったことは更に信じられない事だった。

テンカワSPは唐突に今まで眠っていた機能を作動させはじめたのだ。

俺が役に立つのかわからないと考えていた機構がいっせいに動き出す。

最初に起こったのは、機体の変形だった。

テンカワSPはまるで折りたたみ式のおもちゃのように、両足、両手を後ろ側にずらす。

そのための間接も用意されているらしかった。

そして、今度はラッキースターのピンクの機体が縦に割れる。

ウイングが反転しレーダーやミサイルポッドが位置を入れ替える。

そして、中央部の隙間にテンカワSPを挟み込むと中央部のビームキャノンが分離。

支柱が二つにわれ、そこにウイングが装着される。

そして、ミサイルポッドとレーダーの下辺りから二本の腕が出現した。

最後に、ビームキャノンの砲塔が腕につかまれて変形が終了した。



「なっ……」

「え!?」



そして、ラッキースターのコックピットにテンカワSPのコックピットが出現する。

俺は呆然としつつ、更に困ったことにミルフィーユの座っていたシートが消失して俺のひざの上になっていることを知る。

どういう理屈かさっぱりわからないが、白の月の人間は頭がおかしいに違いない……。



「ああああ、あの! どいてください!! ここはラッキースターのコックピットです!!」

「いや、俺にもよくわからん。しかし……合体でもしたのか?」

「えええ!? そうだったんですか! だったらコックピットも合体したんですね!」



以外というか素直に受け止めるミルフィーユ・桜庭に俺は苦笑しつつ。

しかし、どうなったにせよ。以前と変わったわけではないはず。

早めに撤退を……。



「じゃあ、この機体でばーんと敵をやっつけちゃえばいいんですね!」

「え?」



よく見ればこの機体の背後にはH.A.L.O.(ヘイロゥ)が浮いていた。

その天使の輪は光を強め、更にビーム砲にエネルギーが充填される。

その出力は先ほどまでのラッキースターをはるかに上回っていた。




「じゃあいきます!! みんな危ないからどいていてください!」

『ちょ、あんたら何合体して!? え?』

『事情を説明って あ』

『面白いですわー、まさか紋章機 に』

『……!?』



言っている間にミルフィーユはその武器で辺りをなぎ払う。

すると、どういうことかそのビームは確実に敵の船に命中していった。

しかも出力は戦艦の主砲より明らかに高出力だ、いや、戦艦10隻だってこうはいくまい。

そして、3分もかからない間に敵残存艦隊200隻が全滅していた……。

普段紋章機で理不尽には慣れている他のエンジェル隊員も呆然とそれを見つめている。

これは……。



「とっ……とにかく、作戦終了だ。残敵掃討の後、帰艦する」

『『『『了解』』』』



こちらは全滅だが、レスターのほうはそうもいくまい。

とりあえず、向こう側の手助けが必要かどうか見てからだな。

そう考えて、向かってみると、向こう側もほぼ決着がついたようだった。


俺は戦闘が終わると自動的に元に戻るらしいそのシステムをうろんに思いながら、それでも無傷で勝利できたことを喜ぶことにした。



「んっ……?」



無事帰り着いたことで気が抜けたのかいきなり体の力が抜けるのを感じた。

俺はふらつく体をどうにか壁に手をついて誤魔化す。

さっきのシステム……そういえば、かなりの無茶だったようにも思う。

まさか……。



「艦長大丈夫かい? さっきの無茶だったんじゃ?」

「いや、大丈夫。少し疲れただけだ」

「ちょっと、何格好つけてんのよ!! どう見ても半病人じゃない!?」

「ええ!? もしかしてさっきの合体のせいですか? だったら、えと、どうしよう……」

「落ち着いてください……ナノマシンの暴走が再発したんです。あれからまともに治療してませんでしたから……」

「え?」

「あらあら、そうでしたの……この人がヴァニラの♪」

「ええ、そうなんですか!?」



先ほどまで無言だったヴァニラが急に話し始める。

それは、訴えかけるような目だった、最初は茶化していたメンバーも徐々にその勢いに飲まれ、

最終的には俺を医務室に送り届けに行くヴァニラをただ見送っていた。



「俺は……もう、治療する必要はない」

「その判断を下すのは医者である私です。貴方の体は随分回復してきましたがそれでも、ボロボロだった体です。

 それに、まだナノマシンの暴走も完全に止まったわけではないはずです。

 それなのに今日みたいに……」


「……」



やはりヴァニラを誤魔化すことはできないか……。

だが、彼女の性格を考えれば一生を棒に振ってでも俺の治療をし続けるなどといいかねない。

それは違うのだと、誰かに頼ってもいいのだと教えたい……。

しかし、俺では迷惑をかけることしかできない。




「大丈夫です。貴方を完治させる方法が見つかれば私は去ります。

 私が貴方を苦しめるのは見ていられませんから……」


「そんなことはない!」

「え?」

「そういうことじゃないんだ。ヴァニラちゃん。君は身を削りすぎている。

 それを見ているのがつらい、だから、きちんと休んで。俺の体を治すのはその次でいいんだ」

「ありがとうございます。でも、私は大丈夫です」

「大丈夫ならそんなに青い顔をしているわけはないだろう。医者の不養生じゃないが、君は頑張りすぎる。だから……」

「……わかりました、貴方の事を見たら今日は休みます」



無表情の仮面の下からは心は読み取れない、とはいえ嘘をつくような子ではない。

柄にもなく熱いセリフを吐いてしまった俺だが、一安心だと一息ついた。



「私を遠ざけたのも同じ理由ですか?」

「ああ……」

「でも、私の健康にはよくありませんでした」

「そうなのか?」

「はい。理由はわかりませんが気になって他のことに集中できません」

「……」

「ですから、治療を続けさせてください」

「ああ、わかった」



彼女の心理はよくわからないが患者を放り出すというのが医師として許せないのかもしれない。

彼女自身も理由は判然としていないのだろう。

そして、半時間ほどでナノマシン治療は終わった。



「あの……」

「ん?」

「さっきの、ヴァニラちゃんって……」

「あ、すまない。つい知り合いの子と同じように接してしまったな」

「いえ、なにかはわかりませんが心が温かくなりました。出来ればこれからもそう呼んでください」



そういうと、ペコリと頭を下げて彼女は部屋を出て行った。

そういえば、ヴァニラにとって家族と呼べるのは死んだ教会のシスターだけだったらしいな。

エンジェル隊に入って彼女らとは仲良くなったのだろうが、男親は知らない。

そのあたりが関係しているのかもしれない。


そんな事を考えながら、その日は眠りに就いた……。

















あとがき


シルフェニアも2000万HIT。

規模も大きくなりすでに私の手を離れた感もありますが、自分のサイトの記念を自分でやらないわけにはいかないと噴気しました。

それで、復活コールが多かったGAの第二話を作ってみました。

とはいえ、連載する気力もないのでイベントで時々復活ですがw

今回は、あくまで合体がメインだったこともありヒロイン達の出番が簡略化してしまっていますがお許しを。

本当はひとりひとり掘り下げるべきなんでしょうけど、そうなると一人一話は必要ですしね。

シナリオも原作と少し違ってはいます。

シヴァ王子もまだ出てきてないしw

エルシオール艦内も全く案内されてませんしね。

それでも楽しんでいただけたならうれしいです♪


さて、前回突っ込みを入れた人に少し、エンジェルフレームは間違いではないですw

エンブレムフレームはアニメとゲームで使用されたものですが、漫画版ではエンジェルフレームなんですよw

特に意味はないですが響きが好きだったので漫画版のものを使用しました。


それと、前回感想をくれた方々ありがとうございます。

残念ながらコメントが残っておらずお返事することはかないませんが、大変励まされております。

この作品ができたのも皆様のおかげです!

投票でも、復活のお声確かに届いております。

シンフォニアのSSを望む方も多いのですがw

でもシンフォニアにアキトはいらないようなw




押していただけると嬉しいです♪

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