異世界召喚物・戦略ファンタジー
王 国 戦 旗
作者 黒い鳩
第四話 【徴税官】
エルフの幼女(俺以外は人間だと思っている)アルテが来てから数日。
あっという間に村に馴染んだ(アルテに村が馴染んだというべきか)彼女は、俺に付きまとっていた。
メルカパは警戒されてしまったらしく、しょんぼりしながら最近始めた農作業の手伝いをしに行く。
俺は相変わらず西側にある魔物の出る方の森に入り、木の実や薬草、後天然の芋なんかを探しにいく。
備蓄の何割かを隣村の不作に対して渡したこの村は、
年貢用の備蓄を再度しなければならず、かなり厳しい状況にある。
そう、物々交換も成立し難くなってるので自前で食事出来るだけ用意しなくてはいけないのだ。
以前のように一種類だけ大量の持って行って交換してもらう事が出来ないのがおおきい。
まあそれも、今日来る商人との商売次第であるため、備蓄分も使って交渉しようとは思っている。
「たつにーさんは魔物のいる森で食べ物を取って来てるのです?」
「ああ」
「その割にひ弱そうなのです。というか武器の一つも持っていないとつらいのでは?」
「そうでもないさ、かさばる分逃げにくくなるしな」
「へーそういうものですかね?」
相変わらずアルテは幼女然としたその容姿できつめの返しをしてくる。
武器か、考えなくもないんだが……。
まあ、アルテの方が魔法が使える分戦闘は有利なんだろうが。
因みに、アルテは自分がエルフである事を俺以外には言っていない。
俺にはあれだけあっけらかんと見せた事を考えると少し不思議ではあるのだが。
お陰でアルテにメルカパの魔法のコーチをしてもらうという案は頓挫中である。
メルカパには自衛のためにも魔法を覚えて欲しい所なんだが……。
「とはいえ今日は流石に大人しくしてるしかないな」
「どういう事なのです?」
「今日は行商の商人が来る日らしい。
俺達も買い物をしないといけないからな」
「太ったおにいさんは恋人さんとお出かけのようですが」
「……ケッ」
そう、メルカパの野郎、この世界に来ていきなりリア充になりやがった。
まだこの世界に来て三週間程度。
ようやく村での生活も安定してきた所だ。
最初の頃は、下の処理もだが水が合わないで腹を壊すわ、
水瓶に水を持ってくるだけで筋肉痛だわで大変だった。
川と小屋の往復だけでも辛いのだ、因みに洗濯ものも基本水洗いである。
一応洗剤のようなものはあるが、石鹸程の効果も期待できない程度だった。
収穫期が終わった割には温かいのだが、そろそろ水が冷たくなりつつある。
今まで水浴びで済ませていた風呂もこの先どうなるか怪しい所だ。
俺はそんな生活と清四郎や静の噂を探すだけで殆ど一日過ぎてしまっていたが、
メルカパは違ったらしい、見事と言うべきか。
話を聞くに子供と遊んであげるのが上手かったかららしい。
幼女の前では怪しい人のはずなんだが、幸いというか不幸というか、村には美の付く幼女はいなかった。
ノーマルな幼女ではハァハァ出来ないらしい。
贅沢なやつである。
そうしているうちに今まで子供の面倒を見ていたリディと仲良くなったそうだ。
俺は素直に祝福してやるべきか、それとも一人置いてけぼりにされた事を嘆くべきかわからない。
「まあまあ、たつにーさんにはアルテがいるのです♪」
「胡散臭い幼女とそんな仲になった覚えはないな」
「照れても無駄なのです! 昨日アルテと共に漫才の星を目指すと決めたではないですか!」
「いや決めてないから。というか漫才知ってるのか!?」
「漫才とは最近東方から入ってきたエンターテイメント文化なのです!」
「なんと!?」
東方侮りがたし!
っていうかもしかしてそっちの方に俺達と同じ世界の住人がいて流行らせたんじゃないだろうな?
ありえない話じゃないが、そこへ向けて旅立つにしても先ずは行商人だろう。
と言う訳で、俺はアルテとどうでもいい話に興じつつ行商人が来るのを待つ事にした。
村の中にいればどこにいてもわかるだろうが、流石に森に入っていたら分からないだろうしな。
だからこそ、メルカパもアホ毛の彼女といちゃいちゃしてられる訳だが。
してみるとまた少し不機嫌になってくる。
いかんな、こんなだから先に彼女を作られるんだ。
折角だから俺もこの世界にいるうちに可愛い子と一度くらい付き合いたいものだ。
こう、ムチムチばいーんな感じの。
それでいてスレンダーだったりすると更にグッド。
「たつにーさん、良からぬ事を考えてます!」
「なっ!?」
「これはもしやアルテを凌辱するフラグですか!?」
「なんでそうなる!」
「たつにーさんは幼女好きと、メモメモ」
「いやそんな事ないから! むしろ巨乳好きだから!」
「おー、大声でそんな事をいうなんて流石たつにーさん。
変態を自称してはばからない! そこに痺れる、憧れるのです!」
「そのネタはもーええっちゅうねん!」
「お後がよろしいようで。
さて、たつにーさん。村に何かが向かってくるようなのですよ」
自分の性癖ろ暴露して真っ赤になっていた俺にしれっとアルテは村の出入り口を示す。
確かに、何か人の群れが入ってくるのが見える。
しかし、行商人にしては……。
荷馬車もある、護衛と思しき兵士もいる……だが、何か物々しいイメージなのは……。
旗! そう、あれは軍旗!
つまり……。
「ドランブルグ領北部方面徴税官ガーソン・ドッド様のお出ましだ!! 道を開けよ!」
騎馬の兵がおふれを出した所を見るとこの世界の徴税官はそれなりの権力があるんだろう。
恐らく一等煌びやかな馬車の中にいるのが徴税官だろう。
そして、その前に騎馬の護衛が6騎ほど、周辺に護衛の歩兵が20人前後。
後方には、恐らく税として徴収した穀物を乗せる為の馬車が6輌。
6輌だと? 徴税に複数の村を回ってるのか?
明らかにこのカトナ村の倉よりも大量の荷を運べるように見えるのだが……。
山岳だから危険を避けるためあまり重く積めないと言う事だろうか?
ともあれ、目をつけられたくない俺達は路地の影からこっそり見ている事にした。
そもそも村は家の数が少ない、俺達が家の裏側に回って見ている分にはさほど問題も無かった。
兵士達のレベルの平均ははっきりと分からない者もいたが6レベル。
それが高いのか低いのかは別にしてこの前のエルフの国境警備の方がレベルは高かったろう。
騎馬隊のほうがレベルは高いようで10レベル位を平均にしているようだ。
そして、徴税官のほうは……。
+++++
名前:ガーソン・ドッド
種族:人間
職業:徴税官
強者度:1
生命力:20/20
精神力:2/2
筋力:9
防御力:12
器用度:11
素早さ:10
魔力:8
抵抗力:11
耐久性:10
<<術・技>>
なし
<<装備>>
徴税官の服
エメラルドの指輪
サファイヤの指輪
ルビーの指輪
パールの指輪
ダイヤの指輪
<<物品>>
財布(8000D)
++++++
なんだ? このごてごてした指輪の数々と財布の中身は?
実際馬車の中から出てきた男は、装飾の多い服と沢山の指輪をつけた成り金そのものの様な男だった。
ガリガリで神経質そうな見た目、だがどこか下卑た笑い、灰色がかった髪も何故かお似合いに見えた。
その男が、村長宅近くまでやってくると村長であるトーロットさんは膝を折って出迎える。
ここまでの時点で既に俺は徴税官の男ガーソンを好きになる理由は全く無かったが、次が決定打だった。
「ちょっ、徴税官どの、お越しに頂きありがとうございます」
「うむ、面をあげよ」
「はは! この度はどのようなご用向きで?」
「決まっていよう、ワシが来たからには税の徴収以外にあるまい?」
「しかし、例年の徴収時期は穀物の刈り入れが全て終わってからと言う事では……。
まだそのような報告をあげてはおりませんが……」
「今年は早まったのだ、いつも報告の20日前には既に刈り入れを終えていると聞く。
実際、畑は一通り刈り終わった後のようであるな? 問題あるまい?」
「それは……、その通りでありますが……」
ガーソンの話しにトーロットさんは震える声で返す。
最初の日に聞いた所、カトナ村を含むこの地域はランベルト王国北東にあるドランブルグ領。
そのドランブルグ領を治めているのはモルンカイト侯爵と呼ばれる貴族。
しかし、ドランブルグ領は山野が多く、人が住み畑を耕すには向いていない土地柄となるそうだ。
昔あったという鉱山も閉鎖され、今やただの廃坑に過ぎない。
モルンカイト侯は広さの割に収入が少ないこの地をあまり快く思っておらず、
隣接する小国や、国家をまだ形成しきれていない部族の領土に侵攻すべく動いているらしい。
俺たちがこの村で最初に聞いた話も、つまりは軍を拡張するための増税をしようとしているというものだ。
つまり、どう考えてもいい結果が見えてこない状況にあるという事になる。
「お前たち、さっさと蔵の中を確認しろ!
この村は隣のアルカンド村に物資を送ったらしい。
それくらいに余裕があるのだ! 増税にも十分耐えられよう!」
「おっ、お待ちください! 増税とはなんですか!?」
「噂くらい聞いていよう? 南東の蛮族共に国境が脅かされておるのだ!
蛮族共を平らげるためにも、軍を強化する必要がある! その為の増税だ!」
「ガーソン様! 蔵の中にある分じゃ、税金の半分くらいにしかなりませんぜ!」
「フン、隠すのならば仕方あるまい。個々の家から持ち出せるだけ持ち出すのだ!!」
「おっ、お辞めください!!
それらを持ち出されたら我らはどうやって生きていけばいいのですか!?」
「煩いわ!!」
「ガッ!?」
ガーソンに組み付こうとしたトーロットさんは殴りつけられ地面に転がされた。
これはもう、税の徴収等ではない、略奪、そうとしか言い様がない。
抵抗する村人は騎士達に拘束され、殴られ、蹴られて地面に伏せる。
もう、とても自分の国の国民に対する行動に見えなかった。
「お父さん!?」
「貴方!?」
娘のリディや奥さんのエディナさんも飛び出す。
不味い、このままでは下手をすると死人が出る!
それに、既にメルカパは飛び出そうとしている。
そんな事になれば、村もメルカパももう終わりになってしまう!
「何だぁ? お前たち体を売って税の足しにするか?
娘の方はそこそこいけるじゃないか」
「待ってください! 娘だけは!! 娘だけはお許しを!!」
「まっ、待つでござる!!」
とうとう、メルカパまで動き出してしまった。
俺がうじうじ考えているから、破滅がそこに見えるほどに。
……一つだけ、何も起こらずに終わらせられる可能性がある。
「そうです、徴税官様。少々お待ち頂けないでしょうか?」
「ん? 貴様は何者だ?」
「はい、村でお世話になっております。旅の者にございます」
そう言いながら、俺はメルカパらに視線で下がるように示す。
村長であるトーロットさんが傷つくのはまずい。
俺たちがお世話になれるくらい懐が深いトーロットさんだ、下手な事になれば村人の抑えが効かなくなる。
「旅の者か、だがこの村にいる以上税は支払ってもらうぞ」
「はい。可能な限り村の税を支払わせていただきます」
「ほう、村全体の税を支払うとな?」
正直、村全体の税金に足りるかは疑問だ、しかしここ2週間近く。
食事だけを取っていた訳じゃない。
戦闘は流石に武器もないのでやめていたが、対価を得られるものは幾つか確保していた。
「これ等どうでしょう?」
「何っ!?」
俺が懐から出したのは砂金。
流石に大量にとはいかないが、それなりの金になるほど用意した。
パニング皿という言い方をするらしいが、単純に内部に段差をつけた皿を用意すればいい。
揺すると砂の重さと砂金の重さに違いがあるため、砂は段差を乗り越えるが砂金は乗り越えにくい。
それを繰り返せば、含有量に応じて砂金が入手出来る。
ここの川には砂金が含まれた土だという事をステータスウィンドウで調べたので試してみたのだ。
流石に大量に確保とはいかなかったが、旅では役に立つだろうと準備していた。
もっとも、これで税を全てと言えるほど甘くはない。
だが、興味を引いたことだろう。
「ふむ、確かに砂金か。だがこれくらいでは税の五分の一も払えておらん」
「はい、では」
次は住んでいる小屋から運び出した箱を見せる。
中に入っているのは、俺の学生服。
この世界では、作っていない可能性が高い。
シンプルなものだが、生地がポリエステル100%だから他ではお目にかかれないはず。
「なんじゃこれは?」
「他所ではそう見かけない、珍しい服でございます」
「うっ、うむ確かに」
「これは、リアドネ山脈にある幻の機織りの村にてのみ入手出来るポリエステルの服というものです。
見ての通り、日を反射して光る特殊な繊維で編まれております」
「たっ、確かに……」
「これ一つで10万の価値があると自負しておりますが」
「ふっ、ふん! 新品というわけでもないのだろう!
この程度の服は1万ダールでも高いわ!!」
ほう、ようやくわかった。
この世界の通過はダールか。
この件だけはガーソンに感謝だな。
「それを税の足しにしますれば、あとどの程度残っておりますので?」
「ふっ、ふむ。そうであるな……。後3割ほどであろうか」
「ならば」
俺は更に、小屋から大きめの樽を持ち出してきた。
流石に一人では辛いのでメルカパに手伝ってもらって。
取り出したのは薬草だ。
「今、戦争の準備をしておられるならば薬草はあって困る事はないかと存じますが」
「薬草、どのような薬草なのだ?」
「スグリ草でございます。
そのままでも熱冷ましの効果があり、煎じれば傷口を塞ぐのに役立ちます」
「ほう、スグリな……。確かに、十分価値はあろう。
全て税としてもらって行く、但し倉の中の穀物も全て持って行くぞ」
「ははっ」
ガーソンは収穫に十分満足したようで、兵士たちを連れ、派手な馬車で意気揚々と村を出ていく。
あいつ本人は強くもなんともないが、護衛の兵士たちには叶う気がしない。
だから、俺にはこれ以上どうしようもない。
だが、ムカつきは心の中にしこりとして残った。
「たつにーさん……」
「どうかしたか?」
「たつにーさんはそれで良かったのですか?」
「争いを起こす訳にはいかないだろ。
勝てる気もしないし、例え何かの拍子で上手く奴らを倒せても今度は……」
「軍隊が動く事になるのです。
でも、たつにーさんには関係のない話だったでしょう?」
「それは違う、一宿一飯の恩もある、それにメルカパはこの村に残る。
村で諍いを起こしたくはないんだよ」
「そうなのですか」
アルテはムカつきの原因を知っていたのかもしれない。
年下にしか見えないが、同年代の女性なのだからありえないとは言えないだろう。
だが、俺には力はない、勝つための力も理不尽を退ける力も。
もしあったなら、ここにはいないはずだ。
「ですけど、立にーさん。彼らは一度で諦めますか?」
「ッ!?」
俺は、村長トーロットさんの具合を知ろうと動き出したが、アルテの言葉に凍りつく。
あれは税金、ならば年に一度しか取立てはないはず……。
しかし、あの男はそんな大人しい男だったろうか?
味をしめてまた来る可能性はないだろうか?
だが同時に来ないかもしれない、相手が曲りなりにも常識を持つなら税を2度取り立てる愚は犯さないはず。
ここから人がいなくなれば税収が減って困るのは奴らの方なのだ。
だがもし、その程度の知恵も無い輩だった場合……。
「分からない。俺には……」
「そうなのですか、
たつにーさんならきっとアルテのボケに気づいてくれると思っていたのに残念です」
「分からないって」
「ぇー」
「そもそも今そんな雰囲気じゃないだろ!」
「そうですかね?」
そう言われて周りを見る。
村人たちは俺の周りに集まり、そして笑っていた。
アルテのボケが面白かった訳じゃないと思うが。
「ありがとう、あんたの御蔭で助かったよ!」
「徴税官を追い返すなんてあんたすげーな!!」
「でも、色々なものを持って行かれたようだけど大丈夫かい?」
「俺たちも心もとないけど、足りないものがあったら言ってくれ!」
「そうだ、あんたは村の恩人なんだからな!」
「そうだ! そうだ!」
口々に感謝の言葉をくれる。
だが、俺は……二度目同じようなことがあればもう助ける事は出来ない。
助けるための物資もなければ、その勇気もないだろうから。
だから俺に感謝するのはやめてくれ……。
「本当にありがとうな。
あのままじゃワシらは飢え死にか奴隷として売られるしかなかっただろうて」
「いえ、お世話になっているお返しですよ。こちらも命を助けられましたからね」
「これからも何かあれば拙者らにドーンと任せるでござるよ!」
「メルカパは何もしてないのです」
「うぐ、このょぅι゙ょ黒いでござる!?」
「まあまあ、メルカパはそれでいいじゃない」
「慰めになってない、というかリディ殿までメルカパ呼ばわりでござるか!?」
「だって呼びやすいんだもん」
メルカパも急速に認知度を上げていくな。
まあ、なんといっても真性オタク120kgなわけで見た目的には十分インパクトがあるからな。
何かエピソードがあれば広まるのは当然だろう。
つーか俺より認知度明らかに上じゃね?
「さて、皆一度解散じゃ。商人は役人と被る日には来ないじゃろうから明日になるだろう」
どうやらトーロットさんも深い傷等は負っていないようでなによりだ。
とりあえずは皆一安心ではあるだろう、解散して畑仕事へ戻っていく。
今回税金をなんとか払えたのは、この村が僅か100人前後しか住んでいない村だからだ。
しかし、何かが起こったときは村ごと滅ぼされる可能性があるという恐怖を味わった事だろう。
何らかの対策を取る必要がある、しかし、俺には関係ない。
そう思いたいと考えていた。
ただ、これで一つ確認できた事がある。
”王国戦旗”のゲーム世界である可能性が一段下がったと言う事だ。
王国戦旗のイベントは基本的に5つに分かれる。
”収穫イベント”は薬草取り等の地味なアイテム回収イベント。
いつもあるが、シナリオはなくライバルキャラ等は出ても基本達成そのものは同じ。
アイテムを依頼人に納品するだけだ。
”捜索イベント”はキャラや特殊アイテム等を捜索し、報酬を得るイベント。
これもシナリオはない事が多い、ライバルキャラが最も面倒なイベントではある。
先に見つけられるとクリアできないからだ。
”討伐イベント”も賞金がかけられたモンスターや犯罪者を倒すだけのもの。
ライバルキャラは例によっているが、達成するのが難しいほどではない。
”シナリオイベント”は一連のシナリオがあるイベント。
だが、イベントは単発である事が多く、連続はしていない。
戦闘がないイベントもあるにはあるが、その場合は謎解きか捜索系のイベントだ。
それに、シナリオイベントは一定回数その村や町の
”キャンペーンイベント”はボスへと至る道筋や、それぞれ成功への道がある長編シナリオ。
ただし、これは強者度がある程度上がらないと現れず。
また、条件を満たすためのイベントもある。
この世界が”王国戦旗”の世界であるなら徴税官を追い返すイベントはキャンペーンかシナリオだ。
強者度1の俺がキャンペーンのイベントをやれるはずもない。
次に、シナリオの場合もその町の収穫、捜索、討伐の3種のイベントを1回以上こなさないと出ない。
こういう条件に俺は当てはまらない事は確実だ。
収穫イベントと捜索イベントはまあやっている事になるかもしれないが、
今まで討伐イベントは絶対にやっていないと言えるからだ。
考えがまとまった頃既に朝日が昇ろうかとしていたのはお約束と言うべきか。
翌日、予定通りというわけでもないが、商人が数人馬車でやってきた。
流石に昨日のあれと比べれば見劣りするが、馬車は旅では欠かせない感じだな。
荷物をたくさん運べるという意味でも。
「おう、来たでござる!
魔法の本があるといいのでござるが」
「というか、金あるのか?」
「いざとなれば拙者の制服も売るでござるよ。
昨日は一緒に出すべきだったと反省しているでござる」
「それは……」
「それより、じゃじゃーん! どうですたつにーちゃん見違えましたです?」
「っておい」
アルテは既に買い物を始めていたようだった。
俺たちも急いで商人の開いている店に向かう。
もっとも、既に村人の大半は集まっている感じだったが。
「ひょぇ? これはお客さんはじめまして。
なんでも村のために全財産はたいたんだって?」
「まあそうなるな」
話しかけてきたのはちょび髭が面白い感じの少し太めの商人。
巡回商人の証である黄色い服を着ている。
パラメーターを見てみたが、特に変わったものは持っていないようだ。
徴税官と関わりがある可能性を考えたがそうでもないらしい。
因みに、昨日の今日ではあるが、俺は資金力ゼロではない。
今朝一番で川を浚って砂金を少しばかり手に入れている。
流石に、最初の頃程取れなかったので、全部合わせても小指大と言う所だろうが。
それでも普通の買い物には十分だろう。
「保存の効く食料を用意してほしい。それと基礎魔法が学べるようなものがあればお願いしたい。
お金の代わりはこれで」
「砂金かい!? まだ持ってたんだね。
流石というか、あのガーソン徴税官とやりあっただけの事はある」
「いえ、昨日の残りですよ。
元々入れてあった袋に少しだけ残っていたんです。でも普通の買い物なら十分ですよね?」
「ええ、少しおまけして300ダールで買い取らせて頂きましょう」
300ダールね、値札なんかを見ていると1ダール100円くらいか。
干し肉8ダールとある、分量はさほど多くないがこっちにきて塩の貴重さも理解したのでこんなものか。
薬草は20ダールで売られている、俺がガーソンに渡した分量があれば1万は下らないんだろうな……。
ともあれ、持ち込まれる食糧は干し肉がメインだ、後は干し果物。
この辺りには家畜があまりいないのでこう言う物を持ちこむんだろう。
「本はいいでござるよ、拙者が自分で購入します故。
それよりも、旅をするのなら物騒でござる、護身用に何か買っておくべきでござるよ」
「しかし、流石に武器や鎧なんて置いてないだろうしな」
「いいえ、簡易的なものでしたら置いてはおりますが。その、かなりお高くなってしまいますよ」
そういって、こちらに見せてくれたのは皮鎧が数種とショートソード、ロングソード、スピアの3つ。
どれも値段が千台に届いているためとても買えるものじゃなかった。
だが、そこでメルカパは言う。
「この服を買ってもらう事は出来ないでござろうか?」
「これは……、変わった服ですな」
「普通では滅多に手に入らない糸を使っているでござるよ。
恐らく、出す所に出せば数万の値が付くと思われるのでござる」
「数万、ううむ……。そんな高値では買い取れないね。
せいぜい、甘く見積もって2000ダールと言う所じゃないかね?」
「そんな事はないでおざるよ……」
メルカパはそうやって制服を売りに出す事にしたようだ。
確かにこの先何をするにしても、金があって損と言う事はない。
ただ、巡回してくるような商人では服の類を高く売るのは難しいだろう。
競争になるような他の商人がいる訳でもなく、金のように相場がある程度決まっているものでもない。
価値を決めるのは商人なんだから、向こうは売値に確実性がないと思ったら手控えてくるだろう。
そんなふうにすったもんだした揚句、結局ある程度の値段で売ったメルカパはすっきりした表情だった。
メルカパはこの世界に、いや、この村に腰を落ち着ける気だろうか?
俺は正直、まだそんな気にはなれないが、この先どうなるかは分からない。
帰れないとなった時の事も考えておいた方がいいのかもしれない。
まあ、どちらにしろ清四郎や静との連絡をつけるのが先だろうが。
そうそう、清四郎の居所の手がかりは見つかった。
なんでも、このランベルト王国の王都に勇者が降り立ったという。
詳しい事はわからないようだが、十中八九清四郎の事だろうと予想がつく。
そんな事を考えていると商人達のいる馬車からメルカパが戻ってきた。
「どうにか、スピアと皮鎧は確保したでござる。達也氏、もらってくれないでござろうか?」
「えっ!?」
「基礎魔法の本は手に入れたでござるよ。
召喚魔法の本はないようでござるが、かなり拙者も使えるようになるはず。
でも所詮は後衛でござる、達也氏が以前やったように矢を回避する事は出来ぬでござるよ」
「戦うつもりなのか?」
「少なくとも、森にいるモンスターを狩れば村をなんとか今年中は持たせる事が出来るでござる」
「それは……」
何故、メルカパが突然モンスターを狩ると言ったかと言えば、
果物や、キノコ等が多く存在する場所には当然それを食べる動物やモンスターが集まるからだ。
俺達は隙をついてもいで回っていたが、これからはそうはいかない。
食べさせるのは1人や2人程度なら問題なかったが、
100人食べさせるためにはそういった地域を丸ごと確保しなければならない。
本気で村人を飢えさせないために動くつもりなら森をある程度切り開く必要があるだろう。
流石に東にある妖精の国の国境側に広がる事は出来ないだろうから、
西側のモンスターを討伐するしかない。
「つまり、俺にこの村に残れというのか?」
「ありていに言えばそう言う事でござる、せめてこの村が立ち直るまで」
「……」
確かに、この村を見捨てる格好になるのは寝覚めが悪い。
このカトナ村には、俺達を受け入れてくれた恩がある。
だが、こうして時間が立てば静や清四郎達と再会するのも難しくなるかもしれないし、
帰る手段を探すのも遅れる。
最低限の手助けだけにしておきたかったのだが……。
「アルテは賛成なのです!」
「へ?」
栗色の髪と丸い耳に偽装しているエルフの幼女が手を挙げて賛意を示す。
その理由を聞いてみると、意外な答えが返ってきた。
「たつにーさんは旅の恐ろしさを知らないのです!
途中モンスターでも出たら一撃必殺されちゃうのですよ!」
「それは……」
「たつにーさんの変態的な回避力の話は聞いているのです!
それでも、一撃必殺なので囲まれたら終わりなのですよ!」
「否定はできないけど……」
「確かに、街道にはもうモンスターは殆ど出てこなくなっているので心配はあまり要らないのですよ。
でも、街道だけを進む訳ではないのです!
町のスラムなんかを通れば野盗の類に襲われる事もあるのです。
チンピラなのです! ヒャッハーなのですよ!」
「はあ」
「そう言った輩は数を頼みにリンチを仕掛けてくるのです。
モンスターだって集団で動いているのもいるのですよ、
そんな敵に囲まれた時回避だけでなんとかなりますか?」
「それは……」
無理だ、回避だって視界にとらえている相手じゃなければ感知できない。
あくまで相手の頭上に表示されるアイコンが赤くなっているのを見て回避しているだけだからだ。
それどころか、フェイントが判別できるか分からないし、
攻撃範囲が分かる武器じゃなければ回避も怪しい。
つまり、まだ信用に値するかどうかわからないのだ。
「だから、今回の事はたつにーさんにとっても悪い事じゃないはずなのです」
「はぁ……、まさか異世界に来てモ○ハ○をする羽目になるとはな……」
「大丈夫でござるよ。拙者出来る限りお手伝いするでござる!」
「あくまで来年の夏までの食糧が確保できるまでだぞ」
「もちろんでござるよ。達也氏のするべき事はよく分かっているでござるよ」
メルカパがうれしそうに話し、アルテも微笑んでいる。
この選択が正しいのかは分からないが、確かに村を見捨てるのは心が痛む選択だった、
だから今は全力でこの村を立て直す事にしようと思った。
あとがき
ようやく敵キャラらしいのが出せましたw
まだまだ、直接戦闘まではいかないのですが、少しづつ達也を強くしていく予定です。
SLG的にも地位とか兵力とかもいずれ増やしていかねばw
押していただけると嬉しいです♪
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