異世界召喚物・戦略ファンタジー
王 国 戦 旗
作者 黒い鳩


第五話 【村のために出来る事】


「メルカパ! 発火たのむ!」
「了解でござる!」

俺は目の前にいる狼もどきから飛びのく、
狼もどきは好機とばかり飛び込んでくるが、そこにメルカパの発火魔法が叩きつけられる。
メルカパは体躯といい、メガネといい、素早い動きには向いていないが発火を3m先で発生させられる。
正直それが分かった時は、互いに手を取り合って踊ったものだ。
狼もどきも怪我はたいしたことないものの、怪我に怯んでいる隙を逃さず俺はスピアを突き入れた。
血飛沫といえるほどの派手な出血はないが、手ごたえはあった。
だが、これだけでは止めにはならない。

「アルテ! いけるか?」
「もちろんなのですよ、たつにーさん!」
「ダンさん、行くぞ!」
「オウ!!」

アルテが両手をかざすと周りの草が狼もどきにからみつく。
恐らく脱出までに20秒もかからないだろう。
しかし、それで十分だ。
俺はスピアを構え少し距離を取ってから全力で突っ込んだ。
そして、スピアで貫いた後、後続で走っていた木こりのダンさんに任せる。

「オオオオオオッ!!!」
「ギァァァァァオォォォォ?!!?」

ダンさんの持つアックスが狼もどきの首を切り飛ばした。
俺は思わず口笛を吹いて感心する。
無傷で止めまで持っていく事が出来た。
俺達の連携も随分良くなってきているな。

カトナの村に徴税官が来てから2週間、俺達は毎日のように雑魚モンスターを狩っていた。
俺の他には敵の強さが分かる人間がいないので、俺は出来る限り狩りに参加した。
お陰で戦闘に関しては段々と分かって来ていた。
我流なので専門的な事は分からないが、メルカパにもらった槍と皮鎧で武装し前衛を務めている。
武器になる物が少ないカトナの村では俺以外に狩りに参加する人は少ない。
というか、俺とメルカパとアルテ以外では木こりのダンさんくらいだろう。

そうそう、大きな虫や、ゴブリンらしき小型のモンスターばかりと闘っていたのだが、
それでも割合経験は溜まるものらしく、俺とメルカパは強者度3になっていた。
しかし、元の格差もありアルテのレベルは5になった、追いつくのもまだ先のようだった。

+++++
名前:渡辺達也(わたなべたつや)
種族:人間
職業:異邦人
強者度:3
生命力:28/28
精神力:8/8
筋力 :17
防御力:14
器用度:19
素早さ:15
魔力 :10
抵抗力:16
耐久性:16
<<術・技>>
観察眼:熟練度:1(能力を見る事が出来る)
<<装備>>
歩兵槍:切れ味8:筋力補正3:攻撃力11
皮鎧 :固さ4:防御力補正3:守備力7
<<物品>>
財布(1242円:88D)
ハンカチ:1
シャープペンシル:1
++++++
++++++
名前:鳴嘉巴(なりたよしとも)
種族:人間
職業:異邦人
強者度:3
生命力:27/27
精神力:15/15
筋力 :14
防御力:17
器用度:14
素早さ: 9
魔力 :17
抵抗力:12
耐久性:19
<<術・技>>
共通魔法:熟練度:1(魔法語の読み書き、発火、簡易結界使用可能)
召喚魔法:熟練度:1(発光玉の召喚が可能)
<<装備>>
樫の木の杖:固さ4:筋力補正3:攻撃力7:魔法補助1:魔力補正3:魔法攻撃力4
村人の服:固さ1:防御力補正3:守備力4
<<物品>>
財布(6922円:120D)
同人誌:3
++++++
 
++++++
名前:アルテナー・ヴィスラ・ネーテファスト
種族:エルフ(偽装中)
職業:??
強者度:5
生命力:19/19
精神力:28/28
筋力 :11
防御力: 9
器用度:16
素早さ:20
魔力 :??
抵抗力:19+2(21)
耐久性: 7+2 (9)
<<術・技>>
精霊魔法:熟練度:2
????
<<装備>>
森のドレス:固さ6:防御力補正2:守備力8:抵抗及び耐久性強化+2
変化の指輪:魔法補助5:魔力補正?:魔法攻撃力?:自身の姿を変形させる。
<<物品>>
ハンカチ
財布(100D)
++++++

強者度の差からアルテの能力ははっきりと把握する事が出来ていないが、
実際の戦闘でサポートしてもらっている限りでは、メルカパより魔法は強いという事くらいしかわからない。
というか、アルテの装備性能は明らかに俺達より数段上だった。
まあ生命力の差もあるし、俺とダンさんが前衛というのが一番だとは思うが。
因みにダンさんは村で一番強者度が高く6もある。
俺の場合は、相手の攻撃タイミングが分かるという点もあるしな。

ともあれ、こうやって俺達4人が戦って道々のモンスターを狩り、
そして、その後を村の若者10人ばかりがついてくる。
戦闘には参加しないが、彼らが主力である事は間違いない。
何故なら、森の奥まで入って木の実や山芋などを彼らが持って帰るからだ。
俺達は先導と護衛、実際の仕事は彼らが行う。
そもそも、戦闘をしなければならない俺達は重いものを持っていく事が出来ない。
結果として、これが一番効率が良かった。

「では皆さんよろしくお願いします! 俺達は周辺の警戒をしますので!」
「ああ、頑張ってくれアンちゃん!」
「たつにーさんがんばなのですよー♪」
「お前はこっちだ!」
「うぐっ!? 今日の右斜め四十五度チョップは効くのです……」
「漫才の相手なら帰ってからしてやるから」
「おお、言質がとれたのです! 頑張るのですよ♪」

まあ、見た目幼女を働かせているという負い目はあるが、今の所問題はあがっていない。
村では心配で追いかけてきた俺の嫁、みたいな認識なのが気になるが……。
あえて無視する事にしている、反論しても笑い話にされるばかりなので俺も引き下がるしかない。
メルカパとアルテが魔法を使えるのは、職業学校の成果らしい。
もう意味不明だが、それで村人が納得するなら致し方なしだろう。

「ダンさん、村の備蓄状況はどうなってます?」

俺は、村人達が木の実をせっせと籠に詰め込んでいるのを視界の端に捉えながら、
周辺にモンスターのアイコンが出ないか確認し続ける。
まあ、集中力の関係ない作業なので、こうして雑談も出来る訳だが。
ダンさんの存在は頼もしい、筋肉の塊みたいな40代のおっさん。
髭だらけで、お世辞にも二枚目なんて言えないが、むやみに頼りがいを感じる。

「細々と食いつないでも、2週間は持たないそうだ」
「そうですか。結構取ったつもりだったんだけどな」
「お陰で助かってはいる。しかし、村全体の食事を補うには心もとないのも事実だ」
「なるほどね」

さっき狩ったような動物っぽいモンスターなんかは食べたりもする。
それでも、このままでは厳しいのだとするなら、積極的にモンスターを狩るか?
いや、それだと山でこうして木の実や芋堀りなんかをするのが遅れる。
食べられる草なんかも集めているが、アクが強いものが多く食べるのはきつい。
川魚は数人食べるにはいいんだが、大量確保は難しいだろう。
となると、二毛作をして冬の作物で補うしかないんだが……。
俺は農業については素人でしかない、その上この世界の作物についても詳しくない。

「やっぱり、やるしかないな……」

砂金の採取、俺一人でやっていたが、流石に公開すべきだろう。
大量に残っているとは思えないが、多少はたしになるはずである。
難点は上流に行こうとすると妖精の国の領土に入り込んでしまうという点だろう。
砂金が取れる場所の上流にはかなりの確率で温泉か金鉱脈があるらしいんだが。

というか、金鉱脈は必ずあるが、場所が人の掘れる場所とは限らないと言うのが正解か。
砂金は地下の金鉱脈が噴火や地震の影響で地表まで跳び出したものが、
川によって流されるうちに重い金とそれ以外が分離して金の純度が上がった物らしい。
見て直ぐ金と分かるほどと言う事はかなりの年月が経っていると言う事だ。
だから、あまり欲をかいてもいけない。
取りあえず可能な限り商人に買い取ってもらい食料に変えるしかないだろう。

「メルカパ」
「なんでござる?」
「砂金の場所、公開する事にする。いいか?」
「いいでござるよ。まだまだ厳しいでござるし、出来る限り準備はしておきたいでござる」
「たつにーさんは真面目なのです。もうちょっと気楽でもいいと思いますよ?」
「そうはいってもな」

俺達や、食料確保組は当然、危険度も高いので優先的に食事を取っている。
しかし、他の皆は一日2食出る事の方が少ない状況だ。
子供達も以前ほどの元気が感じられず、このままではまずいと思わせる。

「俺達がいなくてもやっていけると思えるくらいまでは何とかしたい」
「難しい事を考えているのです。ならいっそのこと妖精の国に頼んでみますか?」
「それは不味い、上手く行っても戦争になる可能性が高い」
「ですね、ここの領主はそんな事許さないのです」
「分かってて言うなよ」
「ふふっ、たつにーさんにはもっとお勉強が必要なのです!
 笑いの神は天然の笑いだけで引きとめる事はできないのですよ!!」
「笑いの神に降りてこられてもね……」
「何を言うのです! 笑いの神が降りてくれば万事解決なのです!!」
「へぇー」
「その目は信じてませんですね!? 本当なのですよー!!」

何だか、アルテは笑いの神の事になると随分信心深いようだ。
あまり突っつくのは止めておいた方がいいかもしれない。
ともあれ、現状で打てる手はもうこれくらいだろう。
そんな事を考えていた時。
視界に新しいアイコンが出現した。
モンスターか!
俺はアイコンを開いてステータスを表示する。

+++++
名前:○■◆○▼
種族:オーク
職業:野良オーク
強者度:4
生命力:30/30
精神力:0/0
筋力 :17
防御力:15
器用度:10
素早さ:10
魔力 : 3
抵抗力:10
耐久性:??
<<術・技>>
なし
<<装備>>
錆びた槍:切れ味5:筋力補正3:攻撃力8
古びた皮鎧 :固さ3:防御力補正3:守備力6
<<物品>>
++++++

オークか……名前はなんだこれは?
モブだからか? それとも人間には理解できない名前と言う事か?
深く考えない方がいいな……きっと。
オークと闘うのは初めてだが能力的には問題ないと判断しようとした時。
更にオークが2……、いやもう1体いる!
前のと合わせて4体、俺達のパーティでもなんとかなるギリギリくらいだろうか?
もしかして、何らかの一団なのか?
ステータスを急いで確認したが、ほぼ同等の能力のようだ。
まだ1km半径に入ったばかり、こちらを見つけてはいないようだが……。

「オークだ、4匹いる……。
 このまま戦っても勝てるかもしれないが怪我人が出る可能性が高い。
 撤退するぞ」
「分かったでござる! 皆、モンスターが出たでござるよ!!
 怪我人が出ないように撤退するでござる! 急がず慌てず来た道を引き返すでござるよ!!」

モンスターを狩る事には特に問題ないとはいえ、こちらも護衛は4人。
しかも前衛は2人しかいない。
100%勝てるとは言い切れないし、もしも回り込まれて荷運びの人達に行ってしまえば不味い事になる。
俺達は、撤退を優先するしかなかった。

その日の収穫は、予定していた半分にも満たなかった。
まあ、そこにある食べ物が無くなった訳じゃないと思うが。
どちらにしろ、このペースで食べ物を取っていくと、その内食べられるものが近場になくなる。
奥地に行けばまだまだあるだろうが、モンスターとの遭遇率も跳ね上がるし、強くなる可能性が高い。
4人程度の護衛じゃ色々難しくなってくるのは間違いないだろう。

「問題山積みだな……」
「考えても仕方ない事は考えないのです。
 それよりも、先を見越して仲間を増やしておくのがいいのですよ?」
「仲間?」
「1人で考えられる事には限度があるのです。
 それに何をするにも1人では出来ないのです。
 なら、出来る人を増やすのがいいと思うのですよ」
「それは……確かにそうだな」

とはいえ、村には100人ほどしか人員がおらず、学があるのは村長とその娘リディくらいのもの。
村長やリディは、村の財政管理や、配給、冬でも育つ作物の手配等でいっぱいいっぱいだ。
これ以上負担を増やすのは本意ではないし、メルカパも承知しないだろう。

「となると……外から人を入れないといけないと言う事になるな」
「ただ入れるだけでは飢える人が増える事になるのです。
 慎重にいかないと面倒になるのですよ」
「しかしアルテ、詳しいな」
「そうでもないのです。アルテはお姉さんですから、えっへん!」
「はいはい」
「信じないのです!?」

とか何とか言っているうちに、カトナの村まで戻ってきた俺達は首をかしげる事になる。
村の入り口付近に人がごった返していたからだ。
その数……50人ほど。
村人の大半は川釣りと食べられる草の捜索に出ていたはず。
モンスターがいない場所でとれるのはそれくらいだからだ。
しかも、100人ほどだから殆どの村人の顔は記憶しているが、
この人達は記憶にない、というか偉く薄汚れており、明らかに飢えている。
もしかして……。

「あっ、達也殿にメルカパ殿! 丁度いい所に」
「村長、どうしたんですか!?」
「ついに村長にまでメルカパ呼ばわりされたでござる!?」
「実は……」
「スルーでござるか!?」

村長が語った所によると、最初に村に来た時俺達が聞いたアルカンドの村。
凶作になったその村にカトナの村から物資を送ったのだが、アルカンドの村にも徴税官が来たらしい。
それはもうひどいもので食料も貯蓄されていた物資も全て持っていかれたそうだ。
更に、足りないからといって男は兵士として、女性は奴隷として連れていかれたらしい。
残ったのは虚弱な人や子供や老人ばかり。
作物が凶作で物資も働き手もいなくなったアルカンドの村人は離散し、村を離れるしかなかった。
そして、かなりの数が物資を送ってくれたカトナの村に流れ着いたと言う事だった。
良く見れば確かに、ほとんどが子供と老人だった。

「達也殿……御覧の通り、受け入れれば村人の数は膨れ上がるでしょう。
 しかし、見捨てるわけには……」
「少し……時間をくれませんか? 俺の一存でどうにかなるとは思いませんが方法を考えてみます」
「分かりました、お願いします」

村長が俺に頭を下げる、安定した現状食料調達の方法があるのは今の所俺だけだからだろう。
だが俺にしても、砂金を提供するだけでそれが可能になるとも思えなかった。
それに、アルカンドの人達に教える事は出来ない、砂金が争いの元になる可能性も出て来るからだ。
現状のギリギリ具合を考えれば個人で隠匿される訳にはいかない。
だが同時に、受け入れるなら溝を作る事も出来ない。
人を見て参加させるか決めるしかないだろうか?
どちらにしろ砂金だけで来春まで持たせる事は出来ないだろう。

取りあえず、一旦借りている小屋に戻り現状を整理する事にする。
いつもの藁で出来た、チクチクするベッドに座り込み、ついてきたメルカパとアルテに話題を振る。

「メルカパ、アルテ、村の状況は恐らく更に悪くなると思う。
 今回、彼らを受け入れた場合、他の村からも受け入れを強要される可能性がある。
 こんな、山間の村にそんなに人が入る訳もない。
 当面のアルカンドの人々だけでも現状では生活させるのは難しいだろう。
 どうしたらいい?」
「どうしたら、と言われてもですな……堆肥等を使って新たな畑を作るしかないのでは?」
「どうだろうな……畑じゃないような所を畑にするためにどれくらいの労力がいるのかわからない。
 それに、聞いた事があるんだが、チートでよくつかわれてる人糞堆肥は難易度が高いそうだぞ」
「どういう事でござるか?」
「腐る時に発酵熱を出すので作物を枯らせたりするそうだ。
 発酵が終わるのがどのくらいの期間かは知らないが、更に寄生虫の問題もある。
 最低限それらの問題をクリアするには2年やそこらはかかると農家の人に聞いた気がするな。
 まあ、人糞に限った事じゃなく糞を堆肥にする時には寄生虫の問題は避けて通れない」
「サイロなら3カ月で出来るそうでござるが……」
「サイロがないからな……。それに、人糞は堆肥としても不安定なものらしい」
「どういう事でござるか?」
「食べるものによって、栄養が違ってくる、結果として効き始める時期も抜ける時期も予想しづらい。
 それに作物も俺達の知るものじゃないだろう? かなり実験を続けないと難しいかもしれないな」
「そうでござるな……。しかし、やけに詳しいでござるな?」
「俺はどっちかというとSLGオタだからな、一度はそういうチートについて考えた事があるさ」
「なるほど、そうでござったな」

枯木や、草なんかを堆肥として使っているらしい事は畑を見ればわかる。
ちょうど作物を作り終わって、今まいてあるからだ。
しかし、そんな俺を見ていたアルテは色々疑問に思ったらしい。
当然ではあるが……。

「チートとかサイロとかSLGとかなんなのです?」
「んー、そうだな。
 SLGというのは村や国の運営をする疑似体験をするゲームだよ。
 どういう風に作られてるのかは知らないけどね」
「おお、それはやってみたいのです!」
「俺達の村に来る事があったらね」
「それで、後の2つはなんなのです?」
「チートというのは、ゲームだからずるをする事もできる。
 そのずるの事をチートっていうんだよ。
 それと、サイロは発酵させるための特殊な蔵かな、でも、実際に作るのはほとんど無理だと思うけど」
「たつにーさんの住んでいた村は凄いのです! 是非行ってみたいのですよ!!」
「うん……いつか、俺達が戻れるようになったら連れて行ってあげるよ」
「約束なのですよ!」

うっ、罪悪感が……、だが多少誤魔化してでも、アルテの知識は借りたい。
理由は、俺達がこの世界についてまだまだ知らない事が多いからだ。
というか俺とメルカパはまだこの村を出た事すらない。
村と西の森と、東の妖精の国との国境、南は畑が途切れるところまで。
北には険しい山脈があるだけだ。
ごく狭い範囲の情報しか持たない俺達よりは、エルフで妖精の国の事も知るアルテに協力して欲しかった。

「ニワトリでもいれば、多少使い勝手もいいのかもしれないが」
「ニワトリでござるか?」
「ヤギでもいい、雑草を食べて更に食料を提供してくれる畜産があればいいんだが」
「ニワトリ? 羊? たつにーさんそれはどんな動物なんです?」
「こっちのほうにはない感じだな。
 まっ、俺達の地元特産、もしくは呼び方が違うかどっちなのか分からないが」
「ニワトリは飛べない鳥でござるよ。結構育って卵を大量に生むのでござる。
 卵は栄養価も高いでござるから、飼う事が出来ればいいでござるな」
「ヤギは正直、俺も詳しくは知らないが、山岳部でも飼える動物だな。
 草食で、雑草でも野菜くずでも何でも食べてくれるはずだ。
 こちらは乳を取る事で採算を取る」
「羊や牛も飼えるかもしれないでござるな」
「牛は難しい気もするがな」
「つまり、山岳地帯でも飼える、
 雑草等を主食にしてなんらかの食べ物を作ってくれる家畜が欲しいという事です?」
「そうなるな」
「なら丁度いい生き物がいるのです!」

アルテがぱぁぁぁっと表情を良くしながら俺ににじりよるように近づく。
俺はなんだか嫌な予感がしたが、真面目な場だしギャグもいわないだろうと聞く事にした。

「キャウルを飼えばいいのです!」
「キャウル?」
「はい! 幸い西の森にも生息していると思いますし」
「モンスターが徘徊してる森に?
 というか、どういう動物なの?」
「キャウルは動物というよりはモンスターに属するとは思います。
 でも、主食は草なので人とかを襲う事はまずないのです!」
「その辺りは悪くないね。気性はどう?」
「基本的には大人しいのですよ。
 ただ、テリトリー内に入ってきたら追い出そうとするのです」
「うーん、飼うならその当たり難しいな」
「そうでもないのです。カラチ草をあげればほとんどのキャウルは攻撃しないのです!!」
「……つまり、カラチ草の確保が優先になると?」
「そういう事なのです。捕獲の時は少し暴れると思うのですが」
「どんな得点があるのでござる?」
「ミルクなのです。それも蜂蜜の味がするのですよ!」
「おお、それはいいな」

普通の牛乳等を考えれば分かると思うが常温だと空気に触れて数時間後には臭くて飲めなかったりする。
涼しい場所ではそうでもないが、とかく乳と名のつくものは腐りやすいと相場が決まっている。
しかし、蜂蜜の味がするというのが本当なら話は違う。
可能性の問題だが、恐らく糖度が高い分、幾分なりと発酵は抑えられるはず。
殺菌出来る訳ではないらしいが、蜂蜜くらい糖度が高いと発酵しづらいそうだ。
フルーツ牛乳や珈琲牛乳等が普通の牛乳と比べて長持ちなのがその証拠だろう。

「だが、この辺でカラチ草とかいう草を見かけた覚えがないんだが」
「なっ、そうなのでござるか!?」
「そこで、アルテの出番なのですよ! カラチ草が生えている場所は知ってるのですよ!」
「おお、上手くいきそうでござる!!」
「だが……、どれくらい取れるものなんだ?」
「確かに、量そのものはあまり期待できないのです。
 メスの発情期でも毎日カップ一杯が限度だって聞いてるのです」
「売ればそれなりの値になりそうだが、保存はどうなんだ?」
「それが不思議と腐りにくいのですよ。
 ただ、カラチ草がなければ飼い難いですから、実際飼っている所は多くないのです。
 結果的にかなりの値がつくと思うのですよ」
「それはありがたいな。商人をまた呼んでもらうか」
「拙者あまり自信がないでござるな」
「メルカパが頑張らないといけないのですよ?
 たつにーさんとアルテはいつまでいるか分からないのです」
「メルカパはもう確定でござるか……」

これで方向性は決まった。
キャウルとかいうモンスターを捕獲し、飼育する。
乳を出すメスは当然として、今後も考えればオスも必要だろう。
それと、カラチ草も生産する必要がありそうだ。
だが、上手くいけばそこそこいけるかもしれない。
問題はミルクの収穫量と売値、ちょっと高い程度では全員を養う事はできない。
その点だけは気がかりだ。
上手く畜産が安定すれば売値は下がるだろうが、その頃には畑のほうもなんとかなるだろう。
つまり、ここ半年が勝負という事になる。
まあ、どちらにしろキャウルとかいうモンスターを捕獲しない事には始まらない。
村長にその事を伝えてくるか。

「じゃあ、一度村長に会って話をしてくる」
「わかったでござる。拙者はリディ殿に頼んで食事を貰っておくでござるよ」
「アルテはたつにーさんにぴったりついて憑依霊してくるのですよー♪」
「何ソレ怖ッ!」

そんな感じで、騒がしくまた村の入り口付近に戻ってきた訳だが。
着いてみれば、何やら喧騒が支配している。
一体どういう事なんだ?

「貴様! 村長になにしやがる!!」
「俺達は! 俺達はもう限界なんだ!! 食べ物をくれないなら奪ってやる!!」
「バカ野郎!! 俺達だって余裕がある訳じゃないんだ!!
 それでも分けてやったってのに!!」
「こんなんじゃ足りねぇって言ってるんだよ!!」
「人の好意を踏みつけにしやがって、許さねえ!!」

配給された椀を叩きつけ、若者が叫んでいる。
逃げてきた中にまだ若者がいた事に少し驚く。
確か、殆どは兵士なり奴隷なりで連れて行かれたって聞いてたんだが。
だがそんな事は些細な事だ。
このままでは元々いる村人と避難民の間に大きな溝を作る事になる。
取りあえず最初に村長の方へ行く、額を切ったらしく少し血を流している。

「村長、トーロットさん! ご無事ですか!?」
「あっ、ああ……。問題はないよ。ただ避難民の気が立ってるからの……。
 なんとか鎮めようとしたらこの有様じゃ……」
「ちょっと待つのですよ。傷薬を塗るのです」

アルテは小さいその姿に見合わず治療の手際がいい。
赤チンの様なものを付けて消毒すると、薬草を塗って包帯を巻く。
全部1分ほどで終わってしまった。

「因みに赤チンといっても赤いピーではないのですよ」
「心の声を読むな!」
「ふっ、心の声も読めなくてなんの芸人か!です」
「ドヤ顔で言う事か!!」

この世界でも赤チンでいいのか、ってか言うの恥ずかしくなってきたわ。
それは兎も角、手際の良さを見せつけたアルテを少し関心してみていたが、
そもそも今はそんな暇なかった。

「おっ、俺はな!! アルカンド村の村長の息子トビーだ!!
 テメエラが食料寄こさねえっていうなら、奪ってやる!! お前ら行くぞ!!」
「「「「おう!」」」」

……そう来たか。
この集団のリーダー格がこんなチンピラとはな。
とはいえ、全くの無能と言う訳でもない、50人近くを率いてこの村までやってきたんだから。
嫌われるだけの人間には誰も付いて来ないものだ。
だからこそ、あいつを止めれば取りあえずは止まるだろう。
五人のレベルは2か3、喧嘩くらいはしたことがあると見ていい。
トビーだけはレベル5ある、喧嘩慣れしてるって事か。
普通ならこんな人数相手じゃ俺一人では勝てないだろう。

「待ってもらおうか」
「テメエ!」

俺は5人で村の中に突入しようとする奴らの前に立ちふさがる。
どうみてもチンピラ集団、元の世界で見かけても先ず無視をしていた類だろう。
しかし今こいつらを通す訳にはいかない。

「てめぇも邪魔するのか!?」
「当然だろ?」

俺はスピアを持ったまま逆に回す。
槍というのは穂先とは別に石突きと呼ばれる部分がある、
そちらに刃はないが固い鉄で固定されている為、当れば当然それなりに痛い。
つまりは槍を逆に持ち、チンピラ達の前に立つ。
元野球部員なんだから別に武道なんて納めていない、だがこう言う場では怯んだ方が負ける。
その気になればアルテに魔法で攻撃してもらう事も出来るし、
カトナの村には若者の数も多い、20人くらいで囲めば先ず終わりだろう。
だが、それでは相手にも禍根を残すし、死人が出る可能性がある。
今ならまだ何とかなる可能性があった。

「くらえ!!」

一人がナイフを抜いてかかってくる。
だが、俺は攻撃を仕掛けるタイミングがアイコンのレッド表示でわかる。
だから、そちらに石突きを突きだすだけでいい。
怯んで止まればそれ以上追わず、止まらなければ攻撃を加える。
もちろん、距離を一定以上離すのは忘れない。
視界から5人のうち1人出もいなくなるとまずい。
囲まれれば終わりだ。
ただし、幸いなことにここは村の入り口、幅はそれほど広くない。
左右はそれなりに高い石壁が組まれている。
非常時にはモンスター等から身を守るため、一応城塞とは言わないまでも出入りできる場所は多くない。
2mもないので頑張れば乗り越えられるが、闘いながら出来る事でもないはずだ。
俺の後ろには、村長達とアルテが控えている。
先ほど口論をしていた村の若者は当然村の外にいるが、俺は視線で動かないように頼んだ。
理解したのかどうかは分からないがその場で止まってくれている。
この状況ならば、俺にも十分勝ち目がある。
相手は全員で俺に向かえず2、3人が横に並ぶのが限度、当然相手が邪魔して全員攻撃なんて無理。
だから、俺は1人か2人の攻撃を槍で捌くだけでいい。
相手はせいぜいナイフと棍棒くらいしか武器がない。
それも攻撃するタイミングが分かるのだ、負ける要素は無いに等しい。
もっとも、そんな理論あくまで頭の中で思っただけだ。
実際には必死に目の前の敵に対していただけと言うのが正しいだろう。

「なんだこいつ!? こっちがいつ攻撃してくるのかわかるのか!?」
「威力は大したことないが、あの柄で確実に動きを止められる!!」
「何でもいいからさっさとしろ!! 後がつかえてるんだ!!」

連携が大きく崩れたり、バランスが崩れ出した相手には容赦なく石突きをお見舞いする。
上手い事身体に突き込めた相手は悶絶して倒れた。
倒れた相手が更に向こう側の動きを悪くする、ひっこめるだけでもめんどくさいからだ。
相手がフェイント等が出来るほど、
武術の腕もなければ精神的余裕もないと判断して挑んだのだが正解だったようだ。
正直そうでなければ場所を選んだと言っても勝てたかどうか怪しい。

「ぐふっ、貴様!! 俺を誰だと……ッ!?」
「うるさい」

5人全員をノックアウト出来たのは運が良かったのか、強者度が上がっていたおかげか。
そう考えているとぴろりりってぃってぃ〜と気の抜けた音が鳴る。
強者度が上がったようだ。
ステータスを確認してみる。

+++++
名前:渡辺達也(わたなべたつや)
種族:人間
職業:槍使い
強者度:4
生命力:31/31
精神力:10/10
筋力 :19
防御力:15
器用度:21
素早さ:16
魔力 :11
抵抗力:18
耐久性:17
<<術・技>>
観察眼:熟練度:1(能力を見る事が出来る)
<<装備>>
歩兵槍:切れ味8:筋力補正4:攻撃力12+1(13)槍使い補正
皮鎧 :固さ4:防御力補正3:守備力7
<<物品>>
財布(1242円:88D)
ハンカチ:1
シャープペンシル:1
++++++

なるほど、全体的に強くなったようだ。
というか、成長具合がかなりいいな。
まあ、”王国戦旗”基準でだが。
ともあれ職業が槍使いに変更されている、それと槍の攻撃力が上がっている。
職業による補正ってやつか。
メルカパにも教えておいた方がいいようだな。
ともあれ、どうにか暴漢達を1人で鎮圧する事が出来た。
まあ、元々相手は飢えと疲労でかなり弱っていた。
そうじゃなければこうまで上手くいかなかっただろう。
ともあれ、これで避難民達も暴れ出すような事はしなくなるはずだ。
向こうのリーダーを含む集団を1人で撃破出来る人間がいるという事をアピールしたからだ。
恐怖政治みたいであまり好きじゃないが、被害を出さず鎮圧して今後再発させない為には必要だった。
とはいえ、無茶をしすぎた。今日は小屋に戻って寝よう……。




あとがき

村の中でだんだんと指導的立場になっていく達也を書いてみたかったのですがうまくいったのかどうか。
内輪でがやがややってるのがまだ続いている点もあるので、そろそろ本格的な始動をしていかないとと考えております。
なかなかに難しいのですが(汗)



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