異世界召喚物・戦略ファンタジー
王 国 戦 旗
作者 黒い鳩


第十話 【決起】


「やはり脱走民を匿っていたのは貴様らか!」

俺達は駆け出すように外に出て状況を知り絶望した……。
見た所、騎士と思しき武装のしっかりした兵が10人ほど徴税官ガーソン・ドットの周りにいる。
彼の護衛だろう、そして率いて来た軍は皆下卑た顔で何かが手に入る事を期待している。
その数ははっきりとしないが、中学校の生徒総会くらいの人数はいる。
300人いた中学と同規模、しかし、鎧やらガタイのごつさを考えれば300はいない。
200人〜250人と言ったところだろうか?
だとしても、軍隊訓練を受けていない老人と子供ばかりの村人が1200人やそこらいても対抗できまい。
本当に戦力になるのは100人いるかどうか……。
その上、武装が違いすぎる。
正面からでは、先ず勝ち目はないだろう……。

だからといって、今回は税を払って帰ってもらう事も出来ない。
脱走は死罪かそうでなくてもかなりの重罪のはず……。
匿ったこの村ももうお終い……。
打開の術が見つからない。
俺は思わずその場にへたり込みそうになる……。

「しっかりするでござるよ! 達也氏が倒れたらこの村は終わりでござる!」
「メルカパ……」

メルカパがへたり込んだ俺に向き合ってくる。
俺はメルカパに視線を合わせようとするが、周囲の状況を見て愕然とする。
兵士達がカトナの村を囲んでいた。
そして、逃げ出そうとする人々を槍で突いたり、引き倒して弄んだりしている。
俺は思わず目をそむける。

「この村を救う方法は、もう1つだけなのです。
 たつにーさんも分かってるのでしょう?」
「それは……」

しかし、そこにはアルテの顔があった。
アルテは悲しそうな顔をしながらも俺に言う。
結論はもう出ているのだろうと……。
だが、俺は周りの惨状に対し責任を取れるほど出来た人間なんかじゃない……。

「見ろ、あ奴らもう略奪を開始したぞ。このまま虐殺が起こるのも時間の問題だろうな」
「……」

目に映る惨状はもう阿鼻叫喚になりつつあった。
村人達は、逃げまどい、それを下卑た笑いを浮かべた兵士達が追いかけ回す。
捕まれば殺されるか、弄ばれる。

「くそ! 俺が今までやってきた事はなんだったんだ!!」

俺は思わず地面を殴りつける。
誰も死なないように、こういう破局が起こらないように今までやってきたはずだ。
なのにこの結果はなんだ!?
権力者の都合一つで、あれだけの事が無駄になる。
チートさえ使ってやり切った事が全て……。
更には目の前に迫るのは、死の恐怖、そして沢山の人々を死に追いやった罪悪感……。
こんなものが報酬なら、こんな物しか得られないなら……。
最初から助けなかった方が良かった……。

「たつにーさんがやららないのならアルテがやるのですよ。
 今までの事を無駄にしたくは無いですから……」
「あっ……アルテたんにやらせるくらいなら、拙者がやるでござるよ!
 説得力は必要でござろうし……」
「メルカパに出来るのですか?」
「それは酷いでござる……」
「ぷっ……ははは……」

俺は2人に視線を戻す。
2人の目は真剣で、俺がやらないなら自分がと考えているのは本当だろう。
しかし、結論から言って、俺以外では扇動の効果は薄い。
今までの手柄の大部分は俺のものになっている、村人達も俺に何かを求めて集って来た。
ほんの少しでも成功率を上げるなら……俺がやるしかないだろう……。

目の前で展開される地獄絵図は、とうとう略奪から殺戮へと移ろうとしている。
このままでは、全てが終わる……。

俺を含めた4人は今の現状を打開……。
いや打開とはいえないか、引き延ばしする方法を知っている。
それは、村人を引き連れて脱走する事でも、新たに税を用意する事でもない。
根本から真逆の方法。
目の前で狂乱しながら逃げまどう村人達を襲う兵士達を見て、俺はまた気分を悪くする。
あいつらも元は農民だろう……しかし、自分の村じゃなければあれだけ残酷になれる。
これはどうしようもない現実で……、この場でこれに対抗すべき術は一つしかない。
それも、もう直ぐ手遅れになってしまう……。
俺達もこのままでは死ぬだろう。

俺は、悪になれるか?

人殺しに、地獄に落ちる用意はあるのか?

元の世界に戻る事を諦める事が出来るか?

だが……目の前の死を許容出来るのか?

怯えてただ待つだけか?

破れかぶれでもいい、あがいてみる気はないのか?

そう……もう答えは出ている。

俺は、一度目をつぶると、一呼吸して再び目を開く。
そして、心の底から声を上げた。

「聞け!!」

分かっている、これから紡がれる言葉は悪の言葉。
人を扇動し、煽り、誹り、貶め、己に酔いしれさせる為のプロパガンダ。
そして、己の成した事を忘れさせ、正義だと誤認させるための免罪符。
相手側の正義を否定し、惑わすための虚言。
それらを俺は今から放つ、己が助かるために、そして目の前の事実を捻じ曲げるために。
俺は今、悪となった。

「そこにいる徴税官を名乗る男は、己の私腹を肥やすため税の半分を自分の懐に収めていた!!」

俺は全ての人々に聞こえる様に、もちろん無理ではあるが。
出来うる限りの人々に聞こえる様、声を張り上げる。
正義、掲げる正義こそは己の力となり相手の力を奪う。

「なっ!? そんな事はッ!!」
「以前俺が送った税も、領主まで届いていないのだろう!!」
「ちっ、違う!!」

もちろん嘘だ、詳細な帳簿等は入手していない。
しかし、アードックの町に行った時、徴税官の噂については集めている。
概ね間違っていないだろう事は予想される。

「税を払っても領主に届かないのであれば、当然、いくら支払っても無駄となる!!
 お前達が村を出ざるを得なかったのはその男のせいだ!!」
「なっ……、領主様のせいじゃないのか?」
「そんな……。こんな奴のために?」
「くそ……、娘が奴隷にされたってのに……」
「うちは夫と息子が兵士に取られたよ……」
「こんな奴のために!!」
「まっ、待て!! 我らには軍がいるのだぞ!! 殺されたくなければ大人しくしろ!!」

情勢が不味い事に気付いたのだろう、ガーソンが脅しにかかってきた。
だが、既に連れてきた一般兵は動揺を始めている。
自分達がしている事が法に、いや領主に指示されたものではないのではないかと疑っているのだろう。
実際、そう言う事になれば今度は彼らが領主軍の敵となる。
それは混乱の為の布石として十分なものだと言っていい。

ここまで来たらもう後戻りはできない。
俺は後ろで待っていたリフティに腕をあげて示し、そして振り下ろす。

「が!?」

彼女が放った矢は、動こうとしていた騎士達の一人に突き刺さり……。
そして、その騎士は倒れた。
強者度は8くらいだったか、俺よりは強かったがリフティは12、其れなりの差がある。
この事により、既に動揺が広がっていた元農民の一般兵は完全に混乱する。
隊長格が元々少ないうえに、ガーソンが信用ならず、そして騎士が倒れる。
混乱の火元になるには十分だった。

「まともな訓練もしていないような兵に、何が出来る!?
 私腹を肥やす事しか考えていない者達に!!」
「おっ、お前達……分かっているのか!?
 騎士を殺したと言う事は領主様に弓引いたと言う事なのだぞ!?」
「何をバカな事を、お前達は最初から俺達を皆殺しにする気だったろうが!!」
「ッ!!」

ガーソンの目に明らかに動揺が走る。
最初から脱走民と決めつけてきた以上、全てを略奪してから村に火を放つくらいはする気だったろう。
まさかボロロッカ商会がガーソンに伝えたとは考えたくないが……。
かなり迅速に動いていた以上何らかの確証があってここに来たのは間違いない。

「くっ……徴税を済ませてからと思っていたが、お前達、やってしまえ!!」
「「「おおおお!!!」」」
「待つのです! 凍り付け、アイスバイト!!」
「まだ初歩魔法しか使えないでござるが、連続でござる!! 発火×10!!」

ガーソンに言われ堂々と略奪に動きだした兵達の足元が凍りつく。
思わず転んだ兵達は団子状に折り重なった。
それを抜けてきた第二陣には発火の魔法がお見舞いされる。
ちょっとした火傷が出来るレベルではあるが、動きを止めるには十分だ。
俺はそれらをすり抜けながら、始まっている村人達と兵士達の戦いをスルーして先に進む。

「ガーソンッ!!」
「貴様ぁあああ!!!」

本当は最初にリフティにガーソンを撃ち殺してもら事も出来た。
しかしそうすると、兵士達が混乱しない可能性もあった。
指揮権が騎士の誰かに移ったらもう勝てない可能性が高い。
ガーソンのレベルはあの騎士よりも低い。
というか、ガーソンの強者度は1しかない。
典型的なおべんちゃら男、最弱の敵なのは間違いない。
ただし、相手の武器は警戒しすぎて普通だったようだ。
懐から取り出したのはクロスボウ。
巻き上げ式のその弓なら、確かに1撃に限り俺より上だろう。

だが、発射の瞬間は分かる。
有る程度離れていれば問題ない、しかし、飛び込んできた以上そうもいかない。
俺は、更に間合いを詰めながらクロスボウを警戒する。
そしてガーソンとの距離が3mくらいまで来た時、ガーソンの上のアイコンが赤くなるのが分かった。
俺はとっさに、横っ跳びするが、間に合わず肩に矢をもらってしまう。
だがそのまま俺は片方の腕で、槍を突き込みガーソンの腹部を貫いた。

「ぐっ……、あ……?」

バタンという音と共に倒れるガーソン。
指揮権の引き継ぎが起こるとまずい、急いで伝えねば。

「ガーソンは討ち取った!! 俺達の勝ちだ!!」
「「「「「おおおお!!!!」」」」」

村人が一斉に唱和し、村は怒号に包まれる。
騎士達も、兵士が釣られて逃げ出したのを悟ったのだろう、散り散りに逃げていく。
一応、この場は俺達の勝利に終わった……。
有る意味、相手がガーソンだったからこそできた勝利ではあるが……。

「あああ……」
「俺達これからどうすれば……」

村人の大部分は勝利に酔っているが、一部は先が見えない事に気づき不安を感じているようだ。
もちろん、俺もこのまま終わるつもりはない。
動き出してしまった以上、もう止まる事は出来ない。

「今回の勝利は皆の力で勝ち取ったものだ!
 皆殺しにして略奪をするような山賊まがいにはああするしかなかった!!
 しかし、残念ながら領主はもう俺達を許しはしないだろう!
 だから、迅速に動く必要がある!
 不安に思うものもいるかもしれない!
 だが安心してくれ!
 俺が、この渡辺達也(わたなべ・たつや)がいる限り敗北はない!!」
「「「「「「「「おおー!!!!!」」」」」」」」

俺の声に対し、何百人という唱和の声が響き渡る。
俺がいれば勝てる? 嘘に決まっている。
しかしそれでも、色々な条件はあったにしろ、一応勝った事で彼らの目を曇らせる事は出来た。
この先何をするにしても、実際の成功率等を知って付いて来る人間等いはしない。
だが同時に何もしなければ死ぬか、山野での野宿生活が待つだけだ。
国の支配の及ばない場所まで逃げると言う方法もあるが……。
そう言う所はモンスターの巣窟か、まだ開墾も終わっていないような所だけだ。
春まで食べるためには、一つしか手段がない……。

「これより一刻(約2時間)後、村長宅にて会議を行う、各村の代表は集合してくれ」

俺はそれだけ言い残し、解散した。
崩れ落ちそうになる俺を、メルカパが支えてくれる。
矢が右肩に刺さっているんだ、まだ血は流れていた。
むしろ良く気絶せずに済んだというものだろう。
俺が部屋に戻ると皆一様に俺を見た。
アルテは何を言うべきか分からない様子で、そのまま俺の前に進み出て魔法を唱える。
リフティは慣れた手つきで、背中側に飛び出ている矢じりを折ると残りを引き抜いてくれた。
おれはうっと顔をしかめるが、2人とも何か怒り顔だ。

「アルテの回復魔法だって限度があるのです……。
 取りあえず傷口をふさぐくらいなら何とかなるですが……。
 この傷では一週間は物を持てないのですよ」
「あはは……」
「あははじゃないのです!
 確かにあの方法以外アルテ達には思いつきませんでしたけど、正面から突っ込む事はなかったのです!」
「それはまあ、そうだけどな……」

アルテの言いたい事は分かる、無駄なリスクだったと言う事だろう。
だが、あの場ではああするのが一番いい方法だったのも事実だ。
俺の言う事を聞かせるには、結局実績が必要だったろうから。

「そうだけどな、じゃないのです!
 既に、皆のリーダーになってしまったのですよたつにーさんは。
 一人だけの命じゃなくなったのです!」
「それは……」

全くもってその通り、恐らく俺がいなくなれば代わりのリーダーを立てるまで無防備になるだろう。
時間をかければ十分他の人間でもなんとかなるだろうが、今は駄目だ。
既に国に反旗を翻した以上、まともな人間がリーダーになっても殺されるだけだろうから。
全くもってSLG好き程度がやる事ではないが、それでも今は他の方法を思いつかなかった……。



この村の周辺にある8つの村から来た人々。
それぞれが生活のためにこの村に来たに過ぎない。
もちろん、徴税官には恨みがあったろうが、この先を不安に思っていないなんて事は無いだろう。
だが、俺はもう決めた、そうするしかなかった。
死ぬか、荒野で生きるくらいしか残りの選択肢が無かった以上どうしようもないが。
取りあえず先に村長宅にお邪魔し、今後について粗方の筋道を話しあっておく事にした。

「……すまなかった、すまなかった。タツヤ君……」
「村長、そんなのは気にする必要無いですよ。殺されない為にやった事です」
「だが……、本来なら部外者の君に一番の重責を負わせる事になった」

確かに、反乱軍……いや、そんな御大層なものじゃない、一揆とすら言えない。
そんな存在のリーダーとなってしまっている自分がいる。
主力の若い男達は兵士に取られてしまっていて、若い女は奴隷になってしまっている。
子供と老人と一部の弱いものや、特殊な事情で税金が払えた者や脱走者くらいしか若者がいない。
税金を払えなくて早々に脱走した者は流石にそれなりの力があるが、それ以外は微妙な所だ。
どちらかと言えば脱走民、避難民の寄り合い所帯。
こんなものを運営して、生き延びさせ、そして生活の安定化まで持っていかなくてはいけない。
無理難題もいい所だ。
だが……。

「それでも生きているならまだいいんじゃないですかね?」
「そうだ、そうだね……」
「あっ、皆いらっしゃい。パイを焼いてきた所なの。食べるでしょ?」

そんな所に、村長の娘で赤毛の元気な子でであるリディが戻って来ていた。
彼女だって落ち込んでいない筈はないんだが、それでも明るくふるまってくれている。
俺達としてもほっと安心できるひと時だった。



「よくぞ集ってくれた、村長の皆」

村長宅にある、大き目のテーブルを囲んで座る。
揃ったのは、俺とメルカパとアルテ、そしてリフティのいつもの面子と、
カトナ村のトーロット・オルトレン、つまりこの村の村長。
50代のくたびれたおじさんではあるが、アルカンド村の窮状を察し支援した事もある。
頭は回るが、少しお人よしな人物ではある。

続けて、生意気そうな顔で拗ねたようにしている男、アルカンド村村長の息子トビー。
明らかなチンピラ風ではあるが、村長の息子だ、村の利益だけは考えているようだ。
一度はカトナ村に対し盗賊まがいの行動に出たものの俺に制圧されてからは一応俺の言う事は聞いている。

最も、俺が知っているのはここまで。
だから……。

「先ずは、各村長の自己紹介から行きたい。
 何せ俺は元は余所者、知らない事も多い。
 さて、先ずは俺から言うべきだな、俺の名は渡辺達也、元は旅のものだ。
 だがこの村で長期滞在している間にもう村の人間になったつもりだ。
 よろしく頼む、そして右からメルカパ、アルテ、リフティ。
 皆俺に手を貸してくれている仲間だ」
「あー、拙者は公式でもメルカパ確定でござるか……」
「アルテなのですよー、皆さんよろしくなのです!」
「フンッ」

渾名が広まっていく事に対してアイデンティティに何か来るものがあるのか、
メルカパは少し懊悩しているようだが、明るいアルテが雰囲気を和ませてくれる。
見た目は10歳児なのでこの場にそぐわない事甚だしくはあるが。
続けて、リフティが場をぶち壊しているが、気にしない事にしよう。
因みに、エルフ耳は髪に引っかけて帽子に隠している。
その辺もご不満なようだが、帽子を被っているのが彼女だけなので悪目立ちしてもいる。
だが、この場でそれを言う者はいなかった。
理由は簡単だ、彼女は強い、彼女の弓の腕は皆知っているからだ。

「次は我々の番という訳だね、では私から言わせてもらおう。
 私はカトナ村、村長のトーロット・オルトレン、よろしく頼む」
「ケッ。アルカンド村、村長、トビー・ロブトニア」

こんな感じで村長や代理、親族の人間なんかが紹介をしていく。
もちろん大抵は村長が死んだか、伏せっているからこそ代理や親族なんだが、
この村に集った脱走村の代表のうち、来ていない人間が一人だけいる事に気付いた。

「マルド村の代表はいないのか?」
「そのようでござるな」
「ほう……」

俺達の目は空席となっているマルド村の代表が座るべき場所に目を向ける。
今の俺達は、最大のあがきをして見せねばならない、そんな時に集わない。
理由はいくつか想像がつく。
しかし、それを許す事がこの先どうなるか、それも分かっている。

「リフティ、マルド村の村長を迎えに行ってくれないか?」
「……わかった」
「くれぐれも丁重にな」
「フンッ」

彼女はエルフだ、だから俺の言う事を聞いてくれるかは五分五分だったが、まあ何とかなったようだ。
ただし、マルド村の村長をきっちり連れて来てくれるかはまだ心配ではある。
まさか殺しもしないとは思うが……。

「さて、マルドの代表を待つ間に話しをしておこう」

リフティをけしかけるのに躊躇が無かった俺に対し、周りの村長達は引き気味だ。
だが、ここで俺が直接迎えに行ったら上下関係が逆転する可能性がある。
マルドの村長が十分やれる人物ならそれもいいが、この村に来ている以上それは望み薄だ。
なにせ、税金を払えず元々いた村では食うに困った人達ばかりだからだこの村にいる人達は。
だからそんな相手に主導権を預ける訳には行かなかった。

「カトナ村を含み、9つの村を合わせて今我々の人数は1200人を越えている。
 我々の食糧は既に底をつき、明後日には飢えるしかないだろう。
 本来なら、キャウルの飼育法を売る事で得られたはずの大量の食糧も、
 取引相手のボロロッカ商会が引き受けてくれないだろう、領主に反旗を翻した以上はな。
 さて、その上で話し合いたい、この先どうすればいいかを。
 皆も意見があれば言ってくれ、参考にしたいと思う」

すると、村の代表達は動揺した、てっきり俺が解決策を持っているものだと思ったようだ。
まあ、無いとは言えないが、それをするためにはまず意見を出しきっておくのも重要だ。
何故なら、困難極まりないからだ。
逃げ道があっては成功しない。
そう思っていると、村長の一人が手を挙げて言う。

「もう3日持たんならば、どっかの村に頼むしかないんじゃないかの?」
「なるほど、良意見だ。
 だが申し訳ない事だが救援はもう一か月以上前から頼んでいる、周辺の村からかなり離れた所まで。
 音沙汰がないばかりか、その半分近くがここにいる」
「……」
「なら、奪っちまえばいいんじゃねえか?」
「アルカンド村の! 口が過ぎるぞ!!」
「何を悠長な事を言ってんだ!! 俺達は3日もすれば飢えるんだぜ!!
 それまでに出来る事つったら、近くの村から奪うしかねーだろ!!」
「じゃが!!」
「静かに!! アルカンド村の意見も否定できない部分はある」
「へっ」
「だが同時に、それで食いつなげるかはかなり疑問だな」
「なんでだ?」
「規模がそう変わらない以上、状況もさほど変わらない。
 生活物資は殆どないと考えた方がいいだろう」
「けっ……、確かにそうかもな。だが他にどこなら有るってんだ?」

トビーは俺に挑みかかるように問いを発する。
アルカンド村をなんだかんだで纏めてきた自負もあるんだろう。
この場でこれだけ俺と対峙出来ているのはトビーただ一人だ。
俺はその問いかけに対し、口を開く。

「もちろん、持っているだろモルンカイト侯爵が」
「なっ……てめえまさか……!?」

トビーは絶句した、いや違う、村長達全員が動きを止めた。
殆どの目はそんな事しても死ぬだけだと考えている目だ。
だが、俺はその目をくらませ、生きる希望を押しつけなければならない。

「俺達は既に反逆者だ、俺達がする事は食料の確保だけじゃない。
 俺達は示さねばならない、領主よりも俺達の方が優れていると」
「何故だ!?」
「決まっている。モルンカイト侯爵を倒すためだ」
「バカ野郎!! あんまりほざいてっといてこますぞ!!」
「出来るものならやって見るといい。また何もできずに地に這いつくばるのは目に見えているがな」
「くそ!! やってられるか!!」

勢いよく立ちあがったトビーはとても俺と同年代とは思えない落ち着きの無さだが、
まあ言わんとする事は分かる。
だが、このまま出て行ってもらっても困る。
俺は呼びとめるべく動こうとしたが……止めておいた。
出て行こうとするトビーに、入ろうとしていた女性がぶつかる。

「ッテメェ!!」
「何ですか、このチンピラは……。村長会議だと伺っていたのですが?」
「代理も寄こさずに今頃やってくる貴方と同じ不良村長ですよ」
「なるほど、こんな輩と同格に扱われても困りますね。
 お話、伺わせてもらいましょう」

この場に現れたからには最後の村である、マルドの村長だろう。
代理等を出させるほど、リフティが優しい性格をしているとは思えないからな。
だが、この目を閉じたままの黒髪少女が村長というのは……。
よほど村が酷い目に会ったのだと言う事になるのだろう……。
俺は、改めて前途の多難さに心の中で頭を抱えた……。




あとがき
ようやく反旗を翻すところまで来ました。
軍隊を起こすにも理由がいるかと思い待っていたのですがやっぱ伸びますね(汗)
10話で決起だから予告ギリギリセーフという事にしておいてください(汗)



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