異世界召喚物・戦略ファンタジー
王 国 戦 旗
作者 黒い鳩


第九話 【悪あがきの終わりに


カトナ村までの食糧輸送を問題が出るのもかまわずボロロッカ商会に依頼し、
急いで馬車に乗り村まで帰るのに2日、なんでも伝書鳩のようなもので連絡してきそのピンチとは。
行きは3日かけてきたのに対し1.5倍の速度だ、馬も疲弊してかなりまずい事になっていた。
だが、俺達が村に戻ると、そこにはちょっと考えられないくらいの人だかりが出来ていた……。
ざっと見ても何百人いるのか分からない、いや下手をすると千に届くかもしれない。
恐らく全て徴税官によって村ごと破産させられた者達……。
はっきり言えば、周辺にある村々の奴隷やら兵士として取られなかった人々が集っていた。
一番多いのは老人、次に子供、働ける人達は全体の1割か多くても2割。
俺達がようやく150人が数カ月食べしのげるくらいまでの食糧を用意出来た所でこの有様……。
目の前が暗くなるのをどうしても抑えられなかった……。

「おお! 達也殿!!」
「村長!? いったいどうして……」
「貴方の事を皆聞きつけてきたのです。
 徴税官をやり過ごし、更には村を盛り返しつつある貴方の事はもう周辺の村々では鳴り響いている」
「なっ!?」

徴税官を追い返してからまだ1月たっていない程度だというのに……。
噂の広まる速度は早いというけど……。

「今だってようやく150人が数カ月食べていける体勢を整えた所なのに……。
 俺にはあんなに沢山の人達を食べさせる方法なんて思いつきませんよ!?」
「それは分かっておる……だが、彼らは最後の希望を君に見てきたのだ。
 ワシが追い返そうとした所で聞きはすまいよ……」
「それは……」

彼らは藁にもすがる思いで俺の事を頼ってきた。
無責任で、無自覚な凶悪さを持つ人々だ、俺も無視して逃げるべきかもしれない。
だが……目の前で飢えている人に、死んでくださいという勇気は持ち合わせていない……。
この世界に来て2カ月近く、正直ここまで深く村に関る事になるとは思わなかった。
俺は少し頭を冷やしたいからと、人通りの少ない所からいつもの小屋に行く事にした。
アルテとリフティは何も言わずについてくる。
リディのほうは村長についていった。
村長の手伝いのために駆け回っている頃だろう。

「ああ、お帰りでござる!
 キャウルの乳は十分な値で売れたでござるか?」
「ああ……ギリギリだがなんとかまともな値段で買ってもらえた」
「それは良かったでござるな。しかし……どうしたものでござろう?」

ほんの5日、その間村を開けただけでまたぞろ俺はピンチに陥っている。
恐らく、村を見捨てると言う事はメルカパを見捨てる事にもつながる。
120kgはあった巨漢のメルカパも100kgを切ったんじゃないかと思えるほど痩せていた。
この村の食糧事情が悪い事はメルカパも百も承知だろう。
だから、最低限の食事で我慢する、メルカパにとってはかなり大変な事だったのではないだろうか?
いつもの藁ベッドの部屋に4人で入り、しかし、リフティという新しい美人にメルカパは見向きもしない。
いつもなら恐らく俺達を殺そうとしたエルフだと分かるだろうし、
それが分かっていても玉砕特攻して変態認定くらいは貰うんだろうが……。

「新しく来た人達……どうすればいいのでござろう?」

メルカパも現状の絶望的な状況を前に、何も出来ない歯がゆさに押しつぶされかかっている。
俺だって同じだ、とてもじゃないがこんな人数を支える方法なんて思いつかない。
それはアルテだって分かっているだろう、口出しは控えてくれている。
しかし、まだ現状の意味合いが分からない人物が一人いた。

「達也よ、ずいぶん元気がないのだな。
 私を騙したり、無精ひげを騙したり、小太りを騙したりした時の自信はどこにいったのだ?」
「騙したって……」
「騙しただろう?
 姫殿下と逃げる算段をしていたのは見当が付いているし、
 無精ひげが何者なのかおおよそ知っているようだった。
 それに小太りの言い値の倍近い値でキャウルの乳を売りつけた」
「それは……」
「騙していないというつもりか?」
「……」

リフティの事は兎も角、他の人達を騙したいと思った訳じゃない。
しかし、利用するつもりで会った事は事実だ。
だが、それは仕方ない事だと思う。

「俺が一人で出来る事には限界がある。
 魔法じゃないんだぞ、無から有なんて作り出せるかよ……」
「それが貴様の限界か?」
「そっ……」
「待つのです! たつにーさん!! その先を言ってはいけないのです!!」
「え?」
「たつにーさんは、気が付いていないかもしれないですが皆たつにーさんを頼りにしてるのです。
 それは確かに結果からのものかもしれません、期待は重たいかもしれません。
 でもたつにーさんはここに戻ってきた、その意味を忘れないでほしいのです」
「……」
「きっと、たつにーさんは取りこぼすのが嫌なの人なのです」
「それはそうだけど……」
「だから、アルテはたつにーさんを選んだのです」
「姫殿下ッ!?」

アルテは意図して変身の魔法を解除する。
それはつまり、栗毛にしていた髪の毛が光輝く金髪に、肌は抜けるような白に。
瞳も太陽のような金色に。
そして、エルフの耳が飛び出し、金髪は背に届くほど伸びた。
もちろん見た目は10歳前後、大きな変化は髪と目と耳、肌の色くらいのものだ。

「エルフの幼女でござる……」
「姫殿下……決意は変わらないのですか?」
「アルテはたつにーさんについて行く事に決めたのです。
 だから、隠す必要はないのですよ」
「……分かりました」

今度は、リフティが帽子を取る、すると当然ながら深緑の髪の毛とエルフ耳が飛び出す。
結果的に、この部屋のエルフ度は50%になった。
いや、こんな事考えてる場合じゃないけど。
当然メルカパの動揺は俺の比じゃない、俺は一応とはいえ両方知っていたが……。

「エルフが二人もいるでござる!? しかも一人はムチムチ! 一人は幼女でござるとー!?!?」
「見事に壊れたなメルカパ……」

というか、壊れられるのは余裕が出てきた証拠なんだろう。
こう言うのもおかしな話だが、身近に興味を持っていると言う事でもあるからだ。
俺はほっと一息つく、自分と同じ世界から来た現在は唯一の仲間。
メルカパの状態は俺にも響く、実際俺も焦りがあったのは間違いない、一度落ち着こう。

「ふう、じゃあ状況を整理しよう」
「メルカパは村にいたのですよね? どれくらいの人がカトナ村にやってきたのです?」
「8つの村から1200人近くが来たらしいと聞いているでござる」
「1200人……、今150人が1ヶ月くらい食べられる量の備蓄と、
 キャウルの乳を売った金で買った食料は後2日くらいでつくはずだがこれが150人なら10日分と少し。
 一気にそれが10倍近くなるなら……」
「備蓄はもう半分使ったでござる」
「え?」
「1200人になったのは今日でござるが、
 達也氏がキャウルの乳を売りに行った2日後からどんどん人が押し掛けてきたのでござる。
 下手をするとまだ増えるかもしれないのでござるよ……」
「な……」

こんな状況……、まともじゃない。
圧政なのだろうとは思う、だがここまで人が集まるものだろうか?
今年は特別だとしても今までだって大変な年はあったはずだ。
いや、だからこそか……酷い状況で何か頼る噂があればついそっちにと言うのは人情だ。
それだけこの村に来ている人々には縋るものが無いと言う事。
宗教でもあればそれにハマってしまっているだろう。
この地方だけなのかどうかは分からないが、少なくともこの周辺には頼るべき宗教もなかった。
結果として噂に縋るしかない状況になったと言う訳か。
恐らく宗教一歩手前という事なんだろう……。

「今の人数でも1350人、まだ増える事を考え1500人と考えよう。
 恐らく、残りの食糧では2日もつか持たないか、
 ボロロッカ商会に輸送してもらう分を入れても3日が限度だろうな」
「それはつまり、もう物を売りに行っている暇も無いと言う事なのです」

リフティの告げる言葉にアルテがかぶせる、笑ってしまうくらいに絶望的な状況。
彼ら自身が持っている食料は恐らくゼロではないだろうと考えても1日増えるかどうかか。
もっともそこまで行けば持っている食料の奪い合いで酷い事になるだろう。
つまり否が応でも3日以内に解決なり延命策なりを用意しなければならない。

因みに、畑に関しては100%不可能だ、この村は国の北東の端。
北東側を妖精の国、北西側をモンスターの出る森に囲まれている、
広がれる方向は既に段々畑として切り開いている南側を更に進めるしかない。
だがそんなもの、一朝一夕で行くはずも無く、長期的な展望も絶望的だ。
何れは村を出てもらわねばならない事は明白。
だが、元の村に帰ってもらうにも来年春までの食糧は用意してやらねばならない。
それがないからこの村に来たのだから……。
見事なまでの悪循環、絶望的にもほどがある。

「現状の問題点は2つ、
 1つ目は1500人の来春までの食糧確保。
 2つ目は新たに来た人々の働き口の確保。
 この2つが問題点となるな」
「働き口なんてこんな小さな村にある訳無いのでござる……」
「食料だって、キャウル100匹飼っても厳しいと思うのです……」
「周辺のキャウルを取り尽くしてもとても集まらないだろうがな」

確かに、キャウルは5匹集めるのもそれなりに時間がかかった。
頑張って探せば20匹近くまで増える可能性もあるが……焼け石に水だろうな。
実際、食料も買うとなれば、交通の便の悪い事も考えて日持ちのする者にする必要がある。
結果的に一人1日20(約2000円)ダールは必要な計算だ。
大量に売る事による相場変動を考えに入れないとしても、
100匹が1日100杯(樽2つ)として14000ダール。
14000割る20で700人分、目標の1500人の半分にもいかない。
ざっと計算して214匹、これに相場破壊による値下げを考えると……。
最低1000匹くらいいるんじゃないだろうか……。

「1000匹くらい必要として、牧草地は当然周辺全部足しても足りるかどうか……」
「というか、休耕地の草を使って育てるという形が完全に崩れるでござるな……」
「キャウルを主産業にするという考えはもう無理なのです……」
「食の拘りか、私には今一つわからんな」
「もう、有るもの全て売り払うしかないでござるよ!
 拙者秘伝のこの同人誌を……」

メルカパは胸元から同人誌を取りだそうとする。
秘伝ってお前……、ん?
キャウルの飼育を諦める?
……ああ、そうか……諦めればいいのか。
それでも必要な日数分という訳にはいかないかもしれないが食いつなぐ事は出来るかもしれないな。

「アルテ、一つ聞きたいんだが」
「なんです? たつにーさん」
「ボロロッカ商会の会長と緊急で話しをする方法はないかな?」
「それは魔法でという事です?」
「ありていに言えば、まあ、伝書鳩とかでもいいんだが。
 向こうがこちらに急いで来ても2日はかかるから、ギリギリのラインだしね」
「無い事もないのですよ?」
「姫殿下ッ!?」
「リフティは固いのです。アルテはもう妖精の国とは無関係なのですよ」
「それは……」

何か事情があるのだろう、それとも軽々しく教えてはもらえないと言う事だろうか?
今はそれでもいい、教えてもらえるならば。

現状周囲の人達を全て確認した訳じゃないが、かなりまずい。
食糧難という状況は、難民達がいつ暴徒になってもおかしくない。
何故なら、彼らには後がないからだ、急がなければ俺達も危ない。
暴徒と化した人達が最初に襲うのは、当然皆を救う事が出来なかった俺。
そして、俺の仲間と目される、メルカパ、アルテ、リフティ、リディ、村長。
もちろんそれで終わらないだろう。
この村を襲い残った食料を根こそぎにして、山賊にでもなり下がるくらいが関の山。
もっとも山賊になったからって楽になる訳じゃない、周辺の村々を襲い最終的に討伐隊に皆殺し。
そういうヴィジョンがありありと浮かんでくる。

それを回避するためには、早々に逃げ出すか、全員を救うか、もう一つは……。
いや、それは考えない方がいいだろう、泥沼になる。

「魔法の通信は可能なのです。
 でも、人間とそれをするのは初めてなのですよ。
 これは、エルフという種族が使っている魔法通信なのです」
「恐らくこの通信は他の誰にも感付かれる心配はないだろう。
 姫殿下のご厚意に感謝するんだな」 
「ああ! ありがとう!」
「ほんっとーに、感謝してるのだったらきちんと相方務めるのですよ?」
「もちろん!」

勢いでちょっとヤバい約束をしてしまったかな?
と思わないでもないが、アルテがその気になってくれて助かった。
実際千人以上を飢えさせると言うのは恐ろしいものだからだ。
既にその脅威は目前に迫っている。

「それで、あの小太りに何を伝えるのです?」
「もちろん、ありったけの食糧の輸送だな。
 50万ダール分は持ってくるように言ってくれ。
 対価はキャウルの飼育法を開陳すると言う事で」
「なるほど……。でも50万ダールも出すのですか?」
「月3樽21000ダールで1年26万2000ダールこちらが定期的に売ればそうなる。
 それを考えればたった2年分だと伝えればいい」

損益計算でいけば、不動産なら10年以内、動産なら5年以内に償却出来ればプラスだ。
それを考えれば、2年というのはかなりの速度で償却出来るとみていい。
自分達の売上はその倍なのだから1年で損失分の売上にはなるだろう。
もちろん、税や人件費もかかるから実際には2年でも終わらないかもしれないが。
どちらにしろ5年はかからないはずだ。
それにこちらは5匹だが、向こうはもっと大々的にやる。
20匹も飼育すれば1年で完済も夢じゃないだろう。
つまり、安すぎるくらいのはずだが、それはあくまで特許という概念があればこそだ。
特許の概念があるのかどうか分からないこの世界でも通用するのかどうか……。
因みにアルテの魔法通信は、アルテが他人と会話する事しか出来ないらしく俺は待つ事しかできない。

「……」

傍目で見ている限りではただ目をつぶっている10歳の幼女。
小学4年生程度だ、耳は飛び出ているし、金色の髪は小屋の中に入り込む木漏れ日でも煌めいているが。
まあ神秘的かと言われると俺は頷きかねる。
別に光ってはいないし、揺らめいてもいない、俺の目からは魔法的な何かは感じられない。
因みに、隣のオタクと臣下らしいエルフは妙にうち震えているが……。

「終わったのです」
「それで、結果は?」
「引き受けてくれると言ってましたのです!」
「おお!」
「流石姫殿下!」
「エルフの姫様キター!!」
「えへんなのです! 値切ってきたのもはねつけたのです!!」
「それは流石だな」
「もっとほめるのですたつにーさん!」
「アルテは凄いな」

俺は思わず頭の上に手を置いてなでる。
アルテはほにゃっとした顔でなでられている。
年齢は同年代かもしれないが、やはり精神は見た目に左右されるのか子供っぽい。
ちょっと初めてのお使いのTV等を思い出していたんだが……。
隣が騒ぎだしていた。

「ひっ、姫殿下ッ!?」
「おおー、ナデポですなわかります」
「なっ、こっ、これは違うのですよっ!?」
「そっ、そうだぞっ!?
 別に初めてのお使いのTVとかみたいだなとか思ってないからな!?」
「それはひどいのです!?」
「達也氏……空気読むでござるよ……」
「うむ、姫殿下に謝れ」

いつの間にか悪者にされている俺。
まあいいか、どっちにしろ上手くいったようだ。
これで……少しだけ寿命が延びた……。

「さて、話を続けるぞ」
「えっ!?」
「解決したのではござらんのか!?」
「50万ダール(約5000万円)くらいの金で買える食料で1500人も養える訳無いだろ。
 一人1日の食費20ダール、これは日持ちのするものしか村に送れないから割高になる点を入れてだ。
 20×1500で1日3万ダール、つまり13日と少し持つ程度だ」
「元の3日分と合わせて16日ちょっとでござるか、それは確かに焼け石に水でござるな……」
「そう、少なくとも次の収穫まで5カ月近くあるだろう。
 そのうち4ヶ月分はまだ手付かずという事になる。
 とはいえ、それを考えるにも実行するにも時間がいる、そのためにキャウルの飼育法を売った」
「それはちょっともったいない気もするでござるが……」

それに、キャウルの飼育法が売れるのは今をおいて他に無いと思った事もある。
何故なら、これからボロロッカ商会が出入りするようになれば自然と広がって行くからだ。
そうでなくても村に今多数入り込んでいる難民がはした金欲しさにばらす事も考えられる。
今なら、ボロロッカ商会は持ち込まれたキャウルの乳の出所を欲しがっているし、
更に難民達もキャウルの飼育についてはさほど見ていないだろう。
俺達の小屋の近くで飼育しており、村のバリケードの中にあるからだ。
それでも、難民もかなり入り込んできているため、飼育法がばれるのも時間の問題なんだろうが。
というか、飢えている難民の事だ、キャウルを直接食料にしようとしかねない。
まあ、状況次第では飼っているキャウルをボロロッカ商会に買い取ってもらうのもいいかもしれない。
そこそこの値がつくだろうから。
もっとも、その儲けで買える食料もまた直ぐ無くなる可能性が高い。

「やはり一番欲しいのは、仕事だろう」
「仕事をしても報酬が払えないで御座るよ」
「そうじゃない、1次産業だよ」
「何かを作ると言う事でござるか?」
「もしくは、探す、採る、なんでもいい。現物が残るような仕事が必要だ」
「でもたつにーさん、物があるのは魔物のいる西の森くらいしかないのです」

食糧支援の事ばかり考えていたが、1200人もいるのだ、働けない人ばかりではないだろう。
500、いや300人でもいい、働く事が出来ればかなり助かるはず。
そして、働いてもらわねば俺一人でこんな人数を支える事は出来ない。
しかし、畑はこれから開墾でもしなければ無理、そしてそんな暇はない。
そもそも元々畑を持っていた人達だ、その気のなれば元の畑に戻ればいい。
だが、今食べる食料が無いからここにいるのだ。
つまり、結論から言えばずっと食べられる仕事を用意するか、
新しい作物が育つまでの食糧を用意するかの2択。

食料を用意するのは無理な事は痛感している。
1日3万ダール、つまり4カ月分だと360万ダール(約3億6000万円)。
個人でどうこう出来る金を完全に逸脱している。
先ほど50万ダール稼いだのだって賭けだったのだ。
もう売るようなものもない。

それに問題はそれだけじゃない……。
元々この村には20しか家がないのだ。
大家族で住んでいる家ばかりとはいえ、一件10人がせいぜい。
200人を越えれば当然家の無い人達が溢れだす。
ましてや今は1200人を越えている。
テントどころか路上にもいられなくて畑に座り込んでいる人も多い。
水は幸い池や川があるので飲み水はなんとかなっているが、川は下水代わりに使われる事になる。
直ぐに川の水は飲めなくなるだろう。

「家を作る必要があるな……、それと下水も」
「資材はどうするんです?」
「もちろん、西の森を切り開く」
「森の妖精である我らの前でそんな事をよくぞのたまった!」

リフティから凄い威圧感を放たれる、アルテもあまりいい顔はしていない。
妖精の国の兵士でもあるリフティにとってみれば、確かに看過できないものかもしれない。
背に腹は代えられないと言うべきかもしれないが、ふとその事で頭をよぎる事がある。

「妖精の国から支援を受ける事は出来ないか?」
「支援だと? この国とはそもそも国交も無いのにか?
 そもそも、森の木を大事にしないお前達等……」
「そうか、すまないな……。やはり、飢えさせるしかないか……」
「ぐっ……」
「リフティ、情が薄いのです」
「姫殿下!?」
「リフティならきっと……。あの方に連絡を……」
「いえ、あの方って誰ですか?
 自慢ではないですが、私の知り合いで権力を持っているのは姫殿下だけです」
「ちぇっ……」

乗ってくれたアルテに感謝だな。
しかし、当然でもある……、今まで上手く行っていた方が不思議なのだ。
ここから先、破滅を回避するには……一つしか思いつかない。
だが……それは別の意味での破滅を呼び込む。

「仕方ない、今日はこの辺にしよう。また明日考えればいいさ。
 10日以上の時間はあるんだから」
「そうでござるな、今はこれ以上考えても堂々巡りをするだけでござろう」
「姫殿下……」
「アルテはたつにーさんが諦めない限り諦めないのです」
「……そうですか」

現状考えうる限りの事を考えた、しかし、いくら頑張った所でこれ以上は難しい。
俺は天才じゃないし、メルカパもそうだろう、知っていても思い出せない事もあるかもしれない。
アルテやリフティは俺達の様な異世界の知識がある訳でもない。
その日、村長にキャウルの事を報告して寝る事にした。
アルテとリフティには村長の家に寝てもらう事になった。
一応2人ともエルフである事は伏せている。
俺達の前でしか明かしていない事だし、混乱に拍車をかけるだけだろうからだ。


だが翌日、俺は大事な事を失念していた事に気付いた……。
それは、そう……これだけ大規模な脱走を領主が見逃すわけがないと言う事だった。
むしろ、こんな事態になる前に村に見切りをつけるべきだったのかもしれない。
だが……そんな考え事はもう後の祭りに過ぎなかった。

「徴税官だ!! 徴税官が騎士を連れて来たぞ!!」

そう、幾つもの村から人がこの村に来た原因、徴税官が軍を率いてやってきた。
騎士だけじゃない、一般兵もだ、ぱっと見て中学校の頃、運動場でやった生徒総会くらいはいる。
中学の生徒数が300だったが、こいつらが鎧を着ていて身体が大きい事を入れればそれほどはいまい。
しかし、100人を軽く超えるその人数は、場合によっては制圧も辞さないという示威行為だろう。
つまり、前回とは違い兵を使うつもりがあると言う事だ。
もう、本当にどうしようもない。
対処のしようが無い事態は、目の前にまで迫っていた……。




あとがき
ぬお!? 出遅れた・・・。
出来てはいたのですが、昨日のうちに投稿すべきでしたね。
申し訳ない限り。
ともあれ、次回、公約ギリギリですが決起できそうですw



押していただけると嬉しいです♪

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