「行ったか」

呟いたのは巨人と見紛うほどの巨大な威圧感を持つ男。
2m近い巨体、肉体は鋼のように鍛えられその顔もまた厳ついものがある。
そして、蓄えられた髭は顔の半分を覆う程である。
下手な人間では見ただけで震え上がってしまうだろう。
男の名はガラルド・ハインマーク、バーラント国境砦を守る将軍である。

「フンッ、小娘が逆らいおって……」

彼が言った小娘とは副将であるアル・サンドラ千騎長の事だ。
名目上は1000の騎兵を束ねる長の事だが、実際には兵士を1000率いる事を許可された者をさす。
国王の直轄軍と違い、実際に1000の騎兵が揃うはずもないため、名目上そう呼んでいるに過ぎないが。
この下に百騎長が続き、十騎長となるのがこの国の軍隊のシステムである。
ただ、十騎長は小隊長と呼ばれる事の方が多いのが実情だ。

それは兎も角、アル・サンドラ千騎長は本来直轄軍の人間である。
国境地域には直轄軍の監視が付くのが常で、そうでなければ貴族は裏切る事も多いためそうされる。
実際、国境線上に領土を持つ貴族は両国に尻尾を振る者が多く、またその時々で仕える主を変える。
こういう節操の無さは、どの貴族も有る程度持っているため、国は大きく目くじらを立てる事は少ない。
しかし、行き成り裏切ら手手も困るため、こうしたお目付け役が各地に配置される事となる。

だが彼女は本来直轄軍から連れてきた兵を早々に失っており今は名目だけの副将である。
実はそう仕向けたのもガラルド将軍だったのだが。
そう……彼は……。

「おい、あちらの方は上手く行っているか?」
「先方はかなり乗り気のようですね」
「フンッ当然だろう」
「流石将軍閣下、よくぞアマツを動かす事が……」
「口に出すな」
「ハハッ!」

アマツの事を口に出した部下を叱りつけるガラルドだったが本人の口元も吊り上っていた。
何故なら、アマツとの長年の交渉の結果が出ようとしているからだ。
アマツとはかなり前から交渉を進めていた、その結果の一つが、アマツとの小競り合いの演出だ。
特に、アル・サンドラ千騎長の率いる部隊の情報をリークさせた時は上手く行った。
それ以後、アル・サンドラ千騎長はガラルドに対し特に反対意見を出さなくなった。
しかし、今回はそれでも納得いかなかったのだろう。
もっとも、その通りなのだから当然だろう。

「予定のものは5日後の小競り合いの時に届けると言え」
「はは!」

何故なら、ガラルドはアル・サンドラを排除する理由があるからだ。
表だっては動けない、本国に対して言い訳が出来なくなるのはまずい。
それにアマツとの戦いは続けなければならない、
領主に対する面目のためにも、本国に不信がられないためにも。
そして、裏で取引をするためにも……。

ガラルドは今の地位に甘んじている気等さらさらない。
しかし、本国に行くためにはどうしても金がかかる。
辺境の領土での国境警備等という閑職で金を稼ぐためには、後ろ暗い方法もやむなし。
それがガラルドの方針である、しかし、アル・サンドラのような本国に縁者のいる者の前ではできない。
つまりはそう言う事だった……。

「さて、メイホウ将軍だったか……俺に会いたいだと?」
「はは。出来ればお忍びで、護衛は最低限に願いたいとの事です」
「……仕方あるまい、場所はどこだ?」
「リグウの街との事」
「ふむ、ここから程近いな。ギリギリか、行くと伝えよ」
「はは!」

ガラルドにはメイホウ将軍とやらがいう事がだいたい読めている。
流石に直接ではないだろうが、脅しも兼ねているだろう。
しかし、呼びつける訳にもいかない、実質儲けさせてもらっている以上関係悪化は望む所ではない。
ガラルドは不満を残しつつも、出向く事であえて交渉を有利に運ぶ方を選んだ。




異世界召喚物・戦略ファンタジー
王 国 戦 旗
作者 黒い鳩


第十三話 【襲撃


「なるほど、細かくはわからないが800から900って所か……」

俺は、砦の状況を確認するために何度かに分けて見張りをやり過ごしながら砦の内情を確認し続けていた。
兎に角、兵士の数を数えるのが面倒だ、キッチリとした数字はまず出ない。
物見や斥候は一体どうやって数えてるのだろう? 基準とかあるのだろうか?
しかし、ありがたいことに俺にはチート能力があり、アイコンの数を数えれば一応大体の数はわかる。
時間がやたらかかる上に、数え間違いやら、ダブりが出るのでおおよそしかわからないが。

「アルテ、悪いがリフティに通信たのむ」
「はいなのですよ! なんて言えばいいのです?」

アルテは見た目10歳だが、その目が真剣さを伝えて来ている。
彼女も本気で協力してくれる気でいるのだ。
耳は変身で隠しているがエルフである彼女は本来関係ない事なのに。
俺はこんな事情に巻き込んでしまった事を済まなく思い、しかし、口に出した事は別の事だった。

「出撃してきたのは新兵ばかりだ。一部年季のはいったのもいるが少数だろう」
「え? そうなのです?」
「ああ、俺も普通は新兵をいきなり作戦に使ったりしないと思っていたが、
 それでも考えてなかった訳じゃないだろ?」
「確か……、プランDだったです?」
「その通り、防衛戦力と新兵を引いた数で攻めてきた場合を基本のプランAで、
 防衛戦力を大幅に削って一気に攻めてきた場合をプランB、
 逆に少数精鋭で来た場合をプランC、そして新兵を中心とした兵で攻めてきた場合をプランDとした。
 後、動かなかった場合のプランEやアードックの防衛部隊が動いた場合のプランFもあるにはある」
「なるほど、プランDの発動と言う事を伝えておくのです!」

新兵の事でプランを分けているのは、新兵には彼らの村の人間が多い事がある。
だから、その部隊をメインに攻める事が決まっていた。
混乱したら、寝返りを徹底的に推奨する事で戦力確保と更なる混乱が見込めると見ているが……。
問題は、殆どの低レベルが出払ったと言う事だ。
恐らく新兵達が全て出撃させられているんだろう。
そうなると、砦へのとっかかりがなかなか難しい状況になる。
代わりに、当初は一気に砦に突入しないと600人の村人達が危険という事だったが、
多少危険は下がったはず、後は任せているマルドのリーマ村長の腕次第だ。
俺よりもよほど上手くやってくれるだろう、派閥の強化にもなるだろうしな。

「ん?」
「どうしたのです?」
「ああ……、兵士の一部が地下に潜っているな。
 いや、そのまま移動……、地下通路か何かか?」
「そんなのがあるのです?」
「どうやら間違いないな」

これは案外収穫かもしれない。
そこからの襲撃が可能かどうか、一度見てみる必要があるな。
俺は、兵士達が向かっている方向を指差す。

「向こうは森があるみたいなのです。
 探すなら、木こりのダンさんに頼むといいのですよ」
「ああ、ダンさんか、彼なら見つからずに行けるかもな」

ダンさんは、村の食料確保の護衛を俺たちと一緒にしていた事もある人だ。
体格はかなりでかく、レベルも7になっていて、戦闘でも強い。
だが、彼の能力で一際強いのは、森の中の気配を読む能力だ。
エルフの戦士であるリフティとほぼ同等のその能力を使えば兵士に見つからずに行くこともできるだろう。

「じゃあ」
「ダンさんならもう向かったのです」
「え?」
「不言実行なのがダンさんの凄いところなのです」
「確かに……」

御蔭でこちらは助かっている。
ダンさんほど頼りになる味方はそう多くない。
大事にしなければ。

「さて、次は。日が落ちてからが勝負だな」
「分散して動いていた村人達も結構集まってきたのです。
 ただ、やっぱり全員は集まりそうにないのですよ」
「当然だ、博打もいい所だしな。冷静なやつなら逃げるだろう」
「でもそれで失敗したら泣くに泣けないのです」
「そこはまあ、メルカパに頑張ってもらうさ」

そう言って俺は、崖からかなり下がった場所にある窪地を見る。
その辺りに、メルカパと集合した村人がいるはずだった。
当初の予定では200人、今いるのは半数くらいだろう。
まだ全部じゃないとはいえ、半数のままでは厳しい。
いや、全員いても厳しい事には変わらない。
1000人以上の兵士相手に兵士ですらない百数十人で挑もうというのだ。
それも、敵は砦に籠っているため、まともに相手をする必要すらない。
上から弓を射かけられただけで潰走するのが目に見えている。
切り札はあるにはあるが、心もとない話ではあった。

「さて、問題は情報がどの程度正確かという事だな……」

そろそろ見張りが動き出す時間だ、俺は窪地に戻る事にした。
集結した村人の数は正確には122人。
メルカパの手伝いをしているのがその内30人ほど。
残りはアードックの方を調べる役目の者が10人ほどそちらにいっているため、
こちらに来るのは最大でも190人前後だ。

「メルカパそっちの調子はどうだ?」
「順調でござるよ、召喚魔法に関しては不思議と普通の魔法よりも楽なのでござる」
「流石だな、もう召喚魔法の二つ目を覚えただけの事はある」
「出来れば使う機会が無ければ良かった気もするでござるが……。
 兎に角、村に悪事を働くならば、拙者黙ってはいないでござるよ!」
「頼もしい限りだ」

流石チート能力、それともメルカパの努力のおかげか。
どちらにしろ助かる、俺の能力は戦闘力と言う意味では使い道が少ない。
相手の攻撃種類を知り、回避の助けにはなるが、サポートはないからな。
各村の村長も手伝ってくれている、はっきり言って俺達以外で一番動けるのが村長達だ。

「トビー、槍は十分行きわたったか?」
「あんなの槍でもなんでもねえ、あれで勝てるなんて思っちゃいねえだろうな?
 だが数だけはそれなりだ。今いる全員に行きわたってると思うぜ」
「感謝する」
「へっ」

流石にクワや鋤では振り上げて下すモーション分不利だし、刃は下に向けてしか力を発揮しない。
それよりは、ナイフをくくりつけた棒の方がマシとばかり200ほど用意した。
幸い、各村でも料理用や、食事用、森等に分け入った時のツタ伐採用等いろいろあった。
なので数だけは揃える事が出来た。
質に関しては、正直微妙なところだ。
数回突き刺したら、ナイフが飛んでしまい、ただの棒になり下がる可能性が高い。
だが無いよりはましだろう。
弓矢に関しては、狩猟用のを持っていた人が一部いたが、
数が揃わなかったので、こちらには持ってきていない。

「いいか、チャンスは一度きり、二度目は無い、だから質云々は言わない。
 しかし、言われた行動を守るように徹底しておいてくれ。
 でないと食料を分配しないと脅してもかまわん」
「本気だな。まあいい、伝えておいてやらぁ」

脅した事で逃げた人間がいても、今この状態でまともに動かない兵をかかえるよりはマシだ。
正直、食料をどのくらい奪う事が出来るのかその目算も立っていない有様だからな。
こちらにとっての一番のアドバンテージは情報の伝達速度だ。
人数が少ない事、俺のチート能力とアルテの通信魔法、この有利を最大限に発揮しないといけない。
でなければ、勝ち目はないだろう。

「時間があればアマツとかいう国の協力を取り付ける事も出来たかもしれないが……」

無い物ねだりというものだろう。
それに、たとえそれが出来ていても対等に話し合いが出来ないなら捨て駒にされるのがオチだ。
どちらにしろ、最初の戦、ここで勝利しないことにはどうしようもないのは事実だ。
むしろ今、9つの村が利害はあるにしろ俺の指示を聞いている事実が緊急の度合いを顕している。

「たつにーさん、あちらの準備は出来たみたいです」
「そうか、なら一安心だな。いくら身内とはいえ800もの兵士を引き付ける訳だから」
「あまり気負わない事なのですよ、例え負けても元々なのです。
 勝つために出来る事はするべきですけど、神様じゃないのですから全てに責任を持つ事は出来ないのです」
「分かっているさ、別にそんな事考えてない。単に出来る事をするだけさ」

とは言っても、村人を扇動したのは事実。
俺がいなければ恐らく彼らの大半は飢え死にする羽目になっていたとは言っても。
全員ではないだろう、中にはうまく生き残って再起をする人もいたかもしれない。
だが、今回の事でもしも失敗すれば全員死んでもおかしくない。
責任が取りたい訳じゃないが、やれる事は全てやってしまいたい。

「それでアルテ、ボロロッカ商会とは渡りを付ける事は出来たか?」
「はいなのです! リディアちゃんが接触してくれてるのですよ!」
「それは嬉しい報告だ、勝ち目が出てきたな」

アルテの通信魔法は一般相手だと一方的に通達する事しか出来ないが、返事は狼煙などでも構わない。
ボロボッカ商会は信用できる商会と言い切れる訳じゃないが、少なくともぼったくりではなかった。
ならば、今回の結果次第では今後なにかと融通してくれる可能性もある。
というより、今のままでは砦の戦力に勝ってもまたすぐに物資が尽きる可能性もあった。

「さて、なら俺もするべき事をしないとな」

勝利のための最後の仕込み、ボロロッカ商会から届く品を使わねばできないから夜になるのは確実だが。
とりあえず、正面戦闘等は論外となれば最低限仕込んでおく必要があるだろう。
これが決まればかなり有利に事が進むだろう。
どう考えても無茶な話を通すためだ、普通の方法というわけには行かない。

「後は……」
「仕上げを御覧じろなのです!」
「ああ!」

馬鹿で無茶で無責任な、そして、地獄に落ちても仕方ない事。
悪を裁くのは正義じゃない、しかし、それを正義と言い切る覚悟。
それが求められている。
俺は、決断した事をもう迷いはしない。

「あっダンさんが戻ってきたのです。案外早いのですね」
「え?」

確かにダンさんの向かった方に今は向いていなかったが、早い。
出て行ってから1時間と経っていない。
結構出口が近いという事か。
しかし、ここから近いという事は、砦より上になるということで、かなり高い位置になる。
脱出経路としては向かないきがするのだが……。
逃げるのに上り階段ばかり行くのはどう考えても不利だ。
追いかける方に姿を見られかねない。
という事は、もしかして脱出用の地下通路じゃない……?
俺は戻ってきたダンさんに早速声をかけた……。














それは、アル・サンドラ千騎長が出撃していった日の夜。
進軍予定では明日には彼女らが流民達と接触するはずだった。
そのため、砦においては、特段の警戒はされておらず通常の見回りしかしていない。

「なんだ? 門の付近が騒がしいな。おい、巡回はどうした?」
「はっ! それが……」

見回りの確認に来た十騎長に一般兵が返すのは戸惑いの言葉だった。
十騎長は一般兵の視線を追って確認する。
それは、光の玉だった……。
ふよふよと、言い伝えにあるウィル・オー・ウィスプ(人魂)のようにただ揺らめいている。
十騎長はそれを見て、敵かどうか判断に苦しんだ。
しかし、その光の玉はだんだんと砦の方へ進んでいく。
門をすり抜けて入ってきたのだとすれば、砦の内部に入り込む可能性も高かった。

「くそ! 追え!! あの光の玉を砦に入れるな!!」

何だかわからないが、それでも、砦の内部にあんなものを入れたとなれば責任問題になりかねない。
十騎長は周囲の兵士達に命令した。
だが……。

「くそ! 切っても突いても通り抜けるだけだ!」
「さっき俺すり抜けられた!? なんか寒気がするんだけど」
「ちっ近寄るなぁっ!?」

結果として、攻撃は全く効果がなく、そして体を張って止めてもすり抜けられるだけだとわかる。
正直手に余る、そう判断した十騎長は百騎長に連絡する様に一部の兵士に言った。
自分で行きたいのは山々だが放り出したとなれば罰則がある可能性があった。
どちらにしろ、十騎長は農民上がりだが、百騎長以上は騎士階級だ、もっと適切な判断が出来る。
そう十騎長は判断していた。
しかし、魔法は魔法使いでもない限り詳しい人間等いないという事を彼は理解していなかった。
百騎長も十騎長同様にしばらく無駄な攻撃を繰り返し、参謀を呼ぶように通達する事しかできなかった。

「これは……、発光玉。召喚魔法の初歩だと聞いたことはありますが……。
 召喚主が近くにいないのですか?」
「いえ、今のところ門を越えて入ってきた者はいません」
「すると、精霊界から迷い出たのか、それとも……」

参謀の一人がそんな事を考えている間に、光の玉は他の方向からも現れる。
砦の内部に混乱が広がった。
しかし、参謀は落ち着くように皆に言う。

「あれに攻撃能力はない、心配しなくとも放置しておけばそのうち消える。
 しかし、近くに術者がいるはずだ! なんとしても探し出せ!!」
「わかりました! 行くぞ!」
「はっ、はい!」
「待ってくださいよ!」

兵士達が十騎長を1単位に散っていくのを確認して参謀は頭をひねる。
見える範囲に術者がいないということは考えにくかった。
何故ならこれはあくまで周囲を照らすための召喚術。
それ以上でも以下でもないからだ。

「まさか……陽動?」

参謀はふとそういう考えがよぎる、しかし同時にそれはありえないと振り払う。
理由はそれをする意味のある勢力が存在しないからだ。
アマツはこちらとの取引をそれなりに大事にしている、だから攻撃タイミング等互に知らせ合うほどだ。
妖精の国に関しては国交がないので何とも言えない部分はあるが、今までこちらに関心を示したことがない。
両国の関係も、無関係というものに近い、よってわざわざ事を荒立てるような事はしないだろう。
ならば、流民はどうか。
問題外だ、流民は所詮流民であるし、少し頭が回ろうと砦に攻め込もう等という馬鹿はいまい。
同時に迎撃に出たアル・サンドラ千騎長に対しで何もせず、砦に突っ込んでくる等ありえない。
いや、逆にアル・サンドラが流民達を扇動すれば……。
それもありえない、合流するとしても明日がいいところ、こんなに早く動く事は出来ないだろう。

「となると、やはり季節外れの馬鹿が遊び半分でやっているのか?」

それくらいしか思いつかない。
実際、あれくらいで陽動になったとしても、それに追撃をかける兵力がいなければまるで意味がないからだ。
そう考え、参謀が安心していると、今度は砦の内部が騒がしくなっていた。

「今度は中に現れたのか? 流石に放置するわけにも行かないか」

他の参謀と相談し、捜索部隊を立ち上げる必要が出てくると考え、
砦の中に戻った参謀はふと夕食がまだだったことを思い出す。
ちょうど、騒ぎが広まって人も減っている、しかし、食堂の周りはごった返していた。
いや、違う……、食堂の前じゃない、その手前にあるトイレに皆駆け込もうと飛び出してきている。

「一体どうしたというのだ!?」
「それが、夕食を食べた者たちがトイレに駆け込んでおりまして」
「なっ!? もしや……。毒物か!?」
「恐らくは! しかし、最初に食べた者たちがトイレに駆け込むまで若干時間がありまして……」
「何!?」
「それから食べた者たちも皆そうなりました、砦の兵の半数近くが食べた模様で」
「何という事だ……」

そこで、ふと参謀は考え違いがあるのではないかと思った。
理由は夕食を食べていないはずの小隊の者も苦しんでいるからだ。

「もしや……水に細工をされたか!?」
「水……ですか!?」
「うむ、夕食を食べてもすぐに苦しんだりしていないという事は煮沸した水は問題ないという事だろう」
「なんと……」
「今直ぐ水を飲む事を禁止しろ! 使うなら一度煮沸したものに限ると!」

遅かった、水を使うという事の自然さから、
命令が徹底されるまでに全体の実に7割以上が水を口にし、手を洗い、体を拭いていた。
その結果、何をするまでもなく砦は壊滅状態になりつつあった。

「何故だ!? 水源地は抑えてあったはずだ……、いやもしかして。
 あの発行玉は……」

水源を守る部隊には魔法使いはいない。
参謀他数名しか魔法使いと言える存在がいないため流石にそこまで配置していなかった。
だから、ここに現れたような発行玉がもし水源にも現れたなら混乱しても仕方ない。
一部隊でもそこに突っ込んできたなら……。

「動ける者は今直ぐ地下を通って水源の確保をしろ! 急げ!!」

参謀は急いで命令を出す、他の参謀や参謀長もあらかた水にやられていたので、
もう参謀と将軍くらいしか兵を動かせない。
そして将軍は今秘密裏にアマツとの交渉に向かっていた。
つまり、今参謀こそがこの砦の最高指揮官という事となる。
だが、参謀は先程犯したミスをまた犯してしまっていた。
即ち、視線を別方向に向けるというミスを。

「空からハーピィが! ハーピィが!!」
「何!?」
「ハーピィが人を抱えて飛んできます!! 門に取り付かれました!!」
「なん・だと!?」

参謀は急いで砦の外に出た、そして門に取り付いている人々を見て絶句する。
兵士たちで動ける人間もいるはずだが、あまりの事に言葉も出ないようだ。
10匹にも及ぶハーピィの襲来、そして、人を乗せてくるという事実。
恐らく召喚術の類だろうが、どうやってこれだけのことを……。

「ハーピィは後でいい!! 落とした人間の方を切れ!!」
「ははっ!!」
「い、行きます!」

そういって数人の兵士が向かうが、ハーピィに邪魔され農民と思しき人々まで刃が届かない。
参謀がハーピィを無視していいといったのは兵士のためではない。
ハーピィの腕ではどのみち門を開けるのは無理だが、人間ならできてしまう。
だが、ハーピィは門に近づく兵士達を迎撃してきた。
つまり相手も100も承知という事、バックにかなりの知恵者がついているということになる。
しかし、召喚魔法にしろこれだけの規模の事をやってのけるとは、相当の使い手に違いない。
知恵者と召喚主、この2人だけでも現在の砦が相手にするのはきついと言わざるを得ない。
砦の切り札であるガラルド将軍やアル・サンドラ千騎長がいないのだから。

「まるでわかっていて攻めてきたような……、まさかアマツが協力しているとでも!?
 あ、ありえない……」
「参謀! ご指示を!!」
「参謀!」
「参謀!!」
「わっ、分かっている!! 動ける者は皆門を開けようとしている農民共を攻撃だ!!
 門が空いてしまってはこちらが更に不利になるぞ!!」
「はは!」
「行くぞ!!」

こちらが動かせる兵は、恐らく300にも満たないだろう。
それだけではない、混乱していて士気が低い上に、あまりに予想外過ぎて頭が回らない。
一体どうしたらこれだけの事が出来るというのか、参謀は頭を悩ませていた。

「もっ、門が……」
「開く!?」
「急げ!! 閉めるのだ!!」

ハーピィを何体か切り落とし、村人達に迫る兵士達だったが間に合わず門が開き始めてしまった。
そして、外から現れたのは……。
100を有に越える槍を持った農民達。
そして、一際前に出て爛々と目を輝かせている男。
その男は、砦に突入してくると、突然口を開いた。

「兵士共!! 貴様らが守るものはなんだ!?」
 
それが、その奇妙な男の放った第一声だった。




あとがき
ようやく、戦いが始まりましたが、サラっと終わるかもしれませんw
実際問題、このお話は戦闘そのもので勝つのが難しいキャラが多いため、まだ直接戦闘は厳しいのが実情です。
ちょっとやり方は回りくどくなっていますが、お許し下さい。



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