異世界召喚物・戦略ファンタジー
王 国 戦 旗
作者 黒い鳩
第十四話 【初めての戦】
砦近くにバラバラにやってきた俺達は、完全には合流せず各村で砦から見えないように布陣した。
そして、マルド村のリーマ・ファブレラ村長以外の全ての村長を集め会議を開いている。
リーマ村長には戦闘するのは難しいが、
移動は可能そうな人達600人を率いアードックに向かってもらっていた。
目的は陽動なのだが、今の状態を考えれば出撃した800の寝返り作戦を任せる事になるだろう。
その間に俺達は砦を落しておかないといけない。
俺は、会議用に石に座っている村長達を見回した後、各作戦の進捗状況の確認から入る事にした。
「……先ずはアマツ作戦の方だが進捗はどうなってる?」
「はい、将軍には今すぐ出立するようにと伝えられたかと」
俺に報告をしているのは、
ポーリック村の村長リドリックという、60前後の頭が少し禿げたおっさんだ。
ポーリック村は元々アマツとの国境近くにある。
彼は、ガラルド・ハインマーク将軍がアマツと裏で取引している話を知っていた。
それに徴税官の馬車には国交のないアマツの装飾品等があった事も手伝い、ほぼ確定とみている。
だから、彼には工作を頼んでいた。
方法は単純、以前からの徴兵された兵士の誰かに砦で働いている人間がいたら、
そいつにアマツの将軍が国内で会見をしたいと申し込んでいると伝えさせると言う事だ。
もちろん、伝える兵士は9つの村のどの村の出身でもいい。
幸いにして、毎年のように徴兵が行われていた為、望まず徴兵された人間には事欠かない。
兎に角、それをしてもらえば最強の敵を排除出来る。
もちろん直ぐバレるだろうが、1日いなくなるだけでかなりの有利を期待できるだろう。
「そうか、リドリック村長、感謝する」
「いえ、お役に立てて何よりです」
これでガラルド将軍が動いてくれればめっけものだろう。
失敗しても損失はない、今さら敵視されるのを恐れても仕方ないしな。
ただ、出来れば将軍と正面から戦うのは遠慮したいところだ。
強者度が20とかなってたからな……。
「続いて、木こりのダン。偵察結果を頼む」
「……あそこには、大きな池があった。
洞窟の出口が池の中に入り込んでいる、兵士が10人ほど警備してた」
「10人か……多いな、恐らくそこは水源地だろう。
位置的に見ても砦より高い位置にあるし、水を流し込むには丁度いい」
「そうかもしれない」
ダンさんは肯定も否定もしない。
見た事以上の事はあえて口に出さない、彼らしい表現ではある。
ただ、水源地を見つけられた事は大きい。
どうやって仕掛けるかという問題は残るものの、10人程度で池全体をカバー出来るとも思えない。
「確か、リーマ村長が持たせてくれた病魔の元があったはずだな?」
「病魔ってあれだべか?」
「確か、腹下したり戻したりするっていうあの……」
「それだ、そいつを水源地にぶちまけよう」
「ひっ、ひでぇ……」
「だっ、だがよ……」
「そう、そうでもしないと正面から勝つ事は不可能だ。
それくらい知ってるだろ?」
毒を使う事に抵抗があるのだろう。
確かに、俺もないではない、しかし、殺すための薬ではないと言う事で容赦願うしかないだろう。
実際問題として戦闘になれば負ける、これはもうどうしようもない事実だ。
所詮訓練もしていない農民の寄せ集めである俺達はきっちりと指揮が取れている100の兵にも敵わない。
しかし、戦争は兵だけでする訳ではない。
戦争において30%の兵が倒れる事は壊滅を意味するという。
30%というのは少ないように見えるが、実の所、輜重兵が3割、救護班が1割は必要になる。
最大でも60%の戦力までしか戦えないと言う意味だ、その内30%となれば全体の半分になる。
壊滅といって差し支えないレベルだろう。
そして、これにはもう一つの意味がある。
それは兵の士気の問題だ、勝っているうちはいいが負けているとどうしても下がる。
まして何十パーセントもの兵が倒れる状況は、
混戦もしくは敗戦間際の粘りに過ぎず兵達はそれを敏感に察する。
命あってのものだねだ、逃げ出す者も出るだろう。
そう、30%も無力化されれば兵は戦う気力を殆ど残していないと考える事が出来るわけだ。
そしてそういう意味ではこういう毒物の使用は最適である。
問題は相手も使ってくる可能性だが、今はそれを考えていても仕方ない。
死にたく無ければやるしかないのだから。
「他に講じられる事前策に考えのある者はいるか?」
「その水路って所から直接攻めたらどうかの?」
「そのためには守備兵10人を倒し、交代が来る前に侵入を果たさないといけないが、
やれる者はいるか?」
「へっ、丁度いいじゃねえか。俺がやるよ」
アルカンド村のトビー村長代理、チンピラっぽい言動はそのままだが、
やはり自ら動くと言う意味では若さも手伝っているのだろう、一番粋がいい。
「分かった。じゃあトビー、お前に50人預ける。
俺達が陽動をしている間に中央から切り崩してくれ」
「へっ、上等じゃねぇか!」
会議が一通り進み、それぞれやる事が決まった所で、俺はまたメルカパの所にやってきていた。
メルカパは儀式をしている、なんでも魔力を高める儀式だそうだ。
これはアルテが提案した事で、メルカパの召喚を手助けするために行われている。
「会議は終わったのです?」
「ああ、アルテも色々手伝わせて済まないな」
「いいのですよ。あの村の事はアルテも大事に思ってるのです。
たつにーさんと出会った場所ですから」
「そういういちゃラブトークは別の場所でやってほしいでござる……」
大きな布に描いた魔法陣の中央で座禅のようなポーズで座っているメルカパ。
魔法陣は外に魔力を漏らさないためにしているらしい。
相手の魔法使いに見つからない為という事もあるんだが、
魔法陣内の魔力は魔法を使う時に上乗せ出来るとか。
魔力を放出して貯めておいた分だけ後々強力な魔法を使えると言う事だ。
問題は魔法陣の構築に半日くらいかかる事と、ためておける時間が1日程度という事だ。
それでも十分強力な効果なので、今は実施してもらっている。
「メルカパ……いけそうか?」
「大丈夫でござるよ、もう少しで必要な魔力が溜まるはずでござる」
「そうか、頼む」
「今回は、達也氏だけにいい格好はさせないでござるよ!」
「その意気で頑張ってくれ! 今回の切り札はその召喚なんだからな」
「当然でござる!!」
どちらにしろ、作戦開始までもう時間がない。
俺は再度砦の状況を確認しに行く事にした。
アルテも付いてくる、小柄な彼女だが、魔法に限れば俺なんか足元にも及ばない。
だがそんな彼女も戦闘経験は浅い、一番経験が多いだろうリフティはここにはいない。
だが、取りあえず奇襲の心配はしなくていいだろう、俺の能力の事もだが、相手は防衛のための施設だ。
それに、一応ではあるが対アマツを名乗っている以上偵察もアマツ側だろう。
そんな事を考えながら、砦の内情を確認していく……。
「うん、アマツの作戦は旨く行ったようだな。将軍は砦内にいないようだ」
「それは朗報なのです!」
「次の水源地での作戦が終わり次第襲撃をかける」
「トビーに任せたと聞きましたが大丈夫なのです?」
「分からん、が、他に任せられる奴もいないしな」
年齢的にも、指揮能力的にも、一応なりと人を指揮して戦った事のある人間がいない。
トビーが唯一俺を相手に戦った事がある、最も俺一人に全滅させられる程度だが。
それでも、その経験を持つトビーだけが指揮をどうにか任せられる人材なのは事実だった。
「とうとう日が暮れてきたのです」
「ああ、そろそろ水源地にトビー達が到着するころか」
だが俺達は一旦砦の前から離れる必要があった。
見張り兵の巡回時間になったからだ。
作戦が進むまでは見つかるのは不味い。
俺達はまた、メルカパが魔力を貯めている窪地に戻る事にした。
「どうでござったか?」
「アマツによる将軍呼び出し偽報作戦は成功したようだ。砦内に将軍はいない」
「それは朗報でござるな!!」
「ああ、戦えば100%殺されそうだからな」
「戻ってきた時が怖いでござるが……」
「その時には立場が逆転しているさ」
「そうでござるな」
それが出来なければ俺達は全滅だ。
30%どころじゃない、狩り尽くされるだろう。
だからそれをさせない為にも、トビーには頑張って貰わねばならない。
そして、次の偵察のためまた砦の前に行ってみると……。
ステータス確認で兵士達の何割かが毒状態として記録されている。
「どうやら、開始のタイミングらしいな」
「アイアイサーなのですよ」
アルテは俺に変わって、皆を集める役を買って出てくれた。
離れていくアルテを見送り、俺は集合場所として決めていた砦から2km程の地点に向かう。
西洋弓の射程なんて砦の上からでも200m〜300mほどだが、合成弓や弩がないとは言い切れない。
多分混乱は始まっているとは思うが、それでも動けなくなった兵はまだそれほどではなかった。
だから、一応の用心のためだった。
こういってはなんだが、この世界に来るまで俺は戦争なんて関わったこともない。
チート能力がなければとうに死んでいただろう。
SLGの知識とか言っても所詮一般人レベル。
それほどWIKI等を活用して戦争の裏について調べたこともない。
ただ、戦争は生きるために仕方なかったとしても殺しそのものが容認されるわけではない。
恨まれる覚悟だけはしておかねばならない。
それだけは知っていた。
「お、来たのでござるか達也氏?」
「メルカパ、早いな」
「そうでもないでござるよ。拙者が来た時には既に結構集まっていたでござる」
「なるほど」
俺がその場を見回してみると、既に百名近い人数が集まっていた。
アルテが頑張って報告して回ってくれたおかげだろう。
多少俺がゆっくり来たとは言っても、何箇所も回って俺より先にと言うんだから頭が下がる。
「さて、後は……」
「たつにーさん! 連れてきたのですよ!」
「おお」
集まってきた人達と木こりのダンさん率いる偵察チームを加え、130人という数になった。
トビーに預けた50人と、報告に戻ってもらった数人を除けば脱落十数名というところか。
正直ここまで付いてきてくれただけでも凄いことだ。
「さて、分かっているとは思うが、これからバーラント国境砦を攻略する!」
「「おおーー!!!」」
「既に主将のガラルド・ハインマークは砦を離れており、副将のアル・サンドラも出撃していった。
よってこの砦には将軍がいない!
更に水源から蒔いた薬の効果により兵の大半は無力化している!
そして、先行しているトビーの部隊もそろそろ突入を開始するはずだ!
後は俺たちの働き次第で砦は落ちる!! 確実にだ!!」
「「「「「おおおおおおオー!!!」」」」」
確実にというのは嘘だ、不確定要素はまだいくつもある。
例えば、将軍がいつ戻ってくるかわからないし、毒でどれくらいの兵を無効化できたのかわからない。
せいぜいサルモネラ菌のようなもののようだから、食らっていても動けないとは限らないしな。
その上、こちら側の戦力は勢いに乗っていることを入れても同数の敵兵には適わないだろう。
それでも、相手が混乱しているうちに決着をつけられればなんとかなる。
一種の賭けに過ぎないが、それでも今はこの方法しかない。
だから俺は、自信満々といった風を装い皆に激を飛ばした。
「では、出陣する!!」
「「「「おおー!!!」」」」
俺の率いるたった130人の農民はナイフを括りつけた棒を持ち、俺を先頭に歩き始める。
馬がないわけじゃない、しかし馬上での戦闘なんてしたことのある人間はいない。
まともに馬に乗れる人間すら少数派だろう。
それに馬の数も10頭いるかいないかなら、輜重部隊の荷馬車を引いてもらうのが一番だ。
こんな少人数でもそれなりにやることはあるため輜重部隊を外すことはできなかった。
「どうやら予定通り混乱しているようだな」
「はいなのです。メルカパさんのお手柄なのです」
「拙者は砦の中を適当に動き回るようにあらかじめ仕込んだ光の玉を幾つか召喚しただけでござるよ」
そう、少し距離のあるところから既にメルカパは召喚をしていた。
召喚された物は魔力の供給がなければ10分程度で消滅する。
逆にそれを利用して、遠距離で操ることが出来る事をメルカパは実験していた。
本来召喚獣は護衛としての意味合いが強いし、命令しないことはしないので、召喚者から離れることはない。
しかし、単純な命令をして放つ事には問題ないようだった。
結果として、俺たちの接近に敵兵が気付く頃には既に砦に取り付ける距離まで来ていた。
「これより砦攻略作戦を開始する!! 投石部隊前へ!!」
「「「オオー!!」」」
投石部隊といっても大したものじゃない、30人ほど石を持って投げつけるだけだ。
スリングを教えようにも誰も正確な使い方を知らないので、怖いという事でやめた。
片側の紐を離すタイミングが分かっている人間がいないと教えられないのだ。
自分でもやってみたが、後ろに飛んでしまう事もあり封印した。
「メルカパ頼む! 空路奇襲部隊準備!!」
「分かったでござる! さあ、来るでござるよ!!
そして、契約の下、拙者に従うでござる!! ハーピィ達!!」
メルカパは魔法陣を描いた布を地面に広げる。
メルカパは今日一日魔力をひたすら魔法陣に込めていた。
それは本来の彼の魔力の数倍の魔法を可能にする、
呼ぶのは俺たちがこの世界に来て直ぐに襲いかかってきたあのハーピィという魔物だ。
呼び出したその数20匹、メルカパが20人までと言っていたのは運べる人数の事だ。
ハーピィが魔物といっても、本来は人間の子供くらいまでしか運ぶ事はしない。
多少無理して大人を運んでもらうにしても1体につき1人が限度だろう。
だからこそ、召喚できる数が重要になってくる。
「さあ、精鋭部隊の皆を頼んだでござる!!」
「キィーー!!」
「いつ見てもちょっと怖いが、今回は頼むぜ!!」
「じゃあ、行ってきます!」
訓練といっても、昨日の今日だ、まともに出来ているとは言えないだろう。
しかし、ぶっつけ本番でやるしかないのが現状だ。
何せ俺たちには明日の食料すら怪しいという現状がある。
メルカパは半分気を失った用に膝をついているが、まだ大丈夫なようだ。
召喚主が気を失えば召喚獣は暴走する。
だから、意地でも起きているしかない。
「投石部隊! 下がれ!!」
「了解!!」
「うぃっす!!」
「ひぃ、なんとかなったぜ」
投石部隊が石を投げるのをやめ、下がってくる。
泣ける話ではあるが、相手に被害は与えられていない。
しかも、既に数人が矢による負傷をしていた。
相手の見張りはほんの数人だ、報告を上げて部隊を連れてくるまでもう時間もない。
後は、発光玉による混乱と、毒による戦力低下がどれくらい効いているかだろう。
流石に、地下水路を抜けてくるトビー達に先行を期待するのは他力本願か。
「アルテ、支援魔法いけるか?」
「了解なのです! 大気と大地の精霊様、皆を守ってください!!
エアリティ・アーシーィ・ブレス!!」
20人と20匹という数の人間に、防御と回避の加護を与える。
アルテは一気に魔力を消費したのだろう、顔色が悪くなる。
真っ青な顔で、しかし、気丈にも笑いながら
「ふう、皆さん頑張ってください!
皆さんが上手くいけば砦を落とすことができます!!」
「「「オオオォォ!!」」」
加護を受けた20人の村人は20匹のハーピィに肩を捕まれ砦に向かって飛んでいく。
その体制を不安に思う者もいるはずだが、彼らもこれが失敗したらもう飢えどころではない。
殺されるだけだという事をよく知っている。
だからこその熱気だ、今はその狂気こそが求められている。
「続けて進軍開始!! 俺たちは彼らが門を開けてくれる事を信じ門の前まで急ぐぞ!!」
「「「「オオオオォォォォォォ!!!」」」」
負傷兵とアルテ、メルカパ、そしてその護衛に数人つけ、残りで突撃をかける。
俺と90人の突撃部隊は門の前までに大量の弓矢で全滅という事もなくどうにかたどり着くことが出来た。
砦の中が混乱しているおかげだろう、指揮がまともにできていない。
だがそれでも、上空を通過しようとしたハーピィの部隊は半数近くが撃ち落とされていた。
これで俺には味方を殺した罪が加わった事になる……。
名前、覚えておこう、自己満足にしか過ぎなくても。
そして、待つこと数分門は開け放たれた。
「突撃ィィィ!!! 中にいる精鋭部隊と合流するぞ!!」
「「「「オオォォォォ!!!」」」
門の中は混乱の坩堝(るつぼ)と言ってよかった。
敵兵も、何が起こっているのか分からず逃げたり、喚き散らしたり、やたら剣を振り回したりしている。
だが、一部の統制が取れた部隊が体勢を立て直そうと動き始めているようだ。
そして、その部隊の標的は正にもんを開けている精鋭部隊とそれを守るハーピィを攻撃していた。
彼らの部隊が他の兵達を落ち着けるような事になれば俺たちは全滅する。
相手は100人規模の部隊が1つもあれば俺たちを磨り潰す事が可能だからだ。
だから、それをさせるわけには行かない。
「兵士共!! 貴様らが守るものはなんだ!?」
突入し、俺が最初に叫んだ言葉はそれだった。
敵への呼びかけ、勝利が決まっている時にしか普通はしない。
ハッタリとして使う場合はその限りではない。
そう、これはハッタリだ。
だけど、同時に彼らへの呼びかけでもある。
彼らの欲と正義感を天秤にかけさせるべく俺は、先を続ける事にする。
「お前たちは何のために兵士になった!!
お前たちは、国のひいては自分の村を守るために兵士になったんじゃないのか!?
手段は強引だったかもしれない、しかし、兵士となってお前たちは何をした!?
将軍は敵国と癒着し! お前たちは自分たちの村から略奪同然に税を徴収する!!
そんな事のために兵士になったのか!?」
「黙れ!! 我らは領主様の……」
「お前こそ黙れ!! 生活を脅かす者の癖に偉そうにふんぞり返って!!
貴様らの無駄な命令で死んでいった者たちになんと詫びる!!!」
「無駄な命令等……」
「ならば何故この場には将軍がいないのか!?
アマツの将軍と取り分の話し合いに行ったんじゃないのか!?」
「……その様な事はない」
リーダー格の人間は俺と口論で勝とうとしたようだが、情報量の差で負けたようだ。
有り体に言えば、俺が将軍のいない理由を知っていた事を知らなかったのが負けた原因。
兵士達はそもそも元々忠誠度が高くない。
理由は大半が、金の無くなった村が収められない税の代わりに彼らを人身御供にしたからだ。
中にはそれを恨みに思い、村に復讐している人間もいるかもしれない。
しかし、村をそこまで追い込んだ者たちに対し忠誠心が湧く訳もない。
「今日俺たちは、税を払えなくなり死ぬしかなくなった多数の村を代表して来ている!!
お前たちは、俺たちを殺すか!?
それとも、高い税をかけ俺たちを追い詰めた領主に牙をむくか!?
選べ!!」
もちろん、こんな事で味方になる人間がそういるとは思えない。
しかし、悩む人間はいるだろう。
その隙を逃す気はない。
俺は、突撃を命じようとする、しかし、相手の方が一瞬早かった。
「くっ、あの男を殺せ!! そうすれば戦いは終わるぞ!!」
気がついた兵達が俺に向かってくる。
皆強者度10になるような猛者ばかりだ。
このままでは死ぬ、俺の強者度はまだ5でしかない。
しかし、俺の周りには農民達が壁を作ろうと集まってきていた。
俺は思わず前に出ようとするが、彼らに止められる。
「敵の言ってる事は正しいわい、おんしが死ねばワシらは全滅じゃ」
「もう年食って老い先短い身じゃ、お主を守らせてくれい」
「ワシらのために何度も駆けずり回ってくれとったこと覚えとるで」
「なっ!? 待って……」
そして、彼らは無謀にも兵士達から俺を守ろうとして……。
ばっさりと切り裂かれる彼らを目撃する事となった……。
元から分かっていた事だ、戦えば人は死ぬ、それに俺がやったことは地獄に落ちても仕方ない事。
しかし、それでも他に選択肢がなかった、だから……。
だが心の中の言い訳は顔に出すわけには行かない。
俺は、ここで止まる事は出来ない。
「お前たち、自分が誰を殺したのかわかっているのか!!?
お前たちが殺したのは、お前たちの国の国民、守るべきものだろうが!!」
俺は思わず叫びを上げて、断罪した。
切った兵士達も動揺したようだった、その時砦の内部から声があがる。
恐らくは、地下水路を抜けてトビー達が現れたのだろう。
「地下水路は抑えた、お前たちにはもう逃げ道もない!!
投降すれば許そう、そうでなければお前たちを殺す!!」
ハッタリは戦場では常套句、しかし、現状の混乱、そして内部に侵入した敵兵。
俺が訴える敵と味方の論理のすり替え等、使えるものは全て使った。
これでも、動く者がいなければ、もう俺たちは終わりだ。
「俺はその人につくぜ!
もう領主のために税を集めるのも、将軍のご機嫌取りも、村人の恨みを買うのももう嫌だ!!」
「そっ、そうだな……俺たちは別にそんな事がしたくて軍に入った訳じゃない」
「まっ、待て!! お前たち何を言ってるのかわかってるのか!?」
「お前こそ、これからずっとこんな事を続ける気だったのかよ!?」
動いてくれたようだな、仕込みをしているとは聞いていたがここにサクラがいるとは限らない。
実際、どっちなのかはわからないが……。
俺はどうにか賭けに勝ったらしい。
俺はほうっ、と息をついた。
兵士達もこちらに降る者が出始めていた、この状況では敵の指揮官も大したことはできはいはず。
そういえば、さっきから砦の中が静かだな……。
トビーの奴なら暴れまわってるはずだと思ったんだが……。
そんな事を考え始めていたとき。
砦の中から一人の男が現れる、そう2m近い巨体、顔は髭で覆われその眼光は鋭い。
そして、その背中に担がれている巨大な斧、そこにはべっとりと血がこびりついている。
まさか……、まさか……。
「上手い事やってくれたようだな、使者が居なかったんで帰って来てみれば。
粗方砦が制圧されてるじゃねえか……」
「ガラルド・ハインマーク将軍……」
「おうよ、よくも俺の砦を落としてくれたな。御蔭で出世の道が遠のきそうじゃねえか」
俺は思わずステータスを確認する。
正直勝目があるとは思えないが何か弱点でもないかと。
+++++
名前:ガラルド・ハインマーク
種族:人間
職業:将軍
強者度:20
生命力:96/96
精神力:??/??
筋力 :38
防御力:??
器用度:??
素早さ:??
魔力 :??
抵抗力:??
耐久性:??
<<術・技>>
????
????
<<装備>>
鋼の鎧:固さ10:防御力補正?:守備力?
大戦斧:威力16:筋力補正7:攻撃力22+?(??)???補正
<<物品>>
????
????
????
++++++
なん……だと……。
わかる範囲だけでも、絶望的だ。
生命力96って、俺の3倍以上じゃないかよ……。
その上、防御も攻撃も圧倒的、更に技なんて使ってこられた日には……。
俺はどうにか足が震えだすのを堪えるのがやっとだった。
今俺が怯えた顔でも見せれば途端に俺たちは見限られ、味方についたはずの兵士達も元に戻るだろう。
だから俺は虚勢でもなんでも、渡り合って見せねばならない。
「今頃お帰りとはごゆっくりな事だな」
「ふむ、賊軍の長にしちゃなかなか肝が座ってるじゃねえか」
「賊軍? どっちの事かな?」
「減らず口だけで渡っていけると思ってるなら甘い、貴様は今から公開処刑にする。
この俺様がどれだけ恐ろしいか、再認識してもらわねーとな」
「それは面白い、ならお前が負けた時はどうするつもりだ?」
「処刑されるってのに随分呑気だな。お前は俺が戻ってきた時点で詰んでる。
それくらい分かっているだろうに」
分かっている、勝目が無い事くらい。
だがここで引くくらいなら、そもそもこんな反乱を起こしたりはしない。
それにここまで賭け続けて来たんだ。
最後まで賭けに出るくらいは当然だろう。
どのみち賭けをしなくても俺たちは全員殺される。
だったら、賭けて勝つために万全の準備をするしかない。
「本気でそう言っているのか? お前がここに現れた時点で俺達の勝ちだ。
もう少し早ければお前にも勝ち目があったはずだがな」
「何を言いやがる……」
「俺達はお前のやったことの資料を持っている。
アマツと偽装戦争をして、金や人員を領主に請求し続けていたようだな」
「へぇ、よく調べてるじゃねえか」
「その資料、実は既にボロロッカ商会に預けてあってな。俺が死ぬとどうなると思う?」
「なっ!? そんな時間あるはずが……」
「俺たちが砦内に潜入出来たのは何故だろうな?」
「内部の協力者か……」
「お前随分嫌われてるみたいだったからな。簡単だったよ」
俺が優勢に話を進めている。
何事もハッタリというのは大事だ、資料そのものはまだ入手していない。
だが、当然ながら将軍の方も確認している暇はない。
俺たちの方は今も協力者達が動いているしそのうち本当に見つけるだろうが。
どちらにしろ、保険を持っていると見せかける事はできる。
「あれが公開されればどうなるか、まさか分からない訳じゃないだろう?」
「貴様ぁぁ!!!」
「無駄な事を」
繰り出される攻撃を俺は余裕のフリをして回避する。
アイコンが赤く点滅する瞬間を待てばいいのだから、ある意味楽なものだ。
フェイント等を使ってこられると不味いかもしれないが頭に血が上っているのだろう単調だった。
もっとも、実際早すぎてギリギリの回避になってしまうんだが。
身体能力の差がでかすぎる、やはり強者度は上げておかないといけないな。
「弓兵! この狂人を殺せ!!」
「「「「ハッ!!」」」」
「なっ、何!?」
上から矢の雨が降る、俺には当たらないように少し離れた瞬間を狙って。
さっきまでの話でサクラまで使って人気取りをし、将軍に言い負かされないという事で信頼を得た。
もちろん、本当にそうかはわからないが、重要なのは信頼出来るように見えること。
彼らはほとんどが元農民、心情的には俺たち寄りなのだから。
「ばっ馬鹿なー!?」
「分かったか、お前にはもう勝ち目がない。大人しく投降するか、死ぬか選べ」
「きっ、貴様覚えていろよ……。必ず。必ず殺してやるからな!!」
そう言って将軍は矢の雨の降る中砦から逃げ出していった。
傷は幾つか負ったようだが、あの鎧じゃ致命傷は確かに難しいだろう。
ただ、この砦は確かに今から俺たちの物になったという、その瞬間だった。
「勝鬨(かちどき)を上げろ!!!」
「「「「「「オオオオォォォォォォッ!!!!」」」」」
それは俺たちの初めての戦争、勝利する事が出来た事を喜ぶ者は多い。
しかし、それはこれからの戦いの除幕にしかならないほんの一時の事だった。
あとがき
バーラント国境砦攻略終了です。
でもまだ、この戦いの全てが終わったわけではありません。
次回リーマ率いる600の農民と、アル・サンドラ率いる800の新兵の話をする予定です。
とはいえ、予定は未定なのでなんとなるやらww
押していただけると嬉しいです♪
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