ヤン・ウェンリーはこれが英雄と英雄の戦いというものかと思った。

元より自分を低く見る傾向の強い彼だったが、一番読み切っているのは彼なのであるが……。

どこか他人事という部分は確かにあるのだ、彼は矢面に立たなければどうしても一歩引いてしまう。

それでも、第二艦隊については責任がある、彼のせいで人が死んだという事になるのは流石に御免だった。



「パエッタ提督、恐らく第六艦隊は近くまで来ています。

 提督が陣形を崩したくないという事は理解しておりますが、既に陣形は崩されている可能性が高い。

 ここは合流を急いでみてはどうでしょうか?」

「なぜ合流せねばならんのだね?

 そもそも、第六艦隊が陣形を守らずに動いているとどうしてわかる?」

「パッシブにとらえた第四艦隊方面の閃光からです。

 既に戦いが始まっており、第四艦隊は敗北したかと思われます」

「第四艦隊が敗北? なぜそんな事がわかる!?」

「第四艦隊は1万2千、帝国艦隊は約2万、更にはこちらは相手が動かない事を前提に作戦を練っています。

 迂回し、奇襲をかけられた場合数の差も相まって数分で旗艦を落とされます。

 そして、閃光は恐らく爆発光。ならば艦隊戦が始まっている証拠です」



ヤンはジュージの参謀を経た事で少しだけ語りとヘリ下りが上手くなっていた。

面子とかを気にするより媚びても作戦を通してもらうほうが正しいと理解したのだ。

実際ヤンはやる気のない様子や上司を敬わない態度でよく敵を作っていたのでそれが緩和されたことで作戦が通る事が増えていた。

とはいえ、パエッタ中将は若手で階級の高いヤン准将に対してわだかまりがあったため、難航しているのだが。



「そうであるとして、第六艦隊はどうなのかね?」

「第六艦隊には同期のラップがいます。恐らく同じ事を進言しているでしょう。

 それにナカムラ提督はそれを逆手に取ろうとするはずです」

「ふむ……」



パエッタは考え込む、ヤンの情報を精査しているというよりはそれを利用できないか考えているのだろう。

パエッタはどちらかというと政治家向きな性格である。

軍人としての腕は悪くはないが艦隊司令としては並程度、堅実な指揮なら相応にこなせる。

凡庸ではあるかもしれないが堅実に戦ってきた結果が今である、しかし、今回のような変わった作戦に出ると過去を杜襲しすぎるきらいがある。

つまりそれなりに勝ってそれなりにコネを使ってのし上がってきた提督なのだ、当然政治家とのコネは強い。

ただある意味、ジュージとよく似てもいた。

ジュージが利益第一主義なのに対し、パエッタが見栄第一主義である点を除けばだが。



「ちょうどいい、逆に奴らを囮に使おう」

「は?」

「第六艦隊が来ているのだろう? なら、恐らく敵はこちらより少ないあちらを先に攻撃する可能性が高いと思わんかね?」

「あー確かに先に見つかればそうなるかと」

「だろう。なら、奴らが襲われた所を我々で助けてやろうじゃないか。そのためにも……」



なんとも目先の見栄や利益を優先した考えではあるが、最悪の事態だけは避けられそうだとヤンは思った。

このままの位置取りでいれば、奇襲に合うのは目に見えているのだから。





銀河英雄伝説 十字の紋章


第二十五話 十字、金色の獅子に傷を残す。






ラインハルト率いる約2万の艦隊は最初の戦闘で1000隻ほどの損失を出しつつ第二艦隊へ向かっている。

逆に与えた被害は3000隻なのだから単純に3倍の戦果である。

だが、奇襲であれば被害が出る前に頭を潰し100隻以下にできただろうとも思っていた。

実際原作においてはその通りであり、奇襲の利が大きいのがわかる。



「被害が出た事によって、奴らが先行で合流した場合こちらは戦わずに引き返す事も考えねばならん」

「はい、可能な限り急いで回り込むため加速を続けています」

「ああ、だがキルヒアイス。上手くいかない時は焦るものだ。気が急いてな……」

「落ち着いてくださいラインハルト様。例え合流を許したとしても戦果は得ています。

 あまり勝ちにこだわり過ぎればそれこそ敵の術中にはまりますよ」

「ああ、お前の言う通りだキルヒアイス……」



ラインハルトとて分かっていた、だが彼は18歳の若者であり、何より今まで作戦を立てて失敗した事がない。

順調に勝ち進み、出世し過ぎたことが彼の中で将来設計を作り上げていた。

その設計通りに行かなくなった可能性がある今、焦りが出るのは当然である。

だが同時にその焦りで作戦を違える等、絶対にしてはならないという事は理解している。

そう、ラインハルトはその焦燥感をぶつける所がないままストレスがたまっていた。

そのためなのか、そうでないのかそれはわからない。

ただ、タイミングが良かったのかもしれない、悪かったのかもしれない。



「敵! 恐らくは第六艦隊と思われます! 数はおおよそ八千隻!

 戦艦や空母主体ですが、速度はあまり出ないものと思われます」

「八千隻ですか?」



通信士の読み上げたレーダー情報に戸惑いを見せるキルヒアイス。

だが、ラインハルトにはおおよその検討はついたようだった。



「恐らく、敵は部隊を2つに割ったのだ。

 意図として考えられるのは2つ、一つは近くに潜んで奇襲狙い。

 もう一つは第四艦隊の救援か、いや残党の吸収か……」

「周囲をレーダーで探りますか?」

「パッシブに感はあるか?」

「ありません!」

「……恐らくいないな。第四艦隊と合流したのだろう。

 なら、先ずはこいつらからだ! 再度紡錘陣形を取れ!」

「はっ!」



ラインハルトは当てずっぽうでそれを決めたわけではない。

何故艦隊を分けているのかを考えたのだ。

一つのまま行動したほうが兵力の集中という意味では正しい。

だが、それでも勝てない事は理解しているのだろう。

だから第四艦隊を自分の管理下に置くために先行したのだろう。

残りの5000は恐らく本隊だろう、砲艦や機雷の配置が絶妙であったことから予想する。

あれは、第四艦隊の被害の縮小を狙うと同時に自分達の艦隊に取り込む策だったのではないかと。



「ならばあの艦隊には頭がいない。どの道合流されればこれ以上戦えない。

 ならば第六艦隊を中央突破し、返す刀で第二艦隊も削る。

 ジュージ・ナカムラの本隊が来る頃には撤退に入れる計算だ」

「ラインハルト様、存分におやりください」

「ああ。背中は任せるキルヒアイス!」



ラインハルトの戦術において、他者と隔絶しているのは先読みと判断の速さである。

他の提督なら熟考に入って機会を逃す事も、即断即決の彼は逃しはしない。

ただし、彼にも欠点はある。

自らの知識にない戦術にはどうしても後手に回ってしまうという点だろう。

原作のアスターテ会戦においてはヤンにその知識の差で水をあけられる事になった。

そして、ジュージはその事を念頭に置いてラップと作戦を練ったのだ。

ラインハルトらにとって第六艦隊は鬼門になる事となった。













第二艦隊のレーダー圏の近くまで来ていた第六艦隊第二分艦隊。

エマーソン率いる8000隻の艦隊は、警戒しながら少しづつ第二艦隊に寄せていた。

レーダーは今の所パッシブだけなので、何も映っていない。

しかし、だからこそ警戒は最大の状態を維持していた。



「エマーソン提督、パッシブレーダーに揺らぎがあります」

「ふむ……揺らぎの方向に向かって半円を描く様に転舵してください」

「了解しました!」



エマーソンはジュージから秘策を授けられていた。

というか、ジュージ発案ではあったがほとんど策を作ったのはラップではあるが。

そのためには絶対に必要な事がある、敵艦隊と正対する事。

エマーソンは艦長として長かったので艦隊運用に関してもある程度秀でていたが、フィッシャーほどではない。

だが、堅実に運用する事に関しては他の提督を上回ると言っていい。



「敵艦隊、レーダーに感あり!」

「作戦コード2−Cを開いてください。全艦隊作戦行動開始!」

「了解! 全艦隊作戦コード2−Cを開示、支持された艦隊行動を取れ!」



敵艦隊に正対した8000隻のエマーソン分艦隊は一糸乱れぬ艦隊行動を取る。

それは、予めラインハルト艦隊の行動を予測していたかのようだった。

実際はどの行動を取ってもいい様に張り巡らされた策の一つではあったが……。



「本当にこの作戦で上手く行くのでしょうか……?」

「敵には時間がない、我々が第二艦隊と合流すれば数の上では逆転します。

 更には背面からは我らが提督が追っています。

 悠長な作戦は包囲殲滅の格好の的となる、彼らは突撃せざるを得ない」

「確かに……」



副官が不安にかられて問いかけるが、エマーソンは落ち着いたもの。

取り繕っているだけのジュージ等と比べて本当の自信が伺える。

それは艦隊にも伝播して、全体の戦意を保っていた。



「敵艦隊、突撃してきます!」

「指定した方向へ艦首を動かさないまま移動開始!」

「はっ!」



ラインハルト率いる帝国軍2万はエマーソン率いる8千を叩き潰すために突貫する。

損害はたしかに出ているものの、蜘蛛の子を散らすように広がっていく艦隊を全て捉える事が出来ない。

帝国軍の艦隊が中央突破する頃にはすっかり周辺に散り散りとなり、加速しながら帝国艦隊の後方経向へ向けて円を書く様に食らいつく。

この時、同盟側の被害は1千席程度、帝国側は2百隻程度である。



「これは……」

「帝国軍艦隊は我々に付き合っている暇はないだろうから、このまま加速して逃げるだろう」

「いえ! 違います。帝国軍の一部がその場で反転しようとしています。殿でしょうか!?」

「その場で反転ですか、主砲を集中させなさい。今なら横に砲のないほとんどの艦は反撃はできません」

「はい! 全艦隊主砲斉射開始!」



原作通りにエルラッハが戦死すると同時にその艦隊のうち2千が蒸発する事になる。

ジュージが原作知識を伝え、ラップが詳細を詰め、エマーソンが艦隊運動を制御した結果である。

この世界線ではラインハルトに最初に土をつけた提督はエマーソン少将という事になり、計画を指揮したジュージの株もあがった……。















少し時間を遡り、第二艦隊旗艦パトロクロス。

ヤンの進言を一応聞き入れ艦隊の行動を変更したため、第六艦隊をレーダー圏に捉える事に成功している。

しかし、パエッタは表示された艦隊の配置を見て首をかしげる。



「第六艦隊は随分数が少ないな」

「恐らく、残りは第二艦隊の残存戦力を吸収しているんでしょう」

「潜んでいるのではなくか?」

「確かにそれも一つの手ですが、それをするくらいなら我々との合流を急いだほうがいいですからね」

「ふむ……」



ともあれ8千ではあっという間に蹴散らされてしまう可能性があった。

パエッタは過去の例に囚われがちではあるが、それは堅実な用兵をするという事でもある。

ならばと、パエッタが考えた事は合流を急ぐという事だった。



「救援するにしても壊滅してからでは遅い。仕方ない、艦隊の指揮権だけでも」

「いえ、間に合いそうにありません。奴ら思ったより早い……」

「何!?」



ヤンの言葉に画面を再度見直すと、帝国艦隊がすごい勢いで第六艦隊の分艦隊に接近していた。

救援をするにも全速になる前に接触するだろうことは明白、どうしても相手の突撃が決まった後でしか合流できないだろう。



「しかし……」

「はい、間に合わせる事は可能です」

「何!?」

「第六艦隊の陣形覚えがあります。恐らくラップの仕掛けでしょう。これなら直に壊滅という事はないはずです」

「そうか、ならば急げば間に合うのだな?」

「はい、しかしそのまま行っては相手の突撃の餌食になりかねません」

「……言ってみろ」

「はい」



ヤンは陣形について語った、それは当然原作とも違うものであり効果はそこまで劇的なものではない。

しかし、中央突破されてそのまま抜けられるのは流石に不味い。

故に、次善ではあっても相性的に十分優位を取れる陣形を指し示した。

パエッタも理屈を噛んで含めれば、現状それしか無いのはわかる。



「良いだろう、乗ってやる」

「ありがとうございます」



本来、この戦いはヤンの名を知らしめるという意味で大きなもののはずだったが、この世界線ではさほど目立つ事はなかった。

だが、ラインハルトに隙をつかせない運用であったのだけは間違いない。
















無様な陣形、ラインハルトが見た陣形の印象はそれであったが、この様な状態を長々と続けるわけにはいかない。

そもそも、戦艦や空母等の大型艦ばかりでこれだけ整然と艦隊を動かしてみせる敵は始めてであった。

彼はそれでも、被害を最小限に留めるために奮闘したが、結果としてエルラッハが離反。

だが、意図してではないとはいえ殿を引き受けてくれた結果ラインハルトの本隊はさほど大きな被害を受けずにすんだ。

帝国艦隊は2万で出撃し、レーダー圏外からの砲撃で数隻、反乱軍第四艦隊との戦いで1千隻、今回は諸々で2百隻、エルラッハの2千隻。

その他にも巻き込まれたりなどもあり現在残っている艦隊は約1万6千7百隻。

もう反乱軍第二艦隊との差もさほど大きなものではない。



「艦隊正面! 敵艦隊出現!」

「第二か? 第六か?」

「艦艇数や方向から第二艦隊かと思われます!」

「わかった」



ラインハルトは紡錘陣形を維持してそのまま突撃する事にした。

後方の敵艦隊はフォーゲルが時間を稼いでくれたおかげで、3分もかからず追いつかれるだろうが少しだけ時間がある。

全速で前方の艦隊に突撃して突き抜ければ敵味方入り乱れるので撃ちづらいだろう。

そういう予測と、あまり時間をかけると完全に包囲される可能性を考えればほかの選択肢は逃げの一手であった。

それゆえ、ラインハルトは突撃する事を選ぶ。



「全艦隊陣形を維持しながら全速で第二艦隊へ向けて突撃!

 乱戦となることで後方から撃たれる可能性を減らし、突破する!」

「了解しました! 艦隊全速!」



艦隊数の不利がある以上艦隊を分けるような真似は出来ない。

速度が命である以上、陣形も選ぶのは難しい。

ラインハルトはその事を読まれているのを自覚していた。

しかし、他の方法が無い以上それでやるしかない。

だが同時にラインハルトはこう思ってもいた。

艦隊戦を挑む限り数の不利も陣形の不利も覆す事は可能だと。

それは概ね間違っていない、ヤン・ウェンリーが敵でない場合はと注釈がつくが。



「閣下! 正面の反乱軍艦隊の陣形が紡錘陣形になりつつあります!」

「何っ!? まさか……」



紡錘陣形に紡錘陣形で応じるというのはあまり見ない手である。

実際、上手い手というわけではない。

紡錘陣形と紡錘陣形がぶつかると、防御の無い殴り合いの様な戦いになる。

一方的に負ける事は少ないが、両方が甚大な被害を出す事がほとんどなのだ。



「不味いな……」



そう、泥沼の殴り合いも問題なのだが、それを持って時間を稼がれれば後方の第六艦隊に追いつかれる。

そうなれば包囲殲滅の憂き目にあう。

数分しかない時間であれを抜けるのは不可能だ。

ならばと、ラインハルトがとった行動はある意味単純な事だった。



「艦隊進路を5度左方へ!」

「はっ! 艦隊進路を5度左方へ変更します!」



艦隊の動きを変えて先端がぶつかる事を回避する、皆そう考えた。

実際そういう意図がまるでないわけではない、しかし、当然のように相手も先端部をずらして当てに掛かってくる。

このままいけばかなり不味い事になるのは間違いないだろう。

しかし、ラインハルトは指示を出さなかった。

じりじりと近づいてくる敵、後方の敵も動き出しかなり不味い状況になってきている。

誰もが焦りを感じ始めたその時。



「艦隊進路、右方20度!」

「右方20度、ヨーソロー!!」」



最高速で加速しながら20度の旋回をしようとするとはかなり無茶だが、無理を通す様にラインハルトは指示を出す。

これを成功させなければ、甚大な被害を被り、敗北の憂き目にあう。

ラインハルトは一層気を引き締め、細かく指示を出しえ行く。



「そこだ! 抜けろ!」



艦隊戦をどうにか回避し、1000隻程度の被害で切り抜けた。

これにより、ラインハルト率いる帝国艦隊は包囲網を作られる前に脱出する事に成功した。

だが、艦隊も目減りしてきているのは事実で、残りは1万6千5百隻前後。

原作でラインハルトに傾いていた天秤は今だどちらにも振り切れていなかった。












不味い事になった。

第四艦隊を指揮下に収め、ラインハルト率いる帝国艦隊の送り狼をするために第二艦隊のいる方向に向かっていた。

しかし、その途中なぜか、別の帝国艦隊に遭遇、戦闘回避が難しい状況になりつつあった。



「まさか、あのゼークト提督率いるイゼルローン駐留艦隊が動くとはな……」

「はい、あれは待ち伏せと言っていいものです」

「読まれた……という事か?」

「ラインハルトが読んだのか、ほかの誰かはわかりませんが」



何にせよ、俺達がピンチである事に変わりはない。

イゼルローン駐留艦隊は今、2万まで増量されている。

つまり、下手をすると4万近い敵に囲まれる事となるという事だ。

はっきり言って最悪に近かった。



「なんとしても、この艦隊にはおかえり願わないといけないな」

「はい」



恐らく、ラインハルトの艦隊は直ぐにも脱出してくる。

その艦隊がここで合流すればどうなるか。

同盟軍艦隊の全て合わせてもほぼ同数にしか持っていけない。

そうなれば、ヤンに指揮を執ってもらいでもしない限り勝ち目がなくなる。



「ラップ、何かいい案はあるか?」

「丸投げですか、いえ、とりあえずいくつかあるにはありますが」

「流石はラップだ。期待している!」

「はははは……」



ラップは少し目をうつろにしながら言った。

実際、俺が考えられる範囲では、こいつらとの戦闘を回避するのが一番だが。

そうすると、結局艦隊決戦をするしかなくなる。

せめて、この艦隊を5000は削っておく必要がある。

そうすれば、艦隊数の優位を確保できるはずだ。



「敵艦隊を削る作戦ですか……リスクの少ないものが一つあります」

「ほう」

「はい……」

「ならやるしかないな」



ラップの作戦計画をもとに、細かなポイント補足していく。

なるほど、面白い作戦だ。

ゼークト大将だからこそ、引っかかるかもしれない。



「ならばまず餌だな。高速輸送艦隊に頑張ってもらうか」

「そうですね、敵レーダ圏ギリギリで煽ってもらいましょう」



そうして高速輸送艦隊を先行させる、超大型砲艦隊は少しばかり現地改修を行っておく。

本隊はゆるりと前進を始める事にした。

時間はかけられないが、可能な限りしっかりやる必要がある。

一発本番だから、バレるのが一番怖い。



「高速輸送艦隊が敵レーダーに発見されました!」

「機雷をありったけ散布して、撤収だ! レーダー圏から出ない範囲で計算しながらだぞ!」

「了解しました!」



高速輸送艦隊に対し、敵艦隊は圏外から主砲を発射し始めた。

確かに、射程範囲外でも減衰の関係から攻撃が当たればダメージはある。

しかし、射程範囲外は命中精度が低下著しいため設けられたものだ。

実際発射してから回避余裕でしたとなっている。

巡洋艦クラスの回避能力なら十分以上に回避可能なのだ。



「敵がラインハルト艦隊に合流しようとしているようには見えないな」

「はい、恐らく自分達だけで手柄を上げたいんでしょう」

「なるほど……まあ、嫌われてるだろうから当然か」



ラインハルトのやり方としては珍しく、根回しをしてこちらに迂回攻撃をかけたわけだが。

当然と言えば当然、門閥でもないのに、実力以上に出世するラインハルトが面白いわけもない。

しかし、一応皇帝の命を受けた上級大将の命令に背くわけにもいかない。

となれば、手柄を横取りすればという考えに至るのもわかりやすい。

おかげで俺達はここに釘付けになるわけで、それだけでもラインハルトとしては問題ないのだろう。



「どちらにしても、好都合だ」



ラインハルトにはヤン・ウェンリーを思い知ってもらうとして。

俺も俺で手柄を立てれば上等だ。

どのみちこいつらを放置すればラインハルト艦隊と合流される。

厄介なことになる前にお帰り願おう。



「敵艦隊、機雷原に突っ込みます」

「なっ」

「ゼークト提督は猪突猛進のきらいがあると言われていましたが……」

「まあいい、恐らく主砲で機雷を焼き払いながら突っ込んでくるつもりだろう。

 その間に我々は鶴翼に展開するぞ、正面被害を考え、正面は開けておく。

 どのみち邪魔になるしな」

「はっ、我らは右側に展開します」

「任せる」



ラップの予想通り、機雷原を主砲で焼き払いながら突進してくる敵艦隊。

とはいえ、近づきすぎた機雷がどんどん爆発し、被害が出ている。

機雷の数を惜しんだつもりはないので、一千近い航行不能艦が出たはずだ。

もちろん、戦況が不利である事は変わらないが、航行不能艦が邪魔で後ろからくる艦隊の通行妨害になっている。

陣形が崩れているのがここからでもわかる。



「敵の陣形が崩れた! 今のうちに削っていくぞ!」

「はっ!」



敵艦隊の混乱が収まる前に中央に穴の開いた鶴翼のまま、機雷原に向けて主砲の雨を降らせる。

反撃命令が出るまでにさらに1千程度の艦を沈める事に成功した。

だがそれでも、まだ敵艦隊は1万8千隻という数がいる。



「混乱が収まる前に楔を打ち込む! ラップいけるか?」

「はい、超大型砲艦隊準備は整っているそうです」

「ならば、撃て!」

「複合超大型砲発射!」



俺達の後ろで超大型砲艦隊がエネルギー充填をしていた。

むろん、それだけではない。

200門が一つの砲として機能するようにタイミングと発射角度の調整も出来ている。

一発で砲がオーバーヒートする高圧のエネルギーが200門分一度に火を噴く。

トゥールハンマーと比べれば大した威力ではないが、射程範囲に入った敵に対しては過剰なまでの火力が押し付けられる事になる。

代償に砲はパージして捨てていくしかなくなるが。



「敵艦隊800隻消滅! 旗艦に攻撃を集中したはずですが、ずれが出たのか健在です。

 しかし、無傷というわけではないようです」

「ふむ、見たところ前方が半ば溶けているな、あれじゃ戦力にはならないだろう」



主砲が使い物にならなくなっている、ワルキューレ発射口はだめになっているが、そちらは穴をあければ出せる。

だがどちらにしろ、これなら指揮はしばらくできないだろう。



「艦隊が立ち直るまで砲撃し続けろ」

「了解しました!」



その後は一方的だった。

こちらが5百隻ほど沈む間に向こうを4千隻以上沈めた。

とても、向こうのほうが規模の大きい艦隊とは思えないほどスムーズに進んだ。

これもラップのおかげだろう、作戦立案もネタ出ししかしてないからな俺。

タイミングを計るのもほぼラップに任せているし。

楽と言えば楽である。

しかし、敵艦隊が逃げ出そうとしたのを見て追撃を止める。



「まだラインハルト艦隊が残っている。ここで全部放出してしまうわけには行かないぞ」

「はい」



ラップはこの程度予想しているだろう。

何せあのラインハルトの事だ、向こうで既にやられているなんて事はありえない。

ヤンが全権指揮でも執っていれば別だが。

俺達が帰還しようとした時、こちらに向けてやってくる艦隊を見つける。

案の定帝国艦隊であった。










あとがき


終わらなかった(爆)

いやまあ、後はちょっとした挨拶くらいのものですが。

予想していたより無駄に白熱してしまい。

全然進まない有様に……(汗)

ともあれ、だいたい戦いは終わりです。

次回はイゼルローン攻略戦のタイミングではあるのですが、別の事をする予定。



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