*銀河英雄伝説の超光速航行について、知っている人は知っていたと思いますが。
*ワープを使います。ウィキなどを調べ回って確認しました。
*あまり、アニメとかで触れられていなかった上に原作見たのが30年くらい前の事でして……。
*ともあれ、ワープエンジンなるものが存在している事を前提として今後は話を進めていきます。
「オーベルシュタイン、推移はどうなっている?」
「反乱軍の領域に面している領土及びその周辺まで完了しております」
「……わかった」
ラインハルトは厳しい顔で、オーベルシュタインを見る。
彼はイゼルローンから逃げ帰ってきたオーベルシュタイン大佐を引き受け准将に出世させて使っている。
乗せられたのは否定出来ないが、ダーティな仕事が出来る部下が必要だったのも事実である。
だが、当然ながら親友であるキルヒアイスからは不評だ。
それに、彼の仕事は効果は大きいがリスクが常に存在する。
今回もそうだ、焦土作戦等行えば例え後で何をしても民心が離れるのは間違いない。
「ラインハルト様……」
「聞くな、もう決めたことだ。それよりも反乱軍の動向はどうなっている?」
キルヒアイスが心配をしていたが、ラインハルトはそれをあえて突き放す。
帝国の艦隊数は同盟に対し大きく有利である、合計27艦隊も存在するのだ、2倍強と言っていいだろう。
だがこのうち、9個艦隊は門閥が持っている私有艦隊である。
そして、正規艦隊18艦隊のうちラインハルトが使う事ができるのは半数の9個艦隊。
今回侵攻してきている反乱軍艦隊も9個艦隊である。
もっとも、同盟の一個艦隊は1万3千で、帝国の一個艦隊は1万6千なので実数に違いはあるが。
どちらにせよ正面から対応していては被害が甚大なものとなるのは間違いない。
焦土作戦を取ったのは、そういった思惑がある。
「は、反乱軍はアムリッツア星域より艦隊を拡散、侵攻を開始しております」
「……侵攻状況の簡略図はあるか?」
「ここに」
イゼルローンから帝国全土に向けての図面に光点が灯る。
まだ侵攻を開始し始めたばかりなので、はっきりとしたものではないが確かに拡散し始めている。
イゼルローン同盟方向を左、帝国本土を右にした図面においては、徐々に右に進軍を開始した同盟の光点が見える。
しかし、ラインハルトには少し気になる事があった。
拡散はしているが、少し散らばり方がおかしいように見える。
星図を見る限り、右上に向けて3個艦隊、右に向けて3個艦隊、右下に向けて3個艦隊が動いている様に見えるが……。
右に向けて動いているはずの3個艦隊も右下に近い方向に動いているように見える。
この中央艦隊は本来オーディン方向に向けて進軍してくる主力艦隊であるはずだが。
「敵中央艦隊の動きが少しおかしいように見えるが?」
「どのようにでしょう? この先には惑星レーシングがあります。
恐らく惑星レーシングを拠点にするためでは?」
「ふむ……」
ラインハルトは違和感を持ったものの、そう言われてみればそれ以上追求が出来る事ではなかった。
実際、直進して来るほど頭が単調ではなかったと言うだけの事かもしれない。
ラインハルトが展開した艦隊も包囲出来るようそれぞれの方向に展開している。
何も問題はないはずだった……。
銀河英雄伝説 十字の紋章
第二十九話 十字、帝国へ侵攻す。
(星図 エンサイクロペディア銀河英雄伝説DVDより。)
さて、作戦目標の秘匿をしつつ、8個艦隊プラス高速輸送艦1万を展開したわけだが。
ここで原作乖離をあまり派手にするとラインハルトに察知されてしまうだろう。
そこで、今回イゼルローン防衛に回す3個艦隊を星系図における北東方面に進軍させることにした。
すなわち、ビュコック中将の第五艦隊、アル・サレム中将の第9艦隊、ボロディン中将の第12艦隊である。
同盟でもトップランクの実力を持つビュコック中将とボロディン中将を置いていくのは辛いが、逆侵攻されるリスクがあるからな。
2日目まで進軍してそのまま引き返してもらう様言ってある。
東方面侵攻軍は俺ことジュージ・ナカムラ大将を中心に、3個艦隊。
第6艦隊、ルフェーブル中将の第3艦隊、アップルトン中将の第八艦隊の3個艦隊である。
こちらは2日目まで進軍の後、南方侵攻軍に合流するため、南寄りに侵攻をしている。
南方侵攻軍はウランフ中将を中心に3個艦隊。
ウランフ中将の第10艦隊、ヤン中将の第13艦隊、ルグランジュ少将の高速輸送艦隊の3個艦隊である。
こちらの進軍ルートが本命であることを今は知られてはならない。
そのため、他のルートより数が少なくなっている。
ただ、ウランフにヤンという切り札が揃っている。
もちろんだが、進軍先で惑星を開放してしんどくなるような真似は出来ない。
だが、全くしないわけにもいかない。
そんな事をすれば焦土作戦がバレていると丸わかりになるからだ。
なので、各方向で1つだけ惑星を開放する事になっている。
普通の指揮官なら、焦土作戦を取られている事がそれで分かるのだから、それ以後開放しないのはおかしくない。
開放してある程度食料品等を配り、1日居座ったら撤退するように言ってある。
そこまでくれば、バレても間に合わないはずだからだ。
「ここまでの所は問題ないな……」
「流石にこれだけ情報統制をした上で、幾つも偽装工作を行っているんですから……。
感の一言でひっくり返す事は出来ないはずです」
「だよな……」
ラップも俺同様、不安を隠せてはいない。
前回、アスターテ会戦であれだけ仕込みをしても引き分けに近い負けにしか持っていけなかった事は効いている。
それも、最後どうにか引いてくれたからいいものの、あそこに突っ込まれていたら大損害を受けていただろう。
そりゃ、ラインハルトの艦隊とはいえ、即席なんだからある程度は被害を与えられたと思うが。
俺は死んでいてもおかしくなかった。
ともかく、ラインハルトとの決戦はいずれしなければならないだろうが……。
その時はヤンに頑張ってもらう前提でラインハルトの艦隊の倍を用意しなければ安心できない。
ヤンなら勝つだけなら同数で安定するだろうが、確実に倒しきらないと復活しそうな気がする。
なにせ、カリスマに関してはアレ以上のものはそういないだろうからな。
しかし、そのためには帝国を四分五裂させるか、同盟を大きくするしか無い。
現状では絶対不可能だ。
だからこそ、今回の作戦は絶対に失敗できない。
「大型ワープエンジンのほうはどうだ?」
「はい、問題ないようです。12機全機組み立て完了しました」
「ならば、惑星レーシングに到着後、ワープエンジンを低速稼働、時間をかけて温めておけ」
惑星の管理に四苦八苦している様子をしっかり見せておくべきだろうからな。
もともと、大型ワープエンジンが何度でも連続ワープが出来るようなら別にここに来る必要はなかった。
まあ、有り体に言えば巨大な物体をワープさせるエンジンなのだが、艦隊をワープさせる事もできる。
補給艦の容積の半分くらいはこれで埋まってしまったという代物だ。
しかしこれは、今回の作戦の要と言っていいものだ。
多少面倒なのは仕方ない。
だが、明日には大型ワープエンジンもあたたまる。
本来はこれルグランジュの艦隊に全てもたせるつもりだったが、艦隊を分化しないと怪しまれるということになり別々に持つ事になったのだ。
当然、南東方面艦隊も12機持っている。
司令室から出て、ブリッジの方へ向かう。
落ち着かない、というのが本音だがラップと2人だけというわけではない以上不安を出すわけにはいかない。
ワープエンジンにエネルギーが十分に貯まるまで落ち着いて待たねばならない。
長距離ワープは星図等に描かれている光の線にそって行うのが一番距離が稼げる。
それだけに、うまくラインに乗っているかどうかが重要なのだ。
特に東方面艦隊はリスクのある布陣であったが、こうするより無かった。
「エマーソン少将、様子はどうだ?」
「はい、やはり食料以外にも、生活必需品、自動車や工具、何もかも不足しています。供給はされないのですか?」
「ああ、食料は多少わけてやればいいが、それ以上はな。焦土作戦に付き合えば同盟は余計に疲弊する。
もともとそれが狙いである以上、仕方のないことだ」
「申し訳ありません」
エマーソンは頭を下げたが、もともと聞いた事自体部下の手前というやつだろう。
誰かが聞かねばならないなら、という事だ。
しかし、焦土作戦を行ったラインハルトがあまり支持を失っていないのは正直意味がわからなかった。
プロパガンダで同盟に罪をなすりつけた可能性は高いが。
だとすれば余計供給するだけ無駄である。
「それから、艦隊内で食料供給以外で現地民と接触した人間はいるか?」
「何人か確認されております」
「ならそいつらは、このまま置いていく」
「了解しました」
スパイは常にいると思っておかないといけない。
バレるのはせめて、ワープエンジンが完全に稼働してからにしてほしい。
こんな所で防衛戦なんてごめんだからな……。
翌日、一通りの準備が終わり、ワープエンジンも80%近くまでエネルギー充填が終わった。
このままでも合流地点まで行けるが、偽装ついでに100%まで貯めておきたい。
そうすれば次が楽だからだ、100%使わなければその分充填も早い。
だが、警戒心だけは最大にしておかないといけない。
現状、バレる要素はないと思うが、艦隊内にスパイがいたとしても、大型ワープエンジンでどこに飛ぶつもりかはわからないはずだ。
ただ、持っているだけで危険と思われる可能性は否定できない。
「エマーソン、警戒レベルを一段上げておいてくれ」
「わかりました。
准戦闘警戒を発令する。全方位にプロープを放て!」
プロープという概念がこの世界に無かったので作ってもらった。
パトロール艇で周回している現状、リスクが半端ないからな。
と言っても、さほど難しいものではない、技術的には駆逐艦に積んでいるレーダーと望遠カメラを積んでいるだけだ。
レーダーを中継して、それらのデータを旗艦に送るだけの代物なので技術的なブレイクスルーがあるわけでもない。
だが、それだけでも奇襲される可能性は激減する。
なんにしろ、慢心が一番不味い、警戒しすぎて困ることはない。
見つかり次第ワープで逃げるのは決まっている。
このまま来ないでくれるのが一番いいが……。
「プロープ七番に感あり! 早い! ワープで脱出出来るかギリギリです!」
「急げ! ワープ開始!」
「はい! ワープ開始!」
ミッターマイヤー艦隊が動いたようだった。
やはり、艦隊がいつまでもまとまってい動いている事が勘ぐられたか。
フォークの計画と違うものな。
流石はラインハルト、もう計画を修正してくるとは。
おかげで何隻か遠距離からの狙撃で損傷してしまった。
だがまだ、こちらの目的までは把握しきてれいないだろう。
「ワープアウトしました」
「続けてワープだ」
「はい! 連続ワープ開始!」
南東方面艦隊がいた所に飛び込んでから直様またワープを開始する。
南東方面艦隊と比べるとどうしても二度手間になるのが東方面艦隊の難点だろう。
幸い、相手はこんな大型ワープエンジン等というものは持っていないだろうから連続で追いかけるのは難しいはず。
「ワープアウトしました」
「南東方面艦隊は?」
「レーダ圏内にありません」
「プロープを飛ばせ」
「はっ!」
それから十数分後、南東方面艦隊と合流を果たす。
ここまでくればもう追いかけてはこれないだろう。
なにせここは、ブラウンシュバイク領なのだから。
門閥貴族は面子の問題もあって、帝国艦隊の立ち入りを嫌う。
公爵ともなれば、元帥の命令だろうと突っぱねるだろう。
『どうやら間に合ったようだな』
「ご苦労さまですウランフ提督」
『何、一戦やらかすことになったが、出てきたのが5千程だったからな。袋叩きにしただけだよ』
「足止めのつもりだったのかもしれませんね」
『正面から突っ込んできて、艦隊が半壊しても何やらわめきながら特攻して来るやつらがか?』
「はい、基本的に門閥貴族は自尊心で出来ていますから。その御蔭で楽ができます」
もっともブラウンシュバイクは全く駄目というわけでもないようだが。
それに、門閥側で注意すべき人物は結構多い。
何より一番はメルカッツ上級大将、続いてファーレンハイト少将、アンスバッハ准将。
陸戦となればオフレッサー上級大将という化け物もいる。
シュターデン少将も普通に戦うなら厄介な事に変わりない。
まあ、ウランフやヤンがいるから問題ないと思うが。
それに、現状まだメルカッツは指揮権を持ってはいないはずだ。
俺達がブラウンシュバイク領に来た事に今頃大慌てだろう。
領土拡大としてイゼルローン周辺を占領するかオーディン方向に行くと思っていただろうからな。
ファーレンハイトも呼ばれていない可能性が高い。
これは、作戦開始直前までこちらの情報網で確認している。
つまり特に注意すべきはブラウンシュバイクとその知恵袋であるアンスバッハ准将、時々シュターデン少将。
そしてどこにいるのかわからないオフレッサー上級大将だ。
「さて、攻撃目標はガイエスブルグだが、周辺の基地や艦隊を可能な限り相手取る予定だ」
『普通は逆なのでは?』
「アップルトン中将の言う通りだが、彼らに戦略だの戦術だのを求める必要はない。
彼らは目の前の敵を勲章としか思えない病気にかかっていると思えばいいだろう」
『流石にそれはないんじゃないのか……?』
全員が全員そうではないが、とりあえず主力ですら統制出来なかった彼らだ。
やるなら各個撃破が望ましい。
ブラウンシュバイク公爵の持っている艦隊と周辺の門閥貴族の艦隊を合わせ最低でも4個艦隊は動くと思われる。
恐らく、爵位の高い相手にも声をかけるだろうから、リッテンハイムやその周辺は少し遠いとしても6個艦隊が揃う可能性がある。
最大見積もりをしておく必要があるから、それらが動くものとして考えるべきだろう。
同数なら恐らく問題ないが、ガイエスブルグ攻略に手間取ればラインハルトが何らかの抜け道を用意する可能性が否定できない。
なので、こちらも拡散し、各地の門閥を叩く必要が出てくる。
と言っても、指揮能力が俺よりは少しマシレベルのルフェーブルやアップルトン達を1個艦隊で向かわせるのも不味い。
ルグランジュも艦隊指揮能力は高いが、今回は高速輸送艦隊を率いている、あまり無茶はさせられない。
俺にはラップという軍師がいるし、ヤンもウランフも傑物だ。
つまり、艦隊を3つに割るのが丁度いいだろう。
「では、艦隊を3分し周辺の基地等を落としガイエスブルグを孤立させる。
出てきた艦隊は適宜対処、対処が難しいようなら離脱して合流を待つ。
連絡は通常で30分に1度行う、連絡がない場合は合流地点へ。
緊急連絡があった場合、その場で作戦の練り直しとなる。
ルートは指定の通りだ、各自の成果を期待する!」
俺の率いる第6艦隊とルグランジュの第3艦隊。
ウランフの第10艦隊とアップルトンの第8艦隊。
ヤンの第13艦隊とルグランジュの高速輸送艦隊。
それぞれ別ルートでガイエスブルグを目指す。
適宜通信、また合流、離散を繰り返しながら進む事になる。
幸い大型ワープエンジンのおかげで、距離は稼げている、2〜3日でガイエスブルグに到達できるだろう。
この世界でラインハルトが後々作る要塞を除けば、艦隊を吹き飛ばす主砲がついた要塞はイゼルローンとガイエスブルグだけ。
それだけガイエスブルグの存在意義は大きい。
この攻略は、同盟にとって大きな意味を持つ。
ラインハルトが介入してくる前に、絶対に決着をつけねばならない。
一度目の賭けは抜けたが、二度目の賭けは抜けられるのか。
アクシデントが無いことを祈る限りだ……。
あとがき
攻略目標はブラウンシュバイク領のガイエスブルグ要塞です。
何故狙うのかはまだ秘密ということでw
とはいえ、言い当てる人も多そうな案件ではありますが(汗
要塞といえばですが、少し不思議に思う事があります。
帝国の要塞、イゼルローンやガイエスブルグ、ガルミッシュ、レンテンベルク等は旧帝国のものですから金がいくらかかっていてもおかしくありません。
同盟には一つもないのに帝国には沢山ある理由も無茶な動員の結果と考えればおかしくはないのですが。
ラインハルトが皇帝の座についた後、必死こいて財政を立て直していたわけです。
その割に、シャーテンブルク要塞だのドライ・グロスアドミラルスブルク要塞だの簡単に作り上げています。
どちらもイゼルローン同様要塞主砲つきの強力な要塞です。
はっきり言って、そんな事が出来るなら同盟も作れよと思います。
アルテミスの首飾りなんて、小規模な防衛システムで止められると思っていたのでしょうか?
因みに要塞のサイズはほとんどが直径60km、ガイエスブルグのみ45kmです。
こんな所も同盟って不遇ですね……。
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