機動戦士ガンダム〜転生者のコロニー戦記〜
第十二話 派閥の動き2
ジャブローでも特殊な部屋というものがある。
ジャブローは地下空洞に作られた基地だが、天蓋の補強等により、核ミサイルでも崩落しない様になっている。
当然、地下で生活をする前提なので地下水を貯蔵してある。
元々はアマゾン川の水を分岐させたものだが、きちんとろ過しており、ピラニアやワニは泳いでいない。
代わりに食用になる魚達を泳がせている。
当然それらは基地で働く人達が食べるのだが、この部屋はそれらの魚が良く見えるようになっている。
つまり、ジャブローの中でもさらに低い位置にある部屋であり、水面下の気分を味わえる。
同時にあらゆる電波を遮断し、会話を残さない点も優秀であった。
「オクスナー君か、君が来るのは珍しいね」
「私も一応は艦隊派の人間ですから」
「それもそうだ、まあ派閥と言っても別に拘束があるわけでもないがね」
「そうですね」
オクスナーは艦隊派の少将であるが、同時にゴップの派閥にも関わっていた。
艦隊を主力とする考え方は同じだが、そこまで積極的と言う訳でもない。
そのためワイアットとの付き合いもほどほどだ。
「ヤシマ少将のプレゼンが随分と真に迫ったものだったので気になりまして」
「私に聞かれてもわからんよ。
人が変わったと言ってもいいが、正直何とも言えないのが本音だね。
派閥を泳ぐ事に終始していた彼が今は流れを作ろうとしている。
しかしそれも考えてみれば不思議でもない、彼はあのヤシマ総帥の弟なのだからね」
「確かに、言われてみればその通りですな。彼の事をどうにも甘く見ていたようだ」
「おかしな事ではないよ、彼がサイド1に赴任したのは出世のためだったからね」
そう、ゴップ大将は気付いていた。
今の彼が今までの彼とは別の考え方で動いている事を。
ヤシマ少将が入隊してからずっと、ヤシマグループロイヤルファミリーの一員である彼には人員をつけてある。
何せゴップにとって、ヤシマグループは自分を支持してくれる後援者の一人であるからだ。
「時にオクスナー君、月の裏側に手は届くかい?」
「相応には、あなた程ではありませんが」
「残念ながら私の手は今月の裏側には届かないようだよ」
「といいますと?」
「私の手と思っていたものは、誰かの手と兼用だったらしい」
「それは……」
ゴップは情報部に顔が効く、各部署に回す予算はゴップが握っていると言っていいからだ。
しかしそれも、エルランが手を回していたらしく、情報の信憑性がかなり低下していた。
その証拠に、ヤシマ少将の持ってきた情報の半分以上が、ゴップにとっても初耳だった。
映像資料や動画等もあり、加工処理されていないかの確認もさせたが、加工はないという結果が出ていた。
そして、持ってきた情報の硬度が高いという事はつまり、彼の持つ情報網が信頼ならないという事になる。
「つまり、信頼出来る情報網の構築が必要という事ですな?」
「ああ、私の持つ情報網は思った以上に外部の影響を受けやすい代物だったらしい」
「情報部を監査する組織も必要そうですな」
「そうだね、だが、その監査する組織が牛耳られれば同じ事が起こるだろう」
「各派閥から人員を出して合議制にしていくしかないでしょう」
「動きが遅くなるのが難点だが、それしかあるまいね」
情報部は今後そういう風になるだろう。
ゴップとしてもそれしかないという事は理解している、ただそうなれば情報の秘匿は不可能になる。
機密情報の扱いを各派閥の合議で決めるのだから、情報を知る人間が少なくとも20人以上となるからだ。
そうなれば、ゴップも秘匿情報の確保等には使えないという事になるわけだ。
そこで思いついたのがオクスナー少将の事である。
彼は連邦宇宙軍第四艦隊指令である。
宇宙軍の担当範囲は広く、第四艦隊の防衛範囲はルナ2から地球天底方向となり、サイド2とサイド6を含む。
きっちりした範囲に出来ないのは、艦隊数が足りていない証拠ではある。
そもそも連邦宇宙軍の防衛範囲は地球圏全てとなるため仕方ないともいえる。
実際巡洋艦以上の艦艇を1000隻以上保有しており、最大の軍事力を持つ組織なのは間違いない。
しかし、防衛範囲を考えると心もとないものではあった。
「それで、第四艦隊には海賊の討伐という形で一度クラナダまで行ってみてくれないかね?」
「クラナダまでですか? サイド3ではなく?」
「ああ、サイド3まで君の艦隊がいけば確実に戦争が始まる事になる。
全艦隊揃えて動けるならそれもいいがね」
事実として海賊などの被害は毎年一定数出ている。
海賊といっても、一定の武装や艦艇を持つ組織という事になるので、バックには企業等がついている。
そうでなければ、最新鋭機器の塊である戦闘艦や戦闘機を組織だって運用できない。
例えばサラミス1隻の1年分の運用費は新築の家100件分の費用にも相当する。
海賊船がサラミスと同等とは限らないが、運用費は似たり寄ったりになる。
そんなものを個人で持てるはずもなく、ほぼ何らかの組織の私掠船であるというのが現実だろう。
そうして見ると表立っては兎も角、地球連邦に抵抗する組織というものは昔から一定存在していたという事だ。
「しかし、海賊の規模想定にもよるでしょうが、あまり数は出せませんよ?」
「まあ、表立って出せるのは3個戦隊くらいかね」
「ええ、一応大規模な海賊相手ならそういう事もあるでしょう」
因みに一個戦隊とはマゼラン1、サラミス3、コロンブス1の5隻からなる戦隊の事である。
一見少なく見えるが、コロンブスには戦闘機が最大50機も搭載可能なのだ。
まあ、最大まで入っている事はまれで30機前後の事が多いのだが。
残りは予備パーツ等を満載している。
これを3つ投入するというのは、海賊相手の場合は過剰気味ととられかねない。
だが、クラナダ行きはそれだけ危険であるとゴップは考えていた。
何せ、今の今まで連邦の目は曇っていたのだ、実際の状況は想定よりかなり悪いものだとわかる。
「可能かね?」
「査察権限はいただけるので?」
「もちろんだ、クラナダにどの程度ジオンの息がかかっているのかがわからない。
憲兵隊も千名程度は連れて行ってくれたまえ。
だが場合によっては、クラナダに立ち寄るより前に逃げ帰る事も想定しなければならないだろう。
それをきちんと実行できる部下はいるかね?」
「そうですね……、私の知る中では……エイパー・シナプス、彼が適任でしょう」
「確か、中佐だったか? 確かに使える人材のようだね」
「ええ、海賊相手は何度もやってきていますから実績もあり不審には思われないでしょう。
海賊に関しては、ヤシマ少将を攻撃してきたのがいたはずです、幸いジオンが絡んでいるようですしね。
調査する名目には丁度いいかと」
「ああ、頼んだよ」
この後、エイパー・シナプス艦長は大佐に昇進し、3個戦隊を率いて出発する事となった。
憲兵隊1000人は各艦艇に分乗し、シナプス大佐の指揮下に入る事となる。
デギン公王の御前会議が緊急で招集されていた。
それも、一族のみの会議である。
テーブルについているのは、デギン公王、ギレン総帥、ドズル中将、キシリア少将、ガルマ大佐。
たった5人ではあるが、ジオン公国の最高会議と言ってもいい。
その集った理由についてであるが。
「ジオンシンパとして情報の拡散を抑止させていたエルランと連絡がつかなくなりました。
恐らく、捕まったか死んだものと思われます」
キシリアが切り出したのは、エルランとの連絡不通案件であった。
実はこの案件は公国にとって大きなファクターである。
何故なら、今までジオンの軍備や作戦が連邦側に漏れずに済んだのはエルランの功績が大きい。
もともと国力差30対1なので情報戦で勝てても有利を取るには極端な策に出るしかない。
それがもし、情報戦の優位すら崩れた場合、勝ち目が限りなく薄くなる。
「早急にエルランの代替を探す必要があるでしょう、ただ情報部に顔が効く相手となると現時点では難しい」
「それに、あのヤシマとかいうサイド1防衛司令が何か新しい監視システムを構築したという情報が来ている。
今後も同じ様に情報部だけ押さえておけばいいと言う訳にはいかないのではないか?」
ギレンとデギンが悲観的な感想を述べる、もちろん国内における情報統制はほぼ完ぺきにやっている。
しかし、地球連邦の情報部とて30倍の国力差は人口の差つまり情報部そのものの数の差でもある。
本気で探されたら隠し通せるものでもない。
ある程度の人員は金や女、人質等を使って抱き込んでいるが情報部の部署数だけでも相当になる。
指揮系統を全て押さえないと抜かれる可能性が出てくる。
その上、今回のヤシマ・ノゾムが行った超遠距離監視網だ。
流石にそんなもの止めようがない、何せ望遠鏡さえ設置できればいいのだから全てのコロニーにつける事もできる。
そうなれば、いくら破壊しようと向こうの復旧の方が早いという有様になりかねない。
つまり、連邦への情報封鎖は維持するのが非常に難しい状況になったと言える。
ザクや各艦艇の性能はほぼ抜かれたと思っていいだろう。
「連邦が対策を打ってくるまでどの程度の時間がかかると思う?」
「そうですな、軍全体の準備が整うまで早くて3ヵ月と言ったところかと。
今は恐らく、情報の硬度を高めるためにサイド3やクラナダへの情報収集の強化を行っているはず」
「兄上、連邦の衆愚は今に始まった事ではありませんそもそも対策を調えるだけでも3ヵ月は必要でしょう。
実際に打って出てくるのは早くても5ヵ月後と言ったところではありますまいか?」
ギレンの悲観的な論調をキシリアが否定する。
とはいえそれも楽観論というほどではない、地球連邦は大きな組織だ、その分初動は遅くなりがちだった。
「そもそもエルランが見つかるのが早すぎたのだ。
もう一年程度は頑張ってもらう予定だったのだからな。
イレギュラーを頭に入れないのは悪い癖だぞキシリアよ」
「何事も否定的に取られるのが兄上の悪い癖でしょうに」
「待て待て、喧嘩をするでない」
ギレンとキシリアの口論をデギンが諭す。
実際ギレンはキシリアを諭したつもりなのだが、キシリアはそれに対して反発心しかない。
兄弟仲は空回り気味であった。
「それで兄貴、どうするつもりなんだ?」
「ザクUの生産ラインが整った所を残し、現状のザクTの生産ラインはそのまま残す。
その上でフル稼働を行えば2ヵ月で当初予定の8割程度の数をそろえる事はできるだろう。
それを持って打って出るしかあるまい、予備案もあるが今すぐ役に立つかはわからんしな」
「ザクTとザクUでは性能に2割ほど差があると聞きます。数でも8割では実質6割5分程度という事に」
「その通りだガルマよ。
しかし、我らの強みは何かと言えば連邦に戦い方を知られていない事、それに尽きる。
以前のままなら開戦後より調査が始まり大打撃を与える事で反撃を半年以上引き伸ばす事が出来ただろう。
だが、情報漏洩が起きればその限りではない」
「つまり、勝ち目がもうないという事なのでは……」
「ザビ家の男が弱気な事をいうものではないですよ、戦争は始まってもいないのだから」
「キシリア姉上……そうですね、申し訳ありません」
ギレンはキシリアの好戦的な所に対して危惧を抱いていたが口には出さなかった。
それで死ぬならそれまでと言う様な考えが元よりギレンにはあったのだ。
彼の死生観はサスロの死の頃より歪んでしまったのかもしれない、家族ですら数として数えているのだから。
「これより戦いは時間との勝負となるだろう。
戦力は不十分なれど、今更戦争はしません等と言えば逆に我らが縛り首になる。
サイド3の住民全てに苦渋を強いて戦争準備をしてきたのだ、今更引く事はできない。
そうである以上確実な勝利が必要となる」
「だが兄貴、現実問題として十分な物量を用意できるのか?」
「開戦時に間に合うかどうかはわからん。
資源コロニーをMS工廠として使う。
改修に1ヵ月以上かかるだろうから、生産ラインが整うのが2ヵ月後と言ったところか。
そうする事でMSの更新スピードを上げ、数と質を向上させる」
「なるほど。初期の不足は痛いがそのままにはしないのだな?」
「それから、要塞化した資源コロニーを全てこちらに持ってくる事を考えている。
ア・バオ・アクー、ソロモン、アクシズ、ペズン、ロードス、先ほど言ったMS工廠化と同時に要塞化を行う。
可能な限りの小惑星を地球圏に持ち込み攻撃部隊の基地として利用する」
「アクシズはいざという時の避難区域として設定したはずだが?」
ギレンが考えた巻き返しのための総攻撃案にデギンが待ったをかける。
デギンは必ず勝てる等と考えていたわけではない、確かにミノフスキー粒子は強力だが知られればそれまで。
MS技術とて永続的に有利に働くわけでもない。
だから、デギンはいざという時のためにアクシズを避難所として設定していた。
しかし、ギレンはその行為に対し一度息を吐いてから言い返した。
「父上、アクシズはもう避難所には使えません。
場所が割れている以上逃げ込めば追いつかれ殲滅されます。
我らは勝つしかないのですよ」
「……なぜこんな事に……」
「兄上も我らもあのヤシマ・ノゾムという男にしてやられたのですよ」
「どういう事だ、キシリア?」
「あの男はどこから情報を得ていたのかわかりませんが、情報部の出してくる情報を信じていなかった。
そして、独自に調査を行い我らの計画をある程度掴んでジャブローに行ったのです。
その結果がエルランの行方不明につながる我らの窮地と言えるでしょう」
「なんと……」
キシリアに言われて初めて知る敵の存在にデギンは驚く。
それはつまり、ギレンと同じような天才ではないか?と不安になった。
現実的には原作知識により知っていたにすぎないが、デギンにとっては同じ事であろう。
「我らが行うべきは、可能な限りの速度でのカウンター攻撃。
準備に2ヵ月はかかるでしょうが、連邦軍には対応出来ないでしょう。
ヤシマ・ノゾムが行っていた連邦軍の装備更新は逆にあ奴の首を絞める事になる。
装備更新が間に合わない以上、サイド1の防衛艦隊だけで対応する事になるでしょう」
「なるほど流石兄貴だ! 迎撃準備をしている事を逆手に取ると言う訳か!」
「しかし、兄上初戦には確かに間に合わないでしょうが、作戦終了まで間に合わないとは限りますまい」
「そのための要塞よ。いざという時は第二案として使うつもりだ」
「なるほど……確かにそれならば……」
元々考えていた事が考えていた事だ、代案等いくらでもある。
最悪、各サイドを素通りしても可能な様にはなっている。
しかし、当然ながら抵抗が予想された。
当初の計画が崩れる事は恐らく無いだろう。
「我らの計画を知り派手に動いている連邦を更に混乱させてみせましょう」
「分かった、ギレンよ任せる」
「お任せを、我らの計画を台無しにした事を後悔させてやりましょう。
ま、後悔する暇も無いかもしれませんが」
そう言ってギレンはニヤリと口元をゆがめて笑う。
人を数字としか見れない人間ではあるが、ままならない状況に燃える感情がある事を思い出した。
その熱がこれからどう影響するのかはまだ誰もわからない……。
あとがき
いや、本当にわからないw
なんだか、エルランが死んだせいで話が加速してしまった。
予定より話が短くなるかもしれませんね。
それでも来年くらいは必要でしょうけども。
どうしても、連邦の情報不足についての考察を入れていくと誰かが止めてたとしか思えないんですよ。
だって、国力差だけじゃなくて人口差も30倍ですからね。
いくら上層部がアホばっかりでも、情報部が仕事出来ないのはおかしいんですよ。
ジオンが連邦にスパイを入れてるなら連邦もジオンにスパイを数倍は放ってないとおかしい。
なのにまともな情報が無いのはもっとおかしい。
仕事をしなかったのだろうか?
それもない、何故ならレビル将軍の帰還に一役買ったのは情報部のスパイのようですから。
入り込んでるのに情報が届かないというのが正解という事に。
そうなると、誰かが情報を止めてたと見るしかないんですよね。
そして、エルランの立ち位置がちょうど良かったのでついでに情報封鎖にもかませたのですが。
死因になってしまいました……。
まあ、これはこれで物語が加速して悪い事ではないので、このまま行こうかと思います!
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