機動戦士ガンダム〜転生者のコロニー戦記〜






第十一話 派閥の動き



ヤシマ少将こと、八洲 希(やしまのぞむ)によりジオンの動向が暴露された事により波紋は大きく広がった。

ザクの性能に関しては予測を含むため確定事項とまでは言えないものの前世知識もあって誤差は少ない。

ただ、これに関してはさほどの驚きはなかったかもしれない、電子装備で十分対応できると思われたからだ。


しかし、ミノフスキー粒子と核の大量配備に関しては連邦上層部でも驚きを隠せないでいた。

更にアステロイドベルトでは何度か核実験の光が観測されている事実も付け加えられていた。

数に関しては眉唾であるとする者もいたが、それでも最低百程度は作られているだろうと予測された。


ただ、ヤシマ少将により提示された核によるコロニーへの直接攻撃の可能性については否定する者が多かった。

報復でサイド3を核攻撃される可能性を考えればそんな迂闊な真似は出来ないだろうというのが一般的だ。

しかし、ヤシマ少将はミノフスキー粒子によって誘導兵器は意味をなさなくなる事も付け加えている。

レビル将軍もまたそれを肯定した事により、最悪の可能性が浮上する事になった。





レビル派の将軍達は行きつけのバーで飲む事にした。

ここの店員も元連邦軍の佐官だった男であり、やはりレビル派だった。

入っていくところを見られる事はあっても、中の様子を探られない様にセキュリティは何重にも行われている。

そのため、秘密の会議を行う場としてよく使われている。


「ギレンめ……まさかここまで考えていたとはな……」

「お前はヤシマ少将の言を信じるのか?」

「ダグラス、わかっていて聞いているな?」

「ふっ、まああの男の必死さは伝わったがな……」


レビル将軍の発言に茶々を入れたのはダグラス・ベーダー中将。

彼もまた、対ジオン強硬派の将軍である。


「彼の必死さはまるで、死にたくないと足掻いている様でした」

「恐らく、その通りなんだろうよ」


マクファティ・ティアンム少将は冷静にヤシマ少将を評し、ベーダー中将も同意する。

彼らにとって、ヤシマ少将があそこまで熱を入れて会議を主導する事自体がはじめてである。

その違和感は皆感じていたが、彼の言動に嘘がない事は伝わっていた。


「彼は将来幹部になる事が約束されている会社に入らず軍に入った変わり者ですからな。

 軍に対して思うところがあったのかもしれませんん。

 てっきりゴップ大将の腰巾着なのかと思っていましたが、自分の意見を持っていたという事かと」

「ふむ、彼なりに何か思うところがあるのかもしれんな。

 しかし、確かにジオンの監視体制は我らには思いつかないものだ。

 思えば確かに電子望遠鏡を使えばかなりの精度で遠距離を監視できる」


ジョン・コーウェン少将がヤシマ少将の動きから予測される考えをまとめ、レビル将軍が同意する。

その後また新機軸の兵器類に対する批評に戻った。

レビル将軍が気付かなかった気付きをヤシマ少将が可能とするのは単純に元の世界の情報精度の違いだろう。

はっきり言って、ハードウェアはともかくソフトウェア、いや応用力に関してはこの世界は遅れ気味である。

性能は十分あるのに応用が出来ない、より上回る技術はあるのに使われていない。

そういったちぐはぐさがこの世界にはあった。


「ミノフスキー粒子の応用に関しては、やはり彼がミノフスキー博士を握ったと見ていいのだろう」

「サイド7から正式な手続きで移動しています。ただ途中で何度か行先をぼかすための行動をとっていますね。

 恐らくジオンの追っ手か連邦内部に対する情報抑制のためか。

 しかし、現在は隠蔽を辞めたのかサイド1のロンデ二オンにてヤシマ重工の工場付近にいるようですね」


そう、ヤシマ少将はレビル派が隠していたミノフスキー博士の居場所を特定している。

これはレビル派にとっても、困った話であった。

ミノフスキー博士をサイド7に送り込んだのは、ジオンの目に間違っても触れないからだ。

博士は戦場から最も遠いコロニーとなるだろう事を理解していたため、それに応じた。

それが今やサイド1で兵器開発をしているのだ、レビル派を離れヤシマ少将の元で。


「その分を開発した機体の供与及び計画への設計図等の供与を持って充てるつもりのようですね」

「RX計画に食い込んでくるつもりか?」

「そこまでは何とも、ただ早急にサイド1の武装強化をしようとしている事だけは事実でしょう」

「RX計画はレビル将軍主導の元、私が実務を行う予定です。簡単に参入させる気はありませんよ」


ティアンム少将とベーダー中将のやり取りに対してコーウェン少将が口をはさむ。

コーウェンとて技術畑の将官としての矜持があるのだ、横入りを許す気はない。


「実機と計画書は有難く頂戴しますが、そのままで使えるかは疑問です」

「だが、ジオンの動き早い、間に合うか?」

「間に合わせますとも、貰ったものはテストし、仕様可能化の判別をし、使えるなら改良を施して。

 少なくとも追加型のブースターの出来は良いと思います」

「ふむ、ならばその方向でやってくれたまえコーウェン君。

 しかし、情報部がまともに動いていればな……」

「そう言ってやるな。上層部が、いやその上の政治屋共が上が握りつぶしてるんだろうぜ」

「しかしベーダー」

「幸いにも今回はあいつのおかげで気が付けた。一度メスを入れる必要はあるな」

「だが、管轄はコリニーの所だ、部長はエルラン、恐らくあ奴ら自身は足がつかない様に動いているはず。

 上手くいって佐官クラスがしっぽ切りされて終わりといったところか」

「何、手はある。お前は目立つが俺なら奴らに先手を取るくらいは可能だろうよ」


ベーダー中将はニヤリと不敵に笑う。

レビルらは彼に任せるしかないと判断した、何故なら彼は一度決めたことを曲げる人間ではないからだ。

ぱっと見、脳筋のように見えるが、それだけで中将に出世できるはずもない。

彼らの派閥は、一年戦争においてリーダーシップを取るに十分だったが、情報や技術においてジオンに負けていた。

しかし、事前情報がある彼らは話をどんどん進め、正確な情報を求める事となった。

情報部さえ改善されれば、原作のようにただやられる可能性は低くなるだろう……。








同じくコリニー中将の穏健派の将官達がジャブロー内にある秘密部屋に集まっていた。

秘密部屋というのは、表向き存在していない設計図にも載っていない部屋である。

こういう特殊なものをジャブローに持っている将官は実のところそれなりにいる。

それだけ人前では相談できない様な話というのは多いのだ。


「エルラン君……」

「はっ!」

「我々は君という存在が役に立つものと思い情報部の総監に押した。

 任務のやり方についても一任していたはずだ。

 その上で聞く、あの若造にしてやられた事もそうだが、我々すら掴んでいない情報があったようだが?」

「そっ、それは……」


エルラン少将は口ごもる、彼がジオンと繋がりがあるのは、キシリアから接触して来た事による。

元より軍を金づるくらいにしか思っていなかったエルランにとって、新たな儲け話は望む所であった。

それ以後、キシリアに連邦の情報を売って稼いでいたが、キシリアにさらなる儲け話を提示された。

連邦軍に入る情報を制限する事で更に大きな報酬をもらえる。

情報の制限によりエルランは下手な連邦議員では手が届かないレベルの金を手に入れている。

しかし、そのままでは見つかった時不味い事になるので、逃走経路とジオンでの身分を用意させていた。

彼だけが知る情報から連邦が敗北するのはほぼ確定であると確信していたからだ。

だが今、エルランの目論見は崩れつつあった。


「我らも危機感を持たせるための必要悪を欲していたのは事実だ。

 その気があれば、公国を名乗った時点で滅ぼしていたが、あえてそれをしなかった。

 軍部のポスト、軍への予算、どちらも減る一方だったからな」

「は……」


パウルス中将が言い出した事が何かと言えば、つまり軍の活性化のために敵を欲していたという事だ。

碌な考え方ではないが、彼にとっては戦争はあくまでリソースの削り合いなのだ、ジオンはまさにうってつけだったろう。

そう、ジーン・コリニー中将は用意していた。

ジオンとの戦争が簡単には勝てないレベルである事はエルランから情報を開示された時にわかった。

だからこそ、それを利用して出世や軍の権力強化等を行うつもりでいるのだ。


「だが、サイド1や2が核攻撃で壊滅何てことになれば、エルラン、お前だけでは責任を取り切れないだろう。

 そうなれば、我らにも飛び火するのが目に見えている、どうするつもりかね?」

「いえ、私も詳しい事は知らんのです」

「ほう、というと何かね? ジオンに騙されたとでもいう気か?」

「お恥ずかしながら……」


エルランは周囲の視線の温度が下がるのを感じた。

ヤシマ少将の出した情報はそれだけの打撃力をもって、エルランに突き付けられる事になった。

情報の秘匿によって連邦軍の敗北を確定づける事、二重スパイとしての彼の目的はそれだ。

そうする事で彼はジオン軍中将の地位と名家つまり貴族位、北欧を領土としてもらえる事が決まっていた。

それに、活動費として彼の少将としての給与の3倍は金をもらっている。

それにどのみち露見すれば銃殺刑だろう、今更ジオンを裏切れないのだ。


「だったらどの程度の情報まではつかんでいるんだ?」

「はい、現状ジオン艦隊は連邦宇宙軍の艦隊の5分の1程度まで数を増やしています」

「5分の1だと……クラナダ、サイド1、サイド2に駐留する連邦艦隊の倍近い数じゃないか」

「は、しかし、クラナダが落ちればルナ2艦隊が動きます。

 ルナ2艦隊は宇宙軍の半数以上にもなりますので、殲滅は十分可能かと。

 またジオンもサイド3や占領地に防衛のための軍を貼り付けないわけにはいきません。

 動かせる数は多くても3分の2、恐らくは半数といったところかと。

 占領が進めば更に動かせる数は減るものと思います」


うさん臭いものを見る目で言われるがエルランは嘘は言っていない。

実際クラナダや移動中のア・バオ・アクー、ソロモン等に防衛部隊をはりつけるだろう。

そうなれば、出てくる艦隊は半分ほどになっている可能性が高い。

もっとも、艦隊はジオンの主力ではない、どちからというとミノフスキー粒子をまくサポート役だ。

ジオンの主力はあくまでモビルスーツである。


「では、ミノフスキー粒子については?」

「それこそ、ミノフスキー博士が隠し立てしたのが原因です。

 さらに言えば、対抗策もミノフスキー博士に考えさせればいいだけですよ」

「だが、情報部からも上がってきていたはずだが?」


そう、ジオンに潜入している情報部もいるのだ。

上手くいかない事が多いものの、原作でもレビルを逃がすために動いていたはずではある。

そして、その情報を握りつぶしてきたエルランはどうにか取り繕う必要があった。


「あれによって電波妨害が起こる可能性は解っていましたが、どれくらいの量で可能か不明でしたので」

「ふむ」

「まだパイプは残しておいた方がいいのではないかと判断した次第」

「なるほど……」


コリニー中将の反応を見て一息ついたエルランだったが次の瞬間。


「エルランを拘束しろ」

「え?」


エルランは周囲に特殊部隊が潜んでいた事にようやく気付いた。

コリニー派閥は穏健派という事になってはいたが、あくまでそれは敵が小さいと判断したからである。

それが自らを脅かしうるとなれば、そんなものを放置しておくわけもない。


「わっ、私が捕まれば全て話します! あなた方の裏事情も含めて!」

「そうだねぇ。確かに君がそうする男だと私も知っているよ」

「ッ!?」


眼鏡をくいっと持ち上げるパウルス中将。

それはつまり、通常の逮捕をするつもりだないという意味だ。

ここは、情報が漏れないようにするための部屋、つまり彼が応援を求められる人間はいない。


「まあ我らも鬼ではない、君の情報ルートを開示してくれるなら生命は保証しよう」


もともと黒い肌で表情が読みにくいハイマン中将だが、この時はニヤリと笑っている。

エルランはこの部屋に入った時点で詰んでいる事を理解した。

ここで吐こうが吐くまいが不審死を遂げる事になるのは明白だ。

唯一生き残れる可能性があるのはキシリアとのつながりをはいて、窓口として生かしてもらう事だ。


エルランにとって、自分の利益の事も大事だが、連邦に対する燻る思いもあった。

ただ金のためにやった訳ではないという事だ、だが、命を対価にするほどかと言われればそうではない。

しかし、窓口として生き残るというのはどれくらいの間だろうか?

恐らく、そう長くはないだろう、ジオン側がエルランが三重のスパイになった事を理解するまでだ。

早ければ最初に、遅くとも3か月もすればエルランの実権がもう無い事に気付く。

それまでに、逃げ出す算段をつけておかないといけない。


だが当然、コリニー派も彼を逃せば自分たちにとって致命傷になる以上厳重な監視下に置かれる事になる。

脱出の可能性は万分の一以下といったところになるだろう。

事務方であるエルランが情報部のエリート並みの運動能力や察知能力を持つ訳もない。


「止めておきましょう、碌な未来が見えない」

「そうか、残念だよ」


次の瞬間、エルランの額に穴が開いていた。

一発分の銃声と共に……。







ここはベルファスト基地、グリーン・ワイアット中将の私室。

同じくリモートで参加していたバッフェ中将もいる。


「まさかゴップが動くとはね」

「ですな、穏健派の総大将と思っておりましたが」


彼らもレビル派と同じく強硬派であり、ジオンを早期に殲滅すべしという考えは同じである。

しかし、レビル派との違いは戦略の違いという事になるだろうか。


「しかしこうなるとレビルの一人勝ちになりませんか?」

「そうでもないさ、ジオンの艦隊もまだまだ増える。

 艦隊派の目指す主力艦隊構想にも弾みがつくだろう。

 それにモビルスーツとやらも運ぶ船は必要だろう?」

「それはそうですな」


彼らはいわゆる艦隊派である、大艦巨砲主義と言ってもいい。

現実を見ていないわけではない、戦闘機や他の兵器も必要なら使うし、作戦の要にもする。


しかし、艦隊派はあくまで戦場の主役は艦隊であると考えている。

これが地球上であれば、確かに速度の問題があってあまり有用とは言えない戦術かもしれない。

だが宇宙であれば、エンジンと推進剤さえケチらなければ速度は戦闘機と変わらない。

何故なら、意図的に止まらない限り加速した分だけ速度が出るのが宇宙だからだ。

速度がそうである以上、武装も多く火力が高い艦艇のほうが、戦闘機やモビルスーツより信用できると考える。

それが、艦隊派の根底にある考え方だ。


「現状計画されている艦の旋回能力は戦闘機の5割までの機動が可能らしい。後は、推進剤の確保だが」

「あのミノフスキー粒子というのは万能ですからな。あれを使いたい所ですな」

「ほほう、確かに彼の言っていた中にミノフスキークラフトとかいう飛行法があったな」


ワイアットとバッフェはニヤリとする。

ヤシマ少将の言っていたマゼラン及びサラミスの改修計画に一枚かめばいい。

速度増加、各種スラスター増設を行うだけで見違える事になるだろう。


「後は連邦は量産ばかりで特化したものがない。

 旗艦(フラグシップ)開発計画もどうにか盛り込めないものか」

「そちらを盛り込むための予算申請が必要になってきますな」

「ゴップか……あいつを納得させる計画……それも、ヤシマが言っていたな」

「流石ワイアット中将」

「ふ、嗜みだよバッフェ中将。ジオン側はマゼランよりも巨大なグワジン級戦艦があるんだろう?

 ザビ家の人間用として作られたそうだが今確認されているだけで6隻いるようだぞ。

 そして超巨大空母らしき存在も確認しているとか」


連邦の主力戦艦マゼラン級の全長324m連装メガ粒子主砲6〜7門となっている。

対してグワジン級は全長440m連装メガ粒子砲主砲6門連装メガ粒子砲副砲20門となっている。

主砲こそそう違いがないが、副砲の20門の差は大きい、機関砲も倍近い差がある。

その上グワジンはMS発着デッキも存在し、最大20機搭載可能だ。


「確かに」

「空母の方はともかく、ザビ家専用の巨大戦艦など座視する事はできん。

 グワジン級の装甲と火力はマゼランでも仕留められない事は明白だ。

 マゼランを10隻くらいで集中砲火でもさせれば可能だろうが」

「戦場でそんな小器用な事をするのは至難の業でしょう」

「だから必要になる。後は根回しだな」

「そうですな、私はレビル派を回ってみましょう」

「ゴップ大将に願い出るのは私の仕事か……まあ仕方ない」

「ご互い頑張るとしましょう」

「ああ、その通りだな」


こうしてワイアット中将とバッフェ中将は大艦巨砲主義を推し進めるべく動き出す。

当然根回しが上手く行ったら研究生産はヤシマ重工に丸投げする気でいた。

何故ならヤシマ少将にとってもチャンスのはずで、必ず引き受けるだろうと読んでいたのだ。









あとがき


今回は周りの反応を追っていく感じにしました。

というかいきなりエルラン殺してしもうた……。

まあ、このSSにおいてはエルラン活躍しようもないのでどのみちフェードアウトしたでしょうけども。

何せ彼が流せる情報はあくまで連邦上層部の意向だし、情報部の頭を打ち付けて情報を出させないようにする程度。

地上が戦場にならない限り、細かな作戦は流そうにもわからない。

というわけで、エルランを活躍させるには別人になるくらい改造しなければ無理ですしね(汗)



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