機動戦士ガンダム〜転生者のコロニー戦記〜
第十八話 出撃
俺はロンデニオンに帰り、傷の治療を受けた。
と言っても実の所俺自身直接戦闘をする人間でもない腕に多少損傷があってもさほど困りはしない。
痛みは宇宙世紀の痛み止めは割と凄いので、意識する必要もないレベルだ。
そんな中、ライアー准将に経過を聞いて今後の状況等を説明してから出撃について相談していた。
経過というのはロンデニオンでのデモやそれを隠れ蓑にしたテロ等だ。
しかし、流石イーサン・ライヤーだ人を丸め込むのがうまい、政治家を悪にして軍も辛いのだと言う感じでまとめてくれた。
事実、宇宙世紀の政治家はまともに活動しているのか疑問になる様なのが多い……。
核防衛に関しては流石はミノフスキー博士だ。
幸いにして既に20基以上のビームバリア発生装置が作られていたので戦場に近くなるコロニーに優先配備する事にした。
今後も急ピッチで生産してくれるらしいので順次配備していってもらう予定だ。
もっともサイド1のコロニーの総数は100を超えるため、全て守りきるとはいかないだろう。
だが、ある程度は避難してもらう事でどうにかできると判断する。
艦隊の出撃に関しては後3時間程で準備が整うらしい、どうにか前線構築が可能なはずだ。
原作でもグラナダ攻略には半日の時間を要していた、更にMSの数と質が低下しているので多少時間が稼げるはずだ。
とはいえ、向こうも速攻をかけてくるのは間違いないので展開終了した頃には相手も到着している可能性はある。
そうやって忙しくしていると、月への便に乗っているはずのセイラ嬢が押しかけて来た。
言い分を聞く事にした所
「やはりサイド1を見捨てる事は出来ません」
いや、見捨ててるわけじゃないんだが……そう思うものの、彼女の言いたい事はわかる。
自分だけ助かるなんて事は御免だというわけだ。
昔から思っていたのだが、セイラ嬢のこの戦国武将の様な潔さはなんなんだろう?
これでジオン残党等に利用されたり、逆に残党と敵対したりと言った話が全く聞かれないのがよくわからない。
「しかし、どうするつもりです?」
「私をシャングリラに送ってほしいのです」
サイド1の1バンチ、シャングリラ。
現状宇宙市民と差別化のためスペースノイドと呼んでいるジオンシンパが暴れているコロニーの一つだ。
確かにあそこには重要施設が多数ある、中でも重要なのはサイド1中央政庁。
「……政庁の奪還をする気ですか?」
「私だけでどうにかなるとは思っていません。しかし、あそこには沢山の宇宙市民がいます。
彼らが立ち上がればザビ家のシンパも大人しくなるでしょう」
「危険すぎる、あそこにいるのはザビ家シンパとなった人たちだけではない。
スパイや暗殺者も紛れているはずだ、彼らはそうやってコロニーの政治情勢を操っている。
貴方の死はジオン軍を勢いづかせる事にもなる」
後から付いて来ていたブレックスが言う。
彼自身、ザビ家というかギレンのやり方を知ったのはごく最近だが、それでも警戒すべきなのはわかっている。
だが俺もセイラ嬢がその程度で止まらない事は知っているので少し考えてみる。
そういえば、陸戦部隊はこの後あまり使われない可能性が高い。
となれば、サイド1防衛部隊の一部を彼女の護衛に割く事は可能だろう。
シャングリラはサイド1の中心に近い場所にあるので戦場になるなら負け確定でもある。
ならば……。
「いいでしょう。輸送船を一隻回します」
「ヤシマ提督!?」
「いつまでも中央政庁を奪われたまま戦うのも厳しい、丁度いいので護衛も兼ねて1個旅団(約5千人)ほどの部隊を出します」
「旅団規模だと? 戦争でもする気かね?}
「本来なら我らは彼らの要請を基に動くはずですが、このまま攻め込まれるわけにもいかないので防衛をする事になります。
しかし、行政からの追認は必要でしょう。シビリアンコントロールから外れるのは良くないですしね」
半分建前ではある、だが実際シビリアンコントロールを無視しての防衛は民衆がついてこない可能性もあった。
多分連邦が宇宙市民に信頼されていない理由の一つが政庁との連携不足であるだろうと思われる。
コロニーの指揮系統は連邦政府とコロニー政庁の2つ存在していると言っていいい。
コロニー内の警察や特殊部隊と言ったものはコロニー政庁の下にあるが、軍は当然連邦政府の下にある。
最悪、政庁を無視して動く事が出来るのが現状の連邦軍という事になるのだ。
特にこういう緊急事態においては、連邦軍の権限は大きくなる。
何故なら、防衛出動だからだ。
政庁の議会の結果を待っていては防衛が間に合わないという事は明白なので、議会をスルーしても許される。
それ自体は悪い事ではないが、悪用の手段もあるためやはり形式は大事だろう。
「指揮権はブレックス・フォーラ大佐相当官にお任せする事にします」
「……なるほど、そういう事か」
「はい」
こじつけである。
ブレックスは議員資格持ちの軍人というシビリアンコントロールに喧嘩を売っている存在だ。
そんなのは共産国家か帝国主義国家にしかいない。
(北の大国の様な例外もあるが、実態は帝国主義と共産主義のハイブリッドなので気にしてはいけない)
だが、同時にこの世界では認められた存在なのだ。
だから、彼が指揮する部隊はシビリアンコントロール下にある事になる。
つまり議員からの要請、指揮権の保持の両方を一人でこなす事が出来る存在なのだ。
まあだから喧嘩を売ってるわけなんだが。
「確かに拝命した。どうすればいい?」
「イーサン・ライヤー准将、第3旅団に集合をかけてくれ。
輸送艦は改装型のコロンブス級が3隻ほど残っていたはずだ、動かせるか?」
改装型コロンブスというのは強襲揚陸が可能な形にしたコロンブスだ。
武装も一応ついているが、それはおまけ程度。
揚陸用に突入チューブがついていて、61式戦車も通れるようになっている。
その程度の改修ではあるが、コロニー内での反乱等の対策として一応存在している。
「可能でしょう、艦載機はどうしますか?」
「戦闘機パイロットはあらかた出払うからな……、旅団内で乗れる奴がいたらその分積んでやれ。
それと、装甲車や戦車は当然として試作型モビルスーツも載せておけ。
ああいうのは威圧にもなるからな」
結局MSは宇宙戦闘するにはサイズが小さいのでコロニー内での活躍が見込まれる。
プチモビ等を改修し、コックピット周りに装甲を施し腕や足を大きくしてバランサーを強化、武装が出来るようにしたもの。
まあ、個人的な趣味もありなんかボトムズのATっぽくなったが仕方ない。
サイズがまだ4m級だからな……。
もっともこれはこれで使い勝手は良い、コロニーや都市内で活動が可能だからだ。
普通の道路を使って移動できるし建物の隙間を縫う事だって不可能じゃない、つまり18m級じゃ出来ない事ができる。
火力は低いが、それでも物によっては通常サイズのMSを傷つけられる武装もある。
それにルナチタニウムやその合金等を使ってないMSの装甲はガンダムのバルカンでも近距離なら対処可能だ。
まあその60mバルカンですら担がねば使えないのが現状だが。
「では、イーサン・ライヤー准将、ブレックス・フォーラー大佐相当官後は任せた」
「はっ!」
「善処しよう」
そう言って、この場を離れようと動き出すが、呼び止める声があった。
「ヤシマ少将」
「どうしました?」
「正直、まだ私は完全に信じ切れていません。
資料を見る限り核攻撃の意図があるのは明白ですが……、あまりに用意周到すぎる」
「それはギレンが? それとも私が?」
「両方です。ミノフスキー粒子、数千にもなるというモビルスーツ、核の運用、そしてコロニー市民の思想誘導。
資料から見て取れるギレンの行動は天才的でありながら、破滅的です」
「確かに、これだけの知識や力があるのならもっと平和裏に独立を目指す事も出来たように見えますね」
「はい、そしてそれを読み解いて逆襲をしようとしているヤシマ少将、貴方の事も私には見えない」
「私が……」
何を考えているのかわからないと言われてもな……。
まあ、ガンダム世界に対する知識チートは持ってるから、今の所どうにか天才と渡り合っているような状況ではある。
幸運にも助けられたけども、何せ名だたる有名人を味方につけられたしね。
ゴップ大将、バスク・オム、ミノフスキー博士、イーサン・ライヤー、セイラ嬢、ラン・バラル隊にブレックス。
地球で借りて来たエースパイロット達やその他にも何人か協力してもらっている。
彼らを見つける事が出来た事も、協力を取り付けられた事も幸運だったのは間違いない。
「自分で言うのも恥ずかしいんですがね」
「恥ずかしい?」
「これでも私はこの世界の事が好きなんだと思います」
「え?」
そう、この世界で自分を認識してからまだ3ヵ月と経っていない。
どこかまだ創作物の世界であると認識している自分がいるのも否定しない。
ガンダムに乗ってみたいとか、ジオングやエルメスを見てみたいとかラストシューティングを見てみたいとか色々妄想もある。
だが、この世界が原作と同じ様に世界の人口を一週間で半分にする様な戦争を起こす事は許容できない。
だって今俺はこの世界で生きているんだから。
大量虐殺を起こさせるなんて絶対に許容できない。
総人口の数十倍の死者を出して、平気な顔で理想を語っている彼らには反吐が出る。
「だからこそ、民間人の死者は可能な限り減らしたいと思う。
ギレンやザビ家の者たちにはさっさと退場してもらいたいし、
理想は貴方たちに体現してもらいたい、そのための手間は惜しみませんよ」
「それは……」
「そして、サイド1を壊滅させようとするジオン軍にはしっかりとトラウマを刻んでやるつもりでいます」
「トラウマ……ですか」
そう、テロに走らせる根源を断たねばいつまでも残党の相手をする事になる。
ジオン公国等と言っても、結局はジオン・ダイクンの理想を引き継いだつもりの者たちだ。
ドズルの娘を姫と言ってありがたがる彼らに本物の姫を出してやればそちらに向くのは当然の流れだろう。
故に理想はセイラ嬢に託す事でジオンの求心力を低下させる。
世界の人口を半分にしても気にしないほどの理想だ、セイラ嬢を強力に後押しするだろう。
モナハン・バハロの様な野心家も求心力を得られない以上、結局の所彼女を後押しするしかない。
そして資金源でありMS等の供給元となっていたアナハイムは、流石に一足飛びとはいかないが縮小されるだろう。
何せ連邦を脅すネタがなくなるので下手にジオンに横流しをしようものなら即時解体もありうる。
それに箱関連によって手に入れた利権等は政府が接収する事になるだろう。
当然、ジオニック社の買収等にも参加できない。
その上最大の株主であるビスト家の持ち株は政府が接収する事になるので自由に動けなくなる。
規模を縮小し半官半民の企業として今後は生き残りを模索する事になるだろう。
ただバナージ君の父親が捕まったので生まれなくなってしまった事は申し訳ない。
更に連邦政府の力がある事により地球再生事業も進むだろう。
もちろん、全てうまくいく等という事はないだろうが、それでも原作の世界よりはいい世界になるはずだ。
「もちろん戦争なんてここ数十年無かった、
私も知りません。過去のものを資料で読んだ事があるくらい。
ですが、この戦いで負けないためのあらゆる手段を講じた自信があります。
何とかしてみますよ」
「そう、ですね。確かにその通りだと思います。
ですが、貴方自身にとって何か無いのですか?」
「まあ、アナハイムが縮小してくれれば家にとってもありがたいと言うのはありますね。
もっとも、あんな会社が台頭してくる事自体許せないですが」
「……」
俺の話を聞いているブレックスが苦い顔をする。
アナハイムの支援を受けて今まで活動していた事に対するものだろう。
まあ、突然真実を知らされたらそうもなるわな。
ただアニメの彼はジオンに対してもなんとも思っていなかった様子なので危ない人間である危惧はある。
「そうでなくても、今回の防衛戦が成功すれば私も中将の仲間入りですよ。
英雄の名もつくかもしれない、将来は安泰っていうものです」
「将来は安泰って、私を政治の世界に送り込んでおいて……。
お蔭で将来設計をやり直さないといけません」
「そう言われても……護衛をつけたら怒鳴り込んできたから理由を話したまでですしね」
「……分かりました。
満足する答えとは言えませんが。私たちに言えない、個人的な理由があるのですね?」
「否定はしません」
流石はニュータイプというだけの事はあるのかもしれないな。
俺が秘密を抱えている事を見抜いたのか、まだ未覚醒だろうに末恐ろしい。
だが流石に転生者なんでジオンがこの先何をするか知っていますとは言えないよな。
もしかしたら彼女は信じてくれるかもしれんが、他の人間には気が狂ったと思われるだろう。
「それでは、私はこれで。そろそろ艦隊の方も出揃っている頃でしょうから」
「はい、お気をつけて。死んではなりませんよ」
「もちろんです。では!」
セイラ嬢らの元を離れ、軍用の大型エレカに乗り込む。
相変わらず護衛としてバスクの部隊も乗り込んでいる。
ごついのが多いが、まあ悪い事ではない。
宇宙港までの距離は軍管区から近いのですぐさま旗艦であるマゼランが見えてくる。
「さて、行くか」
護衛を引き連れマゼラン級の旗艦仕様であるモイライに乗り込む。
マゼラン級の戦艦はそれなりに多いが、旗艦仕様のものはギリシャ神話の神々の名がつく事が多い。
因みにモイライは運命の女神または三女神の総称とされる。
実はルウム戦役でレビルの乗艦だったアナンケの娘とされている。
御大層な名だが、作戦の成功を祈りたい気持ちはある。
俺は艦の前で少し目を瞑り祈っておいた。
そして、ブリッジに乗り込み発艦準備が終わるのを待つ。
実の所、発艦の準備で提督がやる事はない。艦長であるバスクが全て指示している。
アニメのZではフレーバーテキストレベルで全く発揮されなかった天才的指揮官としての才能が見て取れる。
人を使うのがうまい、艦隊指揮も任せたいくらいだ。
「発艦チェック完了。提督」
バスクが俺に目を向けて伺いを立てるが、俺は頷くだけにしておいた。
その方がスムーズに行くだろうと思ったからだ。
「補助エンジン始動。核融合炉30%まで出力上昇、微速前進」
「微速前進!」
宇宙港で全速発進をする奴はそういない。
噴射炎でブロック内のものを焼いてしまう可能性があるからだ。
まあ、大抵は燃えるようなものは持ち込んでいないが、ドックそのものが焦げ付く可能性はなくもない。
しかし、特に揺れもなく発進していく状況を見るに繊細な機動をしているんだろう。
「発進後、艦隊中央に向けて前進」
既に艦隊の何割かが集まってきている。
後1時間もすれば全ての艦隊が出そろう事になるだろう。
もちろん、各コロニーの防衛部隊まで集める様な事はしてないが、サイド1全ての戦闘艦艇の7割は集まる事になる。
内訳はマゼラン級戦艦35隻、サラミス級巡洋艦100隻、コロンブス級空母50隻、駆逐艦以下が200隻となる。
総計385隻の艦艇だが、他に既に先行している索敵部隊や工作艦隊などもいる。
正直心もとないと思わなくもない、相手はザクという切り札を恐らく1500機は投入してくるだろうからだ。
一年戦争で通算してザクは8000機使われたらしいとされる、まあ現地改造を含めてなのでそのままではないだろうが。
その内の3000機は生産が終わっている前提で考えるとしても、防衛部隊を残す必要がある。
防衛を投げ出すわけにはいかないのでサイド3に500、クラナダに500、ア・バオア・クーに500残すと予想。
位置関係敵に相互防衛が可能だろうから、数は多少少なくても何とかなるだろう。
それでも1500はこちらに来る可能性が高い。
サイド2を同時に侵攻するなら圧力は減るが、可能性は低いだろう。
ジオンがサイド1と2を同時に攻めたのは連邦側に対抗できる手段が無い事と奇襲だったからだ。
そのアドバンテージがなくなった今、俺に行動の自由を残すよりはと一極集中で襲ってくる可能性は高い。
こちらも対応できるだけの戦闘機や改造した機体は揃えているが安心できるほどではない。
できる事は、準備した事を粛々と進めていくのみ。
最後は運頼みだ、情けない限りではあるが。
そんな考えを顔に出す様な真似はしないが、一度呼吸を整えてから艦隊が集まるのを待つ。
「諸君。これから戦うジオン軍は核武装をしている。それもザクと呼ばれる機動兵器にだ。
当然我らは非常に不利であり、対策をいくつか用意しているとはいえ命の危険がある。
だが、この戦いで負ける様な事があれば、サイド1が壊滅するばかりか他のサイドや地球へも虐殺の嵐が襲うだろう」
俺は何一つ嘘は言っていない。
ギレンは身内以外に情けを持っているのか疑問であるし、アニメとはいえ実績がある。
放置すればサイド1だけで5億人以上が死ぬ事となるだろう。
「サイド1、そして地球圏の運命は諸君らにかかっている!
この地にジオンの跳梁を許すな! サイド1の血を流させるな! 奴らに免罪符を与えるな!
正義は我らにある! サイド1駐留艦隊発進!」
かなり恥ずかしいセリフを言って少しでも士気高揚を狙ってみた。
一応は一定の理解を得られたらしく各艦より返信等が入っていた。
一般人に過ぎない俺が、戦争指導等出来るのか、不安は残るが……。
もうやるしかない。
あとがき
結局出撃したら終わりでした(汗)
というかセイラさんが動きすぎるので、微妙に流れが寸断されてしまう……。
今後も一応出番はまだあるし、なかなか面倒な所ですが。
次回からは戦いに入る予定です。
とはいえまだ前準備ももう少しあったりするので、なかなか進まないですが。
こういうのは、お約束なのかもしれませんね。
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