Aの教導の意味/墜【しんじつ】
「ティアナ、私達なんでこうなってるんだろう?」
「…ゼロさんの怒りを買ったからじゃないですか?」
なのはとティアナは二人揃って不安定なドラム缶の上にかぶせた天板の上に両腕と両足の自由を束縛された状態で座らされ、周りには前に倒れようと後ろに倒れようと仕掛けられた嫌がらせトラップが発動するようになっている。
それだけならばバランスをを維持していればいい話なのだが、二人の頭の上には可愛らしい猫が乗っかっていて、猫は二人の数十cmほど上に張られた縄によって吊るされている魚を取ろうと可愛い仕草で立ったり座ったりしている。しかし、その猫が魚を食べれば二人の後ろに設置された鍋の中にある…沸騰したお湯が二人に襲いかかると言う状況。
しかも、それを強要したゼロ自身は一旦部屋を出てからかれこれ三十分も戻ってこない。
体力は限界に来ている上、猫も魚を待つのが我慢できずに食べようとする。
「「あァー!ネコちゃん!その魚食べないで!!」」
壮絶な放置プレイと言う奴だ。
一時間後、ようやくゼロが帰って来ると無言の圧力を加えながら二人を開放した。
「さてと、二人とも…何故私が呼びつけたかはわかってるよな?」
「「………はい」」」
呼びつけるも何も一時間三十分もの間放置プレイしておいてそれはないだろ!
などと二人は思っていたが、ゼロの迫力に押されてその台詞は口から外に出ることはなかった。
「ティアナよ。私は以前貴様にこう言ったはずだ。
教導の…進化の意味を違えば歪んだ進化となる。…覚えているな?」
「…はい」
ティアナは後悔していたという思いの満載した声質でそう言った、
「高町の組んだ教導メニューはざっと目を通した。…今の貴様たちに欠けているモノを養うためであることは戦いをする者からすれば明白。しかし貴様はそれをたった一度のミスで見失い、今回のようなつまらん失態を犯した。…そして、高町。貴様も貴様だ」
ティアナへの説教に区切りをつけると矛先はなのはに向かう。
「若いとはいえ貴様はティアナ達の教導官で人生の先輩だ。無茶をやればいずれ取り返しがつくかどうかわからんことになることを恐れる気持ちも分からんこともない」
その言葉を聞くと、なのはの表情は変化する。
「しかしな…こいつらのことをどれだけ想おうとも、あんな過激な叱り方は肉体言語での和解どころか双方の絆を断ち切りかねん」
そして、ゼロは一呼吸終えて二人への説教を終える。
「もっと進化しろ二人とも。双方ともよく話し合い、互いの意思を理解し合え。今の二人は私からすればクソ生意気なだけのガキだ…!ハッキリ言って失望したぞ」
*****
その後、空から攻めてくるガジェットの存在が確認されると、なのは・フェイト・ヴィータ・ゼロ・リインフォースがヘリに乗って迎撃に向かうことになったが、
「ティアナ…出動待機から外れておこうか?」
ティアナは目を見開いた。
「言うことの利けない奴は、使えないってことですか?」
「自分で言ってて気づかない?当たり前のことだよ、それ?」
傍からすれば喧嘩を売られた相手が喧嘩を買っているようにも見えるから不思議だ。
「現場での指示や命令は聞いています。教導だってサボラズやっています。それ以外の場所や努力まで教えられ通りにしなくちゃいけないんですか?私は、なのはさん達のようなエリートじゃないし、スバルやエリオみたいな才能も、キャロみたいなレアスキルもない…。少しくらい、死ぬ気で頑張んないと、強くなんかなれないんじゃないですか!?」
ティアナの屁理屈にシグナムは彼女に近寄って殴ろうとしたが、それをゼロが止める。
「…何の真似だ?」
シグナムの問いにも答えず、ゼロはティアナの背後に回り込んで両頬に手を添える。
それを見たなのはとスバルは顔を青ざめた。
――グギッ!!――
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!?」
なのはの時と同様に首を150度…なのはのときより軽めだが、斜め上方向というエグイ回転のさせ方によってティアナは壮絶な痛みに声を上げる間もなく転がりまわる。
その様子を見て周りのメンバーは全員「うわ〜…」とでも言うような表情となり、シグナムでさえ「やりすぎなんじゃないか…?」なんて言う始末。
「私の説教を聞いておいて、反抗するとはいい度胸だ。…本来なら精神的・肉体的にクル調教をするところだが…」
調教というヤバい単語に一同は身体に震えが走るのを感じた。
「…高町よ」
「は、はい!」
「この一件が終わったら、話しておけ、八年前のあの日を…」
「「「「!!?」」」」
ゼロの言葉にヴィータ・フェイト・シグナム…そしてなによりなのは自身が一番驚く。
「…早く現場に向かうぞウジ虫ども。…でなければこの場にいる全員の全身の間接を外してやってもいいんだぞ?」
「さ、流石にそれは言い過ぎですよゼロ」
「うるさい…またあの辱めを受けたいか?」
「そ…それは///」
ゼロにそう言われると、リインフォースは顔を真っ赤にして両手をモジモジとさせる。
(辱めってなにィー!?)
皆の心はシンクロした。
そんなこんなで、今度こそヘリが出発する直前、
「ティアナ!思いつめちゃってるみたいだけど、今度キチンと話そう?」
「だから相手にすんな!つーかゼロになにされるかわかんないぞ!!」
なのはにそう言ってヘリの中に引っ張るヴィータ。相当ゼロが怖いらしい。
ようやく出発したヘリだが、残されたものは重い雰囲気に包まれていた。
「皆…」
「シャーリーさん…?」
「持ち場はどうした?」
そこへシャーリーが出てきた。
「メインオペレートはリイン曹長がやってくれますから。
…皆、ちょっとロビーに集まって。私が説明するから、なのはさんのことと、なのはさんの…教導の意味」
*****
集められたフォワード陣とシグナム・シャマル・シャーリー・リインフォースはソファーに座っていると、シャーリーが昔話を始める。
「昔ね…一人の女の子が居たの。その子は本当に普通の女の子で、魔法なんて知りもしなかったし、戦いなんてするような子じゃなかった」
シャーリーがコンソールを叩きながら説明すると、十年前の…当時平凡な小学三年生だったころのなのはの映像がモニターに流れる。
「友達と一緒に学校に行って、家族と一緒に幸せに暮らして…そういう一生を送るはずの子だった。……だけど事件が起きたの」
モニターにはバリアジャケットを展開してジュエルシードによって暴走した生物と慣れない戦いをするなのはの姿。
「魔法学校に通っていたわけでも、特別なスキルがあったわけでもない。突然の出会いで魔法を得て、たまたま魔力が大きかっただけの、たった九歳の女の子が魔法と出会って数か月…命がけの実践を繰り返した」
さらにモニターには十年前に行われたフェイトとなのはの戦闘場面。
「これって…フェイトさん?」
当然そのことを知らないフォワード陣は驚きに驚きを重ねる。
「フェイトちゃんは当時、家族関係が複雑でね。…あるロストロギアをめぐって…敵同士だったの」
「…この事件の中心人物はテスタロッサの母。その名を取ってこの事件の名を”プレシア・テスタロッサ事件”…あるいは”ジュエルシード事件”と呼称している」
データでしか知らないとはいえ、シャマルとシグナムは辛そうに話した。
モニターにはなのはが巨大な収束砲撃魔法を撃ち出している場面。
「収束砲!?こんな大きな…」
「九歳の、女の子が…!?」
「ただでさえ、大威力の砲撃は身体の酷い負担をかけるのに…」
エリオ・スバル・キャロは言葉に出して驚くが、ティアナは最早言葉すら出ない状況。
「その後はさほど時もおかずに、戦いは始まった」
「私達やリインフォースも大きく関わった…闇の書事件」
モニターにはヴィータに奇襲をかけられたなのはの姿が映し出される。
「襲撃事件での撃墜未遂と、敗北。それに打ち勝つために選んだのは…当時まだ安全性が危うかったカートリッジシステムの搭載」
「肉体の負担や限界を無視した出力を扱うフルドライブ・エクセリオンモード」
さえにモニターには闇の書完成によって、はやての肉体と強制ユニゾンして現れたリインフォースと戦うなのはがエクセリオンモードで戦っているところが…。
「誰かを救うため、自分の思いを貫き通すため。そんな無茶をなのはは続けた…だがそんな無茶を続けておいて身体の負担が生じないはずがない」
今度のモニターにはある雪の日が映っている。
「入局二年目の冬。
異世界での捜査任務での帰り、ヴィータちゃんや部隊の仲間達と出かけたところで、不意に現れた未確認体。いつものなのはちゃんなら、きっと間違いなく味方も守って、倒せる相手だったけど…溜まりに溜まった疲労がなのはちゃんの動きを鈍らせて…」
そしてモニターには病院のベットに横たわり包帯や呼吸器をつけざるを得ない程、重傷を負ったなのはの姿。それを見た途端にフォワードの表情はなんとも言い難いものがあった。
「なのはちゃん、私達の前では、迷惑かけちゃってごめんなさい、無茶しちゃってごめんなさい…って言って笑ってたけど…。もう飛べなくなるかも、立って歩くのも出来ないかも…。それを聞いたときどんな思いをしたか…」
「無茶や命を賭けてでも譲れね戦いの場は確かにある。だがティアナがミスショットをした場面は…自分の仲間の安全や、命を賭けても、どうしても撃たねばならない状況だったか?訓練中のあの技は、誰のための、何の技だ?」
「なのはさん、皆にさ、自分と同じ思いさせたくないんだよ。だから、無茶なんてしなくてもいいように、絶対絶対皆が元気に帰って来られるようにって…。本当に丁寧に、一生懸命に教えてくれるんだよ」
シャーリーはなのはが皆にしてきた教導の意味を伝えた。
*****
同時刻、ヘリ内では。
「それじゃあ、ゼロの旦那になのはさん、リインフォースさん。気をつけて」
戦闘空域に到着すると、ヴァイスは三人にそう言った。
「ありがとうヴァイス君。いくよ、レイジングハート」
『All right,my master』
「行くぞリインフォース。今回は一気にぶっ飛ばす」
「了解」
【BLASTER】
【SONIC】
「「変身…!!」」
【SONIC/BLASTER】
なのはがバリアジャケットを展開して空を飛ぶと、今度はソニックメモリと、緑色のブラスターメモリを構えた二人は、金色の右半身・緑色の左半身の肩にエネルギー銃・ブラスターキャノンを装備したイーヴィル・ソニックブラスターに変身。
ヘリ内に載せてあったイビルホイーラーに跨って備え付けられたスイッチの一つを押した。
【EVIL WHEELER・FLIGHT MODE】
イビルホイーラーは即座にフライトモードに変形し、イーヴィルを空に誘っていく。
「こちらスターズ1。中距離火砲支援、行きまーす!」
なのはがそう言うと、フェイトとヴィータは念話で答える。
そしてなのはの足元に魔法陣が展開され、レイジングハートを構えると、砲撃系魔法でガジェット達を破壊していく。そこへ…。
「…三人とも下がっていろ、流れ弾に当たっても知らんぞ」
「「「え?」」」
三人は一瞬あぜんとした顔になる。
「忠告はしたからな…?」
『皆、早く避けた方がいい』
――ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!――
「「「!!?」」」
イーヴィルはブラスターキャノンを持つ腕が残像によって何本もあるかのように見える程に動きまわし、指もそれに引けをとらないスピードで連続で引き金を引き続ける。
それによって撃ちだされたエネルギー弾の数は圧倒的で、瞬きする間にもガジェット達を一機一機を正確に潰していった。
そして最後に一機になると、
「ヴィータ、ラスト一騎、お願い!」
フェイトが自分たちより上空を飛ぶガジェットの存在に気づいた。
「あいよー!行くぞ、アイゼン!フォルム・ツヴァイ!」
【EXPLOSION…RAKETEN FORM】
グラーフアイゼンは大きめのピックとエンジンのような推進機を掛けあわせたラケーテンフォルムとなった。
「ラケーーーテン!ハンマーーー!!」
炎を纏ったグラーフアイゼンの推進力によって回転運動を重ねたヴィータは、その遠心力を利用した重い一撃を叩きこんで、ガジェットを粉砕する。
「…大したこと無かったな。つまらん…」
『まあ、向こうもこっちの手を探るのが目的で、さっきのガジェットを全部捨て駒でしょうからね』
あまりに呆気無いガジェット達にイーヴィルはそう呟き合っていた。
*****
「え〜!?」
「ご、ごめんなさい!」
帰ってきた際シャーリーはなのはの許可を得ず、昔話を話したことに頭を下げる。
「…別に良いではないか。手間が省けた上、あの馬鹿には良い薬にもなったはずだ」
「まあ、確かにいつかはバレるしな」
ゼロの意見に以外にもヴィータが賛同する。
「シャーリー、ティアナ今どこにいるかな?」
「あ、えっと…、多分―――――」
*****
「シャーリーさんやシグナム副隊長に、色々聞きました」
ティアナの居場所を聞いたなのははその場所に赴き、座り込んでいるティアナの隣に座った。
「なのはさんの失敗の記録?」
「じゃなくて!…その」
「無茶すると危ないんだよ、って話だよね」
「…すみませんでした」
二人の会話を影で聞く者達が数人。
スバル・エリオ・キャロ・フリード・シャーリーの四人と一匹……だけじゃなかった。
「盗み聞きとはイイ趣味だな?」
「「「「ゼ、ゼロさん!どうしてここに?」」」」
「なに、貴様らの盗み聞きを手伝おうかと思ってな」
そう答えたゼロは四人と一匹に顔を向きを無理矢理自分が見えない方向向かせると、
『魔界777ッ能力…毒入り消毒液』
魔人態のゼロの口からは気味の悪い液体が上空に向かって吐き出されると、液体は自由落下によって一同に振りかかる。
「ちょ、なんですかこのドロドロ!?」
「なんだか汚い…」
「気持ち悪い…」
「うぅ…」
『キュク…』
4人と一匹はそれ相応の反応を見せるが、
「「「「『!!?』」」」」
四人と一匹は驚いた、なにせ自分たちの姿が自分自身でも見えなくなっていくのだから。
「液体自体が色を発することで周囲との色彩差を完全相殺させる消視液だ。…視覚面しかカバーできないから音や気配で感づかれる可能性はある。…同じ液体を被った者同士でなら姿は視認可能だ」
魔界能力の説明をする。
「これって、ゼロさんのレアスキルですか?」
シャーリーは驚きながらゼロにそう聞いた。
「フッ…こんな能力、私からすれば序の口レベルだ。それに、他の能力もあったが貴様らへの嫌がらせのためにゲロにしてやった♪」
そう言い捨てると、ゼロは爽やかスマイルでそのまま自室に戻って行った。
イビルキャンセラーをぶっかけられた四人と一匹は、そんなゼロに奇妙ななにかを感じていた。
ガイアメモリ解説
ブラスターメモリ
「砲撃手の記憶」が刻み込まれた緑色のガイアメモリ。
ウェポンサイドをブラスターサイドに変化させ、専用のエネルギー銃・ブラスターキャノンを装備させる。ウェポンメモリ中最も高威力で、取扱いの難しいメモリ。
ブラスターキャノン
ブラスターサイド専用のエネルギー銃。使用時以外は左肩に固定装着している。
アビリティメモリによって発射する弾丸や撃ち方の特性が変化する。
マキシマムスロットは銃身の下に付いているマガジンスロットである。
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