Tの本心/兄【かこ】
【SNAKE】
「「「!!?」」」
突然聞こえてきた蛇の記憶の声にスバル・ティアナ・ヴィータは驚いた。
「おい、早く避けろ」
とゼロの意思がそう伝えると、
――バシャーーー!!――
向こう側から気味の悪い色をした液体がティアナめがけて飛ばされたが、ティアナ自身はイーヴィルからの言葉もあって、ギリギリのところで回避できた。
「まさか…!?」
ティアナを襲った謎の液体を吐きだしたものの正体は、
『ほほ〜、やるじゃん♪六課のヒヨッ子も』
スネーク・ドーパント。
先程の液体はどうやら多種雑多な猛毒を満載した唾液のようなものらしい。
魔導師二人と騎士は構えるが、
「貴様ら三人は退いていろ、ドーパントは私の専門だ。ヴィータはガジェットの殲滅。それとそこの二人、とりあえず下がれ邪魔だ」
と、イーヴィルはイビルホイーラーから降りてスネーク・ドーパントと対峙する。
「…わかった、頼んだぞ!」
ヴィータは多少悩むも、ドーパントに対して最も有効な力を保有するイーヴィルにその場を任せると飛行魔法でガジェットの破壊に向かった。
スバルとティアナも、ドーパントはまだ自分たちの実力では倒せない相手であることは重々承知していたので、大人しく一歩下がって戦況を見守ることにした。
「本日二度目だが…」
「『さあ、貴様の欲望を差し出せ…!』」
決め台詞を言い放つイーヴィル。
『あんたの噂は聞いてるよ。か〜な〜り、強いってな。でもさ〜、俺ってバトルマニアなうえにSだからそう言う奴倒して痛めつけるのが最高に気持ちいいんだよな♪』
さらりと自分の趣味を語るスネーク。
「そうか…ではこちらは武器なしでやろう」
【MAGICAL】
【LEADER】
【MAGICAL/LEADER】
イーヴィルはマジカルリーダーにハーフチェンジ。
『あ?武器なし?それって俺の調教を受けるってこと?』
「図に乗るな寸胴野郎めが。私を久々に滾らせたことを後悔するがいい」
其の時、仮面の下でゼロはサディスティックな笑いをしていた。
(ご愁傷様)
リインフォースはスネークに弔いの言葉を心の中で呟く。
「魔界能力を使うまでもない。一分で勝負をつける」
『一分?そんな短時間で俺――スパッ!――………!!』
スネークは嫌な音を聞いた後、恐る恐る自分の口内に生える無数の牙を触ろうとするも触れない、代わりに指が触れたのはドロッとした自分の血だった。
『痛ってええええええええええ!!!!』
牙を一気に全部へし折るって言うか、無理矢理抜き取られたことで、一本一本なら耐えられないこともない痛みも壮絶なものになっていた。
「どうした?私からの拷問は始まったばかりに序の口だぞ?」
イーヴィルはドSボイスでそう言うと、今度がスネークの身体を持ち上げて腹の部分に…。
――ブスッ!!――
『アァァァァァアアアアアアアアアア!!!!』
――グチャ、グチャ、ブシュ、ブシュ、ガリ、ガリ!!――
腹部内部に手を突っ込んで、臓物や骨格などを引っ張ったり引っ掻いたり叩いたりした。
そして、要が済んだかのようにスネークを放り投げる。
『こ、降参だ!自首するから!!』
スネークは壮絶な痛みに耐えながら降参を宣言。その証拠としてメモリを体内から取り出して人間の姿に戻った。
イーヴィルはそれに応じて変身を解除した。
スネークだった男はそれを見て安堵の息を漏らしたが、それは大きな間違いだった。
「それでは…”一曲”ほど御清聴願おうか?」
いきなりそう言いだすと…。
「魔界777ッ能力…拷問楽器「妖謡・魔」」
ゼロは手中から出した魔界能力を彼の頭に刺した。
「こいつは他人に寄生する楽器なんだが、自分の弦を持ち合わせていないんだ。しかしその代用として、宿主の神経線維を引きずり出して弾くのだがな…」
説明が終わるとイビルストリンガーは蝙蝠の弾き手のような姿になり、頭部からは”弦”が引きずり出され…。
――ギィィィィィ!ギゴギゴギゴギゴギゴ!!ギイイイイイイイイイイ!!――
「痛ギャアァァァァァアァァァァァアァァァァァァァアァァァァァァアァァァァァァアァァァァァァアァァァァァ!!!!」
「フフフ♪どうだ?痛覚神経を直に弾かれて奏でられた旋律(メロディ)はさぞかし心地いいであろう?」
轟きまくる絶叫をよそに、ゼロはドSな笑顔で彼が騒音と激痛に耐えきれず気絶するまで楽しげにそれを眺めていた。
「………」
「………」
ゼロの行った拷問の一部始終を見ていたスバルとティアナ。
二人の脳裏の過った文字はこれだけで十分だろう。
ゼロさんを怒らせちゃいけない!楯突いてはいけない!
この一文はきっと一生二人の心に刻まれるだろう。
*****
それから少しすると、スネークメモリを使っていた男は逮捕され、メモリは押収品として没収された。
取り調べの際、”残虐魔人”だの”音なんてもう聞きたくはない”などと口走っていたが、今は気にしないでおくとしよう。
ゼロとリインフォースは自室でゆっくりとした時間を過ごしていたが、
「それにしても気になりますね」
「何がだ?リインフォース」
「ティアナのことですよ。訓練中の彼女はどんな風に見たって、真面目に強くなろうと必死でした。それがあんな場面でミスをするなんて…」
一日に一回、訓練場に顔を出しに行くリインフォースはゼロ以上にフォワード陣を親しかった。
それゆえに彼らの努力に関する理解もあった。
「…検索すべきなんでしょうか?」
「あまり気の進むことではないが、あ奴がまたドジったら私の食事に影響を与えかねんな。…検索してみろ」
そうしてリインフォースは次元書庫に入った。
『検索開始。項目にティアナ・ランスター…、ファーストキーワードは執務官』
そのキーワードはティアナが執務官志望ということを聞いていたからこそのものだった。
『セカンドキーワードは、弾丸。サードキーワードは、焦燥』
三つのキーワードを入れたことで大分本が減ったが、まだ幾冊あたりが残っていた。
「…そういえばあいつ、家族が居なかったな。それをキーワードにしてみろ」
『わかりました。ファイナルキーワードは、家族』
すると、無数の情報は一冊の本にまで絞り込めた。
*****
真夜中、ティアナは一人で自主連をしていた。
始めてからもう四時間以上が経過しており、傍から見れば無茶をしているのが丸わかりだった。
そこへ…。
「ご苦労なことだな」
「!?……ゼロさん?」
ゼロがゆっくりとティアナに歩み寄って来た。
「何か私に用でも?」
「なに、貴様に聞きたいことがあるだけだ」
ゼロは一呼吸おいてこう言い放つ。
「貴様、ここで腕を磨いて引き継いだ理想を達成した後、どうするんだ?」
其の途端ティアナの表情は驚くと同時に険しいものになる。
「…調べたんですか?兄のこと…」
ティーダ・ランスター
ティアナの実の兄。幼いころ死んでしまった両親の代わりにティアナを育てていた良心的人物で、嘗て管理局の首都航空隊所属の一等空尉で執務官志望のエリート魔導師だったが、ティアナが十歳の時に逃走した違法魔導師を追跡・捕縛する際にその魔導師と交戦した末に21歳という若さで殉職。
其の最後に任務も心無い上司に不名誉な死だと罵倒されてしまった。
「貴方には、関係ありません…!」
ティアナはティーダが殉職した葬儀の際、自慢の兄が死んだことだけでも悲しみに満ち溢れていたと言うのに、心無い上司の言葉が彼女の心に大きな傷跡を残し、ティアナが必死に強くなろうとする要因になっている。
「私には関係なくとも、ほかの連中には関係する筈だ。あの時とて、運よく私が間にあったから良かったものの、下手をすればスバルは重傷を負っていた可能性もあった。無論他の隊員でもな」
「!!?」
それを聞いてティアナはその時気付くことのできなかったことにようやく気付く。
「兄の面影を追って執務官を目指す貴様の気持は私にはわからない。だが、私の助手は…貴様のことを案じている」
そしてゼロは最後にこう付けたした。
「高町からの教導を全て覚えているのなら、その意味を違えず、一生忘れるなよ。そうすれば貴様はもっと進化できる。忘れると言うことは進化すら忘れてゆっくりと死んで行き、意味を違えば歪んだ進化となる」
「ゼロさん、何が言いたいんですか?」
ティアナはゼロの言葉に睨みながらそう言った。
「今言った通りだ」
それだけの返答をすると、ゼロはそのまま帰って行った。
ティアナはゼロの言った言葉の意味を考えるも、数分後にまた自主トレを開始した。
*****
数日後の模擬戦。
「さて、それじゃあ朝のおさらい2ON1で模擬戦するよ。まずはスターズから行くからバリアジャケットの準備いいね?」
「「はい!」」
なのはの指示でスバルとティアナはバリアジャケット姿になる。
そんな三人をヴィータとライトニング隊の二人とイーヴィルの二人は見物していた。
そこへフェイトが遅れて登場する。
「本当はスターズの分も私がやっておく筈だったんだけど…」
「遅れた貴様が悪い」
「うぅ…」
「ゼロ、そんな風に言わなくても」
そんなフェイトにゼロが釘を刺す。
リインフォースはそこへすかさずフォローする。
「にしてもなのはの奴、最近訓練密度高濃度だからな…少し休ませねえと」
ヴィータはそう言った。するとフェイトも、
「確かになのは、部屋に戻った後もずっとモニターに向き合って訓練メニュー作ったり、フォワードの動きをチェックしたりしてるから…」
宿舎では同室ということもあってか、そんななのはの仕事熱心なところを知るフェイト。
「なのはさん、訓練中でもいつでも僕達のこと見ててくれてるんですね」
「本当に…ずっと…」
エリオとキャロはなのはに対してある種の感動を抱いた。
「お、クロスシフトだな」
ヴィータがそう言った時、ティアナはクロスファイアのスタンバイをしていた。
「クロスファイアー!…シューーート!!」
魔力弾がなのは目掛けて飛んでいくが、
「あれ?なんかキレがねえな」
「コントロールは良いみたいだけど…」
勢いの無いクロスファイアを見てヴィータとフェイトは疑問に感じる。
そこへウイングロードに乗って走って来るスバル。
「フェイクじゃない!本物!」
向かってくるスバルがティアナの幻影魔法で造られた幻でないことに気付くと、アクセルシューターの魔力弾を幾つか飛ばす。
スバルはそれをシールドの展開で防ぎ、なのは目がけてリボルバーナックルを振り下ろした。
当然なのはもシールドを展開して攻撃を防ぎ、それでも突進を止めないスバルに攻撃を行って吹っ飛ばした。
吹っ飛ばされたスバルはウイングロードの上に着地する。
「スバルダメだよ!そんな危ない軌道!」
「スイマセン!でも今度はちゃんと防ぎますから」
「ん…?」
「ゼロ、貴方もですか?」
スバルの言葉にゼロとリインフォースは何か疑問に感じた。
そうして、訓練場をゆっくり見渡すと、そこには…。
「砲撃?ティアナが?」
フェイトが驚く声が聞こえる。
無理もない、なにせ訓練中にティアナが砲撃系魔法を使ったことも教わった試しもないのだから。
(スバル、クロスシフトC!特訓の成果見せるわよ!)
(応!!)
スバルはリボルバーナックルのカートリッジをロードさせると、再びなのはに向かって突貫。
当然それを防ぐなのはだが、スバルとの硬直状態が続いていると…。
砲撃をスタンバイしていたティアナの姿が消えた。
「あっちのティアさんは幻影!?」
「それじゃ、本体は?」
キャロとエリオが慌てている間にゼロは既にティアナ本人の位置を把握していた。
「人の話を全く聞いていない」
ウイングロードを走りティアナを見て、ゼロはあきれた表情でそう呟いていた。
(バリアを抜いて、一気に突き抜ける!)
クロスミラージュの銃口から魔力刃を出現させると、それをなのはに向けて特攻する。
ゼロから言わせれば、ティアナのとった行動は全てその場しのぎの児戯に等しかった。
「一撃必殺!!」
そして、管理局の白い悪魔が到来する。
「レイジングハート、モードリリース」
『All Right』
レイジングハートを待機モードにしたなのは。
そして彼女はティアナの刃を直に手で受け止めた。
その際に多少の爆発による爆炎が起こり、ヴィータとフェイトはなののことを心配する。
そして煙が晴れた時、
「…おかしいな…、二人とも…、どうしちゃったのかな?」
刃を掴みながらそう言うなのは。
其の右手は刃を掴んでいることで出血している。
「模擬戦は出鱈目な喧嘩じゃないんだよ?練習のときだけ良い返事していても、本番でこんあ無茶するようじゃ…練習の意味無いじゃない」
いつもとはかなり違う雰囲気のなのはに、スバルとティアナは圧倒される。
「ちゃんと…練習通りやろうよ?私の言ってることや、訓練って…そんなに間違ってる?」
ティアナはそう言うなのはと正面から向き合うことができず、クロスミラージュのダガーを解除して距離を取る。さらにカートリッジをロードし、砲撃を行おうとする。
「私はもう!…誰も傷つけたくないから!失くしたくないから!!だから…、だから!強くなりたいんです!!」
涙を流しながらそう叫ぶティアナに、なのはから無情の言葉が…。
「少し…頭、冷そう…」
人差し指をティアナに向けると桜色の魔法陣が展開される。
「クロスファイア」
「うあぁぁぁ!ファントムブレ「シュート」
なのはの放ったクロスファイアシュートはティアナの砲撃より早く撃ちだされた。
「ティア…。バインド!?」
スバルがティアナを心配すると、その身体にはバインドの魔法が掛けられる。
「スバル…よく見ていなさい…」
普段のなのはからは想像のつかない声質。
そして、再度クロスファイアを発射して、フラフラになったティアナに止めを刺そうとすると…。
――ガシッ!!――
「邪魔しないで下さい、ゼロさん」
そこにはなのはの腕をつかむゼロの姿があった。
なのはの攻撃を読み取り、魔人の体力を生かした超人的なジャンプでここまで跳んで来たのだ。
「頭冷すのは、貴様もだ」
白い悪魔の威圧感も魔界で生きてきた魔人からすれば大したものではなく、ゼロは一瞬でなのはの後ろに回り込み、頬に手を添えると…。
――…グギッ!!――
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!?」
ゼロはなのはの首を180度回転させた。
曲ってはいけないであろう角度にまで首を回転させられたことで、なのはが声にならない声をあげながら転がりまわる姿…ハッキリ言ってシュールだ。
その様子を眺めていた者の内一人を除いて、四人はなのはがゼロに何をされたのか?と非常に気になっていた。
ゼロは痛みで転がりまわるなのはをよそにスバルのバインドを力技で壊すと、ティアナを医務室に連れていくことを命じた。
そして、今だに痛みを引きづるなのはの首にきつめのチョップを入れて気絶させると、
見物していたものに、
「ティアナと高町の二人が目を覚ましたら伝えておけ。私の部屋に来いとな…!」
無表情だ。しかしながら無表情だけらこそ漂ってくる怒りと失望の念がゼロからヒシヒシと伝わってきた。
そんなゼロを見て、
(久しぶりですね、あそこまでゼロが怒ったのは…)
(やっぱりあいつは正真正銘の魔人だ!)
(なのは、なにされたんだろう…?)
リインフォース・ヴィータ・フェイトはそう思っていた。
そしてこの件のこともあって、ライトニング分隊の模擬戦は中止となってしまい、エリオとキャロはなのはの隠された一面。そしてゼロの魔人としての冷酷な部分を知ることとなった。
次回、仮面ライダーイーヴィル
Aの教導の意味/墜【しんじつ】
「この『欲望』はもう、私の手中にある…」
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