垣間見えたD/再【ふたたび】


地上本部と機動六課の壊滅的打撃から数日後、
ゼロは魔力の殆どを使い果たしたことで著しく弱体化。
魔界777ッ能力の一つ、泥の指輪(イビルディバーシー)を束ねて魔力の回復に専念していた。

「ゼロ…」
「何も言うな…」

嘗てない屈辱を味わい、酷く不機嫌になっていたゼロ。

壊滅させられた六課の隊舎の中を歩き回っていた際、ヴィヴィオがいつも持ち歩いていたウサギのぬいぐるみが焦げてボロボロになっているのを見た際、

――ドガンッ!!――

ゼロは壁を殴りつけ、壁は意図も容易く崩れ落ちた。

「ヘル…私をここまで愚弄した罪…命で償ってもらうぞ…」



嘗てネウロを相手にした”シックス”と名乗る人間の新種率いる大規模テロ集団・新しい血族。
数千年の時を経て、各一族の先祖代々に伝わる超常的な才能が人間を越えるまでに成長し、其の果てには人類を滅亡させようとした。人間=食糧源を守ろうと奮闘した脳噛ネウロの魔力を枯渇させ、何度もピンチに追いやった程の実力者たちでもある。その話をゼロは本人から聞いたが、今ゼロが相手にしているのは血族と同じ、あるいはそれ以上とも言える驚異だ。



「…あいつを呼ぶか。魔界777ッ能力…魂の共鳴(イビルトランシーバー)

ゼロは奇妙なデザインの黒電話を出現させた。

「それは?」
「魔界の通信機…というか電話だな」

ゼロは魔界能力の説明を簡単に済ませると、ダイヤルを一回転させた。
其の時、

――グォォォグオォォォ!!――

突然聞こえてきた咆哮にリインフォースは振り向くと、そこには邪竜型フォルムをした漆黒のロボットがいた。

(…ダークネス?…)
「どうかしたか?」
「い、いえ!」

ゼロに返事を返し、再び視界を向けると、先程のロボットはもういなかった。





*****

はやてからの連絡を受け、一時的に六課メンバーの移動拠点を、廃棄予定だった時限航行船アースラを用いることが決定した。

主要メンバーがアースラの会議室に集結し、現在の状況の報告と今後の方針に関してのことが話し合われる。

「地上本部による事件への対策は、残念ながら相変わらず後手に回っています。地上本部だけでの調査継続を強硬に主張し、本局の介入をかたく拒んでいます。よって、本局からの戦力投入は、まだ行われません。同様に本局所属である機動六課にも、捜査情報は公開されません」

グリフィスの報告にディアンは苦虫を噛み潰したかのような顔で、

「下らん。なぜこんな緊急事態にまで意地を張る?プライド等、捨ててでも民の為に尽くことが最善だというのに…!」
「ディアンの言うことは正論や。でもな、今まで築き上げてきたプライドを捨てきれへん人もおるんや」
「わかっている!…しかし…」

はやての言葉を聞いてもディアンは未だ納得しきれないようだ。

「とりあえず、私達が最優先とすべき事項はギンガとヴィヴィオを見つけ出して助け出す。あんな連中のところに長居させれば一体どのような目にあわされるか、わかったものではない…」
「そうや。そしてスカリエッティや戦闘機人も可能であれば確保する。そういう感じで動いて行く。両隊長、意見があれば?」

ゼロの見解にはやてが肯定と付け足しを行う。

「理想の状況だけど、また無茶してない?」
「大丈夫?」

二人ははやてのことを案ずる言葉を言った。

「後見人の皆さんの黙認と協力は、ちゃんとかためてあるよ。なにより、こんな時の為の機動六課や。ここで動けな、部隊を起こした意味がない」

はやてはそのように返答した。

「了解」
「なら、方針に異存はありません」
「良し。ほんなら捜査・出動は本日中の予定や。万全の状態で、出動命令を待っててな」





*****

そして、とうとうスカリエッティは己が目的を果たすための計画の最終段階に入った。

「さあ、いよいよ復活の時だ。
私のスポンサー諸氏、そしてこんな世界を作り上げた管理局の諸君。偽善の平和を謳う聖王教会の諸君。見えるかい?君達が危惧しながらも求めていた絶対の力。旧暦の時代。一度は世界を宣教し、そして破壊した…古代ベルカの悪魔の叡智」

モニターで語るスカリエッティ。
さらには地面から出現した大型戦艦”聖王のゆりかご”の姿に殆どの者が驚きを隠せない。

「見えるかい?待ち望んだ主を得て、古代の技術と叡智の決勝は、今その力を発揮する!」

スカリエッティは玉座に拘束されたヴィヴィオの映像を流した。

「痛いよぉ!!怖いよぉ!!パパッ!!ママッ!!」

玉座で魔力を吸い取られる痛みと恐怖。それによって助けを求めて泣きじゃくるヴィヴィオの姿。モニターで見ていたゼロは何とか表層状では平静を保っていたが、リインフォースは…

「ヴィヴィオ…!」

涙を流しながら、拳を全力で握り、掌からは血が出ている。

「さあ!ここから夢の始まりだ!ハハハハハッ!アッハハハハハハハハハハ!!」

狂気に満ちたスカリエッティの高笑いは天高く響いた。
モニターの隅には包帯越しからもわかるような笑顔のヘルの姿が映し出されている。

「ヘルゥ…!!」

それを見たディアンは憎悪と殺意に満ちた眼差しをしていた。





*****

一方、聖王教会では

「巨大船、地上より浮上!」
「まさか、これは…!?」

聖王のゆりかごの出現に驚くしかない教会の者達。

「騎士カリム。これが、貴女の預言にあった…」

カリムは間近でゆりかごの浮上するところを見ていたシャッハのモニター通信を受け、悔しげな表情で予言書を見た。

「踊る使者達。死せる王の下。聖地より還った船。
古代ベルカ、聖王時代の究極の質量兵器。天地を統べる聖者の船。聖王の、ゆりかご」





*****

「一番なって欲しくない状況になってもうたな」
「教会…私の不手際だわ。預言の解釈が不十分だった」

アースラのメインブリッジで、はやてはカリムとモニター通信していた。

「未来なんて、わからへんのが当たり前や。カリムや教会の皆さんのせいとちゃう」

はやてはモニターに映った聖王のゆりかごを見据える。
すると、クロノから通信が入って来た。

「はやて、クロノだ。本局は巨大船を極めて危険度の高いロストロギアと認定した。次元航行部隊の艦隊は、もう動き出している。地上部隊とも協力して、事態に当たる。機動六課、動けるか?」





*****

そんで、ナンバーズ達は、ウーノからモニター通信の指令を受けていた。

「聖王の器とゆりかごは、安定状態に入ったわ。クアットロとディエチはゆりかご内部にて私と交代」
「は〜い♪」
「了解」

クアットロはいつもの猫撫で声、ディエチは淡白な返事をする。

「トーレとセッテ、セインはラボでドクターの警護」
「心得た」

「ノーヴェは、ディ―ドとウェンディ、13番目と一緒」
「もう向かっている」

それぞれの指令に返事をするトーレやノーヴェ。

「ゆりかごは完全浮上して、手法を撃てる位置」

ウーノがそこまで言うと、モニターにはクアットロの姿も映し出された小型モニターが追加される。

「ア〜ンド、二つの月の魔力を受けられて、地上攻撃までできる位置までたどり着けば、ゆりかごは正に無敵」

さらにトーレの姿を映した小型モニターがさらに追加される。

「ミッドの住人全てが人質だ。その状態でなら、本局の主力艦隊とも渡り合える」
「そういや、一個疑問があるんすけど』
「なんだ?」

ウェンディの発言にトーレがそう聞き返す。

「あのゆりかごの中にいる、聖王の器とか言う女の子って、ぶっちゃけ何?」
「フフフ、私が教えようか」
「ドクター」

ウェンディの疑問にスカリエッティが疑問解消の役を買って出る。

「今から十年ばかり前になるかね。聖王教会にある司祭がいてね。彼は敬虔な教者にして、高潔な人格者だった。それ故に聖遺物管理という重職に就いていたんだよ」

スカリエッティから語られていくヴィヴィオの誕生秘話。

「聖遺物?」
「聖王教会の信仰の対象。古代ベルカ時代の聖なる王様。聖王陛下の持ち物だったものとか、遺骨とかのことよ」

ウェンディが首をかしげると、クアットロが詳細を教える。

「だが、司祭と言えども人の子だ。彼はある女性への愛の為に、それに手をつけてしまったんだよ。そして、聖骨布に極僅かに含まれていた血液からは遺伝子情報が取り出された…古代ベルカを統べた偉大な王。聖王の遺伝子データがね。そして、聖王の種は各地に点在する研究機関で極秘裏に複製され、再生され…」

「あたし達の王様になるために、だろ?」

スカリエッティの言葉の途中でノーヴェが横やりを入れた。

「生きて動いている聖王は、あのゆりかごの起動キーなんだよ。王と言っても、ただの器さ」

ヴィヴィオに対するスカリエッティの評価はこのようなものだった。

「ドクター、質問」
「どうぞ、セイン」
「レジアスのおっちゃんは良いとしてさぁ、最高評議会だっけ?あっちのほうは良いの?ガジェットの量産とか人造魔導師計画の支援をしてくれたのって、あの人たちだよね?」

セインがそう言っているとスカリエッティの背後からヘルが現れる。

「そうだよセイン。まあでも、あんな脳ミソ共を人って呼ぶのは人間に失礼なんじゃない?」

黒い笑いをしながらそういったヘルにナンバーズ達は少し引いた。
どうやら、ナンバーズ達はヘルのことが苦手らしい。

「…ゼスト様やルーお嬢様は、評議会の発注で復活させたんでしょ?評議会は評議会で、なんか思惑とかがあったんじゃ…」
「レジアスも最高評議会も、希望は一緒さ」
「やつらは地上と次元世界の治安と安全。それさえなんとかできれば、もはやボクらと同じ次元犯罪者まがいのことにすら手を染めたんだ。大層な正義と理想とは釣り合わない傲慢な矛盾だけどね」

ヘルは完全に他人を見下すような言い草である。

「ん〜なんか良くわっかんないな〜」
「っすね〜」

「兎も角、スポンサーである評議会のこと無視してあんなデッかい玩具を呼び出したりしたら、怒られるんじゃないのって私は心配…」

セインの言葉にスカリエッティとヘルは笑いだす。

「ちゃ〜んと怒られないようにしてあるさ。君達は何も気にせずに、楽しく遊んできてくれれば良い。遊び終わったら、我等の新しい家、ゆりかごに帰ろう。そうすれば、世界の全てが、我々の遊び場だ」
「まあもう直ぐ、最高評議会の連中も怒鳴りつける口…いや、そんなことすら考える思考(のうずい)も無くなるだろうけどね…」

スカリエッティとヘルはそう言って通信を切った。

(相変わらずドクターの話はよくわかんね〜。ヘルもなんだか妙に怖いし…)
(そうっすね〜。ま、別に私ら夢や希望がある訳じゃないし。生みの親の言う通りに動くしかないっすけどね〜)

通信終了後、セインとウェンディは念話で会話していた。

(まあね。…あ、そういやさっきの話でわかんないのがもう一個。司祭様をだまくらかして聖王の遺伝子を盗ませた女って………何者?)





*****

其のころ、最高評議会は。

『ジェイルは少々遊び過ぎだな』

評議員。

『レジアスとて、我等にとっては重要な駒だというのに』

書記。

『我等の求めた聖王のゆりかごも、奴は自分の玩具にしようとしている』

評議長。

『止めねばならんな。あの男を含めて』
『だが、ジェイルは貴重な固体だ。消去するにはまだ惜しい。ヘルという男の能力も捨てがたい…』
『しかし、かの人造魔導師計画のゼストは失敗。ルーテシアも成功には至らなかったが、聖王の器は完全なる成功のようだ。そろそろ、良いのではないか?』

暗くて誰も立ち入りそうにない部屋。
そこにあるのは三つの生体ポッド。
その中には生命維持に必要な培養液に浸された人間の脳髄。

『我等が求める。優れた指導者によって統べられる世界。我等がその指導者を選び、その影で我等が世界を導く。そのための生命操作技術、その為のゆりかご』
『旧暦の時代より、世界を見守る為に、我が身を捨てて存えたが、もうさほど長くはもたぬ』
『だが次元の海と管理局は、まだ我等が見守っていかねばならぬ』

最高評議会が会議をしているさいに音声オンリーのモニター通信が開かれ、「失礼します」と女性の声が聞こえてきた。

『ゼストが五体無事であればな。ジェイルの監視役として最適だったんだが…』

すると、先程の声の主である女性が、最高評議会の薄気味悪い部屋を訪れた。

「皆様、ポッドメンテナンスのお時間です」
『あぁ、お前か』
『会議中だ。手早く済ませてくれ』

評議会の言葉に女性は「はい」と返答した。

『あれは武人だ。我等には御せぬよ』
『戦闘機人の追跡情報とルーテシアの安全を引き換えに、辛うじて鎖をつけていただけだ。奴がレジアスにたどり着けば、そこで終わりよ』

すると、女性は生体ポッドのメンテナンスの傍らにこう言った。

「お悩み事の様ですね」
『なに、粗末な厄介事よ』
『お前が、気にかけることでもない』
「はい」
『レジアスや地上本部の者からは何の連絡もないのか?』

評議員は女性に問うた。

「ええ。いまだに、何方からも」
『そうか』
『しばらくは慌ただしくなりそうだ。お前にも苦労をかけるが…』

と評議会は女性を案ずる台詞を言った。

「いいえ。私は望んで、此処にいるのですから」

女性は俯かせていた美しい素顔を上げてそう言った。





*****

アースラの会議室。
浮上したゆりかごと地上に蔓延るガジェットと戦闘機人に対応するべく、六課前線戦力は三グループに分かれることになった。

地上・市街地
フォワード陣

スカリエッティのアジト
フェイト、ディアン

ゆりかご
なのは、ヴィータ、イーヴィル

地上本部
シグナム、リイン

このような形になった。

(全快時の5%…といったところか。だが、これ以上待つ必要はない)

束ねていた魔界電池をバラけさせ、ゼロは何時もの髪型に戻した。
そして、機動六課メンバーは己の決戦の場へと進んでいく。





*****

スカリエッティ・アジト。

「あ、おかえり。ウーノ」
「…はい。トーレとセッテ、セインも戻りました。迎撃準備完了です」

ゆりかごや空から戻ってきた四人の戦闘機人。

「クアットロとディエチはゆりかご内部に、ほかの妹達はそれぞれのミッションポイントと地上本部に向かっています」
「ルーテシアにもお願いをしたよ。上手く動いてもらうとする」

現段階において、スカリエッティ達の戦況は好調だ。

「騎士ゼストも動かれています。予想外の動きをされたら…」
「問題ないさ。現在の任務を完了次第、ドゥーエが地上本部に向かってくれる」

スカリエッティはそう言って、口元を笑わせた。





*****

――ガシャァァァーーーーーン!!――

『な…なぜ?…何故だ!?』

再びここは最高評議会の間。

上記にある効果音。それは生体ポッドのガラスが砕け、評議員と書記が無残な姿になる音だった。

「御老体に無理をされては、良くありませんからね。そろそろお休みを」
『貴様は、ジェイルの…!!』

右手に装着した鉤爪型の固有武装・ピアッシングネイルに付着した培養液を舌で舐めとった女性は、
スカリエッティの造り上げたナンバーズの次女、ドゥーエだったのだ。

彼女のISは偽りの仮面(ライアーズマスク)
簡単にいえば、自らの容姿を偽る変装能力。
かつて聖王教会の司祭を騙して聖王の遺伝子データを盗ませたのも、このISで変装したドゥーエなのだ。

「貴方が見つけ出し、生み出し育てた、異能の天才児。失われた世界の知恵と、限りなき欲望をその身に秘めた、アルハザードの遺児。開発コードネーム、無限の欲望(アンリミテッド・デザイア)…ジェイル・スカリエッティ。彼を生み出し、力を与えてしまった時点で、この運命は決まっていたんです。どんな首輪をつけようと、いかなる檻に閉じ込めようと…扱いきれるはずもない力は、必ず破滅を呼ぶものです」

ドゥーエは管理局の制服姿から、ナンバーズの正装ともいえる青いボディスーツ姿になる。

『バカな…!バカな…!!』
「お休みなさい」



――ガシャァァァーーーン!!――



「…ふ〜、後は地上本部ね」
「『謎』の気配がするな」
「!!?」

評議長を片づけたドゥーエが一息つくと、後ろから突然にも男の声が聞こえてきた。

「深遠で美味なる…『謎』の気配だ」
「貴方…誰なの?」

ドゥーエが振り返ると、
そこには青いスーツに手袋を身に着け、緑色の瞳に逆三角形型の髪飾りを付けた長身の男が、そこに立っていた。

「我が輩の名は、脳噛ネウロ」

『謎』喰い魔人が今、魔法世界(ミッドチルダ)に降臨する。


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次回、仮面ライダーイーヴィル

二人のN/各【それぞれ】

「この『欲望』はもう、私の手中にある…」



魂の共鳴(イビルトランシーバー)
魔界の通信機・電話に該当する魔界能力。
ダイヤルを一回転させることで、お互いの距離に関係なく魔人同士による意思疎通を可能にする。ただし、意思疎通する魔人の顔と名前を知らなければ使用できない。

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