Pの遊戯/呪【にんぎょう】


風都。
この街にはミステリアスと言う言葉がよく似合う。
今回、俺達の事務所に…いや、亜樹子とヴィヴィオの下に舞いこんだのも、
なんとも不可思議事件だった。

「フィリップ。お前宛の郵便だ」

郵便受けに収まっていたフィリップ宛の郵便物。
翔太郎は椅子でで本を読むフィリップに手渡す。

「なんですかそれ?」

すると、隣に座っているリインフォースが興味深そうに郵便物を見てくる。
フィリップは郵便物の入った黒くて大きな封筒を眺める。

「差出人の名前は無し。…興味深いね」

――ブゥゥーー!!――

いきなり雰囲気をぶち壊す音。それは…。

「…あ」

――ブゥーー!!――

亜樹子が鼻水をティッシュでかんでいた音だった。
その隣でヴィヴィオは涙を拭っている。

(うるさいな、さっきから)

ゼロは亜樹子に対して鬱陶しげな表情をしている。

「どうした亜樹子?」
「この本よ!これがサイッコーに泣けるのよー!」
「うんうん!」

どうやら小説を読んで泣いているらしい。

「少女と人形の家。最近文学賞をとり、ベストセラーになった作品さ」
「…私には、何故これを読んで涙が出るのかすらわからん」

魔人であるゼロには人間の繊細極まる心は理解しきれないのだ。

「この主人公の少女が、健気で健気で…」
「涙止まんない…」

そうこうしている間に、フィリップは黒い封筒から
カエルの絵の下にFROG(フロッグ)と書かれた緑色の…。

「ギジメモリ…と、新しいガジェットの設計図だ」
「メモリガジェットの?一体誰が…?」
「…シュラウド…」

リインフォースの疑問にフィリップは照井に力を与えた謎の人物の名前を口にする。

「兎に角、このガジェットを作ってみよう」
「…ああ」
「私も手伝います」
「面白そうだな」

四人は事務所の地下ガレージに入ってしまうと、残されたのは亜樹子とヴィヴィオだけ。

「あーやっぱ良い!泣けるわぁ…!」
「ホントに、感動的…!」
「ねえねえお姉ちゃん達」

聞こえてきた幼い少女の声。
二人が振り返ると、そこには可愛らしい少女が椅子に座っている。

「わー可愛らしい!丁度この小説の主人公みたい…」
「あの…亜樹子ちゃん?」

呆けている亜樹子と違い、ヴィヴィオは少女の出現に、何時も通りな雰囲気に戻っている。

「え?…お嬢ちゃん、誰?」
「リコ!」

元気良くリコと名乗った少女。

「リコ、ちゃん?」
「どっから来たの?ひょっとして、お家間違えちゃったかな?」

二人が近づいて尋ねると、

「ねえねえお姉ちゃん達」

リコはいつの間にか二人の横方向に居る。

「人形の声を聞いて!」
「人形?」
「…どこにあるの?」

二人はそう聞くも、リコは今度は別の椅子に座っている。

「違うの違うの!」
「い、いつの間に!?」

リコの神出鬼没さにヴィヴィオが驚いてる間にも、

「ねえ聞いて聞いて!ねえ聞いてよ!」

リコは二人の背後で走りまわる。

「お、落ち付いて!落ち着いて」

亜樹子がそう言ってると、リコは床に寝っ転がり状態。

「だ、誰かがリコちゃんの人形を盗んじゃったのかな?」
「…ってまた!?」

リコは二人の背後に立っていた。
さらには手に一枚の紙切れがある。

それを受け取って見てみると…。

そこにはひらがなで二つの住所が書いてあった。

「ここに人形があるの?」
「………」

亜樹子は尋ねるも、なぜかヴィヴィオは黙っている。

「お姉ちゃん達、人形の声を聞いて」
「うーん…」

亜樹子が悩んでいると、

「亜樹子。ピンセットどこだっけ?」
「あ、翔太郎君。この子のこと知ってる?」

亜樹子はリコのことを翔太郎に尋ねるが、

「この子って、どの子?」
「どの子って、この子!」

亜樹子が指さした方向にはリコはおらず、指先は空虚なものを指し示すのみだ。

「何言ってんだお前?」
「脳髄にウジでも沸いたんじゃないか?」

首を傾げる翔太郎と嫌味を口にするゼロ。





*****

街中に出た二人は、書かれている住所先に来ていた。

「………」
「どうしたの?」

さっきから暗いヴィヴィオに亜樹子が問う。

「メモの上に書かれてる住所…これ私の家だよ」
「え…えぇぇぇ!!」

そうして、無限一家の住んでいる高級高層マンションの最上階の一室。

「うわ−、ヴィヴィオちゃんってこんなマンションに住んでるんだ…」
「まあ、一応…」

言えない。この部屋が凄まじいの殺人現場になっていたなんて、到底いえるわけない。
まあ、だからこそ家賃三万円で住めるのだが…。

「ただいま」
「あら。お帰りなさい」

ドアを開けたヴィヴィオを御霊が迎える。

「あの、この猫耳メイドさんは?」
「あ…私は左前御霊です。色々と複雑な事情あって、この家に身を置いてるんです」

正確にいえば、置かされていると言うべきであろう。

「御霊さん。ある女の子の人形を探してるんだけど、何か知らない?」
「人形なら、皆が探偵事務所に出かけた直後に届きましたね。居間の方に置いたんだけど…」

二人は居間に行くと、テーブルの上には赤い箱に入った人形があった。

「あー、あったー」
「でも、なんで家に?」

ヴィヴィオは疑問に思っていた。

「人形と言えば、”少女と人形の家”って作品、私はあんまり共感できなかったな」

掃除の合い間に御霊はそういった。

「で、でも親の愛情ってものが感じられた気がするんですけど…」
「確かに親と子の間には深い絆がありますけど…私はちょっと、理解できないから…」
「はぁぁぁ…ってあれ?落ちた?」

箱の中に人形がいないことに気づいた亜樹子。

「ない。おかしいな」
「どこにいっちゃんたんだろう?」

二人が部屋の中を探していると、

「うわああああああ!!」

御霊の悲鳴に二人は、声のした方向に向かうと、

「「アァぁぁぁッ!!?」」

そこには御霊の身体に、怖ろしい形相に変化した人形がとりついている。

そんなオカルト極まる光景だった。

「人形が動いてる!?」
「そんなバカな!?」

二人は怯えながらも勇気を出して人形を御霊から引きはがすも、人形は二人の顔にビンタをしたり、耳に噛みついたり、脛を蹴ったりする。

二人がそれに痛がってる間に、人形は御霊に勢いの乗った蹴りを御霊の腰にヒットさせる。

「痛ッ!!」

撃痛によって否が応でも身体を横にせざるを得ない御霊。
二人が御霊のほうに視線を向け、再び人形のほうに振り向くと、人形は赤い箱の中で穏やかな普通の人形に戻っていた。





*****

「だから!人形がやったの!」
「あのねー、兎に角落ち着きなさい。本当のことを放してくんねえかな?」
「嘘じゃありません!実際この目で見たんですよ!」

風都署の超常犯罪捜査課の照井は勿論、その部下の刃野刑事と真倉刑事が御霊の悲鳴を聞いた通報したことでやってきた。

――ガチャ――

「何の騒ぎだ?」
「刃さん、亜樹子がなにかしたんすか?」

そこへゼロと翔太郎が来た。

「ズバリ傷害容疑だ!おい、なんでこんな猫耳メイド美女に乱暴なことをしたんだ?積る恨みでもあったのか?」

ヴィヴィオは御霊の身内みたいな存在なので、結果的に亜樹子が疑われている。

「だから!人形がやったんだってば!これは、呪いの人形よ!…ほれ、もう一ぺん動いて見れ。動けぇー!…あ、でも呪わないでね♪」
「亜樹子ちゃん…最後のところ寒いよ」

最後の台詞は明らかにブリッ子した感じだったので、ヴィヴィオにまで呆れられる。

「おい。この人形は誰が送ってきた?」
「それが差出人不明で」

照井は御霊にそう聞き、御霊も答える。

「ねえ、翔太郎君は信じてくれるよね!?」
「ハッハハ。流石に呪いの人形はねえだろ?イイ歳こいて人形遊びか?付き合ってらんないよなぁ…な?」

翔太郎は亜樹子の話にまるで聞く耳を持たない。

「…『欲望』の気配…」

しかしゼロは人形から伝わる食糧へのカギを感じ取っていた。

「こうなったら、私自身の手で身の潔白を!あ、そういえば、メモにもう一つ住所…アァー!!」

いきなり亜樹子はどこぞの方向を指さして叫び、皆の注意をそらすと…。

「行くよヴィヴィオちゃん!」
「う、うん」

ヴィヴィオと一緒に外に出て行ってしまう。

「おい、止まれ!止まらないと撃つぞ!」
「おいマッキー、そうかっかするなって」
「それ以前に指鉄砲でなにができる」
「お前も公務執行妨害で逮捕するぞ、ヘボ探偵。…あんたも娘にどんな教育してんだ?」
「うるさい、鈍刀め」

――ピン♪…ドガッ!――

「「「「…………」」」」

四人は声が出なかった。
それもそうだ、ゼロのデコピン一発で、真倉が吹っ飛ばされて壁に激突したのだから。

「さて…誰がなんだって?よく聞こえなかったな…もう一度逝ってくれ」
「字が違う!っていうかそんなことしたらホントに逮捕「できるかな?デコピン一発で人が吹き飛びましたなんて世間が信用するかな?」

この後、散々なまでにゼロは真倉の人間としての尊厳全てを打ち砕き、それ以降真倉はゼロのことを一生忘れないトラウマとして覚えこまされる羽目と化した。

そんな中照井は、箱の中から人形が姿を消していることに気がついた。





*****

「あ…ここだ」

二つ目の住所。
そこにたどり着いた矢先、園家のあるじは車に乗ってドライブに向かおうとしている。

二人は無論話しかけるも、何故か車の動きは凄まじく悪くなり、遂には壁に衝突してしまう。

「大丈夫ですか!?」
「今助けますからね!」

二人が車のドアを開けると、例の人形がいた。

当然驚くも、二人はすぐさま人形を捕まえてゴミ置き場に放り投げる。

「助けてくれーーー!!」

運転手は血相をかいて逃げだす。

人形は邪魔した二人に襲いかかろうとするも、ヴィヴィオが蹴り飛ばして再びゴミ置き場。
でも人形はめげずにゴミ袋を二人に投げてくる。

ヴィヴィオは少々鬱陶しそうな表情でシールドを張っているだけだったが、亜樹子はゴミ袋を投げ返している。そんな不毛な争いの中、

――ブゥゥゥーーーン!!――

バイクのエンジン音が聞こえてくる。
ダークブロンズのバイクと赤いバイクは人形を跳ね飛ばした。

「所長、大丈夫か?」
「ヴィヴィオ、怪我はないな?」
「「うん」」

バイクに乗って現れたのはゼロと照井だった。

人形は逃げていき、それを追いかけていくと、廃棄車(スクラップカー)が多く置いてある場所にまで来た。

「どこに行った?」
「まだ遠くへと行ってない筈だ」

ゼロの言葉通り、人形は廃棄車を影にしてあちこちにちょこまかと動き回る。
そうしていると、車のクラクションまで聞こえてきた。

その方向を見てみると、そこにはまだ使える車に乗り込んだ人形。

「ここは私に任せろ」

ゼロはヴィヴィオ達を下がらせる。

人形はギアをチェンジすると鉄パイプでアクセルを押した。
前進する車。普通なら逃げるところだが、ゼロは片手で車を止める。
さらには両手で持ち上げて、投げ飛ばした。

だが、人形はいまだ健在で、車のパーツを飛ばして攻撃してくる。

さらに今度は車のボンネットからチューブを取り出して水を拡散発射させる。
しかし、そんなもので怯むゼロではなく、迷うことなく歩いて人形に近づくも、人形はチューブをゼロの足に巻きつける。

そして、その状態でゼロの股を潜る。ゼロは人形の考えをよんだのか、足を上げてチューブを引きちぎる。

人形はそれに気付いて、周りのスクラップをゼロめがけて投げる。

「やめなさいよ!この化物人形!」

亜樹子がそう叫ぶと、人形は可愛らしい姿で振り返る。

「あれ?」

其の時ヴィヴィオは、人形から幼い少女の声が聞こえた気がした。

「おいたの時間は終わりだ」

ゼロは指先にほんの僅かな魔力を衝撃波に変換して飛ばすと、人形は紙の様にスクラップの山に吹っ飛ばされてしまう。

「…逃げられたか。まあ良い」
「パパ。私達のこと、信じてきてくれたの?」
「それもあるが、なにより『欲望』の匂いがしたものでな」
「それに今回とよく似た事件が二件発生していた」

ゼロと照井はここにきた理由を短絡的に話す。

「いずれも密室。部屋には全く同じ空き箱が残されていた」
「つまり、その箱の中に呪いの人形が?」
「あぁ。…だが呪いの人形なんかじゃない。きっと、ドーパントだ」
「ドーパント!?あんな小っちゃな?」





*****

井坂内科医院。

「ドーパントの肉体は、受け手次第で美しくも醜くもなる。冴子君、その点君の身体はとても美しい」

井坂は相変わらずタブーを研究対象のように見ているような気がしてならない。
もしメモリを三本同時に宿したイーヴィル…いや、そもそも受け手である魔人(ゼロ)と出くわしたら狂喜乱舞するに違いない。

「ただ…」
『ただ?』
「今日は完璧ではない。ひょっとして、なにか不満なことがあるのでは?」

井坂の予想は的中していた。

『相変わらず人の心を見透かすのが、お上手ね』

タブーは変身を解く。

「妹よ。いつまでも好き勝手に生きていて…自分の使命に気づかずにいる」
「使命ですか?」
「えぇ。私の為に戦うのがあの子の使命。…ねえ?…若菜を治療して下さらない?完璧なドーパントに」

血を分けた妹を手駒としてしか見ていないのが窺い知れる。

「…良いですよ。君の頼みなら」

そう言うと井坂は短く舌舐めずりした。





*****

探偵事務所・地下ガレージ。

シュラウドから送られた設計図を元に、フィリップとリインフォースはせっせと新メモリガジェット・フロッグポッドの製作に取り掛かっていた。

そこへゼロ・照井・亜樹子・ヴィヴィオがきた。

「フィリップ…検索だ」
「残念ながら、今はご覧のとおり忙しい」
「所長命令よ。竜君に協力してあげなさい」
「亜樹子、なに照井に肩入れしてるんだよ」

亜樹子は照井の腕にしがみ付いている。

「つーか何さっきからベタベタしてんだ?」
「だって竜君達はとーっても頼りになるんだもん♪どっかの誰かさんと違って…!」

明るい口調から一転してきつい口調。

「あーそうかよ」

翔太郎は亜樹子の口調に開き直ったかのような態度である。

「…フィリップ、後は一人でも大丈夫ですか?」
「問題ないよ」

リインフォースは着実に作業を進めるフィリップにそう聞いた。

「それでは、私が検索します」

するとリインフォースは精神を次元書庫に集中させる。

「え?君も僕と同じ力を?」

これには流石にフィリップは勿論、翔太郎・照井・亜樹子が驚いた。

『検策開始。調査する項目は”不可解な連続密室事件の犯人”。ファーストキーワードは…?』
「人形だ」

ゼロがそう言うと、情報がある程度絞られていく。

『他のキーワードは?』
「襲われた人間。…雑誌編集長・稲田ツツム…、SF小説家・橋本トマリ…、コラボニスト・多摩センタ」
「そして、御霊か」

次々と被害者の名前を言っていく、

『絞り込めました。被害に遭った者達の共通点…最近彼らに作品を酷評された小説家が一人いる』
「そいつの名は?」
『堀之内 慶鷹』

「え?それって、この小説の作者だよ」

亜樹子は”少女と人形の家”を取り出して、著者紹介の部分を見せる。

「こいつか…。愛する娘、リカコ…か」
「「リカコ……ッ!!」」

ヴィヴィオと亜樹子はリコのことを思い出す。

「あぁ!その写真の子!今朝私達に人形を取り返してって頼みに来た子だわ!」
「人形ドーパントの正体はその少女かもしれないな」
「成るほど、人形サイズのドーパントという仮説にも、納得がいく」

「そんな!あんな小さな子がガイアメモリを使うなんてありえない!」
「使ったのは堀之内だ」

亜樹子が否定すると、竜がメモリの起動者の名を上げる。

「つまり…父親が自分の娘にメモリを使ったってことか」
「そんな…。だとしたら一刻も早くリコちゃんを助けないと!」
「良し。行くぞ亜樹子」

翔太郎はやる気になるも、亜樹子は翔太郎を突き飛ばした。

「人形遊ぶにはつきあってられないんでしょ?私は皆と捜査するから」
「亜樹子、テメー…!」





*****

書店で行われている堀之内のサイン会。

「そういえば、御霊さん、私と一緒にここへ来た時、小説の悪口をコッソリ叩いてたっけ」
「それが襲われた原因だな」

ゼロとヴィヴィオは御霊がそう言ってると、照井は堂々と堀之内のほうへ向かっていく。

「自分の娘をモデルに、よくこんな安っぽいお涙頂戴の話が書けるもんだ」
「なんですか?いきなり…」

当然顔も知らない人間にこんなこと言われて堀之内は困惑する。

「娘のこと、愛していないんだろ?」

決定的な台詞。

「どちら様ですか?」

亜樹子が照井の近くに来ると、竜は警察手帳を見せた。

「刑事さんですか」
「お前の小説を貶すと、命令された娘が命を狙いに来る。という怖い噂もありますね」

他の客達は照井の話にざわつき始める。

「いやー、貴重なご意見のお礼に…改めて私の作品を御贈りしますよ」
「…楽しみに待ってます」
「失礼しました」

照井と亜樹子は無愛想にその場を去った。

それを眺めていたゼロは、

「成程、そういう作戦か」





*****

「今のどういうこと?」
「餌をまいた。俺が奴に行ったのは、襲われた四人が言ったのと同じ台詞。必ずリアクションがあるはずだ」
「成程、わざと相手を怒らせて。流石竜君」

其の時、

「お姉ちゃん達、人形の声を聞いて」
「「リコちゃん!」」

そこにはリコがいた。

当然亜樹子とヴィヴィオはリコに駆け寄る。

「良かったぁ無事で!」
「御父さんに言われてドーパントになったんだよね?」

二人はリコの”人形の声を聞いて”という台詞を遮るように語りかけ、リコの手を握って風都署に行くようにする。

「ヴィヴィオ、鳴海…なにやってる?」
「リコちゃんがいたの」
「どこにいるんだ?」

ゼロがそう問いかけると、リコはいつの間にか居なくなっていた。

「あ?え?…これって?」





*****

井坂内科医院。

「若菜君。君を完璧な存在にするために診察します」

暗い部屋の中、若菜の右目にライトの光を当て、時計のスイッチを入れると同時に語りかける井坂。
若菜は怯えた表情をしている。

「…診察って「君はガイアメモリを使いたくないと思ってますね?」

若菜の言葉の途中に井坂は質問で遮った。

「…なんでそれを?」
「私にドライバーを預けてください。宜しいですね?」
「………はい」

若菜が了承した時、時計の針は”51秒”を指示していた。





*****

風都署・超常犯罪捜査課。

そこで翔太郎は刃野と一緒にこぶ茶を飲んでいる。

「照井の奴、亜樹子とベッタリでさぁ…そのくせ、俺に質問するな…とかカッコつけちゃってよぉ。まさか、あんな軽い男だとは思わなかったぜ。あーみっともねぇ」

刃野相手に愚痴をこぼす。

「俺に言わせりゃぁな翔太郎。ここで俺とこぶ茶すすってる、お前も相当みっともねえぜ。わかりやすいんだよ。本当は自分が、亜樹子所長にベッタリと頼られてたいんだろ?世間ではそう言うのをな、ジェラシーっていうんだよ」

「なにいってんすか」

などと議論していると、真倉が大きな赤い箱を抱えて部屋に入って来た。

「探偵、また油売ってたのか?」

などと言った嫌味つきで。

「この箱…」
「部屋の前に置いてあったんだよ」

翔太郎は箱の中に例の人形が入っていることを確認すると、

「離れろ!こいつはドーパントだぞ!」
「バーカ。こんな小っこいドーパントがいるかよ」

真倉は翔太郎の言葉に耳を貸さず、人形を抱きかかえた。
赤ん坊をあやすような口調で人形に話しかけていると、

「うおおおおおおォォォォォォ!!」

人形は恐ろしい形相になっていた。

「アンビリーバボー」

刃野は目の前の光景に思わずそう言った。

人形はそのミニサイズな体躯を活かしたすばしっこさで刃野と真倉を圧倒今にグロッキーにした。

「やはり餌にかかったな」
「わかりやすいな」

ゼロと照井が現れ、人形は二人に襲いかかろうとするが、

その瞬間にスタンバっていた亜樹子が段ボール箱のなかに人形を閉じ込める。

「竜君、やった!」
「よくやった、所長」

翔太郎が亜樹子のほうに視線を向けると、亜樹子は”フンッ!”といって別方向に顔を向ける。
すると、人形の物と思われるナイフが段ボールを貫通する。

「逃がすか」

【ACCEL】

「変ッ…身ッ!」

照井がアクセルに変身すると、人形は段ボール箱を突き破って外へ逃げて行き、アクセルもそれを追う。

(リインフォース)
(あの、もうちょっと待ってもらって(却下)……わかりました)

フロッグポッドの製作途中だったのか、念話でリインフォースは変身猶予の時間を願うも、ゼロはあっさりとそれを切り捨て、リインフォースも仕方なく了承する。

翔太郎とフィリップも同じようなもんだ。

【MAGICAL】
【CYCLONE】
【LEADER】
【JOKER】

「「変身…ッ!」」
「「変身!」」

【MAGICAL/LEADER】
【CYCLONE/JOKER】

一方アクセルは人形を追っていたが、人形は相も変わらず俊敏な動きでアクセルを翻弄し、頭部に取りついて仮面を叩いたり胸部装甲を蹴ったりしている。

【ENGINE】
【ELECTRIC】

エンジンブレードに電気エネルギーを纏わせ、刀身を人形に接触させると、人形は感電したようにアクセルから離れた。

「さあ、観念しな」
「出所をしっかりと調べないとな」

そこへWとイーヴィルも現れる。

Wはいつも通り格闘戦を仕掛けるも、人形はWの攻撃を避けたり受け止めたりジャンプしたりする。

「これで決めるぜ」

【TRIGGER】
【CYCLONE/TRIGGER】

サイクロントリガーにハーフチェンジしてトリガーマグナムを構えるも、人形は空中からキックをお見舞いする。

「なに!?」

ちゃっかりトリガーマグナムを(パク)っている。
引き金を引いて風の弾丸を連射する人形。

「止めてリコちゃん!」
「そんなことする必要ないよ!」

亜樹子とヴィヴィオが叫ぶと、人形は振り向いて可愛らしい姿になる。

「え…また…」

Wはその隙にトリガーマグナムを奪い返すと、

【JET】

【BLASTER】
【MAGICAL/BLASTER】

アクセルの衝撃波とイーヴィルのブラスターキャノンが一緒になって人形を狙い打つが、人形は再びジャンプして物影に隠れる。

『翔太郎。スパイダーショックを』

フィリップが促すと、翔太郎はスパイダーショックを放った。
すると向こうから何やら物音が聞こえて来たかと思うと、スパイダーショックはそこらへんにいた虫と一緒にでてきた。無論ワイヤーに絡みとられた人形も一緒だ。

「良くやった」

Wはスパイダーショックを褒める。

だがそれも束の間。人形はナイフを取り出してワイヤーを切り裂く。

「逃がすか!」

Wがトリガーマグナムの銃口を向けると、アクセルがそれを制止する。

「…俺がやる」

【ACCEL・MAXIMUM DRIVE】

アクセルはドライバーのマキシマムクラッチレバーを引くと、パワースロットルを何度も捻ってメモリの力を増幅させていく。それによって身体からは紅炎が燃え上がる。

「竜君!待って!!」
「安心しろ。メモリブレイクだ…!」

そういうとアクセルは助走をつけての後ろ跳び回し蹴りを叩きこむ”アクセルグランツァー”を決めて人形を吹っ飛ばした。

「「リコちゃん!!」」

亜樹子とヴィヴィオは人形に駆け寄る。

『…メモリが排出されない。それは堀之内の娘じゃない、ただの人形だ』
『となると…やはり犯人は人形型ドーパントではなく、人形を遠隔操作するドーパント』

フィリップとリインフォースが右複眼を点滅させたそう述べた。

その瞬間、人形から幾つもの糸が物陰から伸びているのが視認できるようになった。

「ようやくだな」

【TRICK/BLASTER】
【LUNA/TRIGGER】

二人のライダーはハーフチェンジして共に銃撃を行うと、物陰からはこの事件の真犯人ことパペーティア・ドーパントが姿を現す。

「は〜、こいつが人形使いか」

再び銃口を向けると、

『待て!もう止めてくれ!』

パペーティアはそういってメモリを体内から取り出すと、正体である堀之内としての姿を現す。

亜樹子とヴィヴィオは一旦パペーティアから伸びていた糸が消えたのを見て、

「良かったぁ。リコちゃんがドーパントじゃなくて…」
「本当に良かった」

二人はそう言って人形を抱きしめると、

「お姉ちゃん達」
「「ッ!?」」

「お姉ちゃん達」
「この声は!?」
「人形の声を聞いて」

人形から聞こえてくる其の声はそれも紛れもなく、リコの声だった。

次回、仮面ライダーイーヴィル

Pの遊戯/走【ラン】

「この『欲望』はもう、私の手中にある…」

これで決まりだ!


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