仮面ライダーブライ!
前回の三つの出来事!
一つ!土門と吹雪の二人が第一の刺客を突破!
二つ!十神衆の音遠が幻獣郎を葬り、紅麗への揺ぎ無い愛情を告白する!
そして三つ!ブライと烈火は、ウェポンドームで神威を撃退した!
金女と牙石王と年長美女
ここはピラミッドらしき建物の周辺の林の中。
ブライ&烈火VS神威が勃発している頃、一人の忍者はある悲鳴を聞いた。
「きゃあああぁぁぁあああ!!!」
「おや?」
悲鳴を聞きつけた彼女は林の中にいる者の素性を確かめるべく、そこへ向った。
もっともこの場所に居る時点で一般人ではないという確信もあったが。
「風神・・・!鎌鼬!!」
――ビュウウゥゥウウウゥゥゥン!!――
そこへ現れた一人の少女が、右手につけた奇妙な魔導具から空気の刃を放って、悲鳴を上げた人物を助けた。
「不失――それが風神の本来の力ですか。もし予備玉と核が一緒だったら台風も楽に引き起こせたでしょうね」
「誰よ!?」
風神の少女、霧沢風子は近づいてきた女忍者に警戒する。
女忍者は風子が破壊したロボットの残骸たちに目をやりながら答える。
「不恐――怖がることはありません。私はシルフィード会長の依頼によってあなた方の補助に参りました」
「え・・・?じゃあ、あんたが最後の一人?」
「はい。鋼金女と申します」
「は、鋼って・・・まさか・・・!?」
「あのー・・・・・・」
二人の会話に割り込んだのは、先ほど助けられた人物。
「助けてくれてありがとう・・・」
長い黒髪で眼鏡をかけた気の弱そうな少女だった。
あの場所に長居する用もないので、三人はピラミッドの中へと入っていった。
中に入り、奥へと進む階段通路を歩んでいく。
「私は実験用モルモットと呼ばれてました。周りに見えたのは沢山のカプセルとその中に入った沢山の人間・・・生まれたばかりの子供も・・・老人も・・・男も・・・女も・・・外国人もいました」
少女は語りだす。
「一日ごとにその人間達はヒトでなくなっていった・・・今日は私じゃなかった・・・明日かも・・・その次の日?と毎日カプセルの中で怯えていた」
(なるほど、ここまでは嘘を言ってないようで。もっとも、一部分を除外して・・・)
金女は忍者として少女の言葉の虚実を区別する。
「ある日、一つのカプセルから怪物になった人が暴走したの。他のカプセルを壊して・・・室内を破壊して回って、最後は処分されてしまった。運良くカプセルが壊れた私は隙を見て外に逃げたわ。でも外で警備ロボットに見つかって・・・」
少女は言葉を区切ると、
「ありがとう!!あなたは命の恩人よ!!あのままだったらきっと私・・・・・・」
と風子の手を握って感謝する。
・・・・・・と思ったら今度はいきなり柱に隠れた。
「貴女達・・・何者?」
「火影くの一、霧沢風子!ここの悪い奴ブッ潰しにきたの」
「私は相生の鋼金女。とある会長の依頼でアホ共を斬り捨てにきました」
「・・・・・・警察の人?」
「「どこが?」」
この少女、意外と天然だ。
そうして歩いていると、何時しか広い一室にたどり着いていた。
もっともその部屋の中央には象形文字が書かれた石棺が置かれていているのだが。
すると金女が前にでてこういった。
「言っておきますが、この場に敵が不出なんてのは皆無でしょうが、それでも構いませんね霧沢さん?」
「私はいいけどさ・・・・・・ねぇあんたやっぱり外にいたら?」
「やだ・・・一人は怖い」
風子は少女に進言するも、少女は怯えながら拒否する。
「でしたら精々足手纏いにはならないでくださいね」
金女は忍装束から八つの苦無を取り出し、指の間の挟んで投げつけた。
ヒュンヒュン!という風を切る音を立てながら進む苦無らは石棺に命中し、刃先が刺さった。
そして、その苦無にはある物が仕込まれていた。
少し細めな糸に火が一気に導火線を伝って爆走していき、
――ドガァァアアアァァァン!!――
八つの苦無は爆発し、石棺を吹っ飛ばしてしまった。
「さて、起きてくださいな」
金女は家族を起床させるような風に言った。
石棺の中には何かが入っていた。
そしてそれは一気に態勢を変えて立ち上がったのだ。
全身を紙の包帯で巻きつくしたその姿は正しくミイラ男。
「火影の霧沢風子に・・・・・・あとは、誰だお前?」
ミイラ男はゆっくりと訊いた。
「いやぁぁあああ!!なにこの人!?」
「外出ろといっただろうが!!」
モロに怖がる少女に風子が怒鳴っていると、
――シュルッ――
ミイラ男は包帯を伸ばした。
「危ない」
――パシュ――
それを金女が敢て受け止め、腕に包帯を巻きつけられた。
「こ、この技・・・!」
風子は自分の身代わりになってくれた金女に内心感謝しながら、敵の能力をつかんだ。
ミイラ男は自供するように舌をだして口内にあるものをだした。
「やっぱり、最澄とおなじ式紙!陽炎が魔導具一つだけでもあれば、量産されたものもあるって言ってたけど・・・・・・」
「ほう・・・俺のほかにもこの魔導具の使い手がいたか」
ミイラ男は何時の間にか紙の包帯に油を染み込ませている。
最初から仕込んでいたとしか思えないような染み具合だ。
「ならそいつは、こんな使い方をしてたか?」
ミイラ男はライターの火を包帯に近づけて、
――ボォォォン!!――
着火した。従ってその先にある、金女の体に巻きついた包帯にも火が行き届く。
しかしミイラ男のほうは安全策があるのか被害無しだ。
「俺の名は搦!死四天・門都様の配下、式紙使い!」
「かっ・・・金女さん!!」
「大丈夫だよ、きっと」
慌てる少女に対して風子は冷静だった。
「変身」
――パカッ――
その瞬間、金女は全身に装甲を纏って変身していた。
忍者ライダー・チェリオへと!
「ッッ!?・・・え、え・・・えぇぇええ!?」
「あいつの妹っていうから、想像はしてたけど、これは・・・!」
「な、何者なんだ貴様!?」
三者三様の反応。
――チャキッ――
チェリオは気にも留めずに両サイドバックルに提げている二振りの忍者刀・忍刀『鎖』を抜刀する。
「不忍」
そして戦いが開始された。
「破ッッ!!」
チェリオは忍刀を巧みに振るい、搦を圧倒する。
「くッ・・・!」
チェリオの実力が自分を上回っていることを剣戟だけで悟った搦は少し悔しげな声を出す。
「相生剣法だけで渡り合える所からすると、貴方が番人であるこの場所にはCDデータはダミーですかね」
「ふん・・・言っておくがお前らはもう逃げられないぞ。調子に乗りすぎたんだ!」
「負け惜しみですか?」
「それもあるが一応聞いとけ。我が君主の門都様は既に動かれている。死四天も全員動くことになるだろう」
搦は自分の敗北を背負った上で語る。
「それは確か、ここの最上級幹部でしたね」
「そうだ。門都様に、葵、綺理斗、蛭湖の四人さ。今現在の裏麗を統括する四人の首領!戦闘能力は桁外れだ!」
(まるで真庭忍軍の変形版ですね・・・・・・)
チェリオは些かここの組織制になんともいえない感情をいだく。
「その中で最も私が恐ろしいと思うお方こそ門都様!まぁ・・・・・・他の連中は会ったことも無いから、良く知らんが・・・・・・例えお前らの力と言えども勝てるかどうかの力量だ。だから、私は慈悲深――バシッ!!――いぃ!!?」
喋ってる途中の搦の首筋に、チェリオが突然背後に回りこんでチョップをかましていた。
「不面白――話が長い上にメンドさいので背弄拳でキメちゃいましたが、もう少し聞くべきだったのでしょうか・・・?――まぁでも、これだけはいえますね」
チェリオは倒れる搦にこう宣言する。
「今も未来も、『師匠』以上に大きな背中はありません」
胸を張ってそう口にした瞬間、
「キャアアアァァァアア!!」
「こいつ、ヤミー!?」
『カナカナカナカナ』
昆虫系ヤミーの一種、ヒグラシヤミーが現れる。
「おや、こんなトコにヤミーが出張ってくるとは、あながち外れではありませんでしたね」
チェリオはそう言いながら忍刀『鎖』を握りなおす。
――ジャキッ!――
さらに半円形の鍔を一回転させる。
「お二方、ちょっと避けてくださいね」
「「え?」」
次の瞬間、
――ジャリリリリリリリリ!!――
忍刀『鎖』の刀身は一気に伸び、名前通り鎖のような軌道を描き、連結刃というもう一つの姿で攻撃し、ヒグラシヤミーの身をそいでセルメダルを落させた。
『か、カ・・・カァァナカナカナカナカナカナァァ!!』
ヒグラシヤミーは昆虫系の人サイズにしては珍しく知能が低いのか、ただただ鳴き喚く。
その際にヒグラシヤミーの口から放たれた怪音波で壁や天井の一部が破壊されてもチェリオは全然気にしない。
「次で仕上げです」
チェリオはそういうと、二本忍刀を合体させて一本の両刃大剣とした。
そうすることで出来上がった硬貨投入口に6枚のセルメダルを投入した。
――シュリ・・・!――
忍刀『鎖』の鍔を刀身にまで持っていって研磨するようにして刃先まで持って行き、そして一気に下ろしていった。
≪CELL BURST≫
発動するセルバースト。
チェリオは柄を両手で握って構えると、
「忍刀両断・・・・・・!!」
――ザシュ!!――
『カァァナァァアアア!!』
ヒグラシヤミーはその斬撃によって爆発して数十枚のセルメダルへと還元された。
≪ANTOU・KAMA≫
「回収回収っと」
チェリオは忍刀を鞘に納めると、暗刀『鎌』を装備してセルメダルを回収。
持ってきていた大型アタッシュケースに詰めた。
「ん〜〜、次の戦いで一気に消費しないとそろそろ溢れそうですね」
とか言いながらケースを閉じて変身を解いた。
「では二人共、先を急ぎましょう」
覆面で隠されたせいもあって表情は今一読み取れないが、多分金女は真顔でその台詞を言ったのだろう。そしてアタッシュケースを手に先へズカズカと進んでいく。
「(こりゃスゴイ援軍がきたもんだ)」
「あ、あの・・・」
風子が金女の実力に高評価をしていると、少女がごにょごにょと話しかけてくる。
「一緒に行かなくていいんですか?」
「あ、ヤベッ・・・!」
指摘されて慌て気味に金女を追いかける風子の姿に、少女はクスクスと歳相応の笑顔で微笑んだ。
*****
一方で、小金井と組んで行動していたバットはある男の大規模な攻撃を受けかけた。
弟が死ぬ要因である火影と、そして復讐を邪魔した者に全ての憎悪を向ける一人の男。
男の名は―――牙王!
彼の攻撃によって、二人が目指していたバイオノイドドームは粉砕され、小金井とバットは瓦礫の下敷き状態にされた。
「よいしょっと!」
「あ、危なかったぁ」
もっとも、とっとと瓦礫をどけて立ち上がっているが。
「へ・・・・・・へへへへ・・・生きてる・・・・・・生きてやがる!いいぜぇ!!」
――バゴッッ!!――
二人の眼前には牙王がいて、口には革製のマスクをした状態で居た。
さらには素手の握力だけで石を砕くなんてことをしている。
「テメェェェらぁぁぁぁぁ!!答えてもらうぜ!!」
牙王は一気に距離をつめて二人の体を手にした長い棒で叩き殴ろうとする。
「土門と我刀流はどこだァァァァ!!」
攻撃こそはかわされているが、その威力はかなり激しく、岩や瓦礫を容易に叩き割っていく。
「お黙りなさい」
――バギッ!――
「ぐぼぁ!?」
バットの拳が腹に決まった。
軽く吹っ飛ぶ牙王の体。それと同時に懐から零れ落ちていくものがあった。
「チョコを大量常備・・・・・・そして予備と思われる魔導具・石棍。貴方が牙王ですか」
「あぁ・・・そうだよ。我刀流に敗北したあの日以来、俺は一口もチョコを喰っていない。ビターやミルク味やストリベリーにホワイトといった大量のチョコを前にした状態でそれを敢て喰わねぇ!自らを封印する事で攻撃性と残虐性を極限まで高めようと思ってなァ!!」
牙王は地面に転がるチョコを見ることなく説明しだす。
「そしてあの野郎どもを殺した時こそ・・・俺は好きなだけチョコを喰えるというルールを自分に課した!心理的にいう報酬効果ってやつだ!餓える・・・餓えるぜぇぇ・・・!」
牙王は嫌な汗をかいた顔でそこまでいうと、
「人間は何かをしてぇから頑張れんのさァァ!!」
思い切り心の内のマグマを解放した。
それと同時に地面から岩の腕が形成されて二人に襲い掛かろうとする。
が、
――バギン!!――
岩の腕は砕かれた。
「参之型”極”――大鋏」
それは、鋼金暗器を一瞬で変型させた小金井によるものだった。
「お前は一生土門兄ちゃんと鋼兄ちゃんに会えない。ここで負けるんだ」
「・・・・・・カチンときたぜ。ムカつく・・・火影って奴らはみんなこうなのか?」
牙王は小金井の余裕振りが気に入らないようだ。
「知らしめてやるぜアホどもォ!餓えた体・・・餓えた心・・・!極限まで追い詰められた人間の底力をなぁ!!」
――ガギガギガギガギガギガギガギガギガギガギ!!!!――
大地は牙王の意のままに動き、全ての力を一点集中すべく、一つの巨大な塊を生み出す。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!――
そして集められた石と岩は、その姿を現す。
一言でいうなら、それは――――
岩の巨人だった。
それもビルに匹敵しそうなほどの巨大さだ。
「喰いてぇ・・・・・・」
牙王はその巨人の体を昇っていき、あっと言う間に頭の上にまできた。
「腹の皮が破れるくらい・・・体中の血が砂糖みてぇに甘くなるくらい・・・チョコが喰いてぇぇ!!」
そして石棍を両手で持ち、
「ぉぶぉぉぉおおおおおお!!!」
あらん限りの雄叫びを上げて石棍を巨人の頭上に突き立てた。
「で・・・デッケー・・・・・・」
「規格外ですね」
驚く小金井と冷静なバット。
「岩の大巨人”牙石王”!!俺様が石棍の能力を最大限まで引き出して編み出した最終奥義!!」
牙王は上からこちらを見下ろしている。
「精神状態を平常化させる為のチョコレートをあえて断つ事で、怒りを・・・殺意を・・・狂気を極限まで膨らませた!結果、今までは腕を造る程度の力がここまで強くなった!全ては弟の仇、土門を殺し、それを邪魔した我刀流に一矢報いる為!!お前ら火影を皆殺しにする為よォォオ!!」
牙王は叫びに叫び、牙石王を動かす。
牙石王は大きさが大きさのなので、踏みつけられただけでも致命傷になりかねない。
なので絶対に牙石王の両足では有効な攻撃はできない場所から攻めていくに限るだろう。
――ガギィィン!!――
鋼金暗器を壱之型に戻して斬撃を食らわせるも、
「かってぇ!!」
一切効果なし。
「そんな玩具効くか、馬鹿野郎ーーッ!!」
「小金井君よけて!!」
――ドガッ!――
「ぐ・・・ッッ」
牙石王の足がバットに直撃し、彼女の体が吹っ飛ばされる。
「イッテテ・・・・・・」
もっとも、体をさする余裕はあるらしい。
だが、
――ダダダダダダダッッ!!――
何かが上から降ってきた。
「石の弾丸だ。逃がしはしねーよ。女のほうは良く知らんが、もう一人は裏切り者の小金井だったか・・・。てめぇらは今日!此処で!――死ね」
牙王は冷酷無比にそうはき捨てると、さらに大量の弾丸を撃ちだして二人を追い込む。
(全く・・・コイツを倒す手段はもはやたった一つ。しかしそれを実行できるのは・・・!)
バットは無表情のまま小金井を見た。
この勝負、金属製の武器を持つ小金井が一番、バットの考える策を実行するに値している。
「ぎゃはははははははは!!よォし!てめぇらを殺したら四つ!四つだけチョコを食べていい御褒美を自分に与えよう!気合が入るぜ!グシャグシャにしてやらぁ!!」
牙王が暴言紛いな台詞を吐いていると、バットが小金井に近づき何かを呟きだした。
「小金井君、いいですか・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・え?・・・・・・あ、そうかっ!」
小金井はバットに教えられた策で、かつて紅麗から教わったことを思い出した。
自分のような小柄な人間でも大柄な人間を崩せる戦法を。
「いきますよ」
「おう!」
バットの合図と同時に二人は地を蹴った。
そして牙石王の足元に近づき、
――ガキィィン!!――
鋼金暗器で斬りつける。
「へっ!なにをするかと思えば!言ったはずだよなクソチビ!そんな玩具は効きゃしねってよ!!」
「そいつはどうでしょう?」
「チっ!心底苛立つなオイ!!特にその目つきがよぉぉ!!」
バットの物言いと何かを企んだ感じの目に不愉快さを感じた牙王は、牙石王の指から弾丸をさらに連射する。
しかしそれは不発と同じ結果と化す。
「鋼金暗器、弐之型”龍”!鎖鎌!!」
――ドスッ!――
一瞬で変型させると、鎌の部分を突き刺す。
少し話は変わるが、かつて麗予備軍に属していた小金井に、紅麗はこう説いたことがある。
――・・・・・・いいか小金井。戦いにおいて、小さきものが大きな者を倒すということは決して不可能ではない。どんな人間も大地に根を張っている。引力というものが存在する以上、決して大地から逃れることはできない――
それはバットが考えていたものと同じだった。
――体を支える根を砕け。スピードを、バランスを、力を支える根・・・・・・・・・足だ――
「四之型”三日月”武羽冥乱!!」
――ガゴォォ!!――
さらに変型を行い、今度も足を狙っていく。
「チョロチョロ動き回ってネズミみてぇな奴だな!!」
イラつきながら叫ぶ牙王。
「ふッ・・・ぐ・・・」
突然牙王が苦しみだす。
(餓える・・・・・・チョコレートの、禁断症状が・・・・・・!!もう少し・・・もう少しの辛抱だ!あと少しでこいつらを殺して四つだけ食って、次のエモノを・・・・・・・・・)
全ては可愛い弟の為。
牙王にとって唯一の肉親だった石王のため。
するとどうだろうか?
さっきまで荒い息をしていた牙王の表情はあっと言う間に鋭い狩人のものへと元通りだ。
(お前の仇を討つんだ!!見てろよ!この兄が・・・・・・無念を晴らす戦いを!!)
牙王の決心は正しく岩石の如く固い。
「くたばれ、前座共ォォ!!」
――ドゥガアアァァァァアアアアアア!!!!――
牙石王の渾身の拳が大地を揺るがした。
凄まじい衝撃によって地面は砕かれ、土煙であたりは充満する。
その時、小さな音を立てながら風が吹き、土煙が晴れていくと―――
「「・・・・・・・・・!!」」
そこには、確かな光を瞳に宿す小金井とバットの姿。
「堅固な物は一点を集中して狙え。水でも何れは岩に穴をあける。・・・五之型”暗”魔弓!」
――ドヒュ!!――
勢いあまる音が立ち、一本の黄金の矢が放たれた。
そしてその矢が牙石王の脚部に見事命中する。
「最後の一押し」
そこへバットが一気に跳躍して跳び蹴りの姿勢をとり、
「ハァァァアアアア!!」
――ドス・・・ッ!――
魔弓の矢を釘とするなら、彼女のキックは鎚だったろう。
今までの攻撃による損傷が蓄積した足に、その釘を思い切り打ち込めば、メキメキメキという音が立ち始める。
そして、
――ゴボ・・・ッッ!!――
牙石王の右足が砕けた。
「そんな・・・・・・何故砕ける!?この大巨人が・・・・・・牙石王がぁああーーーッ!!?」
完全にバランスを失った牙石王は倒れた。
倒れた先は、薄暗い水が漂う湖。
大きな音と波で水面を乱しつつ、牙石王は湖の底へと沈んでいった。
「・・・・・・あの男、這い上がってくるでしょうね」
バットが呟いた瞬間、
「ぐっ・・・・・・ち・・・くしょう・・・ちっくしょう!!」
ホントに牙王が這い上がってきた。
ずぶ濡れの体のことなど気にもせず、また敵を見据えようとしたが、その前に目に止まったのは
大量のチョコレート。
牙王の活力源だった。
(・・・・・・何も見えねぇ・・・イヤ・・・見える。チョコレート、大好きなチョコレートだ・・・。なんでオレこんなに、我慢してるんだ?苦しい、苦しい・・・・・・!我慢する意味なんてあるのか?)
牙王の脳裏に流れまくる願望。
そして結論づいた。我慢する意味など・・・・・・。
(無い。欲望を制約する必要なんてないじゃねぇか)
そうして彼は
「も・・・う・・・ダメだ・・・!)
マスクを剥ぎ取り、欲望に身を染めた。
「ああああ!う・・・うめぇ!!甘いぞ!!やっぱこれがなきゃダメだ!!」
獣のような勢いでチョコを食べ始める牙王。
そんな牙王の姿がこの上なく醜いと感じられたのか、バットは彼から視線を逸らす。
それでも視界の片隅に入っていたのか、こんな言葉を語りかける。
「この勝負、貴方の負けですね、牙王」
「・・・・・・あ?何言ってんだテメェ!?まだだぜ!牙石王が砕けたくらいで勝ったつもりか?」
「違います。貴方と私たちの勝負でなく、牙王対牙王の勝負のことです」
バットは悟りを開いたような表情だ。
「貴方は報酬効果云々以前に、弟の仇を討ちたいが一心で此処まで来た。牙石王という巨大な力を生み出すに足るまでに進化した。しかしそんな純粋たる欲望は、己の私腹を肥やしたいというだけの醜悪な欲望に負けてしまった。・・・・・・要するに、貴方の弟に対する思いと信念はその程度だったと、貴方自身が証明してしまった」
どう考えても言い返しようの無い真実。
それを聞いた牙王の顔は自分への絶望一色になった。
「ぶぐ・・・げぇえぇえっ!がっ…がぁあぁあぁ!!」
牙王は突然口を押さえると、それでも抑え切れない量のナニカが彼の胃袋から食道を通り、体外へと吐き出される。
「力を磨くのも結構ですが、その前に志という純粋な欲望を磨いておく事を推奨します。言っておきますが、貴方の心根は弱いですよ、誰よりもね」
哀しげな瞳をして言い切ったバット。
「・・・・・・・・・そうかい」
牙王はフラりと立ち上がった。
「そうだよなぁ・・・俺はダメな兄貴だ・・・」
その顔には自分の敗北を受け入れ、どこか虚しさを感じさせるものがあった。
その顔を見て、これ以上牙王には戦意が無いと確信する。
「行けよ。どうせこのドームにディスクはねぇしよ」
牙王は地面に座ってそういった。
「・・・自分への確認の為言うが、俺はてめぇらに負けたわけじゃなく、俺自身に負けたんだ」
「それが分かっただけでも、一歩だけ進歩できますよ」
それだけ言って、バットは小金井を連れて先へ進んで言った。
他の場所にあるディスクを捜し求めて。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そして、それを見送りもしない牙王の背中は、とてもとても・・・・・・寂しそうで虚しそうで、儚げだった。
******
所戻ってピラミッド内部。
「不外――意外と分からないものですね。ハズレと思った場所にデータディスクがあったとは」
三人の前には石棺の上に安置された一枚のディスク。
「兎に角盗りましょう」
「何か字が違う気がするけど、一応これで一枚ゲット!」
だけど、世の中は上手くいかない。
――ガララララ・・・・・・!――
「ッッ!!」
金女が上方からの音の正体に勘付いて後ろにバックステップをとった瞬間、
――ガァァァン!!――
風子だけが、天井から降って来た檻に閉じ込められた。
「あちゃ〜!我ながらカッコ悪いや、引っ掛かっちゃ・・・・・・」
「やはりそうでしたか」
檻が降りてきた理由。
それは、少女が柱に仕込まれたカラクリを動かしたから。
「テメーーッ!!敵だったのかぁぁあ!!」
「不疑――この場にいる人間が一般人だと本気で思いこんでいたとは・・・・・・と、金女は溜息交じりに呆れます」
「どこのクローンネタ!?」
二人が漫才じみたことをしていると、少女は気軽な足取りで石棺に近づく。
「これは頂いちゃうね」
「不名乗(なのらず)――一応訊きますが、貴方は何者ですか?」
「私はキリト。死四天の一人。当然貴方達に話したことはぜ〜〜んぶ、ウ・ソ♪」
堂々と名乗ってきたキリトだが、金女が一人の忍者として彼女にも疑念をもって接していたので大して驚く様子もなかった。
「ならば、貴女には山ほど訊きたい事があります」
死四天の一人なら他のメンバーの特徴やディスクの所在地も知っている可能性は極めて高い。
拷問してでもキリトから情報を引き出すつもりで金女は凄んだ。
「ん〜〜〜・・・だったらこの仔倒して私を捕まえられたらね?」
『キュキューーン!!』
すると現れたのは”イルカヤミー”だった。
「それじゃあ、そういうことで♪」
そう言い残して走り去っていく綺理斗。
「霧沢さん、彼女を追ってください。私も後で追います!」
「合点承知!!あの女、ずえったい泣かす!!」
――ビュオオオオオオン!!――
風子は檻を真空の刃で切り裂き、綺理斗を追った。
「変身」
――パカン!――
金女もセルメダルとチェリオドライバーで変身する。
「もう一度、不忍に参りましょう」
≪SETTOU・ROU≫
チェリオは右腕に切刀を装備し、イルカヤミーめがけて振り回す。
――ザシュ!ザシュー!ザシュン!――
猛回転する刃が当たるごとに、イルカヤミーの体からはセルメダルが零れ、あたりを鏤めて行く。
『キュイーーン!!』
イルカヤミーは突然鳴き出した。
すると奴の口から凄まじい量の水が津波のように噴出され、
「うわッ!?」
その水圧にチェリオも思わず壁にぶつかってしまう。
「イタタ・・・・・・だったらこれで」
≪CHINTOU・OMORI≫
両脚部に無骨なアタッチメントが装備される。
擬似変体刀の一種、沈刀『錘』。
その形状は至るところ殆どから刃が突き出すように生えていて、触れることさえ危ぶまれるようなものだった。おまけに靴底とその周辺部分のそれはとくに凄まじく、ベルトコンベアのようなものさえついていた。
――ギィィィィィン!!――
凄まじい金属音をさせながら地面を駆ける沈刀『錘』
その重量は約200kgなので戦車のように鈍重そうだが、フルスピードを出せば40km程になる。
「それッ!」
チェリオはイルカヤミーの放水など気に留める必要が無くなり、沈刀を足と一緒に振るってイルカヤミーに斬撃をくらわせる。
『ギギャ・・・!!』
自慢の放水を沈刀『錘』の重量で無効化された上にダメージを負わされたイルカヤミー。
「そろそろ決めますか」
≪SHATOU・GEN≫
左腕全体に装備された新たな装備の名前は射刀『鉉』
一言で言い表すと弓矢だ。
≪CELL BURST≫
チェリオは弓と化した左腕を構え、右手で矢を引き、狙いを定める。
チェリオは炎刀『銃』を多数の敵や広範囲攻撃に、射刀『鉉』を単一の敵や精密一点攻撃に使用している。
『キュイ!?』
イルカヤミーは危険を察知してトンズラしようとするも、
「不逃――精密刀射」
無情な一言が発せられると、
――ビュ・・・ッ!――
――バシ・・・ッ!――
矢が放たれ、矢尻ががイルカヤミーに直撃し、決着がついた。
「・・・・・・・・・」
チェリオは急いでセルメダルをケースに入れると、これまた急いで風子のもとに駆けて行く。
そして目にしたのは
「南無阿弥陀仏」
落ちた古い吊り橋の向こう側にて笑顔でそういう綺理斗(上着を脱いでいて、下の黒い服にも”南無阿弥陀仏”と書いてある)。
そして、
「覚えてろよテメーー!!絶対に―――」
言葉が最後まで紡がれずに激流の川に飲まれていった風子だった。
「・・・・・・・・・」
「おやくノ一さん、もう来ちゃったんですか?・・・というかお仲間はいいんでしょうか?」
明らかにわざとらしい笑いでそういってくる綺理斗。
普段の金女なら遠慮なく綺理斗のほうに向っていくだろうが、今回は事情が違った。
このSODOMに向う直前、シルフィードからチェリオシステムを受け取り、依頼された際、最後の最後にシルフィードからこういわれていたのだ。
――あ、そうそう。出来れば可能な限り火影の子達は死なせないようにして頂戴――
――それは何故でしょう?――
――・・・・・・あまり、子供が死ぬっていうのは、胸糞悪いでしょ・・・?――
「はぁぁ・・・本気で溜息が出ますね」
そしてチェリオは、
――ザブン!!――
激流へと自ら飛び込んだ。
*****
研究所。
その頃、金女にそんな注文をだした張本人、ルナイト・ブラッドレイン・シルフィードは、陽炎と共に行動していた。
「どう?陽炎さん」
「ダメね。影界玉が何も示さないわ」
陽炎の手にある影界玉は、まるで砂嵐なテレビ画面の如く何も映せていない。
「科学技術で魔導具に干渉できるとは思えないし、かといってこの場に魔術師がいるとは思えないし・・・・・・・」
「となると、やはり考えうる可能性は一つ」
「「天堂地獄」」
二人は冷静に状況を把握する。
するとだ、
『ウェルカム!マダ〜〜ム&レディ〜〜〜!!』
何処かからかスピーカーを通した声が聞こえてくる。
その直後に、ロビーの壁に備え付けられていたモニターに一人の男が映る。
なにやら細い目つきが印象的な男だ。
『今回は貴女も含め、多くのイレギュラーが参加してるみたいですね陽炎さん。にしてもそのイレギュラーがトライブ財閥の人間とは思いませんでしたよ。しっかしお二人とも、写真とかで見るより全然キレイじゃないか!』
男は急になれなれしい態度になり、
『とても一児の母だったり大企業の会長だなんて思えないなぁ・・・充分、イケてますよ。ホントの歳ってイクつなの?』
こんな馴れ馴れしいことまで訊いてくる。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
『アラララララ、つれないっすね。もうちょっと会話を楽しみましょーよー。どんな声してるのか聞きたいなぁ』
男のエザったい言葉に二人は何者も映さぬ鏡面のごとき表情でこう言い放つ。
「・・・ごめんなさい、坊や。私たち、忙しいの。静かにしてくれる?」
「こうして喋って声も聞かせて上げたことだし、お姉さん達を通してくれるかしら?」
『・・・・・・いい声』
無理矢理作ったような声音。
『データディスクが欲しいんでしょ?お二人さん。右に入り口あるよね?入ってみなよ』
言われた通り、近未来的な扉をくぐった。
『心配しなくても罠じゃないですから。ちょっとしたショーを見せてあげたいのさ』
「「!!」」
そして目にしたのは―――狭いカプセルに入れられてなにやらかなり苦しむ狐と、その狐を助けようとしたいが首輪によって束縛された狐。
『野生の狐の親子ですよ。電流を死なない程度に浴びせられ続ける母狐。それをみて助けることもできずもがいている仔狐』
仔狐は首輪が自分の体に食い込み、血管が破れて血が出る要因となっているのにも関わらず、痛みなど気にも留めずに母へと向っていこうとする。
『ねぇ?実に涙を誘うシナリオでしょ?』
「(なんて事を・・・!)式髪!!」
陽炎は魔導具を手にし、髪の毛を10〜20本辺り抜いた。
針のように硬質化した髪を投げると、髪はカプセルに命中して楕円形を描くようにして穴を開ける。
――パリン!――
母狐はそれに乗じてカプセルを破り、仔狐に擦り寄った。
『素晴らしい・・・・・・だけど・・・エンドテロップはまだ流れてないんですよ』
男の声が不吉満載な台詞をのせてきた。
――ドクン・・・!――
母狐の体に異変が起こり始めた。
――めきっ!ばきんっ!メキッ!バギンッ!――
そうして、
『ギャオオオオオオオ!!』
母狐は異形と成り果てた。
『あぁ!なんということでしょう!!仔狐が必死に守ろうとした・・・・・・・・・母狐は既に、化物でした』
「「・・・・・・・・・・・・」」
男の不愉快な言葉に二人は黙る。
しかし、手元はそうではなかった。
シルフィードは片腕をスッと上に掲げると、そのまま一気に片腕を下方に下ろした。
その瞬間、
――ズシャ・・・・・・!!――
母狐だったもものは、通常の十数倍の重力を身に受け、
『ガ・・・ガァ―――』
静かに息絶えた。
『クゥン・・・クゥン・・・』
仔狐は母狐の亡骸に近寄り、治療のつもりか舌で舐めていた。
『・・・おい・・・化物共・・・お前らこそがこの脚本における主役なんだぜ。気に入ってくれた?』
今までの丁寧語混じりな言葉は完全なタメ口になっていた。
「哀れな坊や、出てらっしゃい・・・・・・お姉さんたちが相手してあげるわ」
その時のシルフィードの声は、正しく流氷のように凍えきっていた。
『ウヒヒヒヒヒ・・・・・・あーそうかい。でもな、余裕ぶっこいてる暇はないぜ?』
――ガシャ!!――
突如として、部屋の扉が全て閉じられた。
『完全密室!!そして、毒ガスだ。化物共』
男の下種な声が実に耳障りなものとして感じる。
『会長さんはどうかは知らないが、黒尽くめのほうは斬っても刺してもしなないらしいからな!けどなぁ・・・・・・毒で体の自由奪っちまったら!?後はコンクルートづめにでもして生きたまま海に沈めてエンドよ!!』
男の下種な声はまだ響く。
『ウヒヒヒヒヒヒ!!』
下卑た笑い声と一緒に・・・・・・。
「「・・・・・・・・・・・・」」
そうして、二人の姿と影は、毒ガスの中に紛れていった。
******
監視部屋。
毒ガス機能発動から五分後、部屋はガスで満ちた。
「充分だな」
男は監視モニターを見ながら頃合を計らって停止スイッチを押した。
それによって毒ガスは止まり、手早く換気が施される。
男は二人が見事失神した姿を期待したが、結果はその180度違う方向のものだった。
一言でいうと、二人の姿はおろか影さえなかった。
「いねぇ!!?そんなバカな!?逃げ道なんてねえ筈!!何処だ・・・・・・他の部屋か!?」
男は必死になってモニターを見回す。
「い・・・ねぇ、いねぇ!!どっこにもいねぇ・・・・・・カメラに写らないところに隠れてるのか!?・・・・・・そんな筈ねぇ!この施設は全ての場所にカメラを置いてる!センサーだって設置してあるから反応くらいあるはず・・・・・・」
だが一つ、落とし穴がある。
「・・・・・・いや・・・カメラもセンサーもねぇ所が一つだけある」
カメラもセンサーも設置する意味の無い場所。
そもそもその監視を行う場所。―――そう、この部屋だ。
「ど・・・どこだ、化物!?」
男は半ば怯えながら両腕に刃を装備する。
部屋にある二つの照明が彼の影を一つではなく二つとし、彼の不安定さを示すようにも見える。
しかし誰もこんな発想にはいたるまい。その二つの影から、陽炎とシルフィードが出てくるなんてことを。
「転移魔術は疲れるわね、相変わらず」
シルフィードが実に冷めた口調で言い捨てる。
「ヒ・・・ヒヒ・・・俺の影から出てきた?二人揃って影から影へと移動したってことか!?」
男は声を震えさせながら強気に振舞う。
『ギッ・・・ギャ・・・』
すると、陽炎が抱えていた仔狐が陽炎の手を引っ掻いて逃げ出し、椅子の下に隠れてしまった。
「あらら!?痛いのか!?そんな体のクセに痛いっていうのか!?面白いよな!笑わせてくれんな!」
「不死の体とて痛みは在る。・・・だが痛いのは、体よりも心。母を失った仔狐の心を思えばこその痛み。殺めたのが自分たちであることの痛み」
「け!!綺麗事いってんなぁ偽善者!!毒が効いてるのは判ってんだぜ?足がふらついてらぁ」
男は両腕を構えると、
「首斬りおとしても生きてやれるか試してやんぜ!!我が名は裏麗忍者「ウザったいわね」
その瞬間、
――ビュオオオォォォオオオオォォォォン!!!――
「!!?」
シルフィードが手をかざしただけで、男は強烈な烈風に飲み込まれ、壁に頭を叩きつけられた。
「あんたみたいなクズの血で私たちの手を汚す意味すらない」
シルフィードはそういうと、ポケットからある物を取り出した。
一見金属リングで束ねられたメモ帳だが、それらは捲る毎に赤・黄・緑・灰・青といった五色の紙が三十枚ほど束ねてあった。
シルフィードはその内の一枚を束の中から千切って見せた。
中央部分に切れ込みが入り、左右にウナギの紋章が二つに別けられた青い髪。
一枚から二枚に割られると同時にその紙はシルフィードの手首に自ら張り付いていった。
すると、
――ビリビリッ!――
シルフィードの両手に一対の長い電気鞭が現れていた。
鞭の名はウナギウィップ。本来はオーズが使うはずの武装。
「コイツに巻かれて、電撃地獄でも味わっときなさい」
シルフィードは素早く男の体にウナギウィップを巻き付けて拘束する。
電気ウナギの属性を備えた鞭で体を巻かれた男がどうなったかは、語るまでもないだろう。
もっとも、陽炎とシルフィードはそんなことには一切興味を示さぬまま、ディスクを一枚ゲットしていた。
「これで後4枚ね」
シルフィードが残りディスク枚数を口にしていると、
『・・・クゥン・・・』
さっきの仔狐が二人に擦り寄ってきた。
「どうしたのお前?私たちが怖かったんじゃ・・・・・・憎かったんじゃなかったの?」
陽炎が手を差し出しながら問うと、仔狐は陽炎につけてしまった傷を自分の舌でなめて綺麗にしようとしていた。
それをみた陽炎は、謝った。ただただ「ごめんね」と・・・・・・。
そしてこうともいった。
「ありがとう」
と・・・・・・。
(結局・・・・・・大きな戦いで泣きを見るのは、こういう無力な命・・・・・・)
その様子を見ていたシルフィードは、とても哀しそうな瞳をしていた。
まるで昔のナニカを見つめるような、虚しい瞳で目の前の現実を見据えていた。
次回、仮面ライダーブライ
木竜とブルーコンボと剣術
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