仮面ライダーブライ!
前回の三つの出来事!
一つ!チェリオの重装備形態、チェリオグッバイが発動!
二つ!水鏡と七実は氷紋剣の師範・巡狂座と遭遇!
そして三つ!全ての真実を語り終えた巡狂座は安からに生涯を閉じ、巡り回る狂座の運命は破壊された!
クローンと紅蓮コンボと誕生儀式
約四百年前。
この日ノ本の国が漸く乱世から治世の時代を迎え始めた頃、とある場所で英雄と怪物の戦いに終止符が打たれていた。
「・・・・・・何故?」
「・・・・・・・・・」
そこには二人の男女が距離をとりながら互いに対峙しあっていた。
男の方は長く綺麗な黒髪で、どこか優しい印象の目付きをした美丈夫な上、腹部には異様なベルトを身につけている。
女の方は袖を切り落した上に覆面もなく、全身に鎖を巻いた奇天烈な忍装束で、身体中からは大量の出血によって忍装束を赤黒く染め上げている。
最早言うまでも無いだろうが、この二人こそ、真庭竜王―――そして、我刀流十代目当主、鋼劉十。
「なんで最期の一撃を避けなかったんだ?君ほどの実力ある忍者なら、致命傷は避けれた筈」
「・・・・・・グリードといえど、私の本質は忍者だ。所詮歴史の黒子が・・・化物が英雄に刃向かおうとも、結局はこの様だ」
竜王は今にも死にそうな体でありながら流暢に喋る。
「さあ、その手にある刀という鍵で、私の生涯を閉じて見せろ」
「・・・・・・リュウギョク」
劉十は躊躇いの表情を見せる。
「出来んのなら、お前の息の根を止める!!」
――バッ!――
竜王は残された力で己が身を振るわせた。
その手に握られた忍者刀で劉十の喉笛か胸元を斬って抉る為に。
しかし、
「・・・・・・すまない・・・・・・」
――斬ッ!――
英雄の刃が、怪物の体に、更なる赤い線と傷をつくった。
怪物は何一つ不満も後悔している事は無いかのように、欲望の名を冠する者としては清清しいくらいの表情でこう言った。
「それでいい」
欲望の怪物と化した埒外の忍者は、再び封印という眠りにつく。
四百年という長い歳月を、暗く冷たい石棺の中で、新たな運命の時まで。
*****
HELL OR HEAVEN
中枢部の天堂地獄の間。
そこには今か今かと、天堂地獄の完全体にならんとする森の肉体が繭状態となり、不気味な姿で玉座に踏ん反りかえっていた。
周囲には全身をマントと頭巾で覆った奇妙な集団で警護されており、幹部クラスでなければ入ってくることさえできないだろう。
しかしこの異形な空間では、なんとも美しい歌声が響いていた。
それは異端なる女忍者、真庭竜王の歌声。
人間だった頃から、仲間たちの記憶に留まっていた頃から、彼女の歌声は里の中で最も美しく、最も人を魅了していた。
歌詞に篭る歌声はどんどん磨きが掛かっていき、誰もその歌を邪魔しようとはしない。
首には妹分的存在から貰った不恰好な五色のマフラーが巻いてある。
混沌とした闇の空間で、異彩を放つ美声の歌は、この悪しき空気さえ忘れさせてくれるようだった。
そして一気に終局を迎えた。
歌い手の竜王自身は、実に満足した表情で―――とは言い切れず、何処か霧がかった表情をしていた。
だがしかし、他者が聞けば紛れも無く彼女の歌に高得点を出したであろう。
真庭忍軍初代十二頭領総補佐、真庭竜王、通称『奇蹟の竜王』
その美しき歌声は、この現世においても健在であった。
*****
その頃、火影最後のグループ。
花菱烈火&鋼刃介。
「退けやザコどもがァァ!!」
――バギ!バギッ!ドゥガ!ドゥガ!――
「げぼぅあああああ!!!」
「ぐべぶぁぁあああ!!!」
惨めな悲鳴をあげる黒服たち。手に持っている黒金の銃火器もまるで意味を成さない。
まあ相手が本物の化物である刃介というのが一番の理由だろうが、素手の相手にやられるというのが一番屈辱だろう。
「来たな!」
すると通路の影から一人の男が出てきた。
「こいつらじゃ不服だろ?」
自信有り気にする強面の男。ある意味とんでもない怖いもの知らずであることを記しておこう。
「天才格闘家・幻神様が魔導具『歓喜天』でお前らぶっ殺「死ねやゴラァァアアア!!」――ボガァァン!!!―ーひでぶぅぅぅううう!!!!」
二度目の名前負けシリーズであった。
名前負け野郎は一発で気絶した。
「あれ、俺の出番は?」
「行くぞ花菱!」
「お前はなんで初っ端からハイテンションなんだよ?」
思えば刃介がこのルートに入ってきて以降、憂さ晴らしをするように雑魚共を一人で片付けており、烈火はただただ刃介の背中を追いかけているだけの状況だ。
今も尚、刃介が本能の赴くままに走る方向を追っているに過ぎない。だけど、何故か刃介の進む方向には間違いが無いように思えてくる。
「お、なんか胡散臭いドアがあったな」
「ああ、そうだな」
走り回った挙句に漸くドアを発見した。
「さて、どうやって開――ウィーン――あ、自動ドアか」
刃介は何時ものペースに戻ってドアの奥へと足を踏み入れていく。
部屋は実に広く、向こう側の壁一面にはガラス張りの巨大水槽があった。
そして、その巨大水槽の手前には一台のパシコン一式を乗せたテーブルとそれにあわせた椅子に座る一人の人物がいた。
「へー。ここの番人はお前か」
「どうも、我刀流さん。そして学校でお別れして以来ですね、烈火さん」
「てめぇは神楽・・・・・・いや、葵!」
冷静な刃介とは裏腹に、今度は烈火が熱くなりだした。
「此処でのお前のパートナーは何処だ?」
「天井ですよ。多分、貴方が今まで見たこと無いタイプ」
そう言われて天井を見ようと思った瞬間、幾枚もの羽根を撒き散らしながら翼をはためかせ、床に下りてきた。
「鳥のヤミー」
『・・・・・・・・・・・・』
刃介は呟く。沈黙する赤き鳥のヤミーに向って。
ハヤブサの鋭き眼と頭、鳳凰の如きド派手な胴体、ヤタガラスの如く三本目の足とも言える長く太い尾羽。まさにそれは『ハオウラスヤミー』と呼ぶべきだろう。
「ところで葵・・・姫は・・・?」
「生きてるよ。ここにはいないけどね」
葵はあっさりと答えた。
「つまり、テメーらをぶちのめして先に進まなきゃならないってか」
「平たく言えばそうかな」
またもあっさり答える葵。
――・・・ルートB・・・ゲーム終了!キリト・・・戦意喪失!――
その時、スピーカーから各所の報告が流れ出した。
――死愚魔は破壊されました!生きていた門都もほぼ同時刻死亡!――
――こちらルートC!蛭湖敗戦!火影は先へ進んでいます!容姿から石島と凍空・・・・・・――
――ルートA!龍虎丸がやられた!相手は・・・螺閃と鬼凛!陽炎とシルフィードと接触!――
――ルートEです!オロチが雷覇に殺されました!雷覇も霧沢と鋼金女に倒されています!石島と凍空が現れた模様――
――ルートG!巡狂座、死亡確認!水鏡と鑢、上階へ進行中!――
裏麗にとっては最悪の状況だが、火影には最良の戦況だ。
『まさか、人間程度に敗れるとは・・・我らヤミーも、堕ちた者だな』
ハオウラスヤミーは呆れるように嘆くように首を横に振る。
「まあそれもあるけど、予言通り本当に全員生き残っているみたいですね」
「ったり前だヴァーカ!!あいつらゴキブリ以上じゃ!!」
烈火は凄まじい悪戯小僧の面構えで大見得を切った。
「・・・・・・でも、こんなゲームつまんない」
『同感だな』
「刺激を加えなくちゃ。まずリーダーに死んでもらおう」
どうどうと殺害予告をしてきた。
「うるせぇぞ女装野郎が。とりあえず先へ進む方法教えろ」
「くすくす」
刃介の問いにも余裕な葵。
「このカードキーは・・・・・・この部屋の奥にあるエレベーターを動かすのに必要です。これを通して貴方達が手に入れたパスワードを入力すれば、柳ちゃんのいるところに貴方達を運んでくれるでしょう」
と懇切丁寧にカードキーの現物を出しながら教える葵。
「つまり・・・・・・」
――グニュ・・・!――
「やめッ――やめろ葵!!」
――ビョン!――
握力で少し変形したカードキーは、握力がなくなると同時に元の形に戻った。
「冗談ですよお二人とも!そんなに取り乱しちゃってイヤだなぁ。ゲームスタートです」
そうしてカードキーは今一度葵の懐に戻っていった。
四人は互いに近づき、対峙し合う。
「四つ聞いていいか?」
烈火は四本の指を突き出した。
「一つ目。リュウギョクのコアはもう揃ってるのか?」
「多分今すぐにでも出来上がって、完全復活すると思うけど」
葵は素直に受け答える。
「二つ目。森はまだ姫と接触してねーな?」
「・・・・・・まだ生きているってことは確かだね。だけどもうすぐだ。柳ちゃんは森様と一つになる」
「三つ目。てめぇはそれをなんとも思わねぇんだな?」
そう言われると、葵の表情は実に苦々しいものとなる。
――不必要な命なんてないよ。それを奪う権利も――
――失敗作か――
脳裏をよぎるのは、自分を人として扱ってくれた柳の優しさと、あくまで自分をクローンの出来損ないとして扱う森の非情さ。
「思・・・わない。思いたくない」
「四つ目!おめぇ―――」
烈火が最後に訊いたのは
「男?女?」
「体は・・・男なのかな?学校じゃスカート穿いてたからわからなかった?」
「そっか!」
烈火は一気に安心して、
「じゃあ遠慮しねぇ!!」
――バギッ!!――
全力で葵の顔面を殴った。
「変身!」
それをゴング代わりにして、刃介がスキャナーを滑らせた。
≪RYU・ONI・TENBA≫
≪RI・O・TE!RIOTE!RI・O・TE!≫
ブライ・リオテコンボの登場である。
「くッ」
それを見た葵は右手に仕込んでいた手甲型魔導具を起動させ、質量保存の法則を無視した大きさの刃を出現させる。
(ホラ・・・出してよ。炎出して見せてよ)
その瞬間、
――ぉおぉおおおお!!――
一匹の火竜が現れ、烈火の右腕には炎の刀が現出する。
「キレイ・・・・・・」
葵は砕羽によって生まれた炎刃にうっとりとした様子でいる。
「・・・ボクも・・・欲しかった。その能力が欲しかった」
葵は一気に暗き羨望と嫉妬の表情となる。
「お前の相方、やっぱ暗いな」
『余計なお世話だ。そういうお前の女房も死人紛いではないか』
「・・・・・・過ぎた毒舌は身を滅ぼすぜ」
『お互いにな』
なんだか相性最悪同士の会話である。
きっと刃介とアンクが出会ったらこんな陰湿な会話になりそうな気がする。
ブライはその手にメダマガンを持ち、ハオウヤスヤミーは両手を構える。
『ハァァア!!』
――バギュンバギュンバギュンバギュン!!――
互いにぶつかり合う羽根手裏剣と魔之弾丸。
幾多モノそれがぶつかる度、それらからはエネルギーの火花が散った。
「ちったぁやるみたいだな、チキン」
『貴様もな。業突く張り』
互いに罵り合いながら評価する。
『それにしても、人間というのは実に業が深い』
「ん?」
『母胎を介さずに人の手で人を造り、造られた者は己が存在意義を求め足掻く』
恐らくこれは葵のことを言っているのだろう。
『全く持って阿呆なことだ。自分の出自がなんだ?そんな者が己の欲望に左右するのか?』
「さぁてな。ただし、コレだけはいえるぜ」
ブライは水槽の中を泳ぎまわる『深海魚』に目をやった。
ただし普通の深海魚ではない。天堂地獄の遺伝子で突然変異して気圧も光も関係なく泳いでいられるゾンビ深海魚・・・・・・しかしその代償として、餌とするのは他の魚の命かその死骸という有様。
森が天堂地獄と化し、完全なる究極となれば、表の世界と裏の世界がひっくり返るだろう。巨大水槽のゾンビ深海魚の二の舞になりかねない。
しかし葵はそれを望んでいるがアリアリとわかる。彼にとってそんな闇色の世界こそ住みやすい世界なのかもしれないが、その為に少々変わった力の持ち主が罪も無く死なされる。
葵にとっては尊い犠牲として天堂地獄に捧げるのであろうが―――
「お前らの欲望は完熟させねー。実る前にもぎ取ってやる」
『やれるものならやってみろ』
売り文句に買い文句とは正にこのことだ。
『フゥアア!!』
ハオウラスヤミーは背中から大きな翼を二枚広げた。
――チャリン、チャリン、チャリン――
≪TRIPLE・SCANNING CHARGE≫
ブライもメダマガンにセルメダルを久々に投入してスキャンする。
『喰らえッ!!』
「ぶちまけろ!!」
――バサーッ!!――
――バギュン!!――
全力羽根手裏剣とブライクラッカーが正面衝突した。
*****
佐古下柳は今、何も無い真っ白な空間にいた。
もっとも肉体的ではなく、精神的にではあるが。
(あれ?―――ここはどこ?―――まっしろだ―――何も無いよ)
当然だ。いま彼女の精神には記憶が残らず片隅に追い遣られているのだから。
(―――さびしいな―――会いたいな―――誰に?―――誰だっけ・・・・・・)
自問自答しても、何時まで待っても答えは出てこない。
しかし、そんなときに奇蹟が起こった。いや、起こされた。
「こんにちは」
何時の間にか柳の世界に侵入していた者がいたのだ。
「こんにちは。あのう、どちら様ですか?」
白い服で身を包み、見るからに慈愛に満ちた風貌をした美しい長髪の女性。
「”くれない”っていいます。何度か貴女に会っているわよ」
「んーーー?くれないさん?(わからない)」
名前だけなら、いや、その素性も柳は知っている筈だ。
”くれない”はそんな柳の顔と瞳を見ながらこう言った。
「あなたも・・・大好きな人と離れ離れになってしまったのね。その悲しみすら忘れてしまった・・・更に深い悲しみ・・・」
愛に満ちた母のような口調。
すると”くれない”の体からは火の粉が上がり始める。
「でもね、また一緒になれるわ。私には見える」
そして、彼女は炎の堕天使と化した。
人間の形をした、炎を鏡とした魂の姿。
「それは幸せかもしれない、不幸なのかもしれない。私は後悔しなかった。あの人はこんな姿になった私でも側においてくれる」
炎の堕天使の出現と共に、柳の体にも炎が灯り始めていた。
「体が燃えてる!!!(違う!!私自身が炎になってる!!?)」
目の前にいる彼女と同じ存在となる感覚が柳の全身に広がっていく。
「私には見える。あなたの運命。私がそれを望んだように、あなたもきっと・・・・・・あなたもきっと――――」
そこで、柳の中に入り込んだ女の魂は何処かへと消えていた。
彼女との出会いはまるで、柳と彼女の境遇のなんと似通う点ゆえ、運命が彼女達を引き合わせたのかもしれない。
最愛の男の手によって、魂を炎に変えられる運命同士ゆえに。
炎の堕天使の名は紅。
炎術士・紅麗にとっての生涯において、昔と今を支える最愛の女の成れの果て。
*****
一方其の頃、ブライとハオウラスヤミーは激戦に次ぐ激戦を繰り広げていた。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァアア!!!!」
『喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえェェェエエ!!!』
互いに凄まじい攻防を繰り返しあい、そのたびに決着がつくかどうかと思うほどの状況になるが、今一歩のところで互いに届かずじまいになってしまう。
ブライクラッカーと羽根手裏剣の激突で部屋の面積の半分が煙幕で包まれてしまっていたが、その煙幕さえも彼らの激闘の波動で消し飛ばされていた。
『それにしても、葵の奴も風変わり欲望を持つ』
「ん?」
『大抵の奴なら持ちえず、影の初心者なら一度は持ちえる欲望』
「・・・・・・・・・日常の尊さ」
刃介はハオウラスヤミーという媒介を通して葵の心に触れているような気がしてきた。
『そうだ。葵のような者共は生まれながらにして、それに触れられず当たり前のように小僧どもが送ってきた青春や人生の喜怒哀楽に憧れている。最も葵の場合は、日常を欲するのではなく、全てを自分たちの所まで引き下げて真っ平にするのが願いらしいがな』
ハオウヤスヤミーは一旦構えを解いて話し出す。
「はぁ・・・阿呆ですかァ?」
対してブライはハッキリと言った。
「何自分だけメンドくせェ星の下とは思ってるわけ?その泥まみれの願望をさ、テメェ以上に酷い境遇の連中にいえるの?そんな境遇でも希望持ってる奴に言えんの?」
ブライは嫌味を思い切り込めた口調で語りだす。
「俺や七実みたいな例外は兎も角、此の世の裏には葵以上に酷い目に会ってる奴なんざ幾らでもいる。葵の野郎はただ生まれ方に問題あるだけで、そのほかの面では結果だせば其れ相応の裕福な生活が保証されてるじゃねェか」
最も刃介は葵が欠陥品の烙印を押された状態でどれだけ血反吐を吐いて今の地位にたどり着いたかをわかっているからこそ嫌味を吐いている。
だってそれは・・・・・・。
「何も持ってないということは、あいつは『ちょいと変わった人間』ってだけのコトだろ?」
自分は化物と成り果てたからこそ言えた言葉。
「佐古下のバカとて、あの能力ゆえに幼少の頃から多少は疎んじられていたんだろうな・・・・・・もっとも、人殺しの俺よりはマシだろうがな」
ブライは『無花果』なのか無防備なのかさえわからない風体で語り続ける。
「花菱たちとダチ公になったり、ガキんちょ相手に紙芝居自作したり、そのために手先器用な石島を半ば監禁したりはしたらしいが、それでもアイツは孤独から脱して見せた。些細な切っ掛けを初めとしてな」
ブライの・・・・・・刃介の真意が薄ら薄らに見えてくる。
「とどのつまり、葵はクソガキの如く自分と現実から目を背けて逃げてるだけだ。意外と切っ掛け等、足の一本手の一本で作れるものだ。ただただ今の自分が他人に愛される資格が無いという建前を並べて恐れる余りに心を閉じたプチ引き篭もりだ」
『・・・・・・何を言うかと思えば、貴様が説法を説く気でいるのか?』
「まさか。・・・ただ葵のバカは臆病者だって言いたいだけだ。あの佐古下柳っていう天然バカは、ダチ公と認めた奴を裏切りはしねーって気付こうともしない虚け者だってな」
『・・・・・・・・・』
ハオウヤスヤミーは両手を下ろし始める。
「クローンがなんだ?化物がなんだ?んなこと知ったことじゃねぇ!俺は俺の欲望に従って動き、欲しいものは必ず手に入れる!葵も我々と同じ『人間』である以上、それが出来ない筈は無いんだよ!」
そうしてブライは両手をバックルに伸ばし、三つのメダルを全て取り外した。
そして別のメダルを投入していき、再度バックルを傾ける。
最後に、ローグスキャナーが欲望の力の溢れる結晶を読み取った。
『ッ!!』
ハオウラスヤミーは思わず身構えた。
それもそのはず、なぜならば・・・・・・
≪HAYABUSA・HOUOU・YATAGARASU≫
≪HAOURASU≫
赤き円盤型の鳥達のシンボルが一つの円となるとき、聖歌の如く響くその歌声は、全てを焼いて浄化する紅蓮の炎を呼んだ。
その太陽の如き火炎の中で新たな力が開帳された。
全てが赤く統一された隼の頭、鳳凰の腕、八咫烏の足。
天空を支配せし鳥類王アンクと同じ属性を誇るその雄姿の名は―――
ブライ・ハオウラスコンボ!!
「フアアァァア!」
ブライは両腕を構え、
「ハッッ!!」
一気にそれを左右かつ水平に構え直した。
それと同時にブライの背中からは見る者全てを魅了する美しき羽根が扇子のように開かれた。
ブライが両手をあげるとそれらに羽が一斉に動き出し、
――シュン――
腕が下ろされたと同時に全ての羽がハオウラスヤミーへと飛んで行った。
『甘いわ!』
しかしハオウラスヤミーも馬鹿ではない。同じように羽手裏剣を飛ばして相撃ちとした。
「甘ェのはそっちだぜ!!」
――パンパンパンパンパンパンパンパン!!!!――
空かさず両手に握られた鳥刀『鏃』の引き金を何度と無く引いて敵の身に弾丸を浴びせ続ける。
飛んで回避したいが生憎ここは屋内。飛び回るにしては狭い場所だ。
しかしブライは飛ぼうが飛ぶまいが変わらずに引き金を引いて弾丸を連発する。
――カチッ――
すると今度は鳥刀『鏃』の撃鉄を起こした。
そして引き金を引くと、
――ヴォオオオォォオオオオォォォオオオオオ!!!!――
銃口から大火事を連想させるような特大の火炎放射が暴発したかのように吹き出てきたのだ。
『ブオォ!!』
ハオウラスヤミーは堪らずコレを同じ炎を吐く事で防いだが、正直な話、後手に回ったのは失敗としか言いようが無い。
≪SCANNING CHARGE≫
聞こえてくる男声の電子音声。
それは炎の中から聞こえてきた。
その時ハオウラスヤミーは悟ったがもう時既に遅し。
「チェェェストォォォオオ!!」
猛火の中より現れ出でたブライは、その両手に太陽と同じ熱を放つ一対の刀を握っていた。
そして、
――ザシュ・・・・・・!!――
――ドゥガァァァァァン!!!――
光冠の炎刃の10万度を誇る熱き斬撃は振るわれ、一太刀で敵を細かな欲望の結晶に変えていた。
「フゥ・・・・・・さて、メダルメダルっと」
一息つくと、すぐさま床に散らばるセルメダルを回収し出す。
「一ぃ二ぅ三ぃ四ぉ五・・・・・・こんなとこか。向こうの決着もついたようだしな」
回収が終わる頃には、烈火と葵の戦いも終わっていた。
そこには感動か嬉し泣きかはよくわからないが、ただただ何か暖かなものに初めて触れて、涙を流しながら崩れ落ちる葵の姿があった。
「花菱、行くぜ」
「おう!」
カードを手に持った烈火とブライはそのまま仲間と共に先へと進んでいった。
そして、葵が一人残されていると、一人の男が部屋に入ってきた。
「随分ボロボロだね。何しに此処に来たの?」
葵の言うとおり、男の体は血だらけでまさにボロボロだが、男は真っ直ぐに立っている。
「仲間が心配してきてやったのに、其れは無いな。立てるか?」
腕を組んでそういう男の名は、蛭湖。
「あれれ?すごく意外な言葉が出たなぁ。・・・君、負けたらしいけど、これからどうするの?」
「私は任務のために動く事はもうやめたんだ。今日からは己の意志で動く!」
その言葉に迷いは無く、そうなった理由は
「火影が、その強さを見せてくれた!」
「・・・そう・・・君も踏み出して、歩き出したんだね」
「何の話だ?お前と戦った火影はどうした?」
「烈火さんも鋼さんも、もう行っちゃったよ」
葵は素直に答えた。
「『道を踏み外して・・・他の人間を轢いて暴れる暴走車を止めにいく』って―――『大切な宝物を奪い返す道を走る』ってね。・・・ねえ蛭湖。ボクも・・・歩いていいかな?歩けるかな?」
葵は静かに問いかける。だが直ぐに喋りだす。
それはもはや自問自答と言ってよいだろう。
「ボクは柳ちゃんに謝りたい!ボクも友達を助けたい!」
その時の葵の瞳には光が満ち満ちていて、何処までも『人間』らしかった。
*****
天堂地獄の間。
そこでは夥しい量のヤミーたちが種類を問わず点在している。
勿論それらの存在理由は、主の力の源となるべき生贄なのだが。
「散り逝け」
――チャリン、チャリン、チャリン、チャリン――
彼らの主が命令を下すと、ヤミーたちが瞬く間に姿形を失い、ただの銀色のメダルへと還元されていく。ヤミー一体でもけっこうな量のメダルがでる為、100体以上のヤミーが還元されてできたセルメダルの山には目を見張るものがあった。
「漸く揃ったな、5000枚」
竜王は5000枚ものセルの山に手を触れる。
するとセルメダルの山は紅蓮の閃光を放ち始め、重力から解き放たれて宙を舞い、果てのない欲望の渦を巻いていく。やがてはたった一枚を生み出す為、セルメダルのエネルギーは互いに共鳴しあい、最後には目蓋を開けることさえ許されないような凄まじい輝きが生まれた。
そして光が収まり、竜王の手には一枚のメダルが握られていた。
彼女が完全復活する為の最後の鍵である、赤いコアメダルが。
「これで全ての準備は整った」
それを皮切りに、仮面とマントで全身を覆い隠した集団の一人が大きく手を振って宣言する。
「天堂地獄!!天堂地獄よ!!決して涸れず、決して滅せず、決して終わりのこない刻を迎えよう!!生物が誕生して以来、存在し得なかった永遠の徘徊!!命に光を与え市少女と一体となり、その永遠は永劫と成る!!その喜びを何に感謝するのか!?神か?」
彼らの前、天堂地獄の直ぐ近くには、完全に心を失って人形のように黙る柳がいた。
その表情や立ち振る舞いからは、人間らしい生気は一切感じられない。
「神など存在しない!!あえて掲げればそれは今より誕生する!!」
そして一同は同時に叫ぶ。
「「「「「「「「「「天堂地獄!!!!」」」」」」」」」」
剣を上方に掲げるものや手を組んで祈りを捧げる者までいるその状況は、まるで礼拝堂に集まった信者のようだ。これより誕生する神の儀式に参列する信者・・・・・・。
「永遠を生きて何をなすの?殺戮?破壊?」
「もうちょっと有意義で面白い欲望にジェブチェンジしないのかしら?」
そこへ割り込んでくる二人の女の声。
「私たちは800年と400年という暗黒の時間を一人で生きた。それは永遠と呼ぶには足りなかったかもしれないけれど・・・私には無限の地獄にも思われたわ」
「それにリュウギョク。折角コアが揃って完全復活する間際で申し訳ないけど、全部ぶち壊させてもらうわよ」
二人は堂々と宣言した。
「面白い。たった二人でどこまで出来るか見せてもらおう」
竜王は挑発するように微笑み、刃介か七実が来るまでは此処を動かない姿勢をとった。
「あ、そう。だったら張り切っちゃおうかなぁ?」
その瞬間、シルフィードが手先を適当に上げて、
――バヒュン!!――
空気を凝縮した風の弾丸を打ち出し、一人の信者にぶつけた。
結果としてそいつは頭と胴体が消し飛んで死んだが、残った者達は
「なっ・・・」
信者達は走り出し、それによって仮面とマントが取れた。
そして、
「なめるなァァああああ!!」
醜い化物の本性を晒したのだ。
((森、光蘭!?))
余りにも意外なその姿に、二人は驚くしかなかった。
「って、近寄るな汚らわしい!!」
とシルフィードは重力を制御して化物を地面に平伏させた。
「なるほど、天堂地獄の分身体どもか・・・・・・道理でウジャウジャいるわけだわ。だって本体からはみ出た味噌っかすなんですもの」
シルフィードは嘲笑うようにして口にした。
「えぇ全く持って其の通りですね、会長」
――ビュン!――
――グサッ!――
その時、別の女性の声がしたかと思えば、いきなり空(くう)を裂いて突き進む一条の矢が分身体の眉間に突き刺さった。
「二人共、加勢しに来たよ!!」
「薫くん!」
「ナイスタイミングよ、バット!」
増援の出現に陽炎とシルフィードは喜んだ。
「あ、それから矢はきちんと返却してもらいますよ!」
バットは一気に跳躍して分身体を思い切り殴り、あとは力任せに矢を眉間から引っこ抜いて回し蹴りをかました。
「小金井くん」
「ありがとう。・・・柳ちゃん!!」
小金井は矢を受け取って礼を言うと、息を吸って大声で名前を叫んだ。
「柳ちゃん!!俺だよ、小金井だよ!!柳ちゃん!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
幾ら呼びかけても柳からの返答はおろか、リアクションの一つさえ帰ってこない。
「クク・・・・・・クククク」
そしてその状況に笑いコケ始めるものが一人。
「ふはははははははははははは!!!ふひゃははははははははははは!!!!」
分身体の爆笑は余りにも不愉快なほど、部屋中に響き渡った。
だが、
「黙れゲス」
――ズンッ!!――
「グバ・・・!!」
通常の5倍の重力がかかった状態から10倍の重力に変更し、分身体はより一層地面にめり込んで行く。
「・・・・・・まだ繭状態のトコを見ると、私たちにはまだ猶予が残されてるわ」
シルフィードは別人のような冷たい表情で語りだす。
「連中も柳ちゃんを殺すことだけはしないだろうから、本体が目覚める前に繭を潰すことが、今の私達に出来る最大の行動」
そう、リュウギョクがこの場にいる限り、刃介か七実がこの場に来ない限り、自分たちに出来る事の範囲など高が知れている。それ故の判断だ。
「一応私もさ、年甲斐も無く恋の炎に身を焦がしてるわけよ。だから同じように恋する乙女の恋路云々通り越して、人形モドキにした元凶たる輩が凄く殺したくて仕方が無い」
いつもの淫乱でおちゃらけた雰囲気は吹雪の向こうに飛ばされたとしか思えなかった。
「に・・・人形か。確かに・・・そう言える。あの女は・・・もう誰の声も聞こえず、誰の姿も見えていない。・・・”生きる力”を・・・極限まで削り取った状態ならば、正と負の力の差は・・・限りなく無となる。今なら負の力・・・天堂地獄が、正の力を喰らう事ができる・・・のだ」
分身体は押しつぶされそうになりながらも喋った。もっとも途絶え途絶えではあるが。
「あとは―――”死の力”を天堂地獄が・・・極限まで膨らませれば・・・」
「はいはい、もうわかったから・・・死に晒せ」
――グチャ――
その時のシルフィードは実に迷い無く、容赦が無かった。
まるで蟻んこを潰すような感覚で分身体周辺の重力を一気に100倍に増幅して息の根を止めた。
「そうね。あのコは私の義理の娘になるかもしれないのよ」
そこへ陽炎までもが冷たい眼差しを敵陣に向けていく。
「勝手に人形にしないでくれます?」
その声は雪が積もる山で吹き荒ぶ何かの如く、温かみを一瞬で奪っていく声だ。
そこへ、
≪CELL BURST≫
「断罪炎刀」
緋色に輝く炎の刃が二つ放たれ、更に多くの敵を焼き払った。
それを見た竜王は一言呟いた。
「また面倒なのが来たな」
*****
そして烈火と刃介は今まさに、天堂地獄に間に向おうと扉を堂々とくぐっていった。恐らくたどり着くまであと十分もかからないだろう。
しかしそこへ、
「まて、烈火」
呼び止める老人の声。
「ついにこの時がきたのぉ。決戦のとき!主の中にいると、こう・・・なんだ、血が騒ぐのだ。お主ならきっと・・・必ず成し遂げてくれると、期待が膨らんでしまう」
老人の姿を見た烈火は小憎らしい笑顔でこういった。
「最後まで勝手に外にでやがってよ、ジジィ!」
竜之炎漆式、虚空。
「・・・烈火・・・もう一度『己の世界』へまいれ。崩、砕羽、焔群、刹那、円、塁、虚空!八竜のうち七体の炎の型を極めしお主に―――」
虚空は一旦区切り、
「桜火殿が最後の力を授ける時が来た」
遂に八竜を得るときを言い放ったのだ。
「どうすんだ花菱?行けばもっと強い力が得られるかもしんないぜ?俺がお前なら即刻決断するが」
「行かねぇ」
烈火は穏やかな顔でそう静かに告げた。
「みんな今頃姫のために戦っている」
全く持って其の通りである。
「俺たちが行くのをみんな待ってる。一秒だってムダにできねぇ!力を貸してくれるつもりならそっちから来てくれ。そう親父に宜しく」
烈火はそういって虚空の出した巨大な鏡を無視して行こうとするが、
「ならばお主は九匹目の火竜となるじゃろう」
其の一言で立ち止まる。
「虚空、裂神の固有能力はなんだ?」
「核心をついた質問をしてくるの」
「こっちは暇じゃねぇからな」
刃介は虚空に己の想像を確かめるべく、訊いた。
「大方、裂神の力・・・っつーか炎は、大抵の人間にとって受け入れがたいモノとしか思えない。特に仲間との絆を重要視する輩にとってはな。使ったら最後、花菱は実父はおろか、己自身を呪いかねん」
「そこまで読めているとは・・・・・・」
虚空は刃介の洞察力の高さに驚いた。
刃介は裂神が今まで烈火の力とならなかったのは、自分の能力が戦闘向きでなく、また烈火の性質に合わないものだと考えていた。
しかし、桜火の嫡子たる紅麗の炎となった紅や磁生のことをシルフィードから貰ったデータから考察すると一つの結論に達したのだ。
「花菱。お前の親父さんの力は、きっとお前にとって一生に一度使っていいかどうかさえ判らない代物だ。だが最悪の場合を考えた場合、必ず必要になる力でもある」
刃介は烈火と向き合い、話し出していく。
「テメェの人生だ。テメェが決めて好きなようにしな」
「捌式『裂神』・・・・・・どんな・・・力なんだよ?」
「知りたくば、ゆけ。桜火に会いに行け!」
次回、仮面ライダーブライ!
呪いの児と完全体と七竜
ハオウラスコンボ
キック力:18トン パンチ力:10トン ジャンプ力:200m 走力:100mを1.5秒
身長:203cm 体重:90kg 固有能力:超々音速飛行 属性:炎 カラー:赤
必殺技:コロナフィーバー
ハヤブサヘッド
複眼の色は緑。遥か彼方にある物体さえ寸分の狂い無く捉え、透視力さえ備えている。ある意味超遠距離狙撃には打って付けと言える。
ホウオウアーム
両前腕部に鳥刀『鏃』を収めるホルスターが装備される。両肩からは10枚のホウオウウイング、背中からはラプトリアルフェザーでの羽根手裏剣を繰り出せる。
ヤタガラスレッグ
ベルト後部から三本目の足とも言える赤い尾羽が生え、それをブライの意志で自由に操れる。伸縮自在な為、両手と両脚が使えない際に有効とされる。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
作家さんへの感想は掲示板のほうへ♪