仮面らいだーブライ!
前回の三つの出来事は!


一つ!刃介と烈火は、クローン人間である葵と戦うことになる!

二つ!ブライは赤い鳥系のハオウラスコンボに変身!

そして三つ!天堂地獄の誕生儀式の最中、火影の勇士たちが殴りこんだ!

呪いの児と完全体と七竜


花菱烈火の精神世界。
大量極まる砂ばかりの、まるで砂漠のような空間。
そこで父と息子は向かい合っていた。

場所が場所ゆえ、刃介は此処にはこれず、先に決戦場へと急いだ。

「・・・・・・烈火・・・・・・火影の歴史上、炎術の資質ある子が生まれるのは一代に一子。二子生まれるのは災いを生むとして、心の魔性を感じ取られた紅麗が”呪いの児”として殺されかけた」

桜火は少し区切る。

「しかしな・・・今思えば・・・・・・烈火・・・呪いの児はお前であった」

そこで、トンデモない一言を投げつけたのだ。

「この姿となりお前の体内に入り、漸くわかった。実に信じられなかった。―――お前は炎術士ではないのだ」

トンデモ事実第二弾。

「炎術士の生み出す炎の源に『炎の型』というものが存在する。様々な姿を形どるその『力』は術者に炎を与える礎となるのだ」

そこへ来て話題を少し別の観点で語りだす。

「焔群は蛇、砕羽は鷹、円は亀、紅麗は不死鳥。・・・しかしお前の体内においては―――『炎の型』がなかった。炎術士の資質が無かった」

ならばどうして烈火は炎を操れるのか。

「『火竜』とは・・・強い無念・・・怨念を残して死した炎術士が姿を変えた炎の霊魂。彷徨う霊は生きている炎術士に取り憑く。己の無念を・・・・・・炎術士を通じて晴らし、成仏するが為に。・・・不思議に思わんか烈火?」

その不思議とは、いわば特殊な儀式で何者かを呼び出す為の呼び水や触媒の有る無しに等しい。
無論、触媒や呼び水とは、炎術士としての『炎の型』をさす。

「数えて七匹にもなった迷える火竜達はお前が生まれて直ぐワシから離れ、炎術士の紅麗ではなく炎の資質なき烈火に憑依したのだ。結果、ただの人間だったお前の体には『火竜』という究極の炎の型が埋め込まれた」

それはまるで運命や魂が触媒云々を無視して亡霊を己が身に引き寄せたに等しいのだ。

「異端の炎術士。火影に災いを生む異端児」

そして話は結論に達していく。

「火影にとっての災いとは、火影の滅亡以外に無し。お前は選ばれた、託されたのだ。火影に関わる全てを、打ち砕く為に!」

そう・・・この呪われた歴史に終止符を打つために。

「何となく理屈はわかった。俺は無理矢理つくられた炎術士って事なんだな?じゃあ俺が死んでよ、九匹目の竜になったらどうなる?」
「何も無ぇ」

実にキッパリと答えた。

「なーんも能力が無い役立たずの馬鹿な竜が出来上がる。紅麗の中に棲み付くだけの無駄な火竜になる」

――ボカボカッ!!――

「あ!父を蹴るな!!」

結局は微妙にギャグが入るのがこの世界観ゆえだろう。

「・・・・・・だから・・・・・・お前は最後まで人間でいろ。炎の霊になどなるな、人間のままでいろ」

父は息子の背中をおすべく、力強く言い放つ。

「火影を打ち砕け!!」
「応よ!!」

息子は二返事でそれを受諾した。
全ての悲劇を生み出した元凶が火影の異端者であり、魔導具ならば、それらを含めて火影そのものを歴史から抹消するのが最善の策。

「・・・これが・・・炎術士としてのお前に伝えるべき最後の言葉になるだろう。全てを知ったお前は苦悩する。しかし、烈火―――お前は選ばねばならぬ」

そして父は、その大きな背中を息子に向けて語った。
己が秘める力の本質と正体を―――それが息子の心にどう響くかをわかった上で、しかし、それでも・・・・・・。

「ワシの生前の炎の型は『―――』。故に裂神の力は『―――――――――――』ことだ」

それを聞いた瞬間、烈火は両膝と両手を地面についてしまった。

「・・・いらねぇ・・・いらねぇよ・・・俺は・・・絶対あんたを・・・裂神を呼ばないからな!!そんな炎、使えねぇ!!」

トドメとばかりに大声で、

「そんな炎いらねぇよォーーーっ!!!」





*****

天堂地獄の間。

「おやおやおやおや・・・・・・これはまた、随分増えたモノですね」

炎刀『銃』を両手に持つチェリオは、そこかしこにいる山千と海千の文字が入った二種類のマント男たちから漂う雰囲気と匂いから、言葉の中に蔑みの色をちらつかせる。

不有(あらず)――おまけに女の子から表情はおろか感情さえ根こそぎ奪うとは、万死に値します」
「ふん、やはり忍者だけあって勘は鋭いようだな」

と、チェリオに返答する一人の海千。

「やがてこの娘は永遠に生きる肉体の一部となる。融合して消滅するのだ」

バサッという音を立てて、海千はマントを取り払った。

『永かった・・・・・・永かったなァ・・・・・・私がまだ人間で・・・海魔という名前だった頃からの永い夢であった』

首から下は完全に化物と化した分身体。

『永遠の命、遂に叶う』
(なるほど、このハゲが・・・・・・)

チェリオは森とはまったく違う、落ち武者のような髪型の分身体の正体に勘付く。

『海魔・・・本体の覚醒はいつになる?』
『じきだよ光蘭』
(やっぱり。あれが魔導具の造りし歪んだ男)

状況は正しくクライマックス寸前のようだ。

『あの繭が割れて生まれ変わった天堂地獄が、治癒の少女を喰らって進化は完了する!!』
『生態系はたった一つの生命体によって狂う!祝え!!』
『『完全なる我らの誕生だ!!』』

分身体どもは大声で歓喜する。
だが、

「お慶びのところすいませんが、今から始まる行事は一つではありません」

チェリオは他のメンバーを無視して前に出た。

「始まりが終わりを、終わりが始まりを示すよう―――天堂地獄の生誕祭と同時に、御葬式を兼ねさせてもらいます」

そして一気に、

「忍法生殺し」

小うるさい分身体の二体を、彼女は一発で仕留めて見せた。
文字通り、一撃必殺とはこのことである。

「柳ィィィィイ!!!」

それを機に、風子が大声を出した。

「聞こえなくたっていいよ!とりあえず聞いとけ!!あんたはどこにも行かない!!帰ってくるの!!」
「そこは柳ちゃんの大好きなところで!」
「今までずっとお前がいた場所だ!」

柳を良く知る風子、小金井、土門の声が響いた。
それから風子は大量の山千・海千を前にしてこう啖呵を切ったのだ。

「どけ。柳を返せ」

その結果は

「イヤだね」
「イヤだね」
「イヤだね」
「イヤだね」
「イヤだね」
「イヤだね」
「イヤだね」
「イヤだね」
「イヤだね」

完全ある否定。
その返事の間、彼らは身に纏っていたマントを内側から破っていき、

『『『『『『『うははははははははははは!!!』』』』』』』

醜い化物の姿を高笑いを混ぜ合わせて晒して見せたのだ。

『圧巻だろう?忌むべき火影とそれに与する者達よ』
『封印の地で烈火と紅麗とブライに殆どの力を奪われた私達が・・・・・・コレほどの分身体を造るまで・・・力を復元させるため、随分と時間を費やしたよ』

しかしその間に、ブライ側も其れ相応の準備をすることができた。

『何百人、何千人もの人間を食い散らかしてきた!そして今宵、最高の食材を喰らうことができる!!』

それは言うまでも無い。

『喰える!!!』
『喰える!』
『喰える!!』
『喰う喰う喰う喰う!!!』

分身体の醜悪の叫びは姿形と同じく、常人の精神なら見ていられるものではない。

「全く、こんな時にあの二人は何処にいるのかしらね?」

ふと、シルフィードが口を開いた。

「それって烈火くんと鋼さんのコトっすか?」
「他に誰がいるのよ?一応はこの歴史の主役みたいな立場でしょ」
「しかしながら、まだ来られていないのも、また事実です」

トライブ財閥組はそう話す。

「あの二人と、残りのメンバーが来るまで、ここは私達だけで死守する必要がありそうね」
「ま、少なくとも兄さんは確実にやって来るでしょうから、せめてあのキモ繭だけでも潰しておきましょう」

そしてみなの心の向きは同じ方向となった。

「待ってろよな、柳ィ!!」
「もうすぐお前の忍が来る!!」
「頑張れ!!頑張って柳ちゃん!!」

もう一度、風子と土門と小金井の叫びが轟いた。

「いきましょう、皆。烈火たちが来るまでに、少しでも敵の戦力を削り取るわよ!!」
「それじゃ甘いわよ陽炎。敵を全部、ブチKILL勢いじゃないとね♪」

そんな彼らの遣り取りを繭の傍らで、最後のコアを手に持ったままの竜王は、

「甘いのはお前らだ。我刀流か虚刀流のどちらかが来ん限り、お前等に勝ち目は無い」

と呟いていたのだ。

そして戦闘は激化していく。

「皆さん。一発大きいのを決めますから、その時間稼ぎをお願いします」

チェリオは両手一杯にセルメダルを持った状態でそう告げた。

「いいけど、急ぎなさいよ」
不案(あんじず)

――チャリン、チャリン――

≪CELL BURST≫

「鎌鼬!!」
「弐之型!!」
「ドォォりゃあああ!!」

チェリオが後方でエネルギーを充填してる間に、前方で仲間達がそれを成功させようと攻撃を開始する。

――チャリン、チャリン、チャリン、チャリン――

≪CELL BURST≫

メダルのエネルギーが充填されるごとに、炎刀の銃身と銃口には昂りのあるエネルギーが溜まっていく。

「否崩れ+正突き!!」
「セェェイヤァァァア!!」
「タトバキック!!」

吹雪は体当たりの要領で突進し、双刀を刃先を敵に向けてぶつけた。
バットも渾身のハイキックを相手に食らわせる。
シルフィードも首に赤い鷹の紙・手首に黄色い虎の紙・足首に緑な飛蝗の紙を貼り付けた状態で跳躍し、三つのメダル状のリングを潜り抜けながら敵に必殺キックを叩き込む。

――チャリン、チャリン、チャリン、チャリン、チャリン、チャリン――

≪CELL BURST≫

不空(すかさず)――充填完了。皆さん、退いていてください」
「「「「「「ッッ!」」」」」」

そのひとことを耳にした一同は咄嗟の判断で其の場から離れていく。

そしてチェリオは両手に弾けんばかりのエネルギーの詰まった一対の『銃』を構え、静かに技名を言い放った。

獄炎刀砲(ごくえんとうほう)

そして、カチャという獄小さな引き金の音がすると同時に、


――ッッヴゥゥオオオォォォオオオオオ!!!!――


銃口より信じられないほど巨大な火炎が放射されたのだ。
一対の銃口よりでる火炎は互いに二重螺旋を描くように絡み合い、よりその熱と威力を高めている。
恐らく数万度はあるであろうこの劫火で焼かれて生きていられる者がいたとしたら、そいつは最早神代の怪物か、宇宙からやってきた存在だと思ってもいいだろう。

『させるものかァァァ!!』

分身体たちは一斉に繭の前で肉の壁をつくり、全滅覚悟で本体死守を決め込む。
自分たちが消えても、竜王が残れば本体の警備になんの支障も無いがゆえの行動。
しかし、

――パクッ――

竜王は最後のコアメダルを口の中に放り込んだ。
すると彼女の体からは表現の仕様が無いオーラが溢れだす。

――バシャーーァァアアア!!!――

そして片掌から、大洪水に匹敵するであろう超絶的高圧水流を放ち、瞬く間に獄炎刀砲の焔を消火してしまったのだ。

「私がただ見てると思ったか?立場上は一応、こやつ等の協力者なのだぞ?」

竜王は涼しい表情で言い切った。
文字通り、コアメダル十五枚が揃った完全復活状態で。

『おおォォ!!よくやったリュウギョクよ!!』

森の分身体がそう叫んだ直後に、当の竜王本人は「ふ・・・っ」と何処吹く風のようにしているだけだ。

――ドクン・・・ドクン・・・――

そうしていると、本体の繭からは不気味な鼓動音が聞こえてきた。

――ブシュ・・・!――

すると今度は、繭に張り巡らされた血管のような部分が次々と裂けて血が吹き出していく。

『繭が割れる!!目覚めるぞ光蘭!!我らの本体が覚醒する時が遂に来た!!』
『おお!!』

森と海魔らは大いに喜ぶが、火影側からすれば悪報この上ない。

「なんか、ヤバい!!みんな!今のうちに、あの繭を壊せぇ!!」
「そうしないと、取り返しのつかない事態に!!」

風子とチェリオは決死の叫びを散らすも、簡単にコトは進んではくれないものだ。

『そう・・・は・・・させるかァァァア!!』
不生(いかさず)!!」

――ザシュ!!――

チェリオは突っ込んできた分身体を『鎖』で撫で斬り殺す。
状況は完全に切羽詰っており、下手な時間つぶしを喰らった瞬間にアウトだ。

「吹き飛びなさい」

――ビューーウウウゥゥン!!――

その瞬間にシルフィードが凄まじい竜巻を起こして分身体を壁に叩きつけさせると、陽炎と並び立ち、

「「覚悟」」

実に冷たい言の葉を口に出す。
無論、分身体などという戦闘員の強化版程度などまだ生温いことは重々承知している。
繭を護る最大の砦である竜王があの場にいる限り、繭を破壊することは夢のまた夢。
いや、たとえ持ち場を離れさせても真庭忍法を使われれば一発でお終いだ。
だが、だからといって、はいそうですかと引き下がるのはプライドが許さない。

「はぁ・・・無謀な「本当に無謀と思いますか?」・・・この声」

竜王の言葉を遮る若い女の声。
その声がした方向を探る前に、彼女の体は本能的に両の忍者刀で防御の姿勢をとっていた。

「虚刀流、蒲公英」

――バキン!!――

繰り出された貫手によって、2本の刀の刃は一発で折られてしまった。
そこへ更に、

「氷紋剣、氷舞」

地面から野太い氷の刃が生えてきて竜王の胴体を串刺しにしようとするが、

「通さん」

竜王は片腕をグリード化させてそれを防いで見せた。

「水鏡くん!七実ちゃん!」

シルフィードは更なる合流という戦力増強にとても嬉しそうな声をだした。

しかし後から考えると、この感情は糠喜びと表現すべきであろう。

え、何故かって?それは当然―――。

――ド・・・クン――

「目覚めた」

時間切れだからである。



――バシュ!!!!――



繭は割れた。内側から裂けられて、血を撒き散らしながらだ。
一瞬、腕が最初に飛び出したかと思えば、次の瞬間には何かの上半身が出たように見えたが、瞬きする毎にそれの出具合は進行しており、次に瞬きした時はもう既に

「きっ・・・消え――ガシッ!!――」

陽炎の背後で、鋼刃介がグリード化した右腕で、誕生した異形者の肩を掴んでいた。

「よう、待たせたな。ラスボスさんよォ」
「遅かったですね、刃介さん」

刃介は何もかも最初から知っているように異形へと話しかける。

白くて逆立った髪の毛、クールさを思わせる美形な顔立ち、額や上半身に浮かぶ不気味な目玉、顔や上半身に刻まれた奇妙な刺青っぽい模様、下半身はまるで山羊のような異形の者。

言うまでも無い、天堂地獄の『本体』である。

『・・・・・・・・・』

天堂地獄は無言で刃介の顔を見た。
そして刃介もギョロリと動いた天堂地獄の眼を直視した直後に、

――ブァガン!!――

凄まじく大きな音がした。
拳と拳がぶつかり合う音であり、その衝撃波が発生した証明でもある音だ。

天堂地獄は一旦距離をとり、自分の体をまじまじと見つめた。
まるで品定めでもするように。

『これ・・・が・・・新しい私か・・・悪くない』

その時の表情は何処までも冷血そう見えた。

『全てが計画通り。あとは、治癒の少女との融合だけだ』

そして矛先は、未だに海千と山千のマントとマスクを纏った分身体たちが後生大事そうに固まって囲んでいた、人形と化した佐古下柳へと向けられる。

『一つの肉体の中に二つの人格が同時に存在するというのは不思議な気分だ。『人間』だったころは森光蘭と海魔という、生まれた時代すら異なっていた二人が―――同じ思考、同じ目的で混じり合っている。今も我等(・・)の意見は一致した』

天堂地獄は一度はうつむかせた顔をあげ、『人形』と化した者を見やる。

『治癒の少女を喰らいたい!!』
「ふざけんなボケナス」

――ゴギッ!!――

刃介は空気も勢いもあえて読むことなく、天堂地獄の脳天に踵落としを決め込んだ。

「何カッコ良さ気に決めてんだよ悪役?そういう奴に限って黄金パターンでやられるんだよ」
『・・・貴様・・・やはり阿呆だな』

天堂地獄は刃介の足を振り払う。
しかし刃介は構わずにこう言った。

「阿呆ねぇ?だとしてもテメェ程じゃないさ。永遠なんざ手に入れても、手に入れた途端に意味の無い時さえ過ごす事になりかねないからな。だから俺は不死なんて要らない。滅亡でもしてクソつまらなくなった世界で生きかねないなら、俺は死にたい時だけ死ねる命が欲しいね」

そう。永遠を得るということは、陽炎がそうだったように孤独になるしかないということであり、時の果て、いや果てしない時さえも永久に生きねばならない重荷を自ら背負ってしまうのだ。

「だから俺はテメェを叩っ斬る!お前の欲望は冗談抜きで迷惑だからな」
『フン・・・・・・リュウギョク』
「なんだ?」

天堂地獄は竜王に話しかける。

『この大虚け者を相手をしてやれ』
「別に構わないが、お前は他の連中全員とやるという認識でよいのか?」
『構わぬ』

それを聞いた瞬間、竜王の全身は五色に煌くメダルに包まれ、怪人形態である龍の宝玉(リュウギョク)へと変わったのだ。

それを見た刃介は天堂地獄から目線を放してリュウギョクに意識を集中させる。
ブライドライバーのローグレイターに三枚のコアメダルをセットして傾かせる。
そしてローグスキャナーでそれら三枚を読み取って見せた。

「変身!!」

≪RYU・ONI・TENBA≫
≪RI・O・TE!RIOTE!RI・O・TE!≫

欲望の剣士、仮面ライダーブライ―――暗闇と血錆のリオテコンボ。

「ふぅぅ」
『ふふふ・・・』

ブライは少し長めに息を吐き出す。リュウギョクも嬉しそうに笑みを零した。

「なにが可笑しい?」
『いや、嬉しいのだ。これで漸く私がブライに勝てると思うとな』

コアメダルが十五枚揃い、全身とベルトが完全復活した今のリュウギョクの脅威は計り知れない。

「そうか。俺も嬉しいよ。コアとセルが大量に手に入りそうだ。それも一気にな」
『出来るものなら遣って見せろ。出来れば、の話だが』

リュウギョクは挑発するように言って見せると、先ほど折られた忍者刀の柄を手にして構えた。
すると忍者刀の折られた刃は、なにやら妖しい光を纏い出し、その光が煌きながら動くたび、刀身は瞬く間に復元されていく。

それを見たブライも魔刀『釖』を両手に持ち、構えた。

「『破っ!!』」

二人は同時に駆けた。
両の足で地面を蹴り、全力で正面の相手に向かい合う。

――ガキン!!――

魔刀と忍者刀がぶつかり合い、あたりには衝撃が走る。
ジリジリと刃が擦れ合い、今にも火花が散りそうな状況だ。

爆縮地(ばくしゅくち)!」

その瞬間、ブライは消えた。

『ん、何処に?』
「こっちだ!」

そして後ろに回りこんでいた。

爆縮地とは、『刀語の世界』の堕剣士・錆白兵や家鳴将軍家十一人衆が一人・浮義待秋が使う移動法。
その名の通り、爆発的速度で距離を縮める足運びである。
もっとも、刃介が見取ったのは浮義待秋の爆縮地なので、錆白兵のそれには及ばないだろうが、初見であれば敵を錯乱させるには充分だ。

「六の奥義、錦上添花(きんじょうてんか)!!」

――ザシュ!――

本来なら両の手刀を上から振り下ろして敵に攻撃する奥義だが、今回は魔刀を手刀代わりにして使用し、より斬撃に特化したものとなった。

『ほう、中々の威力だ』

しかし数枚のセルメダルさえ零すことすらなく、リュウギョクは平然としている。

「流石は、完全体・・・か」

ブライは些か感心したようだが、動きは止めない。
そこから更に、リュウギョクの体をジャンプ台代わりに跳躍して上方に跳んだ。

「七の奥義、落花狼藉(らっかろうぜき)!!」

上空から繰り出す戦斧に見立てられた片足による踵落とし。
落下の速度とブライ自身のパワーも合わさり、その一撃は巨大な岩さえ真っ二つに割ってしまうだろう。

だが、

『フン!』

リュウギョクは耐えた――というより、忍者刀で受け流したと言うべきだろう。
結果としてブライの身はそのまま片足をあげた状態で地面につくこととなる。
正直言って恰好の餌食としか言いようの無いだが、

「まだまだぁぁ!三の奥義、百花繚乱(ひゃっかりょうらん)!!」

地面についていたもう一方の足を思いきり上げ、リュウギョクのベルトのバックルに飛び膝蹴りをかましたのだ。
ガギン、という音が強く響き渡る。

『くッ・・・流石は我刀流。勝利に対する執念は凄まじいな』
「当ったり前だろ。こんな場所で寿命を中断したくないからな」

ブライは胸を張って言い切った。

『ならば、此方も其れ相応の忍法でお相手しなくては失礼だな』

リュウギョクは構えた。

『もう少し戦いを楽しみたいが、お前ら一族は戦いが長引けば長引くほど脅威になっていく。ゆえに、一撃で仕留めさせてもらう』

そういった直後、彼女の両の眼は薄らと虹色の光を灯しだす。
他者を幻想に魅入らせる幻惑の魔眼―――魔眼は幾つか階級分けがなされており、ある一定を越えると相手と視線を合わせずとも効果を発揮できる。

しかもリュウギョクの魔眼は最上級の虹色。彼女の視界に入った者は、問答無用で幻想の世界に引きずり込ませる。

そうしてブライの動きは一気に鈍くなった。
そしてリュウギョクは二振りの忍者刀を手に、複数体の影分身して囲み、河の激流とも言える太刀筋を天下無双の怪力と疾風の速さで振るう。

『真庭忍法!劉殺生!!』


――斬!斬!斬!!!斬!!!!――


発動する必殺忍法。容赦の無い連続同時攻撃。
乱れ舞う血飛沫と地面を濡らす真っ赤な血貯まり。

――バタ・・・ッ――

『これで、私「まだだ・・・・・・!」――な・・・に・・・!?』

有り得ない!

そう思えざるを得なかったが、前例があるのを思い出した。

そう、800年前に初代オーズが五大グリードを封印した後、お流れとなったブライとの決着を果たす為、リュウギョクは日本のある拓けた場所で鋼一刀を倒す為、忍法劉殺生を使った。
結果として彼は左腕を斬り飛ばされ、体中から今にも死にそうなほどの出血を起こした。
だがそれでも彼は諦めずに喰らいついてきた、只単に負けたくないが故、戦いによる勝利を味わう欲望の為だけに。

あの時の鋼一刀の人間としての『何か』を超越しきった眼光に、かつてのリュウギョクは心底身震いさせられた。
思えば、あの予想さえ出来ない『何か』の所為で、リュウギョクは石棺の中に封印され、400年の眠りにつかされたと言える。

(まさか、こやつも・・・・・・!!)

刃介が我刀流―――鋼一刀の血族であるならば可能性が零ということこそ有り得ない。

「俺ぁ・・・まだ負けちゃいねぇぞ」

体中から血を流し続ける血濡れのブライは、そのあまりに凄惨な姿とは真逆にしっかりと立っていた。
揺ぎ無く、2本の足で立派に立っている。

「あ・・・・・・でも、やっぱちょいと疲れたな」

といって、ブライは座り込んだ。
リュウギョクは首をかしげてブライの行動に疑問をもつが、次の一言で合点がいった。

「おい、花菱」

名前を呼んだ。
もう一人のヒーローの名前を。

そして、


「おォォォうよ!!!」

――ガッッ!!!――

花菱烈火の右手が、天堂地獄の顔面に拳を叩き付けた。

「火影忍軍七代目頭首、花菱烈火、只今参上だぜ!!」

ヒーローは名乗りを挙げた。
迷いの一片さえなく、堂々と誇らしげに。

「ふっ、悪くない登場だぜ、ヒーロー」

そんな烈火にブライは、珍しく賞賛の言葉を投げかけたのだ。


そしてさらに、

「竜之炎壱式・・・『崩』」

よろめく天堂地獄に、火炎の弾丸こと弾炎(だんえん)が無数にわたって撃ち放たれ、天堂地獄の体を焼き散らしていく。

「竜之炎参式『焔群』」

――ズシャ!――

そこから一気に炎を右腕に纏わりつかせての強力なパンチを食らわせた。

「おい、風子!!」
「はッ・・・ハイ!」

呼ばれた風子は返事をした。
そして烈火の口から、

「今殴った奴誰だよ?」

思い切りズッコケを誘う一言が出てきた。

「何いってんのさ!!アイツが本体の天堂地獄だって!!」
「顔、違うじゃん」
「でもそうなの!繭から出てきたの!」
「ふーん」

なんだか状況的に不釣合いな会話だが、烈火の登場になんだか慌てだす分身体。

『花菱烈火だぁーー!!治癒の少女をとらえよ!!』

その海魔の号令で他の分身体が一斉に柳の身柄を確保しようとした瞬間、


『塵塵塵塵塵塵塵塵塵塵塵塵塵塵塵塵塵塵塵塵塵塵』


呪詛のように唱える一匹の竜が、柳の身を護るようにしてとぐろを巻いて姿を現した。

――メキッ――

隠し持つたった一つの眼光、それが開かれた瞬間、

『瞬炎!!』

――ヴォン!!――

分身体たちが燃えていった。今ので五体は減っただろう。

「さ・わ・る・な」

烈火は冷ややかな目付きで分身体にそういった。

分身体・森は戦慄して、

(馬鹿な!?ブライは兎も角、奴だけは此処に来るまで殺せと命じたはず!あの・・・失敗作が!!ヤミーがついても、足止めにすらならんのか!!)

責任転嫁しだした。

「よッ・・・意外とナイスタイミングだったぜ、花菱」
「そうかよ。だったから今度なんか奢ってもらうぜ」
「言っとくが、下手に値が高い場所へは行かないぞ。精々ラーメン屋程度だ」

ブライは座って体の回復を待ちながら烈火と会話する。

「七実、金女・・・セルメダル」
「はい、兄さん。ほら、義姉さんも」
『わかっています』

刃介の体はグリード化がかなり進行している。
だから普通に自然治癒を待つよりセルメダルを吸収したほうがこの場合において効率は良いだろう。

しかしそこで、

『ふう・・・帰属せよ』

天堂地獄は、溜息をつき、一言発した。
その瞬間、


――ドギュルルルルルルル!!――


幾多もの分身体たちが一斉に本体に吸収されていく。

『おぎゃ!ほぎゃあ!』
『ぉぎゃああああああ!!』

――にゅる!じゅる!――

嫌な叫びと音を立てながら吸収されていく分身体と、それを当然のようにして平然としている本体。

『察しの通り、今の状態では本体もダメージを受ける。しかし、元は本来一部だった我等が、割れることも可能だが戻る事も可能だとしたら・・・・・・この意味がわかるなぁ?』

そして天堂地獄・本体は

『復元だ』

完治してみせた。

『ここに存在する数多の分身体は戦力とは考えていない。全ては本体復元の為の予備電源にすぎぬのだ』

完全に傷をふさいだ天堂地獄は、その端正な顔をクールな表情で保ったまま語る。

『とは言えその炎、相変わらず厄介だな』
「ホントにてめーか、森・・・!上等だな。復活する前に焼き尽くしてやんぜ!!」
「威勢がいいじゃねぇか花菱。なら俺も回復し次第、すぐさま戦いに復帰させてもらうぜ」
『おい我刀流。そんな回復の時間をこの私が与え「お姉ちゃーーん!!」・・・煉華?』

その時、リュウギョクを姉と呼ぶ声が聞こえてきた。

「お姉ちゃーーん!!!」

漆黒の衣を纏ったクローン少女、煉華。
人工的な炎術士は、身も心も恐怖に震わせながら、リュウギョクに抱きつき、その恐怖を伝える。

「お姉ちゃん助けて!!お兄ちゃんに・・・お兄ちゃんに殺される!!こわい!怖いよォ!!助けてお姉ちゃん!!」
『全く、だからヤミーを連れて行けといったのに・・・・・・』

どうやら煉華は紅麗が進んでいたルートの番人だったようだが、例に漏れず返り討ちにされてここまで逃げ延びてきたのだろう。
リュウギョクも流石にこの無謀の結果には呆れ果てた。

『紅麗も生きているか。ならば今すぐにでも、免疫をつくるとしよう』

その時に初めて、天堂地獄の顔は醜く歪んだ。

『貴様に一つマジックをみせるよ、烈火』

――ドゴォォン!!――

岩の壁を突き破り何かが這い出てきた。
一言で言うならそれは、

『ギュオオオオオオオ!!!』

全身に目玉を生やした黒い大蛇。

「あの蛇・・・・・・まさか!?」

それを見たシルフィードはコアの創造に携った魔術師として、何かを悟った。

――ガシッ――

すると、分身体が煉華の肩を掴んでリュウギョクから引き離すと、

――バン!――

突き飛ばした。

「え、パパ?」
『貴様も本体進化の生贄となれ。失敗作』
『ッ!煉華!私の手を!!』

分身体の一言で察したリュウギョクは急いで手を伸ばした。
だが、

――バクッ!――

煉華の体は大蛇に噛み付かれた。

「やだ・・・やだよ!!どうしてパパ!?助けて!!死にたくないよォ!!」
『煉華ェェ!!』
「お姉ちゃん、わ・・・た・・・し―――」

――カキッ――

リュウギョクの叫びも虚しく、煉華は大蛇に銜えられたまま、物言わぬ石像へと変わってしまった。

「てめえ、自分の味方まで!!止めさせやがれ!!」

烈火は連続的に炎をうちまくった。
それによって多くの煙がでて、何かが燃えたかと思われたが、違った。

『・・・・・・大蛇(これ)も我が肉体の一つでね・・・喰らった者の能力も喰える。つまりこの場合、炎の抵抗力が強い炎術士を喰ったことで―――炎を手に入れた。そしてもう炎は効かぬ!!』

天堂地獄の右手から、煉華と同じ青緑の炎が燃え上がった。

『我等二体が天堂地獄の本体だ。我が『戦闘』を司るなら・・・大蛇(こいつ)は『吸収』を司る。喰うことによって吸収した力を我に流す事ができる。元が一つなわけだから造作も無い』

次の瞬間、

――スギャ!!ドン!ドン!ドン!――

天堂地獄の右手からは青緑の火炎弾が放たれる。

――(まどか)――

だが烈火は炎の結界でそれを防いだ。

『ほーう。”炎を生む”というのはこのような感覚だったのか。あまり熱いとは感じない・・・思っていたより簡単に出る。面白いな』

天堂地獄は手から出る炎を興味深げに見ている。

『今にして思えば―――』

天堂地獄は石と化した煉華をみて、

『貴様はこの為だけに生まれたのだな、煉華!あははははははは!!』

恩知らずとしか言いようのない死者に鞭打つ発言をしたのだ。
だが、


――ザシュ!!――


何者かが、天堂地獄の両腕を肩口からばっさりと切り裂いて見せた。

『なんのつもりだ?』

天堂地獄が余裕の表情で問い詰める。
それは、

『忍者とは古来より、卑怯卑劣が売りだ』

リュウギョクだった。

『お前の成体化と私の完全復活。この二つが満たされた時点で、私とお前が結託し続ける必要がどこにある?』
『所詮は主無き愚かなくノ一か』

今この瞬間、真庭竜王と天堂地獄の決別は完全なモノとなった。

『まあ良い。どの道、永遠を歩むのは我一人だけで充分だ』

天堂地獄は分身体を四体ほど吸収して両腕を復元した。

「リュウギョク・・・お前・・・」
『勘違いするなブライよ。あくまで私はこの下郎が気に入らんだけだ。この場が収まれば、私がすぐにでもお前との決着をつけるぞ』

リュウギョクは決意のこもった瞳で語った。
しかし天堂地獄は、

『誇り・・・命・・・実に下らない。それを奪い取るのも、一興であり、快楽だ』

冷静な表情でまた語りだした。

『そこから始まるのだ。此の世の全てから全てを奪い取る我が徘徊が。数え切れぬ程の人間・・・動物の命を毟り取る!全部は殺さずある程度残す。生きるものは繁殖し、また命を増やす。また毟り取る。残す、増える、毟り取る。無限に繰り返される地獄絵図・・・新たなる自然の摂理となろう』

――ヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォ!!!――

『思い浮かべるだけでもゾクゾクする。心地好い「終わらぬ人生」になりそうだ』

地獄を想像させる火炎が、リュウギョク・烈火・ブライに振りまかれた。
誰もが三人のダメージをイメージしたが、事態は凄まじく意外な一言で好転した。

「・・・・・・烈火・・・くん・・・・・・」

人形となっていた柳が、声を出して愛しい人の名前を呼んだ。
その瞬間、火炎は弾け飛んだ。

「呼んだか?姫!!」

その時の烈火の表情は実に希望に溢れた嬉々としたものだ。

「柳・・・柳?今・・・なんて言った?もう一回・・・もっかい言って!」
「烈火・・・くん・・・・・・」

表情はいまだ人形だが、心は・・・・・・!

「聞いた・・・?聞いたな、烈火!!柳が見てるぞ!!こんな状態でも柳はお前を見守ってる!!お前を待ってたんだよこんチクショーーーッ!!」

風子は喉が潰れそうなほど大声で烈火に報せた。

当の烈火はというと、

「ああ」

拳を握り、

「元気でた」

心のマグマを再び滾らせた。

烈火は端っこがボロボロになったシャツの袖を引きちぎる。
すると腕に刻まれた火竜の刻印が露になるが、それを見た陽炎は、

(まだ八匹目の火竜の封印が解かれていない!?火竜の長、裂神は烈火を認めていない!?)

正直にいうとこの予想は大いに違う。
はっきり言って、裂神が認めていないのではない、烈火が認めていないのだ。

『・・・いい加減遊ぶのも飽きたな。そろそろ貴様の八竜を喰うか』

天堂地獄は指先を舐めながら呟いた。

――砕羽――

右前腕部から生やされた炎の刃。
烈火は跳躍し、勢いに任せて天堂地獄の体をザシュンと斬った。
そこから距離をとると、

――焔群――

『キェェエ!!』

炎の鞭が烈火の右腕の動きに合わせて動き、天堂地獄に突撃していく。

『ふははははは!!全ての火竜を試す気か?あえて受けよう!そして知れ!!』

天堂地獄の体は炎の鞭によって拘束された。

――刹那――

『その力が!!無力である事を知れ!!』
『塵っ・・・!』

刹那の一つ目による瞬炎が、天堂地獄を飲み込んだ。
だがしかし、

『くく・・・くくく・・・見よ。其の眼で全てを焼き尽くす刹那も効かん!次はなんだ?何を出す!?』
「問うわ」

その瞬間、綺麗で長い黒髪と裸の上に薄手の着流し一枚だけという特徴的だが眼のやり場に困る格好をした妖艶な美女が現れる。

「あなたの運命、この後いずこへ向って?」
『知れた事。破壊と殺戮を繰り返す永遠の生!』
「・・・・・・・・・哀れな・・・」

そうして、美女の姿は変わる。炎の竜へと。

「私には火影の歴史と共に朽ち逝くお前しか見えぬ」

――塁――

塁の火炎が天堂地獄に直撃する。
だがまだ滅することはできない。

そこで烈火は、

――円――

まずは炎の結界で仲間達の身の安全を確保して

――崩――
――虚空――

最多と最強の組み合わせを発動する。

『これで七匹・・・全て受けきった後、貴様は絶望する!!撃てよ、烈火・・・!!我を殺す術は無い!!』

虚空の能力は、一個の『炎の玉』を作り出し、それを介して強烈極まる炎のレーザー砲を打ち出すこと。
崩の能力は幾多モノ『炎の玉』を作り出して敵にぶつけるというもの。
どちらも炎の玉を扱うものであり、この二匹を同時召喚した場合、当然のことながら炎のレーザー砲は一筋だけでなく、三つにも五つにも七つにも増殖する。

そして―――

放たれる光は、眼前にいる全ての元凶に降り注いだ。

次回、仮面ライダーブライ

友情と決意の答えと烈火の炎


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