これまでの、仮面ライダーブライ!
欲望から生まれた未知なる力、オーメダル!そこから生まれし欲望の怪物、グリード!
その欲望を軸にして戦う我刀流二十代目当主・鋼刃介と、平行世界より現れた異端なるグリード・鑢七実。
火影忍軍との共闘により、殺意と欲望の塊・天堂地獄を破壊した彼らの前に、新たなる戦いの運命が待ち構えていた!
対戦格刀剣火絵巻!
剣劇活劇欲望劇!!
短いながらも今此処に、第二章の開幕だ!
戦記と旧友と蒐集者
某日の深夜のこと。
トライブ財閥では、ある事件が現在進行形で起きていた。
そのトラブルというか事件を一言でいうならば・・・・・・窃盗事件だ。
財閥の本社ビルの特級武器庫に保管されていた十一本の刀のうち、三本が盗まれてしまったのだ。
――ヴィーン!!ヴィーン!!ヴィーン!!――
聞きなれてるようで聞き慣れていない警報の音がやかましく鳴り響く。
「おい、見つかったか!?」
「いや、まだだ」
「ったく、一体どこのどいつだよ?」
警備員達も慌しくビルの中を走り回っている。
そんな大混乱において、
「こいつは良い”お宝”だぜ。流石は四季崎の完成形変体刀・・・!」
整った顔立ちの上にあるモスグリーンの頭髪が特徴的な青年。
その腰には三本の刀が帯刀されている。
折れず曲がらず錆びず、というキャッチコピーが売りの直刀こと”絶刀『鉋』”。
此の世に斬れぬ物は無いと言われている絶対斬撃の居合刀こと”斬刀『鈍』”。
刀の毒気とされる四季崎記紀の残留思念を最も深く宿した黒刀こと”毒刀『鍍』”。
「刀語の世界」においては一本だけでも国一つ分の領土が買えるであろう国宝級の超芸術品とされている程の刀達である。
「にしても、絶刀と斬刀は兎も角、毒刀だけは取り扱い注意だな。下手して抜き身のコイツを握ったらヤベーからな」
青年は変体刀の情報を前もって調べていたのか、毒刀だけは手が届きにくい場所に差している。
しかし、ビルの真正面でこんなものを腰に差していたら否が応でも目立つ。
幾ら屋内から出たばかりとはいえ、こんなところで無駄な口を叩こうものならば・・・・・・
「あ・・・!い、居たぞ!!」
ほら、こんな風に見つかる。
「鬱陶しい連中だなオイ?」
青年は機嫌が悪そうな表情になると、片手を上に向って伸ばした。
すると突然空間が歪み、灰色の超小規模なオーロラが発生し、青年はそこへ手を突っ込み、ある物を引っ張り出した。
「さて、出番だぜ・・・」
それは大きな黒い刀だった。
いや、刀というには些かデザインが奇抜ではあるが、それは紛れも無く刀だ。
青年はそれを使おうとした瞬間に、
『ヴォオオオ!!』
謎の怪人と遭遇してしまう。
それを観た警備員達は、
「な、なんだあの化物はぁぁ!?」
「に、逃げろぉぉ!!」
蜘蛛の子を散らすようにトンズラしていく。
「こいつは丁度良い。野次馬を楽しませる為に戦う趣味はないしな」
青年は目の前の異形に切っ先を向ける。
異形の外見は一言で言うならば、刀だ。
それも毒気を押し込めたような黒刀で積み重ねられたような外観をした怪人。
「なんか変わってるけど、ヤミーっぽいな」
『・・・・・・・・・』
青年は怪人のことについても多少は知ってるらしい。
「それにしても誰が造ったんだ?こんなヤミーを担当するグリードなんて、観た事も聞いた事もないんだが」
しかし青年にもわからないことがあるらしい。
だがヤミーはいきなり無言である。まるで喋る必要がもう無いかのように。
(ん・・・?いきなり黙りやがって、なんだってん・・・・・・あれ?)
青年は漸く気がついた。
盗んで帯刀していた変体刀のうち、一本が無い事に。
暗闇と奴の黒い体躯ですこし気づくのに時を要したが、月明かりが直ぐに謎を解いてくれた。
『これは貰っていくぞ』
ヤミーの手に、鞘はおろか刀身さえも漆黒な毒刀『鍍』が握られている。
刀の鞘口から漏れ出る瘴気が異様なものを醸し出しているが、何故かこの刀のヤミーには似合っているように見える。
『否・・・返してもらう、というべきかな?』
「返して、もらう・・・?」
青年は首を傾げたが、ヤミーはそれに気にも留めず、思い切り跳躍して都会の闇に紛れた。
「あ、毒刀!・・・ああもう、折角のお宝が!」
青年は悔しそうに腕を振り回したり地団太を踏む。
だが青年はすぐさま其れを止めると、
「絶対に尻尾掴んでやるぜ」
とだけ言って、残った二本の完成形変体刀を帯刀したまま、青年も暗闇に消えた。
*****
翌日の早朝。
鋼家の寝室にて、刃介と七実は布団の中で眠っていた―――
――パチっ――
と思われたが、七実は唐突に両目を開けて起き上がった。
布団から出た直後ということもあり、寝巻きである襦袢一枚きりの姿だが、七実はあまり気にする様子も無く刃介の静かな寝顔を優しげに見つめると、そのまま立ち上がって台所に向った。
かつての刃介は自分の食事は自分で用意していたが、あくまで一人暮らしだったのが理由だった為、自分より料理が上手い七実が来て以降は彼女に一存するようになっていた。
傍からすれば刃介がサボっているようにも見えるが、しっかり者で働き者の七実にとっては意外と心地良い一時(ひととき)だったりする。
――グツグツグツグツ・・・・・・!――
ガスコンロに用意した鍋にある大量の水が沸騰してきた。
七実は間髪入れずに冷蔵庫から味噌を取り出し、更にはダシである煮干と鰹節も一緒に持っていく。
「えっと・・・こんなものですかね」
目測で味噌の量を加減し、熱湯の中に入れて混ぜ合わせる前に、ダシとなる煮干と鰹節を入れておく。そしてダシが出てきたのを待って味噌を入れて溶いて行く。
因みに鋼家の食卓では、味噌汁のダシは基本的に煮干・鰹節・貝類といった海産物で占められており、具なども入れずにダシと味噌の味を楽しむことを重点に置くことが多い。
だが真実を語ると、単に刃介の味の好みに合わせているというべきだろう。
そのまま勢いに乗って味噌汁を出来上がらせると、七実はまな板に置いておいたを包丁で切っていく。
今日は比較的簡単に済ませるつもりなので適当な漬物辺りであったりする。
すると、
「うっ・・・ふああ・・・」
刃介が起きて来た。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
簡単な朝の御挨拶。
「すぐ出来ますから居間で待っていてください。御飯はもう炊けてますから、炊飯器から自分の分をお茶碗に入れてくれるだけでいいですから」
「そうか。じゃあお前の分も用意しとくよ」
「はい。お願いします」
簡素で何処にもありそうな会話を終えて、鋼家の食卓準備はどんどん進行していく。
刃介は棚から茶碗を二つ出し、炊飯器から杓文字で香しい白米を盛って卓袱台に置いた。ついでに二人分の箸と、茶を入れる湯呑みを用意することも忘れない。
後は七実が食事を盆に乗せて運んでくれば食事は始まったも同然だ。
「「いただきます」」
二人は爽やかな朝食を口を通して胃の中に放り込んでいく。
途中で七実が味の感想などを聴いたり、刃介が高評価を出すなど、一見すれば和風な一般家庭に見えないことも無い。
まあ、そんなこんなもあって朝食が終わり、二人共襦袢から普段着に着替える。
言うまでも無いが、刃介は黒い着流しに黒い布製の長ズボン。七実は死装束のような白い小袖だ。
実を言うと、この二人がさっさと食事を終えたのには訳が在る。
「刃介さん。ご自身のコアは今、何枚ですか?」
「変身用をあわせて十二枚。此間の戦いでコンボを連発した事だし、そりゃ増えもするよな」
「では、一度だけ試しに二人揃ってコアを全て取り込んで完全体になってみませんか?」
このような理由があったのだ。
実際のところ、刃介は当然ながらも、七実のコアのうち三枚は刃介が常に携帯していたので、基本的にコアは九枚の状態だったのだ。
しかし、刃介のコアが増えに増えたことを切っ掛けに、今後のことを考えて一度だけ完全体になろうと考えたのだ。
「んじゃ・・・行くぞ」
「はい」
七実はヤイバ・ツバ・ツカ、刃介はリュウ・オニ・テンバのコアを手に持ち、そのまま相手に向って投げあった。それによって三枚のコアは二人の体内に投入され、晴れて二人のコア枚数は十二枚となった。
二人はそのままグリードへと姿を変えた。
『・・・・・・・・・足りませんね』
『ああ、何か満たされた気がしねぇ』
七実はベルトの部分も含めて肉体は完全復活している。
だが彼女も刃介も足らないと洩らした。肉体面は完全復活しているというのに、何が足らないのか。
因みに刃介のグリードとしての姿は、シンボルカラーは金色で、アクセントとして銀色のラインがあり、両目は赤黒くて鋭すぎる眼光をしている。頭には一本角が生えていて体のいたる部分に超が付く程の名刀や妖刀に匹敵するであろう鋭利さを備えている。
正直なところ、新劇場版のエヴァ初号機を想像してもらうと助かる。
『肉体的には満たされた感じなんですが、一体なんのメダルが欠けてるのでしょうか?』
『お前でもわからないんだな、キョトウ』
『幾ら私でも全知全能の神というわけではありませんよ、ガトウ』
キョトウ、ガトウというのは刃介と七実が自らのグリード体の名として、それぞれの血族が受け継いできた流派名をそのまま銘に据えたものである。
二人はそのまま人間体に戻って座布団に座り、顎や頬に手を添えて思案する。
するとその時だった、
――ピリリリリ!――
スマートフォンから着信音が鳴ったのだ。
刃介は懐からそれを取り出し、早速通話する。
「はい、もしもーし」
『鋼くん。私よ、シルフィード』
「ああ。何のようだ?また吸血か?」
『それもあるんだけど、別件で面倒ごとが起きたのよ』
「・・・・・・それでまさか、来てくれってことか?」
『御名答よ』
刃介は少々怠慢味を帯びた表情をしだす。
「面倒だ」
『そう言わないでよ。きちんと報酬も払うから』
「――――――」
刃介は無言になって考える。
「刃介さん。行ってみては如何ですか?流石にシルフィードさんの頼みを無碍にすることはできませんし」
と、七実の一言がトドメとなり、
「わかった。良い酒と抓み用意しろよ」
引き受けることとなった。
ただし、この時の刃介はまだ知らなかった。
この決断が後になって、己が過去を振り返り、直視する道へ続いていく事には。
*****
トライブ財閥・会長室。
「いらっしゃい。要望どおり、上物のワインと御抓みを用意したわよ」
洋風な出し物とは打って変わり、シルフィード自身は和風な浴衣姿である。何時ものコスプレの一環なんだろうか。
因みに今日はバットも吹雪も会長室にはいない。なんでも、SODOMの戦いの為他の仕事を溜め込む羽目になったらしく、今現在はデスクに向っているらしい。
「んで、俺らを呼び出す程の厄介ごととはなんだ?」
刃介は椅子に堂々と腰かけながら話しかける。
「なんだか結構、焦っているように感じましたが」
七実もチョコンと椅子に座り、行儀良くしている。
最も二人共、椅子の真ん前に在るワインをグラスに注ぎ、チーズを抓みにして一杯やっちゃうわけだが。
「実はね・・・・・・昨晩において、我が財閥の武器庫からある物が三つ盗まれたのよ」
「ある物だと?」
「そう。貴方が以前に蒐集した、絶刀『鉋』――斬刀『鈍』――毒刀『鍍』の三本よ」
――ピクっ――
盗まれた物の名を聞き、刃介は眉辺りの筋肉を動かす。
「・・・・・・盗んだ野郎は?」
「警備員達によると、モスグリーンの髪をした若い男だったそうよ。・・・ただしね・・・」
「なんだよ?最後まで言えよ」
シルフィードがすこし戸惑っていると、刃介が急かすようにしている。
「その盗人から更に、毒刀を取り上げた怪物がいたらしいわ。特徴から察して多分知性あるヤミーでしょうね」
「ヤミー?グリードが変体刀の中でも特に危険な毒刀を所有する意味があるのかよ」
毒刀『鍍』
完成形変体刀十二本の中で最も毒気が強いとされる黒い刀。
その毒気に当てられれば、”猛毒刀与(もうどくとうよ)”によって、自我を見失ったり、刀に宿った四季崎記紀の残留思念に肉体を奪われる恐れがある。
「そこへ更にね、鋼くんにとっては面白くない情報が一つ。ある意味、かなり不愉快なモノでしょうけどね」
「言ってみろ」
刃介は大して臆する事も無く、平然としている。
「じゃあ言うけど。聞いたところによると、ヤミーの外見はまるで『黒い刀の集合体』ってことらしいわ」
「・・・・・・・・・は?」
刃介は思わず素頓狂な声を出した。
自慢ではないが彼はまだ一度もヤミーをつくっていない。
遣ろうと思えば何時でも出来るが、流石に時期尚早と思っていたのだ。
「それはつまり、刃介さんに些かながら疑いがかかっていると?」
「そうは言ってないわ。でも、これは鋼くん以外に刀のヤミーを造れる輩がいるってことの何よりの証でしょ。そのヤミーをふん捕まえれば、何か興味深い事実が判明するかもよ」
普通ではありえない事だらけだ。
それら全てを聞いた刃介は椅子から勢い良く(ワインとチーズを食した上で)立ち上がる。
「極めて了解だ」
結果として頼まれる事にした。
肉体面では兎も角、能力的に自分が完全変化しない理由もそこにあると踏んだのだ。
七実も刃介の所有刀として、主人の意見に反する気はなく、シルフィードから多種多様なデータを貰って大捜索の手伝いをすることとなる。
「それにしても、あの時・・・貴方の欲望という器の規格外さには心底驚いたわ」
「器・・・?」
「コアメダルを十八枚・・・・・・それを一気に解放して支配しきってしまうなんて、先代のオーズとはまるで真逆の結果ね」
「先代のオーズだと?」
シルフィードの言葉に疑問を抱く刃介。
「それは要するに、800年前のオーズは、コアの力を使いすぎて自滅したと?」
「流石ね七実ちゃん」
七実の読みは当たった。
「それを説明するにはまずグリード・・・っていうか、オーメダルが造られたそもそもの理由から語らないとね」
「あ?人工生命体をつくる為じゃなかったのか?」
「なんというべきか・・・・・・グリード誕生の切っ掛けは、とある王が世界の支配者たる神に成り上がる為の力を求めたからよ」
シルフィードは一息入れて、
「800年前のオーズとは、その王様」
グリードから見ても人間から見ても、まさに欲望の塊と言えたその欲望王は、一つの国を支配するだけでは満足できず、遂には地球そのものを我が物にすることを願うようになったのだ。
「私は当時まだ人間であり、様々な土地を旅していたフリーの魔術師だった。でも生来的才能にかなり恵まれていて、意外と名が知れていたのよ。そんなこともあって王様にスカウトされて、錬金術師と一緒にオーメダルの創造を行ったって訳」
刃介と七実は錬金術師というワードに大して驚くことはなかった。
現代科学の発達には錬金術が大きく関わっていたのは周知の事実であり、目の前に吸血鬼兼魔術師がいるのだからファンタジーな錬金術師が実在してもおかしくないと思えたのだ。
「多種多様な生命の力を宿したコアメダル。その全てを得ることで神に等しき存在になることを考えたのは王様だけじゃない。同じ目的ゆえにオーズに味方したグリードが一人・・・・・・それが、鳥類王アンク」
「・・・アンク・・・」
刃介は思い起こしていく。
右前腕部だけという不完全極まる状態で復活してしまった赤いグリードのことを。
「激闘に次ぐ激闘の中、戦いを更に激化させる者が突然にも現れた」
「それが・・・竜王か」
そこら辺については何となく予想がついていた。
「そして、その後に俺の御先祖様もご登場ってわけか?」
「そういうこと。正直言って、彼らを初めて見たときには度肝を抜かれたわね。だってオーメダル研究とは無関係である筈の日本からやってきたんだから」
シルフィードは両手をあげてリアクションをとり、いつものおちゃらけた態度になる。
「まあ兎に角・・・戦いは苛烈を極めたけどオーズとアンクは、ウヴァ・カザリ、ガメル・メズールからコアを何枚か抜き取って弱体化させることに成功した。結果はそのまま二人の勝利となる筈だったけど、王様はアンクを見限ってトラクローを使い、彼から何枚かのコアを奪い取った」
刃介はその時、先代オーズはあくまでアンクのことを仲間でもダチ公でもなく、ただの都合の良い手駒や道具としか見ていなかったのだと確信した。
「そしてオーズはもぎ取ったコア全てを一気にスキャンして、その力について行けずに暴走か」
「そう。その際にオーズから発せられたフィールドに飲まれたグリード四体とアンクの右腕は、石化した上に石棺となった王の中に封印された。初代ブライとリュウギョクは咄嗟の判断で退避して、決着は日本に持ち越されることになったのよ」
シルフィードは一時置いてまだ語る。
「私はあの時の石棺と同型のを用意して鋼一刀に協力し、見事リュウギョクは封印された。四百年前にバカな武将のせいで封印が解けたけど、その時は我刀流十代目の奮闘で事なきを得たわ」
シルフィードが話し、途中でわざとらしく長い間をつくると、刃介はそのまま新しい疑問をぶつける。
「ちょっと待て。アンクの右腕?」
刃介は蛇のようなしつこさで疑問点を徹底的に追及する。
「説明しちゃうと、アンクはフィールド圏外に倒れて倒れてたんだけど、盗られたコアを求めて腕を伸ばした結果、精神と右腕だけ封印された。残った肉体の方は黒い包帯に巻かれてミイラみたいになっちゃったけどね」
「その身体、まだ残ってるんじゃないのか?」
下手な禍根を残しておくと面倒だと判断した刃介に対して、シルフィードはこう言った。
「確かに残ってるわよ。ただし、鴻上のバカが日本に持ち込んじゃったけどね」
「鴻上?・・・鴻上ファウンデーションのことか?」
いくら刃介でも、トライブ財閥と肩を並べる巨大企業の名前くらいはしっている。
「そうよ。あそこのバ会長がロストからコンドルコアを抜き取ったのが刺激信号になって肉体は覚醒しちゃったわ。八百年もの間、自らの片割れを求める欲望によって、子供みたいな自我まで芽生えた状態でね」
「(ロストって言うのは肉体の通称か・・・?)―――ああ、面倒だ」
刃介は溜息混じりにそう言った。
「だからきちんと報酬は払うから元気だしてよ」
シルフィードは椅子から立ち上がり、刃介の双肩に手を置く。
「あの、シルフィードさん」
「何かしら?」
その時になって七実がこんな質問をしてきた。
「念を押しておきますけど、ここで刃介さんの血を吸ったりしませんよね」
「・・・・・・当然よ♪」
((今の間は絶対アレだ))
*****
町外れの郊外にある寂れた公園。
子供が十人か二十人いればそれでもう遊具は満席になる程度の公園。
そんな場所で七実は歌っていた。雑木林を背景にするかのように、公園のベンチで・・・・・・あの日あの時のように。
二番目の歌詞を、人の見る夢の如く儚い声音で歌い続ける今の七実を邪魔できる者など、例え今この場が人で溢れていようとも、そんな輩が現れることはないだろう。
「・・・・・・はぁ」
歌い終えると、七実は短く溜息を吐き出す。
「聞く必要はないでしょうが一応訊いておきます。首尾はどうでしたか?」
「全然ダメっぽい」
ベンチで待っていた七実の前に刃介が歩み寄ってくる。
「全く、あいつから貰ったデータに基づいて地道な聞き込みなんて探偵紛いなことまでやってるっていうのによぉ」
「世の中は御都合主義とは最も無縁ですからね」
結論から言うと、会話の通り、有力な情報は得られなかった。
ヤミーどころか、こそ泥の一人のことさえ未だ不透明な状況だ。
「どうしたものかな?・・・このまま退散ってのはカッコ悪いしよ」
何よりシルフィードからは報酬の内容を聞けずじまいだ。
何を貰えるかが判らないのに働くなど、我欲漢である刃介らしからぬ事とも言える。
そんな時だった。
「オイ固羅!」
二人に投げかけられる乱暴な口調。
「何のようだ?」
「誰の許可得てこの辺嗅ぎ回ってんだ!?」
乱暴な口調の主は絵に描いたようなチンピラだった。
ただし雰囲気的には下っ端っぽいが。
「別に。ただ探し物があるだけだ」
「ほほぉ?」
(ああ、ウざったい)
チンピラの態度に心底刃介は面倒に思った。
「刃介さん。こんな人に構わず、他の場所を探しましょう」
「ああ、そうだ「ちょっと待った!!」・・・・・・なんだよ?」
七実が刃介に話しかけ、それに答える途中でチンピラが割り込んできた。
「今、刃介さんって・・・?」
チンピラの態度が一変した。まるで尊敬すべき貴い存在を目の前にしたような顔だ。
「まさか、鋼刃介・・・さん?我刀流の・・・?」
「確かに俺は二十代目当主の鋼刃介だが」
刃介がそう応答した瞬間、
――バッ!!――
「失礼いたしやした!!!」
行き成りチンピラが土下座してきた。
「あの、貴方は一体?」
「俺は”刀剣組”の者でございます!!」
「刀剣組、だと・・・・・・!?」
チンピラが属しているらしき組織名を聞いた途端、刃介の表情も一変する。
「そうか。まだ在ったのか・・・・・・」
「刃介さん。その刀剣組とは?」
「ああ、お前にはまだ言ってなかったな。・・・丁度良い機会かもしれん。おいチンピラ、啓示と雄一とは連絡はつくか?」
「へい!」
「ならさっさと連絡して案内しろ。今すぐにな」
「承知しやした!!」
チンピラは命ぜられるがまま、携帯電話を手にとって番号を押していく。
「五年振り、か。にしても、こんなトコで刀剣組とまた関わることになるとはな」
「その方達とはお知り合いなんですか?」
「旧友・・・ってところさ」
刃介は遠い昔を見るような遠い眼差しで青空を見上げた。
しかしその瞳には何処か虚しさがにじみ出ているようにも感じる。
「鋼さん。連絡がつきやした。案内しますんで、付いて来てください!」
「あぁ」
「私も行ったほうが良いんでしょうか?」
「もちの論だ」
「さあ、鋼さん、早く早く!!」
チンピラは子供のようにはしゃぎ、刃介の腕を引っ張っていく。
「追い待て、お前は子供かよ」
その時にはまだ気づかなかった。
――チャリン――
一枚のヤイバセルを懐から零してしまい、それが雑木林のほうに入っていき、
「ふーん。このセルメダル、あいつのか」
それを拾って刃介へと涼しい敵意を向ける一人の男の存在を。
*****
其処は一言で述べると、凄いという言葉が幾重にも似合っていた。
超大型マンションに匹敵しそうな広大なる土地、そこに建つのは何十人もの人間が寝泊りできるであろう和風の武家屋敷、二階建ての土蔵までもがあった。
高い塀で全体を囲まれ、唯一の出入り口は正面の大きな門だけ。
まさに大豪邸としかいいようのない造りだ。
最も、そこにすんでいる方達が・・・・・・極道だというのが唯一にして一番のインパクトであろう。
まあ、よく映画やドラマに出てきそうな下級のチンピラ連中は屋敷に住む権利は無いらしく、信頼のある幹部連中が寝泊りしているようだ。
刃介と七実はチンピラの案内でこの屋敷の門前にまでやってきた。
そう、此処が刀剣組の本拠たる”刀剣屋敷”なのだ。
「・・・・・・五年たって変わってると思ったが、凄すぎだろこりゃ」
「一体どんな悪い事をすればこうなるんですかね?」
第一印象がこれだった。
「では俺はこれで失礼します!」
役目を終えたチンピラはそのまま何処かへと去ってしまった。
――ギィィィ・・・!――
内側から大門がゆっくりと開かれていく。
そうして現れた光景はというと、なんというか凄かった。
「初めまして。鋼刃介さん、鑢七実さん」
「我ら刀剣組一同」
「「「「「心よりお待ちしておりやした!!」」」」」
和服を着た幹部と思われる二人が挨拶すると、今度は後ろに控えていた大勢の黒服たちが屋敷への道をつくるように並んで頭を下げ、大声で挨拶をしたのだ。
「お、おう・・・」
「どうも皆さん、始めまして」
戸惑いを覚える刃介に対して、七実はどこまでも冷静だ。
「早速ですが刃介さん。啓示さんと雄一さんが屋敷の奥でお待ちです」
「二人共旧友との再会を心待ちにしておりやす」
「あ、ああ。案内頼むわ」
「「御意!」」
(何があって此処まで勢力拡大したんだ!?俺が抜けた五年間で何があった!?)
刃介は色々とメチャクチャに心の内でツッコみまくった。
まあ、そこら辺はさて置き、幹部二人に案内されるがまま、二人は屋敷の一番奥の部屋に通された。
そこは実に時代がかっており、江戸時代や戦国時代における一国一城の主の間を想像させた。
その部屋の上座には二人の人物が座っていた。
「久しぶりだな、刃介」
「まさかお前が、こんなに美人な大和撫子を恋人に連れ添ってやって来るとは思わなかったぞ」
「俺としてはお前らの状況にビックリ仰天したよ。啓示、雄一」
上座と下座で向かい合い、五年ぶりの再会を果たす。
上座の右に座っている男の名は、榛原啓示。眼鏡をしても鋭い眼つきを隠せない、なんだか冷たい印象を覚える男だ。
上座の左に座っている男の名は、本山雄一。全体的に大柄な体格で、顔も何処か人望味を感じさせる任侠的な男である。
ここまで来て何を今更と思うだろうが、実は刃介もまた、嘗ての刀剣組の一員であり、創設者三人の内の一人なのだ。
今現在、とある一件ゆえに刀剣組から離れてはいるが、刃介の存在は創設者にして現組長・本山雄一と組長補佐・榛原啓示の二人と同等に尊敬されているらしいのだ。
「まさか、昔は自警団紛いの刀剣組が極道クラスにまでアップしているとはな」
「おや、始まりは意外と小さいんですね」
と七実と刃介が洩らすと、本山は目元をキツくした。
「刃介よ。言っとくが刀剣組はあくまで任侠集団だ。極道などという形容の仕方はいただけないな」
「確かに俺たちは極道と近い存在だが、一緒くたにされるのは感心しない」
「・・・・・・すまない」
後々のこと考えて、とりあえず謝っておく刃介。
そこへ榛原が、
「んで、此処に来た用件は何だ?一度は組織から抜けた男が、どの面さげて来たんだ?まさか組に復帰したいなんて横着は言わないよな」
「此処に帰属する気は無い。ただ単に力を貸してもらいに来ただけだ」
「それこそ横着なんじゃないか?」
キツい表情と声で刃介を威嚇するように睨み付ける。
「こら待て榛原。兎にも角にも、話だけでも聞いてやろう」
「ありがとよ雄一。・・・実はな―――」
そうして刃介は話し始めた。
オーメダル関連のことは隠した上で、自分がトライブ財閥と深く関わっていて、財閥からとある泥棒が盗んだものを取り返すようにという頼みを受けているということまでを話した。
*****
此処は刀剣屋敷とは真逆の方角にあり、街の最果てに当たる深い森の入り口。
刀剣組の情報によると、この近くにモスグリーンの髪をした男がいたということなのだ。
まあ言うまでもないだろうが、刃介と七実は組長である本山から正式に刀剣組に力を貸してもらえることになったのだ。
「よし、適当に爆竹でも放り込んでみるか」
「第一声がそれですか?」
本当に爆竹の束とライターを手に持つ刃介に七実がささやかにツッコム。
「燻り出すんだよ。気にするな気にするな(どうせならロケット花火も打ち込んでやりたかったが)」
完全にヤンチャ坊主というより不良青年の考えである。
「あらよ」
着火された爆竹。それらの導火線が本体に届く前に、刃介は森の中に投げ入れた。
彼の腕力もあってか、爆竹はけっこう深いところにまで入っていき、そして―――
――バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!!!!――
大量の爆竹が小さな火花と爆音が森中に狂い咲かせた。
これがテレビだったら”良い子は真似してはいけません”というテロップやプラカードを出すべき場面だろう。
「ってうぉああ!!?」
そうして、一人の青年の驚きに満ちた声が響き渡ってきた。
「ほらな?」
「・・・・・・・・・」
自慢げにする刃介とは裏腹に七実は眉をしかめている。
「オイ誰だよ!?真昼間から爆竹投げやがったのは!!?」
森の置くから現れたのは情報どおり、モスグリーンの髪をした青年だった。
「泥棒野郎にんなコト言われたくないがな」
「泥棒・・・?ああ、トライブ財閥の刺客か」
「そんなトコだ。『鉋』と『鈍』を返却してもらうぜ」
「嫌なこった。つーか返す気があるなら最初から盗まない。俺としてはお前の方に聞きたいことがあるんだよ」
青年はそういったポケットから一枚のメダルを取り出した。
刀身が描かれた一枚のメダルを。
「それは俺のセルメダル・・・?」
「拾った時に俺は思った。俺から『鍍』を横取りしたのはお前のヤミーじゃないかってな」
「少なくとも俺のヤミーじゃないが、その言い振りからして俺がグリード化してることは調べがついてるようだな」
刃介は特に焦る事もなく、ブライドライバーを装着した。
つまり、目の前の青年に戦う術があると判断したのだ。
「結局は腕っ節か」
青年はそういうと何処からか黒い奇妙な刀を取り出し、別のポケットから一枚のカードを取り出す。
刀の刀身には金色のカバーをスライドさせて装填口を露にし、そのカードを入れた。
≪KAMEN RIDE≫
青年は電子ボイスの鳴った黒い刀を手に持ち、切っ先を上方に突き出すように構えてこう発音する。
「変身!」
≪DI-RUDO≫
柄のスイッチを押した瞬間、切っ先からは九枚の黒いプレートが上空に射出され、鍔部分からは立体映像装置のように光が漏れ出して幾つもの灰色な虚像が生み出される。
虚像は青年の周囲を舞うように動き続けるが、次第に青年の肉体と重なって強靭な鎧を形成する。そして、上空にある九枚のプレートは頭部へと突き刺さっていき、灰色だった鎧を深遠なブラックへと染め上げていく。
「(何処の変身システムだ?)」
刃介もそれに合わせてコアメダルを三枚、ローグレイターに投入して傾ける。そしてローグスキャナーで読み取った。
「変身!」
≪RYU・ONI・TENBA≫
≪RI・O・TE!RIOTE!RI・O・TE!≫
仮面ライダーブライ・リオテコンボ。
「おい真っ黒クロ助。お前の名はなんだ?俺の名前や素性はとっくに探ってんだろ?」
「俺か?・・・俺の名前は坂木了。またの名を、仮面ライダーディルード」
ブライの初歩的質問に黒い剣士、ディルードはそう名乗った。
「まあ開闢者とも呼ばれてるんだが、好い加減性に合わない呼ばれ方はうんざりなんだ。だからさ―――」
ディルードは己が得物、ディルードライバーの切っ先をブライに向けて、
「―――世界の蒐集者ってのを名乗ってる。気軽に蒐集者とでも呼んでくれ」
次元を越えて、二人の剣士の斬り合いが始まる。
*****
刀剣屋敷の組長補佐室。
そこでは榛原が実に機嫌を悪そうにしていた。
元から目付きが鋭いせいもあり、今なら一にらみで子供を泣かせそうな感じだ。
「くそっ。雄一の奴、なんであんなアッサリと協力しやがったんだ?」
どうやらこの男、本山が刃介に対して協力的な姿勢をとったのが気に喰わなかったようだ。
「今の刀剣組にもう刃介は要らない。だが、この件が尾を引いて舞い戻りでもしたら・・・!」
榛原は危惧していた。刀剣組に居た頃における刃介が如何に人を引き寄せていたか。
今はどうかは知らないが、もし仮に万が一このまま刀剣組に返り咲いた場合・・・・・・。
「だが・・・刃介を始末するのは極めて難しい。まずはアイツに協力して、奴が刀に気を取られてる隙に・・・・・・!!」
そして密かに、榛原の心に潜む暗鬼が蠢き出す。
「この俺が刀剣組唯一の長となる」
欲望・・・・・・それは人の心を容易に突き動かす、生きる原動力。
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