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これからも皆様の応援を糧に頑張って参りますので、今後とも愛読のほど、よろしくお願い致します!
召喚と暗躍と昔話
とある街の最果てにある森の出入り口。
そこには二人の剣士が向かい合っていた。
一人は全身が黒色の鎧で頭には九枚のプレートが差し込まれていて、手に持つ刀まで漆黒という黒一色ぶり。世界の蒐集者を自称する仮面ライダーディルード。
もう一人は、胸のローグラングサークルに描かれた絵柄と色彩に従い、龍の頭、鬼の腕、天馬の脚をした血錆色の欲望戦士。我刀流二十代目当主の仮面ライダーブライ。
そして、この二人の戦いを静観する一人の小柄な女性。死装束のような白い小袖を着ていて、その美しさには無機物的な印象を覚える存在――虚刀流の異端児こと鑢七実。
「そんじゃあ、おっ始めるとしようや!!」
――ビュン!――
ブライは早速ラインドライブを通じてテンバレッグに生命エネルギーを伝達させ、思い切り跳躍した。低空的跳躍なので、その軌道は走幅跳のように見える。
「虚刀流『薔薇』!」
しかしそれは当然のことながら酔狂ではなく、ちゃんと跳び蹴りという形で技を繰り出すためのものだ。
「おっと!」
ディルードは咄嗟にディルードライバーを盾にしてブライの蹴りを防いだ。
「今度はこっちの番だ」
ディルードはサイドバックルにあるカードホルダーから一枚のカードを取り出し、ディルードライバーに装填。
≪ATTACK RIDE・・・SHOCK WAVE≫
ディルードは掛け声も出さず、そのまま柄を握って刀身を勢い良く振るった。
それによって刃からは次元エネルギーの衝撃波が飛ばされる。
「っ!魔刀『釖』!」
ブライは両腕の篭手を鞘としていた二本の刀を手にし、ディルードショックウェーブを防ぐ。
正確に言うと、衝撃波を魔刀で切り裂いて防いだのだが。
「ヒュー!やるじゃん!」
「ムカツク口笛をありがとよ」
互いに嫌味のような皮肉のようなものを言い合い、戦いはさらに激化する。
≪KAMEN RIDE≫
「同じ剣士同士ならどうだ?」
≪KNIGHT・BLADE≫
カードを装填し、ディルードライバーを逆手に持って柄のスイッチを押すと、鍔の部分から光が溢れ、幾つもの赤・青・緑の虚像を作り出す。虚像が忙しなく動き、重なる事で実体を持って現れた。
蝙蝠を模したダークブルーの西洋の騎士甲冑型アーマーを身に纏い、腰にはレイピア型の翼召剣ダークバイザイーを帯刀した鏡面の騎士。
ヘラクレスカブトのような仮面とスペードマークを模した銀色のアーマー、アイアンブルーのスーツを着込み、腰のホルスターには醒剣ブレイラウザーが収めてある蒼雷の剣士。
西洋風ではあるが、紛れも無くその容貌は剣士のものだ。
「へっ。面白いじゃねぇか。おい、七実」
「はい」
「この勝負、手ぇ出すなよ」
「了解しました」
七実が加勢すれば直ぐに決着がつくのは火を見るより明らか。
だが刃介は未知なる敵との戦いを楽しむ為、あえて協力は無しとすることにした。
「メダマガンとシェードフォーゼでいくか」
刃介は移動する為に使ってきたシェードフォーゼにめがけて一枚のセルメダルを投げ入れた。
投入口にセルが見事入った瞬間、
≪MOBILE MODE≫
チャリンという音が鳴ってメダルが入ると、シェードフォーゼはバイク形態のベーシックモードからロボット形態のモビルモードに変形する。
それと同時に身体からメダマガンを機体外へと出した。ブライはそれを素早く手に取る。
「へ〜。なんかファイズっぽくていいな」
「ファイズってのは今一知らんが、褒めてくれてありがとよ」
――チャリン、チャリン、チャリン――
――ガシャン!――
ブライは硬貨投入口に三枚のセルメダルを投入してレバーを引く。
するとクリスタルユニットにセルメダルが連なって移動する。
「漆黒剣士の相手をしろ。俺は西洋剣士どもの相手をする」
――コクっ――
シェードフォーゼは命令を理解したらしく、首肯してみせた。
「そこのロボットが相手か、いいぜ。そっちのお手並み拝見といこうじゃねーか」
ディルードはこれといって反発せず、そのままシェードフォーゼとの戦いに入った。
「さーてと、メダルチェンジだ」
ブライはベルトにある三枚の内、二枚のコアを取り外し、別のコアをセットする。
そしてスキャンしてみせた。
≪RYU・TSUBA・TSUKA≫
それによって腕と脚が金色に変わった。
亜種形態の一つ、リュウバカだ。
ブライが左腕を立てると、胸のサークルからはヤイバカコンボの際のローグラングサークルを模した金色の手甲型武器、ヤイバスピナーが出現して装備された。
「手始めに銃撃の嵐をかわしてもらおうかな?」
――ズギュンズギュンズギュンズギュンズギュンズギュンズギュン!!!――
「「っッ!?」」
遠慮会釈の欠片さえ見れない程に連続した射撃。
一見かなり乱暴ではあるが、命中するであろう箇所は仮面や間接だったりと、地味だが確実にダメージを与えられる場所に集中している。
ナイトはVバックルに嵌っているカードデッキから一枚のアドベントカードを引き出す。
ブレイドもブレイラウザーからラウズカードを十三枚収められるオープントレイを扇状に展開し、その内の一枚を手に持った。
ナイトは手にしたアドベントカードをダークバイザーの柄部分にベントイン。
ブレイドはラウズカードをブレイラウザーのスラッシュ・リーダーにラウズする。
≪GURAD VENT≫
≪METAL≫
カードが認識された際、ブレイドはスペードの7に相当するトリロバイトアンデッドが封印されたカードの力により、全身が鋼鉄のように硬化するトリオバイトメタル。
ナイトは契約した蝙蝠型モンスターのダークウイングを背中の防御兼飛行マントとして合体させるウイングウォールを発動。
見事にメダマガンの連射を防ぎきることに成功する。
≪TRICK VENT≫
ナイトは新たなカードをベントインすると、本体を含めて三人に分身する。
シャドーイリュージョンという技だ。
「だったらこっちも、忍法――影分身」
ビュンビュンという風を斬り裂く音が聞こえると、ブライも本体を含めて三人の分身した。
≪≪≪SWORD VENT≫≫≫
≪≪≪FINAL VENT≫≫≫
空から突然大型の突撃槍ことウイングランサーがナイトの手中に現れて収まった。
ナイトはそこで一気に勝負をつけるきなのか、必殺技を発動する切札をベントインする。
「「「ハアッ!!」」」
三人のナイトは空中を天高く飛び上がって見せた。
ウイングランサーの刃先を下に居るブライに向けると、背中にいるダークウイングが翼を大きく広げ、漆黒の飛翼がナイトの首から下を包んでドリル回転しながら急降下してくる。
これがナイトの必殺技たる飛翔斬だ!
「「「フ・・・ッ」」」
しかしながら三人のブライは慌てることもなく、
≪≪≪TRIPLE・SCANNING CHARGE≫≫≫
スキャナーでクリスタルユニットのメダルを読み取った。
そして銃口の先にある目標を見据えて、
「「「ブライクラッカー」」」
――バギュン!!――
引き金をひき、空間を敵ごと破砕した。
――ドゥガァァアアアァァン!!――
破砕された空間こそは世界の修正力直っても、ナイト達にまでは及ばずで大きな爆発が起こった。
それと同時にブライは元の一人に戻った。
「さーってと、次はお前だな」
「くッ・・・!」
ブレイドはブライに指差されてブレイラウザーを構える。
そこからオープントレイよりラウズカードを取り出してラウズする。
≪SLASH≫
≪THUNDER≫
≪LIGHTNING SLASH≫
青き雷を纏う刃。
ブレイドはそれを手に此方へ全力で駆けて来る。
「ハァァアアアアァァァ!!」
スペードの2たるスラッシュリザードとスペードの6たるサンダーディアーを組み合わせて発動する下級コンボ技であるライトニングスラッシュ。
ブレイドはそれを突き技として放とうとしたが、虚刀流を得たブライからすれば突きだろうが薙ぎだろうが大差は無い。
「虚刀流」
――ガシッ――
「菊」
――バギン!!――
「ッッ!!?」
ブレイドは驚愕のあまり声が出なかった。
ブライは特殊能力の一つも使わず、ただブレイラウザーの刀身を背中と両腕でガッチリと挟んで掴み、梃子の原理を応用して折ってしまったのだから。
「こっちもトドメといくか」
ブライは左腕のヤイバスピナーのヤイバフェイスを開けると、七枚のセルメダルが収まったオークラウンが露出する。その内の三枚を取り外し、ブライドライバーにある三枚のコアを代わりに嵌め込み、ヤイバフェイスを閉じる。
一方ブレイドのブレイラウザーはラウズ機能までは失っていない。急遽に他のカードをラウズしていく。
≪KICK≫
≪THUNDER≫
≪MACH≫
「はぁぁぁ・・・!」
ブレイドの背後には三枚のラウズカードが、絵柄の中でアンデッドたちが動き回った状態で現れ、ブレイドの身体に吸収されていく。
≪LIGHTNING SONIC≫
スペード6の電力を軸にして、スペード5のキックローカストで脚力を、スペード9のマッハジャガーで走力を強化して、
「ダァァアアア!!」
全力で走るブレイド。あまりのスピードにブライを追い抜いてしまうが、その反動を利用して跳躍し、そのまま空中一回転して赤熱するほどの蒼雷を宿した右足を突き出す。
「ウェェェェェイ!!」
ブレイド・ノーマルフォームでの最強キックことライトニングソニック。
――カチャ――
ヤイバスピナーのリミッター解除装置であるフォースドロワー引くと、スキャナーをリボルストーンとスキャニングフィールドの上に置く事でオークラウンが高速回転し、短時間で七枚のメダルがスキャンされていく。
そして、
≪RYU・TSUBA・TSUKA!GIN・GIN・GIN!≫
≪GIGA SCAN!≫
遂に発動するギガスキャン!
ヤイバスピナーのオークラウンに嵌った七枚のメダルがそれぞれの輝きを放ち、回転していることで光の渦を成していく。
「せぃあぁぁ・・・・・・!!」
静かに唸るブライ。
左腕のヤイバスピナーは光の渦を宿したまま、一部の光が血錆色に変化し、まるで龍が吐く息吹のようでいて刀の如き形状となっていく。
ブライは左腕を右方へと限界まで引っ込めて力を溜め込み、
「ウェェェェイ!!」
「ッ!」
獲物が自分から飛び込んできた瞬間に、
「チェストーーッ!!」
――ズバッッ!!――
居合い斬りを連想させる動きで刃を振り、ブレイドの身体を一刀両断した。
傍から見れば、ヤイバスピナーから生えた血錆色の光刃が、ブライが腕を振るうと同時に急激的速度で伸び、ブレイドを見事に切り裂いたかのようにしか見えなかっただろう。
「ふぅぅ」
ブライは敵を見事に倒し、一息ついた。
「シェードフォーゼ、もういいぞ」
ブライがそういうと、シェードフォーゼはディルードから離れて
≪BASIC MODE≫
バイク形態のベーシックモードに変形した。
「一々スイッチじゃメンドくせぇし、シルフィードに一旦預けて音声入力付きにしてもらったのは正解だったな」
「へー。お前ってコアメダル以外にかなりのお宝持ってるみたいだな」
「言っとくがやらねぇぞ」
ブライはディルードに釘を刺しておく。
「傀儡は片付けた。次はお前自身だな」
「だったら新しいカードを試すとするか」
ディルードはそういうとカードホルダーからカードを一枚取り出す。
≪ATTACK RIDE・・・CHAIN SLASH≫
「ほいよっと!」
――ジャリ!――
ディルードは刀身を全力で振るう。
するとディルードライバーの刀身は鎖で繋がった連結刃のように伸びていくではないか。
物理的な中距離・遠距離攻撃や捕縛にも利用できる応用性の強い技、ディルードチェーンスラッシュだ!
「危ねっ!」
ブライはそれをギリギリで避けた。
「だったら今度はこいつだ!」
≪ZEUGLODON・MEGALODON・TACHIUO≫
≪ZE・ZE・ZEMETA!ZE・ZE・ZEMETA!≫
ゼメタコンボへとメダルチェンジを果たし、両腕に持った水刀『鑓』を振るって刃部分を飛ばした。
無論、刃と本体は鎖で繋がっているので、二本の得物と一本の連結刃は絡み合うこととなる。
それによって生じる隙を見逃すブライではない。
七の構え『杜若』から一気に全力疾走して、今度はディルードの目前で零の構え『無花果』となり、予備動作も最小限にしてこの奥義を繰り出した。
「虚刀流!『柳緑花紅』!」
――ズン・・・ッ!――
「ぐは・・・・・・ッ!!」
衝撃を内部に伝導させる鎧通しの拳。
変身したことで強化されたそれは、間違いなく坂木了という本体に届いた。
「マジ、か・・・よ・・・?」
「大マジだよ、バカ野郎が」
胸を押さえながら後ずさり、アタックライドの効果をキャンセルしてディルードライバーを地面にさすことで杖代わりにするディルード。
「あーイッテェ・・・・・・此処まで遣ってくれたのは廻くらいのもんだぞ・・・・・・」
「その廻ってやろうのことは知らんが、決着は流石についたろ」
「確かに俺の負けだ。でもな、肝心の変体刀の在り処を易々と話すと思うか?」
「大丈夫ですよ。今此処に絶刀と斬刀を持ってきましたから」
「・・・・・・・・・え?」
ディルードは突然介入してきた第三者の声にかなりズレた声を出す。
振り返ってみると、そこには七実が絶刀『鉋』と斬刀『鈍』を手に持っているのが見えた。
「貴方達が戦いに夢中になっている間、そこの森の中の土中に埋まっているのを発見し、掘り起こさせて頂きました」
七実は屈託のない笑顔でそういった。
(ヤバ・・・あの女の存在を完全に忘れてた・・・)
ディルードは流石に傷の痛みも薄らいできたと思った瞬間、自分の不注意に頭が痛くなってきた。
(こりゃ取り返すのは難しいな・・・・・・だったら)
ディルードは変体刀の奪取は無理と感じると、
≪KAMEN RIDE≫
「鬼共の大行進だ!」
≪HIBIKI・IBUKI・TODOROKI・KABUKI・TOUKI・HABATAKI・NISHIKI・KIRAMEKI≫
召喚されたのは八人の仮面ライダーという豪華出演ぶり。
しかも全員音撃戦士という状況だ。
「あと宜しく!」
≪ATTACK RIDE・・・INVISIBLE(インビジブル)≫
ディルードインビジブルの効果によって透明になり、気配も完全に透過したディルードは姿無く其の場から撤退した。
「はぁ。・・・アイツには別のお宝のことで説教してやろうかと思ったが、やっぱ俺のイメージに合わないし、止めとくか」
ブライは気だるそうにそういった。
≪KABUTO・HACHI・INAGO≫
≪KABU・KABUKABUHACHINA!KABUHACHINA!≫
だが彼はメダルを換装し、コンボチェンジを行う。
甲虫の角、蜂の針、蝗の脚を備えた緑の昆虫王者、カブハチナコンボ。
「七実、お前は一番ド派手なのを殺れ。俺は残り七人を一気に始末する」
「極めて了解」
そして七実がキョトウに変身すると同時に、カブハチナコンボの力でブライは七人に分身してみせた。
ちなみに一番ド派手な奴とは歌舞鬼のことである。
『虚刀流最終奥義』
「「「「「「「真庭忍法!」」」」」」」
二人(はちにん)は間髪を入れることなく、弟が編み出した技、戦友から盗見取った技を繰り出す。
『七花八裂』
「「「「「「「劉殺生!」」」」」」」
「別のお宝か・・・・・・あいつら見張ってれば、その答えが見つかりそうだな」
そんなブライとキョトウを、撤退したはずのディルードが、遠方から二人の戦いを眺めつつ、一人で呟いていた。
*****
トライブ財閥の会長室。
会長専用の机の上で、緑色のバッタカンドロイドが両の複眼を光らせていた。
『おいシルフィード』
「聞こえてるわよ」
シルフィードは椅子に座りながら刃介と通信する。
『一応、絶刀と斬刀を回収してきた。一旦「鍍」の情報集めに一っ走りするから誰か来させろ』
「良いわよ。適当に誰か送っとくわ」
『頼んだぞ』
そうしてバッタカンドロイドはカンモードに戻る。
シルフィードはカンモードのバッタカンドロイドをもう一度バッタメカモードにして、ある人物と連絡を取る。
*****
トライブ財閥社員寮。
十階建ての一般的なマンションのような造りをしているこの社員寮は、和風の部屋と洋風の部屋の二種類が存在しており、一部屋分の大きさも中々で一人暮らしや二人暮らしならば充分なモノである。
そんな社員寮の和風部屋で寝泊りする一人の雇われ忍者が居た。
名前は鋼金女。苗字の通り、刃介の妹であり、仮面ライダーチェリオである。
フリーの暗殺者をしていた頃は長期の住居を持たず、長くて一年、短くて十日程度など、新たな依頼を受諾する度に住む部屋や住居を変えていた。勿論それは闇社会において名の売れた殺し屋などという職業についているが故、逆に自分の命を狙われないようにする為の処置だ。
しかしながらトライブ財閥に雇われるにあたって、オーメダルに関する戦いが終わるまでは社員寮で暮らすように、というのが雇い主であるシルフィードの要望だった。
理由は簡単。監視というのもあるが、手元に置く事で様々な厄介ごとの解決も頼む為である。
『というわけで、頼めないかしら?』
「兄さんも妙なことを引き受けてしまいましたね」
金女はバッタカンドロイドを手に、シルフィードと交信している。
因みに暗器の手入れ中だったのか、木製テーブルの上には苦無や手裏剣が屯している。
しかしながら、殺伐としているテーブルとは裏腹に、この畳や障子がある純和風の部屋の棚や物入れにはマンガ・アニメDVD・ファンシーグッズ・可愛い系の縫い包みがあったりする。
「わかりました。とりあえず刀を一旦回収してから兄さんと義姉さんと合流します」
『ありがとう』
通信終了。
金女はすぐさま普通の浴衣姿から忍び装束に着替えた。
無論、服に暗器達や忍具を仕込む事も忘れない。
「休息タイム終了。任務タイム開始」
一人の女忍者が、新たな運命の歯車として加わった。
*****
刀剣屋敷。
「どうだ首尾は?」
本山は第一声でそう訊いて来た。
「悪くない。上々だな」
刃介は当たり前だと言わんばかりの口調だ。
「本山さん。不躾で申し訳ありませんが、残る毒刀『鍍』の情報は?」
「ああ、すまんな。流石に裏社会の情報網でも、そんな怪物のことまでは引っ掛からんのだ」
「そうですか」
七実は残念そうにした。まあ表層上だけだが。
元よりメダルと無関係な組織が其処までの働きが出来るなどとは、七実は最初から期待していない。
だがしかし!
「雄一、その件ならこの榛原啓示が尻尾を掴んだぞ」
と榛原が部屋に突然入ってきながら堂々と言ってきたのだ。
「尻尾を掴んだとは、どんな情報を捕まえてきたんだ?」
「ああ、刃介。お前たちの追う怪物、ヤミーは廃棄された工事現場近くに居るらしい。俺の直轄が聞いてきた情報だ」
榛原はそのまま廃棄工事現場の場所を口頭で伝えた。
「わかった、早速行く事にしよう」
「ではまた御会いしましょう」
刃介と七実のコンビは脚早に行ってしまった。
「昔と変わらず、忙しい奴だな」
「全くだな。・・・・・・ところで雄一」
「ん。なんだ啓示?」
榛原は座ったままの本山に立ったまま話しかけているので、必然的に上から視線を下に降らせている。
「刀とやらのことは、刃介のことだから直ぐに済ませるだろう。もう我々が力を貸すこともあるまい。逸早く本来の仕事に戻るべきだ」
「・・・・・・ああ、そうだな」
本山の表情はすこし間を置いてキリっとしたものになる。
「今晩の列車に乗り、田舎辺りで他の組連中との手打ち式だったか」
「下手して遅れでもしたら、刀剣組は一発で終わりだ。くれぐれも時間には気をつけてくれよ」
「はいはい。わかっているよ」
本山はそういうよ立ち上がり、自分の部屋に戻っていった。
それを確認した榛原は、パチっと指を鳴らす。
すると戸を開けて入ってくる屈強な黒服が幾人と和服を着た幹部が一人。
「同志諸君。いよいよ決行の時が来たぞ。今のうちに最後の覚悟って奴を決めて来い」
「「「「「「「「「「おう!!」」」」」」」」」」
*****
刃介達が変体刀を取り返し、2本の刀を手厚く梱包して指定の場所において刀剣屋敷に向ってから十分後、彼女は入れ違いにやってきた。
バイクのエンジン音をブゥゥンと鳴り響かせて。
「兄さんったら、随分とまあ適当な場所においてくれたものですね」
バイクに跨っているのは忍び装束の女忍者だ。
首から上で露出しているのは髪と両目だけで、額は額金を防具とし、眼から下は襟巻と一体化した覆面で隠している。服の下には鎖帷子を着込んでいるが、袖を斬りおとしていて両腕には手甲をしている上、丈も膝下程度の中途半端な焦茶色だ。
そう、相生忍者としての仕事着姿の鋼金女だ。
「不有得――こんな重要な物資をベンチの下なんかに置いておくとは。下手を踏めば一発で泥棒の餌食ですね」
金女はすぐさま2本の刀に手を伸ばそうとするが、
――パチ・・・ッ――
「ん?」
指先に妙な感覚を覚えた。
不信感を覚えた金女はスカート部分を少し捲り、両の太腿に巻きつけてあるベルトに収納されている投擲用の小型棒手裏剣を二本取り出す。なお、この棒手裏剣は下向きに収納されているが、磁石を仕込む事によって誰かの手が無ければ磁力で落ちないようになっている。
「それ」
金女が物は試しにと投げると、
――ビリビリッ!ビリビリッ!!――
棒手裏剣は変体刀を梱包している包みに触れると、高圧電流の餌食となった。
「不案・・・・・・これなら確かに安全ですね」
金女は念の為にもう一度棒手裏剣を投げて電流が起こるかどうかを確かめてから刀を回収した。
「さてと、後はこれを財閥の武器庫に届けて兄さん達と合流するだけですね」
金女は『鉋』と『鈍』を手にバイクに歩み寄った瞬間、
『今代当主の妹にして、異端な相生忍者よ』
「誰ですか?」
突然誰かが話しかけてきた。
姿は見えないが、声質には人間性が一切合財感じられない。
『その二本は持って行こうが行くまいが結構だが、実兄が今身を置いてる状況を確認したらどうだ?』
「・・・・・・・・・今一度問います。何者ですか?」
『我が名はメッキヤミー。――では鋼金女よ、さらばだ』
金女は黙っているかと思いきや、質問してきた。
すると、謎の声は自らをヤミーと名乗って姿を見せぬまま何処かへと言ってしまった。
「不遅――これはウカウカしていられませんね」
金女はバイクにあるスイッチを押すと、ライドベンダー自販機型のマシンベンダーモードとなった。
――チャリン――
――ピッピッピッピッ――
セルメダルを投入し、ボタンの四っつを一定の順番で押した。
すると、
――♪〜〜♪〜〜♪〜〜――
≪PTERA・CAN≫
奇妙なメロディが流れ出し、紫色のジュース缶が何十個も出てきたのだ。
金女はその内の一個を手に取り、プルタブスターターを開けた。
『プテラ!』
すると紫の缶はカンモードからプテラメカモードに変形する。
最近になって開発された恐竜型カンドロイドの一種、プテラカンドイドだ。
「貴方達はヤミーの動向を探ってください。ついでに刀剣組もね」
『プテラ♪』
プテラカンドロイド達は快諾してくれた。
「不外――当たりの情報を期待しています」
――チャリン――
――ポチッ――
金女はライドベンダーをマシンバイクモードに変型させると、ヘルメットを被ると同時に跨り、
――ブゥゥゥウウゥゥゥゥン!!――
完成形変体刀たる絶刀『鉋』と斬刀『鈍』を積みながらエンジン音を轟かせた。
*****
???
何処とも知れぬ廃工場。そこにメッキヤミーは来ていた。
近頃は幽霊屋敷のように思われている場所だけあって余計に無駄な雰囲気が出ている。
そこにはメッキヤミーともう一人が居た。
「んーー」
和服を着用しているが灰色の髪を隠すように頭に編み笠を被っていて、眼の下には菱形の刺青をしている謎の男は、メッキヤミーが横取りしてきた毒刀を両手で持っていた。
そして、暫し懐かしそうに眺めると、
「もういい。この毒刀も、お前も、まとめて我刀流に差し出すとしようか」
と、毒刀『鍍』をそのまま目の前にいるメッキヤミーに投げ渡した。
メッキヤミーは片膝をついたまま毒刀を受け取る。
『これで良いのですね、我が創造者よ』
「当然だ。我刀流をより完全な刀とするには些か準備が要るしな」
謎の男は机と椅子が積み上げられて出来た簡易な山に腰かけているので必然的にメッキヤミーを見下ろす感じになっている。
『了解です。ならばこの命、折られに行って参ります』
「ああ、じゃあな」
そうしてメッキヤミーを残して、謎の男は廃工場の外へと行ってしまった。
*****
廃工場に到着した刃介と七実。
シェードフォーゼから降りた二人は何時もと変わらぬ歩調で内部に入っていく。
この寂れた工場の内部は思った以上に物資が片付けられていて、残っているのはガラクタの入ったダンボールや、適当な鉄屑ばかり。
工場内部の空気も暗くて冷たい印象が漂う。
「おい、ヤミー!居るんならとりあえず出て来い!」
ムダと判っているが、一応は呼びかけてみる。
「オーイ!出てこ『言われずとも出てくる』
ほの暗い闇の中から聞こえてくる声。
「ほほぉ。随分潔い登場だな」
『一応、我が創造者の命令は実行せねばならんからな』
メッキヤミーは抜き身の毒刀を右手に、鞘を左手に持っている。
「それなら話は早い。その創造者とやらの情報を吐かせてやる」
刃介の赤い瞳の眼光がメッキヤミーを曇りなく捕捉した。
「七実、手は出すなよ」
「またですか?」
「ちょいとは運動しないとな」
「はぁ・・・・・・仕方ない人ですね」
七実は溜息混じりに了承した。
刃介はブライドライバーを装着し、コアメダルを投入。
「変身」
≪HAYABUSA・HOUOU・YATAGARASU≫
≪HAOURASU≫
メダルのサークルが胸に張り付くと同時に、彼の肉体を覆い尽くしていく紅蓮の炎。
刃介は直接的に炎天の覇者たるハオウラスコンボに変身したのだ。
「んじゃ・・・行くかっ」
両手に鳥刀『鏃』を持ち、照準をメッキヤミーに。
『ふん。鳥系コンボは狭い場所では本来の力量を発揮しきれない筈だ。気でも触れたかブライ?』
「全然だな。だから、お前と俺が纏めてここをでりゃー良いんだろうが?」
すると、
「忍法・・・・・・疾風迅」
――シュン!――
その瞬間、たった一瞬の刹那の間に、ブライは見えなくなった。
そして、
――ドゥ!――
『な、なに!?』
メッキヤミーの身体に二つの銃口を突き当てて、
――パンパンパンパンパンパンパンパンパンパン!!――
零距離での連続発射。
それに伴ってブライはホウオウウイングを広げて勢い任せに廃工場から外へと出て来た。
「おらおらおらオラァァァアアアア!!!」
『ぐおおおぉぉぉおおお!!』
ブライは銃口をメッキヤミーに押し当てたまま上昇していく、そこからさらに、
――パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン!!!!――
二度目に連続発射。
避ける場所さえ無い空中に持ち上げられては、正に餌食としか言いようの無い状況だ。
『うああああああああああ!!』
メッキヤミーは地上へと落下していく。
無論、ヤミーなので落ちても身体中に鈍痛が走る以外にはダメージはないだろう。
ブライはゆっくりと地上に降下してくる。
「さーて、好い加減情報を喋ってもらうぜ」
『っ!知りたいのならば勝手にしろ!』
メッキヤミーはそう叫ぶと、全力で毒刀『鍍』を投げてきたのだ。
それも黒い刀身が剥き出しの抜き身の状態で。
流石のブライもこんな状況は予想していなかったのか、受け取り損ねた毒刀『鍍』の刃がローグラングサークルに突き刺さった。
「んあ・・・・・・!?」
ブライが自分の意識が闇の中に沈んでいくのを感じた。
何処か遠い別の場所へと向っていくように沈んでいく感じだ。
*****
800年前の日本のとある夜中の土手。
ブライの意識が辿り着いたのは過去の幻影だった。
恐らくメッキヤミーの力によって毒刀がブライの意識をここへ導く役目を果たしたのだろう。
ブライはこの場ではただ見ているしか出来ない。声すら出せない。
だから今此処で聞こえる声は全て、過去の投影たちの織り成すものだ。
「おらおらおらぁぁ!!俺ぁ強いんだぁぁ!!」
「あんぎゃああああ!!」
「ぐばぁぁああああ!!」
そこには一人の青年が喧嘩を繰り広げていた。
相手は目付きの悪さしか特徴の無い男だった。
しかし、二人の相手に対しては手に持っている日本刀一本で撫で斬りにしたようで、体や顔には返り血が飛び散っている。
「なんだなんだなんですかー!?この辺の連中ってのは雑魚ばっかかよ!」
その青年は見るからに不良である。
上半身には所々に傷のついた着流し。下半身にはボロボロな袴。
顔については二枚目だが目付きが鋭い上、手入れなど碌にしていないであろう伸びまくりの長髪が彼の威圧感を増大させていた。
「威勢が良いな、小僧」
「あぁ?」
そこへ青年に声をかけるものが居た。
頭に編み笠を被り、眼の下には菱形の刺青をした男だ。
「噂を聞いて遥々こんな田舎にまで来たが、どうやら外れじゃなかったようだな。まあ、とりあえず及第点ってところか」
「何勝手に人様のこと評価してんだよ、てめぇは」
青年はにらんで凄むも、男は全く持って動じはしない。
青年が血塗れた刀を掴む手に強い握力を加えても、男は漂々とこう言う。
「言っとくが小僧、俺にとって刀ってのは全て味方であり部下みたいなもんだ。どんな刀を使うかでどんな攻撃をしてくるかは大体読めてくるからな」
「へっ!んなこと知ったことかよ!」
青年はその台詞を吐き捨てたまま刀の切っ先を男に向けた。
「・・・・・・会って五分と経たずにこれとはな、噂以上の喧嘩野郎だな。及第点とはいえ、俺も欲張って完了から暗闇・・・・・・『完全』を目指す道筋で迷ったか?」
「完了から完全だと?」
青年は刀を下ろして鞘に納めた。
「この先の言葉によっては、お前には関係有るか無いかの話だ」
「益々持って意味不明だぜ。俺はただ己の強さを底上げしたいだけだ。そして、その力を示し続ける。自らの欲望、我欲のままにな!そこには世情さえ介入する余地さえない!」
すると男は、
「かっかっか」
「何だよ?」
「いやいや、昔よ、お前と似て非なることを言った奴のことを思い出しちまっただけだ」
「俺と似て非なる?」
「まあ親友だったんだが、今は関係ないことだ」
男は一方的に話を区切った。
「小僧よ、世間の事柄に興味が無いのは俺も一緒だ。それに歴史に囚われないとこも気に入った」
「歴史?」
自分は一度もそんな単語を出した覚えは無いというのに、男は当たり前という風に口にした。
「以前俺は歴史を相手取る為、九百八十八本の刀から十二本、十二本の刀から一本の日本刀をつくった。まあ、結果としては敗北だったがな。だったら今度は一族の使命ではなく、俺個人の欲望で刀を作ってみたほうが面白そうだ。丁度いい素材も見つかったことだしな」
青年は男の話に半ばついていけなくなった。
ただただ、うざったい奴としか思えなくなってきた。
「訳わかんねぇ戯言を喋り続けるなら、ここで愉快な肉塊に変えっぞ?」
「物騒な言い分だ。だがお前じゃ俺を殺せない。何しろ俺はお前に力を与えに来たんだからな」
男は懐に手を伸ばし、あるものを取り出した。
男の手には血錆色のメダルが三枚、そして石版状の物体が握られていた。
男は気前良く、メダルと石版を青年に投げ渡した。
青年はメダルと石版を見事キャッチしたが、余計にこの男に不信感を持つ。
「てめぇ・・・・・・何者だ?」
「ああ、まだ言ってなかったな」
男は漸く気づいたかのようにこう言った。
「俺は刀鍛冶だ」
「その刀鍛冶がどうしてこんな場所でこんな物をこんな俺に与えるんだ?」
「だから言ったろ、完了の奥にある完全を目指すってな。その為にお前が求める強大な力と、それを使って死ぬほど暴れられる舞台を用意してやる」
男は値踏みするように青年を観察すると、欲が表れた奇妙な笑顔を浮かべる。
「もっとも、きちんとした基盤になれるかはお前次第だがな―――鋼一刀」
それは今から八百年も遡るであろう大昔の一節。
この世が乱世とされるよりずっと前の遠い昔話。
後の我刀流開祖、鋼一刀と―――謎の刀鍛冶、四季崎記紀との・・・・・・これが、なめ初れだったのでございます。
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