仮面ライダーブライ!
前回の三つの出来事は!


一つ!比奈が服飾学校のコンクールで優勝する!

二つ!真木がつくったユニコーンヤミーが人の夢を壊し、四季崎がつくったカナヅチヤミーがそれを貪る。

そして三つ!アンクに取り憑かれていた泉信吾が、意識を取り戻した!

失くした夢と依代と黄泉帰り
(いずみ)信吾(しんご)
泉比奈の兄にして、二十代前半という若さで刑事課に属し、三年前には凶悪犯罪者を逮捕した実績のある優秀な人材でもある。
しかし、グリード達が封印された石棺が安置されていた鴻上ファウンデーション所有の美術館の爆発事故の際、偶然そこでアルバイトをしていた映司と知り合ったことから、彼の人生は変わりだしたと言っていい。

彼は先輩と共にパトカーでパトロールをしていた際、ウヴァがつくったカマキリヤミーと遭遇し、その後を追跡。
映司とアンクが接触してカマキリヤミーに襲撃された際、拳銃で発砲するも一切効かずに返り討ちに遭ってしまい、先輩刑事は怪我ですんだが、信吾自身は瀕死の重傷を負ってしまったのだ。

そして映司が初めて仮面ライダーオーズに変身し、タカキリバスラッシュでカマキリヤミーを倒した直後、活動する為の肉体を欲したアンクに憑依されていた。
だがしかし、それが今・・・・・・。


「お兄ちゃん?」
「・・・・・・比奈・・・・・・」

一言だけ呟き、信吾はまた目を閉じてしまう。

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!?」

体を揺さぶりながら、比奈は信吾を起こそうとする。
一方でオーズとウヴァの戦いはすぐさまに終わることとなる。
正直な話、ウヴァのほうが一方的に戦いを打ち切った感じだが。

『このくらいにしておくか。これ以上の長居はヤバいからな』

ブライ、チェリオ、キョトウ。
この三人をさっきまでおさえていたデシレとゼントウが帰った今、下手に留まれば折角奪ったコアを取り返される可能性を考慮し、ウヴァは早々に立ち去った。

その場にいる全員は変身を解く。

「くぅぅ・・・・・・」
「伊達さん!!」

しかし伊達は戦いによる弊害ゆえに膝をついてしまい、後藤はそんな伊達に駆け寄っている。

「お兄ちゃん!わかる?比奈だよ!」
「・・・・・・比、奈・・・大丈夫か・・・?」

今度は一言だけでなく、きちんとした会話としての言葉を紡ぐ。

『・・・・・・何故だ?』

アンクは空中で浮かびながら信吾の状態を見て、言葉を吐き捨てる。
しかし、今にして考えると、アンクが取り付いていた間に、信吾の肉体が回復したからだと見るのが一番妥当かもしれない。
アンクは不可解な出来事から逃避するようにどこかへ飛び去った。

「って、アンク!アンクー!」

映司が呼んでもアンクは戻ってこない。
重病人二人がいるこの林の中―――そこへ、一台の黒い車がやってきた。
運転席のドアを開け、出てきたのは、

「乗ってください」

里中は伊達と後藤に言ったのだろうが、

「すいません!この人もお願いします!」

信吾に肩を貸して歩きながら、映司が頼み込み、信吾も伊達と一緒に車に乗せられることになった。

「比奈ちゃんも大丈夫?」

二人を乗せ終え、映司は比奈に聞いた。
先ほど、ユニコーンヤミーに(ふく)を破られたことに対し、映司としては思うところがあるのだろう。

「何とも無いみたい」
「そう、良かった」

安堵するも、それは本当に少しの間だけのもの。

「比奈ちゃんも早く車に」
「はいっ」

後藤に促され、比奈は車に向って走った。
その途上で、

(ん?)
(服を踏みつけていった?)
(やはり、そういうことかよ)

その変化に、金女も七実も刃介も気付いた。





*****

病院へと到着し、伊達と信吾はすぐさま検査を受けることになった。
しかしながら伊達はというと・・・・・・。

――ピーッ!ピーッ!――

臨床検査室を抜け出そうとしていた、病院着の下に検査用のコードをつけた状態で。

「まだ検査中です、戻ってください!」
「大丈夫だって!」
「伊達さん・・・?」
「しかし先生からの指示も無く!」
「俺が医者だから!」
「伊達さん!!」

一度目の声は届かなかったせいか、後藤は二度目の声を思い切り大きくした。

「・・・・・・・・・」

結果として伊達は黙らざるを得なくなった。





*****

比奈はというと、病院のベッドで眠る信吾の傍にいた。

「比奈ちゃん!刑事さんは?」
「今直ぐ命に関わるような状態じゃないって」

比奈は医者からの言葉をそのまま映司に伝えた。

「じゃあ、アンクがついてなくても大丈夫ってこと?」
「・・・・・・でも、何時意識が戻るかはまだわからないって」
「そっか・・・・・・でも大きな前進だね」

比奈は信吾の布団をかけなおすと、映司に向き合う。

「私一度家に戻ってお兄ちゃんの着替え取って来ます。暫くはここでお兄ちゃんの様子見てますから」
「あ、学校はいいの?俺がここにいてもいいけど」
「ああ、学校なら辞めます」

あっさりと、色んなものを不意にする発言を言った。

「えらく唐突な発言だな」
不重(おもんじず)――折角優勝して、未来のエリートコースの道筋がついたというのに」
「比奈さん、夢を諦めるんですか?」

そこへ刃介たちが喋ってきた。
彼等も病院に付き添ったのだが、そんな彼等に比奈はというと。

「いいんです。それに、お兄ちゃんが大変なときにお洋服作りたいだなんて、私可笑しいですよね?」

などと、前の比奈とはズレた言葉が出てきたのだ。
比奈はそのまま病室を出てしまった。
だがその時、意識が無いはずの信吾から、こんな言葉が紡がれた。

「夢だったじゃないか・・・・・・比奈・・・・・・」

それは寝言というには余りに絶妙だった。

「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」

遺された四人は、ただただ沈黙し、信吾の様子をみていた。





*****

日もすっかり落ちた夜。
雨も強く降り出した頃に、アンクはたった一人、右腕だけの状態で屋外を彷徨っていた。

『んッ』

その時、一台の車が通りかかりると、水溜りにあった雨水がアンクにビシャアっとかかった。

『・・・・・・くそ』

弱弱しく吐き捨てたアンクは、そのまま宙を舞い、階段の下に移動して雨を凌いでいた。
まるで何時もの傲慢さまで、成りを潜めてしまったかのように。





*****

カザリ、真木、ロストがアジトとする洋館。

「こんなに簡単にメダルを奪われるとは、君らしくありませんね」
「そうだね。でも僕らしくないってことは」
「何か意図がある?」

真木は二階の廊下から中央の階段に移動しながら、広間にいるカザリと話す。

ロスト(アンク)とあんた、それに僕。――もう少し仲間が集まったら、素敵だと思わない?」

その企みは雷鳴の如く、世界に轟いていた。





*****

その頃、ウヴァはアジトにおいて、今までの成果を発揮しようとしていた。
二つのドラムの上には、青い水棲系コアが五枚、灰色の重量系コアも五枚。

『復活して、俺より強くなられても困るからな』

といいながらウヴァは、青いコアを二枚、灰色のコアを一枚取り除く。

『これくらい抜いておくか』

ウヴァはメダルを手に持ち、トラックの荷台に配置し、人型に積み重ねた大量のセルメダルの隙間を通り、青い布と灰色の布を被せる。

そして、青い布の上にはウナギとタコを一枚ずつ――灰色の布の上にはゴリラ二枚とゾウ一枚。

『メズール・・・そしてガメル』

ウヴァは荷台からステージ上に移動する。
そして、両腕を高らかに上げてこう叫んだ。

『復活の時が来た!!』

その宣言と同時に、布で覆い被されたセルメダルが起き上がった。
起き上がるに従い、布は落ちてしまったが、それと同時にセルメダルがコアの持ち主へと宿り、元の姿を象っている。

『お前等のコアだ。その欲望で、手を伸ばせ!!』

ウヴァは両手に持ったシャチとサイのコアメダルを持ち主へと投げつけた。
メダルの塊状態にある二つの物体は手に当たる部位でしっかりとコアをキャッチし、自分の胸に押し込める。
それに伴って彼等は色づき、明確な姿を取り戻した。

シャチの姿を模した頭と、肩にかかっているウナギのヒレ型マントをしているも、ウナギ型の華奢で美しい上半身やタコ型の細くて美麗な下半身が不完全(セルメン)な青き異形。
サイの角とゾウの鼻を併せ持った頭部、屈強で野太い両脚を備え、ゴリラのように重厚で強靭な筈の上半身が不完全(セルメン)状態にある灰色の異形。

水棲女王メズールと重量王ガメル復活の瞬間である!

『あぁぁ、よく寝た〜』
『ウヴァ・・・・・・』

だが当のガメルは、今まで自分が消えていた間から復活したまでのことを心地よい熟睡タイムであったかのように欠伸をする。
一方でメズールは目の前に佇み、自分たちを復活させたウヴァの姿を冷静に見ていた。

『復活した気分はどうだ?』
『復活・・・・・・』

今にして思い出すと、メズールとガメルは真木の策略とカザリの裏切りにより、大量のコアメダルの『器』にされて暴走寸前状態にされた挙句、セルメダル5000枚と昆虫コア二枚を吸収させられたことで、パワーの制御を失って巨大な怪物の姿へと変貌してしまったことがあった。
そして、そうなった彼等はバースとオーズによって始末されてセルメダルは消滅し、残ったコアもアンク・カザリ・ウヴァによって回収されていたのだ。

『成る程ォ』

状況を理解したメズールは、荷台から出てステージに足を運ぶ。

『俺のお陰だ。感謝しろよ?』

とウヴァがメズールとガメルに言うも、

『あれ〜?お菓子無い、お菓子どこぉ?』

ガメルは美味しい駄菓子を求めて能天気かつ無垢にあちらこちらを探し回っている。

『カザリに一泡吹かせてやるのさ』
『それが貴方の目的?』

ガメルは一旦無視して二人だけで会話を進める。

『まず、オーズからメダルを奪う。それからカザリだ!!』

――バシィィィン!!――

ウヴァは今までの屈辱と憤怒の一部分だけでもぶつけてるのか、近くにあったシンバルを蹴りつけた。





*****

そして、とある武家屋敷の庭にある土蔵。
その中では四季崎記紀と錆白兵が、とある一人のグリードを再び復活させようとしていた。

人型に置かれたセルメダルの山―――その上に被せられたのは、赤・黄・緑・灰・青で彩られた大きな布。

「準備のほうは終了でござる」
「ご苦労だったな」

どうやらセッティングを行ったのは白兵のようで、四季崎はあくまで仕上げ担当のようだ。

「こっちのコア一枚を持って行かれたが、まあ概ねこっちの筋書き通りだし、問題ない」

四季崎はそう言いながら袖から奪ったコアを取り出す。
まずはスミロドン・メガロドン・マンモス・イナゴを一枚ずつ、布の上においた。

「さあ、埒外の真庭忍者よ。今一度、産声を上げてみせろ!」

その言葉を契機に、ガメルとメズールの時と同じく、セルメダルは人型にかたまって起き上がり、四枚のコアを取り込む。
四季崎は最後の一枚であるハヤブサを手にこう言った。

「命の欠片を、コアメダルを掴み取れ!」

乱暴な手付きで投げられたコアを見事に受け取ったソレは、最後の一枚を自らの頭に入れ込み、実体化を果たした。

「成功でござるな」

白兵が呟いた直後、そこには一人の奇抜で美しい女が居た。
女は美しい顔立ちと凛然とした雰囲気とは裏腹に、どこか納得の行かない表情でこう囁く。

「二度あることは三度あると諺でいうが、今がまさにそうだな」

女の服装は実に異常だ。恐らくどんな時代のどんな国家でも馴染まないであろう。
全身に鎖を巻いて袖を切り落とした忍び装束を着込んでいるのだから。

「まさか、お前までメダルに絡んでいるとは思わなかったぞ四季崎記紀よ」
「ほざけよ。お前だって薄々勘付いていたんじゃないか?――真庭竜王」
「気安く本名で呼ぶな」

復活したグリードの名はリュウギョク。その正体は真庭竜王という暗殺専門忍者だ。
かつて800年前と400年前の戦いで初代ブライの鋼一刀と二代目ブライの鋼劉十に敗れて封印されていたが、この時代において再び復活を果たし、今代のブライである刃介と死闘を繰り広げた末に満足のいく形で敗北した。
そして刃介の身代わりになるように自らの身を犠牲にし、コアだけが刃介の下に残っていたのだ。

竜王はポニーテールにした長い流麗の黒髪を振り乱すように首を横に振った。
明らかな不機嫌さを表している。

「まぁまぁ、そうツンツンしないで頂きたい。拙者らはお主の戦友である鋼刃介の『完全』の為に動いているのでござるよ」
「刃介を、『完全』だと?」

竜王は目を細め、四季崎と白兵を警戒するような素振りを取る。

「そうだ。いずれアイツ自身の眼前で全てを話してやるがな。しかしその前に、お前に渡しておくものがある・・・・・・白兵」
「ああ」

すると白兵は錆色のメダルを纏いながら、怪人態であるゼントウとなる。
さらにそこへ、自分の胸に手を当てると、彼のベルトは色を喪失した不完全(セルメン)となり、完全体ではなくなった。

ここまで言えばわかるだろう。
ゼントウは自らのコアを何枚か取り出したのだ。

「何の真似だ?」

竜王は訝しい者を見る眼でゼントウに尋ねた。

『どうもこうも、お主に拙者のコアを分け与えるのでござるよ』
「ッ・・・・・・!?」

この発言には流石の竜王も驚くしかない。
グリードにとってコアメダルは正真正銘自身の命の欠片ともいえる核だ。
それを易々と明け渡すなど、相当の信頼か、腹積もりがなければ出来ない芸当だ。
ゼントウは驚愕している竜王の手にそのまま三枚のコアを握らせる。

「それからリュウギョク。お前に贈り物があるぞ」

四季崎は懐から長方形の石版を竜王に投げ渡し、竜王はそれを手にした。
その石版の形状は、グリードを封印した戦士二人のそれと非常に似通っていた。
そして何より気になることといえば、

「何故コアを六枚つけて・・・・・・」

そう。石版と一緒に、焦茶色のコア二枚と黒いコア二枚、そして・・・・・・『銀枠』のコアが二枚。

(なんなんだ、このコアメダルは?)

『銀枠』のコアなど、今まで見た事も聞いたことすらなかった。
しかも『銀枠』のコアは、色がバラバラなのだ。
ゼントウに握らされたモノを含めれば、白と緑と赤といった三種の植物が描かれている。

「さて、リュウギョク。俺達はこれからお前がどうするかについては指図しねぇ」

四季崎は竜王のペースを塗りつぶすように話を進行させる。

「そいつを持ってどうするかは、お前が決めるんだな」
「・・・・・・・・・・・・」






*****

翌日の朝。
とある広場で一人の男性が野外写生に勤しみ、キャンバスに筆の軌跡を走らせていると、一番出会いたくない怪物に出くわす羽目となった。

『お前の夢は何だ?』
『・・・・・・・・・』

ユニコーンヤミーとカナヅチヤミー。

「う、うわぁぁあああっ!!?」

男性はわけもわからない状況に急遽遭遇してパニックに陥る。
そんな男性に対してユニコーンヤミーは無情にも腕を伸ばした。

頭を掴まれた男性からは夢の具体例なのか、立派な絵画が現れる。
ユニコーンヤミーはそれを持って、

『夢は夜に見ろ』

バリっと絵画を割った。

『儚く散った夢は蜜の味』

そしてカナヅチヤミーによって、破れた夢は喰い飲まれる。
男性は生気を失ったかのように座り込んでしまった。

「今度こそ逃がさないぞ!」

そこへ刃介が単身登場と思いきや、

『遅いぞ』
「アンクお前・・・・・・!?」

映司とアンクも到着する。
二人はさっそくやりなれた動作を行い、お決まりの台詞を叫んだ。

「「変身!」」

≪SHACHI・KUJAKU・CHEETAH≫
≪YAIBA・TSUBA・TENBA≫

オーズ・シャジャーター。
ブライ・ヤイバテン。

亜種形態に変身した二人は、脚部にエネルギーを送り込んで即刻ヤミーに駆け寄って接近戦に持ち込む。
二人は一気に勝負を決めようとキツめのキックをヤミーにくらわせて吹っ飛ばす。
だがそれに乗じてユニコーンヤミーとカナヅチヤミーは塀の外へとジャンプしていく。

「お見通しだっての」

でも今のブライとオーズには意味が無い。
例え遮蔽物で遮られても、オーズのシャチアイには反響定位によってサーモグラフィのように映り、ブライのヤイバアイにはX線のように物体を透視できるのだ。

結果として、塀の外で走り、大きな門の近くにまで来たところでタジャスピナーとヤイバスピナーを構えて、

「「今だッ!」」

炎と刃の弾丸を標的めがけて発射する。

『くッ』

それに対してユニコーンヤミーは鼻から猛烈な息を噴出し、煙幕のようにして逃げ去った。
馬独特の鳴き声を残して。

「チッ、逃げられちまったか。まあ良い、後でメダルを得る楽しみが増える」

ブライは舌打ちこそはしたが、即座に思考を切り替えて変身を解く。

「大丈夫ですか!?」

一方で映司は被害者のほうに近寄った。

「え・・・・・・あ、大丈夫です」

被害者の男性は実にのっぺらとした感じで答え、何食わぬ表情で立ち去ってしまった。

「やはり、あいつと泉比奈と同じだな」

刃介はそういって、あるものを懐から取り出した。

「それって、比奈ちゃんの服!」

先日、ユニコーンヤミーに破られた服の片割れ。
刃介があの時、ひっそりと回収していたのだ。

「大方あの馬面は、人間の欲望に形を与えて壊すのが趣味なんだろう。そしてカナヅチヤミーは、その壊れた夢を食らってセルとする」

言われてみれば、比奈の言動は明らかにヤミーの行動が起因してるとしか思えない。
信吾のことがあるとはいえ、あまりにスパっと夢を諦めているのだから。

「夢がなくなったら、人間はどうなるんだろう?」
『知ったことか』
「比奈ちゃんのこともあるんだし、少しは考えろよ」
『ふんっ。欲望もない、夢もない――お前も似たようなもんだろ』

アンクはお得意の毒舌をかます。
そこで映司は話題を変える。

「刑事さん、回復してた」
『やっぱりな』
「もうお前がついてなくても大丈夫みたい」
『そうか?』

そこへ刃介も会話に割り込んでいく。

「アンク。代わりの器でも探すか?」
『別に不自由はない』

とだけ言って、アンクはどこかへ行ってしまった。

「ま、いっか。どうせ戻ってくるんだからよ」





*****

服飾学校において、杉浦祥子は。

「おはよう祥子!」
「ねえ、最近比奈が学校に来ないんだけど、なんか知らない?」

女子二人は祥子にそう尋ねたが、祥子が知ってるわけもなく。

「フランス留学の話も断っちゃったみたいでさ」
「勿体無いよね?私なら絶対に行くのに!」

「・・・・・・赦せない。折角のチャンスを不意にするなんて!」
「え、ちょ、祥子!?」

祥子はフツフツとこみ上げてくる怒りを吹き出させて、学校直前からある場所へと直行した。





*****

鋼雑貨店。
そこは以前と比べて売上が伸びつつあった。
理由は単純にして一つだ。

「ありがとうございます。今後とも御贔屓を」

看板娘がいるからだ。
お客を微笑みながら見送る彼女に、店の奥から白髪頭の男が歩み寄る。

「七実、精が出るな」
「働くのは好きですから」

刃介は平和な会話に意識を向けている七実は、この鋼家において家事全般や接客などを担当している。刃介は物品の仕入や財政管理、店の整備などを担当している。

そこへ、

「あの、鋼さん。ちょっといいですか」
「ここに、泉さん来てませんか?」

映司と祥子がやって来たのだ。

「火野に、ヤミーの親?」
「比奈さんなら、此処には一度たりとも来ていませんが」

二人は顔を見合わせながら答えた。

「泉比奈になんかあったのか?」
「ちょっと言いたいことがあって・・・・・・」
「言いたいこと?」
「赦せないんです。私が夢を諦めなきゃいけないのに」

祥子は辛らつな表情で語ってくれた。
あのコンクールで優勝できなければ、服飾学校を退学して父の会社の手伝いをせねばならないことを。
んでもって蓋を開けてみれば準優勝・・・・・・その時の苦しみは相当なものだったのだろう。

「だから赦せないんです。自分から夢を諦める事が」
「なーるほどぉ。だったら一緒に探してやるか」
「念の為に、信吾さんのいる病院に問い合わせてみます」

そういって七実はスマートフォンを使って病院に電話をかけた。
七実は比奈が見舞いに来ているかどうかを受付役に尋ねてみたが、残念なことに今日はきていないらしい。
七実は通話をやめ、そのことを映司たちに伝えた。

「となると、最後に残った場所は自宅だな」





*****

泉兄妹が在住しているマンション。
そこにある泉家という名の部屋に赴いてみれば、凄まじく混沌とした光景が広がっていた。

一言で言うと、ズタボロに切り裂かれた洋服が部屋中に散乱しているのだ。
誰がやったのかと問われれば、それはこの部屋の住人である泉比奈しかいまい。

「えらい模様変えだな」
「能天気言ってないで比奈ちゃん止めてくださいよ!」

部屋に入った一同は比奈からハサミを取り上げた。

「比奈、どうしちゃったの・・・?」

祥子もこの状況には唖然とせざるを得ない。

「夢を失う・・・つまりは生きがいを失ってしまった、というところでしょう」

七実はあくまで冷静だ。

「映司くん、どうしよう・・・・・・」
「比奈ちゃん・・・・・・」
「大好きだった物が、大好きじゃなくなっちゃった・・・・・・私どうすればいいの?何をやればいいか、わかんないよ・・・・・・」

そうして、比奈は眠るように倒れてしまった。
まるで、心の隙間という奈落に落ちたように。

「・・・・・・他の連中も今頃は・・・・・・」






*****

『・・・・・・・・・・・・』

その頃アンクは一人でじーっとしていた。
しかし、ただ不動の状態でいてもしょうがなく、どっかへ飛んで行こうと宙に浮かんだ途端、

――バシュ!――

水の鞭がアンクを捕えたのだ。
アンクは鞭に引き寄せられ、そのまま何者の手につかまれ身動きを取れなくされる。

『捕まえた〜!』
『ガメル・・・メズール・・・!?貴様等なんでだ!?』
『お久しぶり、アンク』

消えた筈のガメルとメズール。
戸惑うアンクの前にウヴァが悠々と現れる。

『ウヴァ!・・・成る程な、だからお前が自分以外のコアメダルを』
『しっかり捕まえてろよガメル。コアメダルは全て頂く』
『うん、わかった』
『クッソ・・・!』

アンクは必死になってガメルから逃れようとする。
だがグリードの中において『重量王』の異名を冠するガメルのパワーには勝る事は出来ない。
なにせ今は右腕だけなのだから。

そんな絶体絶命の時、


――ビュンビュン!!――
――ガキッガキッ!!――


『んっ!?』
『何ッ!?』

何かがウヴァとメズールに命中し、二人の動きが鈍った。

『(今だッ)――デコピンッ!』

――バチン!!――

『イッタァ!』

アンクはガメルの手から力が抜けた瞬間、勢いよく飛び出した。

『チクショウ!誰だ邪魔したのは!?』

ウヴァは右腕の鎌を振り回しながら憤慨する。

『ねぇウヴァ、これって・・・・・・』
『ん、なんだ?』

メズールはそんなウヴァに、自分たちに命中した物体を手にとって見せた。
それは十字手裏剣と棒手裏剣だった。

『一体誰なんだろう?』

ガメルは何時ものノロイ口調で喋るも、

『今はアンクが先だ!探すぞ!』
『ふぅ、はいはい』
『あ、待ってぇ!』

三人は手裏剣の主のことより、目先(アンク)のことへとベクトルを向けて探し出す。
もっともアンクは、

(やはり、このままでは無理があるな。・・・・・・しかし、あの攻撃・・・まさか奴までが・・・?)

近くの物陰に隠れながら、自分を助けた者に目星をつけながら再び器を取りに戻っていった。





*****

鴻上生体研究所の所長室。
真木が財団を去って以降、空き部屋同然とかしたこの空間は、伊達と後藤が入り浸る状態となっている。
もっとも伊達は真木がいた頃からここに居候しているが。

「こんな状態で・・・・・・。どうするんですかこれから!?」
「よく今まで戦えましたね。普通なら絶対安静もんですよ」

レントゲンに映った銃弾をみて、後藤は怒鳴るように問う。
逆に金女は感心しているようだが。

「別に――今まで通りさ。一億(こんだけ)貯めなきゃなんないからな」
「金より命が大事じゃないんですか!!」

後藤は怒鳴り散らしながらそういった。
そして、泣く寸前のような表情になり、

「死なないで下さい」

懇願さえする。

「ああ、俺は死なない。夢を叶える為にな」
不聞(きかず)――初耳ですね。一億はその為ですか?」
「ずっと考えてた夢がある」





*****

倒れた比奈を病院まで担ぎ込み、漸くベッドに寝かしつけた映司たち。

「比奈が目覚めないのは、全部あの怪物のせいなんですか?」
「うん。夢を壊しちゃうみたいなんだ。早く探して倒さないと」
「ま、カナヅチに喰われなかっただけマシだがな」

そう言っていると、祥子が思い立ったようにこう切り出す。

「夢って、なんだと思いますか?」
「え?」
「夢を失って、辛い思いをするくらいなら、最初から見ないほうが良いと思います」

すると、映司と刃介は

「俺もかつて、青臭い夢があったが、ふとした拍子で失くした。結果として今があるのだが、後悔はない。俺と火野のはデカ過ぎたが、お前のはまだマシで現実的だって言ったろ?」
「それに、大きな夢は叶える為に時間が掛かる。俺達は急ぎすぎて、大失敗した。だから、夢はゆっくり育てるべきだと思う。焦って、夢がただの欲望になっても困るし・・・だから・・・ゆっくり、じっくり育てれば良いと思う」

しかし祥子は浮かない顔をしている。

「でも、父さんが・・・」
「説得すればきっとわかって貰えるよ。じっくり時間をかければ」
「出来るかな?」
「だって、夢を諦めたくないんでしょ?」

映司の言葉に、祥子は自然と笑顔になって首肯する。

しかしそこへ、病院着を纏った金髪の青年が

「あら、アンクさん戻ったんですか」
「追い出そうとしても無駄だぞ。・・・この体が要るんだよ・・・」
「それは良いですけど、あとで比奈さんの返事を聞いといてくださいね」
「・・・・・・・・・」

七実にそういわれたアンクは、少しばかり比奈の顔を見ていた。





*****

とある街中。
そこでは大勢の人々がパニックになって逃げ惑っていた。

「く、来るな・・・!」
『お前の夢は何だ?』
『どんな味がするのかな?』





*****

所長室では、

『ゥオ!ゥオ!ゥオ!』

ゴリラカンドロイドがヤミーの存在を察知していた。

「行くぜ」
「ええ」

伊達と金女は早速セルメダルを入れたタンクとケースをてにもつ。
後藤はバースバスターを準備しつつ、

「伊達さんを、死なせません」
「ああ、頼んだ」





*****

ユニコーヤミーとカナヅチヤミーが暴挙する街中。

「逃げてください!」

映司たちが漸く到着する。

「アンク、メダル!」
『邪魔だ』

ユニコーンヤミーは映司を殴り飛ばした。

「映司!」
『おっと、そうはいかん』

カナヅチヤミーはアンクに羽織締めをかける。

「チッ、仕方ない」
「刃介さん。念を押して、メダルは私が持っておきます」
「ああ、余分に持ってると、また持っていかれそうだしな」

刃介は妖魔系の三枚と刀剣系以外のコア全てを七実に預ける。
そしてドライバーを装着し、スキャナーを手にもつ。

「変身!」

≪RYU・ONI・TENBA!≫
≪RI・O・TE!RIOTE!RI・O・TE!≫

リオテコンボに変身すると、右腕を前に突き出し、

「久々だな・・・・・・チェインハンド!」

――バシューー!!――

右前腕部が勢いよくロケットパンチのように飛び、ユニコーンヤミーの顔面に直撃した。
勿論、エネルギーの鎖で本体と繋がっているので、飛んでいった拳はすぐさま戻ってくる。

「ついでに影の鞭ってのはどうだ?」

リオテコンボの固有能力である『黒影操作』で自身の影と周囲の影を己の両手に圧縮して『影の鞭』をつくりだす。

――バチン!バチン!――

『ん〜!おのれ、調子に乗るな!』

ユニコーンヤミーは鼻から白い息を盛大に噴出す。
それによってブライの動きは鈍り、

『お前の夢は何だ?』

ユニコーンヤミーの接近を赦してしまう。
彼奴の手がブライの頭に触れると、それはすぐさまに現れた。

大体、サッカーボールくらいの大きさをした黒い塊。

『なんだコレは?』

ユニコーンヤミーはそれに触れて壊そうとしたが。

――ジュウウゥゥゥゥ・・・・・・!!――

『な、何ぃぃ!?』

触れた瞬間、掌の皮膚が溶け出したのだ。
だがしかし、それによって黒い塊の外皮の一部が剥がれたらしい。
そして見えてきた、まるでブラックホールのように底知れない禍々しい漆黒によって覆い隠されていた鋼刃介の夢の中身が。

『なんと、これは・・・・・・』

ユニコーンヤミーも驚いた。
それは形容のしようさえない、美し過ぎる輝きをこちらに発して放つ何かがあった。
一体ソレがなんなのかは、全貌を明らかにせねば理解のしようがないが、一部分だけでもヤミーさえ虜にしそうな煌きがそこにあった。

「おい、馬面」

しかし、魅入っている時間はプツンと終わった。

「汚ねぇ手で、人の領分にズカズカ入りこんでんじゃあ、ねぇよ!!」

――ザシュ!!――

『うおぉぉああああ!!』

激昂したブライは、魔刀を手にユニコーンヤミーに斬りかかった。
それによってユニコーンヤミーは映司のいる方向に吹っ飛ばされる。
ユニコーンヤミーは気を取り直すように映司へと手を伸ばす。

『お前の夢はなんだ?』
「うっ・・・・・・」

結果、刃介とは別な意味で眼の離せないもの・・・・・・いや、離したくても、どうあっても視界に入ってしまうほどに巨大なものが現れる。

「あれが火野の夢?」
「成る程。そういうことですか」

火野映司の心の奥底で眠っていた夢。
それを具象化して出現したものは、地球そのもの。

『な、なんて大きさだぁ!!』

ユニコーンヤミーも想定外な事態に怯んでしまい、急いで夢を映司へと戻した。

「映司!」

そこへアンクがコア三枚を投げ渡す。
そして伊達達も到着する。

「さーて、お仕事お仕事!」

三人はベルトを装着し、それぞれのメダルを使い、叫ぶ。

「「「変身!」」」

――キリッキリッ――
――パカン!――

≪TAKA・TORA・BATTA≫
≪TA・TO・BA!TATOBA!TA・TO・BA!≫

オーズ、バース、チェリオ――そして、ブライ。
四人のライダーが漸く揃った。

≪DRILL ARM≫
≪CATERPILLA LEG≫

バースは右腕にドリルユニット、両脚にキャタピラユニットを装備してユニコーンヤミーに突っ込む。

≪ENTOU・JUU≫

チェリオは炎刀『銃』を両手に、カナヅチヤミーへと引き金を引く。

「オラオラ行くぜぇ!」
「フッ!ハア!」

戦いは完全な二対一となり、このまま勝負が決まるかと思われた。
しかし、世の中はそんなに都合よく出来てはいないようだ。


――ズバァァァアアアァァァン!!!――


「「うわあああああああ!!」」
「今の攻撃・・・!」
「まさかッ?」

突如、水流・重力・雷撃が合わさっての攻撃がブライたちを襲い、遠くへと吹っ飛ばしたのだ。
勿論それをやったのは言うまでもなく、

「ウヴァ・・・ガメル・・・メズール」
不生(いかさず)――消えたはずのグリードまでいるとは」

「コア集めはこういうことでしたか」
「そして、ウヴァの奴が復活させたんだ!」

これで五対四。

『コアメダルを渡してもらおうか』
「――断る」
「渡す義理がありません」
『そうか。なら力づくで奪うまでだ!』

ウヴァたちは颯爽とオーズらに襲いかかろうとする。
だがしかし!

「真庭忍法――劉殺生!!」

――ザンッ!ザンッ!――

『ぐおッ!』
『キャア!』
『うわッ!』

凄まじい速度で何かがウヴァたちに攻撃したのだ。
あまりのスピードに姿さえかすんで見えてしまうほどに。

「今の技、やはりあいつか!」

アンクは先ほどからあった疑問を確信に変える。

『やっぱり、そういうこと!』
『おのれ!奴まで復活しているとは!』
『でも、なんでブライとオーズに味方する!?』

ウヴァもメズールもガメルも、襲撃者のことを思い出したらしい。
800年前の激戦に初代ブライ共々乱入し、圧倒的な力量を見せ付けた五色のグリード。
ブライは、人生最高のライバルの名を叫んだ。

「来てくれたのか、竜王ッ!」
「懐かしいな、我が好敵手よ」

全身に鎖を巻いて袖を切り落とした忍び装束や腰の左右に提げた忍者刀
若々しく美しい顔立ちにスラリとした長身と抜群のスタイルやポニーテールにした流麗の如く長い黒髪。

最早見間違えようはない。


「真庭忍軍十二頭領総補佐にしてグリードが一角、真庭竜王――通称『奇蹟の竜王』」


誇らしげな表情でそう名乗った女忍者、竜王は堂々とした佇まいでドッシリと構える。

『リュウギョクぅぅ!アンクや其処の女と同じく、ブライとオーズにつく気か!?』

ウヴァは想定外を通り越した規格外な存在が最悪の形で登場してきたことに激怒する。

「見て解らんのか虫頭(ウヴァ)?私はもう、グリードとしての人生に終止符を打っている。これからは・・・・・・」

竜王は四季崎と白兵から受け取った石版とコアメダルを取り出した。
そして、己の決意の下、新たな信念を告げる。

「仮面ライダーとして生きる!」

――バチィィン!――

装着した瞬間、石版は砕け散って内部のベルト本体が露出する。
黒いラインが走る青いバックルにある三つの窪みに、植物(ぎんわく)のコアメダルを入れて傾け、サイドバックルに提げられたスキャナーを持って一気に流れのまま滑らせた。


「変身!」

BARA(バラ)SARRACENIA(サラセニア)RAFFLESIA(ラフレシア)
BA()SA()RA()BASARA(バサラ)BA()SA()RA()!≫


白薔薇の頭に輝く赤い複眼。
食虫植物サラセニアのような緑色の両腕。
ラフレシアのように赤い両足。

「新しい仮面ライダー・・・・・・!!」

誰もがその存在に圧倒されていた。
そして、本人は実に優雅な雰囲気をまとって名乗る。


「仮面ライダー・・・・・・クエス!」


この瞬間、新たなる仮面ライダーが誕生した!

『リュウギョクゥゥゥ!!』

ウヴァはクエスに向って猛スピードで鎌を繰り出そうとする。
しかしクエスは一切戸惑うことなく、エネルギーを両腕に送り込む。
するとクエスの両腕と半一体化した伸縮自在な鞭状の触手『サラセニアフィーラー』が起動し、クエスの腕の動きにあわせてウヴァの体を絡め取る。

「ついでだ。特製の手裏剣を味わえ」

白いバラヘッドにエネルギーが送られ、ソレと同時に花弁を模した『バラペタル』から色鮮やかな花弁手裏剣が生成され、赤いバラアイの閃きに反応して一斉にウヴァへと放たれる。

――バチバチッ!――

直撃した瞬間、爆竹みたいな音を立てて、花弁はウヴァの体を削っていく。

『くぅッ!リュウギョク・・・・・・!!』

恨めしそうに此方を睨むウヴァ。
クエスは冷静な態度を崩さず、視線をブライたちに向けた。

「刃介、オーズ」
「・・・・・・ああ」

それだけで意思は汲み取れた。
互いに本当の意味で、戦いという場で分かり合うことができた戦友の意思を。

「行くぜ、火野。全力全開だ!」
「はい!」
「兄さん、まさか紫を?」
「待て!暴走するぞ!」

バースとチェリオは止めようとするも、そんなものを聞いてる場合ではない。
目の前にいる者に報いるためにも。

「大丈夫です」
「どうにかなるって」

二人は雄々しく佇み、体中に力を入れた。

「「俺に力をっ!」」

それと同時に複眼が一瞬紫色となり、体からはコアメダルが飛び出す。
勝機のメダルを掴み取った二人の手付きに迷いはなかった。

≪RYU・WYVERN・DRAGOM≫
≪RYU・WA・DRAGON KNIGHT!≫
≪PTERA・TRICERA・TERANNO≫
≪PU・TO・TERANNO SAURUS!≫

虚無を司る紫の波動が解放され、二人の周囲には冷気と覇気が満ち溢れる。

「って、ヤバ!」
「巻き込まれる!」

バースとチェリオは全てを凍えさせる冷気と全てを震え上がらせる覇気から逃れるように駆け出す。

「「ヴォォオオオオオ!!」」

プトティラコンボとリュワドラコンボの雄叫びがあがった直後、冷気も覇気も弾け飛び、二人は本能のままに走り出す。

「映司・・・あいつまた・・・」
「大丈夫ですよ。あの二人なら」

アンクとは裏腹に七実には心配の色は見当たらない。

オーズはガメル、ブライはカナヅチヤミーに蹴りと拳を喰らわせて行く。
だがそこにはきっちりとした理性があった。

「・・・・・・問題ないな」
「えぇ、やりましょう」

――バリっ!――

ブライとオーズは拳を地と空に沈め、メダガブリューとメダグラムを召喚する。
それを見て、メズールとガメルは困惑する。

『なんなの?あのコンボは!?』
『誰のメダルだぁ?』

「「――――――ッッ」」

オーズとブライは得物を手にし、そのままグリード二人に斬りかかる。

≪DRILL ARM≫
≪ANTOU・KAMA≫

バースはドリルアームでユニコーンヤミーを、チェリオは暗刀『鎌』でカナヅチヤミーに攻撃をしかけていく。
その様子を見てクエスはサラセニアフィーラーの呪縛からウヴァを解放する。

『貴様ぁ!』

束縛されていたウヴァは敵意剥き出しでクエスに鎌を喰らわせようとする。
――が、

「悪いが、その手は喰わん」

クエスは紙一重で鎌を避けると、ついでにウヴァの腕を踏み台にしてジャンプした。
空中にいる間クエスは、クエスドライバーにある三枚のコアのうち、中央の一枚を焦茶色のメダルと換装する。

≪BARA・KYOUKEN・RAFFLESIA≫

地表に着地したと同時に、クエスの両腕は緑から焦茶色となり、そこには一対の小太刀(キョウケンソード)が握られている亜種形態の一つ、バラキシア!

クエスはメダルチェンジを完了させると、得物の特徴を生かしたスピーディな戦いに切り替え、刃を思う存分に小刻みに振り回す。その際の動きには何の迷いも鈍さもない。

「中々使い心地が良い」

クエスは攻撃に一旦区切りをつけ、キョウケンソードの使い勝手を評価する。
クエスは見分を終えると、次は脚部にエネルギーを伝達する。

「精々鼻がもげないよう気をつけることだな」
『なに?』

――ブンッ――

クエスが足を思い切り振った瞬間、

――プシュウウゥゥゥ!!――

猛烈な勢いで異様なガスが噴出されたのだ。
脚から出たガスはまるで煙幕のようにウヴァの周囲を囲う。
だが効果はそれだけではない。

『んッ!?な、なんだこの臭いはァ!?』

余りにも強烈過ぎる腐臭にウヴァは今にも意識がブラックアウトしそうになるが、持ち前の執念深さでどうにか乗り切った。

「しぶとい奴だ。・・・刃介、トドメだ」

でもそれさえ、クエスにとっては策の一つ。
ウヴァは何時の間にか、ガメルとメズール、そしてユニコーンヤミーとカナヅチヤミーが一塊になっている場所に誘導されていたのだ。

≪RYU・WA・DRAGON HISSATSU!≫
≪PU・TO・TERANNO HISSATSU!≫

――バギュウウゥゥゥゥン!!――

次の瞬間、ストレインドゥームとギガキリングスレイヤーの合体攻撃が発射される。
グリード三体は咄嗟に逃げる事ができたが、代わりにユニコーンヤミーとカナヅチヤミーは直撃してしまい、一枚のセルと大量のセルメダルを残して爆発した。

戦いは終わった・・・・・・が、一同の顔はまだ晴れない。
理由は当然、クエスとなった竜王にある。

「竜王・・・・・・」
「刃介・・・・・・」

ブライとクエスは間隔1mのところまで近づきあう。

「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

そんな二人を、残りのメンバーたちは無言で見守っていた。
驚天動地の物語は、更なる加速を見せる。





*****

そして、何とか逃げ延びたグリード三人衆は、体中に手傷を負いながらも港にある倉庫区域にいた。
その姿は少し前の彼等と比べれば余りに惨めだった。
しかし、それだけ分の悪い状態だったのも疑いようのない事実。

『フフッ、イイ格好だね』

そこへ三人にとって聞き慣れた声がしてきた。
声をかけてきたのは、ロストを連れてきたカザリだった。

『アンク・・・?まさか・・・!?』

ロストの存在を知らないメズールは、目の前の光景という現実すら疑った。

『ねえ、誰・・・?』
『敵、かな・・・・・・』

ロストに問われたカザリは返答しつつ、右手をウヴァたちに向けた。
ロストもそれを真似て左手を前に出す。

『に、逃げるぞ!』

正直な話、こんな状態でグリード二人を相手にするのはかなり無理がある。
ウヴァに促され、背を向けて退却しようとするがもう遅い。

『『フッッ!』』

カザリの風とロストの炎が同時に放射され、辺り一面に爆炎を起こさせながらウヴァ達にダメージを与えたのだ。
当然、傷口を広げられるようなことをされて無事なものなどいるはずがない。

カザリとロストが自分たちにゆっくりと近づいてくるのを見たメズールはこんなことを言い出した。

『ねぇカザリ。アンクと貴方につくから、ウヴァを倒してコアメダルを分け合わない?』
『なッ・・・!?』
『うん。その言葉を待ってたよ』

カザリはウヴァの策を最初から見抜いていた。
つまり、メズールとガメルを戦力に取り込もうとしていたのだ。

『カザリが俺達を裏切ったことを忘れたのか!!』
『あーら、貴方だって同じでしょ』

かつてメズールはカザリによってコアを抜き取られ、残り一枚だけの状態にされて怪人態すら保てない状況に陥ったことがある。
その時にはウヴァもカザリの裏切りに対する激怒と『進化』という言葉の魔力にのまれ、メズールから最後のコアを奪おうとしたことがある。

『私たち、もう二度とバラバラになるわけにはいかないの』

メズールがそうしてカザリ側についたことで、

『う、うぅ・・・・・・メズール、俺も!』

彼女に甘えていたガメルまでもがカザリ側についた。

『くッ、バカな・・・!』

ウヴァは傷ついた体を引き摺りながら逃げようとするも、それは無謀とさえ言える。
ロストの火炎、カザリの突風、メズールの水流、ガメルの重力波。
四つの攻撃を背後から同時に喰らっては、

『うわああああああァァァァ!!』

ウヴァの体は吹っ飛んでメダルに分解されてしまい、彼が抜き取ったガメルとメズールもコアも持ち主の下に帰った。

『やった!』
『はぁあ・・・』

コアを取り込んで嬉しそうにするガメルと、下半身が復活して恍惚な声音を出すメズール。
そして、ウヴァの昆虫系コアを回収し、四人のグリードは其の場を後にした。

重要なものを一枚だけ取り忘れたままで。





*****

戦いが終わり、映司達は病院に戻っていた。
しかし竜王は服装の関係上、屋上で待機で、刃介と七実もそれに付き添った。
そんな中で、比奈は両の目を開けて意識をとりもどす。

「比奈!良かったぁ!」

看病していたのか、祥子はそれを笑顔で喜ぶ。

「夢の中に・・・・・・お兄ちゃんが出てきた。――叱られた」

寝起きのせいか、妙に平坦な口調で喋る比奈。
祥子は病室の出入り口に立っている映司とアンクをみて、

「じゃあ比奈、学校で待ってるから」
「うん」

入れ替わるように病室を出た。

「比奈ちゃん・・・どうする?アンクに、出てってもらう?」

信吾の肉体は病院の治療でどうにかなる程に回復している。
その辺の審判は肉親である比奈が下すべきだろう。

比奈は暫くの間、真顔で黙っていて、痺れを切らしそうになったアンクが映司の肩を『右腕』で掴んで何か言おうとしたが、

「もう少し・・・・・・お兄ちゃんと、一緒にいて」





*****

病院の屋上。
そこには刃介と七実と竜王がいた。

「そっか。やはり四季崎のヤローか」
「ああ。お前を『完全』なものにすると言っていた」
「『完全』・・・・・・ただグリードの完全体するのとは、違いそうですね」

三人は実に真面目な空気を展開していた。

「まぁいいさ。その事はあいつが何れ話してくれるみてぇだからな」

刃介はパッパと話題を切り上げ、別の話題を持ってくる。

「竜王・・・・・・いや、仮面ライダークエス」
「なんだ、ブライ?」

二人はライダーとしての名前で呼び合った。

「これから頼むぜ、戦友」

そういわれると、竜王は自然と笑顔になった。
彼女らしい綺麗な笑顔で。

「ああ・・・・・・宜しく頼む」
「それからよ、これ、返しとくぜ」

刃介はそう言うと、懐からある物を取り出した。
五色の布を乱雑な手付きで縫い合わせたような不恰好なマフラー。

「大事なモンなんだろ」
「刃介・・・・・・ありがとう」





*****

つい先ほどまで、五人のグリードがいた場所。
そこには一方的な攻撃によって散らばった木材などが散らばっていた。
だがそこには、明らかに異質なものが一枚だけ残っている。

――このままじゃ済まさん・・・・・・!!――

クワガタ・コア。
そのたった一枚には、凶暴な魂が宿っていた。

「ほほぅ。こいつはとんだ拾い物だな」

――ん・・・?なんだコイツ・・・?――

そして、それは一人の刀鍛冶によって拾われた。
この先の未来という水面にまた一つ、波紋を起こしていくかのように。





*****

そして、真木の洋館では、紫・黄色・赤の三色で彩られていた空間が変わろうとしていた。
紫と黄色と赤の三色に、青と灰を加えた五色へと。

自己を含めて合計五人のグリードが結集した。
カザリは本当に愉快で楽しそうな表情で、他の四人と共に階段をあがっていく。

「さーて、これからどうしようか?」

その時の口調は、実に面白そうだった。
これから起こりうる三つ巴の戦いに、思いを馳せながら。
次回、仮面ライダーブライ!

睡眠と医療と裏切り





仮面ライダークエス
真庭竜王がクエスドライバーと三枚のコアメダルの力で変身した姿。
錆白兵(ゼントウ)が秘めるべき植物系・犬系・甲殻類系のコアを用いている。
竜王自身に高次元な戦闘技術によって持てるスペックが最大に発揮されており、オールマイティな戦いを可能とする。
基本形態は植物系のバサラコンボで、一応は正規のコンボなのだが、色違いの所為かこのコンボには固有能力がなく、使用するコアメダルも縁が銀色になっているのも特徴である。
名称の由来は「要望」を意味する「Request(リクエスト)」から来ている。因みにスーツの色は蒼銀となっている。


バサラコンボ
キックリ力:15トン パンチ力:10トン ジャンプ力:130m 
走力:100mを3.0秒 身長:200cm 体重:85kg 固有能力:なし

バラヘッド(白)
複眼の色は赤。花弁を模した「バラペタル」から色鮮やかな花弁型手裏剣を一斉に放つ事が出来る。

サラセニアアーム(緑)
両前腕部と半一体化している伸縮自在な鞭型の触手武器「サラセニアフィーラー」を装備している。

ラフレシアレッグ(赤)
両脚に入った出鱈目に這ったラインから、腐臭ガス「スメルガス」を噴出する。これの臭いは、人間と比べて五感が退化しているグリードさえ、余りの不快感に卒倒するほどのモノである。


クエスドライバー
真庭竜王が仮面ライダークエスに変身するためのベルト型ツール。
色彩以外に関してはオーズドライバーやブライドライバーと機構は同等で、コールカテドララル・オーメダルネスト・コールスキャナーの三つで変身システムを成している。


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