夢の破壊者と泉信吾と伊達の異変
とある朝早く、朝霧が薄らとかかっている時刻。
そんな静かで澄んだ時に、街中を歩く二つの人影があった。
片方は恰幅の良い男、片方は小柄な女というのが何処と無く解った。

「どうだ七実?朝早くのデートっていうのはよぉ」
「ええ、中々に粋で素敵でございます」

鋼刃介と鑢七実。
二人は前件から急速に仲が進み、こうして穏やかな時間からデートを楽しむほどになっていた。
勿論、こんな時間から開いている店などは少ないし、二人はそれを考えないほどバカではない。
おもにこうして街中をぶらついたり、何処かで休憩しながら語らったりと、平凡ながらも満ち足りていた。

二人は緑の多い公園の芝生に腰掛け、薄らと東の空の果てから昇ってくる朝日を眺めている。

「刃介さん、お茶です」
「あんがとよ」

七実は気を利かせて大きなバッグから魔法瓶を取り出し、氷でギンギンに冷えた麦茶を器に注いで刃介に手渡す。
刃介は気持ち良さそうにそれを一気飲みする。

「ふぅ・・・朝霧に囲まれながら、朝日を拝みつつ、良い女の酌・・・・・・これで酒がついてれば文句なしだな」
「そう仰ると思って、キンキンに冷えたお酒を持って参りました」

そこには一本のデカい酒瓶が!

「よーし!この霧が晴れるまで、飲み明かすとするか!」
「はい。精一杯お楽しみください♪」

そういって七実はまたお酌をした。
刃介が注がれた日本酒をガブガブと気持ちよく飲んでいった。

「どうです?」
「惚れた女に酌してもらった酒が、不味い訳ないだろう?」
「うふふ。そう言って貰えて光栄です」

七実も褒めて貰って気を良くしたのか、再びお酌をした。
刃介はそれを半分ほど飲んだ。

「刃介さん・・・?」

七実は可笑しいと思った。
刃介は紙コップ一杯に注がれた澄んだ酒を半分残している。
二度に分けて飲むのかと思ったとき、

「七実、口を開けろ」
「はい?」
「いいから早く」

刃介の言葉に疑問を覚えつつも、七実は小さく口を開けた。
すると刃介は残った酒を飲んで―――いない。
喉の動きからして、恐らくまだ口の中だろう。

刃介はその状態で無言のまま七実の顔に近づき、


――チュ・・・・・・ッ――


「・・・・・・//////」

七実は赤面した。
刃介は七実の唇を奪った瞬間、口に含んでいた酒を七実の口腔内に流し込んだのだ。
突然のことに七実は対処できず、ほんの少しばかりの酒が口からこぼれ、何ともいえない色気を醸し出している。

もしかしたら、これは刃介なりのお酌の仕方(恋人専用)なのかもしれないと七実は思った。

「あ、あの、刃介さん・・・///」
「なんだ?」

どことなく男の本能に訴えかけてくるような赤面した表情で七実が言葉を紡ぐと、刃介は優しい笑顔で返す。

「もう一杯、お願いできませんか?」
「ああ、何杯でも飲ませてやる」

そうして二人は、何度も何度も、お酌してもらっては飲ませてもらい、お酌してもらっては飲ませてもらい・・・・・・これを酒瓶のソレが尽きるまで繰り返した。
しかし刃介と七実はこの時、予想さえしていなかっただろう。

何れ黄泉の国より復活せし、ライバル?の存在を・・・・・・!





*****

その頃、とある古びた武家屋敷の広い庭にポツンとある土蔵の中では。

「よーし、こんなもんか」

一人の刀鍛冶が額に汗して一本の刀を鍛えていた。

刀鍛冶の名は四季崎記紀。
元々は占術師の家系であり、先祖伝来の予知能力を最も色濃く受け継ぎ、その力で未来の技術を逆輸入することで千本の変体刀を作り上げた人物である。
さらには刀鍛冶だけでなく、鍔師・柄師・鞘師といった刀にまつわる全てを一人でやってのけた天才でもあるのだ。

「うんうん。我ながら良い出来栄えだな」

出来上がった刀を持って見つめる四季崎。

その刀の刃はまるで影のように漆黒で、全長は切っ先から柄の末端を含めると150cmもある長刀だ。
しかし、刀身の黒とは対象的に鍔と柄は純白だ。おまけに梵字まで彫られている。
傍に置いてある黒鞘にも、4mか5m近くのとんでもない長さをした経文までもが巻きつけられていた。

呪刀(ジュトウ)(シズメ)』」
「それが新しい変体刀の名でござるか?」

一人呟く四季崎に、また一人語りかけてくるものが居た。
その手には、刀身が極薄であるが為にガラス細工と見間違うほど透明な刃をした刀を持っている。
刀の名前は薄刀『針』。此の世で最も薄く、脆く、弱く、軽く、美しい刀。

「よう白兵」
「おはよう。それができた以上、お主も出陣でござるか?」
「ああ。ヤミーではなく、この俺自身がな」

返事を返した四季崎の表情は実に、愉快で楽しそうなものだった。






*****

泉比奈が通う服飾の専門学校。
そこでは今日、比奈や生徒達にとって心を大きく揺さぶるイベントが起こっていた。
そして、学校内にある広い講堂。
そこはまるでファッションショーそのまんまのセッティングがされていた。

「エントリーナンバー02、藤田美香さんの作品」

司会が声を出し、モデルの女性は赤と黒の服を纏い、セッティングされた舞台の上を華麗に歩いていく。

「腰から下は大胆なシルエットであるにも関わらず、フォーマルにもエレガントにも着こなせる、勝負服としての一着です」

そして、このデザインコンクールを見守る者が四人居た。
その内の二人は言うまでも無いだろうが・・・・・・。

「ドキドキするわね」
「はい」

パイプ椅子に座って他者の作品を見据える知世子と比奈。
勿論の事、この服飾学校に生徒である比奈もこのコンクールに参加しており、彼女が今手にしているスケッチには、比奈地震が手がけた服の絵が描かれている。

「お店終わったあとも、寝ないで作ってたのよねぇ」
「ちょっと、難しいと思いますけど・・・・・・ほら、見てください。審査員長の席の人」

比奈が指差した先には、ビシっとスーツを着こなした男が座っていて、実に厳しい目付きで作品をチェックしている。

「沢口先生――フランスで活躍するプロのデザイナーで、私の憧れの人なんです」
「きっと気に入ってくれるわよ。ねぇアンクちゃん、金女ちゃん」

二人の丁度真横にある二つの席には、

不解(わからず)――私には判別がつきません」
「フン、下らない。なんで俺までこんなところに?」

行儀良く座っている金女(薄緑で無地の浴衣姿)と、脚を組んで行儀悪く座っているアンク。
因みに金女は刃介と七実の代理役である。

え、どうしてかって?
理由は単純―――酒臭いから。

「ダメ!」

知世子はアンクの態度に腹を立てたらしい。

「お洋服つくるのは、比奈ちゃんの夢なのよ!人の夢を下らないとか言っちゃダメ!」

などといってる間に、三番目が終わったようで、

「あ、次私の番です!」

比奈本人も若干テンションをあげている。

「ナンバー04、泉比奈さんの作品」

舞台の上に立ち、ライトを浴びているのは、比奈がデザインした服を着た映司。
他のモデル同様に、舞台の上を歩いていく。

「和服を大胆にアレンジ!まさに現代という合戦場で戦う為の戦闘服です!」

どこぞの殿様が着てそうな豪奢な和服に西洋的雰囲気を付加した服装で、映司は颯爽と歩き、独特のポーズをとった。

(けっこうセンスあるんですね、比奈さん)

と、純和風人間・鋼金女は内心、比奈のセンスに良き評価をくだしていた。
そして、全ての作品の発表が終わり、舞台上には発表者は勿論の事、モデルたちに立ち並んだ。

「それでは、審査結果を発表いたします」

沢口がそう告げて、若干の間を置き、

「優勝は・・・・・・」

焦らす様に、更に間が置かれる。

「泉比奈さん!」

その瞬間、比奈にスポットライトが当たり、あたりは歓声に包まれる。
因みに知世子の喜びぶりはハンパではなかった。

「泉さん、優勝おめでとう!」
「はい!ありがとうございます!」

沢口からトリフィーを受け取り、比奈は満面の笑みだ。

「やったね比奈ちゃん!おめでとう!」

映司も拍手して喜んでくれた。

「準優勝は、杉浦祥子さん」

続いて準優勝者が発表され、その人は一礼し、拍手がもう一度起こった。

そして、コンクールが全て滞りなく終了する。

「比奈ちゃんおめでとう!」
「ほんっとにおめでとう!」
「めでたいですね」

三人は比奈の優勝を喜んでくれた、が、アンクは未だに明後日の方を向いている―――

―――かと思いきや。

「おめでとう」

その一言だけが、アンクの口から出てきたのだ。

「え?」
「アンク?」
「―――なんだ?俺なんか言ったか?」

不思議なことに、アンク自身もどんな言葉を吐いたかわかってないらしい。

(まさか、依代の意識が・・・?)





*****

しかし、優勝を逃したがゆえ、苦い思いをするものもいた。

「残念だったな、祥子」
「父さん私「学校を辞める約束、忘れてないな?」

準優勝者の杉浦祥子はどうやら、このコンクールに全てを賭けていたらしい。

「でも準優勝!」
「約束は約束だ。わかってくれるな?」

それだけいうと、父親は歩み去って行き、

「―――――ッ」

祥子自身は、準優勝のカップを、ゴミ箱へと投げ捨てた。






*****

その頃、遊園地の劇で使ってそうなステージの近くをぶらつく男が居た。
右手にはセルメダルがあり、緑色のジャケットをハードに着こなし、髪をオールバックにしている男。

しかしその時、

――ビューーーン!!――

「うわッ!?」

突然の疾風に襲われ、男は吹っ飛ばされてしまい、辺りにジャラジャラとセルメダルを落としてしまう。
そして、それをやったのは、

「カザリ・・・!」

椅子に悠々と座っているカザリ。
男は激昂したように姿を変えた。

クワガタムシの顎らしき角、蟷螂のような複眼と右腕の鎌、緑と黒の体色をしているが、下半身は焦茶色の素体が剥き出しな不完全(セルメン)状態の昆虫王ウヴァへと。

『君に紹介したいヤツがいるんだ』
『なに?』

すると、劇の上から足音が聞こえてくる。
見上げてみると、そこには赤い異形がいた。

顔の右半分が欠けて紫の素体がむき出しになっている鷹のような頭と緑色の目。
孔雀のような極彩色の体色に、コンドルのような鋭い脚。
そしてなにより、アンクと同じ左腕をしていながら、右前腕部が不完全(セルメン)なグリード。

『アンク!?』
『そう、アンクだけど、まだ完全じゃない』

予想さえしなかった存在の登場にウヴァは驚きを隠せない。

『でも、君が持っているそのコアメダルがあれば・・・・・・』

カザリが説明してる間に、ロストは左肩から赤い翼を出し、緩やかの下降してこういった。

『僕のコアメダル、返して!』

ウヴァがオーズから盗ったコンドルを、取り返すためにやってきたのだ。

『最近、ブライ達が首突っ込んできて、僕等も力をつけなきゃならないんだよね』
『なに!?ブライだと!?』

ウヴァは本気で驚いた。
何しろ800年前、自分たち五大グリードと同等の能力を備えたリュウギョクと対等に渡り合い、グリードである自分たちにさえ畏怖の念を抱かせた戦闘狂の存在を、彼等は忘れ去る事ができなかった。

だがしかし、今は思い出を掘り返している場合ではない。

『くッ!』

ウヴァは一気に最悪の状況に陥ってしまった。
ただでさえ、水棲系と重量系のコアを得て進化したカザリ一人相手でも相当苦戦したというのに、そこへ自分が苦手とする火炎属性を備えたアンク(ロスト)まで加わった日にはとてもじゃないが勝機など見出せない。

――ジャリン!ジャリン!――

カザリの爪によって攻撃されると同時に何枚かのセルメダルを削ぎ取られるウヴァ。
さらにそこへ追い込まれていき、カザリは鉄の手摺のある場所にまでウヴァを追い込み、上段へと昇って手摺と爪を利用してウヴァの角を挟んで捕えた。

ロストはそのタイミングで左腕に炎を灯し、ウヴァの胸に押し当てた。
セルメダルが何枚か飛び散り、遂には体内に隠し持っていたコンドルのコアメダルが露出する。

『ぁぁぁ・・・・・・』

自分のコアを取り返し、満足そうなロスト。
だがそこで、

『フンッ!』

――ビリビリ!バチバチ!――

ウヴァは角から雷撃を放電し、そのままバッタの如き跳躍で逃げ去った。

『逃げられたか・・・・・・まぁいいや』

カザリは若干残念そうにしながらも、ロストに近寄る。

『気分はどう?』

コンドルをとりこんだロストに聞いたが、

『僕は・・・・・・何処?』

やはり彼の頭には、右腕のことで一杯らしい。






*****

そして、逃げ延びたウヴァはというと。

『このままじゃ、分が悪すぎる』

カザリとロスト、オーズとブライ。そしてまだ見ぬ四季崎と白兵。
様々な敵要素が手を組んでいるなかで、ウヴァだけは未だに孤立している。

『メズール、ガメル・・・・・・』

彼はそんな状況を打破すべく、一つの起死回生の奇策を打つことを決意する。
己が手にあるサイとシャチのコアメダルを見つめながら。






*****

クスクシエでは、比奈の優勝にちなんで、

”泉比奈chanおめでとう!優勝記念フェスティバル”

などと、デカい垂れ幕まで降ろした上に、比奈がデザインした服のスケッチなどが飾られていた。

「ホントにこれで営業するんですか?」
「勿論よ。これ、良いデザインよね!」
「ちょっと、恥ずかしいです・・・・・・」
「何言ってるの?未来のパリコレデザイナーなんだから、胸を張らなきゃ」

知世子と比奈が話していると、

「パリコレって?」

映司が話に入ってきた。
しかもコンクールの服装のまんまで。

「海外で活躍するのが夢なんですって」
「へー、すっごい夢だな」
「まだ先の話ですよ」
「比奈ちゃんなら絶対できるって!」

北村の時には根拠は無かったが、今回はきちんと実績があるので根拠はある。
そんな盛り上がる三人とは対照的に、なにやら考え込む男が一人。

(何かが可笑しい)

右腕のアンク。

(”あの時”からか・・・?それともこの身体が・・・?)

あの時、とは、ロストがアンクを吸収しようとしたときのことである。

だがそこへ、

「ねえ。お兄ちゃんの記憶わかるんだよね?」
「なんだ急に?」

妙なタイミングで比奈が話しかけてきた。

「なら知ってるの?私がどうして洋服つくりたいのか」
「そんなこと聞いてどうする?」
「私、お兄ちゃんに喜んでもらいたい」
「下らない」

愛も変わらず冷たいリアクション。

「そんな言い方ないだろ。お前も一回着てみたら?」
「・・・・・・・・・」

しかしアンクは無言で棒アイスを舐める。
そんな時、一人の来客が、訪れた。

「あのぉ、この店で泉比奈さんが働いてると聞いたのですが・・・・・・」
「沢口さん!?」

来訪客は沢口審査員長だったのだ。

「ああ、泉さん。改めて優勝おめでとう」
「ありがとうございます。今日はどのような用件で?」

わざわざ来たのだから重要な用件であることは予想がつく。

「フランスで、勉強するきはないか?」
「え?」
「君には才能がある。もし、君さえ良かったら、フランスの私のアトリエで、勉強しながら仕事しないか?」

夢にまでみた大チャンス到来!

「すごい!すごいよ!」
「やったわね比奈ちゃん!」

根拠が完全なものとなり、映司も知世子に喜ぶ。
勿論比奈自身に嬉しいのだが、不安の種がたった一粒だけある。

彼女の視線の先には、無愛想にアイスを舐めるアンク。

「すいません・・・・・・少し考えさせてもらっていいですか?」
「「「え・・・?」」」





*****

とあるゴミ置き場。
そこには文字通り、不要となったものが汚らわしい存在となって捨てられている。

「欲望の成れの果てですか」

そんな場所に自ら足を運ぶ、人形を腕に乗せた黒服の男が一人。

「やはり、欲望の行き着く先は終末ですね」

真木清人は、ふとあるものに目を付けた。

「このトロフィーには一体どんな欲望が?」

そこには、杉浦祥子が捨て去って準優勝のトリフィーが捨て置かれている。
真木はセルメダルを一枚持ち、それを落として転がすようにして投げた。
トロフィーには投入口が現れ、自然とセルメダルはチャリンという音を立てて入った。

すると、エネルギーが放出されると同時に一体の異形が生成された。

『・・・・・・・・・!』

幻想の中における一角獣こと、ユニコーンヤミー。





*****

同時刻、四季崎は欲望の種を探していた。
そして何より、四季崎は比奈の通っている服飾学校にいた。

「はてさて、俺の眼鏡にかなう欲望はっと・・・・・・」

極力目立たないよう気配を消しながら行動していたが、そんなことの意味があったのかと思うほどに、あっさりと見つかってしまった。

「ほほう。こいつはいい欲望だ」

四季崎は遠目からその獲物を見つけて薄らと笑った。
たた一人で椅子に座り、打ちひしがれている長い黒髪の女子大生の姿を。

「その欲望、貰い受けるぞ」

誰にも聞こえることの無い言葉と共に、四季崎はセルメダルを軽やかな手付きで投げた。
セルメダルは一直線に飛んでいき、女子大生の後頭部に出現した投入口にチャリンといった。

すると、

『―――――――』

一体の異形が、女子大生に気付かれることも無く誕生した。
一つの身体に対し、二つの頭を持ち、身体中が重量感溢れる鈍器で構築された黒金の怪物―――その名はカナヅチヤミー。

『・・・・・・フッ』

カナヅチヤミーは一息はくと、そのままどこかへと去ってしまった。

「ん、あれ?今なんか・・・?」

女子大生は何か違和感を感じて周囲を見渡せど、既にヤミーは去ってしまっている。

「まぁいいか。・・・・・・はあ、本当に辞めなきゃいけないんだよね・・・・・・」

女子大生はあるものを手にしながらこの上なく絶望的な溜息をついていた。
そして、その手には、退学届が握られていた。





*****

その頃、刃介と七実はというと。

「七実ぃ。酒の臭い、好い加減とれたか?」
「ええ、お陰様で。刃介さんのほうも良いみたいですね」

どうやら完全にアルコールが抜け切ったようで、我が家の居間にしかれた畳で座る二人。

「しっかし、四季崎の野郎はどういう気なのやら?」
「自分からコアを渡してきたわけですしね」

右腕をグリード化させ、掌から一枚のコアメダルを出した。
先日四季崎が渡してきた金色のコアメダル。

裏面にはセル同様のバツ印が刻まれ、表面には一つの文字が書かれている。
そこには『釵』の文字が刻み込まれていた。

「もしかしたら、此間のツルギヤミーの件とあわせて考えると、四季崎が生み出すヤミーと、宿すコアの種類は完成形変体刀に順ずる――つまりは十二」
「そして、彼のコアを取り込むことで初めて、刃介さんは完全変化を果たす、というわけですか」
「俺とあいつは、対を成す存在なんだろう。――俺が身体で、奴が能力ってか」

刃介は神妙な面持ちでカンザシコアを見つめ、右手の指で掴む。

「まあ良い。今度出くわしたら、一枚か二枚は絶対に抉り出してやる」






*****

真木がユニコーンヤミーを生み出して少しした頃、とあるランナーが大会目指して走っていた。

「良いペースだ!世界大会、世界大会!」

車に乗り込んだコーチだメガホン越しに声をかけながら、時折指示も飛ばす。
そんな時、

――ド・・・ッ!――

ユニコーンヤミーがコーチの乗った車を正面から強引に、血から技で止めた。

「か、監督!大丈夫ですか!?」

ランナーはコーチをことを案じて駆け寄ろうとするが、

『お前の夢はなんだ?』
「う、うあっ!?」

ユニコーンヤミーはランナーの頭に触れた。
すると、ランナーからは『夢の具体例』ともいえる金メダルが具現化された。

『夢は夜に見ろ』

――パキッ――

ユニコーンヤミーはそういって金メダルを真っ二つに割った。
そして去っていったが、肝心のランナーは、

「・・・・・・・・・・・・」

まるで抜け殻のようになっていた。
だがそこへ更にヤミーがやってきた。

『儚く散った夢は蜜の味』

なんだか陰湿な台詞を吐きながら登場し、割られた金メダルを双頭で飲み込んでしまった。
もうおわかりだろうが、カナヅチヤミーだ。






*****

それから更に少しして、
とある広場で二人組のアマチュアシンガーたちがギターを抱えて路上ライブをやっていた。
しかし、そこへ思わぬ乱入者が・・・!

「・・・・・・ひっ」

ライブを見ていた観客の一人が薄らと悲鳴をあげた。
歌い手達もなんだと思ったときには、

『お前たちの夢はなんだ?』

ユニコーンヤミーがいた。

「「「きゃああああああ!!」」」

当然、観客は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
ユニコーンヤミーはそんなのお構いなしにシンガーたちに頭にふれ、夢を具象化させていく。

片方からは店で売られていそうな豪華なジャケットに封入されたCD。
もう片方からは全国ツアーライブと大きく書かれたポスター。

『夢は夜に見ろ』

パン、という音を立てながらユニコーンヤミーが手を叩くと、CDもポスターも真っ二つに裂けてしまい、

『儚く散った夢は蜜の味』

そして、カナヅチヤミーにパクンと飲み込まれてしまった。

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」

二人のシンガーは凍りついた無表情となって座り込んでしまう。
そしてそこへ登場してきたのが。

「馬のヤミー?それから・・・?」
不当あたらず――あれは馬じゃありません」
「角があるからユニコーン。多分、恐竜のヤミーと同じ属性だと思います」
「ついでにもう一体のは、最近になって現れだしたタイプです。特徴から考えて、カナヅチヤミーとでも申しましょうか?」

伊達と後藤と、忍装束姿の金女。

「ユニコーンちゃんか」
「ではいきましょう」

伊達と金女はベルトを装着し、後藤はバースバスターをスタンバイ。

「「変身」」

二人はセルをバックルにいれ、一気に変身の手順を踏んだ。

――キリッキリッ――

『フっ!』

途中でユニコーンヤミーが攻撃してきたが、その攻撃は後藤がバースバスターで撃ち落す。
そうしてる間に、二人の変身が完了する。

「さぁてお仕事だ!」
不忍しのばず

早速二人のライダーはヤミーに向って突っ込んでいく。
だがそこへ、タイミングを計ったようにアンクと映司が現れる。そして刃介と七実もだ。

「映司」
「ああ」

アンクは映司にコアを渡す。

「「変身!」」

≪RYU・ONI・TENBA≫
≪RI・O・TE!RIOTE!RI・O・TE!≫
≪TAKA・TORA・BATTA≫
≪TA・TO・BA!TATOBA!TA・TO・BA!≫

二人はオーズとブライに変身。
メダマガンとメダジャリバーを手にしてヤミーに突っ込んでいく。

≪DOUBLE・SCANNING CHARGE≫

「初撃は大切だよな?」

といって、ブライはメダマガンに二枚のセルを入れてスキャニングし、

――バンッ!――

『んがあああああ!!』

カナヅチヤミーに強力な炸裂弾をぶちかました。

「映司。今の内にメダル換えろ」

アンクはタコのメダルを投げ渡そうとしたが、その瞬間。

――バッ!――

「ウヴァ・・・!」

突如ウヴァが現れ、タコを掠め取ったのだ。
おまけにアンクの周りには数体の屑ヤミーつきだ。

「鬱陶しい雑草ですね」

七実は心から面倒そうに屑ヤミー共の前に自ら身を曝した。

『虚刀流』

しかもキョトウの姿となって。

『雛罌粟から沈丁花まで、打撃技混成接続』

――シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュ!!――

十秒にも満たない短時間。
その間に彼女は、272回もの打撃技をかましていたのだ。
結果として、屑ヤミーたちはクソの役にも立つことなく全滅。

『な、何!?なんなんだ、あの女は!?』

ウヴァは七実の存在など知る由もなく、ただ困惑する。
それを逃すアンクではなく―――

「映司!取り返せ!」

一枚のコアを投げ渡す。
オーズはスムーズにメダルを受け取り、ベルトに入れてスキャンした。

≪TAKA・GORILLA・BATTA≫

腕を灰色で屈強なゴリラバゴーンのついたゴリラアームに換装し、亜種形態・タカゴリタとなる。

「なら俺もだ」

ブライはオーズのメダルチェンジを見て、自分もそれを行おうとする。

≪RYU・ONI・TACHIUO≫

脚部分を水色のタチウオレッグに換えた、亜種形態リュウオニタとなった。

『(クソ・・・ッ、こんな筈じゃ・・・!)』

ウヴァは完全に計算違いな今の状況に後悔した。
まず一つ目は、自分の見知らぬグリードがライダーたちに味方していること。
もう一つは、向こうの戦力が自分が思っていた以上に、数も質も上だということ。

「余所見してんじゃねぇ!」

――ザシュ!――

『ウゥ!』

ブライの蹴りによって味合わされる斬撃は思いのほか効くようで、ウヴァのセルを少しばかり削った。

一方でバースとチェリオも。

≪ENTOU・JUU≫

「熱いのは好きですか?私は嫌いですけど」

などといいながら炎刀『銃』の引き金を引いて後方支援をしつつ、バースを援護する。

「うりゃ!たあ!」

バースも武器を持たない肉弾戦を仕掛け、時にはキックやパンチを、時には関節技なども使った。
しかし、その時だった。

伊達の異変が起こったのは。

「―――うッ!・・・く、うぅぅ・・・!あぁぁ・・・・・・」

突如、敵を目前にしたバースが、頭を抱えたまま苦しみだしたのだ。

「伊達さん?」

――パンパンパンパンパンパンパンパン!!――

チェリオはバースの異変に気付きつつも、炎刀の発砲をやめる気配はない。
だが少しでも気をそちらにとられたのは拙かったかもしれない。

『隙あり!』

カナヅチヤミーはチェリオの隙をついて、地面を思いっきり踏んで音を立てた。
ズシンズシンという音まで聞こえるような地団駄。
それによって起こったこととは、

「ん?・・・って、ちょっと!」

チェリオは驚いた。
何しろ自分が今立っている地面が、パックリと地割れを起こし、自分がまるでそこを跨いでいるかのようになっているのだから。

「成る程。見かけ通りの重量を武器に戦うとは、不軽(かろんじす)に戦うべき相手のようですね」

といいながらチェリオは闘気を新たにしながら武器を構える。
しかし、カナヅチヤミーだけでなく、ユニコーンヤミーまでもを同時に相手にするというのは思いのほかキツい戦いになる。

『こんな事も出来るぞ!』

と大声を上げたカナヅチヤミーは、自分の身体の正中に自らの貫手を差し込んだのだ。
その状態で右と左、別方向に引っ張る手の力を入れると、

――バリッ!――

カナヅチヤミーは正中からバッサリと割れて、一つの身体に一つの頭がある、二体のカナヅチヤミーとして分離したのだ。

「分離能力まで・・・・・・」

流石にこれは予想できず、チェリオは仮面の下で冷や汗を流した。
三対一悪戦苦闘を想像したが、思いがけない事が起こった。

『『オーズ!ブライ!』』

言葉どおりカナヅチヤミーは、ウヴァと戦っているオーズとブライに向っていき、彼等の前に立ったのだ。

「邪魔する気かよ」

ブライが忌々しげに言った瞬間、

『ウオォォ!』

――ビリビリビリ!バチバチバチ!――

「「「ッ!」」」

ウヴァが雷撃を辺り一面に放ち、そのまま逃げ去ったのだ。
しかも、その雷撃には相当な力をこめていたのか、騒ぎに乗じてユニコーンヤミーとカナヅチヤミーまでもが逃亡する始末だ。

一同は変身を解除せざるをえず、ベルトを外した。

「伊達さん!」

その時、後藤が伊達に駆け寄った。
先ほどの異変はどう考えたって可笑しい。

「大丈夫。大丈夫だから」

しかし当の本人は直ぐに立ち直り、被害者の二人に駆け寄った。

「おい、大丈夫か?」

するとその二人は、

「「大丈夫です」」

と、かなり平坦で落ち着いた口調で返事すると、愛用のギターを回収することさえなく、そのまま帰っていく。

「おい!これ忘れモンだぞ!」

伊達が叫んだが、もはや興味の欠片も無いかのように、被害者二人組は本当に帰ってしまった。
そんな光景を遠目で見ていたものが一人いた。

「面白くなってきたね」

黄色い服装に帽子を被った銀髪の青年。







*****

真木の生家たる洋館。
今となってはグリードたちのアジトと化しているこの空間においては、混沌に満ちた空気で溢れている、としか言いようの無い雰囲気だ。

「おかえりなさい」

先ほどまで戦いを見に行っていたカザリに対し、真木は一言だけ出迎えの言葉を紡ぐ。
洋館の開けた場所は、基本的に真木とカザリとロストが洋館で一番顔をあわせる場所であり、その為か彼等のシンボルカラーと同じ色をした布が、敷かれていたり掛けられたりしている。

「如何でしたか?」
「あんたのヤミー面白いね。中々だよ」

カザリはそういったが、一つだけ気になる点がある。

「でもウヴァの奴・・・・・・」
「どうかしましたか?」
「なんで自分以外のコアメダルになんて興味を・・・?」

ロストがサッカーボールを壁に向けて投げ、反射したところをキャッチしてまた投げるといった一人遊びをしてる最中に、カザリは四枚のコアメダルを手に出し、推測を立てた。
自分と違ってコアによる進化を半ば否定しているウヴァがコアを集める理由。

「ひょっとしてウヴァの奴・・・・・・それなら乗ってやるか」

推測は確信へと変わり、カザリを眼に見える笑いを浮かべながら、階段に座った。





*****

一方、ウヴァは一時のアジトにしている廃墟に戻っていた。

「セルメダルは充分にある」

ウヴァは以前、屑ヤミーを用いて大量にストックを作っていたセルメダルの山を木箱に入れて保管していた。そして今回の鍵であるコアメダルを枚数を確認する。

「ガメルが三枚。――メズールが・・・四枚か」

二つの打楽器(ドラム)の上には、今まで持ち続けていただけのコアがある。

「まだ足りない。・・・カザリから奪うか?」

――バァァン!――

ウヴァは近くにあるシンバルを叩いた。

「いや、やはりオーズか?」

――バァァン!――





*****

杉浦祥子は、判子が押されて準備OKな退学届を手にしていた。

「ねぇ祥子!」
「聞いた?」
「な、何?」

後ろから突然友人二人が声をかけてきたので、慌てて退学届の書類を隠す祥子。

「比奈がさ、沢口先生にスカウトされたんだって!」
「え?」
「フランスのアトリエで、一緒に働けるかもしれないんだって!」
「羨ましい〜!」

友人二人がそう言ってる傍らで、

「そうね・・・・・・」

祥子はただ、何かが抜けたような声音をだしていた。





*****

鴻上ファウンデーションの会長室。

「・・・・・・・・・」

なにかのレントゲン写真を見ている鴻上。
そこへ里中が伊達を連れてきて、急遽振り返る。

「よく来てくれた。――君は医者だったね。これを見てどう思う?」

そういってレントゲン写真を見せた。

「知り合いの青年なんだが・・・・・・非常に深刻だと思うのだが」

伊達はレントゲン写真を窓から入る光に当てた。

「非常に拙いですね」

頭部のレントゲンには、脳部分に妙な影がハッキリと映っていた。

「頭ん中に銃弾が残ったままだ。生きてるのが奇蹟といっていい」
「その患者の名は「伊達明!・・・俺ですね」

伊達自身、自分が命の危機にあることを認めた。
彼自身に覚えがあったし、レントゲンにも、ダテアキラ、と書かれている。

「これをどこで?」
「Dr.真木が残していった物の中に―――」

里中はそういった。

「戦闘中に痛みに襲われたそうだね」
「・・・・・・クビですか?」

伊達は自分の状態を考えれば、解雇されるのも充分ありえた。

「まさか!好きにしたまえ。私は君の欲望を気に入っているのだから」

鴻上はそういって、伊達の意思という欲望を尊重した。





*****

「・・・・・・・・・」

比奈はユニホームを着て野球をしている少年達が、元気に身体を動かしているさまが良く見える土手に腰を下ろしていた。
ただただボーっとしていると、誰かが打ったか投げたかしたボールが落ちてきた。

「すみませーん!」

少年の一人が手を振って大声をだしているのを見て聞くと。

「いくよ!」

比奈はボールを手に取り、軽く力を入れて投げた。
結果、


――ビュン!――

ボールは疾風を生む勢いで少年達を通り過ぎ、

――ギュルギュルギュルギュル!!――

フェンスに当たっても尚、火花が散るほどの勢いで回転している。


「ご、ごめん!」

呆然としている少年達に向って比奈は謝った。

「お前ホント人間か?凍空一族と張り合えるんじゃねぇのか?」

などという皮肉を言ってきたのは。

「鋼さん、七実さん・・・」

いつもの黒い着流しに黒いズボンといったいでたちの刃介と、死装束のような白い小袖をきた七実。

「ちょっとちょっと!鋼さん言い過ぎですって」

それを制するのは、

「映司くん・・・・・・」
「比奈ちゃん、ホントはフランスに行きたいんだよね?」
「―――ムリ。お兄ちゃんのことを考えると」

ただでさえ今の泉信吾はアンクの移動手段兼人質という状況なのだ。
それをほっとく事など、比奈には出来ない。

「みんな、プロ野球選手目指してるのかな?」

比奈は野球をしている少年達の目標を想像する。

「あの、鋼さん」
「なんだ?」
「小さい頃に夢とかありましたか?」

本来の物語では映司に振られる話だが、比奈はここで刃介に聞いた。
よりにもよって、過去に触れかねない質問を。

「親父とお袋が生きてたガキの頃は、我刀流の立派な次期当主になることを望んでいた」
「え、生きてたって?・・・まさか・・・」
「そう。殺されたよ・・・・・・十五年前に、俺達を押入れに逃れさせて、強盗にな。この髪の毛もその時に色を失くしちまった」
「す、すみません!!私ったら、なんて無神経なことを!!」
「気にすんなよ。そのクソったれは俺が殺して仇はとったし、俺も金女もその過去を吹っ切ってる」

「「・・・・・・・・・・・・」」

あまりにヘビーな刃介の過去に、映司も比奈も黙ってしまう。

「泉さんは、服をつくるのが夢なのでしょう?」

場の空気を転換すべく、七実は話を比奈に振った。

「え、えぇ。・・・でも、諦めかけたこともあったんです」




*****

回想場面

「進学を諦めるって、どうして?」

数年前の朝。
トースト片手に信吾は驚く。

「だって・・・・・・」
「お金のことなら気にするな。俺がなんとかする」
「でも、今だってお兄ちゃんに迷惑かけっぱなしだし」
「あのな・・・・・・」

信吾は身を乗り出し、指を比奈の額にあてた。

「俺の夢が叶って、刑事になったとき、お前どう思った?」
「嬉しかった!」
「だったら、今度は比奈が俺を喜ばせろ。いいな?」





*****

それを聞いた刃介は、

「行けよ、フランス留学」
「え?」
「鋼さんの言うとおりだよ。刑事さんのことは、俺達が護る。だから・・・絶対に夢を諦めちゃダメだ」

幾つモノ欲望や夢を、世界の旅でみてきた映司は、そう論ずる。

「少なくともオメェの夢は俺がかつて抱いたものより現実的だ」
「私も昔は、ささやかな夢さえみる必要がなかった。だから、持てた夢は簡単に手放すべきではありません」

そして、刃介と七実。
夢を失った者。夢見る資格の無い者。
二人の言葉を耳にした比奈・・・・・・しかし、

「やっぱり行けない・・・・・・」

塞ぎ込んでしまった。

「だったら私に代わって」

そこへ唐突に声を投げかけてきたのは、

「祥子?」
「私に代わって。私も夢なの!」

祥子は本音を吐き出していく。

「私も、洋服つくるのが夢なの!ねえ、お願い!」
「っ、退け!」

刃介は前振りなく祥子を突き飛ばし、

「花鳥風月!」
「錦上添花」

七実と共に奥義を繰り出す。
そして二人の貫手と手刀を喰らったのは、

『『んー!!うぅぅ・・・・・・』』

ユニコーンヤミーとカナヅチヤミー。

(妙な気配したと思ったら、片方はこの女が親かよ)
(恐らく、夢を求める欲望)

『お前の夢はなんだ?』
『儚く散った夢は蜜の味』

お決まりの台詞を口にして、二体のヤミーが手を伸ばす。

「夢の破壊者に、夢の捕食者ってところでしょうか?」
「んなコトはどうだっていい。さっさとセルに両替する」

刃介はブライドライバーを装着し、メダルを取り出し装填する。

「変身!」

≪HAYABUSA・MAMMOTH・INAGO≫

ブライの亜種形態(ハヤマンナ)に変身し、構えを取る。

「七実」
「解ってます」

七実はブライと肩を並べ、カナヅチヤミーとユニコーンヤミーと相対する。
厳密に言うと、ブライがカナヅチヤミーと、七実はユニコーンヤミーと対峙している。

(ここは一発、牽制するか)

ブライはローグスキャナーを手に取る。

≪SCANNING CHARGE≫

解放されたエネルギーは増幅され、ラインドライブを通じて三つの部位に伝達される。

「トォ!」

イナゴレッグでの跳躍。
ハヤブサアイは敵の急所を捉え、

「喰らえっ!」

重刀『鉞』の一撃が降り注ぐ。

『んをっ・・・!』

カナヅチヤミーはそれを両腕で必死に受け止め、まるで鍔迫り合いのような状態になる。

「アンクはまだか?」

映司はベルトだけしか装着できておらず、メダルを管理しているアンクの存在を渇望する。
そこへ、

――ブゥゥウウウゥゥン!――

ライドベンダーに乗ったアンクがタイミングよく現れた。

「映司!」

ヘルメットを取ったアンクは、『右腕』で掴んでいる三枚のコアを投げ渡す。
映司はキャッチし、変身プロセスをとった。

「変身!」

≪SAI・KUJAKU・ZOU≫

亜種形態の一つ、サジャゾ。

「祥子!」

比奈は戦いの激化を予見し、祥子をつれて避難する。

そして、オーズとユニコーンヤミーはというと、

――ドンっ!――

お互いの頭に生えた一本角をぶつけていた。
すると今度はオーズの左腕に装着されたタジャスピナーが輝きだし、

「ハッ!ハッ!ダァ!」

赤いエネルギーを纏った打撃を、全体重を乗せながら繰り出す。
このまあ攻勢にもっていけるかと思ったとき、

――ガシッ!――

『相手はこっちだ』

ウヴァがオーズの背後に現れた。

――ザシュザシュ!――

自慢の鎌で攻撃するウヴァ。

「ウヴァ・・・・・・」

そんなウヴァを忌々しげにみるアンク。
しかし、これでユニコーンヤミーの相手は空席になるかもと思ったタイミングで、

「ユニコーンちゃんの相手は任せろ!」

伊達がメダルタンクを背負いながら駆けつけてきた。

「変身」

――チャリン――
――キリッキリッ――

バースへと変身した伊達は、勢い良くユニコーンヤミーに突撃していく。
これで数の上では均等になった。

しかし、忘れていられないのがまだいる。

「変身」

そう。仮面ライダーチェリオ。

「おやおや、もう始まっていましたか」

チェリオは忍刀『鎖』を両手に握る。
しかし、相手をしてくれる空きのある者はいないため、適当なところへ加勢しに行こうとした瞬間、

『拙者に、ときめいてもらうでござる』

妙な台詞が風に乗って聞こえてきた。

「錆白兵、ですか。今はゼントウでしたっけ」

そこには三種族を複合したような姿をした錆色のグリードがいた。
仮にも日本最強や剣聖とまで呼ばれた堕剣士と渡り合えるかどうかの自信、正直言って金女にはない。
故に、

「義姉さん!」
『わかってますよ』

キョトウがチェリオのすぐ横に、瞬間移動したかのように加勢しに出てくる。

『虚刀「鑢」――相手にとって不足なし』

一方でオーズとウヴァは、

「くッ、強くなってる・・・!」

防戦一方となってしまっているオーズ。
それを見たアンクは、

「映司、コンボだ!」

と叫んでゴリラ・コアを投げた。
オーズは素早くウヴァから離れてメダルをキャッチすると、早速メダルを換装し、スキャナーを滑らせる。

『させるか!』

ウヴァはコンボチェンジを阻止しようとするが、もう遅い。

≪SAI・GORILLA・ZOU≫
≪SAGOHZO・・・・・・SAGOHZO!≫

サゴーゾコンボへのチェンジは急ピッチで行われ、ウヴァはオーズの拳を喰らって吹っ飛ばされた。

『いけっ!』

しかしウヴァはセルメダルの欠片をなげ、八体の屑ヤミーをオーズの周囲に配した。

「・・・・・・・・・」

静かに己の置かれた状況を見据えるオーズ。
その時、

――ドクン・・・!――

何かの力が、自分の中で鳴動したのを直に感じ取った。

「ひょっとして・・・・・・」

複眼を一瞬、紫色に変化させたオーズは、地面に向けて拳を沈めた。
すると大きな亀裂が走り、腕を戻すと、そこにはあるものが握られている。

「でてきた!」

それはメダガブリュー・アックスモード!
オーズは早速オーメダルネストに入っているセルを四枚、メダガブリューに入れ、飲み込ませた。

≪GOKKUN!≫
≪SAGOHZO!≫

♪〜〜♪〜〜

サゴーゾコンボの変身メロディが流れると、オーズは一気にその刃を振るった。

「セイヤァァ!!」

たった一振りによって発生した”グランド・オブ・レイジ”で、八体の屑ヤミーは本当の消し屑となり消えた。

無論、その様子は戦闘中であろうとブライも見ていた。

「おおっ、だったら俺もだ!」

といってメダルを三枚とも取り替える。

≪ZEUGLODON・MEGALODON・TACHIUO≫
≪ZE・ZE・ZEMETA!ZE・ZE・ZEMETA!≫

ゼメタコンボへと姿を変える。

「んでもって!」

そして、拳を思い切り空に向って飛ばすと、バリンという音を立てて空間が割れて一本の大剣が現れる。

「お、マジで出てきた」

メダグラムを手に取ったブライは、早速セルメダルを三枚入れてみた。
ちなみにクメタコンボにちなんで、ゼウグロドンとメガロドンとタチウオのセルメダルである。

≪GOKKUN!≫
≪ZEMETA!≫

♪〜〜♪〜〜

同じようにコンボメロディが流れる。

「あーらよっと!」
『んおおおっ!!』

ブライがソレを振るうと、刃からは蒼いオーラが鞭のように伸び、カナヅチヤミーに直撃する。


そして一同は戦いの場を変え、人気の無い林へと足を踏み入れる。


≪RI・O・TE!RIOTE!RI・O・TE!≫
≪TA・TO・BA!TATOBA!TA・TO・BA!≫


その最中で、ブライとオーズは基本形態に戻っている。

「おらおらぁ!」

ブライは持ち前の気丈さでカナヅチヤミーを押して行く。
一方でバースも、思い切り良くユニコーンヤミーにぶつかっていく。

「おうらぁ!」

何度とないタックル、パンチ、寝技などを決めていくバース。
だがしかし、

「―――うっ・・・!あ、うぅぅあ・・・・・・」

再びバースが、頭を抱えて苦しみだした。
しかもユニコーンヤミーと至近距離にある中で。

『フン』

ユニコーンヤミーはバースを無視して、ある人物に向っていく。

「伊達さん!伊達さん!」

後藤がバースの身を案じて近寄る中、ユニコーンヤミーが向かって行ったのは、

「祥子、逃げるよ!」
「あ・・・っ」

杉浦祥子。
彼女は比奈に手を引かれて逃げるも、所詮は人の足。
一角獣ユニコーンに追いつかれるのがオチだ。

まあ、そんなことを待つまでもなく、

「キャっ!」

祥子はうっかり転んでしまった。

『・・・・・・・・・』

ユニコーンヤミーは祥子の頭に右手を伸ばした。
すると比奈がその手を掴む。

「ふんにゅ〜〜!」

持ち前の人間離れした怪力で、ユニコンヤミーの腕を掴んで放さない。
しかし、

『お前の夢は何だ?』

左手が、比奈の頭に触れた。

「――――――」

その時、比奈の表情が愕然となり、頭からは奇妙な煙が出てきた。
その煙は次第に形となり、映司がコンクールの際に着た、比奈がデザインした服となる。

「・・・・・・やめて」

比奈の口から一言漏れた。
ユニコーンヤミーは宙に浮いたその服を手に取る。

「いや・・・いや・・・」

色が極限まで薄まった声。
その小さな声も虚しく、

――ビリっ!――

服は無惨にも破られた。

「離れろっ!!」

そこへアンクがユニコーンヤミーに突っかかり、左手で顔を掴むも所詮は児戯に等しく、簡単にあしらわれてしまう。

『夢は夜に見ろ』

とだけ言い残してユニコーンヤミーは去っていった。

一方でオーズは、

「比奈ちゃん!」

余所見をしたが為に、

「ぐわっ!」

ウヴァの攻撃を喰らってしまう。
だがしかし、そこで意外すぎる助っ人が現れた。

ウヴァとオーズの間に乱入してきた一匹の黒いネコ。

『貴様!』
『オーズ、助けてあげるよ』
「カザリ?」

そう。敵対しているはずのカザリがオーズの手助けをしたのだ。
どう考えても裏があっての助けとしか思えないが。

『フフ、フフフ♪』

鋭い爪を立てながらウヴァと交戦するカザリ。
しかし、その最中においても怪しい笑いを絶やさない。

そして、

――ザシュ!――

なにやらわざとらしく攻撃を受け、更には、

『うおぉぉ!』
『うああっ!』

四枚のコアメダルが勢い良く体外に飛び出してきた。

「メダル!」

アンクはすぐさま『右腕』を飛ばしてコアを回収しようとする。
飛び散ったコアはまず、ウナギ一枚をアンクが抑えた。
次に地面に落ちたシャチを取ろうとしたが、ウヴァの脚によって蹴飛ばされてしまう。

ウヴァはシャチを拾い、結果として三枚のコアを得たことになる。

『コイツは貰っていくぞ』

拾ったシャチ一枚に、空中でとった重量系が二枚。

『これはさすがに拙いね』

カザリはそんな捨て台詞を吐いて逃げ去った。

そしてブライはというと、

「さぁて、次はどのメダルで・・・・・・」

カナヅチヤミーに有効な攻撃ができそうなメダルを絞っていると、

『御馳走が惜しいが、今のうちに!』

といって逃げようとするカナヅチヤミー。
なんだか破られた(ふく)を勿体無さそうに見てる気もするが。

「って、逃がすかよ!」

ブライは龍之息吹で足止めしようとした。
だが、

『悪いが、ソイツ倒すのは先にしてもらいてぇな』
(この声、まさか・・・?)

一度だけだが、記憶の中でだけ聞いた覚えのある声だ。
そして、その声が聞こえてきたと思ったら、

――バジューーーン!!――

「うおぁぁあああ!!」

上空から謎の怪光線がブライを襲ったのだ。
光線の威力は想像以上に凄まじく、一撃で周囲を焼き尽くすどころか消滅させ、ブライの変身さえダメージの過多で解けてしまう。

「くっ、うぅ・・・この程度で・・・!」

だが刃介は不屈の性根ゆえに立ち上がった。
ベルトとメダルを体内にしまいこみ、今度は全身をグリード化した。
初めて人前で、自分のグリードとしての姿、ガトウとなったのだ。

『ん・・・銀粉か・・・?』

上空から光に反射して美しく輝く銀粉が雪のように降り注いできたのだ。
まるで、玉鋼を削りに削ってつくったような銀粉には、なぜか共鳴するモノを感じてならない。

そうして、その原因はすぐにでも天空から舞い降りてきた。

「・・・・・・あ」
『ん・・・・・・』

その光景にオーズもウヴァも眼を奪われる。

そこには、銀色に輝く悪魔(だてんし)がいた。
天空より神々しい光を纏い、一枚欠けたことで11枚となっている翼のような翅。
辺りに銀粉を撒き散らしながら、彼は地上に舞い降りた。

そして、彼は翅を消失させ、同時に周囲の銀粉も消失させた。

『俺と、同じ・・・?』

ガトウは眼を疑った。
目の前のグリードは、自分と全く同じ姿をしているのだがしかし、体色が真逆となっている。

銀色を主軸とした体に金色のアンクセント。鋭すぎる青白い眼光などを除けば完全にガトウと同じ容貌だ。セルメン部位もベルトだけとなっている。

『四季崎記紀・・・・・・!!』

ガトウは目の前にいる男の名を呼んだ。

『この姿の時は「デシレ」と呼んでくれ』
『デシレ?・・・・・・DESIRE(デシレ)・・・・・・Desire(デザイア)

ガトウはすぐさま名前の由来を汲み取る。

『お前にしては随分解りやすい名前だな』
『気にするな。今日来たのはお前の持ってるコアを貰おうと思ってな』
『丁度いい。俺もお前のコアを盗ろうと考えてたトコだ』

ガトウは拳をグキグキと鳴らす。
ヤル気のオーラさえ見てきそうな気がしてならない。

『ヤル気なとこ恐縮なんだが、さっさと済ますぜ』

そして次の瞬間に、

――ビシィィ!――

『これは・・・?』

ガトウの身体は、なんだか有り難そうな文字の羅列で覆われた云メートルもある経文によって束縛されていた。
それはデシレの身体から出てきた一本の長刀の鞘に巻きついていた経文だった。

『呪刀「鎮」』
『新しい変体刀かよ』
『まぁな。宣言どおり、とっとと済ますぞ』

デシレは動けなくなったガトウにゆっくり近づき、

――ズブッ!――

『ぐぅッ!』

左手で彼の身体の中に突っ込んでいき、あるモノを三枚抜き取った。

『よーし、狙いぴったりだ』

握りだされたのは、ハヤブサとマンモスとイナゴのコアメダル。
デシレはその三枚を体内に仕舞い込んだ。

だけども、

『俺も行ったはずだ。お前のコアを盗るってな』

――ズブッ!――

『んなッ!?』

なんとデシレは右腕だけながらも経文から逃れ、デシレの身体からコアメダルを抜き取って見せたのだ。抜き取られた金色のコアの表面には『銓』の文字が刻まれている。

『ははッ、一枚ゲット』

ガトウはしてやったりとでも言わんばかりの声音だ。

『はぁ、仕方ない。――ゼントウ、引き上げだ!』
『了解でござる』

大声に反応したゼントウは先ほどまで交戦していたチェリオとキョトウから距離を離し、薄刀『針』を鞘に納める。

『爆縮地』

――瞬ッ!――

そうしてゼントウは刹那のうちに消え失せた。

『あばよ。また会おうぜ』

そしてデシレも十枚の翼を拡げて大空へと飛翔していった。


(―――って、魅入ってる場合じゃねぇ!早くあいつに!)


意外なことに、アンクは先ほどの光景に気をとられていたようで、人形のように倒れ付している信吾に戻ろうとする。
だが、彼の右腕と一体化しようとした時、

『ッ・・・?』

何かの異変に気付き、戸惑った。
そして、その異変はすぐさま現れたのだ。

一言で言うと、泉信吾が、自力で目を開けて首を動かした。

「お兄ちゃん?」
「・・・・・・比奈―――」

――その時、泉信吾(けいじさん)が眼を覚ました――
次回、仮面ライダーブライ!

失くした夢と依代と黄泉帰り


押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作家さんへの感想は掲示板のほうへ♪

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.