暗殺とギャグと電撃作戦
とある深夜の古びた武家屋敷。
その母屋とは離れた土蔵で、一人の男が立っていた。――クワガタムシの姿を描いて刻んだ、一枚の緑色のコアメダルを手にして。
男の名前は四季崎記紀。
彼は土蔵の中に、あるスペースを設けていた。
土蔵の置くには、人の形に置かれたセルメダルの山がある。ざっとみて千枚以上はあるだろう。
「いよいよ、お前に新しい身体をくれてやる」
――カタカタカタッ――
クワガタ・コアは喜びを表すかのように、独りでに動いて音を出す。
四季崎はセルの山に緑色の布を被せると、その上にクワガタ・コアを乗せる。
すると、セルメダルは次々とコアメダルに集まっていき、どんどん歪な形に仕上がっていく。
四季崎はそれを見て、さらに懐からニ枚のメダルを取り出して、
「こいつもくれてやるよ。ただし―――」
四季崎は緑の異形に、虹色のメダルを与えて告げた。
「恩返しを忘れるなよ、ウヴァ?」
そうして、昆虫王ウヴァは復活した。
尤も、コアの枚数がクワガタ一枚と虹色三枚ということで、頭部と両前腕部以外は焦茶色の不完全だ。
それでも、クワガタの顎を模した二本角、蟷螂のような緑の複眼と右腕の鎌、飛蝗のような口は、他の外装部分が崩れていても決して失われてはいなかった。
ウヴァは新しい体の調子を見るように背伸びをし、適当に手足を動かす。
そして、四季崎の顔を見てこう言い返す。
「ああ、感謝するぞ。礼として、俺の力を振るって見せようじゃないか!」
「かっかっかっ。頼もしい言葉だな」
四季崎は愉快そうに笑うと、
「それじゃまず、あいつ等からお前のコアの徴収といくか」
「是非ともそうしてくれ。何時までもこんな無様な姿では、身体に力が入らん」
欲望による脅威は、着々と力を付け直そうとしていた。
*****
翌日の早朝。
真木たちの拠点たる洋館。
「たのもー!」
そこへ渋い男の声がクリアに伝わり、二人分の足音も聞こえてくる。
その声に一番早く反応して言葉を返したのは、
「おはようございます。連絡も無かったので、少しビックリしましたよ」
何時ものように黒服で腕に人形を乗せた眼鏡の男・真木清人。
「まあな。俺の陣営に新たに加わる奴がいることだし、紹介しに来た」
「新入り、ですか?まさか、グリードだなんて言うおつもりじゃ・・・・・・」
「当然だろ」
「冗談ではなさそうですね、四季崎さん」
真木の言葉に、四季崎は笑って答える。
「とりあえず、他の四人を呼んで来い」
「いいでしょう」
そうして、カザリ・メズール・ガメル・ロストが集まった。
四人はまだ御休み中だったのか、少々不機嫌気味だ。
しかし、そんなことなどどうでも良くなる事態がすぐさまニ発生する。
「久しぶりだな・・・・・・!」
「「「っっ!!?」」」
「・・・・・・?」
聞こえてきた鋭い男の声。
それを聞いたカザリとガメルとメズールは大層驚き、ロストは首を傾げている。
「まっ、紹介するまでもなかったろうがな」
四季崎は愉快そうな笑みのまま、部屋に入ってくる者を歓迎するような素振りをとる。
「まさか・・・・・・!?」
「どうして?」
「なんでぇ、ウヴァがぁ・・・?」
そこには、緑の革ジャンを着こなし髪をオールバックにしている、人間形態のウヴァがいた。
「俺が復活させたのさ。お前等が取りこぼした一枚でな」
四季崎は簡潔に説明し、続けてこう言った。
「単刀直入に言う。――ウヴァのコアを全部出せ」
「行き成り不躾な対応ですね」
「元々はウヴァのものだ。持ち主に返して何が可笑しい?」
真木に対しても強気に発言する四季崎。
「尤も―――」
四季崎は一気に笑顔を消して真顔となる。
「そっちの意見なんざ求めちゃいないがな」
そこには純然とした殺気が混ざっていた。
「ほ、本気なの?四季崎記紀・・・・・・」
「俺は何時だって大マジメだ」
四季崎はメズールの問いに平然と答えた。
「で、どうなんだ答えは?」
「・・・・・・・・・・・・わかりました」
「ッッ、ドクター!?」
渋々ながらも真木が許可を出した事に、カザリが身を乗り出す。
「カザリ君。仮にも今の我々は同盟関係にあります。過去になにがあろうと、戦力の確保が急務です。ただでさ向こうには鋼くんや鑢くんを筆頭に、強敵が立ち並んでいる」
「くっ・・・・・・わかったよ。出せば良いんでしょ?」
カザリは現段階で同盟が破綻になることを恐れたのか、懐から緑色の昆虫系コアを全て出して、ウヴァに投げ渡す。
ウヴァは怪人形態となってそれを吸収することで、上半身には甲虫の如き外骨格の鎧が復活した。
『これで大分揃った・・・・・・!』
ウヴァは恍惚気な声音を出し、身体から虹色のメダルを排出して四季崎に返した。
元からコアの集中による暴走を恐れているウヴァにとって、未知のメダルはあくまで自身のコアを今此処で取り返す時までの代用に過ぎないのだ。
「そいつは良かったな。――さて、早速で悪いが、皆にはちょっくら一働きしてもらうぞ」
「コアの次は、君の訳解んない都合に付き合えって言うのかい?」
カザリが反抗的な態度で言い返す。
「そう言うなって。今回の作戦には、どうあってもブライとオーズの気を引き付ける役者が必要なんだ。闇の世界の人間にちょいと情報を流してみたが、それで現れる数人の人間じゃあ、時間稼ぎになるかどうかさえ今一わからんからな」
四季崎は溜息混じりにそう言うと、大げさに両手の平を挙げる仕草をとる。
「だから、お前たちには裏の人間たちが敗れたとき、連中に続いて現れて足止めをしろ。俺と白兵と真木は、その間に必要な物を取りにいってくる」
「おや、私は貴方方に同行しろと?」
「ああ。お前には露払いの役をするヤミーを何体か創ってもらう」
そうして、グリードたちの計画は、着々とその形を成していった。
*****
その頃、東京の某区の某市にある某所。
要するに知る人ぞ知る、曰くありげな薄暗い空間に、危険な裏の闇で生きる者達が集まっていた。
彼等は今日、最近になって突然リークされた情報について協議していた。
「では早速、本題に入ろう」
「なら、あの話は本当なのか?」
「あの相生が重症を負って療養中という話だが?」
協議しているのは三人。
薄暗い空間と、顔を覆うように被ったフードの所為で体付きや顔はよく見えない。
だが、かなり裏の世界に精通してそうだというのは判った。
「ああ。差出人不明の手紙に、あの女狐の痛々しい姿を写したもんが入っていた」
中央にいる男が懐から写真を取り出す。
そこには確かに包帯を身体に巻いて、病院着姿の金女が写っていた。
「これはまたとない好機だ。ここ数年、あの女が目ぼしい依頼を我々から掠め盗っていく所為で商売あがったりだぞ!」
「全くだ!奴が傷を癒し終えて、またこの暗殺業界に戻ってくれば、俺達は間違いなく立つ瀬がなくなる!」
「しかし、その写真入りの手紙は差出人不明だったのだろう?それに今、あの女は別の仕事を長期で契約しているとも聞く。暫くの間「「甘いぞッ!!」」
穏健そうな男の言葉を、中央の男と厳しそうな男が切って捨てた。
「我々の今後がかかってるときに、何を悠長なことを言っている!」
「躊躇すれば何時か後悔となって帰ってくるぞ!」
中央の男と厳しそうな男は追い込むように続けた。
「この際、多少のイレギュラーは見逃そう。今はあの相生忍者を如何にかすることが先決」
「俺達の持ち得る最強の殺し屋を選抜し、纏めて一気に嗾ける!」
「いや、ホントに、様子見とかはしなくていいのか?」
「「くどいっ!」」
こうして、差出人不明な手紙の送り主によって、金女は裏社会の連中に命を狙われてしまった。
だが彼等は、三人の内、二人は知らない。
(こいつらはもうダメだな。私とは合いそうにない)
闇側というのは、時として容赦ない裏切りがあることを。
*****
トライブ財閥本社ビル。
その会長室で、この財閥の総帥であるルナイトは、刃介と交わした契約に則り、彼の血液を吸っていた。
吸血鬼らしく鋭く尖った四本の犬歯によって首筋の肌を突き破り、血管へと到達させる。
「んっ・・・・・・んっ・・・・・・んっ・・・・・・」
「うぅっ・・・・・・あぁっ・・・・・・」
血を吸う側も、吸われる側も何故か妙に恍惚な表情をしており、薄らと頬を赤らめている。
ルナイトが牙を刃介の首筋から抜き、今週の分の採血は終わったらしい。
「意外と長かったですね」
その様子を、何だか不愉快そうに見ている女が一人。
「そう言わないで頂戴よ七実ちゃん。これも立派な契約事項の一つなんだから♪」
ルナイトは椅子に腰掛けている七実にウインクしながら返答する。
「しかし、刃介さんまでお顔を赤らめていましたが?」
「すまんな。どうも血を直に抜かれる感覚って、どうも慣れなくて」
「・・・・・・まぁいいですけど」
七実は若干不満足そうに頷いた。
「会長。例の仲介から、先ほど連絡が入りました」
「っ――聞かせて頂戴」
すると、バットが会長室に入ってきて、何やら重要そうな情報をもってきた。
ルナイトはバットの目前にまで近寄り、耳打ちされる形で情報を聞き入れる。
情報をのせた声が鼓膜を通して脳髄に伝わると、ルナイトはキツイ表情で問う。
「それって、マジなのよね?」
「ええ、ほぼ確定的かと思われます」
「そう・・・・・・面倒なことになったわね」
「おい、どうかしたのか?」
悩ましげな表情をするルナイトに、刃介が質問した。
「・・・・・・刃介。私たちトライブ財閥だろうと、鴻上ファウンデーションだろうと、大きな組織になればなるほど―――そして得体の知れない怪物対策を担う者として、どうあっても裏社会の力を少なからず借り受けている」
ルナイトは真剣な顔つきで話す。
「どこから漏れたかは知らないけど、金女ちゃんが療養してる事が、彼女を目の敵にしてるアホ共にバレたわ」
「・・・・・・ほう。そんで、今後の方針は?」
刃介は冷静さを装いながら、二重な意味で質問する。
「連中は何人かの刺客を送り込むつもりよ。当然、こっちの手勢で返り討ちにするけど」
「その手勢とは、私たちのことですよね?」
「正直に言っちゃえばね。あ、そうそう。念のため、日が暮れて月が出るまでには、金女ちゃんを別の場所に移しておくわ」
ルナイトは何時もの調子で語り続ける。
「人気のかなり少ない場所に建てといた、私の屋敷あたりが最適かしらね」
「確かにそこなら、刺客が来ても人目を気にせず戦えるな」
「そういうこと。一応そこの地図をノーパソとスマートフォンに送っとくわね」
ルナイトは机の席に座りながら、ゆったりとした感じで補助面について一節つけたした。
「よーし、ついでに火野やアンクも呼んでおくか」
「あの人達なら、確実に乗ってきてくれるでしょうね」
こうして、色んな意味で最強無敵な護衛人衆が結成された。
*****
夕日が地平線に沈み、夕方は闇夜の時間に移り変わっていた。
当然、それが無人に等しい大自然一杯で爽やかな森林の中に建てられた大きな西洋風の屋敷――それが闇夜に閉ざされれば、一発でホラー劇場の舞台が完成である。
尤も今夜限り、この屋敷は無人ではない。
「いいな、二人共。火野たちが来るまでに、俺達で今夜の警備体制を決めとくから」
「はい」
「異論はない」
屋敷の入り口の真ん前で、刃介と七実と竜王の三人は軽い会議を行っていた。
「まず、金女には護衛対象であると同時に囮的役目を担ってもらう」
「それで一番眺めが良くて目立つ部屋に寝かしつけたのですか」
「連中を確実に誘き出せるが、危険な策でもあるぞ」
「だからこそ、俺等が総出で護衛にあたるんだろうが」
刃介は言い聞かせるような口調で続ける。
「持ち場についてだが、俺は屋敷内部、竜王はバルコニー、七実は屋敷周辺で頼む」
「了解した」
「委細承知」
これといった反論はなく、あっさりと三人は各々の持ち場に向かって行った。
ついでに言うと、この屋敷――外観的イメージは「ルイージマンション」をモデルにしてもらうと助かったりする。
まあ御陰様で暗くなれば不気味さMAXのオバケ屋敷が出来上がるというわけなのだが。
*****
屋敷内部のエントランス。
刃介はそこにいて、スマートフォンを使っていた。
「ったく、火野やアンクの奴・・・・・・」
刃介はイラついていた。
夜中になっても全く来ないメンバーに。
仮にも共に死地を潜り抜けてきた間柄なのだから、一度か二度は即行で駆けつけてくれると思っていた刃介。
クスクシエの番号を入れて通話開始。
お決まりのトゥルルルル!トゥルルルル!という音が聞こえてくるが、一向に誰も出ようとしない。
遂には留守電モードになってしまう始末。
「チッ――今度はアンクだ。あいつなら出るだろ」
――トゥルルル、トゥルルルル!――
『はい、火野です』
「ん、火野か?」
アンクの番号に入れて映司が出たということは、恐らく今一緒にいるのだろう。
「俺だ、鋼だ。何時まで寄り道やってんだ?早く送ったデータの場所に来い!」
刃介は出だしに罵声にも近い声を出す。
だが、彼の怒りを増長させるメロディが、電話越しに聞こえてきた。
○ーっ○○っ○、○っ○のマーク、○ーっ○寿司!
なんかこう、最近はCMで宇宙人が来店してきている、有名な回転寿司屋のテーマソングが・・・・・・。
「オイコラてめぇぇぇ!!何この一大事に寿司食ってんだ!!」
エントランスはおろか屋敷の奥にまで届きそうな怒声。
『ち、違うんです!これは―――』
『おい映司、誰と話してんだ?んなコトいいから早く食うぞ。折角のマグロやカニが行っちまうぞ』
映司だけでなく、聞いたことのある声が・・・・・・。
「何お前ら!?人様の妹ほったらかして豪勢に回転寿司で夕食タイム決め込んでんじゃねぇよ!!」
『すいません。知世子さんが”偶にはアンクちゃんと一緒に美味しいもの食べて!”ということでして』
「だからって時間のかかる回転寿司に行くなよ!!」
留まるところを知らないデカい声。
「罰として特上の土産買って来いよ!俺と七実と竜王の三人分でだ!」
だが、ちゃっかりと奢らせようともするのが流石というべきか。
有無を言わさず刃介は続ける。
「ちゃんと連絡したろ?メール送ったろうが!」
『あ、俺ケイタイ持ってません』
『すまん。確認しそこねた』
「要するにアンクの凡ミスかい!!」
今までにないクオリティを誇るツッコミ。
だがしかし、
「―――――ッッ(人の気配・・・・・・おいでなすった)」
*****
同時刻、屋敷から100m離れた薄暗闇の森の中。
「ふん、臭うな。人の臭い・・・・・・それも複数」
「無駄な足掻きをする」
「どの道、我々に始末されるだけだというのに」
迫り来る刺客たち。
闇に紛れて姿はあやふやだが、微妙に殺気が漏れている。
「纏めて消すぞ。私たちは所詮、金で動く外道だからな」
そうして、事態はさらに加速を深めていった。
*****
「数は大体・・・・・・屋敷内に既に一人、外には主要な三人と有象無象共ってとこか。まあ、俺達三人なら充分カバーできるが・・・・・・あのバカ共、明日になったらシバき倒すか」
さりげにこっちも殺気を漏らしながら呟く刃介。
だけど一応、
「おいテメェら。さっさとコッチに来い。来なかったら明日朝一で殺すから」
脅迫的言葉を残し、刃介は通話を一方的に切ろうとした――が
「・・・・・・アンク、鋼だ。今お前らどの辺にいる?」
念を押して聞いて見る。
『あ?俺なら鋼金女の直ぐ横だが』
「・・・・・・・・・へ?」
それを聞いた途端、刃介は頭より先に脚が動いていた。
*****
金女が寝ているヘッドが置かれている部屋。
その部屋には大きなガラス戸があり、そこから簡単にベランダへ出れるようになっている。
そのガラス戸に特殊な道具で丸い穴を切り開き、そのまま容易に部屋に入ってきた男が一人。
「ふっふっふ」
始末人No.1・枕のマル。
眼にも留まらぬ早業で獲物の枕を爆弾入り枕と入れ替え、永遠の眠りを齎してきた、寝込み専門の殺し屋。
――カチッ――
爆弾の導火線に点火。
「御休み、お嬢さん」
――シュッ!――
本来なら、この一瞬でマルの仕事は終わっていただろう。
でも今夜だけは違った。
「ん・・・・・・!?」
幾ら引っ張っても、金女の枕を退かすことができない。
(ど、どうなっている?何故枕が動かない?というか、誰かに引っ張られてないかコレ!?)
そうは思っても、辺りには人影はない。
第一、誰かが引っ張ってたらどうあっても隠せるのは精々腕一本程度――全身を隠すには至らないのだ、このベッドの大きさは。
(ぬおおおおお!!ナメるなよ!私は、この殺り方で、数多くの邪魔者を排除してきたんだ!こんなくノ一なんかに、くノ一なんかにぃぃ!!)
かなり拘りすぎな殺しへのプライド。
だがそれが功を奏したのか、
――バッ!――
漸く枕を退かすことができた。
(おっしゃーーッ!!これで、君の永眠を約束する枕は、こっちだぁぁ!!)
心の中でやたらと騒ぎながら、マルは爆弾入り枕を置いた。
「ではお嬢さん、Good night」
と言い残してベランダに立ったマル。
後は飛び降りて森の中へ雲隠れするだけだったが、
『おい、お前』
「ん・・・?」
聞き覚えのない男の声。
いざ振り返ってみると、
『これ返すぜ』
腕だけの赤い鳥の異形が、爆弾入り枕を持って自分に語りかけていた。
「ッッ―――ああああああああああ!!」
マルは一瞬フリーズしたかと思えば、すぐさまベランダから飛び降りた。
しかし、ロープでゆっくり降りたわけじゃないので、脚がジーンとなってしまう。
そこへ、
『遠慮すんなよ』
――ブンッ!――
爆弾入り枕が投げられ、持ち主の足元に叩き付けられた。
そして導火線の長さが完全に0となり、
――ドカァァァァァァン!!――
マルは永遠の眠りについた。
『フン、人間風情が』
マルをけなす赤い腕・・・・・・アンクはそう言うと、そのタイミングで刃介もドアを勢い良く開けて入ってくる。
「アンク・・・・・・そっか――腕だけになりゃ、自力で飛べるもんな」
『まぁな。何より寿司屋が此処に近かったのもある。兎も角、これで一人片付いた』
「そうだな・・・・・・」
刃介は半ば感心するように頷くと、スマートフォンではなく、バッタカンドロイドを起動させる。
「おい火野、聞こえるか?」
『あ、はい。そっちはどうですか?俺は刑事さんの身体、安全なとこに置いてきて、屋敷が見えるとこまでバイクで来てますけど』
「アンクが一人目を撃退したよ」
『ほっ、良かった』
相変わらずだな、と思いつつ刃介は会話を続ける。
「とりあえず落ち合うぞ。今どのへんにいる?」
『みんなを探すために高い場所に居ます』
「高い場所!?アホかっ!竜王だってバルコニーじゃあ気配遮断して忍んでるのに、テメェなんかじゃ一発で見つかるだろ!!」
『そんなこと言ったって・・・・・・・・・・・・あ、いたいた。鋼さんが見えた』
そう言われて刃介はベランダから身を乗り出して周囲を見渡す。
すると屋敷に一番近い木の枝に、映司の姿が。
しかも何の警戒心もない無防備状態だ。これではすぐにやられる。
「こっちですコッチ!いやぁ暑いですねぇ。寿司屋に行く途中で、知世子さんに頼まれて買ったTシャツが幾つかあるんですけど、鋼さんも着替えます?」
なんて言いながら赤いTシャツを着ている映司。
そんな彼の背後に、
「振り向け、後ろだ火野!」
「え?」
――ガシッ――
「うあッ!?」
映司は誰かに両腕で首を絞められ、放されると同時に、地面に落とされた。
「―――痛ってぇ」
そして彼を地面に落としたのは、パッツンパッツンのTシャツを着たおっさん。
「な、なんなんですか貴方は!?」
始末人No.2・Tシャツの鯱。
Tシャツ専門の殺し屋。眼にも留まらぬ早業で、MサイズのTシャツをSサイズのTシャツに着せ替え、獲物に永遠のパッツンパッツンを味あわせる。自分のTシャツに絶対の自信とプライドを持つ、職人気質のTシャツ好き。
「Tシャツ専門の殺し屋ってなんなの!?もはや殺し屋でもなんでもないよ!!ただのTシャツ着たおじさんでしょ!?」
と珍しく渾身のツッコミを披露する映司。
「脱げ」
「え?」
「黙って脱げぇ!!」
鯱が映司のTシャツを掴んだ。
「ちょ、放してください!」
「うるせぇ!」
Tシャツを脱がされそうになる青年と、青年のTシャツを無理にでも脱がせようとするおっさん。
『おい何なんだこの絵面?キモ過ぎるだろうが!なにやってんだお前ら!?Tシャツなんざどうでもいいだろ!!』
アンクもノリに乗ってツッコム。
「お、重い!Tシャツが脱がせない!まさかこれはMサイズではなくLサイズ!?」
「大して違わないだろ!?」
刃介も一緒にツッコム。
「ぬおおおお!舐めるなよ!私はこのTシャツ脱がせだけで、数多のTシャツをパッツンパッツンにしてきたんだ!こんなLサイズなんかに、Lサイズなんかにぃぃ!!」
――ビリィィィ!!――
そして赤いTシャツが破けた。
だが鯱の眼にしたものとは、
「ッ!最初からS!!?」
「『どうでもいいわッ!!!!』」
今度はハモりながらツッコム。
「いや、その、Mは品切れだったんで、なんかすいません」
映司は上半身裸になるも、一応は謝っておく。
「いや、こっちこそゴメン。SならSって言ってくれれば良いのに」
「なにこれ?なんでSだったら良いんだよ?どんだけMを敵視してんだよテメェ!?」
刃介はベランダから飛び降りながら鯱にツッコム。
だが映司は何時もの御人好しさ故か、Tシャツの入った袋を差し出し、
「あのー、良かったらこれ、SサイズのTシャツ他にもありますよ」
「え、着てみて良いの?」
「何やってんだよ仕事しろよ!オメェ始末人だろ?Tシャツ試着しに来ただけじゃねぇか!!」
などという言葉も虚しく、鯱はさっさと白いTシャツを黒いTシャツに替えた。
「おっほー!やっぱりTシャツはSだよねぇ。この肌に吸い付くような着心地ぃ!」
といいながら上腕筋に力を入れてコブを盛り上げるシャチ。
だがしかし、袖んとこに変な余裕ができている。
「あれ?なんか思ったよりデカいな」
「あ、Mは入ってないけど、Lは入ってますから。別に大丈夫ですよね?」
そして結果的に、
「グハァッ!!」
――バタン!――
「はッ、嵌めやがったな・・・・・・」
「なんでだぁ!?どうしてLサイズ着たら死ぬんだよ!?どんな設定ショイ込んでんだコイツ!?」
もう意味不明すぎてついていけなくなる刃介。
「なんか悪いことしちゃったな。でもこれで一歩前進ですね」
「前進って、こんなのを歩数に入れるべきなのか?」
呆れている刃介。それもこの上なく。
そんなとき、バッタカンドロイドが通話役として起動する。
『こちら竜王。なんか庭でSサイズのTシャツが裂ける音がしたんだが』
「どんな音を拾ってんだ!?テメェまでギャグに取り込まれるな!!」
と言ってる間に、
「おー、いたいた。遅くなってすまん」
竜王がこっちに合流してきた。
『お前、奴等が来てからどこにいたんだ?』
アンクがそれとなく訊いてみると、
「こんな熱帯夜で皆が熱い思いをしてると思ってな。台所にある冷蔵庫からチューパットを持ってきた」
「お前だけは信じてたのに何故だ!?どうして殺し屋のいる状況でTシャツ着たり家のアイス取って来たりしてんだ!?まともなの俺とアンクと七実だけじゃん!」
なんか色々と失望するかのように、刃介は叫ぶ。
因みに、映司はこの際、袋から新しいTシャツをだして着ていた。
『まあそう言うな鋼。あ、それから俺はオレンジ味で頼む』
「お前もかアンク!テメぇどんだけアイス好きなんだよ!つー今は舌のない腕だけで食っても意味無いだろ!!」
まあ実際、信吾に憑依してないアンクが食事をしても意味がないのは確かだ。しかし仲間はずれにするのは可哀相なので一応食わせてやることにする。
そうと決まればさっさとチューパットを均等に分けるとしよう。
ここにはソーダ味とオレンジ味があるが、二本を折れば四本になる。
『さっきも言ったがオレンジにする』
「では私はソーダで」
「俺もソーダにします」
綺麗に行き渡った。
だがそこへ、なんか身体に包帯を巻いてる鋼金女らしき人物が、布団を引き摺りながら、
「お・・・・・・オレ、ンジ・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
『・・・・・・・・・』
「魘されてるようだな」
無理矢理竜王が理由をでっちあげた。
「じゃあ分けようぜ」
「オレンジィィ!わ、た、し――ガシッ!――」
『オイ!なに魘されてるふりしてリクエストかましてんだ!誰の為に集まってやったと思ってる!』
アンクは金女の顔を掴みながら怒声を浴びせる。
「アンク、怪我人になんてことを!」
『こいつ絶対起きてやがる!完全に狸寝入りだぞコレ!』
「しかたない奴だな。ではオレンジ組はジャンケンして、負けた人は蔕ということで」
「ざけんなよ!ならソーダ組になる!蔕よりソーダの方がマシだ!」
竜王の滅茶苦茶な、というか投げやりな提案に怒る刃介。
「落ち着いてくださいよ鋼さん。別にソーダでもオレンジでも良いでしょ?」
「じ、じゃあ、火野さんは、蔕、で決定、です」
「魘されながら何とんでもないこと言ってんですか金女さん!!アンク、この人やっぱり起きてるよ絶対に!!」
遂に映司まで完全にギャグに飲まれた。
まあ、そうこうしてる間に・・・・・・ある変化が起こった。
「―――って、あの、このチューパットさっきと何か違いません?」
異変に気付いたのは映司だった。
「何がだ?」
「そういえばさっきよりスッキリ・・・・・・って、蔕がないぞ」
「「「『あ・・・・・・』」」」
気付いた時にはもう遅い。
――ドッバァァァァン!!――
何か二つの影が地面から出現し、土煙を大きく起こしながら現れた。
それは蔕のある長いチューパットを銜えた二人組み。
「「チューパットの吸兄弟、参上!!」
始末人No.3・チューパット吸兄弟。
チューパット専門の殺し屋。眼にも留まらぬ早業で、チューパットの長い方の奴を短い方の奴に摩り替え、獲物を永遠のブラザーコンプレックスに陥らせる。因みに彼等はチューパットを分ける際、横ではなく縦に裂く。ついでに、チューパット限定であらゆる達人や天才の力を凌駕する。
「なんだこの微妙極まる才能の無駄遣い!!?」
もはや殺し屋どころか汚れ稼業にすら関係なくなっている。
刃介は勢いのまま、地の文にすらツッコみだす。
「残念だったな。貴様等のチューパットの長い方の奴は短い方の奴に取り替えさせてもらった」
「貴様等には短いほうがお似合いだ」
「そこで永遠に、兄に長い方の奴を奪われる弟の気分を味わうがいい」
「「弟でもないのに!フハハハハハハハハ!!」」
などと意味不明でウザい台詞を吐きながら、吸兄弟は去っていった。
しかし、
「『―――――ッ』」
それを容認しないものが二人いた。
*****
去っていった吸兄弟は―――。
「兄貴、上手くいったな!」
「これで同志達の魂を浮かばれよう!帰ってチューパットの長い方の奴で祝杯だ!」
この台詞の意味はもう問い質したくもない。
しかし、そこへ―――
♪〜〜♪〜〜♪〜〜
なんか必殺なんとか人のテーマが。
「こ、このBGMは!」
「バカな!我々以外にこのBGMを使いこなす奴が!」
そして、
――ブスッ!――
二つの汚い肛門に、二本の短いチューパット。
「あ、兄貴!ケツに!」
「チューパットがぁ!」
んでもって、いっきに吸兄弟はチューパットに括りつけられた紐に力が加わったと同時に、強制で引き寄せられていった。
*****
場所は刃介らがいた場所にまで戻る。
アンクは急いで信吾の身体に戻り、刃介共々に、吸兄弟の一本釣りをなしていた。
「テメェらさ、マジ好い加減にしろ」
「チューパットを返せ」
刃介はおふざけへの怒り、アンクはチューパットへの未練。
「か、勘弁!もう食べちまった!」
「バカ、兄貴!」
肛門にチューパットがブスっと刺さり、紐は木の枝にかかっているので、吸兄弟は逆さ吊るしになっている。
そこへ歩み寄る二人の鬼神。
「ちょ、待って!返すから!必ず買って返すから!」
「命だけは助けてくれ!何本だ?何本長いのが欲しいんだ!?」
――ガシッ!――
二人は無表情でチューパットの短いのを掴む。
「「待て!待ってぇぇぇ!!」」
「「問答無用」」
――ブザッ!――
振り下ろされていた正義の鉄槌が、今再び汚い肛門から解き放たれた。
*****
その頃、四季崎らはというと。
「頃合だな」
闇夜のビル街で、建物の隙間に隠れていた。
「ねえ、本当にウヴァ達をオーズとブライにぶつけていいの?」
「・・・・・・・・・」
ついてきてるのは、カザリとロスト。
それから、
「確かに、向こうにも実質的に戦闘可能な人材が四人いるわけですからね」
真木清人である。
「言ったろ?ウヴァとガメルとメズールと白兵の役目は陽動。俺達は機を逃さず、迅速に行動する事を第一に考えるんだよ」
「まぁそれで目的達成に近づくと言うのなら良しとしましょう」
そうして四人は影から出て月光の下に身を曝す。
歩いていく先に足を運ばせながら。
*****
所戻って屋敷前。
主要なバカたちを片付け終えた刃介たちだが、一つ腑に落ちない点があった(金女のほうは、強引かつ無理矢理に寝床へ括りつけておいた)。
「そういえば、七実の奴はどうした?こんだけ庭で大騒ぎしてるのに全然来ないぞ」
「他の連中の相手してんじゃねぇのか?」
「その通りですよ」
会話にいきなり割り込んでくる女の声。
不気味で暗ーい森林から一人の小柄な人影が近寄ってくる。
正直な話、さっき聞こえた声がなければ、恐らく彼女を幽霊や生霊として誤認していただろう。
「鑢か。遅かったな」
「申し訳ありません。年甲斐もなく”草むしり”に夢中になってしまいました」
竜王の言葉に、七実は邪悪でイヤらしい笑みした。
この言葉から察するに、雑草は全て毟り終えたようだ。
しかし、七実の姿が月明かりによって照らされると、映司は思わず「うッ・・・・・・」と言ってしまった。
それもそうだ――なにせ今の七実の手は血塗れな上、顔にも人の血が飛び散っているのだから。
だけども、そんな七実の様子を見て、一人だけゾクゾクとした感じになっていた男がいた。
(ああ・・・・・・イイ・・・・・・)
読者の皆さんはお忘れかもしれないが、刃介の好みは”血化粧の似合う女”である。
手は血塗れ、顔にも血が付着し、それら全てを彩る邪悪でイヤらしい笑い―――ハッキリ言って、刃介にとって今の七実の状態はドストライクだった!
「七実、ちょっと写真撮らせて?」
「いいですよ」
ついにはスマートフォンのカメラで写メを撮りだす始末。
しかもなんか、
「今度は座ってくれ。んでお前から見て左の方に顔を少し向けて、手を口元に。笑顔はそのままでな」
「うふふ」
なんか指示まで出しながら撮影している。
七実も満更ではないのか、刃介の望むように、血塗れた姿で邪悪かつイヤらしい笑顔をしている。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
そんな二人に、映司もアンクも竜王も、黙りながら右足と左足を交互に三歩ずつ後退させていた。
そんな緊張感もクソもない状況下で、突然の乱入者たちが現れる。
――ビリビリ!バチバチ!――
突如として、緑色の雷撃が五人へと降り注いできたのだ。
五人は即座に身体を動かし、雷撃をかわした。
「この攻撃は、まさか・・・!」
「またお客さんですね・・・・・・」
刃介と七実は表情と雰囲気を入れ替え、雷撃のやってきた方向に視線を集中する。
『フン。やはり初撃は避けられたか』
「ウヴァ・・・・・・」
緑と黒に彩られた昆虫王ウヴァが、五人の前に姿をさらした。
さらに、
『まあ、そう簡単にいく相手じゃないものね』
「メズールか・・・・・・」
『でも、俺達が勝つ!!』
「ガメルまで・・・・・・」
これでやってきたグリードは三人。
そこへさらに、
『拙者に、ときめいてもらうでござる』
ビューっという旋風が吹くと同時に、薄刀『針』をもったゼントウまでもが現れる。
「お前ら。今度の敵はさっきのバカ共じゃねぇぞ」
「わかっております」
「言われずともわかっている」
「全くだ。――映司、ほれ」
「うん。行こう、みんな」
五人のうち三人は、ドライバーを装着してコアメダルを投入。
そこへスキャナーを滑らせる。
「「「変身・・・・・・!」」」
≪RYU・ONI・TENBA≫
≪RI・O・TE!RIOTE!RI・O・TE!≫
≪TAKA・TORA・BATTA≫
≪TA・TO・BA!TATOBA!TA・TO・BA!≫
≪BARA・SARRACENIA・RAFFLESIA≫
≪BA・SA・RA!BASARA!BA・SA・RA!≫
ブライ、オーズ、クエスに変身した三人。
「では、私も」
七実もキョトウへと変貌する。
『参りましょう』
それを見て、ウヴァはガメルの肩を小突いて指示を出す。
『ガメル、やれ』
『うん、わかった!』
するとガメルは、身体からゴリラ・セルとゾウ・セルを取り出し、自らの額に出現させた投入口へチャリンと入れた。
すると、ガメルの腹部と背中から二体の異形が現れる。
投入されたセルメダル通りなのか、ガメルが願ったのかは知らないが、現れたのはゴリラヤミーとゾウヤミーだった。
『ゥホォォォ!!』
『パオォォン!!』
本能のままに、誕生してすぐに吼える灰色の異形たち。
「質では勝てぬ故、量で押す策か」
「なんともまあ浅慮だな」
『どうとでも言え。今日は戦いに来たのであって勝ちに来た訳じゃない』
意味深なウヴァの台詞に、
「ウヴァ。貴様ら何を企んでいる?」
『答える義理はないな、アンク』
いくら虫頭と揶揄されたウヴァと言えど、こっちの作戦を安易に漏らすほどバカではない。
一方的に会話は打ち切られ、戦いが始まる。
『では拙者は、お主の相手をするでござる』
『成る程。時間稼ぎに丁度良い人選をしたというわけですか』
キョトウ対ゼントウ。
『俺のヤミー!一緒にブライ、倒すぞ!』
『ゥホォォォ!』
「ヘッ、上等だな」
ガメル&ゴリラヤミー対ブライ。
『久しぶりに手合わせしましょう、リュウギョク?――いえ、クエス』
『パオォォォン!』
「面白い。望むところだ」
メズール&ゾウヤミー対クエス。
『オーズ!俺のバッタを返してもらうぞ!』
「そういうわけにはいかないんだよね」
オーズ対ウヴァ。
ここに四つの戦いが始まった。
まずは、ブライとガメルらの戦いを見てみよう。
「奥義、風花乱舞!」
――ブンブンブンブンブンッ!――
ブライは片足を高速で振るい、それによって発生した真空の刃が幾つにもわたって、ゴリラヤミーに命中した。
『ゥホアアア!!』
全ての刃が、命中してゴリラヤミーは向こう側に吹っ飛ばされた。
『ああ!俺のヤミーを、虐めるな!』
「じゃあ今度はお前だ。奥義、快刀乱麻!」
――シュシュシュシュシュ!!――
今度は両の手刀を――幾つモノ残像ができる程のスピードで振るい続け、防御の薄いガメルの上半身に次々と攻撃を当てていく。
『うぅぅあああああ!!』
当然、それにつれてセルメダルもドンドン、チャリンチャリンと落ちて行く。
「そんじゃ、良い子はさっさと寝てろ!奥義、星拳波動!」
――バンッ!――
『うわあああああッ!』
ガメルはブライの右拳から放たれた一撃を喰らって、またもや吹っ飛ばされてしまった。
しかし、
『うぅ・・・痛いな・・・』
ガメルの生来的頑丈さは想像以上のものがある。
「おいおい、けっこう腰いれて打ったんだがよ」
ブライが溜息混じりに喋っていると、
『ブライやっぱ、怖くて嫌い!フンッ!』
「あぁそうか―――って、おわッ!?」
ガメルが重力波を放ち、自分の身体を無重力状態にしてきたのだ。
『オリャーッ!』
「ぐおッ!」
そこから一気に重力をさらに操作して、無重力でフワフワ浮いていたブライには、地面に減り込むほどの重力をかけた。
「あんま図にノンなよ、小僧!」
ブライは本能が赴くままに、肉体を動かし、無理矢理に立ちあがった。
≪SCANNING CHARGE≫
しかもスキャナーまで使ってみせる。
「奥義、電光石火!」
――シュバッ!――
その時、ガメルは再びダメージを受ける。
超高速の領域で振るわれた一本の手刀によって。
『うぅわあああああッ!!』
「よし、今度はそっち!」
ガメルに傷を負わせると、ブライは狙いをゴリラヤミーに絞った。
≪SCANNING CHARGE≫
「トォ!」
ブライは跳躍し、空中で現れた血錆に染まった三つのリングを潜っていく。
『ウホッ!』
ゴリラヤミーは抗おうと、屈強な拳から大きなエネルギーを纏わせてパンチと共に放っても、
「チェェェエエ!!」
ブライは傷を負っても迫ってくる。
――ドンドンドンドンドン!!――
ゴリラヤミーが胸板を叩いてドラミングをして重力をいじり、ブライの体重に干渉しても、
「スゥゥゥ!!」
上から下へと降ってキックしてくるブライの勢いを増長させるだけ。
そして、
「トオーーッ!!」
『ウオアアアアアッッ!!』
リオテキックが炸裂し、ゴリラヤミーは一枚のゴリラ・セルを残して消滅した。
次はクエスとメズールの方を見てみよう。
『それッ』
――バシャーーン!――
「ふっ、無駄だな」
メズールの水流弾。
それを前にしてもクエスは全くの余裕で、
「全て飲み干す!」
逆に水流弾を吸収してしまったのだ。
以前クロユリヤミーとシラユリヤミーがそうであったように、植物とは根に近づいてきた栄養や水分を吸収して生きている。
ならば植物系のバサラコンボならば同じことができて当然ではないだろうか。
「私の返す後手はこれだ。真庭忍法――疾風迅」
――瞬ッ!――
クエスは視認できるかさえ怪しい速度で動き出し、メズールが些か不安を感じていると、
『パオォォン!』
ゾウヤミーが一声鳴いて、軽くジャンプして両足による巨大な一撃を地面に向けて行う。
すると、地面が大地震のように大きく揺さぶられたのだ。
「ん・・・ッ」
クエスもこれには動くスピードを緩めなければならない。
『そこよ!』
今度のメズールは手からウォーターカッターレベルの高水圧のを放射する。
「くッ」
避けられないと悟り、クエスはそのままウォーターカッターを受けてしまった。
攻撃を身に受けて「くぅっ」という声を漏らすクエス。
どうやら、殺傷性に優れた攻撃までは吸収できないらしい。
「―――お返しだ」
≪SCANNING CHARGE≫
クエスはバサラコンボにおける初めてのスキャニングチャージを行うと、「ハッ」という掛け声をだして上空へと跳び上がる。
するとクエスは、両腕にあるサラセニアフィーラーを自由自在に操り、ゾウヤミーの身体を鞭状の触手で雁字搦めにした。
『パオッ!?』
「気付いたか。もう遅いがな」
そう、雁字搦めにされた時点でゾウヤミーの運命は決まっている。
クエスは空中にて、自分とゾウヤミーとの間に現れた白・緑・赤のリングに向けて両足を向けながら、サラセニアフィーラーを全力で引き、ゾウヤミーと自分の距離を勢い良く詰めていくと同時にリングを潜っていく。
「バサラキック」
呟くような一言の直後、
『パオォォォォォン!!』
――ドカァァァアアァァァン!!――
ゾウヤミーは爆発してしまい、後には一枚のゾウ・セルが地面に落ちていた。
「やはり、実力は800年前と変わらないようね。というより、より増している」
「当然だろう。私とて、今の今まで遊んでいたわけではない」
女ライダーと女グリードは互いににらみ合い、より戦いを激しくしていった。
その次はオーズ対ウヴァ。
『オラァァ!』
「ハアァッ!」
ウヴァは右腕の大鎌、オーズはメダジャリバーを互いにふるって凌ぎを削りあっている。
『俺のコアぁぁぁ!!』
「だから渡せないって!」
≪SINGLE・SCANNING CHARGE≫
「セイヤッ!」
『ぐおォッ!』
オーズはメダジャリバーにセルを一枚投入して開放し、ウヴァに斬撃を浴びせる。
「まだまだァ!」
≪DOUBLE・SCANNING CHARGE≫
「セイヤァァーーッ!!」
『グオァァァ!!』
今度は二枚のセルを用いて、ウヴァの身体を切り裂く。
それによって得た隙を利用して、
「アンク!ラトラーター!」
「しくじるなよ!」
アンクは二枚のコアメダルをオーズに投げ渡す。
オーズはタカをライオンに、バッタをチーターに換えた。
≪LION・TORA・CHEETHA≫
≪LATA・LATA!LATORARTAR!≫
ライオンの頭、トラの腕、チーターの脚。
「ハァァアアアアア!!」
ラトラーターコンボによる激しい閃光を伴った熱線照射により、
『んうぅ・・・・・・っ!』
ウヴァは思わず複眼を手で押さえてしまう。
熱線より閃光のほうが効いているようだ。
昆虫の目は人間のような単眼とは異なり、視界が数多もの六角形として構造されている分、ガメル程jsないにせよ、この攻撃は効いていた。
(今だっ!)
≪SCANNING CHARGE≫
オーズは閃光と熱線が治まりつつある中、コア三枚の力を解放し、身体と両腕と両脚を構えると、前方に出現した三つの黄色いリングを、今再び光と熱を帯びながら駆けていく。
そうして遂に、
「セイヤァァァアアアアアッッ!!!!」
両のトラクローによるX字型の引っ掻き、ガッシュクロスが決まった。
『ぬぁあああああああああっ!!!!≫
直撃した一撃に、ウヴァは100枚近くセルメダルを噴水のように放出してしまった。
だがそこへ混じって・・・!
(コアメダル!)
アンクは右腕を飛ばし、ウヴァから出てきた二枚のコア―――カマキリとクワガタを手中に収めたのだ。
『お・・・おのれ、俺のコアを・・・!』
ウヴァはボロボロになりながらも恨みがましい声を出している。
今にも呪詛のオーラが現れそうになった時、一つの朗報である悪報が舞い込んでくる。
それは一機のバッタカンドロイドだった。
『ウヴァ君。そろそろ時間です。引き上げてください』
『なに、ふざけるな!コアを二枚も盗られたまま帰れるか!』
自分の肩に乗り、真木の言葉を伝えるバッタカンに怒鳴り散らすウヴァ。
『言っておきますが、これは四季崎の命令でもあります。もう一度こちらの言い分を聞きますか?』
『くっ・・・・・・わかった、帰ればいいんだろ!?』
ウヴァはほとんどヤケクソ気味に吐き捨て、ガメルとメズールとゼントウに大声で呼びかける。
『撤収だ!お前ら早く撤退しろ!』
それを聞いた三人のグリードは、
『あら、もう時間なのね。――また会いましょう、クエス』
『あ、メズール、待ってぇ!』
『ふむ。今宵今晩はここまでにござるな』
さっさと退散していってしまった。
『坊や達。私からの冷たいデザート、思う存分味わってね♪』
メズールが最後にそう付け足すと、四人のグリードは完全に森林の暗闇へと姿を消した。
しかしその代わりに現れてくれたのが、これまた体力的にも持久的にも面倒な奴等だった。
森の置くからゴゴゴゴゴ、という効果音がつきそうな勢いでこちらにやってくるのは、
『『『『『ンシャーーーッ!!』』』』』
『『『『『シュシューーッ!!』』』』』
合計で50体はいるであろう水棲系ヤミーたち。
電気を迸らせるウナギヤミーと、口から黒い墨を吐くタコヤミー。
それを見たオーズは、
「ここは俺に任せてください!」
「映司、さっき盗ったのを使え」
アンクは昆虫系三枚をオーズに手渡して、オーズ自身は手馴れた手付きで換装し、オースキャナーを走らせる。
≪KUWAGATA・KAMAKIRI・BATTA≫
≪GATA・GATAGATAKIRIBA!GATAKIRIBA!≫
クワガタの頭、カマキリの腕、バッタの脚。
昆虫系のガタキリバコンボだ!
「いくぞ!」
オーズは全身に力を入れると、その瞬間に――一人が二人、二人が四人、四人が八人、八人が十六人っといった具合に分身していき、最終的には五十人にまで分身する。
これぞガタキリバコンボの固有能力、ブレンチシェイド!
「「「「「ハアアァァァァァ!!」」」」」
「「「「「タァァァァァアア!!」」」」」
「「「「「ウオオォォォォォ!!」」」」」
ガタキリバたちは一斉にウナギヤミーとタコヤミーの大群と正面衝突する。
50VS50―――それぞれ一対一のタイマンバトル。
ある者は頭のクワガタホーンでの頭突き、ある者はクワガタホーンでの雷撃。
ある者はカマキリソードでの二刀流高速剣術。
ある者はバッタレッグでの蹴り攻撃や跳躍による翻弄。
正直に言うと、ガタキリバ一体一体のスペックはヤミーらのそれを越えていた。
『ンシャーーッ!』
ウナギヤミーは電気を纏った鞭を振るうも、
「ハアッ!」
カマキリソードの刃がそれを切り刻む。
『シュシューー!!』
タコヤミーは黒い墨を吐き出すも、
「ダアッ!」
クワガタホーンの雷撃に掻き消される。
ヤミーたちは数多くの戦闘で経験値を稼いでいる火野映司の変身したオーズ・ガタキリバコンボの前に全ての抵抗手段を潰されていた。
≪≪≪≪≪SCANNING CHARGE≫≫≫≫≫
≪≪≪≪≪SCANNING CHARGE≫≫≫≫≫
≪≪≪≪≪SCANNING CHARGE≫≫≫≫≫
五十人のオーズは一斉にスキャニングチャージを発動。
全員の脚部にエネルギーが伝達されていき、
「「「「「セイヤァァァァァアアア!!!」」」」」
「「「「「セイヤァァァァァアアア!!!」」」」」
「「「「「セイヤァァァァァアアア!!!」」」」」
総勢五十人によって放たれる同時攻撃技・ガタキリバキック!
それらは一人一人、一体ずつのヤミーの身体にドデカい一撃を浴びせた。
『『『『『ンシャアアアアアアア!!!!』』』』』
『『『『『シュシュウウウウウウ!!!!』』』』』
そうして、五十体のヤミーは等しく爆発しては消え去り、後には何百何千ものセルメダルが地面に落ちていた。
*****
方や、四季崎の塒である武家屋敷。
その居間では、四季崎・真木・カザリ・ロストがウヴァ達の帰りを待ちながら、四人で卓袱台を囲んでいた。
「一応、作戦は成功だな」
「ええ。しかしコアが二枚、向こうの手に渡ったのは痛かったですね」
「心配すんな。どうせ何時か必ず奪い返せる代物だ」
真木とは反対に、陽気に振舞う四季崎。
「でもさ、そんな意味のなさそうなメダル、一体なんに使うの?あの虹色のメダルの方がよっぽど役立ちそうだよ」
「フォース・コアのことか。アレは言うなれば辿り着く為の材料だな。しかし、今は”コッチ”の方が重要だ・・・・・・ことを上手く進めるために」
カザリに返事した四季崎は、懐からあるものを取り出す。
ウヴァ達と言う囮を使い、グリード四体で挑んで得てきたもの。
そこには、曇りガラスの如く、クリアに分類されるけれども不透明なコアメダルがあった。
「・・・・・・面白そうだね、それ」
「お、わかるか小僧?」
そして、この場で初めて喋ったロストに、四季崎はニヤけながら答える。
この先にある新しい策略に思いを馳せながら。
*****
トライブ財閥会長室。
普段は豪勢で綺麗なつくりをしているこの場所は、この夜に限っては荒れていた。
荒らされたといったほうがいいだろう。
「くッ・・・まさか・・・」
「直接くるとは、思いもよらなかったっすよ・・・・・・」
床にはバットと吹雪が仰向けや上向きになって倒れている。
その身体と服装はボロボロだった。
「ホント・・・今日は最悪の日ね・・・」
ルナイトも、机に身体を寄り掛からせながら、ゼェゼェと息を吸って吐き、生傷だらけの身体を無理に起こした。
「もう財閥で、不用意なコアを置いておくのは拙いわね」
ルナイトは傷が痛むのも省みずに、特別な鍵穴のついた引き出しに手をかけ、ポケットから鍵を出して鍵穴に差し込んで開けた。
そして、無作法な手付きで引き出しを開け、中に入っている古びた奇妙な箱を取り出して机上に置いた。
「時期を見計らって、火野君に託すとしましょう」
その箱は古びていながらも、どこかの王族が所持していそうな気品を感じさせた。
ルナイトは箱を開けて中身を確認すると、決意を新たにしながら、これら三枚のことを告げる。
「・・・・・・Reptile・・・・・・」
物語という歴史は、加速へのレールに乗った。
行き着く先にあるのは、虚無に還元されし終末か?無限の進化をゆく再生か?
四季崎記紀
『刀語の世界』における戦国時代を実質的に支配したと言われる伝説の刀鍛冶。その正体は何千年にも渡る占術師の家系において史上最大とされた未来予知能力者で、通常系変体刀九百八十八本と完成形変体刀十二本を何百年も先の未来の技術を逆輸入して製作した。
尚、虚刀流開祖の鑢一根とも出会い、虚刀流が誕生するにあたって協力した人物でもあり、鑢一根とは親友関係にあった。
今作品に登場する彼は、当然オリジナルではなく、四季崎本人が並行世界に存在する魔術師や錬金術師の技術を盗み、自分と完全同一の人形にコアメダルを与えてグリード化させた存在(その方法で、七実・竜王・白兵なども複製しグリード化させた)。
なのでグリードとしては、欲望を意味するDesireの綴りを変えて『デシレ』と名乗っている。
完成形変体刀と同じ銘の文字が彫られた特異な金色のコアメダルを十二枚ほど宿していて、これら全てを取り込むことで刃介は完全変化する。
今作品では800年前に完了系変体刀・虚刀『鑢』以上の刀を創るべく、その素材として鋼一族をブライの最適合者として選んだ。そして、刃介の代でそれが叶うに値する状況になったとして表舞台に現れた。
彼の目的は刃介を完全系変体刀・我刀『鋼』として完全変化させた後、全てのコアメダルの器とすることで『超完全体』へと進化させ、神をも超越した全知全能の存在にすることを目論んでいるようだが、その真意は未だ謎のままである。
年齢:不詳 職業:刀鍛冶 所属:無所属 身分:当主 所有刀:呪刀『鎮』
身長:不詳 体重:不詳 趣味:不詳
呪刀『鎮』
四季崎が現代の『ブライの世界』でつくった新たな変体刀。
切っ先から柄の末端を含めれば1m50cmに達する長刀。影のような漆黒の刃とは反対に、柄と鍔は純白で梵字が彫ってある。黒鞘にも3m〜から4mもの経文が巻き付けてあるなど、オカルト要素を随所に盛り込んでいる。
鞘の経文は、所有者の意思に応じて、対象を捕縛する封印具としても活用される。
尚、現段階での限定奥義は未だ不詳である。
フォース・コア
通称『虹色のメダル』と呼ばれる未知のコアメダル。
四季崎が造ったコアを基盤とするグリードのパワーを、乗法の如く増大させては暴走させる力を秘めている。だが800年前の錬金術師と魔術師によって造られたコアを基盤とするグリードに対しては、トランプのジョーカーやワイルドのように、コア一枚分のエネルギーとなるだけである。
尚、四季崎の手元にはこのオーメダルが多数あるようで、ガトウを抑え込む為やアルトリアの力を暴走させる為、ウヴァの復活の際などにも用いている。
錆白兵
『刀語の世界』において、”剣聖”とまで謳われていた凄腕剣士。
完了系変体刀の候補作である全刀『錆』とされる一族の末裔だったが、全ての物体を刀とする特性が不十分だった為、自らを『失敗作』や『錆まくりの折れた刀でござる』とまで言っていた。
しかし、完成形変体刀の中で最も扱いの難しい薄刀『針』を難なく使いこなすなど、純粋に剣士としての技量は一級品に値するものである。
前述の四季崎記紀の説明文に記載されている通り、彼もまた本物と完全同一の人形にコアメダルを与えられてグリード化した存在である。
だが、性格も能力も原典とは何も違わず、度々キョトウとなった七実の相手役をしては時間稼ぎをしたり、ヤミーを作成してのサポートなどを主要な務めとしている模様。
グリードとしての名前は『ゼントウ』で、犬系・甲殻類系・植物系のコアメダルを担当している。
年齢:二十 職業:堕剣士 所属:無所属 身分:浪人 所有刀:薄刀『針』
身長:五尺三寸(約160cm) 体重:十一貫五斤(約44s) 趣味:剣法
必殺技
・爆縮地
・逆転夢斬
・速遅剣
・刃取り
・一揆刀銭
・薄刀開眼
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