不穏の影と町内会長と策士ロスト
その日、鑢七実は夢を見ていた。
本物が「刀語の世界」で生きていた頃はおろか、今の偽者すら疎らにしか見ない夢。
それはいつも決まって、彼女が幼い時の記憶が元になった夢・・・・・・正確には、彼女の過去をそのまま投影した夢と言える。
まず最初に、父の鑢六枝の言葉。
”――七実――お前は、お前は余りにも、例外的過ぎて――俺には――お前を育てることは――できない――”
あらゆる武術家にとって、七実はいわば恐怖と忌避の対象だ。
ありとあらゆる努力と修行を、無意味にしてしまう。
”お前は化物だ――お前は生まれてくるべきではなかった――”
次には母、みぎりの声。
”――可哀相、可哀相な子――貴女は本当に可哀相――”
嘆きの声も、やがては。
”――貴女は、楽に死ぬ事さえできないなんて――貴女は死ぬ事もできず、生きることもできず――”
哀れみの声となる。
”この生き損ない――あなたは、貴女なんて、貴女なんて、死んで楽になればいいのに――”
(下らない)
七実は何を今更と思った。
これでは死霊山や護剣寺の再現と何も変わらない。
(消えろ)
そう念じてみると、六枝とみぎり――二人の幻影は消え去る前にこういった。
”――覚悟すらないというのに――”
(そうかもしれない)
七実は否定しなかった。
才能の化身である彼女には、覚悟など必要ない。
得ようと思えば何時でも得られる。
勝とうと思えば何時でも勝てるのだ。
何の修行も要らないし、何の決意も要らない。
だから、彼女には覚悟の意味がわからなかった。
そう、所有者と出会うまでは。
(でも・・・・・・あの人の為なら、私は・・・・・・)
鋼刃介の為なら、七実はあらゆる悪行だろうと覚悟だろうと、背負うことができる。
初めて知った恋心――それが彼女にとって唯一の覚悟の証だ。
完了系変体刀・虚刀『鑢』にとって、究極の形の一つがここにあった。
*****
「・・・・・・・・・・・・」
鋼家の寝室。
刃介が中央となり、その左右では七実と竜王が寝ていて、川の字状態になっている。
七実は三人の中で一番早く目覚めるのが通例となっていた。
「はぁ」
何時ものように、溜息の似合う姿だ。
七実は上体を起こし、まだ寝ている刃介と竜王の寝顔を見る。
「覚悟・・・・・・ですか」
目覚めたばかりもあって、まだ夢の内容は覚えている。
だからこそ、彼女は今こうして彼の傍に居るのだ。
「父さん、母さん・・・・・・私、所有者が出来ましたよ。そして、今までなかった覚悟も―――」
独白するように呟く七実―――そこには一片の嘘さえない。
七花がとがめの野望と復讐心に惚れ込んだ様に、七実は刃介の深遠なる欲望に惹かれていた。
そんな時、
「あのー、すいません」
妙にテンションの高いおっさんボイス。
「・・・・・・はい」
若干雰囲気をぶち壊されて苛立つも、七実は寝巻きの襦袢を整えて行く。
「いやぁすいませんね。こんな朝っぱらから」
「お気になさらず。それで、何のご用件でしょう?」
「はい。私、新しく町内会長になった下田と申しまして、今後からこの夢見町に防犯カメラを多数設置することに致しました」
下田は不自然な笑いをしつつ、七実に説明する。
七実は試しにと外に出ると、確かに防犯カメラがあるのを見た。
もっとも、この鋼雑貨店だけでなく、この辺一体全ての建物と道を監視するように、多数設置されていた。
「町の皆さんが息苦しくなるのでは?」
「すいません。危険かつ不審な行動をとらない限りは、何の問題もありませんので」
「しかし、これはちょっと・・・・・・」
七実もこれだけの機械の目に絶え間なく見られていると思うと、決して良い気分にはならない。
「兎に角、宜しくお願いします!」
下田はそれだけいってまた別の建物や家に向っていった。
「はぁ」
そんな下田を見て、七実はまた溜息をついていた。
*****
その頃アンクは、
「―――――ッ、ヤミーだ」
暗い夜の空に轟く雷鳴と共に敵の気配を察する。
「映司、行くぞ!」
アンクはソファーから飛び降りた。
だが映司はまだ眠っている。
「おい映司!」
アンクは当然映司を叩き起こそうとするが、それはすぐに止まる。
そこには火野映司ではなく、泉信吾がアンクと同じ服装で、口から血を流しながら眠っていた。
「―――――ッ!」
驚く他なかった。
信吾の身体は今自分が使っている筈なのに。
アンクは信吾の身体にかかっているのは、実は布団ではなく、何時の間にか赤い羽根に変わっているのを理解すると、恐怖にも似た感情に駆られて後退していってしまう。
「アンク」
そこへ映司の声がした。
でもそこには何時もの暖かみがない。
「お前のメダル―――お前のメダル、貰うよ」
信じられない一言が、さも当たり前であるかのように、あの映司の口から出てきた。
「・・・映司・・・お前・・・」
アンクはドアに後退するのをやめ、次は窓に向って後ずさりしていく。
だって、今の映司は映司じゃない。まるで、『紫』の力に呑まれたかのようだから。
そこへトドメを刺すように。
「君は僕なんだから、早く僕の所に戻って」
窓の外では、ロストが上下逆の状態で現れる。
「・・・・・・ふざけるな!」
アンクは『右腕』を突き出す。
いや、突き出そうとした。
――ガシッ――
「オーズが組むべきアンクは、お前じゃない」
映司が紫色を纏いつつ、『右腕』を冷淡に掴んだのだ。
「・・・・・・・・・・・・」
ロストはそのまま部屋の中へと窓から入ってきた。
おびえにも似た表情を浮かべるアンクも、今では赤子同然。
怪人の姿となり、ロストは素体がむき出しになった右腕を動かす。
『お帰り、僕』
そして、
――ガシッ!――
*****
「―――――ッッ!!?」
そうして、アンクは夢の世界から戻ってきた。
ロストがここへやってくる可能性はともかく、映司にまで裏切られるという、最悪の悪夢に、アンクは鼓動を一気に早めて息を荒げる。
「なに?どうかした?」
後ろからは何時も通りな映司の声。
振り向くと、そこにはモップを手に掃除している映司の姿。
アンクは千鳥足でカウンターの席から一気に映司に近づき、
――パシッ――
映司の顔を掴む。
「な、なんだよ?」
「お前の中の紫のメダル、なんともないだろうな?」
「あ・・・今は、別に・・・」
と率直な答えを返す映司。
「絶対に抑え込んどけよッ!!」
怒鳴るように、アンクは叫んだ。
「なんだよ急に?」
映司はそういいながらアンクから離れて掃除を再開する。
だがアンクは、
「クソッ・・・なんでこの俺が夢なんか・・・・・・!?この身体のせいか・・・?」
店の奥で、なんともいえない苛立ちと困惑に遭っていた。
そんな時だった。
「おはようございます〜!」
陽気な男の声が、店のドアが開かれると同時に聞こえてきた。
やってきたのは着流しに黒い羽織、麦藁帽子といった服装の中年男性だった。
「朝早くにすいません。私、町内会長になりました――下田権造と申します」
新しい町内会長の下田は、名刺を映司に差し出して自己紹介する。
「え・・・ああ、お世話になってます」
「あの、店長さんは?」
「ちょっとまだ・・・・・・」
「ではちょーっと確認して貰えますか?」
下田は腰が低い割になんかテンション高めで話を進めていく。
”すいません”と付け加えて。
「―――フッ」
アンクはそんな下田を見て、面倒そうに声を出した。
映司は下田につれられ、店の外に出る。
下田は電柱や標識などにあるものを取り付けたといった。
それは何かというと、
「今後の町内の安全のために、防犯カメラを設置しましてね」
「な、成る程」
といった映司だが、いざ周囲を見渡してみると、クスクシエ周辺から見える物だけでもかなりの数がある。
夢見町全体となれば、いったいどれだけの数のカメラを仕込んだのやら。
「随分沢山ありますね」
「世の中物騒ですからねぇ。それで、不審者を取り締まってるんですが、その中でですねぇ」
下田は妙な笑いを顔に貼り付けたまま、ある物を映司に見せる。
「これ、すいません」
「?―――うおッ!?」
アンクがクスクシエの屋根に上っているシーンを収めた写真。
「この方、昼夜問わず窓から出入りしてますよね?――あのすいません。それで貴方、以前公園で寝泊りをしていたという、目撃情報が・・・・・・すいません」
何度も頭を下げてくる下田。
正直、つっかかりにくい。
「すいません。それでですね、町を健全に保つために・・・・・・自主的な退去を、お願いできればと・・・・・・」
「そんな、退去っていきなり・・・・・・!?」
「町を為なんです。どうか、どうか宜しくお願いします」
下田はまた頭を下げて其の場から歩み去ってしまった。
呆然とする映司に構うことなく。
「なんなんだ?」
「俺にも何がなんだか」
アンクは下田の行動と言動に首を傾げ、店の中に戻っていった。
映司は首をかきながら、下田の後ろ姿をみている。
今度はその辺の主婦に話しかけているようで、あの低姿勢と妙な笑いをしながら、呼びかけを行っている。
映司もうついていけず、店の中に戻る事にした。
しかし、この時から既に災いの目は地表に顔を出していた。
下田が町の住人に呼びかけを次々に行う中、一人の少年が木の枝の上でそれを見ていた。
左手に、一枚のセルメダルを手にして。
「取り戻さないと、僕を・・・・・・」
少年の左肩から赤い翼が現れていた。
*****
同時刻、刃介と七実は少し遠出してデパートにいた。
いつもなら古びた店や商店街で買い物を済ませる鋼家の面々だが、今日に限っては買おうと思ったものが商店街では売っていないため、定価での購入覚悟でやってきたのである。
因みに竜王はというと、買うものも特にないので此処にはおらず、街中をぶらついている。
「んで七実、目ぼしいものはあったか?俺はとっくに買っといたが」
和風コーナーから刃介が二袋を片手にやって来る。
七実はというと、何かを収納するケースやバッグといった物のコーナーにいた。
「あ、刃介さん。丁度こっちの買い物も終わったところです」
そういう七実の手にも袋がぶら下っている。
「なに買ったんだ?」
「それは後での秘密ですよ」
「そっか。じゃあ先にこいつを竜王に渡すか」
今日こんなところに来て買い物しに来た理由は、鋼家の面々のモチベーションを上げるべく、贈り物を買い合おうと言う物だった。
しかし、竜王はまだこの時代の文化については深く馴染んでいるわけではない上、忍者である彼女が選びそうなものがデパートで手に入るとも思えず、已む無く彼女をショッピングから除外したと言ってもいい。
「あいつ喜ぶかな?」
「さあ?それは本人に渡さないことには」
刃介は七実と竜王用に二つ、七実は刃介用に一つだけ贈り物を買っていた。
後にこれが、みんなの絆をより深めるのだと信じて。
*****
それから幾ばくか経った頃、帰ってきた知世子と比奈に、例の写真を見せるやいなや、二人の表情は怒気のそれに豹変した。
特に知世子はカンカンである。
「なによこれ?いくら町内会長でもこんな権利ないわよ!こんな隠し撮りしたり、映司くんのこと調べたり!おまけに出てけって!!」
知世子は写真を破り捨て、怒りを露にする。
「酷すぎます。映司君が出て行くなら私だって!」
「ダメだよ比奈ちゃんまでそんな!」
「だって!」
なんだか荒れてくる状況において、アンクだけは冷蔵庫からアイスを取り出して齧りつつ、
「なにをガタガタ言ってる。別に出て行く必要ないだろ」
「その通り!大丈夫!私今からきっちり講義してくるわ!」
行動力の塊とさえ言える豪快振り。
「全く!今度の町内会長は腰の低い人だなーって思ったけど、とんでもないわぁ!!」
怒りMAXで外に出ようとする知世子。
だが、
「あッ――それはそうとアンクちゃん聞いたわよぉ。今日誕生日なんだって?」
「――はっ?」
「え・・・?」
アンクも映司も、聞き覚えのないことだった。
「おめでとう!なんで言ってくれないのよぉ?今夜は盛大にパーティーしましょ?お店なんて御休み」
「・・・・・・意味わからん」
アンクはそれだけいって上の階に行ってしまう。
そこへ比奈が映司にこっそり説明するべく、店の隅へ。
「え・・・刑事さんの、誕生日・・・?」
「うん。それで、やっぱりお祝いしたいなと思って―――」
比奈はこっそり買っといた品を黒い紙袋の中に入れていた。
プレゼントは青い包装紙で包み、赤い紐で閉じている。
「プレゼント選んでたら、知世子さんに会っちゃって」
「アンクの誕生日って言っちゃったんだ」
なんて妙な展開になっていたようだ。
そこへ知世子は、
「講義してくるわ。後は任せたわ」
変に男前な雰囲気で出て行く知世子。
「・・・・・・良いんじゃない」
「え?」
「やろうよ誕生日パーティー!鋼さん達も誘ってさ。アンクは刑事さんの代理ってことで」
*****
鴻上ファウンデーションの会長室。
そこでは、烈火と後藤が呼び出されていた。
烈火は何時もどおりのラフな服装で如何にも学生という感じだが、後藤は濃い緑のジャケットを羽織っていて何処か傭兵的雰囲気がある。
そして、二人の傍らには多くのセルメダルを収納したリュックサック型のケースが置いてある。
「Happy birthday to you!」
鴻上はピアノで誕生日の歌を弾きながら歌っていた。
「新しい仮面ライダーバース、後藤慎太郎くん!ブレイズチェリオ、花菱烈火くんの誕生だ!」
二人を正式なライダーシステムの後継者とする通達のため、鴻上はここに二人を呼びつけたのだ。
後藤のところには里中がケーキを運んでいて、ケーキには”新・仮面ライダーバース 後藤慎太郎”とチョコムースで書かれている。
対する烈火には。
「はい、花菱くん♪赤ワインベースでつくった、取って置きのカクテルをご馳走するわ。あ、勿論ノンアルコールね」
ルナイト・ブラッドレイン・シルフィード自らが祝いの祝杯を齎していた。
「伊達君と金女くんが抜けた穴をしっかりと埋めてくれたまえ!」
「はい。正式に許可して頂いた事、感謝します!」
「俺も全力でやってやるから、期待してくれよ!」
後藤と烈火はそう意気込む。
「ただし、問題が一つ」
鴻上は演奏をやめて立ち上がる。
「チェリオシステムは忍刀『鎖』があるから何とかなるとして・・・・・・」
「後藤君も体感したとおり、バースには、サポートがいたほうが戦いやすい」
二人の会長はそう断言する。
「それは、確かに・・・・・・しかし、簡単に選んで頼めることでは」
「私が選んでおいたよ!」
すると鴻上の視線は後藤の横にいった。
勿論それは烈火よりさらに横。
つまり、
「よろしく」
里中エリカ。
「新しいコンビの誕生だぁ!Happy birthday.Happy birthday!」
「まぁ・・・頑張ってね?皆の希望ある戦いを祈って、乾杯!」
謳う鴻上に対して、シルフィードは赤ワインが注がれたグラスをカチンと打ち鳴らした。
*****
その頃の映司らは。
「なぁ頼むよ。刑事さんの代わりにパーティーに出てくれ!」
「下らないんだよ。なにがパーティーだ」
「比奈ちゃんへの恩返しと思って!」
「あ?恩返し?」
何時俺がアイツに貸しを作った?とでもいうような表情。
「ほら、あの時にもうお前が憑いてなくても刑事さんが助かるって聞いたとき、比奈ちゃん言ってくれたろ」
――どうする?アンクに、出てってもらう?――
――もう少し、お兄ちゃんと、一緒に居て――
「・・・・・・・・・・・・」
「刑事さんの身体使えてるのは、比奈ちゃんの御かングぅ!」
アンクは映司の口にアイスを突っ込んだ。
「恩に着せるな」
アンクはソファーから降りて
「この身体を使うか捨てるかは俺が決める。比奈の奴がどう言おうが関係あるか」
とアンクは言い切った。
しかし、この会話は全て壁越しで聞かれていたのだ。
(あの時、私がアンクにああ言ったのは・・・・・・)
比奈だった。
映司は部屋から出ると、
「あっ、大丈夫、もっかい話して見るから」
「映司くん。もしあの時、アンクに出てって欲しいっていったら、映司くんどうしてた?」
だが、アンクの言葉が壁越しで比奈に伝わったという事は、この会話もアンクに聞こえているということだ。
映司の返す言葉とは・・・・・・。
*****
真庭竜王は、夢見町をあてもなく散歩していた。
刃介と七実が帰ってくると思われる時間まで、適当に時間を潰すためだ。
因みに今日は赤い浴衣である。
そんな時、何となく通りかかった道で、妙に立派な和風の屋敷にさし当たると、正面の門でなにやら文句をいっている女性を見つけた。
「白石か・・・・・・?」
「あら、真庭さんじゃない!」
なんだか珍しい組み合わせになったな、と思いつつ、竜王は知世子に歩み寄る。
実はこの二人、一度だけ刃介と映司の手引きで顔を会わせたことがある。
「この家の人間になにかあったのか?」
「それがね、この家に住んでる町内会長ったら酷いのよ!町中に隈なく監視カメラ置くし、映司くんとアンクちゃんに出て行けって言うし!この家に来ても対応は奥さんで、会長はいないって言うし!」
「それはなんというか・・・・・・確かにやり過ぎだな」
「でしょー!?」
なんだか知世子が一方的に乗ってきた。
「だがさっき見ていたが、多少の文句程度でどうにかなる輩ではあるまい。時期を見計らってもう一度ぶつかってみればいい」
「んー・・・・・・真庭さんがそういうなら・・・・・・」
そうして、知世子と竜王は一旦引き返した。
*****
下田邸。
そこの家主である下田は、
「漸く帰りやがったなぁ!白石知世子、反抗的!真庭竜王、思慮深い!」
下田は監視カメラが映していた映像から、知世子と竜王に対する評価を鉛筆で紙に書いていく。
辺りにはレポート用紙だかメモ帳なんかの紙が散乱していたりするのだが。
監視カメラの映像は、ノートパソコン一台だけでなく、下田の目の前にある薄型液晶テレビ二台にも映っていた。
「えーっと、次はぁぁ・・・・・・」
狙いは別な方向に、
「おっ、今日はゴミの日じゃないぞ!――中田家、ゴミ出し違反・・・!」
続いて、畳みらしきものを家の前で干している家には
「八木家・・・・・・非常識」
非常識なのはこっちである。
「清水家、敷地からの、はぁみぃだぁしぃ」
車の洗車をやっているだけの清水家。
だがそんな、酷評?を受けた連中はというと、
『きゃあああアア!!』
『うわアアアああ!!』
『ぎゃあああアア!!』
白ヤミーに襲われていた。
「へっへっへっへへへへへ!!」
下田はその映像を見て愉快そうに笑っていた。
しかし、
「ん・・・!」
七番カメラ――クスクシエを監視するカメラから、アンクと映司の姿が映る。
そして、
「またあの二人ぃぃ!!」
別のカメラには、ヤミーの気配を察して大またで走る刃介と七実の姿まであった。
「それにこいつらも!!」
*****
そんな時、一人の若者が橋の上から不要になった古い家具や道具を土手に捨てていた。
いわゆる不法投棄というやつだ。
だが勿論そこも監視されていて・・・・・・。
『うぅぅっ・・・・・・!』
「あっ、うわぁっ!?」
青年は白ヤミーの登場と攻撃に怯え、成す術もなく橋の下に落とされ、背中から土手に落ちてしまった。
そこへ、
「あらよ!」
刃介が白ヤミーを蹴り飛ばした。
「おい、さっさと失せちまえ。――あっ、卓袱台とかは俺が貰っていくぞ?」
「それから、不法投棄は犯罪ですよ」
ついでにリサイクル的なことも忘れていない。まあ、実際はもったいないと思ったからだろうが。
刃介の欲望丸出しな一言と、七実のちょっぴりとした善意的一言。
「ひえぇぇぇ!!」
青年は卓袱台もカラーボックスも古い電化製品もおいて逃げてしまった。
「火野、行くぞ」
「はい!」
同時に駆けつけていた映司にも指図し、二人同時に白ヤミーへ拳と蹴りを喰らわせる。
そこへ、
「映司!」
「アンク!」
アンクが現れ、映司に三枚のコアを投げ渡す。
刃介もそれを観て、ドライバーを装着する。
「「変身!」」
≪RYU・ONI・TENBA≫
≪RI・O・TE!RIOTE!RI・O・TE!≫
≪TAKA・TORA・BATTA≫
≪TA・TO・BA!TATOBA!TA・TO・BA!≫
ブライとオーズに変身すると、二人はトラクローと魔刀『釖』を展開・装備して白ヤミーに斬り掛かろうとする。
『ウォォォ・・・・・・!』
だが、そこへもう一体の怪物、全身が鋭利な切っ先で構築された鉄色のナマクラヤミーが現れる。
「四季崎まで絡んでるようだな」
ブライが監察するようにナマクラヤミーを見やる。
すると、白ヤミーはその間に、全身を赤い卵で包み込む。
そしてソレが割れると、
『ホッ!ハッ!』
なにやら似非拳法みたいな動きをとる、なんだか頭部に変なシワがやたらとあって気色悪いヤミーが!
「ニワトリ・・・・・・というか、軍鶏?」
「ということは・・・・・・」
「チッ、また俺のメダルで遊んでるのか」
ロストもこの件に絡んでいるということだ。
『オーズ、ブライ!邪魔は止めてもらおう!』
『オマエラ、邪魔ダ!』
「上等だな!さっさとセルに両替してやる!」
「よし、行くぞ!」
戦闘開始!
*****
グリードの洋館。
「ヤミーを造ったようですね、二人共」
真木は何時もの場所で、中央の階段を下りつつ、カザリとチェスをしているロストと、”来るべき終末の絵”の前で座る四季崎に話しかける。
「早く僕を僕のモノにしなくちゃいけないから」
「かっかっか。流石はアンクの片割れだ」
「確かに、頭の成長具合は凄いよ」
そうしていると、ロストは駒を動かして「チェック」という。
カザリも「ほらね」と言った。
「成る程。ここまでハッキリ意識が確立していれば、確実にもう一人のアンク君を取り込めるでしょう」
真木は何時もと変わらない声音だ。
『800年前とは違う、新しいアンクってわけね?』
「―――そうなります」
真木はメズールが肩にかけてきた手を振り払って答えた。
「チェック」
真木は盤上の駒を勝手に動かす。
そこへメズールも、
『チェックメイト』
駒を勝手に動かしてキングをとった。
『詰めが甘いわよ。ドクターの坊や』
そういわれて、人形の頭がガックリとくる真木。
『ん〜〜〜!』
さらにガメルがこちらに突進し、盤上の駒を全て床にぶちまけた。
『メズールぅぅ、俺つまんない!』
『あらあら・・・・・・』
どうやら最近かまってもらえず、この始末の模様。
「あーあ、メズールの悪い癖だ。ドクター、気に入られちゃったみたいだね」
「・・・・・・迷惑です」
率直な感想を述べた。
その時、
『それはいいが、ヤミー二体だけでどうにかなるのか?』
ウヴァが入り込んでくる。
『あっちにはリュウギョクと虚刀流がいるぞ』
「わかってるって。その為にも白兵には、なんかあったらヤミー差し向けるよう言っている」
四季崎はそうウヴァに言葉を返す。
そんな面々とは距離をおくように、ロストはガラスの傍にたった。
「僕は、僕を―――」
*****
所戻って武部橋の周辺。
軍鶏ヤミーとナマクラヤミーとの戦いを吟じるオーズとブライ。
軍鶏ヤミーはというと、あの胡散臭い拳法は伊達ではなかったようで、思いのほかオーズを翻弄していた。
『ハッ!』
軍鶏ヤミーは背中や肩から赤いリボンを大量のだし、それをオーズに絡めて行く。
「なんだこれ?」
困惑するオーズをよそに、何度も何度も、軍鶏ヤミーは似非拳法の動きをしながらリボンを増やしていく。
一方でナマクラヤミーはというと、
『斬ッ!』
「ヤバッ!」
両腕を振るっただけで、光速レベルの斬撃刃を飛ばしてきたのだ。
恐らく切れ味については、斬刀『鈍』と同等だろう。
「映司、メダル換えろ!」
「刃介さん、これを!それから頭は持参ので」
アンクは三枚、七実は一枚のメダルを相棒に投げ渡す。
上手くキャッチした二人は、すぐに行動に移した。
≪SHACHI・GORILLA・CHEETAH≫
≪YAIBA・ONI・TACHIUO≫
オーズはシャゴリーター。
ブライはヤイオニタへとメダルチェンジ。
まずオーズはチーターの俊足でリボンを避けて走行する。
軍鶏ヤミーはそれにいらだったのか、頭から炎を噴射するも、シャチヘッドから繰り出される水流によって消火。そこへオーズは一気にゴリバゴーンでキツいパンチをお見舞いした。
ブライの方は、真っ向からナマクラヤミーに挑んでいた。
ナマクラヤミーは当然腕を振るい斬撃刃を飛ばすが、ブライは魔刀を盾にして進み、接近すると、タチウオレッグにある魚刀『鋒』を脚と共に振るって攻撃。
そこへさらにヤイバヘッドでの頭突きつきだ!
『オワアアアッ!!』
軍鶏ヤミーは川に落とされ、
『クッ!』
ナマクラヤミーは状況の悪さを悟ってどっかへ逃げてしまった。
「逃げられたか。まぁいい、あんまメダルが溜まってる様子じゃなかったしな」
ブライはそんなことを言っていたが、この光景も全て、下田によって監視されていたことを、彼等はまだ知らない。
*****
一方、後藤と烈火は会長室でケーキを食べたりしていた(カクテルはさっさと飲み干した)。
「バースに必要なサポートは色々あるが、一番必要なのはチームワークだ」
後藤はソファーでファッション雑誌を読んでいる里中に説明しているが、
「それが崩れれば「大丈夫ですよ。私たち既にチームじゃないですか」
里中は聞き流している節がある。
「私が会長秘書で、後藤さんは秘書補佐。因みに役職は今まで通りなので、私が上司ですから」
「はいはいはいはい。わかったわかりました」
後藤も後藤でなんか諦めている様子。
「大変だな、大人って」
「君もいずれ通る道だ」
烈火に対しても社会のルールを匂わせている。
んで、里中は腕時計を少しみて、
「そろそろ休憩終わりですね」
といってゴリラカンを手に取り、ピッという音を出させた。
「・・・・・・スイッチ切ってたのか?」
「え、マジ?」
「休憩中ですから」
どこまでもマイペースな里中。
というか、さっきまで絶賛戦闘中だったわけだが。
「バカ、敵はいつ現れるか「後藤さん、チームワークですよ」・・・・・・はぁ」
この調子に、さすがの後藤も溜息が出る。
烈火はさり気にケーキの上に乗っている、プレートを割ってその下半分を齧りながら感想を言った。
「ホント、面倒だな。会社ってよぉ」
「俺もついさっきから、そう思えてきた」
*****
映司と刃介らは、逃げていったヤミーの足取りを追っていた。
「まずはニワトリから探すぞ。鳥のヤミーは巣に定期的にいる筈だからな」
そう。変体刀系のヤミーについてはまだ詳しくわかっていないため、まずは軍鶏ヤミーから片付けることにしたのだ。
街中を走り回る四人――そうしていると、大通りで警官たちが住人になにか話している場面に出くわす。
すると、映司の瞳は紫、刃介の瞳は金色になっていた。
アンクはそれに勘付き、
――オーズが組むべきアンクは、お前はじゃない――
悪夢を思い返した。
「おい、一度力を使えたからって好い気になるな。暴走の危険は消えたわけじゃない」
「確かにそうですね。既にグリード化した刃介さんは兎も角、火野さんは人間ですし」
グリードとしての意見を述べる二人に映司は
「でも気をつけるのはアンクもだろ?鳥のヤミーが現れたってことは!」
「ロストの奴が狙ってるということだからな」
「ロスト、か。あの目障りな偽者にはちょうど言い呼び名だ」
アンクはロストのことを嘲笑いながら、ヤミーを求めてまた走り出す。
*****
下田家。
「こいつらぁ・・・!」
下田は監視カメラの動きを制御するレバー式のリモコンを使いながら四人のことを監視していた。
だがその時、クスクシエのカメラに知世子がドアップで映ったのだ。
「んッ?」
そして、七番のカメラに袋が被せられた。
*****
そんでもって、肝心の知世子はというと。
「いいんですかね?町内会のカメラを・・・・・・」
比奈は持ち前の腕力で知世子に肩車をしていた。
「こういうのは話し合いで解決しなきゃ。それまでは保留!」
「それでカメラの視界封じか。中々斬新だな(これでヤミーのほうへ、挑発できるかもしれん)」
竜王は影でこっそりとこういう工作を知世子の発案のもと行っていた。
「では次に行くか。脚立や梯子で届かない場所は私がやる」
「頼りにしてるわよ!」
*****
再び下田家。
今まで言い忘れていたが、下田が監視に夢中になっている間、その後ろで下田の妻が半紙と筆と墨を以ってして書道をやっていた。
和服を着てるだけ合って、中々の達筆ぶりのようだ。
もっとも、
『フッフフ〜〜!』
隣の間から軍鶏ヤミーが似非拳法のリズムで歩いてくるのが一番のシュールぶりだ。
*****
そしてまた知世子たちは、
「これが終わったらアンクちゃんの誕生日パーティーの準備しましょ」
「でも、アンク嫌がってたから」
「昔から変わらんな。あの捻くれ鳥は」
800年前、戦闘場面でしかアンクと会っていない竜王だが、それでも大方の性格はつかんでいるつもりだ。
「それは知らないからよ」
「なにをだ?」
「誰かに祝ってもらう嬉しさとか楽しさとか」
などと言いつつ、梯子を木にかけて上る知世子。
向う先には監視カメラ。
先ほどと同じく、袋を被せておく。
「ようは食わず嫌いね。今夜はたっぷり口に放り込んであげましょう」
「そうですね」
知世子は梯子から降りて「よしッ」と意気込む。
だがそこへ、
「ッ、ヤミー!」
竜王が逸早く勘付いた。
『コラー!』
「鳥――ロストか」
現れた軍鶏ヤミーに竜王が警戒し、比奈が後ずさる中、
「え?なにこれぇ?」
なんか陽気な感じでいる知世子。
危機感の欠片もない。
「とりあえず一旦店にまで逃げるぞ」
「は、はい!」
「え、ちょ、待って!」
比奈は梯子、竜王は知世子の手を引いて走った。
『お前たち反抗的だぁ!』
「しゃ、喋った!なに、本物?って、なんの本物よ!」
「口を動かしてないで脚を動かせ!」
三人はそうして纏めて逃げている。
本来なら竜王がクエスになって戦うところだが、生憎知世子がいるのでは、グリードとしての力さえ使えない。
「(えぇい、仕方ない!)――二人共、ヤミーは私が何とかするから、先に行け!」
「え、行けって真庭さん!?」
「良いから行け!」
――ガシッ!――
竜王は知世子と比奈を荷物ごと持ち上げ、
――ブンッ!――
「「きゃああああッ!!」」
向こう側へブン投げた。
「手荒ですまんが、今は逃げ延びる事を考えろ!」
「でも真庭さんが!」
「知世子さん、ここは任せて、私たちは逃げましょう!」
「で、でも「良いから早くしろ白石!」――は、ハイ」
漸く比奈と知世子が撤退してくれた。
そこへ、
「おい、竜王!」
「刃介、来たか!」
増援登場!
だが、
『来タ来タ』
ナマクラヤミーまでやってくる。
しかし、そんなことは関係ない。
「「「変身――!」」」
≪RI・O・TE!RIOTE!RI・O・TE!≫
≪TA・TO・BA!TATOBA!TA・TO・BA!≫
≪BA・SA・RA!BASARA!BA・SA・RA!≫
オーズ、ブライ、クエスは早速戦闘に入った。
*****
その頃、後藤たちはというと、ゴリラカンの報せを受けて早速出撃しようとしていたが、里中が。
「里中!着替えなんかしてる場合か!」
「鋼たちに先を越されちまうぞ!」
烈火と後藤はメイクルームのドアをドンドンと叩いた。
「あんな格好で戦闘できると思いますー?」
「ったく、わかった先に行くぞ!」
「どうぞぉ」
「あぁもう女ってメンドくせぇ!」
苛立ちを露にしながら、烈火と後藤はメダルリュックを背負いながら現場に急いだ。
*****
≪TAKA・TORA・CHEETAH≫
≪RYU・ONI・SMILODON≫
≪BARA・KYOUKEN・EBI≫
タカトラーター、リュウオニドン、バラキビ。
それぞれ亜種形態になると、一気に敵へ突っ込んでいく。
『餌食ニナレ!』
『それしか能がない!』
ナマクラヤミーは貫手を繰り出すように腕を突き出し、光速レベルの斬撃を繰り出す。
軍鶏ヤミーもリボンを大量に放ってくる。
「って、うおわぁぁ!!」
「チッ、面倒な技だ」
リボンによってオーズは拘束され、ブライもさっきより本気がかった斬撃には近づきにくい様子。
「なら私が!」
そこへクエスが行こうとすると、
『おっと、、ソッチもだ!』
軍鶏ヤミーは漏れなくクエスにもリボンを巻きつけようとする。
クエスはキョウケンソードで必死にリボンを切り裂き続ける。
「火野!」
「鋼!」
「烈火!」
「後藤さん!」
更なる増援が到着。
烈火と後藤はメダルリュックを降ろすと、ドライバーを装着。
手首につけている腕輪に嵌めているセルメダルとブレイズ・コアをとり、
「「変身ッ」」
――チャリン――
――キリッ――
――カポンッ――
二人は展開されたフィールドの中で、次々と装甲をまとっては仮面で顔を隠し、新・仮面ライダーバースと仮面ライダーブレイズチェリオに変身する。
『バースか!』
『ブレイズチェリオ!』
ヤミーらの言葉を無視して、二人はメダルリュックをあけ、中にある大量のセルの中から一掴みする。
≪DRILL ARM≫
≪CUTTER WING≫
まずはバースがカッターウイングを背中から外してオーズ目掛けて投げると、カッターウイングはオーズを縛っていたリボンを容易く切り裂く。さらにドリルアームの磁力を利用して、まるで変則ブーメランの如く軍鶏ヤミーになんども攻撃する。
≪ENTOU・JUU≫
ブレイズチェリオは炎刀『銃』を握り、引き金に指をかけて、パンパンパン!という銃声を鳴らし、ナマクラヤミーに攻撃する。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるというかのように、ただナマクラヤミーに向けて、連続かつ乱射しているのだが、ある意味注意を引くには打って付けかもしれない。
「よし、行くぞ」
「はい!」
「ああ」
ブライとオーズとクエスは、その隙をつくように突っ込んだ。
『オォ!ハァ!』
『斬ル斬ル斬ル!!』
だが、軍鶏ヤミーは持ち前のフットワークで翻弄し、ナマクラヤミーは本気中の本気と言えるような勢いで両腕を振るい続ける。
「厄介な組み合わせだぜ!」
「全くだ」
翻弄系と圧倒系のヤミー。
思いのほかに、この組み合わせは面倒である。
「「ゥオオオ!!」」
――ヴィンヴィンヴィンヴィンヴィン!!――
――ザシュザシュザシュザシュザシュ!!――
バースバスターの弾丸と忍刀『鎖』の連結刃。
ブレイズチェリオとバースはメイン武器を使って二体のヤミーを牽制する。
だが、
――カチ、カチッ――
「――しまった!」
バースはメダルリュックの位置を失念し、無計画に弾を打ち切ってしまった。
すぐに補充しようとするが、
『フンッ!』
「「うわッ!」」
オーズ共々赤いリボンで縛られてしまった。
これを観たアンクは、
「チッ・・・・・・何とか換えられるか?」
といいつつ、右腕を飛ばして二枚のコアをオーズに届けようとする。
が、
『させるか!』
軍鶏ヤミーが赤いリボンでアンクを捕えようとする。
もちろんアンクは避けたが、その先には抜け殻状態の信吾が。
本来ならリボンが一直線にむかって信吾の頭に当たっていただろう。
――ガシッ――
七実がリボンを掴まなければ。
「ナイスキャッチだ」
「それはどうも」
その様子にブライは軽く褒める。
でもオーズには、
(そっか・・・アンクが憑いてるってことは、刑事さんにはこういう危険が・・・)
今回は上手く止められたが、次回以降にも保証があるとは限らない。
「おい火野。このままじゃ埒が明かない。紫でいくぞ」
「・・・・・・ッ!」
オーズはブライの提案に無言で首肯し、身体から紫のメダルを出し、それは既に治まっているメダルを押しのけてくぼみに治まった。
その際の衝撃で赤いリボンも吹っ飛び、立ち上がったオーズはブライと一緒にコアをスキャンする。
≪RYU・WYVERN・DRAGON≫
≪PTERA・TRICERA・TYRANNO≫
≪RYU・WA・DRAGON KNIGHT!≫
≪PU・TO・TYRANNO SAURUS!≫
「「ウオォォォ!!」」
リュワドラコンボとプトティラコンボにチェンジし、メダグラムとメダガブリューを装備した。
『ッ・・・あいつら・・・』
アンクは宙に浮かびながら、怪訝な声音を出していた。
当然、オーズがまた紫の力を使ったことに。
オーズとブライは無遠慮に戦斧と大剣を振り回し、二体のヤミーに一部の隙も与えないようにする。
ザシュ、という音が聞こえ、刃がヤミーに届くと同時に、
――ヴィンヴィンヴィン!!――
バースに巻きついていたリボンをセルメダルの弾丸が破った。
起き上がったバースはその射手の姿を見つける。
「お待たせしました」
そこには髪をツインテール、赤い半身には赤いチェック柄、下半身には黒いスカートといった服装の―――
「里中・・・・・・!?」
「おいおい、それの何処が戦闘用なんだよ?」
「勝負服です」
「「・・・・・・・・・・・・」」
もう何も言い返せない。
里中はバースとブレイズチェリオを尻目に、持ってきたトランクケースをあける。
ケースの中には、何十枚ものセルメダルと、九種類のカンドロイド、四つのセルバレットポットがあった。
里中は四つのセルバレットポットのうちの一つを手に取り、
「後藤さん」
華麗に一回転してバースに投げ渡す。
この行動になんの意味があるのか?
多分彼女なりの流儀というかペースだろう。
「・・・・・・まぁいい」
バースはとりあえず弾丸を供給した。
ブレイズチェリオも少し戸惑ったが、直ぐにバースと肩を並べると忍刀『鎖』をサイドバックルの鞘に納め、セルメダルをスロットに投入。
≪CATERPILLA LEG≫
≪CHINTOU・OMORI≫
≪SETTOU・ROU≫
それぞれ装備を行い、バースはキャタピラレッグで接近しながらバースバスターを連射。さらには通り様にキャタピラレッグで足蹴にしていく。
ブレイズチェリオも沈刀『錘』で接近し、通り様に切刀『鏤』で攻撃する。
里中もバースバスターによる射撃で援護する。
『ンッ、引キ時ダ』
ナマクラヤミーがそういうと、軍鶏ヤミーは自身とナマクラヤミーを覆い尽くすように――赤いリボンによる半球体をつくった。それによって攻撃は全て弾かれる。
≪SCANNING CHARGE≫
クエスはその半球体を破るべく、キョウケンソードにエネルギーを伝達させる。
「喰らえ」
冷徹な一言と同時に放たれた一対による斬撃。
機械のような正確無比な動きで振るわれた刃は、半球体を見事切り裂いた。
しかし、消滅したそれの中からヤミーの姿は現れなかった。
「逃げ足の早い奴等だ」
クエスは舌打ちでもするように言葉を吐く。
だが、この富田公園の戦いも、監視カメラがバッチリ押さえていた。
*****
下田家。
「火野映司、オーズ。鋼刃介、ブライ。真庭竜王、クエス。そしてアンク・・・・・・排除っと」
また陰湿なメモを取り出す下田。
そこへ、
――ガンッ!――
「もっと詳しくメモしなさい!」
下田の妻が亭主の頭を掴んでテーブルに突っ伏させた。
「申し訳ありませぇん・・・・・・」
この様子からして、下田はあくまで傀儡。
「気持ちがいい。人を支配するって、本当に」
下田の妻が半紙に書いたと思われる文字の数々を考えると、
”知り合い支配”
”ご近所支配”
”一族支配”
”メル友支配”
”兄弟支配”
”姉妹支配”
”親戚支配”
”全部支配”
軍鶏ヤミーの親は・・・・・・。
「この家だけじゃ足りない。もっとこの町を、もっとこの町を、ぜーんぶ!支配する!」
下田の妻だった。
(うぅぅ・・・・・・なんでこんなことに・・・・・・)
町内会長になるところまでは異論はなかったが、度を越して細かいメモまではやりすぎと思っていた下田。しかし下手に逆らえば妻はおろかヤミーの攻撃を受ける。
早く自由になりたい、そう強く願ったとき。
「不憫でござるな」
「え・・・誰・・・?」
声だけが聞こえた、若い男の声だ。
もっとも、姿までは見えない。
――チャリン――
「う・・・っ」
何かを入れられた下田。
すると、彼の背中から白ヤミーが誕生した。
「って、うおおおああああ!!」
さらにパニクる下田。
『おぉぉ・・・・・・』
白ヤミーは唸り声をあげ、下田の頭を掴んだ。
「ヒィっ」という悲鳴を上げる下田のことなど気にも留めず、白ヤミーは下田の”自由になりたい”という欲望を引っ張り出した。
何種類もの絵の具を混ぜ合わせたような、スライム状の歪で奇妙な物体。
不完全ながらも形をもった欲望を、白ヤミーは喰って飲んで、自らの栄養とした。
すると、白ヤミーの身体からはどんどん濃い体毛が生えていき、それが全身に及ぶと、
『アオォォォォォン!!』
オオカミヤミーへと成長した。
「へぇ、面白いじゃない」
『仲間だ仲間だ!』
軍鶏ヤミーとその親は、欲望のままに突っ走っていく。
*****
そして、ロストは。
『・・・・・・・・・・・・』
右腕が欠けている事で不完全な右前腕部を眺め、拳に力を入れていた。
『僕は・・・・・・僕を全部手に入れる―――!』
今この時、一秒だろうが一分だろうが、ロストの策略は刻々と遂行に向っていた。
アンク譲りの知能によって。
次回、仮面ライダーブライ!
独裁とパーティーと呑まれた右腕
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