仮面ライダーブライ!
前回の三つの出来事!
一つ、アンクを取り込もうと画策するロスト!
二つ、夢見町全域が、監視カメラで支配された!
そして三つ!映司は、アンクに憑依されている泉信吾刑事に付き纏う身の危険を悟ってしまう!
独裁とパーティーと呑まれた右腕
軍鶏ヤミーとナマクラヤミーが逃げ仰せ、一同は若干の焦りを見せていた。
もっとも、ブライあたりはまだメダルのたまり具合を考慮し、余裕の態度だったが。
アンクはさっさと信吾の身体に憑依する。
「ふぅ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
その様子を見て、映司は比奈の言葉を思い出す。
アンクに出て行って欲しい、と言ったらどうしてたかを?
その時の答えを蒸し返すのは先にする。
だが、映司は自らの中にある曇ったナニかを感じずにはいられなかった。
「おい如何した火野?なにそこで固まってんだ?」
「あ、いえ、その・・・・・・」
唐突に刃介が呼びかけ、映司は少しテンパる。
「まあ兎に角、今はヤミーが動くまで休むぞ。一旦、クスクシエにでも引き返すか」
「あ、はい」
そうして一同は、後藤・里中・烈火と、刃介、七実、映司、アンク、竜王といった感じで別れた。
*****
クスクシエに変える途中の道。
そこで映司らは俄かに信じ難い光景を眼にした。
身体に奇妙な羽が刺さった警官たちが、町の住人達に注意している。
しかもその内容はというと、
「車は一家に一台だ」
「外出は夜の八時までに済ませなさい」
「路上での私語は禁止する」
などと、現代社会においては有り得ない縛りの数々。
規則のキツい学校か?と言いたくなる光景だ。
ついでにいうと、
「従わない者は排除します」
明らかに法を外れた命令まで出している。
「操られてるな、ヤミーに」
「えっ?」
「あいつらに付いてる羽根見てみろ」
アンクにそういわれ、映司は改めて警官たちを観察する。
そこには、黒い羽根があった。
軍鶏ヤミーの肩なんかにも、黒い羽が多く生えていたことも思い出す。
「束縛癖の強い欲望だな」
「カメラだけでなく、警官まで投入・・・・・・あとであのポリ公ども、減給は免れないな」
竜王が真面目な表情をしていると、隣で刃介が些か嘲笑うようにしている。
「支配欲・・・・・・地味に嫌な欲望に目を付けたものですね――ロストも」
七実もまるで他人事のように振舞っているが、声音だけは真剣そうにしている。
「まるで独裁者かなにかだ・・・・・・」
「俺達を町の連中ごと炙り出す気か」
*****
下田家。
「あー違う。もっと右」
「み、右?」
「なんか違う」
下田は妻に、怯えた表情で指圧をしていた。
だが、
「もうなんでそんなに下手なのぉ!?」
「も、もう一回やらして!」
後ろに軍鶏ヤミーが控えている為、どうあっても寝転んでいる妻の背を指圧せねばならなくなっている下田。
なんかヤミーがいなくても、日常的に観れそうな絵面だ。
「んー、なんか違う」
「え、違う?」
『・・・・・・・・・・・・ハァ』
そんな様子に、オオカミヤミーは呆れた溜息を吐き出していた。
*****
真木たちの洋館。
「折角ヤミーつくったのに、二人・・・・・・三人は動かないの?」
カザリはテーブルで一人、チェスの駒を好き勝手に動かしているロストと、床で将棋を指している四季崎と白兵に話しかける。
「目的はアンクのコアメダルでしょ?」
カザリはロストに向っていった。
「隙を待ってるんだよ。あっちの僕にはオーズたちが付いてるから。でも、ヤミーたちが動けば何時か・・・・・・」
ロストは赤い駒を全て投入し、黒いキングを全方向から囲む陣形をとる。
「小さくても、必ず隙ができる」
つまり、チェックメイト。
「―――性格が右腕っぽくなってるんじゃない?」
「鳥類王は僕だよ」
ロストはそういって、黒いキングを倒した。
「面白い展開になりそうでござるな」
白兵は駒を動かし、護りを固めながらを呟く。
「確かに、これは面白くなってきた」
四季崎は自分の駒を動かし、固まった獲物を自分のものとする。
「なにせ吸血女が造り出し、俺らで盗み出したコアをいよいよ使うんだからな」
そしてパチンという音を盤上にだし、「王手」の一言が発せられる。
*****
クスクシエ。
「白石、泉」
まず先頭には竜王がたって店に入る。
「みんな!」
「真庭さん大丈夫だった?変な怪物に「問題ない。一応撤退させた」
竜王は知世子の相手をしながら茶を濁す。
その間に、映司や刃介や七実も店の奥に入っていく。
「映司くん、アンクは?」
だが比奈はこの場にアンクがいないことに気付く。
「ああ、先に部屋入ったと思うけど」
「大方、まだ窓から入ってるんじゃないか」
といいながら、比奈ごとで、一同は二階の部屋に向う。
*****
「ぃよ、アンク」
「―――ふんっ」
ドアを開ければ、そこには何時もの通り、ふてぶてしい態度をとったアンクがいた。
「早速ですが、これからどうするんですか?」
「決まっている。ヤミーの巣を見つけて乗り込むんだよ」
「おいおい、ちょっと待てよアンク!」
七実の問いかけに強引な言葉を言うアンクを映司が宥める。
「またそんな無茶して、刑事さんの身体を傷つけたらどうするんだよ?お前が憑いてるってことは、巻き添えを食らうことだってあるんだから」
映司の言葉に、アンクは苛立ちながら反論する。
「余計なこと言うな!俺はまだこの身体を手放す気はない!タダの人間だろうと、ないよりはマシだ」
「わかってるよでもっ!少しは比奈ちゃんにも考えてもらわないと、後悔してからじゃ遅いんだ!」
「一度いいと言ったことを取り消せるかっ!!」
「・・・・・・子供みたいなこと言うなって」
(((ホント、子供の口喧嘩・・・・・・))
刃介ら三人は、心の中でそう思った。
議題とすべきことは真剣だが、映司とアンクの言い争いは子供染みている面がある。
「ちょっと待って!」
そこへ比奈も割り込んでくる。
映司くん。私、答えは変わってないから。――ただ、どうしてそうなのかは、実はずっと考えたりして・・・・・・だから映司くんにも訊いてみたの」
――もし・・・もし私があの時、アンクに出て行って欲しいって言ったら、映司くんどうしてた?――
その答えは。
「・・・・・・・・・・・・―――追い出してたよ」
長い沈黙の末、答えを出した。
「約束だから。――刑事さん助けるって」
「・・・・・・・・・・・・」
その言葉に、アンクは黙って俯き、
「・・・・・・・・・・・・」
比奈もまた、黙って映司のことを見上げていた。
「それがお前の答えなんだな、火野」
「・・・・・・はい」
刃介の出した確認の質問にも、映司は一言だけだが、返事をした。
*****
クスクシエ一階の正面玄関。
「なんだかアンクちゃんの誕生日パーティーする感じじゃなくなってきちゃったわねぇ」
お玉をフライパンで簡単に武装した知世子は、ドアのまでスタンバっていた。
その時、ドアからガチャガチャという音がした。
その直後、ドアの下の隙間から一枚の書類が送られてくる。
恐らく操られた警官によるものだろう。
知世子はその書類を拾って目を通す。
「夢見町住人規則?」
なんだか手書きっぽいこの御報せには、ハッキリ言って時代が時代ならクーデターが起こっても仕方のない内容が数多く記載されていた。
一、住人は朝五時に起床。夜は八時以降外出禁止。
ニ、仕事も学校もない者は、毎日六時間の町内清掃を命じる。
三、町の風紀を乱す行為の禁止を命じる。
四、ゴミ出しは決められた曜日の朝七時から八時までの時間厳守を命じる。
五、夜間に限らず、騒音や騒動を発しないことを命じる。
六、夢見町共有場所への侵害禁止を命じる。
七、住民は規則を守っていない者のことを町長にまで報告することを命じる。
八、町内会長下田権造の命令には絶対服従を命じる。
「なにコレェッ!?」
知世子はあまりに御したい規則という呪縛の数々に、表情を一変させた。
*****
下田家の門前。
「以上、規則を犯した者には、夢見町からの退去を命ずるっとー」
下田はドデカい木製の看板を門前に置いた。
最後の部分を半ば言わされながら、やたらと筆で達筆に書かれた条例立て札を置かされている。
「・・・・・・ああ、何時まで続くのやら?」
本音で語ると、ヤリ過ぎだろう?と思ってる下田。
しかし嫁さんが怖いという情けない中年であった。
*****
ちなみに、下田の妻はというと。
「徹底させなさい。自由など要らない。規則正しく、ルールに沿った生活。反抗的な者は処分」
庭でゆったりしながら、彼女はご満悦な表情だ。
「その全てを、私が決める」
独裁者モード、本格化である。
『シュシュ!シュッ!』
目の前にはシャドーボクシングをしている軍鶏ヤミー。
『(チッ、いけすかねぇ)』
心の中で舌打ちしながらも、腕を組んで家の壁に背中を預けるオオカミヤミー。
だがしかし、仮にも白兵の命令ゆえに今は黙っている状態だ。
だが、こうしてる間にも、下田の妻の欲望は満たされ、セルメダルとして蓄積されている。
*****
クスクシエ。
刃介たちはヤミーの気配とセルの音を感じ取った。
「いくぞ」
「はい」
五人は早速外へ行こうとする、
「あの、みんな」
途中で知世子が規則条について何か言おうとするが、五人はそれを後回しにして屋外に出ようとする。
勿論、ドアを開けて。
だがそのドアの向こうには、
「火野映司、アンク、鋼刃介、鑢七実、真庭竜王」
「お前たちは全員排除だ」
警官たちが待機していた。
刃介は露骨に舌打ちする。
「一つ訊くが、なんでまだ規則を破ってない俺等まで退去なんだ?」
「町内会長の命令だからだ」
「ハッ――国家権力どころか、町内会長の犬に成り下がるとはな」
刃介は明らかな侮蔑の視線をむけている。
「その権限はきちんと上層部から取ったのか?」
「そ、そうよ!こういう強引な手段使うなら、上の人からの命令もらいなさいよ!」
刃介の勢いに便乗し、知世子も乗ってくる。
「黙れ。従わないのなら強制撤去させるまでだ。この料理店も、雑貨屋も営業停止にするぞ」
「ならその権限をきちんと上司から書類として貰って来い。そうでない限りは、テメェのやってることは言い掛かり以外の何者でもない犯罪だろうが。営業妨害で訴えるぞ?」
とことん喰らいつく・・・・・・というか、向こうのペースを噛み砕いていく刃介。
だてにいままで、闇の世界で数多くの死線をかいくぐってきたわけではない。
さらには値切り交渉で培ってきた口弁もある。
「貴様・・・ッ」
「口で言ってもわからないなら・・・・・・!」
警官たちは刃介の物言いに腹が立ったのか、警棒を手にしだした。
刃介はそれを観て、”夢幻惑い”で如何にかしようとすると、
――バギッ!――
「上等じゃない!」
知世子が警官の一人を蹴り飛ばした。
「やるぅ!」
刃介は口笛を鳴らしながら知世子を褒め称える。
(よし、今のうちに・・・!)
その隙に刃介・映司、アンク、竜王はさっさとドアから外へ出て行った。
「はぁ。ここで言い争っていても仕方ありません。冷静な態度でお帰り頂きましょう」
すると、何かを閃いたのか、残った七実はスマートフォンを使って何処かへ電話をかけてきた。
その間、警官たちは知世子と多数対一の格闘を繰り広げていて、なんだか勢いのある知世子のほうに分があった。
「どうだ、参ったか!」
Winner.知世子!
その時の表情は実に晴れ晴れとしていて。
「知世子さん、凄い・・・・・・!」
比奈の表情も嬉々としていた。
一方で七実はというと、
「はい・・・・・・はい・・・・・・そうなんです。えぇ、早めにお願いいたします。――あ、今目の前にいるので、お電話代わりますね」
スマートフォンを持ちながら警官たち(半ばグロッキー)に近寄り、
「少しよろしいでしょうか?貴方達の御上から、少しお話があるそうです」
丁寧な口調でスマートフォンを警察の手に無理矢理握らせた七実。
その後、警官たちの表情は一気に青くなったのだ。
受話器越しから聞こえてきた声、それは彼等が所属する警察署のトップたる署長だった。
勿論、屋内にいた彼はまだヤミーの支配下ではなく、七実の訴えも真摯に なって聞いてくれた。
知世子が警官たちと格闘してる間に、トドメとして道中で撮影した映像や写メを添付すれば、あとは全自動と言っていい。
店に無理矢理入り込んできた警官らは減給半年を言い渡され、電話越しに「全員直ちに署へ帰還しなさい。今直ぐに―――!」という怒りボイス付き。
半ば半べそをかきながら逆に退去させられていった警官らを見て、
「うふふふふ」
七実は悪どく笑っていた。
だが、
「―――あら、いけない。早く刃介さんたちを追いかけないと」
漸く諸悪の根源討伐を思い出す。
「二人共、あとのこと宜しくお願いしますね」
「え、ちょっと!?」
知世子の制止もきかず、七実はヤミーの巣へとダッシュしていった。
*****
その頃、刃介らは巣に向って駆けていた。
電車の路線が近くにある坂道を登っていくと、そこには立派な門構えの屋敷がある。
「さっきから勘付いていたが、やはり町内会長の家がヤミーの巣になっている」
「竜王、気付いてたのか?」
「ああ、白石がここに抗議しに来ていたからな」
「知世子さん、ホントに・・・俺達のために・・・」
映司は知世子の勇気ある行動に感動していた。
「兎に角押し入るぞ」
アンクが『右腕』を振りかぶるようにして、映司にコアを渡す。
その瞬間、
――ビュンビュンビュン!!――
無数の赤いリボンが門の向こう側から此方に向ってきた。
「「「変身――ッ!」」」
≪RYU・ONI・TENBA≫
≪RI・O・TE!RIOTE!RI・O・TE!≫
≪TAKA・TORA・BATTA≫
≪TA・TO・BA!TATOBA!TA・TO・BA!≫
≪BARA・SARRACENIA・RAFFLESIA≫
≪BA・SA・RA!BASARA!BA・SA・RA!≫
三人は急いで異形の姿に変わると、
「ハァ!セィ!」
「オリャー!」
「フッ、ハッ」
メダジャリバー、魔刀『釖』、サラセニアフィーラーでリボンを薙ぎ払う。
「突入だ」
ブライはそういって先陣をきり、門に体当たりして邸内に入った。
だが、
「・・・・・・また犬どもか」
警官たちが警戒心バリバリで大量に待機していた。
「すいません。これ以上はご遠慮ください。すいません」
そこへ、よくもまぁぬけぬけと、なんて思えるくらいの表情と低姿勢で言ってくる下田。
「町内会長・・・・・・!」
「あいつ、ヤミーの親だが、俺のメダルの痕跡がない」
アンクは得意の察知能力を披露する。
「どちらかと言えば、錆白兵の気配だな。大方、あの下田を使ってヤミーを造ったのだろう」
「つーことは、相手取るヤミーは三体になったってことか」
「じゃあ、ニワトリは誰を親にして?」
オーズはブライやクエスと違い、ただただ困惑するばかり。
「―――映司、突っ込め。ニワトリの親は屋敷ん中だ」
「え、無理だって!この人たち傷つけるわけにはいかないし」
((甘ちゃんが・・・・・・))
ブライとクエスはとことんオーズの御人好しさに呆れていた。
適当に殴って気絶させれば言いという考えに何故至らないのだろうか?
――ビュンビュン!――
そこへまたもリボンが飛んでくる。
三人が再び切り裂こうとしたとき、
『ィルルルル』
『キァァ』
プテラカンとハヤブサカンがそれを遮る。
四人は周囲を見渡すと、
「危なかったな」
「遅くなってわりぃ」
「後藤さん!」
「烈火か」
塀の瓦に登る後藤と烈火の姿がある。
「ってぅぅおお!?」
下田は予測できていなかった事態に驚き、屋敷の中に逃げ込んでしまった。
それに伴い、警戒を強くする警官たち。
「人間の盾か・・・・・・」
「どうなってるんだ?ヤミーはどこだ?」
「あの、それが・・・・・・」
後藤の問いに、オーズは言いにくそうに屋敷を観て、
*****
そして屋敷内では、
♪〜〜〜♪〜〜〜
下田の妻が琴を奏でていた。
和の雰囲気溢れる光景だが、
『〜〜〜〜!』
『・・・・・・ケッ』
意味不明な動きをとる軍鶏ヤミーと、より不機嫌になっているオオカミヤミーによってシュールさは増していた。
*****
一旦退却した映司たち。
その後の下田邸の様子を探るべく、カンドロイドを利用していた。
バッタカンドロイドを主軸にして、ウナギカンドロイドを情報受信機、クジャクカンドロイドを映像投影装置にして、邸内の様子を観察する。
「ヤミーのやつ、立て篭もる気か」
「確かに、これだけ人間がいると、突っ込めないな」
アンクと後藤は困ったように言うが、
「全く面倒だな。いっそのこと、魔眼を使って眠らせた方が手っ取り早い気もしたが」
「だが既にヤミーの支配下だからな。効果の浸透具合も落ちてしまうだろう」
刃介と竜王も意見を述べる。
「あそこじゃ戦えません。鳥のヤミーは親を巣に閉じ込めて餌を運ぶんだから、何時かは餌を取りに出てくるんじゃないかな?何が餌なのかはわかりませんけど」
と言う映司の言葉に、烈火が閃いた。
「そっか。あのキモ鶏冠野郎を炙り出しちまおうぜ!」
「今度はコッチから監視して、機会を待てば!」
後藤も烈火の意図に気付き、運良く近くに置いてあるライドベンダー二台に近づき、セルメダルを投入してはボタンを押していく。
≪TAKA-CAN≫
≪TAKO-CAN≫
≪BATTA-CAN≫
≪UNAGI-CAN≫
≪PTERA-CAN≫
≪KUJAKU-CAN≫
≪HAYABUSA-CAN≫
≪HOUOU-CAN≫
≪YATAGARASU-CAN≫
≪RYU-CAN≫
「「ヤミーを見張れ!」」
二人の指示で、カンドロイドたちは一斉に下田宅に向っていった。
「俺達は一旦戻る」
「なんかあったら直ぐにいくぜ」
二人はメダルリュックを背負って帰ろうとする。
そこへ、
「そういえば、里中さんは?」
映司が聞いて見ると、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・支度が間に合わなかったそうだ」
「大人って・・・・・・勝手だよな・・・・・・」
それだけ言い残して二人はさっさと行ってしまった。
「向こうも大変そうですね、刃介さん」
「あぁそうだn・・・・・・って七実。随分遅い到着だな」
ここへきて漸くナナミが合流。
「すいません。警官を相手にしてたら時間をとってしまって」
遅くはなったものの、けっこう速めに走ってきたようで、小袖が着崩れていることもあって、刃介はその言葉を信じることにした。
「まあいっか。今は一度帰って英気を養おう。七実がここへ来たと言う事は退去命令もどうにかなったようだしな」
「あ、はい」
映司らはそうして、二手に別れていこうとしたが、
「―――あ、そうだ。鋼さん、ちょっと待ってください」
「ん、なんだよ?」
「今日、刑事さん兼アンクの誕生日パーティーするんですけど、一緒にどうです?」
色々とあって遅くなったが、漸く誘いの言葉をかけられた。
「・・・・・・どうするお前ら?」
「私はいいですよ。贈り物をするのに良い機会ですし」
「私も、別に構わん」
「じゃあ決定ですね!」
映司は思い切り喜んだ表情で声音も明るくする。
「んで、場所はクスクシエか?さすがに何時も場所じゃ味気ないだろ」
「じゃあ、どこでやります?」
映司がそう逆に尋ねると、
「テメェらっぽい場所でやるのはどうだ?」
「え?・・・・・・外でですか?」
「ああ。色々と後始末のしやすい川とかが良いんじゃないか?」
映司は少しばかり驚いていた。
まさか刃介が多少ながらもノリ気になってくれていることに。
「仕切るのが好きなんだな、鋼?」
「まあまあ、そういうなアンク」
「偶には良いじゃないですか」
そうして、一同は近くの橋の下の河川で誕生日パーティーを開くことにした。
*****
時は流れて夕方。
映司とアンクと刃介と七実は、さっさと場所取りを済ましていた。
元々、人通りなど全くないので、余裕ではあったが。
「なんか、最初の頃みたいだな・・・・・・ずっと野宿で」
映司は川でパンツを洗いながらそういう。
「最初は、戦いも一杯一杯で、お前もすぐ乱暴なことするから、大変だったよ」
水を絞りながら、パンツを木の枝にかける映司。
「フッ――それが今じゃ、追い出せる気でいるとは、偉くなったもんだな」
「偉くっていうか、今の俺ならできるでしょ?」
映司は瞳を紫にしてみせる。
「火野、あまり紫を頼るなよ」
「そうして力を過信して、800年前の――王様も暴走した」
刃介とアンクはそう戒める。
特にアンクは、王に裏切られている。
「火野さん。これからどうするんです?コアを含め、アンクさんのこと」
「比奈ちゃんの返事次第かな」
「だからそう言ったらだ!本気でできるつもりか?」
空気はなんだじゃ怪しい方向へ。
「・・・・・・そう言わないで欲しいと思った。――今はまだね」
映司はアンクと向き合い、
「お前は、ロストって奴に狙われてる。ちょっとでも不利になれば、全部持ってかれる」
「・・・・・・・・・・・・」
アンクは少し黙り、後ろに振り向く。
「それがお前らに何の関係がある?」
「・・・・・・・・・・・・困る」
簡潔に、映司は答えを出した。
「確かに困るな、色んな意味で」
「戦力的にも困りますけど、一番困るのはアンクさんでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・」
三人はアンク共々、また沈黙を決め込んでしまう。
そこへ、
「みんな!」
比奈がやってきた。
「四人ともお腹空いてるんじゃないかと思って、お弁当つくってきた!」
手提げの麦わらバッグを見せる比奈。
アンクは四人の中で一番早く、比奈に近寄ると、その速度をあげる。
「ッ!?」
――ガシッ――
アンクは『右腕』で、比奈の細い首を掴んだ。
「アンク!」
「自惚れんな映司。お前も比奈も、俺は何時でも潰せる――最初の頃と同じだ」
――グッ・・・!――
アンクは『右腕』の力を強めていく。
「・・・・・・アンク・・・・・・」
比奈の表情からは動揺が残っているが、その手はゆっくりと下にぶら下がっていった。
まるでアンクが自分を殺すわけがないと、信じるように。
するとアンクは、少しだけ動揺する。
だが次の瞬間にはキツイ表情で手に力を入れ、また焦ったような顔で力が抜けていく。
「違うと思うけど」
それを観た映司は、一言だけを投げかけた。
「アンク。テメェ何焦ってんだ?」
「今ここで、火野さんはおろか比奈さんを潰すメリットすらないというのに」
刃介と七実の言葉がトドメとなったのか、アンクは何かが納得いかない、雲を掴むような感覚の中、比奈を放した。
「・・・・・・・・・・・・」
そうして、何も言わずにただただ沈黙するアンク。
「・・・・・・・・・・・・」
そんなアンクを観て、比奈は微笑んでいた。
アンクの中に、何かが芽生えつつあるという希望を胸にしながら。
「みんなぁぁぁ!!」
「誕生会の支度、手伝ってくれ!」
そんな時、知世子と竜王がリニアカーで色々な物資を運んできた。
それを観て、比奈と刃介はこう言った。
「正確な誕生日は、今度ルナイトに効いとくがよ――今日んトコは一応」
「アンク。誕生日おめでとう」
「・・・・・・・・・・・・」
そういわれても、無愛想に顔を逸らすアンク。
映司と七実はそんなアンクをみて、どこか安心したように笑っていた。
そうして夜になり、アンクと信吾の誕生会が始まった。
正直な話、パーティーのレベルは少しショボかった。
まあ野外でのパーティーということもあって、大した機材があるわけでもなし、知世子がギターを弾いたり、比奈が楽しく踊ったり、映司が料理を出したり、そんな風にしてアンクを持て成す。
語るべきことといえば、その程度だ。
アンク自身はバースデイケーキの蝋燭の火を無愛想に吹き消す程度で、格段喋ったわけでも動いたわけでもない。
ただ単に周りの三人が勝手に盛り立てているだけにも見える。
比奈はその誕生日会の中で、一つの結論を出した。
(あの時、私が思ったのは―――お兄ちゃんも戦いに協力したいんじゃないとか、意識の無いお兄ちゃんをずっと見てるのが辛いって、勝手なこととか。でも、多分大きな理由とかはなくて、ただ一緒にいる時間が積み重なっちゃったのかなって。嫌いとか、好きとか言う前に、一緒にいる時間が―――)
それが、比奈の結論。
そんな様子を見ながら、刃介は別のスペースで七実と竜王に贈り物を渡していた。
「どうだ、気に入ったか?」
刃介が渡したのは――竜王には化粧道具一式と苦無型の簪だった。
化粧道具は直ぐ見つかったが、簪については形が形なので少し難航した。
「化粧など、諜報の時以外は全然しなかったのだが・・・・・・」
「時折で良いからしてみろ。口紅だけでもかなり違うぜ。なにより竜王は、化粧映えしそうだからな」
七実には、鎖付きのロケットだった。中には刃介と自分でのツーショット写真が入っている。
下手な化粧品や装飾品より、こういう想い出の品の方が似合うと思ったのだろう。
だがしかし、七実への贈り物は一つだけではなかった。
「七実。実はもう一丁あるんだ」
「写真だけで私は充分嬉しいのですが」
「良いから、目ぇ瞑ってろ」
「・・・・・・・・・・・・」
言われたとおり、七実は静かに目を瞑った。
両目への光という情報が遮断され、七実が闇の中で頼りにするのは触覚と聴覚。
――チャリ・・・・・・――
まず最初に感じたのは、鎖の音と、首筋に感じる冷たい感触。
どうやら首にロケットがかけられたようだ。
――スッ――
次は、左手をそっと触れる感触。
だが直ぐに、自分の薬指に冷たい金属の感触を感じて、思わず目を開けてしまった。
「あちゃー。やっぱし開けちまったか」
刃介は頭を軽くかきながら軽口を零す。
七実は改めて自分の手と刃介の左手の薬指を見る。
「七実。ちょいと安物だが、受け取ってくれるか?」
二人の左薬指には、同じ指輪がされていた。
刃介の言うとおり、指輪に嵌められているのは、小さな紫の宝石――紫水晶。
誠実、心の平和、高貴、覚醒、愛情――そんな意味の篭った宝石だ。
「刃介さん・・・・・・」
「これからも頼む」
刃介は七実のことだけを見つめて微笑んだ。
他のものには決して見せない、安らぎと愛情に満ちた笑顔を。
「はい。不束者ですが、宜しくお願いします//////」
そんな刃介に、七実も顔を赤らめながら答えた。
そんな二人の様子を間近で見た竜王は、二人の邪魔にならないよう、心の中で拍手をしながら、微笑んで見守った。
*****
好い加減夜も明けて日の光が、ぼんやりと地平線から見えてきた時間帯。
鴻上ファウンデーションの会長室で、後藤と烈火はソファーで仮眠をとっていた。
いつヤミーがでてもいいように。
「・・・・・・・・・・・・まだ餌を取りにいかないのか」
「あぁぁ、眠っ」
*****
所戻って、刃介達もパーティーを終えていた。
しかしここで、映司があることに勘付く。
「ああっ!」
「なんだ?」
「餌わかった!」
「ほう」
*****
下田家。
そこでは家主の下田も、流石に疲れたのかモニターの前で寝ていた。
「あなた、昨夜は何も無かったでしょうね?」
異様に早起きな妻の声で、一瞬にして目覚める下田。
「今日も規律は守られて―――」
障子を開けて妻がモニターを見た瞬間、先ほどまで寝ていた下田共々、絶句した。
「ッああ!!」
モニターは次々と映らなくなっていた。
だが生き残っているモニターにも、カンドロイドたちが群がって、それぞれのカメラに攻撃している。
機能停止していくカメラと接続されていた各モニターは意味を成さないガラクタになっていく。
「ッ!――な、な、何だこれぇ!?」
「何やってんのよぉぉ!!」
すぐさま憤りという八つ当たりは、下田へと降りかかる。
当然、それに反応して・・・・・・。
『やめろぉ!折角の餌がぁ!』
『やっと暴れられそうだなぁ!』
餌を奪われて激昂する軍鶏ヤミーと、戦えるという僅かながらもの自由に歓喜するオオカミヤミー。
*****
「なるほど。町を支配・監視している映像が餌か」
「だから最初にカメラを設置したんだよ。餌は後で自動で供給される」
アンクは納得し、映司が捕捉する。
「連中も考えたな。それだけあって、今回は気配と闘志が丸出しだ」
竜王もヤミーらの気配を感じ取る。
「んじゃ行くか」
「ええ」
五人は現場に駆けて行こうとするが、映司はアンクにこう言って置く。
「刑事さんの身体、気をつけろよ。あんまり酷かったら、やっぱり取り上げるから」
「やれるもんならやってみろ」
買い言葉を言いながら、アンクは映司と共に走る。
「あの、刃介さん」
「なんだ?」
そこへ七実までもが刃介に話しかける。
「私のプレゼント、この件が終わった後でよろしいですか?」
「ああ。期待して待ってるぜ」
「はい!」
そうして、五人は本当に戦いへと赴く!
*****
鴻上ファウンデーション会長室。
「おはようございまぁ・・・・・・・・・・・・」
里中は定時どおり、日もすっかり姿を現した頃に出勤してきた。
だが、そこに後藤たちの姿は無い。
なにかと思って周囲を見ていると、書置きのメモがあることに気付いた。
”すぐに出撃できれば、俺達のギャラから5%ずつ払う。頼む!――後藤、烈火”
「5%・・・?」
なんかその時の里中の表情と声音が、どことなく不満げだったことを一応付け足しておく。
*****
何処とも知れぬ場所。
特徴といえば、すぐ近くに電車の路線と駐車場がある程度の場所。
そこに軍鶏ヤミーとオオカミヤミーはいた。
多くのカンドロイドたちに付き纏われ、足止めをくっているようだ。
そこへ、
「おはよう」
「流石に早起きだな」
映司とアンクは軍鶏ヤミーに。
「そっちは狼か」
「朝と夜のヤミーですか」
「奇妙な組み合わせだな」
刃介と七実と竜王はオオカミヤミーに。
――ブゥゥゥゥゥゥン!!――
さらにそこへ二台のライドベンダーが到着する。
「すぐにまた寝てもらうがな」
「狼野郎の腹も掻っ捌いてやるぜ」
乗っているのは烈火と後藤。
『貴様等ッ!よくも!』
『やっと戦れる!』
軍鶏ヤミーは怒り、オオカミヤミーは喜びを表しながら、リボンと毛針を飛ばしてきた。
だがしかし、後藤と烈火はバイクから降りてかわす。
軍鶏ヤミーとオオカミヤミーは、次の標的として映司や刃介を狙うも、
「映司!」
四人は避け、アンクは映司にコアメダルを投げ渡す。
そして、
「「「変身・・・ッ!」」」
≪RYU・ONI・TENBA≫
≪TAKA・TORA・BATTA≫
≪BARA・SARRACENIA・RAFFLESIA≫
この間、軍鶏ヤミーとオオカミヤミーはリボンと毛針を飛ばして攻撃した。
だが、三人の周囲を回るメダルのオーラがそれを遮る。
≪RI・O・TE!RIOTE!RI・O・TE!≫
≪TA・TO・BA!TATOBA!TA・TO・BA!≫
≪BA・SA・RA!BASARA!BA・SA・RA!≫
リオテコンボ、タトバコンボ、バサラコンボに変身完了。
後藤と烈火も、
「「変身ッ」」
――チャリン――
――パカッ!――
バースとブレイズチェリオに変身する。
――ヴィンヴィンヴィン!!――
――ザシュザシュザシュ!!――
バースバスターと忍刀『鎖』で、リボンと毛針を撃ち落とし、切り落とす。
そうして、五対ニという確実な優勢のまま勝負に本腰を入れようとしたが、その途端!
――斬ッ!ザンッ!!――
「「「「「ッッ―――!」」」」」
突如として複数の斬撃が五人を牽制するように放たれた。
「ふ、漸くお出ましかよ」
ブライがそういった直後に、
『コノママ、アッサリ決着デハ詰マラナイカラナ』
ナマクラヤミーが片言で喋りながら登場する。
ブライはナマクラヤミーと。
オーズとバースは、軍鶏ヤミーと。
クエスとブレイズチェリオは、オオカミヤミーと。
それぞれの標的を定めて戦いあう。
ブライは得意の獲物の刃を、ナマクラヤミーの斬撃とでぶつけ合い。
オーズはメダジャリバーで近接戦、バースは射撃で後方支援。
クエスとブレイズチェリオは二人共身軽さを生かしてのヒット&ウェイで翻弄する。
だが、それを何時までも許す奴等ではない。
『鬱陶しい』
オオカミヤミーがそう呟くと、彼は息を大きく吸い込み、
『ッ!アオォォォオオオォォォン!!!!』
恐らく夢見町全土にいきわたるであろう、大音響の咆哮を喉から鳴らしたのだ。
当然、距離的には20mも離れていない皆はというと、
「んああ、耳が!」
「なんだこの声は!?」
「頭が割れそうだぜ!」
「くッ、まさか・・・・・・!」
「意外と効くぜ・・・・・・」
効果があった様で、五人の動きが一斉に鈍った。
三体のヤミーはコレを機に、同時に攻撃を仕掛けようとした。
しかし!
――ブオォォォオオォォォン!!――
ライドベンダーのエンジン音。
「ちょっと待ったーーーッッ!!!」
それに跨って駆る若い女の声。
そして、
――ドギュイィィィィィ!!――
『『『ンガァァァアアアアア!!!??』』』
さり気なく前後の車輪によって轢かれるヤミー三体。
「ルナイト・・・・・・か?」
「ほかに誰がいるのよ?」
思いのほかいいタイミングで乱入してきたルナイト。
もっとも今回はバイクに乗ってくる関係上、獣耳っぽいデザインの付いたヘルメットで顔を隠し、首から下の肢体全てを覆い隠す漆黒の革作りなライダースーツ姿だ。
なんというか、池袋の首なしライダーみたいな格好である。
ついでにいうと、革作りのライダースーツはルナイトの身体にピッチリと張り付いていて、彼女の爆乳や括れた腰、熟れた桃のような臀部や細い手足のラインを扇情的に魅せている。
「火野くん、ちょっといいかしら?」
「え、俺ですか?鋼さんじゃなくて?」
オーズは鴻上、ブライはルナイトと契約を交わしているので、ルナイトがオーズに用件があることにオーズ自身少しだけ驚いている。
ルナイトはそれに構うことなく、頭のヘルメットを取り去ると同時に、ライドベンダーの後部座席からあるものを取り出した。
「この三枚を、貴方に託すわ」
そうしてルナイトは、箱ごとオーズに託す。
オーズは慌てながらもそれを受け取り、箱を開けた。
「こ、これって・・・・・・!」
「橙のコアだと・・・・・・!?」
託された代物をみて、オーズとアンクは驚く。
「いいから早く使いなさい」
「あ、はい!」
『ヤラセンゾ!』
ナマクラヤミーはそれをみて、すぐに妨害へと行動を移したが、
――ガギンッ!――
ブライの刃によって阻まれた。
「あんま調子に乗ってんじゃねぇぞ、このKYが」
≪SCANNING CHARGE≫
コアのエネルギーは、ラインドライブを通して魔刀へと供給される。
「チェストォォォォオオ!!」
そして、リオテスラッシュが決まり!
『ヌアアアアアアアッッ!!』
――ジャリィィィィン!!――
ナマクラヤミーは大量のセルに還元された。
「火野!コンボチェンジの間は俺等で守る!手早く済ませろ!」
――ヴィンヴィンヴィン!!――
バースは引き金に指をかけながらオーズにそう叫ぶ。
オーズはその求めに、無言で頷いた。
――ヴィンヴィンヴィン、カチッカチッ――
「ッ、弾切れか!」
バースはそういってメダルリュックの元へ走ろうする。
だが、そこへバースに何かが投げつけられ、ガン!という音がした。
投げつけられたのは、満タンのセルバレットポット――投げたのは、
「5%じゃ、その程度です」
タクシーに乗ってきた里中。
「・・・・・・充分だ!」
バースはメダルを補充し、また発砲する。
オーズは皆がヤミーの相手をしてる間に、メダルの感想を終えて、オースキャナーを滑らせた。
≪COBRA・KAME・WANI≫
≪BURAKAWANI!≫
紫の複眼が特徴的で、コブラの長い身体がターバンのように巻きついている頭。
カメの甲羅を半分割したような盾――ゴウラガードナーを備えている両腕。
ノコギリの刃や猛獣の歯牙を模したラインドライブ――ソウデッドサイザーという両脚。
オレンジのような茶色のような、爬虫類系のブラカワニコンボだ!
『ヒィッ!』
咄嗟に軍鶏ヤミーはブラカワニコンボの脅威を直感的に感じ取ったのは、赤いリボンのドームを作って防御に徹した。
――ヴィンヴィンヴィン!!――
バースと里中がいくら発砲しても、ドームが傷つく気配はない。
そこへクエスが、オオカミヤミーの相手をブレイズチェリオとに任せて、オーズと立ち並ぶ。
「私が奴をいぶりだす。お前がそこを突け!」
「えぇ!」
クエスはオーメダルネストから、焦茶色のコアを三枚だして、それをコールカテドルに入れてスキャナーで読み込む。
≪OOKAMI・KYOUKEN・KITSUNE≫
≪KAMIKAMIKAMI!KITSUNE・KAMIKITSUNE!≫
狼の如く雄大な牙と強大なオーラをした頭。
一対の小太刀、キョウケンソードを携えた腕。
両脚の付け根から膝にかけてまで垂れ下がっている九本の尻尾、キツネテイル。
大自然にその咆哮を響かせ、轟かせ、揺すであろう犬系のカミキツネコンボ!
「ウオオオォォォォォアアアアア!!!!」
クエスは先ほどのオオカミヤミーのそれを遥かに凌駕した叫び声を天に向けて放った。
普通に考えれば味方さえも巻き添えにするだろうが、カミキツネコンボの場合は違った。
「あれ?そんなに煩く聞こえない・・・・・・」
「成る程。あのコンボは音を操るのか」
オーズとアンクがそう分析する傍らで、
『ノアアアアアアアアアアッッ!!!??』
軍鶏ヤミーだけは溜まらずにドームを突き破ってきた。
これも一重にクエスの”錆狼慟哭”の御陰だろう。
「火野、今だ!」
クエスに言われ、オーズはスキャナーを動かす。
≪SCANNING CHARGE≫
エネルギーをチャージしたオーズは、両脚蹴りの体勢で地面を蛇のようにクネクネと高速でスライディングしていく。
すると軍鶏ヤミーの眼前には三つの橙色のメダル型リングが現れ、オーズはそこ目掛けて飛び上がると、
「セイヤァァァアアアアア!!!」
ワニ型オーラを纏いながら、必殺の挟み蹴りを叩き込む。
――ジャリィィィィィン!!――
それによって軍鶏ヤミーは爆発し、大量のセルメダルがばら撒かれる。
オーズは必殺技を叩き込み、少し息を整えて「御休み」とだけ言った。
一方でオオカミヤミーはというと、
≪SCANNING CHARGE≫
ブレイズチェリオと交代していたクエスと対峙していたが、どうにもその命運は怪しい。
クエスは頭、腕、脚といった三つの部位に高エネルギーを通していき、ラインドライブもそれによって妖しい輝きを放つ。
クエスはまず、九本のキツネテイルを活性化させ、一本一本に命を吹き込むような精度で巧みに操り、オオカミヤミーを縛り上げた。
『このっ、クソッ!放しやがれ!』
「そう言われて放すバカはいない」
クエスは至極まっとうな意見を述べ、キョウケンソードに力を伝達し、オオカミヘッドからは見えない”音の衝撃波”を出しながら、
「―――ハァァァアアアアア!!」
一気に駆けていき、不可視の”音の衝撃波”で相手にぶつかると同時に、キョウケンソードでズタズタに切り裂いた。
身動きの取れない相手に対して卑怯とも言う輩もいるかもしれないが、生憎のところ竜王は暗殺専門の忍者であり、卑怯というのは寧ろ褒め言葉だろう。
まあ御託を長々と並べるより――オオカミヤミーは、クエス・カミキツネコンボの必殺技で倒されたのだ。
「ま、上々だな」
そして、クエスは己が仕上げ方に、余裕そうな声を出して締め括った。
「やったな、里中のネエちゃん」
とブレイズチェリオが言うも、
「タクシー」
「ちょ、えぇぇ?」
さっさと帰っていく里中のマイペースに、ほとほとついていけなかったりもする。
*****
ついでに、下田家では。
「なにこれ?テレビ二台も買っちゃってる!」
妻が正気に戻ったはいいが、その間の記憶はないようで、なんだかお決まり展開になりげな下田。
「えっ!?いやいや、君が買えって言うから買ったんじゃないの!?」
「言い訳しないで直ぐ返してきなさい!」
「いやちょっと、買っちゃったモンはもう返せないでしょ!」
「何でもいいから早くしなさいったらぁぁぁ!!」
――ガン、ガン、ガン、ガン、ガン!!――
どっちにしても、妻によって頭をテーブルに突っ伏させられたり、ぶつけられたりする下田権造であった。
*****
「大丈夫かな?」
そんな夫婦喧嘩の声は外にまで漏れ出していて、門前にいる映司にまで心配される始末。
「家の中でやってる分には、問題ないだろ」
「確かに、ただの夫婦喧嘩程度なら安いものだ」
「・・・・・・そうだね」
アンクは規則条の看板を倒し、刃介はそれを踏み砕いた。
「んー、意外と嫌なものですね。夫婦喧嘩というのは」
「鋼と鑢の場合は一方的な気がするぞ。ここと同じで」
「七実。今後はソフトに頼めないか?なんかこう、もっとお前に惚れちまいそうなやり方で」
「うふふ、良いでしょう。私は刃介さんに惚れ直してしまいましたからね」
んでもって三人は夫婦喧嘩に耳を傾けながら話す。
まあ、惚気感が漂ってはいたが。
*****
クスクシエ。
「いやぁスッキリした。元に戻って良かったわぁ」
「そうですね」
店の前で知世子は張り切り、比奈は掃除をしていた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
「また来たぜ」
「いらっしゃいませ」
映司や刃介らが来ると、知世子はすぐさま暖かく出迎えた。
店に入っていく五人をみて、比奈はあることを思い出して、掃除用具をおいて急いで店の中に戻っていく。
カウンターに置いておいた黒い紙袋。
そう、アンクへのプレゼントだ。
「これ、お兄ちゃんに用意したんだけど」
比奈は早速アンクにプレゼントを渡そうとする。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
若干の沈黙。
「―――フッ」
アンクは一息ついて比奈の前を通り過ぎて――行こうとした。
だが、乱暴な手付きでプレゼントだけは持って行った。
比奈はそれに喜んで笑顔となり、店のドアで見ていた映司らも笑顔になっていた。
「あ、私アンクさんの反応見てきますね。刃介さん、贈り物はその後でいいですか?」
「好きにしろ」
「では」
七実はそうしてプレゼントの袋を持ったままニ階に上がっていった。
*****
途中でアンクに追いつき、一緒に部屋に入ると、
「アンクさん、どうでしたか?」
「どうもこう―――ッ!」
「―――ッ!」
感想を聞こうとした時、気配を感じて後ろを振り返る。
そこには、
『戦いの後って一番油断するよね。隙だらけだよ、僕』
ロスト。
『まあ、御陰様でこっちの作業も捗るがな・・・・・・!』
デシレ。
*****
クスクシエの一階。
「「「―――ッ!」」」
「三人とも?」
映司は瞳を紫、刃介は瞳を金、竜王は瞳を虹。
それぞれがグリードの気配を察知した。
「上だ!」
「アンク!」
「七実!」
比奈を含め、四人はすぐさま二回へと上がっていった。
*****
ドアを乱暴に開けると、そこには崖っぷちな光景があった。
「アンク!」
「アンク!」
ロストによってセルメダルを次々に吸収されていくアンク。
「七実!」
「鑢ッ!」
デシレによってフォース・コア三枚を投入され、身体の均衡を崩され苦しんでいる七実。
「うぅッ!くッ、ああっ!」
「うぁぁ・・・!くぅっ・・・!」
自身のメダルを奪われていくアンクと、能力を暴走させられかけている七実。
状況はまるで違うが、二人に置かれた状況は実に拙い。
比奈と映司は吸い込まれそうなアンクに手を差し出して掴み、竜王と刃介は七実の身体を思い切り抱き締めて気を確かに持たそうとする。
『さあ・・・・・・!』
『終いだなぁ』
ロストは吸収の勢いを強め、不完全な右腕にアンクのメダルをどんどん絞っていく。
デシレは頃合を見て、先日ルナイトのところから奪い取ってきた曇りガラスのような不透明なコアメダルを七実に投入した。
『『―――フハハハッ・・・・・・!』』
そして遂に、
――バタン!――
アンクが消え、信吾の身体が倒れる。
「くぁッ――!」
七実の身体からは、凄まじい量のドス黒いオーラが放たれ、刃介らを跳ね飛ばした。
『『フッ・・・・・・』』
ロストとデシレはそうして窓から外へ出て行く。
だがしかし、そこへ・・・・・・。
『ァァァ・・・・・・!』
キョトウまでもが低い声で唸り、窓の外へ出て行ってしまった。
「七実!!」
「アンク!!」
みんなは急いで店の外に出て、空に浮かぶ二体の異形の姿を確認した。
デシレはトンズラこいて帰ってしまったようだが、もう二体だけはそこにいた。
『お帰り・・・僕・・・!』
赤い左の片翼を広げて宙に浮かぶロストは、とうとう右腕を取り込んだ。
そして、右肩からも翼を広げ、ロストは真紅の翼を堂々と大きく広げたのだ。
そこから堕ちる赤き羽根には、なんとも言えない優雅さを演出させながら。
『うふふふふ・・・・・・!あはははははははははははは!!』
七実・・・・・・いや、キョトウの心は完全に変わりきっていた。
さっきまであった鑢七実としての心はどこにもない。
今目の前にいるのは、身体を禍々しい紫色に染め上げ、壊れ果てた大きな笑いを発し、巨大な二つの翼で空を舞う一匹の邪龍。
最悪のシナリオが、ここに実現してしまった。
次回、仮面ライダーブライ!
兄妹と遺志の力と映司の決断
カミキツネコンボ
キック力:15トン パンチ力:10トン ジャンプ力:180m 走力:100mを4秒
身長:200cm 体重:87kg 固有能力:音響支配 カラー:焦茶 必殺技:ハウンドリムーブ
オオカミヘッド
口部分から破壊音波を伴った大音量の咆哮「錆狼慟哭」を発する。
キョウケンアーム
一対の小太刀型武器・キョウケンソードを装備しており、スピーディな連続攻撃を得意としている。
キツネレッグ
両脚の付け根から太腿後部に垂れ下がっている九本の尻尾・キツネテイルを操り、敵を捕縛したり鞭のようにして攻撃したり吹っ飛ばしたりするなど、応用の利く使い方が可能。
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