コウモリと想いの激突とアンクリターンズ
今現在、奇妙な構図がとある広場にて出来上がっていた。
それは、同じ顔と背格好をした青年が向かい合っているというもの。

片方は穏やかな雰囲気をした黒髪で、片方は荒らしい雰囲気をした金髪だ。
ついでにいうと、金髪の青年の右腕は、鳥を連想させる赤い異形だった。

黒髪の青年の名は泉信吾――金髪の青年の名はアンク。
つい先日まで共生関係にあった二人は、今こうして対峙していた。

「後は・・・・・・」

アンクは見定めるように信吾の前に立っている。
ロストという別人格が消滅し、念願だったコアメダルの奪還を叶えたはずのアンクだが―――

「アンクッ!」
「お前、まさか・・・・・・!?」

プトティラとリュワドラの最大解放を行い、変身を解いた直後で、身体に大きな疲労が蓄積している火野映司と鋼刃介だが、それでもアンクの狙いはどことなく予見できた。

――ガシッ!――

「ッッ!!?」
「お兄ちゃん!!」

アンクはその右腕で、信吾の首を掴み、彼の身体を持ち上げた。
苦しそうな声をあげる信吾だが、アンクの表情は何時も通り淡々としている。

ただし、

――チャリン、チャリン、チャリン、チャリン、チャリン――

その身を構成するセルメダルが、一人でに毀れていかなければの話だが。

「チッ、この程度も保てないか。俺の偽者が消えたのは良いが、その為にコアメダルまで・・・・・・」

先ほどの戦いで、オーズはメダガブリューの刃でロストを切り裂き、タカ・クジャク・コンドルのメダルを一枚ずつ砕いていた。
ブライのように、マインド・コアへのピンポイントではなく、関係ないコアまで巻き込んでしまったのだ。

「紫にそんな力があったとはな」

現在、アンクの核たるメダルは五枚。だが、それでも尚、肉体を構成するには到っていない。
コアメダルを一気に三枚も破壊された所為だろうか、

――ジャリィィィン――

アンクの身体はセルに還元され、何時もの右腕だけが残った。

『兎に角、こいつはまだ要る。もう少し大人しくしてもらおうか』

――グキッ・・・・・・!――

信吾の首から嫌な音が聞こえると、

「ぅあ・・・・・・」

信吾の身体は力を失っていく。

「やめてっ!!」

比奈は兄の危険に必死に叫び、信吾を助けようと走るが、

――シュアアアアアッ!!――

「きゃッ!」

アンクから夥しい量の赤い羽根と波動が溢れだし、比奈は思わず仰け反ってしまった。

その直後に、信吾の身体は力なく倒れ、セルと羽根に溢れた地面で横になってしまう。

「お兄ちゃん・・・・・・」

比奈はゆっくり歩み寄ろうとした。
しかし、

『―――――――』

アンクは、信吾の右腕と一体化していた。

「比奈・・・・・・心配するな。大丈夫だ」

信吾は最後の力を振り絞って、己の意志で言葉を発する。

「お前は、お前の出来ることを―――」

それを境に、信吾の言葉は途切れ、瞳は赤く染まった。
そして信吾の頭はまたも力を失い、地面に伏した。

次の瞬間、信吾の目蓋は他者の力によって開かれ、それと同時に黒髪は金髪となり、髪形も右寄りで奇抜なものに変化する。
そして信吾の身体は右腕に持ち上げられるように立ち上がる。

そうして、信吾の背中から真紅の翼が生え、同時に赤い波動が突風となる。

(右腕だけでも、やはりグリードというわけか・・・・・・)

刃介は改めて、アンクに秘められた潜在能力を認識する。
アンク本人はというと、二枚の大翼を広げ、周囲に赤い羽根を撒き散らしながら、

「フッ――コアが消えても、偽者がいないだけでこうも違う。800年前と同じ、俺の力だ」

アンクが取り戻したものを確認すると、比奈は呆然とし、映司は表現しきれぬ表情で立ち上がる。
おまけに後藤たちは、

「アンク、貴様・・・・・・!!」

竜王は怒り、

「比奈ちゃんの気持ちも考えろ!!」

後藤は憤り、

「火野や鋼だって、お前を助けるのにどんだけ苦労したと思ってやがるッ!!」

烈火は叫ぶ。

「それとこれとは別だ」

だがアンクは何時もの態度を崩さない。

「それとも・・・・・・助けてやったんだから、この腕一本で我慢しろってつもりか?――冗談言うな」

――バサッ!!――

アンクは翼を大きく羽ばたかせ、強い風を巻き起こす。

その所為で、

「きゃアアッ!!」
「「うおぁぁぁッ!!」」
「うわぁああッ!!」

「くッ・・・・・・!」
「チッ・・・・・・!」
「・・・・・・・・・・・・」

比奈も映司も後藤も烈火も、皆壁などに叩きつけられるほどに吹っ飛ばされた。
ただ、竜王と刃介と七実はどうにか踏ん張って堪えた。

しかし、映司が吹っ飛ばされた影響でメダルホルダーが地面に落ちて開き、その衝撃でコアメダルが出てしまう。
その中で一枚だけ、元のあるべき場所に帰ろうと、アンクの足元に転がっていくメダルが一枚。
アンクはそれを容易に指先で掴んだ。

「残りも寄越せ。俺んだ」

タカ・コアを手にし、アンクは図々しさを絵にしたような物言いである。
映司はどうにかこうにかで立ち上がり、なけなしの体力でこう言った。

「・・・・・・その前に、信吾さんから離れろよ」
「・・・・・・言ったろ。この身体はまだ要る。早くメダルを「アンクッ!!」

そこへ映司は、反省の色の欠片さえないアンクに激怒した。

「こんな酷いことしていいわけないだろッ!」

映司の怒りに反応するように、瞳の色が紫となる。

「信吾さんから離れろよ・・・!比奈ちゃんに返せ・・・!」
「くどいッ!!」

当然アンクはその要求を突っぱねる。

「いいからメダル寄越せッ!」

アンクは瞳を赤くすると、翼で今再び吹っ飛ばそうとするが、

「―――ッッ!!」

映司は身体から凄まじい紫のオーラを放出し、アンクの波動を跳ね返した。
その壮絶な力にアンクは驚愕する。

「この力・・・・・・!?」

驚いたのはアンクだけではない。
比奈や後藤も、映司の異変をこうして認識したのだから。

「信吾さん返せよ・・・!でなきゃ、コアを全部砕くッ!」
「映司ぃぃ!!そんなことしてみろ・・・・・・!!」

平行線とも直線上とも違う意思のぶつかり合い。
説得には一切応じないアンクに対して映司は、

「―――ウオォッ!!」

溜め込んでいたもの全てを吐き出すように、先ほどとは段違いの波動を放射する。
その威力やいなや、真正面から向き合うことすら難しい。

「くぅ・・・・・・!」

アンクは今の状態では不利と悟って、翼を広げて空へと翔ける。

「お兄ちゃん・・・・・・」

比奈が愕然としてる間にも、映司は身体中に紫の力をまとって、アンクを追おうとする。

「火野ダメだ!止まれ!」
「このままでは、呑まれるぞ!」

後藤と竜王が必死に映司の身体を掴んで止めると、

「ぅあッ――あッ、はあ、あぁ・・・・・・!!」

映司から紫の波動が引っ込み、体力を消耗しきって膝を突いてしまう。

「アンクさん・・・・・・」

空高く逃げ去っていく鳥類王の姿を見て、七実は静かに呟いた。

「おい、七実。そろそろいいか?何時までもこの状態ってわけにはいかないだろ」

刃介は少しだけ気まずそうにしていた。
今、七実と刃介は抱き締めあうような体勢のままだ――さすがの刃介も気分的にも姿勢的にもキツいのだろう。

「ああ、そうでしたね」
「それからもう一つ、聞かせろ」
「なんなりと」

七実は刃介との距離が零のまま応える。

「さっきの”ごめんなさい”ってなんだよ?」
「それはですね・・・・・・」

七実は両手の平を刃介の胸板におき、刃介の顔を真っ直ぐ見据えて、

「こういうことです」

一気にまた距離を零にして、自分の唇と刃介の唇を重ねた。

(んな・・・・・・!?)

一体どういうつもりなのか、と困惑する刃介。
しかし、その狙いはすぐに明かされることになる。

七実は刃介と口付けしたまま、一方的に舌を絡めて、息を思い切り吸い込んだ。
それは刃介の酸素を奪うためではない、別のものを奪うためだ。

(ま、まさか・・・・・・!?)

刃介は七実が自分から何を吸い上げようとしているかに気付き、急いで後方に跳躍し、七実との距離を離した。

「おや、思いのほか、察しが良いですね。流石は私の所有者です」
「七実・・・・・・お前まで・・・・・・」

他の者達は続けざまに驚いた。
七実が刃介にキスした時は、映司・比奈・後藤・烈火あたりが顔を赤らめて目を逸らしたが、今は違う。七実の行動に視線が釘付けになっている。

「そんな方法で、俺の中のコアを吸い上げるとはな」
「いえいえ。そうは言っても、取り戻せたのはこの二枚だけです」

七実は着物の袖で口を隠すと、もう片方の手を口腔内に入れて何かを取り出す。
その手には、ワイバーンとドラゴンのコアメダルが一枚ずつあった。
彼女は次の瞬間、押し殺したような無表情を一気に崩し、本当に悲しそう言った。

「ごめんなさい、刃介さん」

その言葉にはさっきと同じく、自分への失望と侮辱、刃介への感謝と愛情が篭っていた。

「待て、七実!!」

刃介は呼び止めたがもう遅い。

――シュン・・・・・・!!――

七実の姿は刃介や竜王でさえ捉え切れないほどの超高速で、彼等の視界から消失していた。

「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

残された者達は、アンクに引き続いて、あれほど真面目で忠誠心の高い七実までもが裏切ったという事実を受け止めきれず、ただただ沈黙していた。

「なんでだよ・・・・・・?なぜ、お前まで俺から離れるんだッ!?七実ぃぃぃいい!!」

そして、刃介の哀れな咆哮は、当てもなく虚しい空へと消え失せていた。





*****

「まさか、お前が俺についてくるとはな」
「貴方についていくわけではありません。私には私なりの目的があるだけです」

とある橋の上で、アンクと七実は肩を並べてそう語っていた。
そんな中、アンクは『右腕』を見つつ、

(チッ――やっと偽者が消えたと思ったら・・・・・・コアが三枚も消えたとなると、完全復活は無理か)

だがその思惑は、

――ガンッ!――

橋の手摺を叩く音で払拭された。

「諦めて堪るか・・・!可能性はまだある・・・!」

かつての時より抱き続けたその欲望は、今尚滾っている。
そんな時、

「ほほぅ。合格点として連中に褒美やろうと思ったが、こいつは面白いことになってるな」
「ッ!」
「あら」

そこに現れたのは、七実が今この世界で存在している理由たる人物のコピー。

「だがしかし、これはこれで興味深いな。いやはや、世界って奴は微妙なトコで予測不可能だからこそ、思いがけない娯楽要素イレギュラーに満ちているもんだ」

天才刀鍛冶でありグリードの一人、四季崎記紀。

「なんのご用件でしょうか?」
「なーに。ただお前らにヤミーを作って欲しいだけだ。こいつとコレを使ってな」

すると四季崎は、自分の後方にある、何かを覆い隠すように被せられたブルーシートを取り外す。
その下に居たのは、一台の軽トラックと、運転席で眠っている中年男性だった。

「ちょいと睡眠薬をもって大人しくさせた。当分は起きないだろうぜ」
「俺達を利用するつもりか?」
「さてな。それはヤミーを生み出してからだ」

四季崎の対応にアンクは露骨に舌打ちした。

「アンクさん。とりあえず、やってみませんか?」
「フンッ――まあ、このまま何もせずに居るよりはマシか」

二人はそうしてセルメダルを一枚ずつ手に出し、アンクは中年男性に向けて、七実は軽トラックに向けて投入した。

――チャリン――

一人と一台にできた投入口にセルメダルは上手く入り込むと同時に、

『ぅぅぅ、ォォォ・・・・・・』

巨大で赤い卵から白ヤミーを一体、

『クァァァ・・・・・・!』

軽トラックからは飛竜の如き異形を生み出した。





*****

泉家の部屋。
比奈はたった一人で、ここに帰ってきていた。

部屋に戻って真っ先に見えたのは、食卓のあるリビング。
つい先日まで、兄が戻ってきていた束の間の安息を思い出す比奈。

「お兄ちゃん・・・・・・」

それと同時に、

(アンク・・・・・・どうして?)

わかっているようで、わかっていない疑問を、ただ一人で何処かに投げかけていた。





*****

「大丈夫とは言っていたが、辛くて当然だな。折角戻ってきた、お兄さんを―――」
「それもそうですし、アンクがやったっていうのが余計に・・・・・・」
「あんな奴でも、仲間っぽい存在だったしな」

後藤と映司と烈火は、街中を歩きながら談義していた。
議題のほうは会話の通りだ。

「・・・・・・俺、あいつが信吾さんに拘るのもわかるんです。――ずっと、身体欲しがってきたし・・・・・・あいつのコアメダルが九枚揃うこともなくなった訳だから」
「でも、あんなやり方は許せることじゃない」
「幾らなんでも、強引すぎっつーか、我侭すぎだろ」

後藤と烈火の言い分も正しい。

「はい・・・・・・でも、今は鋼さんのことも重要です。恋人に裏切られて、とても俺達じゃ慰められる状態じゃありませんでしたから」

そう。忘れかけていたかもしれないが、七実が離れたというのは一同にとって凄まじい衝撃だ。
特に刃介にとっては、この上ない負の感情が波となって押し寄せただろう。

「鋼さん・・・・・・多分・・・・・・」





*****

その頃、当の刃介はというと。

「ウゥゥゥオオオオオッ!!」

――バギンッ!バギンッ!――

とある地下深くに作られた極秘の対ヤミー・グリード戦を想定した模擬戦闘(シュミレーション)を行っていた。
つまり、ここはトライブ財閥本社の地下と言うことだ。

「鋼さん、荒れてるっすね」
「当たり前ですよ、まさか、あの鑢さんが裏切るとは・・・・・・」

モニター室で、次々と白ヤミー・屑ヤミー・成長体ヤミーといった擬似標的(ターゲット)を次々と、変身せずに力技で破壊していく刃介を見つつ、吹雪とバットは呟きあった。

「ちょっと貴方達。不謹慎な発言は控えなさい」
「今はこうしてはいるものの、何時また何が刃介の心を刺激するか・・・・・・」

その一方で、ルナイトと竜王が慎重な態度をとっていた。

「オオオオオァァァアアア!!」

――ベギャッ!ベギャッ!――

刃介は際限なく、ありとあらゆる目標を一撃で秒殺していく。
そこには優雅さも余裕もなく、ただただ暴力だけが存在していた。

そうしていると、長いようで短いで戦闘訓練が終了したようだ。
その結果ランクはというと、

文句なしのSランク!

だが、

「おい、もう一回やらせろっ!」

今の刃介は訓練の結果などどうでもいい様で、単に激情となった心の刃の矛先を求めている。

「・・・・・・会長」
「どうするっすか?」

バットと吹雪が訊ねると、

「仕方ないわね。もういっか「待てルナイト」・・・・・・まさか、ヤミー?」

待ったをかけた竜王の意思を即座に読み取ったルナイト。

「ああ、白と大が一体ずつだ」

竜王がそういった瞬間、

――バリンッ!!――

モニター室と訓練場とを隔てる強化ガラスが割れた。
人為的に、木っ端微塵に割られてしまった。

「丁度いいじゃねぇか。思う存分、殺せる相手が出来たみてぇでよ」

ガラスをぶち破った張本人である刃介は、無遠慮に四人に先んじてエレベーターに乗ろうとする。

「待て刃介。私も行くぞ」

そこへ竜王もエレベーターに入っていき、二人は地上へと戻って行った。

ルナイトは激昂極まっていた刃介の様子に、

「ふぅぅ・・・・・・折れかけてるわね」

溜息をついて、一言だけ吐き捨てた。





*****

とある港沿いの公園。
平和で穏やかな時間の流れるこの場所は、家族や恋人連れで賑わっている。

だが、その恋人たちに不幸が訪れた。

『ン〜・・・・・・』
「うわぁぁッ!!」
「キャアアッ!!」

ベンチでアイスを食べているカップルの前に、一体の白ヤミーが現れたのだ。
白ヤミーは男の胸倉を掴むと、そのまま男を投げ飛ばした。

周囲の人達は恐怖にかられて悲鳴をあげながら逃げ出していく。
その間にも、男は白ヤミーに拳を一発、蹴りを一発くらわされる。

そして、

『んン・・・・・・!』

白ヤミーから赤い光と羽毛が大量も漏れ出し、全身を覆う。
そうして、光と羽根が治まったときには、白ヤミーはハゲタカヤミーへと成長していた。

『やっと、成長したか』

そこへタイミングを合わせるように、ワイバーンヤミーも上空より舞い降りた。





*****

当然、成長体のヤミーが二体も出現したこともあり、

「ッ――ヤミーだ」

映司はすぐに気配を拾う。

「よし、行くぜ!」
「ああ!」
「うん!」

三人はすぐに走り出し、戦いに赴いていく。





*****

「ぐあああぁぁぁぁぁ!!」
「いやぁぁぁあああ!!」
「ひぃぃぃ・・・・・・!!」

一方その頃、人々(カップルの男だけ)は次々とハゲタカヤミーとワイバーンヤミーに襲われていた。
幸いなことに殺されてはいないようだが、それでも怪我を負わされていることに違いはない。

だがそこへ、

「鳥のヤミー?ってことはアンクの・・・・・・」
「つくれるようになったらしいな」
「兎に角やるしかねぇ!」

映司達と―――

「ドラゴンに引き続き、今度はワイバーンか」
「鑢の奴、アンクと結託したのか?」

刃介たちが到着する。

二組がヤミーと近接する途中、

――ヴィンヴィンヴィンヴィンヴィン!!――

セルメダルの弾丸による射撃と

――ブォンブォンブォンブォンブォン!!――

全身を巨大な銀色の甲冑で包んだ者が、無骨な石刀が振り回してワイバーンヤミーを攻撃する音が。

二組はそれぞれの加勢者の姿を見る。

「里中さんッ――今日は早いですね」
「丁度新作の試食してたんで」

バースバスターを手にして答える里中。
ケーキの試食直後においても尚、きちんと御洒落(ファッション)に拘るその姿勢は本物だ。

「あ、あぁ・・・・・・」
「ま、そんなとこだろうな」
「マジで掴みきれない奴だな・・・・・・」

映司はただただ愕然と頷き、後藤は相槌をうち、烈火は何とも言えない心境になりながらも、ベルトを身につける。

「凍空。お前が戦場に出てくるとはな」
「これも会長命令っすよ」
「双刀『鎚』と賊刀『鎧』って時点で、けっこう本腰だな」

竜王や刃介も会話しながらベルトを装着。

だが、変身の際に映司がメダルホルダーを開いて気付いた。

(そっか、タカはあいつが・・・・・・)

鳥類系の覧は三つとも空白。
それゆえ、ヘッドパーツ担当である別のメダルを使うことにする。

――パカッ!――

「「変身!」」

後藤はバース、烈火はブレイズチェリオ。

「「「変身――!」」」

≪COBRA・TORA・BATTA≫

映司はオーズ・ブラトラバに変身。

≪RYU・ONI・TENBA≫
≪RI・O・TE!RIOTE!RI・O・TE!≫

刃介は何時も通り、リオテコンボに変身。

≪BARA・SARRACENIA・RAFFLESIA≫
≪BA・SA・RA!BASARA!BA・SA・RA!≫

竜王も何時も通り、バサラコンボに変身。

五人はそれぞれ構えて、二体のヤミーに突撃していく。
数の上ではライダー達が圧倒的に有利な上、里中や吹雪という助っ人もいる。

その上、オーズはとうと、

♪〜〜♪〜〜♪〜〜

何処からか取り出した縦笛・ブラーンギーを吹き鳴らし、弁髪型の後頭部から本物の巨大コブラが現れたのだ。
シャーという鳴き声を出すコブラを、オーズは笛の音を吹き鳴らして巧みに操り、ハゲタカヤミーに攻撃させる”カペロブラッシュ”を行使しているのだ。

――ヴィンヴィンヴィンヴィンヴィン!!――

そこへバースと里中の銃撃は着実にハゲタカヤミーにダメージを与えている。

一方でブライ達は、

「ハアッ!」

――ビュルルルルッ!――

『んッ!』

クエスのサラセニアフィーラーがワイバーンヤミーを捕え、

「否崩れ!」

――ズドン!――

吹雪が体当たりをして吹き飛ばし、

「鏡花水月!花鳥風月!」

ブライが奥義を二発叩き込む。

しかしここまでされて黙っているほど、二体のヤミーは優しくできていない。

――バサッバサッバサッバサッバサッ!!――

「「「うおッ!」」」
「「く・・・ッ!」」
「ぅ・・・・・・きゃあ!」
「こりゃ、強い風っすねぇ・・・・・・!」

二体のヤミーは翼を大きく羽ばたかせ、黒と紫の旋風を巻き起こし、ライダー勢を吹き飛ばそうとする。
もっとも、

「後如!」

――ズガッ!――

『『ぬぅぅ!』』

重さ数十トンに及ぶであろう双刀を持つ吹雪には関係のない話だが。





*****

同時刻、比奈は家で一人、考えていた。

(アンク・・・・・・ちょっとは近づけたと思ってた)

誕生会の時、漸くそれを自覚した比奈。

(もしずっとこのままだったら、お兄ちゃんはもう・・・・・・映司くんとアンクもきっと戦うことになって・・・・・・)

思い描かれる最悪の未来予想図。

(そんなの絶対―――)

ダメ、と思った途端、一つだけ思い出す。

――比奈は・・・・・・アンク達のことだって助けたいと思ってたんじゃないのか――

信吾の言葉が蘇る。

――同時に俺のことも助けたい。けど映司くん達が戦うのはイヤだ。・・・・・・俺も同じだよ、さっきの人達もそうだ。みんな勝手な望みを言う。それを黙って、全部引き受けるんだ彼は――

(私、また勝手なことばっかり思ってる。・・・・・・辛いことは、全部映司くん達に任せることになる・・・・・・)

――お前は、お前の出来ることを・・・・・・――

「・・・・・・ちゃんとしなくちゃ」

比奈は静かに、己が胸のうちにそう刻み込んだ。





*****

――ビュウゥゥゥゥゥゥン!!――

「きゃあああああ!!」

余りにも強すぎる黒い突風。
大型台風が直撃しているかのような風圧により、里中の軽い身体は、何かの柱に捕まっても吹き飛ばされそうに成っている。

「くそ・・・・・・!」
「うッ・・・・・・」

ただ、ライダー達だけは持ち前の強靭的な体力で、どうにか風に逆らっている。

≪SHOVEL ARM≫
≪ANTOU・KAMA≫
≪ENTOU・JUU≫

バースは左腕にショベルアーム、ブレイズチェリオは右腕に暗刀『鎌』を装備して、その辺にあるモニュメントの柱を掴んで足場を固定する。

――ヴィンヴィンヴィンヴィンヴィン!!――
――パンパンパンパンパンパンパンッ!!――

双方は銃撃でハゲタカヤミーとワイバーンヤミーを狙い撃つ。

「ハアアアァァッ!!」
「チェストォォッ!!」

そこへオーズとブライが空中から飛び蹴りをお見舞いする。

『『―――ッ!』』

ハゲタカヤミーとワイバーンヤミーはそのまま空へと舞い上がると、一気に急降下して、通りかかった軽トラックの荷台に乗り込んだ。
その軽トラックの運転席には・・・・・・。

「四季崎・・・・・・あ奴、今度は何を企んでいる?」

クエスが首を捻っていると、

「助手席に眠らされていたのはヤミーの親か・・・?いや、鳥のヤミーなら、親は巣に閉じ込められているはずか」
「―――もしかして、あのトラックが巣ってこともっ」

バースの推測に、オーズが修正を施す。

「兎にも角にも、今はヤミーを倒す。そうすれば自ずと、あの二人が顔を出す!」

そしてブライは、まるで猪の様に走り出していった。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ鋼さん!!」
「うるせぇ!!テメェに何がわかる!?」

ブライはオーズの制止を振り切り、シェードフォーゼに乗ってトラックを追おうとしていた。

「鋼、ヤミーを倒すのはまだ後でいいだろ?」

と、意外なことに、ここでブレイズチェリオが割ってはいる。

「今は頭を冷やして、明日にでも・・・・・・よ?」
「・・・・・・・・・・・・チっ、仕方ねぇ」

ブライはそう無理矢理納得して、変身を解いて帰っていった。

「「「「――ふぅぅ」」」」

残された四人は、仮面の下でほっとした表情となっていた。





*****

とある雑木林。
あちこちに雑草や樹木が生い茂るこの地帯に、真木は蝙蝠傘をさしながら歩いていた。
すると、

赤い羽と紫の鱗が数枚落ちてきた。
真木はそれに気付くと、直ぐ傍にあるなんでもない木に注目する。

「成るほど・・・・・・かなりグリードに近い」
「いえ、殆ど侵食されているようですね」

木の上にはアンク、幹の傍には七実。

「・・・・・・・・・・・・」

真木は黙っている。

「お前、映司が持ってる紫のメダル、狙ってんだろ?」
「ええ。より完全な力をつけなくてはなりませんから」

真木は何時ものように、傘をさしていても人形に語りかけるように喋る。

「なんの為に?」
「暴走したグリードが世界を喰らい尽した後、そのグリードを排除するのは私の役目です」
「それはそれは、用意周到ですね」
「だが、最後にお前が残るのは良いのか?」

アンクと七実としても、完全な無を望む真木にそう訊く。

「存在そのものが無であれば、美しい終末は穢しません」
「虚無王らしい御言葉ですね」

七実が珍しく皮肉を言った。

「協力してやってもいいぞ」

アンクは唐突に木から飛び降りる。

「ほう。それは例えば?」
「俺を”メダルの器”にしないかってことだよ」





*****

鴻上ファウンデーション。
そこの会長室では、主である鴻上が何時も通りケーキを作っている。
夕方のこの時間帯、この部屋に訪れた人間は三人。

「成るほど。アンク君と鑢くんがね」
「火野と鋼の元を離れるつもりのようです」
「なんか、今でも信じられぇんだがよ・・・・・・」

訪れた人間のうち二人は後藤と烈火。

「七実ちゃんは兎も角、アンクならばそうなると予想してたわ。なにしろオーズは、グリードの天敵となるよう、私たちが造ったんだから」

ルナイトだった。

「鑢の奴は、どうにか刃介と会わせて説得するとしても・・・・・・」
「アンクが、泉刑事の身体さえ使わなければ・・・・・・」

烈火と後藤は、山積みの問題に頭を抱える。

「無理じゃないですか?」

そこへ里中も入ってくる。

「グリードって完全に復活したら欲望を食べるんですよね、人間ごと。――結局敵ですよ」
「いや、コアメダルを破壊すれば、完全な復活はない。火野と鋼が持ってる、紫のメダルならそれができる」
「それはダメだ!」

鴻上が、後藤の意見を真っ向から却下した。

「コアメダルは必要だよ。破壊してはいけない」
「何より、刃介が進んでコアをバンバン壊すとは思えないわ。彼ほどメダルの価値を見出している者はいない」

会長二人はそう述べた。

「しかし、人間への被害は「それは君たちが防ぎたまえ」

鴻上はことごとく意見を潰していく。

「貴方の望んだ、世界を救う仕事でしょ?」
「ただし・・・・・・」

鴻上はクリームをパン生地に塗りつける道具を、生地に突き刺して

「紫のメダル・・・・・・これだけは破壊しなければならない。あらゆるモノを無にする力は、欲望さえも無にする!なによりっ、そんな力を持ったグリードなど最悪ッ!」

鴻上はそうして、

「Worst Greeed of the Greeed!!」
「言うなれば、世界の天敵ってことよ」





*****

夜中となり、映司は川沿いで焚き火をしていた。

(このまま、アンク達が戻らないなら・・・・・・)

一人で物思いにふける映司。
だが次の瞬間、ふと川魚を刺し貫いている棒を持った右腕をみると、

「ぅお・・・・・・ッ!?」

ほんの数秒だったが、確実にグリード化しかけていた。
若干不完全だったものの、異形の腕は真木のそれと殆ど同じ。
その不気味な現象に、映司は思わず荒い息をついてしまう。

んで、時間をとられてる間に、

――ジュウゥゥゥ・・・・・・!!――

「ああッもったいない!!」

魚が焦げそうになり、必死に持ち直す。

「って熱ッ!!」

悪戦苦闘しながらも、映司は魚を食べようとする。

だがその時、スタスタとこちらに歩いてくる音がする。
映司は顔を上げて足音の主をみた。

「・・・・・・比奈ちゃん・・・・・・」

映司はとっさに、無意識に右腕を隠すような仕草をとる。

「お弁当、つくってきた」

比奈は何時ものような笑顔で、弁当箱の入ったバッグを見せる。
映司が愕然とする中、比奈は映司の隣に座り、弁当箱をバッグから取り出す。

「玉子焼き作ったんだけど、ちょっと失敗して甘すぎかな?」

布を取りながら比奈は笑顔で語りかける。
味を教えたところで、映司に対しては無駄とわかりながら。

比奈は弁当箱を開けて見せて、指差しながら

「これは、少し辛めの明太子おにぎり。こっちはおかか」
「・・・・・・・・・・・・比奈ちゃん」

映司が蚊の泣くような小さな声で呟いてると、比奈は布を平らな石に敷いて弁当箱をおく。

「映司くん。――お兄ちゃんもアンクもなんて、都合の良いこと思わない。勝手なこと言わない。ちゃんと自分にできることをする」
「・・・・・・比奈ちゃん」
「それって、今はきっと、何があっても映司くんの傍にいるってこと。――戦いは無理でも、ちょっとは役に立てると思う」

それが比奈なりの決意だった。
映司は少し黙ると、

「うん―――って言って良いかわからないけど、今はそういう気分かな」
「じゃあ―――うん」
「・・・・・・うん」

二人はそうして時を過ごしていく。
尤も、

「ってああ燃えてる燃えてる!!」
「ああッ大変!!」

弁当箱の布に火がついたりもしたが。
映司が布を持って振り回し、なんとか火を消そうとする。

「ぅアチチチチチチチッ!」
「大丈夫!?」
「も、もったいない・・・・・・」





*****

同時刻、とある場所で、軽トラックが停車していた。
荷台にはハゲタカヤミーとワイバーンヤミーが乗っている。
勿論、助手席には依然親が眠っている状態で閉じ込められている。

「どうだ二人共。ヤミーの塩梅は?」
「そろそろだな」
「ええ」

暗い闇夜で、四季崎は二人のグリードと言葉を交わしていた。





*****

鋼家の我刀流道場。

「オゥラアアアッ!!」
「フッ!ハッ!」

月が空の真上にあがるような時間で、刃介と竜王は打ち合っていた。
胴着も竹刀も持っておらず、竜王は忍び装束と二振りの忍者で、刃介は普段着とグリードの両腕。

ガチガチ!ギンギン!
そんな金属音が道場を彩っている。

別に二人は稽古をしてる訳ではない。
殆ど刃介の頭を冷やす為の洗礼みたいなものだ。

「刃介」
「何?」

稽古とさえ言えない行為の中、竜王は刃介に問う。

「鑢のことだが」
「――――――」

刃介の動きがピタリと止まった。
それに合わせて竜王も止まった。

「ははっ、滑稽か?今まで、俺のことを唯一無二の主人といってくれた女に、こうも無様に裏切られちまった俺がよォ・・・・・・」
「刃介。鑢は決して裏切ったわけではないと思うぞ。奴ほどの才能の化身が、何の考えもなく、己が利益の為だけに、お前を裏切るわけがない」

竜王はどこまでも真剣な目つきで刃介に語りかける。

「今のお前は、余りの衝撃に心が折れそうになっているだけだ。言わば”挫折”というものを味わっているに過ぎん」
「挫折か・・・・・・確かに今の俺には丁度良い言葉だな。誰かに鍛え直して欲しいもんだ。俺は所有者だが、それと同時に刀なんだしよ」

刃介は両腕をダラリをぶら下げ、失笑交じりに、独白するように述べた。

「お前を鍛え上げられるのはお前だけだ。此の世で最も欲望を秘め、神にさえ届く妖刀など、刀自体でなければ・・・・・・な」
「だから、最後まで諦めるなってか。しかし七実は何の因果で、俺んトコから離れたのやら?それともこれも、四季崎のシナリオで―――」
「それは何れ本人に訊くしかあるまい。だがな、刃介」

竜王は一息つくと、刀を鞘に納め、両目をカッと見開く。

「その見っとも無い姿を、よもや鑢にまで晒すつもりではあるまいな」
「―――――――ッ」

その時、刃介はハッとなった。

「奴はお前がその生涯で、真実惚れた女で、だから一緒に居続けた。ならば、せめてあいつの前だけでは何時も通りのお前でいろ。愚痴なら、私やルナイトが幾らでも聞いてやる」
「竜王・・・・・・」

月明かりだけが道場を照らす中、刃介は少しだけ見惚れていた。
何時の間にか、凛々しいようで優しく、そして自分のことを愛しそうに、儚い笑顔を向ける竜王の姿に僅かながらも淡い気持ちが芽生えていた。

「だがしかし、何時までも私たちに愚痴を零すなよ。主従だろと夫婦だろうと、腹を割って全てを話し合えてこそだ」

一方で竜王も自分の言っていることに、なんだか違和感を覚えた。
個性派揃いの暗殺専門忍者集団の中でも、特に大きな生まれ持ち、人々の影で手を手に染めてきた自分が―――まして、裏切りや嘘吐きが常套手段の卑怯卑劣の一員が、何故こんな綺麗事を並べているのかと。

「・・・・・・・・・・・・あんがとよ、竜王」

刃介は沈黙の後、感謝を述べた。
その表情は、何かと触れ合ったかのように穏やかだ。

「どういたしまして、と言ったところかな?」

竜王も刃介の役に立てたことに、誇らしげな顔で笑って見せた。





*****

『ギィィ!』
『フゥゥ!』
「うわあああッ!!」

陽がすっかり昇って朝方になった頃、ハゲタカヤミーとワイバーンヤミーはカップルを集中的に襲っていた。
だが当然、そんなことをすれば、グリードやカンドロイドの察知能力に引っ掛かる。

――ブゥゥゥウウゥゥゥン!!――

そこへ現れる二台のライドベンダーと一台のシェードフォーゼ。
ライドベンダーにはそれぞれ後藤と烈火が、シェードフォーゼには刃介と竜王が二人乗りしていた。
そして映司は橋って現場に駆けつける。

「今度こそあのヤミーを・・・・・・!」
「ああ」
「確実にブチ殺す」
「そんじゃ、行こうぜ」
「うむ」

五人はそれぞれのベルトを身につける。
後藤はセルメダル、烈火はブレイズ・コアを手に持つ。
竜王は懐からコア三枚を取り出し、刃介と映司はメダルホルダーからコア三枚を取り出す。

そして、

「「「「「変身―――!」」」」」

――パカッ――

バースとブレイズチェリオ。

≪SHACHI・GORILLA・TAKO≫
≪OOKAMI・SARRACENIA・KITSUNE≫

オーズ・シャゴリタ。
クエス・カミサラツネ。
ニ人は亜種形態に変身する。

≪HAYABUSA・HOUOU・YATAGARASU≫
≪HAOURASU!≫

ブライ・ハオウラスコンボに変身。

五人はほぼ同時にかけだし、二体のヤミーとぶつかり合う。
幸い数の差ゆえに、戦いは思いのほか好調に進んでいく。

「はっ、セイ!」

ライダー達は、被害を出来るだけ小さくしようと、ヤミーたちと交戦しつつ場所を出来るだけ人気のない場所にしようとしていく。

――カチャ――

そんな中、バースとブレイズチェリオは、バースバスターと忍刀『鎖』をセルバーストモードにすると、

≪CATERPILLA LEG≫
≪CHINTOU・OMORI≫

「「オオオォォォォォ!!」」

バースとブレイズチェリオは脚部のユニットを起動させ、猛スピードで二体のヤミーに体当たりした。
当然、その勢いでハゲタカヤミーとワイバーンヤミーは吹っ飛ばされる。
しかし、二体のヤミーは吹っ飛ばされて尚、鳥類と飛竜ゆえに、空中にて飛行し浮遊する。

――バサッバサッバサッバサッバサッ!!――

そうして二体は黒と紫の旋風を、翼を羽ばたかせて発生させる。

「うぅッ!」
「チッ」
「ぬ・・・・・・」

オーズはその風にタコレッグの吸着力で耐え、ブライはヤタガラスレッグの第三の足といえる尾羽を近くの柱に巻きつけ、クエスはキツネテイル全てを使って辺り一面に掴まっている。

≪CRANE ARM≫
≪ANTOU・KAMA≫

バースはクレーンアーム、ブレイズチェリオは暗刀『鎌』を伸ばして物に掴まり耐える。

「鋼、火野!いけるか?」

ブレイズチェリオはそう言いながら忍刀『鎖』とバースバスターを手に持った。

「備えあれば、憂いなし!」
「全くだな―――といいたいが、私には遠距離攻撃は無理そうだ」

意気込むオーズとは対照的に、クエスはこの時だけ傍観に徹しざるをえないらしい。

「みんな、フィニッシュだ!」
「言われずともヤルっての!」

そう、ここまできたら、やることなど一つに決まっている。

≪≪SCANNING CHARGE≫≫
≪≪CELL BURST≫≫

「「「「ォォォォォ・・・・・・!」」」」

オーズのゴリバゴーンには青いエネルギーが溜り構え、ブライの鳥刀『鏃』の銃口には赤々とした火炎、バースバスターには集束されたエネルギー、忍刀『鎖』には高密度の力が集中する。

だがこの時、皆は気付くのに遅れていた。

昨日見たはずの軽トラックが、タイミングを見計らったようにここらに停車してきたのを。

だがもう関係ない。

「セイヤァァァアア!!」
「チェストォォオオ!!」

四人が放つ、打撃・銃撃・斬撃・炎撃は見事ハゲタカヤミーとワイバーンヤミーに直撃。

――ジャリィィィィィン!!――

一枚のワイバーン・セルは道路に落ちたが、ハゲタカヤミーの多量なセルメダルは全て軽トラックの荷台に降り積もった。

「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」

ソレを見た五人は速やかに変身を解除した。
しかし、それは早計だった。

アンクと七実が、トラックの荷台に乗り込んだために。

「アンク!?」
「七実っ!?」

映司と刃介が叫ぶように言った。

「申し訳ありません、みなさん」
「狙い通り、セルメダルは貰った」

アンクと七実は何でもないような態度でセルメダルを握る。

「んじゃあ行くぞお前ら」
「ああ」
「お願いします」

運転席に座っている四季崎は、二人に確認を取ると、アクセルを踏んで発進した。
刃介はそれを見て苦々しい表情になる。

「火野、バイクで追うぞ!!」
「はいっ!」





*****

広くて見渡しのいい公道にでた軽トラック。
運転席でハンドルを握る四季崎、助手席にはいまだ眠っているヤミーの親。
荷台にはアンクと七実、そしてセルメダル。

そんな彼等を追跡する二台のバイクとその乗り手。

「アンク!お前何する気だ!?」
「なんで四季崎と一緒なんだよ!?」

映司はライドベンダー、刃介はシェードフォーゼのエンジンを噴かして道を駆けていく。

「グリードがメダルを集める理由は一つしかないだろ!!」
「この方は、その手伝いをしてくれているだけです」

アンクは荒々しく、七実は穏やかに述べた。

「だけど、お前のコアはもう!」
「ああ、誰かの御陰でな!――が、そんなことで諦めきれるか。800年前からの俺の欲望だ!」
「だからって、関係ない人を巻き込むな!」

トラックとバイクという、奇妙な状態で会話する二人。

「七実!お前なにが目的だ?話してみろ!」
「今話しては意味がありません。後日にて、心行くまでお話します」
「待てるか!俺は今直ぐにお前の本音を聞きたいんだ!!」

刃介も必死に七実の事情を聴きだそうとしている。

だが―――

「おい、火野に我刀。悪いが今回は、見逃してもらうぞ!こいつも既に用済みだしな!」

四季崎は運転席からそういうと、助手席側のドアを何らかの力で開けて、そこからある者を強制的に降ろした。
そう、ヤミーの親だ。

「っっ!!」

他者の命を重んじる映司は、この展開に思わずブレーキを踏んでしまう。
下手を踏めば無傷の人間を自分の手で傷つけるかもしれないから。

――ブゥゥゥウウウゥゥゥン!!――

だが刃介はその合間を縫うようにしてバイクを走らせ、映司にアイコンタクトで「任せろ」と伝えると、そのまま追跡を続行する。

それに対して七実は、

「刃介さん。如何に恋人同士といえど、女には不可侵たる領域があるのですよ」

真顔でそういった七実は、

――バンッ!バンッ!バンッ!――

掌から紫と血錆の光弾を何発も放ったのだ。

「ぬぉああッ!?」

それによって刃介はバランスを崩してしまい、車体もろとも転倒してしまった。
たち篭る煙と炎の中、刃介は走り去っていく軽トラックに向って叫ぶ。

「七実ッ!!アンク!!」

しかしその慟哭は、もはや100m以上も離れてしまった二人の耳には届かなかった。





*****

逃げおおせたアンクたちを乗せた軽トラックは、どこかの簡易なトンネルの前で停車する。

「ここまでくれば邪魔されないだろう」

アンクは周囲を見渡しながら確認するように喋る。

「では、早速具体的にご説明していただきますよ――四季崎記紀」
「そう焦ることぁねぇ。すぐにやるからよ」

四季崎は運転席から降りると、そのまま軽トラックの後方に回り込む。

「さて・・・・・・これだけのセルがあれば、なんとかいけるか」

四季崎はそう呟きながら、懐に手を伸ばし、ある物を二枚取り出す。

「ッ、それは・・・・・・」
「虹色のメダル・・・・・・」
「正式名称は、フォース・コアなんだがな」

七実を一時的とはいえ暴走状態に陥らせたメダル。
七実はそれを目にして、眉をひそめる。

「アンク、右腕を出せ」
「・・・・・・フッ」

アンクは何時ものように無愛想な態度で『右腕』を差し出し、何かを貰うかのように掌を此方に向けている。
すると四季崎は、フォース・コアをアンクの『右腕』に投げた。

「ンッ――お前、なんのつもりだ?」
「なーに。ただ単に、何時までも腕だけってわけにはいかねぇだろ?セルの量は身体を覆い尽くす程度だが、今はそれで充分なはずだ。丁度良い依代もあることだしな」

アンクは四季崎の対応に、軽く舌打ちしながら、二枚のフォース・コアを腕の中に取り込んだ。
それによって、砕けた本来のコアのうち、クジャクとコンドルの役目をフォース・コアが果たし出す。

――パチンッ――

四季崎はその直後に指を鳴らし、それと同時に大量のセルメダルが信吾よりしろへと纏わりついていく。
四季崎の言うとおり、ハゲタカヤミーから得られたのは、全身を覆い尽くして余りある程度にすぎない量のセルメダルだが――今のアンクには充分だった。

纏わりついたセルメダルは器を起点に結合しあい、右腕と融合するようにして、器を異形の姿に変えていく。

『ほほう――流石とだけ、言っておいてやろう。二枚のコアと一個の依代。これを組み合わせりゃ・・・・・・』

今のアンクは、何時もの右腕だけではなった。
そこには、右側頭部のみが紫の素体を剥き出していること以外――先刻まで本物(アンク)の身体を無断占有していた偽者(ロスト)と同じだけの姿を取り戻した、鳥類王としてのアンクだった。

「なるほど。私たちにヤミーを作らせたのはこの為でしたか」
「かかか、そういうこった。――んじゃまあ、これで前座も終わった。皆と顔合わせをしねぇとな」





*****

片や、刃介らはというと。

「鋼さん、大丈夫ですか!?」

後から追いついてきた映司たち。

「俺のほうは良い。だが、あいつらを逃がしちまった」
「仕方があるまい。なにしろ、あの七実が向こうにいたんだ」

バツの悪そうな表情をする刃介を竜王が慰めるように宥めた。

「映司くん!鋼さん!」

そこへ比奈までもが現場に駆けつけてきた。
比奈は転倒したシェードフォーゼと、転倒した拍子に肩に擦傷をおった刃介を見て、

「これって、アンク達が・・・・・・?」
「まぁな」

刃介が短く答えた。

「兎に角、今は一旦引き返そうぜ」
「ああ、今後の方針を練ろう」

と提案する烈火と後藤。

「そうだな、そうしよう」
「ま、ここにいてもしょうがねぇしな」

賛同し、バイクに跨る刃介と竜王。
だがしかし、

「―――比奈ちゃん、どうしたの?」

映司は、比奈が道の向こう側を見つめているのに気付いて声をかける。
その時の比奈はまるで、自分の手が届かないところへ行ったアンクたちの影を追うかのようだった。

(アンク・・・・・・本当に・・・・・・)





*****

一方で、真木家たる洋館。
その広間では、カザリ・メズール・ガメル・ウヴァが、それぞれの位置に固有色の大布を敷いて、何かに興じながら時間を潰していた。

だがそこへ、

「みなの者、客人でござる」

いの一番に白兵が四人にそう告げた。
その直後に四人の視線は、白兵に向ったが、それは一時的なものとなる。

四季崎記紀が、アンクと七実を連れて登場しなければ。

「まさか・・・・・・!?」
「どうして・・・?」

カザリとメズールは、現れた客人の姿を、信じられないような目でみやる。

「アンクと、キョトウだぁ」
「デシレ、お前・・・・・・」

ガメルは何時ものような鈍い口調で驚き、ウヴァは些か苛立ちの篭った声を出す。

「さぁお前ら・・・・・・新しい仲間が出来たぞ」
「どうも皆さん」

四季崎はまるで語り手のように、歌うように告げる。
それに合わせることなく、七実は丁寧にお辞儀をして挨拶した。

四人のグリードの表情が固まる中、

「どうした?旧い仲間を歓迎してはくれないか?」

アンクはただ一人、歪な笑顔を借り物の顔に貼り付けて、背中から大翼を露にする。
炎の如く赤く栄えた羽が舞い、鳥類王の力を示すかのように。
次回、仮面ライダーブライ!

敵勢合併と猫王と映司の欲


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