仮面ライダーブライ!
前回の三つの出来事!
一つ!復活したアンクは再び泉信吾の身体を乗っ取り、映司と決別!そこへさらに、七実までもが刃介の元を離れる!
二つ!多数のセルメダルと二枚のフォース・コアを与えられ、アンクは怪人態としての姿を取り戻す!
そして三つ!四季崎の手引きにより、アンクと七実は他のグリード達と合流した!
敵勢合併と猫王と映司の欲
時間を少し遡ろう。
それは、アンクが真木に”メダルの器”の話を持ち込んだ時のこと。
真木はアンクと目を合わせずに会話していた。
「暴走のことはご存知ですか?特に君はその可能性が高い。オーズにコアメダルを三枚も破壊されて「だからだよッ!!」
アンクは絶叫に等しい声を出す。
「―――俺はどうしても、完全で確かな存在が欲しい。その為なら、どんな危険だろうが、冒す価値はある」
「私からもお願いします。アンクさんの欲張りぶりは、刃介さん程でないにしろ相当ですよ」
頼み込んでくる二人のグリード。
七実までもがアンクの擁護に回り、真木はふと思った。
”彼ならあるいは”
*****
時は戻り、真木の洋館。
「おい、迷ってる暇があるのか?」
「今のオーズとブライは、コアメダルを破壊できるんですよ」
四季崎に連れられ、この屋敷に入ってきたアンクと七実。
「のんびりしてれば、グリードは、封印どころか・・・・・・消滅だ」
ガメル、メズール、カザリ、ウヴァはそれを否定したかった。
しかし、アンクと七実がこうして自分の身体を取り戻していることこそ、紫のコアの力を示している。
「消えたくなければ俺らと組め」
「取るべき選択は、わかっていますね?」
アンクと七実はぼんやりしているようでいて、その実かなり意の篭った声だ。
「狙いは一つ―――」
そして、
「―――オーズとブライと・・・・・・奴等のコアメダルだ」
*****
鴻上生体研究所の所長室。
そこで刃介たちは集まっていた。
「映司くん、クスクシエには戻らないの?」
「うぅん・・・・・・俺、紫のメダルを抑え込んでるつもりだけど、何があるかわからないし―――その、俺が変になってること知世子さんに気付かれるとアレだから・・・・・・」
その言葉には反論できない。
「身体のほう、また可笑しいのか?」
だから後藤は映司のことを気遣う。
「あぁ、いえ・・・・・・」
と返す映司だが、心当たりならもうある。
自分がゆっくりとヒトでなくなってきていることに。
「・・・・・・それほどじゃないです」
「「「―――――――」」」
その答えに、比奈・烈火・竜王は、映司が全身から紫のオーラを放ったことを思い出す。
明らかにヒトの域を超えた、あの力のことを。
「鋼さん、真庭さん。映司くんの身体のこと、もっとわかりませんか?」
「一体どうすりゃ、火野を元に戻せるとかよ?」
比奈と烈火は、人からグリードになった前例である刃介と竜王に訊ねる。
当事者であるこの二人なら何か手がかりくらい知ってるだろうと思って。
「俺達じゃな・・・・・・」
「火野のように、中途半端なグリード化は、とうに過ぎているからな」
二人は顔を見合わせながら困った顔をしている。
そんな時、
『教えるとも!!』
パソコン画面に鴻上の顔がドアップで映し出される。
『私としても火野映司くんのグリード化は是非とも阻止したいものだ』
ドアップから普通の距離になった。
『財団の地下保管庫に来たまえ。シルフィードくんも待っている』
*****
鴻上ファウンデーション本社。
そのエレベーターに乗り、地下深くへとどんどん降りていく一同。
そして最下層であるB27に到達し、ドアが開かれた。
エレベーターから降りた一同は、地下保管庫に通じる大きな扉の前に立った。
『キーは解除してある。入りたまえ』
鴻上の声がスピーカーから流れ、それに従い、映司と刃介は取っ手引いてドアを開けた。
*****
洋館の屋敷。
「そうね。こうして嘗ての五人が揃い、新しい三人がいれば、オーズとブライの坊やからコアを取り上げるのも―――そう難しい話ではないわ」
メズールはそうして賛同的な態度を取る。
だがカザリは面白くないようだ。
「へぇー。そう簡単にアンクを信用するんだ・・・?」
「信用なんてもの、セルメダル一枚分も価値もないわ。やるかやらないか――それだけよ」
互いにドライな応答だ。
「では、決まりですね」
七実が静かに告げると、何処からか赤い布がアンクの背後、血錆色の布が七実の背後に現れる。
だがしかし、
(なんなの・・・?僕がじっくり作り上げてきた場所を・・・・・・どうしてアンク達が?)
カザリだけはこの状況が気に喰わなかった。
*****
地下保管庫。
大きく重い扉を潜った一同は、最後の門とさえいえる、赤い幕を眼前とする。
そして、映司と刃介が先陣を切るように、同時に幕の向こう側に入っていく。
そこにあったのは、資料だった。
素人目でも数百年前につくられたことが解るような、古めかしい物品や羊皮紙などが、ガラスケースに入れられて丁重に保管されている。
だが、ことはそれだけではない。
生物の進化を描いた絵画、7×3のメダルを嵌め込む石の円盤、中央の机には多数のセルメダルと白い髑髏が置かれている。
そして、部屋の置くには豪奢な椅子と、その後ろにはタトバコンボのサークルを2・3倍にしたような大きさのレリーフが安置されていた。
「ようこそ・・・・・・王の部屋へ」
「歓迎するわよ、現代の英雄達」
そこへ、灰色のビジネススーツを着た鴻上。
童話や御伽噺に出てくるような、魔法使いや魔術師の如き黄色いローブを纏ったルナイトが出迎える。
「「「「「「――――――――――」」」」」」
そうして、皆は悟った。
ここで、また新たな謎が解き明かされると。
*****
再び洋館―――の玄関前の庭。
「アンク、キョトウ、君に主導権を握ってもらう必要はないよ。というか、要らないな」
「ほーぅ」
「大口を叩くんですね」
明らかな喧嘩の売り文句。
「君らを信用するのは無理がある」
カザリは、人間態からグリード態に変貌した。
「お前も相変わらず疑い深い」
「いえ、臆病なんですよ。可愛らしい猫さんは」
次は、アンクがグリード態となる。
前回で説明したとおり、今のアンクは右側頭部とベルトだけがセルメンの状態だ。
これも一重に二枚のフォース・コアと、ある程度のセルメダルの御陰だろう。
一方で、七実がグリード態になることなく、玄関前の白くて短い階段に座り込む。
『慎重って言って欲しいなぁ!』
カザリは鋭い四本の爪を立て、アンクに襲い掛かる。
『欲望が報われる前に、奪われたくないし!』
カザリが次々と攻撃を手を加えようと、アンクは巧みにかわしていく。
さらには、翼を以って空中飛行して、
――バシュン!――
腕から炎を出して攻撃してくる。
カザリはそれで若干怯んだものの、着地の際にアンクの隙をつこうとする。
だが、
――ガリン!――
『カザリ!いつかの礼をしてやる!』
ウヴァは以前、折角復活させたメズールとガメルをカザリの陣営に奪われ、一時的にコアだけの状態にされた。
執念深い彼がその屈辱を忘れるはずがない。
結果として、二体対一の状態となり、カザリは不利になってしまう。
ちなみに、
「みんな〜、頑張れ〜」
「はぁ・・・・・・」
その光景をガメルは駄菓子を食べながら応援し、七実は何時ものように溜息をついていた。
*****
所戻って地下保管庫。
「グリードが欲望の塊であることは聞いてのとおりだ。――欲望には大きなパワーがある!」
鴻上は王の部屋を徘徊するように歩きながら話していく。
「800年前―――四人の錬金術師と三人の魔術師が秘密裏にコアメダルをつくったのは、欲望の王が世界を支配する為の手段とするためだったわ」
そこへルナイトも語りに参入する。
「見たまえ」
鴻上は飾られていた進化の絵画を指し示す。
「水中から地上へ、そして空へ!」
始めは魚類だった生命は、後に両生類、爬虫類、哺乳類へと派生しながら進化し、現在の人類や動物たちとなった。
恐竜の一部もまた、絶滅を免れて鳥類へと進化して大空を舞っている。
「強く欲することは命をも進化させる!」
「王様が目をつけたのは、この生きる力だった」
「そのエネルギーを純化したメダルは人をさらに進化させやがて・・・・・・」
人の上にあるモノ。
それは、
「神の領域に踏み込むだろう」
「だけどね、それだけの欲望を受け止める器となると、オーズの場合は特に難しくなるでしょうね」
鴻上は黄金で装飾された一個の杯を持ち出す。
「まず大きな器を持てるかどうか」
といいながら鴻上は杯にセルメダルをいれていく。
「しかしどんなに大きくても、既に一杯であればすぐに溢れる」
――チャリンチャリンチャリン!――
その言葉通り、杯は多くのメダルを受け入れて、もう空きの容量はなく、注がれたメダルは床に落ちていく。
「あの欲望の暴君の最期がそうだったわ」
ルナイトは顔を俯かせながら苦い記憶を掘り起こす。
「だが火野映司くん!」
「―――――」
「君は大きな器を持てる環境で育ち、さらにそれを一度枯らした」
鴻上はそういって、杯をひっくり返し、ジャリンンジャリンとセルメダルをぶちまける。
かつては政治家の裕福な家庭で欲を満たし続けていた映司が、欲を失ったのは海外での内乱で己が無力さを思い知り、挙句の果て他者の欲望に利用されたからだ。
「空になった器はどんな欲望も受け止める。それはまさに・・・・・・」
鴻上は一息間を置いて、
「オォォォォォズの器だぁっ!!」
紛れも無い確信をこめて、鴻上は叫んだ。
「でもね・・・・・・」
だがルナイトはどうも面倒そうにことを告げだす。
「そんな火野くんの空白に、虚無を司る恐竜コアが入り込んだのは拙かったわね。火野くんは受け止めるのであって、刃介のように支配するわけじゃないもの」
「結果として、目に映るもの全てを破壊し、無にするマイナスの暴走へと繋がる!」
ルナイトと鴻上は二人そろって、椅子や机に腰を下ろす。
「Dr.真木にも同様のことが起きているだろう」
「どうすればいいですか!?どうすれば映司くんは!?」
比奈もこの説明で、いかに映司が危険な崖に立たされているかを痛感する。
「難しくあり・・・・・・簡単でもある!」
「火野くんみたいなのは特にね」
*****
その頃グリード達は。
「皆さん。もう止めにしませんか?」
『黙ってろ鑢』
『ああ、これは男と男の問題だ』
『あんま横槍いれないでよ』
七実の仲裁も聴かずに喧嘩を続ける三体のグリード。
「はぁ、全く・・・・・・」
頭を抱えながらまた溜息をつく。
そこへ、
――バシャアアアッ!!――
大きな水流が三体をずぶ濡れにした。
『少しは気も晴れたでしょう?その程度にしなさい』
強引な方法で、メズールが喧嘩を止めたのだ。
七実はそんなメズールに便乗する形で、
「言うことが聞けないのでしたら、今度は分厚い氷の牢で頭を冷やしてあげますが」
半ば脅す形で掌を向ける。
『『『・・・・・・・・・・・・』』』
三体はそれに対する応答として、
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
人間態となる。
「メズールとキョトウに助けられたな、カザリ」
「話に乗る気がないなら「いいよ、わかった」
と、カザリは承諾した。
「僕だって大勢で組んだほうが得だってわかってたんだ。例え気に喰わなくてもね」
「ふっ―――」
アンクは皮肉そうに笑うと、ウヴァと共に屋敷に入っていった。
次はメズールと七実が屋敷に入っていき、さらにガメルがカザリの横を通って行こうとすると、
「ねぇガメル」
「なに?」
「メズールがいなくなったらどうする?」
悪魔的な問いかけをしてきた。
「や、ヤダっ!絶対ダメだ!!」
それを聞いたカザリは、薄らと陰湿な笑いをした。
*****
クスクシエ。
比奈はそこで弁当をつくっていた。
「もしかして、映司くんとアンクちゃんの?」
知世子に勘付かれながらも。
「―――え?」
弁当箱を包もうとした時のこの台詞に、思わず問い返すような声を出してしまう。
「いいのいいの!詳しくは聞かない!・・・・・・旅に出たんじゃなかったのねぇ、映司くん」
知世子は、砂漠地方で撮った際に偶然映司が映り込んだ写真を眺めながら言った。
「やっぱりね」
「やっぱりって?」
「同じ旅好きの勘かな?こういう旅をする人って、なんかこう独特のエネルギーみたいのがあるんだけど、映司くんずっと無かったから」
エネルギー・・・・・・それは鴻上の言葉を借りれば欲望だろう。
「いつか出発して欲しいなって思ってたのよ」
「―――私も、そう思います」
尤も、現実はそう簡単にはいかないのだ。
それが良しかれ悪しかれだ。
*****
まあ、そんなこんなで、知世子のいう独特のエネルギー、会長二人の言う欲望。
それについてだが・・・・・・。
”いいわね火野くん?一先ず、欲張りなさい、求めなさい”
映司にはまず最初に色々な服や装飾品を、財団や財閥系列のデパートなどで試着させたり、
”君自身、君個人に対する、君の欲望だ!”
次には公園の大きな池でボートに乗ってみたり、
”それがきっと、紫のコアの暴走を緩和するはずよ”
バッティングセンターで身体を動かしたり、
それらは全て、会長二人から言われた、映司の欲を引き起こす為の呼び水とするためだった。
しかし、映司は楽しむことがあっても、執着することはなかった。
とりあえず適当に満足したら、スパっと切り上げて他のジャンルへと移って行くのだ。
それでは全く意味が無い。
伊達も以前、映司に”自分の欲、思い出せよ”と言っていた。
今それを実践していて、日が暮れるまで一同は遊び通したのだ。
結果、
「こういうのので良かったんですかね?欲って・・・・・・」
「いや、俺も殆ど遊ばなかったほうだからな・・・・・・」
「俺の場合ガキん頃はバトッてばかりだったしな」
「私もだ。というか、戦国時代に比べてこの時代の娯楽施設は実に面白いな」
「え、そうか?俺は結構楽しかったぜ。こんなに遊びまくったのは久しぶりだしよ」
上から順に、比奈・後藤・刃介・竜王・烈火である。
「俺も意外に楽しかったですよ。まだ、俺の欲がなんなのかはわかりませんが・・・・・・」
そして映司のこの反応・・・・・・焼け石に水もいいところだ。
「じゃあ旅。知世子さん映司くんが旅にでるといいなって」
「んー・・・・・・旅ね」
希薄な応答である。
そんな映司に業を煮やし、
「ちょっとちょっと火野くん。何か欲しいものとか無いの?」
運転席からルナイトが降りてくる。
もっとも、その服装はというと・・・・・・。
「ルナイト。お前はまず、そのコスプレへの欲望を火野に見せるだけで充分役立ったから、もう帰っていいんだぞ?」
「むーっ!―――あ、じゃあ、次はこういうのでどう?」
刃介の優しいようで微妙な物言いに、ルナイトは怒ったかと思えば、何かを閃いたようで。
「それっ!」
「ぅお!」
刃介に抱きついて見せた。
「これならどう火野くん?」
「いや、ちょっと・・・・・・」
「ルナイト。火野が恋愛に精を出す感じじゃねぇのは一発でわかんだろ?」
刃介はルナイトに抱きつかれながら、抱きついてくる張本人に向って言い切る。
「つーかよ、ルナイト。お前のその格好で昼間中、俺だけがイタい目に遭ってたんだが?」
「えぇぇ?刃介の要望とおり露出は抑えたのに・・・・・・」
「えぇぇじゃないし、第一それはお前が着るにはマニアックすぎるわッ!」
正直に言ってしまうと、今日のルナイトの服装は、真っ黒なセーラー服だ。
しかも服の生地が薄く、ノーブラノーパンの金髪爆乳美女が着れば、どこぞの風俗お姉さんにしか見えない。
おまけにルナイトはこれ見よがしにと刃介にベッタリとくっついて自慢の胸を押し当てていたりしていたが故、道行く男たちは総じて刃介に嫉妬と殺意と欲望の念を送っていた。
例えばこんな感じの―――。
”おのれぇ、一人だけ良い思いを〜!”
”お前なんかに、一人身の辛さがわかるかぁぁ!?”
”ああ!なんて羨ましいんだあの白髪野郎!”
”結局、美女はイケメンにってわけかよ!”
”チキショーッ!俺にもその女運分けやがれぇぇ!”
みたいだったりするわけで・・・・・・。
「そっかな〜?私はけっこう良いと「確かに着こなしぶりは凄いよ!でも屋外、それも真昼間の中を出歩く格好ではないってくらい察しろ!火野じゃなくてお前の欲望満たしてどうすんだよ!?」・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
刃介の渾身のシャウトが炸裂する。
本来なら彼女がセーラー服で登場した際、無理矢理にでも着替えさせたがったが、生憎刃介らは着替えなんて常備していないし、ルナイトも免許や財布といった最小限の小物しか持ってきていなかった。
結果としてこんな状況が出来上がってしまっているのだ。
「あ、あの、もう俺は充分ですよ?明日のパンツも少しの日銭も如何にかなってますし!」
映司はその様子に見かねてそう告げた。
しかし、
「火野、そういうのが自分に欲が無いって言うんじゃないか?」
「このまんまだと、あんた益々グリードになっちまうぞ」
後藤と烈火は映司の物言いに釘を刺す。
「あ、すいません。―――鴻上さんが言ってた欲望を持てる環境って、俺確かにそんな感じで、物凄い贅沢してたんですよね。・・・・・・欲しいものは何でも貰えたし、美味しいものも沢山―――」
「そうか、そういえばお前の実家は、相当な・・・・・・」
「ごめん。こんなのダメだったね」
政治家の子供として、幼少の頃から豪勢な生活を満喫していた映司に対し、今日程度の遊びなど、豪遊とさえ言えない、児戯に等しいとさえ言えるだろう。
「あ、いや、そういうのじゃなくて・・・・・・そんなのより、比奈ちゃんたちが居てくれたり、後藤さん達が心配してくれたりしたのが、メッチャクチャ嬉しかったなって!――それが一番・・・・・・ありがとう」
映司はそうして、軽く頭を下げて礼を言う。
「ふぅ・・・・・・火野、本当にそれで良いんだな?」
「はい!」
竜王が訊ねると、映司は迷い無く答えた。
「まったく、日の浅い私でさえ、これが一番お前らしいとさえ思ってしまいそうだ・・・・・・」
こうして、みなの夜は更けていく。
*****
朝日が昇った頃。
皆は他にも映司を色々な場所に連れて行ってみたりもしたが、それでも映司が何かに執心できることは見つからなかった。
気付けば日の出が昇りきるほどの時間になっていた上、結構都会から離れた場所にまで来ていたこともあり、一同は帰る事にした。
後藤が運転する車には、助手席に比奈、後部座席には烈火と映司が座っている。
尤も、映司は眠っている状態だが。
そして、刃介はシェードフォーゼを駆り、ルナイトはその後部座席に座っている。竜王もライドベンダーに乗って刃介と並行してエンジンを噴かすように走っていた。
後藤と比奈と烈火は、眠っている映司と、バイクに跨る刃介を見て話し出す。
「このまま、映司くんたちは戦いを続けるんですよね。――アンクと鑢さんともきっと・・・・・・」
「火野はアンクとは最初からそういう関係だと言っていた。二人共、何時か戦うと判ってて・・・ずっと・・・」
「だけどよ、一番辛いのは鋼だろうぜ。色んなもん誓い合った相棒が、前振りなしで、あんなことしたんだからよ」
確かに一番辛いのは刃介だろう。
今はルナイトを軸とした仲間達との掛け合い故に気丈に振舞ってはいるが。
比奈は思わず黙り、どういう言葉を述べれば良いのか?
そう思考していると、
――キイイィィィイイッ!!――
自動車一台と、バイク二台分の急ブレーキ音が地に響いた。
その理由は、彼等の前に立ちふさがっていた。
『通せん坊〜!』
そこには、ガメル、メズール、ウヴァ、カザリ、ゼントウ、デシレがいた。
ガメルが述べたとおり、行く手を阻む壁のように並んでだ。
「火野起きろ!グリードだ!」
後藤は映司の身体を揺すって起こすと、烈火や比奈と一緒に車の外に出た。
「チッ、遂に本腰入れてきやがったか」
「何時かは来るとは思ってたけど」
「寄りにもよってこの機会でとはな」
刃介らもボヤきながらバイクを降りた。
するとそこへ、
――バサッ!――
翼を広げて飛行し、地上へ降りてきた欲望の鳥。
『・・・・・・・・・・・・』
怪人形態のアンク。
「アンク・・・・・・」
「随分お揃いだな」
「つーか、なんでロストの姿になってんだよ?」
「大方、ハゲタカのセルでも使ったのではないか」
「さらにそこへ、四季崎が手を加えたってトコだろうな」
皆は各々の言葉を口にする。
『映司・・・・・・もう用件を言う必要はないだろ?お前の答えも判ってるしな』
20mほど距離が離れた状態で、アンクは半ば一方的に語りかける。
「―――俺もだ」
『上等だ』
アンクは右腕に炎を灯すと、
――シュバッ!!――
「「「「ッッ!!?」」」」
火炎を映司達に向けて放った。
当然、映司らは避けたものの、
――ボガァァァアアアアアン!!!!――
後ろの車が木っ端微塵に爆破された。
だがしかし、刃介はそれに見向きもせずに、アンクらにこう訊ねた。
「おいテメェら、七実はどこにいる?」
『フッ、お天道様を拝んでみろ』
「「「―――ッ!」」」
その一言で瞬時に察した。
刃介とルナイトと竜王は直感的にスライディングの要領で危険回避する。
その直後に、
――ドゥガアアアァァァン!!!――
上空から奇妙な光が流星のように降り注ぎ、竜王の乗っていたライドベンダーを破壊したのだ。
そして、その砲撃手はアンクたちと刃介らの間に立つようにして、ゆるやかに降下して来た。
雄々しい龍の頭と、その龍が宝玉を掴んでいるような肩。
鬼の様に屈強な両腕と上半身、天馬のように精錬された両脚。
血錆色の体色をした体の所々を彩る紫の鱗。
そして、天より降下する役目を担う、血錆色の皮と肉と骨を紫色の鱗で覆った二枚の翼。
「七実・・・・・・」
『今はキョトウですよ、刃介さん』
20枚中15枚のコアを奪還し、三枚のフォース・コアを宿した今、不完全なベルト以外は完全な姿を取り戻し、妖魔と竜種という二つの属性の両立を己が身で体現しているキョトウ。
『オーズ、ブライ!貴様等のメダル、根こそぎ頂く!』
『フフッ―――』
『行くわよ、ガメル!』
『うん!』
ウヴァがそう切り出し、いの一番に走り出すと、他のメンバーもそれに釣られるようにして走り出す。
ただし、
『メズールは、俺が守るゥ!!』
『え?あ、ありがとう・・・・・・』
ガメルの言葉に、メズールは若干戸惑いを覚えつつも、敵勢に向っていく。
だがしかし、それをただ見てるだけの仮面ライダーではない。
「比奈ちゃんは離れてて」
「ルナイト、オマエもだぞ」
映司と刃介は立ち上がりながら比奈にそう行って、他のメンバーと肩を並べる。
「数の上では向こうが上か・・・・・・」
「だが、出来る限り分散させて、タイマンに持ち込むしかねぇ」
五人はベルトを身につけ、メダルを手に取る。
「「「「「変身―――ッ」」」」」
――パカンッ――
バース&ブレイズチェリオ。
≪LION・KAME・CHEETAH≫
≪KABUTO・TUBA・INAGO≫
≪BARA・SARRACENIA・KITSUNE≫
オーズ・ラカーター。
ブライ・カブバナ。
クエス・バラサラツネ。
深い谷の道となる赤い橋において、双方ともに戦闘準備完了!
「ハアッ!」
「ァラよ!」
オーズはチーターの走力、ブライはイナゴの脚力で、地を駆け地を蹴る。
オーズはメズールとガメル、ブライはデシレとゼントウを相手取る。
そして、クエス・バース・ブレイズチェリオは、ウヴァとカザリの相手をする。
『『―――――――』』
だがしかし、アンクとキョトウは戦いに参加せず静観している。
戦いを繰り広げるうち、ここではもし仮に万が一、橋にダメージを与えて破壊したらという考えがブライの脳裏によぎり、
「おい!森ん中に移るぞ!」
そう叫び、
――ガシッ――
『『なに?』』
デシレとゼントウの身体を掴んで、バシュっという音を立てながら跳躍し、森の奥深くへと入っていったのだ。
「仕方ない。刃介の後を追うぞ!」
「ああ!」
クエスが刃介の後を追う、というと他のメンバーも次々に森へと跳躍していく。
『逃がすか!』
だがウヴァを筆頭としてグリードらもそこへくっついていくように戦いの場を変える。
*****
誰の手も加わっていないであろう緑豊かな大自然。
しかしそこは一転して、激闘の場となる。
バースとブレイズチェリオとクエスは、ウヴァとカザリを相手に善戦する。
しかし、オーズとブライは防戦一方だ。
『フンッ!』
『フアア!』
「くぅッ!」
ガメルとメズールの猛攻にオーズは、カメアームについている片割れ甲羅を盾にしている。
「ハッ!」
時としては両腕のゴーラガードナーを合体させ、より強力な盾・ゴーラシールドデュオにして、攻撃を防ぐ。
≪GIN・GIN・GIN!GIN・GIN・GIN!≫
≪GIGA SCAN!≫
「喰らえェッ!」
ブライは7枚のセルメダルをギガスキャンし、一気に発射した。
『悪いがそうはいかねぇな』
だがデシレはここ暫く使っていなかった呪刀『鎮』を体内から取り出すと同時に、鞘に巻きついていた経文を用いて、セルメダル攻撃を防いだのだ。
もっとも、その為に経文の縁などに焦げめがついていたりしたが、大した問題ではないだろう。
『逆転夢斬』
――ザンッ!――
「グッ・・・!」
そこへ空かさずゼントウが薄刀『針』の刃と鞘を用いての簡易な二刀流で、ブライの腹部にニ撃を叩き込む。
「チッ、このままじゃ埒が明かないな。火野、コンボで押し切るぞ」
「えぇ」
≪LION・TORA・CHEETHA≫
≪YAIBA・TSUBA・TSUKA≫
≪LATA・LATA!LATORARTAR!≫
≪YABAIKA・YAKAIBA!YAIBAKA!≫
「ウゥゥオオオオオオオオオオオ!!!!」
ラトラーターコンボへのチェンジと同時に、彼の体から超高熱線が放出される。
≪HAYABUSA・HOUOU・YATAGARASU!YAMANEKO・JAGUAR・SMILODON!≫
≪GIGA SCAN!≫
そこへヤイバカコンボとなったブライは、今度はヤイバスピナーに熱と光を司るコアをいれ、ギガスキャンを発動する。
当然それによって、
『うぁっ・・・・・・!ぁあ・・・・・・っ!』
『目が、あ、痛い・・・・・・!』
熱と光に弱いメズールとガメルは、この手の戦法には滅法弱い。
「今度こそ喰らいやがれ!!」
さらにはブライが、解放につぐ解放で凄まじいエネルギーを宿すヤイバスピナーから、光を帯びた炎の剣を顕現させると、
「チェストォォォアアア!!」
勢いをつけにつけて振り下ろした。
『『のわぁぁあああ!!』』
当然コア六枚をスキャンしたこともあって、その威力は圧倒的なものがあり、デシレとゼントウは足場ごと向こう側に吹っ飛ばされてしまう。
しかしそこで、
――バシュッ!!×2――
――ヴガァァァアアアァァァン!!――
アンクの火炎とキョトウの妖気がオーズとブライに襲い掛かった。
「「ッ!――うわああああああ!!」」
その攻撃は不意打ちということもあって、オーズとブライに想像以上に損傷を与えた。
――バチッ――
バックルから、コアメダルが弾けだし、変身が解かれてしまうほどに。
『『・・・・・・・・・・・・』』
アンクとキョトウは、地面に散らばった六枚のコアを手にしようと歩みだす。
「拙ッ」
刃介はそれを見て急いで立ち上がろうとした。
しかしその直前で、
――バッ!――
「比奈ちゃん・・・・・・!」
「ルナイト、お前」
二人の女が先にコアメダルを回収した。
『死にたくなければメダルを渡せ』
『例え知り合いとはいえ、容赦はしませんよ』
「アンク・・・・・・本当に・・・・・・」
「七実ちゃん、貴女も、もう・・・・・・」
『俺達はグリードなんだよ!!』
アンクは比奈とルナイトの呟きに、大声で答えた。
『私たちの欲望の邪魔をしないでください』
「欲望って何かしら?」
『今のところ、貴女には関係の無いことです』
キョトウはルナイトの質問に、無機物や機械のように淡々と答える。
「ああ、そう・・・・・・だったら、私たちの答えもハッキリしたわ」
「私は・・・・・・私たちは・・・・・・」
二人の女は立ち上がると、その確固たる瞳でこう叫ぶ。
「私はお兄ちゃんと映司くんを助ける!」
「私は最期まで刃介の味方であり続ける!」
『『――――――――――』』
その宣言を聞いた二体のグリードは、無言で右腕と左腕を構え、火炎と妖気を立ち篭らせる。
ゆっくりと二人に歩む二体の異形。
だがそこへ、
――ガッ!――
映司と刃介がアンクとキョトウに体当たりししたのだ。
「映司くん!」
「刃介!」
比奈とルナイトは、その隙をついてコアメダルを投げ渡す。
映司と刃介は上手くキャッチすると、
「ありがとう!早く逃げて!」
「それから、さっきの言葉、ちょいと痺れたぜ」
映司と刃介の言葉に、比奈は頷き、ルナイトは照れた風にして其の場から離れた。
『ったく・・・・・・お前をオーズにしたのは損だったのか得だったのか』
「さあ?俺にとっては得だったけどね」
カテドラルに三枚のメダルが入れられ、そして傾ける。
だがその時、
『ガメル。今がチャンスだよ』
『うん』
カザリがガメルを焚き付けた。
ガメルはアンクとキョトウに向って走りながら、
『アンク、キョトウ!――オーズとブライと、メズール連れて行くってホントかぁ!?』
『はい?』
キョトウらにとって意味不明なこの発言。
しかし、カザリの姿を見た途端、これが策略であることに気付いた。
「「変身ッ!」」
≪LION・TORA・CHEETHA≫
≪YAIBA・TSUKA・TSUBA≫
『ッ――二人共、待っ『ヤメロぉぉぉおおおおお!!!!』
キョトウが呼びかけた時にはもう遅い。
ガメルは全身から数百枚という多くのセルメダルを一気に放出し、その勢いで四人を吹っ飛ばしたのだ。
殆ど自爆同然のこの行為によって、ブライとオーズの変身も途中で破綻してしまう。
無論、映司と刃介は起き上がって再び変身しようとする。
だが、
「(まさか・・・ッ)火野、気をつけろ!」
「え?」
『もう遅いよ』
そう、遅かった。
「うわあッ!?」
映司の持っていたモノは、一匹の猫に掠め取られた。
『フフフ、貰ったよ。これで僕のメダルは、九枚』
カザリの右手には、ライオン・トラ・チーターのコアが一枚ずつ。
「カザリ、てめぇ!」
『フフフ・・・・・・』
刃介の激昂には貸す耳すらないのか、カザリは無遠慮に己がコアを体内に帰還させた。
そして、
『うぅぅあああああ!!うぅ、ふぅ・・・・・・!』
カザリの下半身は銀と黒と黄色で彩られた外装が復活し、背中からは巨大な鉤爪、後頭部の髪は触手のように伸びだした。
『ハアッ!』
そう、この状態がなんであるかは、最早言うまでもないだろう。
――バシッ、バシッ、バシッ、バシッ!――
カザリはその触手のような髪を用いて、アンク・ウヴァ・ガメル・メズールから、1・2枚ずつのコアメダルを奪い取ったのだ。さらには、バース・クエス・ブレイズチェリオにも攻撃を加えて。
『―――カザリ・・・・・・!』
自身のコアを持っていかれたせいか、アンクの目付きは完全に怨敵を見るソレへと変わっている。
『ごめん。信用できないのは、僕もだったね』
カザリは髪と爪をしまいながら、奪ったコアを見せびらかすように言った。
「・・・・・・完全体・・・・・・!?」
「これが、本当の力か・・・・・・?」
「800年ぶりだな、カザリよ」
「なんちゅー力だ・・・・・・!」
「メンドくせぇ展開になったもんだ」
上から映司、バース、クエス、ブレイズチェリオ、刃介の台詞だ。
『オーズ、ブライ。残りのメダルも、貰うよ』
カザリはそういって再び髪を操り、毛先についている針を弾丸のように連射してくる。
―――が、
「快刀乱麻!」
――ガギンッガギンッガギンッ!!――
だがしかし、刃介は両腕をグリード化させ、高速の手刀で針を撃墜させていく。
「今だ、行け!」
「「「おおおおおおおおおお!!!」」」
「後藤さん!真庭さん!花菱くん!」
刃介の号令でカザリに挑んでいく三人のライダー。
しかし、
『おっと、通れるのは一人だ』
『ハンデがありすぎでは、詰まらんでござろう?』
そこでデシレとゼントウが邪魔に入ってきた。
「クッソォ!」
「おのれ・・・!」
それによってクエスとブレイズチェリオが足止めをくってしまう。
すんなりと通れたのは、バースだけだ。
もちろん彼とて力量の差を理解したうえで、彼等は完全復活を果たしたカザリに挑んでいる。
だが、カザリの拳一発でバースの装甲は拉げ、鉤爪の一撃で深い傷がつく。
ほかにも蹴りの一発でシステムの各部は悲鳴をあげ、小さな回路がショートする音まで聞こえてくる。
「ぐぅあ・・・・・・!」
『フッフッフ』
カザリは大ダメージをおったバースを触手のような髪で縛り持ち上げる。
しかしその直前で、
≪BREAST CANNON≫
ブレストキャノンを転送装備。
「出力を、最大に・・・・・・」
≪CELL BURST≫
「ブレストキャノン・・・・・・シュート!」
――ズガァァァアアアアアン!!!――
『んッ』
バースが持ちえる最大火力の砲門から放たれた赤い砲撃により、カザリは数枚のセルメダルを撒き散らしながら吹っ飛ばされてしまう。
当然、バースもその反動で吹っ飛ばされたが、
「火野、鋼・・・今だ・・・変身しろ」
その意思だけは固かった。
その思いに答えるべく、刃介と映司は己が身に宿る虚無の力を解き放った。
「「変身!」」
≪RYU・WYVERN・DRAGON≫
≪PTERA・TRICERA・TYRANNO≫
≪RYU・WA・DRAGON KNIGHT!≫
≪PU・TO・TYRANNO SAURUS!≫
猫王カザリとの決着をつけるため、紫の狂戦士が今再び顕現する!
『フフ・・・・・・』
ライオンの頭と髪、トラの鉤爪、チーターの俊足を誇り、風を司る獣の王・カザリは静かに笑いながら両腕を構える。
「「――――ッ」」
オーズはメダガブリュー、ブライはメダグラムを手にし、
「「うぅうぅああああああ!!」」
咆哮をあげ、カザリに一太刀を浴びせるべく、武器を振り下ろす二人の戦士。
――ガギッ!ギガッ!――
「んぅ!」
だがしかし、カザリはその一撃を腕を盾代わりにして防ぎ、今度は矛である鉤爪で切り裂く。
「ンオォォォ!!」
だがそれでも諦めはしない。
ブライはドラゴンレッグから凶暴な悪竜の爪を満遍なく生やし、
「ウオゥラァァッ!!」
手加減も遠慮も一切無く、全力を持って身を回転させ、二本の脚による回し蹴りを行う。
それによってドラゴンネイルはジュッジュッ、という音を立てながら脚から離れ、カザリの身体に向って一直線に飛んでいく。
『実直すぎかな?』
でもカザリはそれさえも容易く弾き返す。
「「ッッ、オオオオオ!!」」
オーズとブライは、それでもなお立ち向かっていく。
『無理しなくていいよ。もうボロボロでしょ?』
例えどれだけ強い敵に侮られようと、彼等は決して退く事は無い。
「ウッセェ!」
獣じみた叫びをあげ、ブライはメダグラムをカザリの脳天目掛けて振り下ろす。
カザリはそれを、真剣白刃取りで受け止めた。
ブライはそれを見て、仮面の下で笑う。
「オラッ!」
『ンッッ!』
敵の両手が塞がると同時に、ブライは得物を破棄してカザリの肩を掴み、全力で頭突きした。
それに怯んでしまったカザリに、ブライはその勢いを活かしたまま背に回りこんで、羽交い絞めを行う。
「火野!やれ!」
「鋼さん!」
ブライが叫ぶと、オーズもそれに答えてメダガブリューを強く握りなおす。
『うるさいなっ』
カザリはブライを邪魔に思ってバギバギと彼の頭を殴りつけるも、ブライは一向にカザリを放そうとしない。
それどころか、よりカザリが逃げられないような状況をつくっていく。
――ピキパキ・・・・・・ッ――
『(こ、凍ってる!)』
カザリの腰から下部分はブライの発する冷気によって、ブライの脚ごと分厚い氷に覆われていた。
「―――うぅオオオオオオオ!!」
オーズはエクスターナルフィンとテイルディバイナーを実体化させると同時にはためかせる。
――バジンッ!――
肩からはワインドスティンガーを伸ばし、カザリの両肩に突き刺すことでさらに拘束を強める。
『ク・・・・・・ッ』
カザリは唯一自由な頭に生えている髪を伸ばして反撃しようとするが、
「させるか!」
――ブワァァア!!――
ブライの吐き出す龍神気焔が、カザリの髪さえも封じ込める。
そして、
「セイヤァァアアア!!」
――バギィィィ!!――
暴君竜の一撃が、カザリの魂に重い傷を与えた。
振り下ろされた戦斧の刃の音と共に、カザリとブライを縛っている氷はバギンと砕け、それと同時にカザリはブライとオーズから急いで距離をとる。
しかし、
『くッ、うッ――コアが・・・・・・コアが・・・・・・っ」
最も重要なコアメダルにヒビをいれられ、これ以上の戦闘は自殺行為に等しいと悟り、カザリはそのままヨロヨロと去っていった。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
そんな猫王の後ろ姿を見つつ、身構えを解いた二人の狂戦士。
ブライは変身を解除し、荒い息と汗が目立つが、しっかりと二本足で立っているのに対し――オーズはそのまま倒れてしまい、変身も強制的に解除されてしまった。
後藤も先のダメージがきついのか、映司より先に変身を解いて仰向けになっている。
「映司くん!後藤さん!」
「刃介、大丈夫!?」
そこへ比奈とルナイトが駆けつけた。
「心配するな。俺達は大丈夫だからよ」
刃介は消耗した体力をさらに削ってそう言った。
「おい鋼!」
「刃介、そっちはどうだ?」
さらにはブレイズチェリオとクエスもこちらへ駆けて来る。
「あいつらはどうした?」
「四季崎たちなら、お前らがカザリを退かせたと同時に―――」
「行き成り戦いを放り投げて逃げやがったんだ!」
冷静なクエスとは対照的に、ブレイズチェリオは激昂的に語った。
「そうか・・・・・・」
刃介は短く返事をしながら、少し離れた木と木の間に立っている二人の異形を視界にいれる。
他のメンバーたちも見ているであろう、アンクとキョトウの姿を。
『『―――――――』』
アンクとキョトウはそのまま何も言わず、ただこちらへ一瞥して去って行った。
「・・・・・・七実・・・・・・」
刃介はその去り行く姿に、哀しげな声音で、無自覚に呟いていた。
*****
オーズの刃によって深刻な損傷を与えられたカザリ。
完全復活を果たしたというのに、たった一枚のコアの不備で、セルメダルをチャリンチャリンと零してしまっている。
他のグリードらはカザリにメダルを奪われたと同時に撤退した上、己がコアを奪ったカザリを助けに来るわけも無く、薄暗いトンネルの中で無様な姿を晒すカザリのもとに、今回唯一戦場に出なかった男が現れる。
『ドクター・・・・・・僕を、メダルの器に・・・・・・』
ライトでカザリの姿を照らす水色の自動車。
その操縦者である黒衣の男に、カザリは必死になって縋りつく。
『コアを、もっと・・・・・・!』
だがしかし、
――グサッ!――
『ぐわあッ!!?』
真木の右腕は、カザリの身体を貫いた。
カザリは激しい痛みの中、体から力が抜け落ちていく状態で真木の肩を掴み、どうにかまだ立っている。
しかしそれも無駄なことでしかない。
『―――――』
真木清人の全身が、恐竜の王たる紫のグリード・ギルへと変貌した。
『ッ、あ―――ドクター・・・・・・』
『カザリ君。結局暴走しない君に用はありません』
丁寧ながらも、それゆえにどこまでも冷たい宣告。
『うあッッ!!?』
ギルの右腕がカザリの体から一気に引き抜かれる。
その傷口からセルメダルを何枚かこぼしながら、カザリの体からは全ての力がなくなり、立つことすら難しくなった。
ギルは真木へと戻り、
「良き終わりを」
右手にある無傷のコアを握り締める。
八枚の猫系コア、ウナギとタコ、サイとゴリラ、バッタ、コンドル。
それらを確認して、真木は無感情極まる態度で車に乗った。
最早グリードの姿すら保てず、人間形態で地べたを這いずるしかないカザリのことなど気にも留めずに。
*****
その後、カザリはヒビ付きのライオン・コア一枚と身体を構成するセルだけという悲惨な状態で、人間の町を彷徨っていた。
ただでさえくすんでいる視界は、より不透明でブレたものへと劣化してしまい、歩くのが精一杯だ。
いや、そんな生易しいものではない。
此の世に存在を繋ぎとめること自体が困難になっているといってよい。
「く、うぅ・・・・・・」
人通りのめっきり少ない細い路地で、カザリは遂に立って歩く力すらも失い倒れ、それと一緒に体から毀れていくセルメダル。
「―――僕ももう少しで、手が届く・・・・・・」
そんな無残としか言いようの無い有様においても、カザリの欲望は最期の煌きを放つようにして、彼の腕を伸ばさせる力となる。
その手の先には、彼の望む全てがあるのだから。
「全部・・・・・・僕の・・・・・・――――」
虚しき欲望の化身が一人。
陽気な言葉の影に黒い策略を忍ばせし黄色い猫の王。
その象徴とも言える”余裕”は、今となってはもう面影すらない。
カザリはそこで真に力尽き、遂には肉体を構成するモノさえをただのセルメダルの山と消えた。
そして、大きなヒビの入ったたった一枚――ライオンの力とカザリの魂が封入されたコアメダル。
それは人知れずに、初めから無かったかのように粉々に砕け散り、一時だけの煌びやかな光の果てに消え失せた。
次回、仮面ライダーブライ!
虚無王とプロトバースと水棲女王
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