仮面ライダーブライ!
前回の三つの出来事は!
一つ!自分の欲望を目覚めさせた映司と刃介は――力を、そしてメダルを求める!
二つ!一瞬でも欲望を忘れたアンクは、メダルを失い――七実は四季崎によって破棄され、死の淵に立たされる!
そして三つ!ウヴァとゼントウが完全復活し、世界の終末が始まろうとしていた!
明日への欲望と最終決戦と掴むべき未来
ビル街の歩道。
建物の一部として意図的に造られた道路。
「「「「うわああああああああああ!!!!」」」」
その人工的な道路の上に、下にあるトンネルの隙間から、吹き上げられた者が四人居た。
リバース、プロトバース、チェリオ、ブレイズチェリオ。
『ハアッ!』
『ふっ!』
それを追う様にして上に昇りながら戦うのは、共に完全体となって十全たる能力を発揮しているリュウギョクとゼントウ。
『フフフフ・・・・・・』
そして、九枚のコアを揃えて完全復活した昆虫王ウヴァ。
「この昆虫野郎!」
「舐めんじゃねぇぞ!」
プロトバースとブレイズチェリオは敢然と・・・・・・いや、半ば無謀とさえ言える勢いでウヴァに突貫していく。
『フンッ』
「「ぐあッ!」」
無論、ウヴァの拳や蹴りによって退けられ、
≪SHOVEL ARM≫
≪SETTOU・ROU≫
リバースとチェリオが続けて攻撃してきたところで、
≪CRANE ARM≫
≪ANTOU・KAMA≫
自分たちも後続していくも、
――ガシッ――
――バギッ――
『ゴミが』
装備をガッチリ掴まれた挙句、破壊されてしまう。
それによって変身がとけ、地面を転がる四人。
『今までこんな奴等に梃子摺っていたとはな――フッ』
ウヴァは近くの木製ベンチに荒々しく座って自嘲じみた声を漏らす。
『疾風迅!』
『爆縮地』
一方でリュウギョクとゼントウは激しい戦闘を繰り返している。
『剛力無双!』
『一揆刀銭』
攻撃の応酬は一歩も譲らぬ大激突。
剣聖と忍者のソレはこのまま終わり無く続けられるものかと思った矢先、
――ズゥドォォォォォン・・・・・・!!――
――ズィガァァァァァア・・・・・・!!――
鴻上ファウンデーション本社ビルから鈍く重い音と共に白煙が巻き起こり、町の方では例の武家屋敷から眩く巨大で野太い黄金の光の柱が虹色のオーラ共々溢れだしている。
そうして現れたのは、
――ズシン・・・・・・!ズシン・・・・・・!ズシン・・・・・・!ズシン・・・・・・!――
凄まじい重量を感じさせる足音通り、彼が歩いていくと、足を乗せた地面がメリメリと凹んで行く。
――バサァ・・・・・・!バサァ・・・・・・!バサァ・・・・・・!バサァ・・・・・・・!――
天地に大きく響く羽音。それは空を自由に舞う美しいの翅のはためく音。
一人の男の背から生えた十二枚の銀色の翅が、煌びやかな銀粉を放出している。
「火野・・・・・・」
「・・・・・・兄さん」
見間違えようなど、あろう筈が無い。
地を歩いて来る男・火野映司、空より飛翔してくる男・鋼刃介。
その様子から、二人に大きな変化があったのは一目瞭然。
『刃介、あいつ』
『ふむ。・・・・・・リュウギョク、おぬしの相手は後回しでござるな』
ゼントウもリュウギョクとの戦いを中断して、刃介が降り立つ場所を予想し、その際に対峙するであろう場所に行く。
その状況全てを高層ビルの屋上から眺めていた真木。
彼は背後から懐かしい声を聞くことになる。
「Dr.真木」
振り返るとそこには、
「久しぶりだね」
「あんまり、見たくない顔だったけどね」
プレゼント用に包装された箱を持った鴻上。
黄色いローブを着込んだ魔術師ファッションのルナイト。
「アレは?」
「オーズだよ。本当の」
「そして、真のブライ」
真木の質問に、鴻上とルナイトは素直に答えた。
「本当のオーズ?真のブライ?――しかしオーズのメダルは全てこちらに」
「忘れたとは言わさないわよ。800年前、コアメダルは私たち三人の魔術師と四人の錬金術師によって、十枚ずつ造られたことを」
ルナイトの指摘の意味――それは間も無く判る。
「お見せしよう。これが800年前の王が初めての変身に使った十枚目」
鴻上は包装された箱を開けて、
「―――タトバコンボだ!」
赤と黄と緑のコアメダルを取り出す。
「――――ッ!」
そして鴻上は、その三枚をビル屋上から思い切り投げた。
コアメダルは見事映司のいる方向に向かい、ウヴァと対峙する場所にまで来た映司はそれを掴み取る。
刃介もまた、映司は力をキャッチした瞬間に、ウヴァとゼントウの眼前に降り立った。
「後藤さん・・・・・・伊達さん・・・・・・」
映司は既に装着しているオーズドライバーに、バッタ⇒トラ⇒タカの順でメダルを入れていく。
「金女・・・・・・烈火・・・・・・竜王・・・・・・」
刃介も装着済みのブライドライバーに、テンバ⇒オニ⇒リュウの順番でメダルを入れていく。
「「離れていてください」」
そして、片手にスキャナーを握って、二人は同時に決め手となる一言を口にする。
「「―――変身」」
その瞬間、二人の周囲には色取り取りのメダルのオーラが飛び交う。
それは、何時もの規則的な動きとは無縁な動きであることは明白だ。
≪RYU・ONI・TENBA≫
≪TAKA・TORA・BATTA≫
その中で、カテドラルに投入されたものと同じ色をしたオーラが、逆三角を象るように、二人の前に現出する。
そして、逆三角形を象って並んだソレは、満を持したかの如く一つに重なる。
≪RI・O・TE!RIOTE!RI・O・TE!≫
≪TA・TO・BA!TATOBA!TA・TO・BA!≫
赤いタカの頭、黄色いトラの腕、緑色のバッタの脚。
血錆色の龍の頭、血錆色の鬼の腕、血錆色の天馬の脚。
『無限のセルメダル』を飲み込み、始まりの三枚で変身したタトバコンボは、通常時とは全く異なる欲望の王者としての覇気を全身から漲らせ、まさに真のオーズというべき存在として顕現した。
『無限のフォース・コア』と十二枚の変体刀系コアと十二枚の刀剣系コアにより、リオテコンボは欲望の戦神たる神気を世界に轟かせ、真のブライであり真のグリードとしての力を示していた。
仮面ライダーオーズ!
仮面ライダーブライ!
此の世全ての欲望を受け止め支配する、王と神が降臨した―――!
完全系変体刀・我刀『鋼』――完全。
「「―――――――」」
王と神は、変身を完了し、ゆっくりと歩む。
『『―――――!』』
無論、ウヴァとゼントウは、鎌と『針』の刃を二人に向けて走っていく。
だが、オーズとブライはその突進を難なくかわし、逆に背中を強く押して転ばせようとする余裕まで見せている。
転びかけたウヴァとゼントウはすぐさまバランスを取り直し、すぐにでも反撃しようとするが。
――ガッ・・・・・・!――
ブライとオーズの拳による一撃が、そのような無礼を決して許さない。
ウヴァとゼントウが少しだけ地面を転げ回り、すぐに立ち上がるも、そこには右手にメダジャリバーを、左手にメダガブリューを持ったオーズと――左右の手に二振りの魔刀『釖』を持ったブライが歩み寄ってくる。
「「ハッ―――!」」
『『グッ―――!』』
一刀はウヴァとゼントウの余裕さを裂き、
「「フッ―――!」」
『『ヴッ―――!」」
一振りは優雅さを伴いながら敵を切り裂く。
基本形態として変身してなお、二人の実力は完全体グリードを圧倒して余りある。
「コアメダルの力で世界を終わらせるわけには行かない。欲望のメダルは、世界の再生の為にこそある!」
「――世界は終わらせるべきです」
一方でビルの屋上では真木達が言い合っている。
「違う。この飽和し伸び悩む世界も、欲望で一変する。欲望が新たな文化、さらなる高みへと導く――進化するのだ!見たまえ!あの欲望王と欲望神の力を!」
鴻上は、以前より考えていた”世界の再生”を説く。
「いいえ。・・・・・・何も存在しない”究極の無”―――」
真木は腕に乗せていた人形を持って手にぶら下げ、
「―――それこそ、人が到達し得る最高の高みです!」
人形を介さず、直接鴻上とルナイトの目を見ながら主張した。
「どうあっても、この優しくも厳しく、暖かくも冷たい世界で生きるつもりはないのね?」
『無論ですよ』
そして真木清人は、ギルとなった。
「「フッ―――!!」」
『『グッ―――!!』』
片や、ブライとオーズは、ゼントウとウヴァに斬撃を与えに与え、力を込めて柄を手にして体を180度回転させながら、区切りをつけるように斬り付けた。
――ガシャ――
二人は自ら武器を横に投げ捨てると、サイドバックルのホルスターに提げているスキャナーを手に取る。
後ろから、昆虫王と堕剣士の反撃が迫り来る中、
≪≪SCANNING CHARGE≫≫
「「ハァッ!」」
二人は両脚にエネルギーが伝達されると同時に華麗なる跳躍で空へと舞い上がる。
現出する赤・黄・緑のリングと、連なり並ぶ三つの血錆色のリング。
「ウオオオオオオオ!!」
「チェェェストォォォオ!!」
それらを真上から潜り抜け、双方の右足には凄絶なエネルギーが集束し、
「「タアァッ!!」」
タトバキックとリオテキック。
それらは獲物の体に確実なダメージを与えた。
オーズとブライが着地すると、
『『うおォ、うァ・・・・・・!くゥ・・・・・・!!』』
ウヴァとゼントウの体からは火花が散り、霞むような声を漏らしながら、二つの異形は内側から発生した爆発に飲み込まれていく。
だがしかし、
『―――――』
――チャリン――
そこへギルが現れ、アンクから奪った物の内5枚のコアをウヴァに、四季崎から緊急用に預かっていた三枚のフォース・コアをゼントウに向けて投入する。
そうすると、爆発はビデオテープの逆再生の如く消えていき、そこには驚いた様子で自らの体を見分するウヴァとゼントウ。
『ォ、オ・・・・・・ドクター!感謝するぞ!』
『命綱、感謝するでござるよ。――しかし、ながら・・・・・・』
ウヴァとゼントウは感激しながらギルに感謝する。
だが、ゼントウにはフォース・コアが投入されたことにより、彼は軽度の暴走症状を起こしており、体から虹色の力場がバチバチといっている。
「・・・・・・あ―――」
「チッ、悪運の強い」
オーズとブライが意外そうに、忌々しそうに言葉を漏らす。
『手段は美しいとは言えませんが、齎す終末は、きっと美しい』
――チャリン――
『うおッ!?』
ギルは、ウヴァの後頭部目掛けて四枚のコアを投入した。
『――止めろ!これ以上はいい!俺は暴走する気はない・・・・・・!』
ウヴァは後ずさりながら、ギルから逃れるように述べた。
だがギルはそれをゆっくり追うように歩く。
『志という点では、オーズとブライを見習ってください』
『な、なぜ俺なんだ!?ゼントウを使えばいいだろ!!』
ウヴァは必死に逃げようとした。その為に、軽度の暴走症状を起こしているゼントウを指差す。
『四季崎氏の手掛けたグリード達では、私の望む暴走と終末は起きえません』
ギルは冷徹に述べ応えると、ウヴァは怯えたように逃げ出す。
――チャリン――
しかし、背を向けたことで三枚のコアが投入されてしまう。
『止せと言っている!』
生来の、怒りに我を忘れやすい性格ゆえ、ギルに牙をむこうとしても、
――チャリン――
飛んで火に入る夏の虫、とでも言うかのように、五枚のコアが投入された。
『うぅっ・・・・・・!お、うあ・・・・・・!ウ、うう―――』
過剰なまでにコアメダルを投入され、ウヴァの現在のメダル枚数は、26枚となっている。
当然、体の内側から張り裂けそうな感覚に襲われ、苦しみだす。
「オオオオオオオッ!!」
そこへオーズが特攻をかける様に、ギルに向って走り出すと、
「ハッ!!」
――ジャリン!――
オーズは腕を突き出しギルは腕で防ぐも、オーズの攻撃によってギルのセルが何枚か削られた。
『なるほど。ここまでセルメダルを――やはり君は危険すぎます』
――ドガッ!――
ギルは左手の拳でオーズを殴った。
オーズは少しの間地面を転げ回るも直ぐに立ち上がる。
『ァァァァァ・・・・・・ン!』
ギルは紫の光弾を手から放ち、オーズに命中させようとしたが、
――ボォオ!!――
光弾は一つの火炎によって相殺され、
――ザンッ!!――
『ンン・・・・・・!?』
ギル自身は何者かの刃で斬られる。
背中の大翼から赤い羽根を散らしながら地上に降りた者と、禍々しい妖気を漂わせながら悠然と現れた者。
「アンク・・・・・・!」
「七実・・・・・・!」
オーズとブライは、想像こそはすれ意外な助っ人の登場に感嘆する。
『君らの属性はコウモリですか。またオーズとブライに付くとは』
ギルは興ざめした声音でアンクと七実を表現する。
言われた二人も、皮肉めいた笑みを浮かべる。
『―――俺は・・・・・・俺はイヤだぁ!』
そんな中、ウヴァは情けない言葉を吐いて、其の場から逃げていく。
『・・・・・・なんと言う見苦しさ』
ギルはオーズらの相手をやめ、ウヴァの後を追っていく。
そこには呆れと失望の念がありありと伝わってくる。
ギルがウヴァを追って姿を消した直後、
『うぅウゥうぅウゥっッ・・・・・・・・・・・!!』
ウヴァの怯えに怯えた、浅はかな悲鳴だけが静かに響いた。
しかし、敵でしかないウヴァのことを一々思うものなど、この場に残った面子の中には一人も居ない。
「アンク・・・・・・どうして・・・・・・?」
オーズはアンクの前に立ってそう問う。
なお、ブライは七実と向かい合い、ただ互いの顔を見て頷き合っている。
――バッ――
アンクは『右腕』を突き出し、
「今日の分の、アイス寄越せ」
「――って、ちょ・・・お前・・・」
余りにも予想外でありえそうな言葉に、オーズは勿論のこと、全員が安堵した。
アンク自身も、どこか和やかな表情をしている。
だが、
「――うッ!あッ!・・・・・・お、ああ・・・・・・!」
タトバコンボの全身から紫の波動が電撃のように駆け巡っていく。
そしてその波動はやがて、始まりの三枚の力を撥ね退けるかのように、タトバコンボを強制的にプトティラコンボへと変えてしまったのだ。
当然、紫のメダルの力があふれ出したことによって。
――パリィィン!!――
”始まりの三枚”は虚しくも砕け散り、消滅した。
「「「―――――っ!?」」」
「「「「―――――っ!?」」」」
その異常な光景は、見るもの全員の視線を釘付けにした。
「あぁッ、うッ・・・・・・!」
オーズは苦しみに苦しみ、最後にはプトティラの装甲が紫の霧となって消失する形で、変身が強制的に解けた。
なお、映司自身はパワーの暴走により、胸の押さえながら膝をつき、遂には四つん這いになってしまう。
それを見てブライは、
「やはり人間の身では、力がデカ過ぎたようだな。俺ほどじゃないにしろ、相当メチャクチャをやったようだな、火野」
「まあ、ちょっとだけ・・・・・・」
「この戯け。俺からすれば確かに”ちょっと”だが、ヒトの観点で言えば大いなる無茶だ」
映司を叱責しながら、カテドラルの傾けを直して平静に変身を解除した。
*****
星が輝く夜空――その下で刃介たちは、小さな祝いでもするかのように集まっていた。
もっとも、集まっていたのは、映司・刃介・アンク・七実・比奈の五人だけだが。
「おい」
アンクは比奈に、
「俺のメダルのこと、映司に言うな」
ヒビの入ったコアのことについて口封じを命じた。
「どうして?」
「俺と映司が上手く戦う為だ。――邪魔したくなかったら黙ってろ。いいな」
「・・・・・・」
何時もの傲岸不遜な言い振りだが、今回ばかりはアンクの言い分にも一理ある。
それを偶然にも盗み聞きしてしまった刃介と七実は、
「やはり貴方もでしたか、アンクさん」
「ふっ――お互い、損な役回りをさせられたもんだな」
「えっ?まさか、鑢さんのコアも?」
「ああ。四季崎の野郎の術中に嵌った」
あえて、バラした。
七実のコアにも損傷があることを。
「まあ、一応火野には黙っててくれ」
「理由はアンクさんと同じ、と言えばわかってくれますね」
「・・・・・・」
比奈はただただ、沈黙するしかなかった。
そんな時、
「お待たせぇ!」
映司が近くの露店から5本の棒アイスを買って来た。
そこで、一同は一時休憩をとる。
「なぁアンク。鑢さんは兎も角、お前が戻ってくるなんて、何かあった?」
映司は率直かつ核心的なことを訊いてきた。
「・・・・・・ふっ――真木は俺をメダルの器にするのを止めた。となれば、奴に協力する必要はないし、この身体も必要ない」
それを聞いて映司はアンクの正面にまわり、
「―――じゃあ・・・・・・!」
「もう少ししたら、お兄ちゃんの身体、返してくれるって」
「良かったね比奈ちゃん!ホント良かったよ!・・・・・・それだけが気になってたんだ」
(それだけって・・・・・・)
比奈は、信吾のことを我が身のように喜んでくれた映司に感謝した。
だがそれと同時に、何とも言えない感情を抱いた。
「もうお前とも戦わなくてもいいってことか」
「――ふっ。決着がつけられなくて残念だったなぁ」
「これ以上の決着は無いだろ」
アンクとも軽口を叩き合う映司。
しかし、
「火野。本当にこのままでいいのか?」
刃介がそう訊くと、
「・・・・・・はい。色んな意味で、これ以上は無いと思うんです」
映司は何かを吹っ切ったように答えた。
(どうして?なんだか、映司くんが遠くに行っちゃうみたい・・・・・・)
そんな映司の姿に、またも不安感を募らせる比奈。
(お兄ちゃん、私、どうすればいい?――映司くんのことも、アンクのことも、お兄ちゃんのことも、鋼さんや鑢さんのことも、出来ることが見つからない)
事態は刻一刻と進んでいき、何の力も持たない比奈にとっては、濃密なようでいて過疎な時が流れる。
(何も言えない・・・・・・私には、もう・・・・・・。ただ―――)
比奈は何を思ったのか、映司とアンクの間に立った。
背中を向き合う二人の間に立った比奈は、ゆっくりとアンクの右手と映司の左手を掴んだ。
自分と言う中間点を介しても構わない。
ただ、この二人を繋げる何かになりたい―――そんな願いゆえの行動だったかもしれない。
(泉・・・・・・何となくではあるが―――)
(―――懸け橋になりたい、とはまでは行かなくとも、二人の何かを・・・・・・)
刃介と七実も、比奈が抱え込んでいる複雑に絡んだ感情を、上手く表現することは出来ずとも、理解していた。
*****
鴻上ファウンデーション会長室。
会長たる鴻上は、自分のポジションである机の上に、ワイングラスをおき、窓から外の様子たる摩天楼を眺めている。
「欲望ある限り・・・・・・何かが変わり、生まれる」
鴻上はワイングラスを手に持ち、
「今日と言う日を明日にすることさえ、欲望だ」
ガラス越しだが摩天楼にかざし、
「Happy birthday!!」
明日という名の誕生を祝っていた。
*****
トライブ財閥の会長室。
そこの主であるルナイトは、自慢のミニバーに座り、ワインセラーから取って置きの一本を引っ張り出して飲んでいた。
その様子からは何時もの妖艶さは無く、ただ一重に神秘的な雰囲気だけが漂っていた。
「決戦は恐らく明朝・・・・・・これできっと、800年前から続いてきた因縁にケリがつく」
秘蔵の赤ワインを口腔内に流し込み、舌でその味を堪能しながら、ルナイトはグラスを傾ける。
「そうしたら、私はどうしようかな?」
空になったグラスに今一度ワインを注ぎ、美麗なる吸血鬼は再び赤い酒を飲み干す。
この僅かなる、嵐の前の静けさとでも言うべき、平穏な時間を少しでも味わおうとするかのように。
「まあ、今は取り合えず―――勝利を願って、乾杯」
*****
明朝のクスクシエ。
「よいしょっと!」
知世子は一人、見せの準備を進めていた。
「さあ、今日も元気に―――」
だがその動きはある物を見て止まった。
客席のテーブルにある筈のない物が置いてあった。
黒いマッシュルームカットの鬘を被せられ、眼鏡をかけられ、黒衣を着せられた、不気味な人形がひっそりと其処に置いてあった。
そして知世子は、その人形の持ち主を、人形の身形から判断した。
「これって、真木さん?」
*****
そして、とある郊外の寂れたバイクの駐輪場。
ウヴァはそこで、人っ子一人いないこの場所で、何百ものバイクの陰に埋もれるようにして苦しんでいた。
『くっ、うぅぅ・・・・・・!』
恐らく、ギルによって更にコアを投入されたことでパワーのコントロールが限界を迎えているのだろう。
『ヤダ、止めてくれ・・・・・・!誰か、助けてくれ・・・・・・!』
しかし、こんな時間のこんな場所では―――しかもこのような怪物がその台詞を吐いたところで、助けの手を差し伸べるものが居る筈もない。
『ぐぅぅ・・・・・・!ウァァァあああああああ!!』
その無残な悲鳴を最期に、ウヴァの身体は暴走する力に耐え切れず崩壊し、残った膨大なコアのエネルギーだけが互いを求め合う欲望によって一つとなる。
多くのコアとウヴァのエネルギーが融合したことで、立方の八角形のような巨大な物体が実体化を果たす。
出現したと同時に巨大化しながら空高く上昇し、周囲にあるバイクを浮遊させてセルメダルに還元させていく。
本体の外周に現れた三角と三角が折り重なったの図形――六芒星は角ごとに、赤・黄・緑・灰・青・紫の巨大な円を成している。
物体が還元されたことで生産されたセルメダルは全て、その巨大な六つの円の中に吸収されていく。
”メダルの器・暴走形態”の勢いは留まることを知らず、遂には高層ビルの一部や道路を走る車さえも吸収していく。
ブラックホールのように限りない吸収によって、メダルの器の下部からは大量の屑ヤミーが産み落とされる。その数は百や二百では到底きかず、下手に放置すれば一つの町を埋め尽くす生産速度だ。
『・・・・・・・・・・・・』
その様子をビル街で静かに見守っているギルは、己が両腕と飛翼を広げて、ゆるやかに上空へと舞い上がっていく。
それによって見晴らしが良くなり、ギルは終わり行く世界とその住人達に、
『良き終末を』
祝福と祈りの言葉を静かに贈った。
だがしかし、上空に浮かぶメダルの器の巨大さ、セルメダルに還元され吸収されていく建物。
それらの怪奇現象はすぐさま一般の大衆の目にするところとなった。
しかし、彼等が能天気に野次馬を決め込めるのはほんの数分程度だ。
彼等のテリトリーに、屑ヤミーたちが乗り込んでくればどうなるかは、訊くまでもないことだ。
「キャアアア!!」
「うわあああ!!」
「ば、化け物!!」
人々はあっと言う間に大パニックに陥り、屑ヤミーの成すがままに攻撃され、逃げ惑うしかない。
そして混沌に満ちたその状況を打破する為、全力疾走で駆けつける者達がいた。
「あれが”メダルの器の暴走”・・・・・・!?」
映司は周囲のビルや物体をセルに変えて際限なく食らっていくそれを見て青ざめる。
「笑うしかないな。しかもオマケ付きだ」
アンクは地上に蟻の如く散乱し、人々を襲う屑ヤミーの大群を一瞥する。
「これ、どうやって戦うの・・・・・・!?」
比奈が恐れながら訊けば、
「至極単純だ。全部まとめてブチ壊す!行くぞ七実!」
「委細承知」
「行こうアンク!」
「ああ」
四人は再び両脚を動かし、逃げる人込みの中を掻き分けるように走った。
『―――――ッ!』
『―――――っ!』
アンクと七実は、己が姿をグリードに変え―――
≪RYU・WYVERN・DRAGON≫
≪PTERA・TRICERA・TYRANNO≫
≪RYU・WA・DRAGON KNIGHT!≫
≪PU・TO・TYRANNO SAURUS!≫
映司と刃介は、太古の暴君竜と幻想の最強種に変身した。
*****
鴻上ファウンデーション会長室。
――Happy Birthday to you♪ Happy birthday to you♪――
レトロなレコーダーからは誕生日の歌が奏でられ、
「♪〜〜〜♪〜〜〜♪〜〜〜」
鴻上は机の上で鼻唄歌いながらケーキ作りに没頭していた。
もっとも、この本社ビルも一応は夢見町のビル街に立っている。
そして、部屋の窓からが空中に浮かぶ”メダルの器・暴走形態”が見えるのだ。
つまり、
――パリィィィン!!――
窓ガラスが割れ、部屋の中の物がドンドン引き寄せられていくということ―――メダルの器によってこのビルの一部も既にメダル化されつつあるのだ。
「ラ〜ラ〜ラ〜ラ〜ラ〜ラ〜ララ〜♪」
にも関わらず、ケーキを作っている鴻上は、肝が座っているのか根性が図太いのか?
*****
「ったく、こんなザコに暇なんざねぇってのによ!」
『屑が邪魔すぎなんだよ!!』
街では、ブライ・アンク・オーズ・キョトウが、何百という屑ヤミーの相手をしていた。
だが倒せども倒せども、屑ヤミーは一向に減らない上、寧ろ増えているような気までする。
手間取る四人。
このまま下らない前哨戦が何十分も続くかと思ったとき、
――ヴィンヴィンヴィン!!――
何処かから弾丸が降り注ぎ、数体の屑ヤミーを蹴散らした。
四人はその弾丸が発射される音に聞き覚えがあった。
「火野、アンコ、鋼、七実ちゃん!遅れて悪りぃ!」
「ここは俺達に任せろ!」
近くのビルの非常用階段から飛び降りてくるリバースとプロトバース。
「不止――早く真木博士のところへ!」
「さっさと決着つけてきやがれ!」
『頼んだぞ、四人共!』
ライドベンダーに騎乗して、チェリオとブレイズチェリオとリュウギョクが。
仲間達が駆けつけてくれたのだ!
「お前ら・・・・・・!よし、行くぞ七実!」
『了解』
「アンク!」
『フン!』
なお、
「絶対戻れよ!」
「はい!」
『負けたら承知せぬぞ!』
「判ってるさ!」
決戦の間際において、激励をもらう。
四人は屑ヤミーの大群を仲間に任せ、二枚の飛翼と二枚の大翼と四枚の飛翼と六枚の大翼を広げ、空へと舞い上がっていく。
(映司くん・・・・・・アンク・・・・・・!)
比奈はそんな彼等を見上げていた。
片方だけじゃイヤだ、どちらも・・・・・・。そんな欲望と向き合いながら。
*****
メダルの器が浮かぶ上空。
『フゥッ!』
『ォォ・・・・・・!』
――ボォッ!――
「ハアッ!」
『ン・・・・・・!』
――ザンッ!――
アンクとオーズは、メダルの器の周囲に浮遊しているギルに大して激烈な攻防を繰り広げる。
「そんじゃ、俺達―――ってウオ!?」
『まさか・・・・・・』
加勢しようとしたブライとキョトウだが、
――バンバンッ!――
拳銃の発砲音がすると同時に、赤と青の巨大な光弾が、命中スレスレのところを飛んでいったのだ。
「チッ、やはりあん時に始末しておくべきだったか」
ブライが険しい声を出しながら殺意に満ちた視線を、向けた。
弾道上から割り出したその先には、紛れもない敵がいる。
『ヤミー、ですか』
黒金の身体をベースに、赤と青のラインが両腕と両脚に刻まれている。
片腕は連発式自動拳銃、もう片腕は回転式自動拳銃―――マグナムとさえ言える程にサイズアップしたそれらが、それぞれの腕と足に融合したかのような変体刀系のヤミー。
両脚の巨大な銃口から赤と青の炎をジェット噴射させて宙に浮かぶ異形の名は、ジュウヤミー。
体内に九枚のフォース・コアを秘めたグリード紛いのヤミーだ。
『オォォ・・・・・・アァァ・・・・・・』
呻き声を上げながら、ジュウヤミーは両腕の銃口をこちらに向けて、
――バンバンッ!――
発砲してきた。
「くッ!仕方ねぇ。やるぞ七実!」
『ええ!』
ブライとキョトウは標的をギルからジュウヤミーに変更する。
――ガンッ!――
――バンバンッ!――
それによって、こちらでも壮絶な空中戦が展開する。
青と赤の銃撃、紫の打撃、血錆色の斬撃。
それらが交差し、ぶつかり合い、そして―――。
「「オオオオオオオッッ!!」」
『『―――――――ッッ!!』』
『『ヌゥ―――――ッッ!!』』
四人と二体は、共に天から地へと落ちていった。
*****
四人と二体が落下した場所は、一言で表すと廃材置き場だ。
苔の生えた土管が並び、赤錆の出来た鉄骨などが積まれている。
四人は落下のショックに備えきれず、無様に地面に這い蹲る形で着地してしまう。
だがしかし、土煙が晴れると、ギルとジュウヤミーが優雅に立ち上がる。
『この終末の素晴らしさを見て、まだ邪魔をするのですか?』
『オ前らノ方が、邪魔ダな』
*****
所戻ってビル街。
そこでは四人のライダーと一体のグリードが屑ヤミーの殲滅に尽力している。
―――ヴィンヴィンヴィン!!――
そこへ甲高い銃声が鳴り、三体の屑ヤミーが倒された。
リバースが咄嗟に後方を振り向くと、
「お疲れ様です」
赤い革製の服を着込み、リーゼントヘアーで決めてきた里中。
「里中ちゃん!こんな状況でよく来れたね!」
「ビジネスですから」
プロトバースの言葉にもスパっと受け答えして、指にバースバスターの引き金をかける里中。
「流石は俺の上司だ!」
と、リバースも里中の根性に感心している。
戦力がこれで増え、ブライたちの決着までに事を済ませられると皆が思った時、
『全刀流継承者、錆白兵――尋常な勝負を求めて参上仕った』
剣聖、とまで呼ばれた堕剣士が姿を見せた。
「こんなタイミングで、厄介な奴が・・・・・・」
「おやおや・・・・・・」
ブレイズチェリオとチェリオは、ゼントウの登場に思わず舌打ちしたくなった。
しかし、そんなゼントウの登場を拒まなかったものもいる。
『暴走の方はもういいのか、白兵よ?』
リュウギョクであった。
『今となっては、あの三枚のことは問題にするまでないのでござるよ』
ゼントウは、鞘に納まった薄刀『針』片手に応答する。
『それよりも、拙者としてはおぬしが応えてくれたことが何よりでござる』
『随分な評価をしてくれているのだな』
『デシレが消え、今の拙者には為すべきことなどない。故に、拙者に残されたものといえば、決闘の果てにしかない』
ゼントウはそう告げると、体内からある物を三枚取り出してリュウギョクに投げ渡した。
投げ渡されたのは、『紫のコアメダル』―――。
『デシレから預かっていた物でござる』
『・・・・・・正面からの果し合いなぞ、忍者にとっては恥でしかないのだが・・・・・・』
リュウギョクはコアメダルを握り締め、
『良いだろう。この日この時だけ、私はお前を好敵手と認めようではないか』
クエスドライバーを身につけると同時に、受け取った紫のメダルを入れていく。
『感謝するでござる』
『構うな。私が自分勝手に決めてやっているに過ぎぬ』
そして、
『変身』
≪ZIZ・BEHEMOTH・LEVIATHAN≫
≪ZI・BE・LEVIA BRAVE!≫
翡翠の複眼が輝き、天空を飛んで舞い上がる怪鳥の頭。
地を砕き蹂躙せん程に屈強な巨大なる怪物の両腕。
海を這い回り、暗闇の恐怖にて気圧す海獣の両脚。
旧約聖書に記されし三頭一対の怪物の力を一身に背負う勇者。
仮面ライダークエス・ジベリヴァコンボ!
その変身を見届けて、ゼントウは『針』の柄に手をかける。
『全刀『錆』こと錆黒鍵が息子――錆白兵』
「真庭忍軍十二頭領総補佐、真庭竜王」
――いざ尋常に――
何処からか、心の中において誰かが腕を上げて開始の合図をとる。
二人は互いに身構え、何時でも攻守を行えるようにしている。
『拙者に、ときめいてもらうでござる』
「すまぬが、私をときめかせられるのは、刃介だけだ」
――始めっ!――
そして、己が矜持と誇りを賭けた、負けることも譲ることも出来ない死闘が始まる。
*****
廃材置き場。
そこではギルとジュウヤミー対オーズとアンクとブライとキョトウ。
四対ニの激闘が繰り広げられていた。
だが、九枚のフォース・コアを宿すジュウヤミーと、残り三枚のコアを十二分に使いこなすギル。
例え数で押そうとも、決しても確実な勝利は誓えない相手だ。
それを証明するように。
――ガジィ!!――
『ぐわああっ!!』
――バァン!!――
『くはっ―――』
アンクと七実は敵の攻撃を直に喰らい、変身が解けてしまっている。
だがそれでも、オーズとブライは、メダガブリューとメダグラムを片手に、
「「オオオオオオオオオッ!!」」
敵に向って突撃していく。
だが、
――ガシッ――
その刃はいとも容易く止められた。
メダガブリューのそれはギルの片手で、メダグラムのそれはジュウヤミーの両手で。
「「――ッ!?」」
『メダル・・・・・・頂きます』
――ズドッ――
ギルは腕をオーズの胸のうちに突っ込み、紫のメダルを掴みだそうとする。
彼が腕を動かすたびに、オーズの胸からはセルメダルが零れ落ちていく。
しかし、
――パキッ・・・ピキッ・・・バキッ・・・――
『氷カぁ・・・・・・!?』
『ッ――なにを』
「今俺達の中には、貴方を絶対に倒せるだけの力がある!」
「とくと目ン玉に焼き付けやがれ!」
その言葉の直後、オーズとブライは武器を持った片手を大きく天に向けて伸ばし、
――ジャリィィィイイイィィィン!!!!――
それと同時に二人の身体から夥しい量のセルメダルが宙に溢れ出した。
「―――――・・・・・・!?」
「この量は・・・・・・!」
アンクと七実は立ち上がりながら、滅多にお目にかかれない、まさに出血大サービスの光景に言葉を詰まらせかけた。
そして、宙に漂う『無限のセルメダル』と”二万枚のセルメダル”は、
――ガブッ、ガブッ、ガブッ、ガブッ、ガブッ・・・・・・・・・・・・!!――
次々とメダガブリューとメダグラムの腹の中へと喰い尽されていく。
「映司・・・・・・お前、この為にセルメダルを?」
アンクは、映司が『無限のセルメダル』を得た理由は、真のオーズとなり人々に救いの手を差し伸べる力を得ること・・・・・・そう思っていた。――だがそれは違う。
本当の理由は、今この瞬間にこそ明らかになった。
『バカな!君らもタダでは・・・・・・!』
「「オオオオオオオオオッ!!」」
――ガブッ、ガブッ、ガブッ・・・・・・・・・・・・!!――
とうとう、『無限のセルメダル』と”二万枚のセルメダル”が喰い尽された。
「「ウオオオオオオオオオオッ!!」」
二人の欲望の戦士は、あらん限りの雄叫びをあげ、全ての力を右腕に一極集中させる。
「セイヤァァァアアアアア!!!!」
「チェストォォォオオオオオ!!!!」
文字通り身を削った決死にして渾身の一撃。
振り下ろされた一刀は、凶暴な紫の色と力を宿し、ギルとジュウヤミーを切り裂く。
それからまるで振り子のように一回転してもう一度、ギルとジュウヤミーにその凶刃を叩き込んだのだ。
『『グァァァアアアアアアアアアア!!!!』』
――ドガァァアアアアアァァン!!!!――
振り切り、爆炎を背にするオーズとブライ。
だれもが確実な勝利を想像したであろう。
だがしかし、現実はどこまでも厳しく陰惨である。
「有り得ない」
七実は一言で言い表した。
正直かつ率直に述べると、ギルとジュウヤミーは消えては居なかった。
直上に浮かぶメダルの器の下部より、緑色の光が降り注ぎ、ギルとジュウヤミーは再生されると同時に防御フィールドによって守護されていたのだ。
意志さえもなくし、喰らうことしか能のないメダルの器が何故そのような行動を取ったのかは一切謎だが、ただ一つ言えたことは此方の戦況が一気に不利な方向へ傾いたということだ。
「あッ――ぐッ!」
「チ、ク、しょう・・・・・・!」
無理矢理な力を使った所為もあり、映司は倒れ、刃介も千鳥足めいた動きをしている。
変身まで解けたとあっては、状況の悪化振りが手に取る様にわかるだろう。
『―――中々ノ威力デあッた』
『良い作戦でしたが――しかし、あれだけの力を使えばキミたちはもう・・・・・・』
ギルの言葉など一切合財無視して、二人は―――
「「ウオオオオオ・・・・・・ッ!!」」
映司は瞳を紫にしてドス黒いオーラを、刃介は瞳を金にして銀色のオーラを放出しだす。
だが今の状況でそれは、自殺行為とさえ言えるだろう。
「「・・・・・・・・・・・・」」
そんな二人を見てアンクと七実は、
――バジュン!――
火炎と妖気を、二人とギルの間を縫う様にして放った。
「映司!止せ。――これ使え!」
「刃介さん!今一度、コレに!」
手にコアを持ちながらそういうアンクと七実の姿に、映司と刃介のオーラが収まった。
アンクは手に持っていたクジャクとコンドルのコアを投げ渡す。
七実もオニとテンバのコアを力一杯刃介に投げ渡した。
そして、最後の一枚も、ワンテンポ遅れて。
――パシッ――
映司と刃介は嬉々としてその三枚を受け取った。
もっとも、
――ジャリン――
それと同時に、アンクの『右腕』が三枚のフォース・コアとセルメダルの塊となって散り散りとなり、七実『身体』が数多くのセルと十二枚のコアと五枚のフォース・コアなって崩れ果てた。
当然、それによって信吾の身体は糸の切れた人形のように倒れ伏せる。
映司はそれを見て、
「アンク・・・・・・どうして?」
最後に投げ渡されたタカ・コア。
そこには、今まで隠していたヒビが生じていたことに、映司はここに到って漸く理解した。
「七実、お前って奴は」
最後に受け取らせてもらったリュウ・コア。
解っていたとはいえ、そこにもやはり大きなヒビが入ってしまっている。
「わかってる。――アンク、お前がやれってことは・・・お前が、ホントにやりたいことなんだよな」
映司はコアだけとなったアンクに対してそういいながら、クジャクとコンドルをセットする。
「七実・・・・・・お前の死ぬ気の覚悟・・・・・・しかと受け取ったぜ」
刃介もまた、テンバとオニのコアメダルをベルトにセットしていく。
そして、残る一枚。
「「七実・・・・・・行くぞ」」
決意の意志と共に、ヒビの入ったコアメダルがセットされる。
二人はスキャナーを力強く握ると、魂の芯まで振るわせる声音で―――!
「「変身ッ!!」」
≪リュウ!オニ!テンバ!≫
≪タカ!クジャク!コンドル!≫
聞こえてきたのは、紛れも無くアンクと七実の声。
メダルの名称発生が、持ち主たる二人の魂によって叫ばれた。
≪TAJADOR!!≫
≪RI・O・TE!RIOTE!RI・O・TE!≫
映司の身体中に紅蓮の炎が渦を巻くように燃え上がり、太陽の如く光り輝く。
不死鳥のシンボルが映司の身体を赤き鳥の化身とした瞬間、背中より炎の翼が三対現出してみせた!
刃介の周囲にも神々しい血錆色の光が三つ現れ、一つの円となって彼の力となる。
一つの身体に、元あった欲望の魂と無欲なる一本の刀の魂が、合わさる事によって天上の神を越える存在となる!
複眼も仮面も赤くなり、翼が大きくなって飛行に特化したタカヘッド・ブレイブ。
背中に六枚のクジャクウィングを生やし、左前腕部にオーメダル解放器タジャスピナーを装備したクジャクアーク。
鋭い猛禽類の爪の冴とキレを鋭利なものとするコンドルアーム。
額に血塗れた刃が生え、黒かった複眼が紫に変色したリュウヘッド。
前腕部の篭手を鞘にして魔刀『釖』を収める屈強なオニアーム。
あらゆる者の追随を許さぬ速力にて天地を駆け行くテンバレッグ。
「「ウォォォアッ!!」」
仮面ライダーオーズ・タジャドルコンボ!
仮面ライダーブライ・リオテコンボ!
『『・・・・・・!』』
「「ハアアアアア!!」」
相方の思いを背負い、オーズとブライは今まで以上の気迫を持ってギルとジュウヤミーに突っ込んでいく。
勝負自体は、ハッキリ言って互角と言って良かっただろう。
しかしながら、ここでブライとオーズの勝率を倍増させるものが現れた。
――ンッ!――
――はっ!――
アンクと七実の幻影が、ギルとジュウヤミーを撹乱しているのだ。
「「・・・・・・っ」」
その現象に、ブライとオーズは些か漠然とした面持ちだった。
しかし、幻影のアンクと七実の表情は、素直な笑顔だった。
ならば、言葉で問うのは無粋だ。共に戦って勝ってこそ、二人に対する最大級の感謝となるのだから。
勝負は再会され、ギルとジュウヤミーは圧倒的な劣勢に立たされた。
プトティラやリュワドラに比べて遥かに劣るはずの、タジャドルやリオテに此処まで追い込まれることが、ギルらには全く理解できなかった。
だけども、ブライとオーズは以前より遥かに強くなっている。
朋友の願いを、力に変えることによって!
「「ハアッ!!」」
『『グヌ・・・・・・!!』』
タジャスピナーによる炎熱打撃と魔刀『釖』による妖気斬撃。
それを真正面から直撃させられ、ギルとジュウヤミーは大幅に仰け反らされ、二人そろって空へと飛んで行き、メダルの器を目指す。
恐らくより自分に有利な状況を築くためであろう。
ブライはそれを見て、手持ちにある殆どのコアメダルを手にして宙に投げ、そして一挙にスキャンしてみせた。
≪RYU≫
≪HAYABUSA≫
≪KABUTO≫
≪YAMANEKO≫
≪BAKU≫
≪ZEUGLODON≫
≪YAIBA≫
≪ONI≫
≪HOUOU≫
≪HACHI≫
≪JAGUAR≫
≪MAMMOTH≫
≪MEGALODON≫
≪TSUBA≫
≪WYVERN≫
≪TENBA≫
≪YATAGARASU≫
≪SMILODON≫
≪INOSHISHI≫
≪TACHIUO≫
≪TSUKA≫
≪DRAGON≫
スキャニングされ、解放されたコアメダルは全てブライへと吸収されていき、彼の力となる。
身体一つで収まりきらずに溢れだす8色の波動の光。
まさに神の放つ後光のような神秘性を感じさせるソレを、刃介は難なく己の身に納めきって制御した。
「っ―――フッ!」
それを見たオーズも、身体に宿る7枚の恐竜コアを外へ解き放つと、タジャスピナーの蓋を開けてオークラウンの窪み全てに収めると同時に蓋を閉じた。
「火野!」
「はい!」
二人は飛翔する。
オーズは六枚のクジャクウィングで、ブライは銀色に輝く十二枚の翅を背中に生やして。
ギルとジュウヤミーを追う最中、オーズはスキャナーをタジャスピナーに当てて7枚のコア全ての力を解放する。
≪PTERA・TRICERA・TYRANNO!PTERA・TRICERA・TYRANNO!≫
≪GIGA SCAN!≫
ギガスキャンの準備が整った直後、遂に突入したのは”メダルの器・暴走形態”の内部。
下部にある巨大な水晶らしき箇所より入り込んだ先には、一面黄昏の様な奇妙な空間が広がっており、空間と外部の隔たりを現すかの如く円周状に巨大なメダルがゆっくりと回転している。
だがそんな幻想的なモンに浸っている場合ではない。
ギルとジュウヤミーは、紫の波動と、赤と青の砲撃を連発してくる。
『『―――ッ!』』
更に其処へもっと威力のあるであろう大きな一撃が飛ばされてくる。
オーズとブライは咄嗟に腕を盾にしようとしたが、それは無意味な動きとなる。
――ボガァァァン!!――
波動と砲撃は爆発した。
オーズとブライの眼前に現れた障害物に激突して。
そして、その障害物とは赤い翼と血塗れた翼。
「アンク・・・・・・!」
「七実・・・・・・!」
二人の目の前には、実像を伴った幻影がいた。
例え言葉を発することがなくとも、お互いの間に結ばれた思いの力の賜物とさえ言えただろう。
「我刀流究極奥義!」
ブライが今再び銀色の十二枚の翼を広げると同時に、ブライは二人となり、片方が前方でもう片方が後方に出現したのだ。
『ヌぁ・・・にィ・・・!?』
この事態に、ジュウヤミーはどうすることも出来ず混乱する。
そうやってブライは発動する。
SODOMにおける竜王との決着以来、一度として使っていなかった、あの奥義を。
影分身を応用して、前方からは七花八裂、後方からは劉殺生を。
そうして敵を確実で完膚なきまでに殺しつくす。
「「望語―――ッ!!」」
一人の敵を敵を七回殺す、七花八裂・改。
複数の忍法と技法を同時使役して目標を肉片に変える、忍法劉殺生。
――ズドガァァァアアアァァァン!!!!――
その二つの前後同時攻撃。
それによって、ジュウヤミーは断末魔さえあげる間も無く爆散した。
そしてオーズとアンクは。
「ハァァァ―――セイヤァァァア!!」
アンクの特大火炎攻撃と、タジャスピナーからのギガスキャニング弾。
その二つは一直線にギルを目指して突き進み、ギルの攻撃を火炎が相殺していくことによって。
『ぐおッ―――ウゥアアアアアアアアア!!!!』
恐竜コアによるギガスキャニングはギルの身体に見事命中。
それと同時に、ギルを中心とした円形の黒い孔が出現し、周囲の物体を吸い込みだす。
*****
地上のビル街。
『ふっっ!』
「せいっ!」
そこでは、ゼントウ完全体とクエス・ジベリヴァコンボが雌雄を決しようとしている。
――シュシュシュシュシュシュシュ・・・・・・ッ!――
――キンキンキンキンキンキンキン・・・・・・ッ!――
途中、クエスが投げつけた7本の手裏剣さえも、ゼントウは『針』の刃にて撃墜させる。
「ならば」
それを見たクエスは両腕に力を込めて、右手を地面に突っ込み、左手で空間に孔を穿つ。
天地を砕いてつかみ出した物、それは二丁の機関銃である。
「この時代での主力兵器か。――悪くない」
クエスは両の手に握られた”メダファイター”は、紫の銃身を鈍く光らせ、主のゴーサインを待ち受けている。
クエスはジャキという音を立てるようにして、両脇に獲物を挟んで引き金を指に・・・・・・。
――ズガガガガガガガガガガガガガガガッッ!!――
そうして発射され、音速を超えかねない勢いで、豪雨の如き銃弾はゼントウを襲う。
『くっ』
――キンキンキンキンキンキンキン!――
ゼントウはそれら全ての迎撃は早急に諦め、自分の急所に当たるであろう弾丸を的確に弾いた。
だが、その代償として身体の末端である手足には防御が行き届かずに手酷いダメージを負ってしまう。
「頑張っているところ申し訳ないが、さっさと終わらせてもらう」
クエスはそういって連射を中断し、両脇に挟んだ二丁のメダファイターのグリップやマガジンを折り畳み若干コンパクトにした。
そして、ガチャという音を立てながら、二丁の機関銃は連結する。
「確か、こういうのを、バズーカとか言うのであったな?」
言葉通り、それは二丁の機関銃を組み合わせて体を為したロケットバズーカ砲。
しかも肩に背負って使うほどに大きな物だ。
クエスは仮面の下で笑うと、オーメダルネストにある全てのセルメダルをメダファイターのメダル装填口へと流し込む。
≪GOKKUN!≫
装填が終了すると、砲身から月賦のような音が鳴る。
そして肩に背負って、畳まれたグリップとマガジンを下ろし掴んで見せる。
≪ZI・BE・LEVIA HISSATSU!≫
――カチッ――
トリガーの音が酷く乾いた聞こえた直後、
――ズグァァアアアアアァァァァン!!!!――
砲身から竜巻とさえ言えるほどの強烈極まりないエネルギーが迸った。
濃い紫の光を窶したソレは、極太の一撃必殺の威力を誇っているのは一目瞭然だ。
普通ならこんなものを眼にした瞬間に、大抵の者は勝利することに絶望するだろう。
だがしかし、目の前にいる剣聖は違った。
『薄刀開眼』
解き放たれた一太刀。
そのたった一振りによって、クエスの”デスバニッシュメント”が霧散した。
「なに?」
『すまぬがこの薄刀は、外見通りに脆く弱いだけではないのでござる』
「―――なるほど。お前の必殺剣といわけか」
クエスは大して驚かずに、メダファイターを地面に捨て置いた。
「そうとなれば、此方も奥義で応えるべきであろう」
≪SCANNING CHARGE≫
三枚のコアの力が解放され、全身に紫のエネルギーが満ち溢れていく。
頭からは怪鳥の大翼が力強く羽ばたきだし、両腕と両肩の悪魔の毒牙が鋭い刃を生やして伸ばし、両脚には大海獣の鱗が不気味な紫の炎を滲ませている。
「行くぞ」
『・・・・・・』
二人の間にあるのは一種の緊張感。
それも些細な物音一つで張り裂けるようなモノだ。
だがそんな物音を待つ必要はない。
なぜなら、
『薄刀開眼!』
「ラストテスタメント!」
とっくの昔に――既に勝負は始まっているのだから。
交差する紫の撃と美の刃。
一瞬にして距離と位置が逆転し、向かい合う形が背を向け合う形となる両者。
その激突の結果はと言うと、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・うっ」
クエスは比較的装甲が薄いわき腹を押さえ、片膝をついた。
一方で、その後ろにいるゼントウは刀と鞘を手にして立っている。
しかし、その姿からは勝利の歓喜を感じ得ない。
『拙者の・・・・・・』
――パリッ、パリッ、パリッ――
『負けでござるな―――』
体内で三枚のコアに重度のヒビが入ったことを認識し、ゼントウは倒れた。
その拍子に人間態へと戻り、挙句の果て薄刀『針』までもが、ガラス細工特有の音を儚げに立てて割れ果てた。
薄刀『針』――破壊。
「よくぞ、我が奥義を見破ったものでござるな」
「お前が砲撃を奥義とやらで斬り払ってくれた御陰だ」
クエスは倒れる白兵に歩み寄った。
「薄刀開眼は、『針』の透き通る程の薄さと軽さを利用し、姿の見えぬ高速の秘剣を同時に複数見舞う技。脆くて弱いだけの刀と思いきや、美麗さ以外にも取り得があったのだな。尤も、お前でしか従前に扱えぬ奥義であろうが」
クエスは一人勝手に説明を行いだす。
「そこを衝いて、私は全身の装備を最大限に発揮し、お前の太刀筋に敢て飛び込んである程度攻撃を受け、肉薄になったその身体に両の拳でぶん殴った。・・・・・・今更ながらに、こんな逝かれた戦法を取った自分が信じられん」
苦笑しながらクエスは語るも、白兵の顔には何か別の感情が浮いていた。
「ふ・・・・・・やはり、よいな」
「ん?」
「グリードとしてのくすんだ世界より、人としての鮮やかな世界・・・・・・」
白兵の表情には何処かスッキリとした色合いがあり、間違っても後悔なんてものは一片もない。
「どういう意味だ?」
「簡単でござる。拙者もデシレも、おぬしや虚刀のようにはなれぬ。ならば、人の姿である時だけでも人らしくあるため、魔術で誤魔化していただけのこと。異形の姿となれば、瞬く間に世界は色褪せる」
白兵の顔に、虚しくも儚い動きがあることをクエスは見逃さなかった。
「しかし、これほどの尋常な決闘において負けた、正々堂々と負けた。はっきり言って、心が軽くなったでござるよ」
「生まれ変わることがあれば、また幾度と無く挑むが良い。こう見えても私の信条は『輪廻転生』でな。こうして戦国の世以上に面白い戦に立ち会う機会を現代で得られたのだから、きっと来世でも―――」
クエスの言葉を耳にして、錆白兵は心底満足した一人の剣士として、最高の笑顔となった。
「錆まくりの、折れた刀で、あろうとも・・・・・・此度の戦い、拙者を欲望を満たしてくれた」
彼は最後の最後に、一言だけを言い遺す。
「さらばでござる。我が好敵手よ」
――ジャリィィン!!――
――パリン!パリン!パリン!――
そして、錆白兵は無数のセルメダルと三枚のフォース・コアと己がコアメダルの塊として崩れていった。
その中から三枚、バラ・サソリ・オオカミのコアメダルが一枚ずつ砕け散り、消滅していった。
全刀『錆』――破壊。
*****
メダルの器・暴走形態。
その内部において、世界ではない別の終末が始まっていた。
『ああ、私の終末・・・・・・私が完成してしまう―――』
『ン、ぐ、おぉ!アァ!』
ギガスキャンにより、虚無属性が最大限に増幅された一撃。
それによって、ギルの身体に小規模なブラックホールが生じてしまい、ギル自身とジュウヤミーに、永遠に明かない暗くて冷たい黒い闇の終末を齎したのだ。
周囲のオーメダルたちも、ブラックホールにどんどん吸い寄せられていく。
その証拠に、メダルの器は内側から押しつぶされるように形を損なっていく。
コアもセルも、みな等しくブラックホールに吸い込まれていく中、
「―――あっ」
タジャスピナーに収まっていた7枚の恐竜コアまで、ブラックホールに飲み込まれた。
しかも飲み込まれる直前、孔から発生している高密度のエネルギーによって砕けていく。
「(ま、拙い!)」
それを見たブライは急いでローグカテドラルを右手で覆い隠し、コアを持っていかれないようにする。
「火野!逃げるぞ!」
「は、はい!」
残った左手でオーズの腕を引き、共に逃げようとしたが、
――バシュ!――
そんな音と一緒に、オーカテドラルに収まっていたタジャドルのコアメダルが全て・・・・・・。
「アンクっ!!」
――パリンッ!――
その時、タカ・コアが小気味良く音を立てて、真っ二つに割れた。
そして、
――ドカァァァァァアアアアアアアァァァァァン!!!!――
メダルの器・暴走形態は、空中にて派手な大爆発の果てに完全消滅した。
「――――――――――」
コアを全てなくし変身が解けてしまった映司は、空の上に放り投げられて、地上へと落ちていく。
意識などロクに残っておらず、このまま重力に従って落下していくのかと思いきや、
パシパシ、と映司の頬を叩く音と感触。
『映司!目ぇ覚ませ!死ぬぞ!』
映司の胸倉を掴みながら怒号を飛ばすのは、右腕だけのアンク。
「―――アンク?」
普通、コアメダルが壊れたのにどうして?とかいう疑問がでてきそうだが、
「もういいよ。もう無理だ。――お前こそ」
映司の口からは、諦めの言葉が発せられた。
『ふっ、俺はいい。欲しかったモノも手に入った』
「それって命だろ?――死んだら・・・・・・」
『そうだ。お前たちといる間にタダのメダルの塊が死ぬトコまで来た。――こんな面白い、満足できることがあるか』
「・・・・・・・・・・・・」
このままでは地面に激突してお陀仏だということも忘れて、映司はアンクの最期の言葉に聞き入っていた。
『お前を選んだのは、俺にとって得だった。間違いなくな』
などと言いながら、アンクはゆっくりと前に進んでいく。
「おい!どこ行くんだよ!?」
そんなアンクに映司が手を伸ばすと、アンクは振り返る。
『お前が掴む腕は、もう俺じゃないってことだ』
その遺言を最期にアンクは死んだ。
必死に伸ばした映司の手に、アンクの幻影が掴めるはずもない。
代わりに掴むことができたのは、真っ二つに割れたタカ・コアの片割れ。
「ッ―――アンクぅぅぅううううう!!!!」
*****
地上の廃材置き場。
メダルの器の大爆発を見た比奈は、その直下にあたるこの場所に走って出向いてきた。
そこで眼にしたのは、
「―――――――」
信吾に取り付いた際のアンクの姿。
何も言わず、ただ満足そうな微笑だけを顔に浮かべるそれは、次第に色も形も失い消えていく。
そして消失した幻影の跡には、タカ・コアの片割れが遺された。
比奈は歩み寄り、その片割れを手にとって、
「アンク・・・・・・ありがとう・・・・・・」
身命を賭してこの世界を守ってくれた知人に、最大級の感謝を贈った。
しかしながら、その静寂な時間を破り捨てるように、無残とも剛毅とも言える絶叫が聞こえてきた。
「うああああああああああああああああああああ!!!!」
空から凄まじい勢いで、まるで隕石のように落下してくる者。
「は、鋼さん!?」
それは紛れも無くブライだ。
彼は絶叫を発してから30秒と経たぬ内に、ズドン!という鈍く重い物音を地面一杯に打ち鳴らしながら、廃材置き場に落下してきた。
落ちた場所にはクレーターが出来上がっているあたりからして、彼に対してだけ如何に爆発の衝撃が加わったかがよくわかる。
「だ、大丈夫ですか!?」
比奈は急いで駆け寄ろうとしたが、
「心配すんな!お前を火野を!」
ブライは神業的で驚異的な生命力によってすぐさま面をあげ、比奈にそう告げる。
*****
「火野!!」
「――――ッ」
空の上で、映司に向けて叫ぶものがいた。
「掴まれ!早く!」
「後藤さん!!」
振り向いた先には、カッターウイングで飛行するリバースの姿。
「もう何でも一人でショイ込むのは止めろ!!俺達がいる、俺達の腕を掴め!!」
そう言って腕を伸ばしてくるリバース。
だが腕を伸ばしてくるのは彼だけではない。
「火野ォォ!!」
「映司くん!!」
「火野さん!!」
「映司くん!!」
「火野ォォ!!」
「火野ぉぉ!!」
伊達が、比奈が、里中が、知世子が、烈火が、竜王が。
仲間達が地上で寄り添い会うように集まり、火野映司に手を差し伸べている。
「映司くん!!」
「大丈夫だから!ドーンと来なさい!!」
「誰にも頼らないってのは、強いことじゃねぇぞ!!」
「火野さん!此処ですから!!」
「早く来やがれ!この強情野郎!!」
「私たちを信じろ、火野!!」
地上で自分の為に必死になって腕を伸ばしてくれている仲間。
それを目の当たりにした映司は、一つの結論に達する。
(俺が欲しかった力・・・・・・どこまでも届く俺の腕―――それって)
――ガシッ――
映司は自らの腕を伸ばし、自分に力を貸してくれる仲間のソレを掴んだ。
(こうすれば、手に入ったんだ)
あまりにも近くにありすぎたことで、灯台下暗しとなっていたモノ。
それこそが、映司の欲しかった力――仲間との絆であった。
仲間の力によって緩やかに降下する映司。
そんな映司のもう片方の腕を、仲間達は暖かな手で迎えてくれる。
(―――でも、お前の手を掴んだのも、絶対間違いじゃなかった。――絶対・・・・・・!)
映司はタカの片割れを深く握り締め、今は亡き仲間のことを想った。
白い雲と青い空を見上げながら。
「・・・・・・アンク・・・・・・」
静かに呟かれた名前。
映司はそんな風にアンクのことを考えていた。
しかし、そこで一つ気が付いた。
先ほど、自分に手を伸ばしてくれた者の中に、刃介の姿が無かったことを。
(そうだ、鋼さん・・・・・・)
映司は首を動かしてキョロキョロと周囲を見回す。
すると、映司らとは若干距離の空いた場所で、刃介の姿が見えた。
その腕に、今にも消え果ててしまいそうな、七実の身体を抱き締めながら。
「七実・・・・・・」
「刃介さん・・・・・・」
お互いの名前を呼び合い、二人は互いを抱き締める力を強めていく。
「もう、そろそろ、限界のようです」
ベルトのコアと地上に残ったメダルで身体を再構成した七実だが、先ほどの戦闘によってリュウ・コアのダメージはより大きくなっていた。
「頼む、消えないでくれ・・・・・・!」
「消えるんじゃありません。生きて死ぬんです。今度は、刀として、十全に使命をまっとう出来ました。感謝しても、しきれません」
大粒の涙を流しながら懇願する刃介に、七実は儚い笑顔で彼を慰める。
「うふふ。それにしても不思議ですね。かつての私は、死んでいた方が楽ちんだと思っていたのですが」
生きるということは、起きて、歩いて、喋って、食べて、戦って、寝て―――様々なことが要求され、以前の七実はそれら全てに煩わしさを感じていた。
「死んでいくことを考える方が、未来を見据えることだと思っていたのに」
悟りを開いたかのように、彼女は口を開き続ける。
「今は、この苦労と世界が、本当に愛しくてたまらない」
「だったら死ぬんじゃねぇ!その為なら俺は何でもする!神様の面に拳を叩き込んでやる!」
刃介が依然として涙を流したまま、怒号を飛ばした。
しかし、何時もの迫力は無く、そこには一重に恋人の命を心配する優しい青年の顔がある。
「でしたら、まずは・・・・・・誰かに、仲間に頼ることを覚えて下さい」
七実は何処かしら期待を持つような声で呻くと、刃介の胸に手を当てる。
「うッ―――なっ・・・・・・!?」
その瞬間に、刃介は七実の手から得体の知れない力が体内に流れ込み、次々と大半のコアメダルの力が・・・・・・。
「封印、だと?――バカ野郎!こんな真似したら、お前は!」
「確かにこの状態で力を使えば時間は更に減るでしょう。でも刃介さん、私は貴方に―――かふっ!」
「七実!!」
寿命が尽きる寸前であることを示すように、七実は口から吐血した。
「もういい喋るな!!俺はもう何も要らない!俺はお前が傍に居てくれれば、それで満足なんだ!!だから、くだばるんじゃねぇ!!」
痛ましい恋人の姿に、刃介は獣のように吼えた。
「ありがとう、刃介さん。私を必要としてくれて」
「頼む、死なないでくれ・・・・・・!」
「ありがとう。私を愛してくれて」
「死なないでくれ、七実・・・・・・傍に、いてくれ」
刃介は七実の身体を必死に抱き寄せ、両目から悲哀の雫を河川のように流して顔を濡らし続ける。
抱き寄せられた七実は、愛しい恋人の温もりを直接感じ取りながら、何の迷いも悔いもない、安らかで穏やかな笑顔で感謝し続ける。
「満足を一杯、ありがとう」
そうして、ジャリン、という金属音が無造作に響いた。
後に残ったのは、有象無象のセルメダルの山、封印されて石化した妖魔系コアと龍神系コアと五枚のフォース・コア。
そして、刃介の手に握られた――紫水晶の指輪と、真っ二つに割れたリュウ・コア。
「っっ―――七実ぃぃぃぃぃいいいいいいいいいい!!!!」
天に向う一人の嘆きの咆哮。
力を失ったことではなく、たった一人の女を喪ったことへの悲しみの涙が、頬から落ちて地面を僅かに濡らした。
その様子の全てを見届けていた仲間達は全員、ひたすたに涙を流した。
露骨に大粒の雫を零し続けるもの、哀しげな顔で静かに泣く者、地面に座り伏して顔を覆い隠すように大泣きするもの。
この日この時、世界は確かに救われた。
そしてその代価は、『命を得た欲望の鳥』と『幸せを得た刀たる女』であった。
*****
あれから随分と時間が経ち、色んなことがあった。
かつてのメンバー達は、元居た場所へと戻っていた。
信吾は刑事として復職し、元気に働いている。
比奈も服飾学校での勉強に今一度熱を入れて、夢を叶える道を創ろうとしている。
後藤は財団から警察へと戻り、今では凶悪犯罪者と日夜戦っている。
伊達は日本から離れ、医療の遅れた国や医者の居ない国において、様々な人達を治療する為に奮闘している。
鴻上ファウンデーションも何時ものように、欲望を原動力に高度な成長を続けている。
そんでもって、他の面々はというと、
*****
トライブ財閥社員寮の玄関。
「今までお世話になりました」
「いえいえ、こちらこそ」
そこには荷物を纏めて出て行く金女の姿があった。
目の前には管理人と思われる年配の人物がいる。
「それにしても、一体どんな仕事する為に雇われてたんだい?」
管理人が聞くと、金女は聖女のような麗しい笑顔と無垢な仕草で、
「不言――禁則事項です♪」
さりげに有名な名台詞を口にして、アニオタっぷりを披露していた。
*****
とある高校の教室。
「烈火!新しい絵本できたんだけど、良いかな?」
「おう。柳の頼みだ、楽しみにさせてもらうぜ」
あの激戦を終え、花菱烈火は何時もの平和を享受していた。
恋人である佐古下柳との時間は、彼にとって癒しの時間である。
「烈火、柳。何話してんの?私たちも混ぜなよ♪」
「つーか聞こえたぞ!烈火、俺様が必死こいてアシスタントさせられて仕上がった絵本の感想を言ってみやがれ!」
「全く君達は。今度は何をバカ騒ぎしてるんだ?」
そこへ、級友の霧沢風子、石島土門、水鏡凍季也も乱入してくる。
何処にでもありそうな普通の光景。
だが、一度でも戦場や非日常を目に焼き付けた者は揃ってこう言う筈だ。
”この平和で賑やかな時間こそが、最も貴く輝かしい”
*****
トライブ財閥本社の会長室。
その部屋に堂々と据え置かれた会長の椅子と机。
だがそこに主人の姿はなく、
「会長代理ぃ。また二つの組織から情報提示を願う通達っすよ」
「またですか・・・・・・」
通達状を運んできた凍空吹雪。
その視線の先には、会長の椅子に座り、机に向って事務作業をするバット・ダークの姿がある。
しかも机には、『会長秘書兼会長代理』などというプラカードがぶら下っている。
「そんで、返事の方どうするっすか?」
「・・・・・・今度また口を挟んできたら、貴方達のお国を大恐慌にすると伝えなさい」
会長代理の権限を得ているバットは、若干間を空けて命令した。
「ふぅ・・・・・・会長ときたら、本当に大胆なことをなさる・・・・・・」
溜息を吐き出しながら、バットは主である吸血鬼のことを考えていた。
*****
クスクシエ。
あの戦いを生き延びた仲間たちは、今一度ここに集った。
扉を開けると、そこにはインド風の格好をした知世子が元気よく迎えてくれた。
比奈、信吾、知世子、後藤、伊達、烈火、金女、里中。
それから、柳、風子、土門、水鏡、陽炎。
皆は戦いの後の平凡な毎日を話し合い、底抜けに明るい笑顔で讃えあった。
ご馳走を食べて飲んで、本当に満ちたりた時間を過ごす。
だがそんな時、知世子があるサプライズを用意しているという。
テーブルの上にあるモノが置かれており、年季の入った布で覆い隠されていたのがソレである。
知世子はもったいぶる様に布をユラユラと動かし、一気に布を取り外す。
すると一同から驚きと歓喜の声が一斉に発せられた。
そこにあるのは二台のテレビ電話。
そして小さな液晶に映し出されているのは、海外の砂漠地帯にいる映司と、空港のロビーにいる刃介と竜王とルナイトだった。
あの決戦の日から数日後、映司は再び旅に出たのだ。
欲望を取り戻し、求めたものを手に入れて、明日のパンツと日銭を頼りに。
刃介たちもまた、新しい目的を果たす為に、これから旅立とうとしている。
新しい欲望を、その心に刻んで。
*****
「じゃあ皆、またね!」
映司はそう言って手を振り、テレビ電話のスイッチを切ってポケットに入れた。
そして立ち上がり、明日のパンツをかけた長い木の枝の棒をその手に持って歩みだそうとする。
だがその前に、ある物を見つめた。
割れたタカ・コアを掌にのせて―――。
「いつか・・・・・・もう一度―――!」
映司は歩き出す。
砂を踏み、確かな足跡を残しながら。
空虚だった器を、仲間との再会という願いで満たしながら。
*****
「ではまた会おう」
「じゃーねぇ、みんな〜」
「それじゃあ、通話切るぜ」
空港のロビーである程度のことを語りつくし、三人はテレビ電話の電源を切る。
三人の周囲には多くの荷物があり、殆どが大型ケースに収められている。
「さてと、そんじゃまあ」
白髪頭、黒い着流しに黒いズボン。首には梵字が彫られた十字架をペンダントのようにかけ、両の薬指には紫水晶の指輪をしている男――鋼刃介は、ゆっくりと立ち上がる。
「行くとしようか。海の外の世界へ」
それに合わせて、白菊模様の黒い上等な着物を身に纏い、流麗なる黒い長髪をポニーテールにした、凛々しい和風美女――真庭竜王は、期待に胸を膨らませるように言った。
「そうね。何時までも自家用機を待たせたら、空港の滑走路の一部をチャーターする料金もバカにならないもの」
美しいブロンドロングストレートヘアーと澄んだ緑色の瞳。
男を惑わす妖艶な顔立ちに、礼服姿でも目立つ豊満な爆乳といった、男を惑わす色香を纏った美女――ルナイト・ブラッドレイン・シルフィードは、素敵な笑顔で凄い台詞を言ってくる。
一同は荷物を手に持って、自家用機へと続く通路を歩いていく。
そんな時、刃介は不意に足を止めて、両前腕部をグリード化させてある物を取り出す。
それは、割れたリュウ・コア。
「―――――――」
七実のかけた封印によって刃介は力の大半を喪失しており、今では約2割未満しかグリードの力を使えない。しかもこの封印は相当に強固かつ高度で神代レベルの術者か、封印をかけた当人でなければ、解放することはできないらしい。
尤もそれでも、未だに刃介がグリードであり人間であることは変わりないのだが。
要するに、今となってはコアの力による変身が出来るのは竜王のクエスのみである。
封印されていないコアメダルは、一枚ずつ欠けた植物系・甲殻類系・犬系のコアと、ジズ・ベヒモス・リヴァイアサンの三枚と、竜王の体内に秘められた五系統による十五枚。
「俺は、絶対に・・・・・・」
新しい欲望は、割れたリュウ・コアを――鑢七実を復活させること。
無論、日本においてもその方法はないかと探したが、糸口さえ掴めていない。
だから三人は出国して旅をするのだ。
自分が今、一番欲しいものを取り戻すために。
「待っていてくれよ七実。今はコレが俺の欲望なんだからよ」
誇らしげに、刃介がリュウ・コアに告げた。
「何やっているのだ刃介?」
「早くしなきゃダメよ?」
「ああ、今直ぐに行く」
刃介は何時の間にか先に行っていた二人を追う様に歩き出した。
「(頼りにしてるぜ、お前ら)」
旅の最中、刃介は目の前にいる二人には色んな場所で手を貸してもらうつもりだ。
七実の言い遺した通り――仲間に頼り、共に力を合わせるために。
当たり前の望みを持ちながら、それを叶えられずに散って逝ったグリード。
大きすぎる欲望による悲哀と儚さを体現した者たち。
そこには救いがあったかどうかはわからない。それでも、同じグリードでありながら答えを得て、望みを果たして逝ったグリードもいる。
生きて死ぬ命を得たアンクと、刀としての忠勇を尽くし女としての幸福を得た七実。
その願いの成就はきっと、誰もが望んだことでした。
欲望―――それは生命を強く、弱く、醜く、美しくするモノ。
例えどれほどの才能と努力を以ってしても叶わない欲望もあるだろう。
だがそれでも、自分以外の誰かがそれを望んだとき、理想は必ず叶う。
そんな夢と希望に満ち溢れた、未来を掴み取る前向きな物語。
望語は、ここに静かに幕を下ろすのでございます。
ジベリヴァコンボ
身長:215cm 体重:97kg キック力:25トン パンチ力:20トン
ジャンプ力:230m 走力:100mを3.5秒 固有能力:環境改変能力
カラー:紫 必殺技:ラストテスタメント
ジズヘッド
複眼の色は翠緑。エアーズフラッグという巨大な翼を生やしての飛行や羽ばたきによる攻撃が可能。空の属性を司っている。
ベヒモスアーム
両腕と両肩に牙の形をした刃、デビルファングを生やすことで、敵の捕縛や攻撃の補助を行う。地の属性を司っている。
リヴァイアサンレッグ
脚部に不気味な紫の鱗、シーズスケイルを発生させて高密度のエネルギーを込め、硬度や鱗の鋭利さの上昇によって蹴りを補強する。海の属性を司っている。
メダファイター
クエス・ジベリヴァコンボ専用の機関銃型メダルウェポン。
最初は二丁の機関銃としてクエスの手によって地面と空間から引き摺り出される。
初期形態でも、その高速連射によって敵を遠距離から圧倒する戦法が可能になる。
また、二丁を組み立てて一つとすることで、ロケットバズーカ形態となり、セルメダルを投入することで必殺砲撃「デスバニッシュメント」を発射する。
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