MOVIE大戦CORE
風と『欲望』の物語。
欲望と刀と歴史の物語。
かつてのソレがあったように、今再び二つの歴史が交わる。
二組の仮面ライダーの戦いは、地球の中心「核」へ・・・・・・!
MOVIE大戦CORE
『『ィィァァ・・・・・・!』』
メモリーメモリとパストメモリを通して、何かの力を集めているプテラヤミーとキョウケンヤミー。
だが、その時は意外なものによって阻まれた。
――バシッ!――
ヤミーを弾き飛ばし、ガイアメモリを奪ったのは、コアメダルだった。
メモリーメモリには、サソリ・カニ・エビが刻まれた黒い甲殻類のコアメダル。
パストメモリには、虹色のメダル三枚と黒ずんだソウル・コア一枚。
『『良い物を見つけた!』』
コアメダルは、コアだけの状態で言葉を発し、メモリを我が物とする。
『『変身・・・・・・ッ!!』』
すると、メモリとメダルがお互いに一つとなり、巨大な二体の異形となって現出する。
唸り声を上げながら現れたそれの存在感は、体躯と同じく余りにも大きすぎた。
そこへ翔太朗やゼロたちが駆けつける。
「なんなんだよアリャ?」
「―――仮面ライダーだよ・・・・・・」
翔太朗の言葉に、亜樹子が答えた。
仮面ライダーの姿をとった巨大な異形はその雄々しい姿を見せ付けるように、語りかけてくる。
『我等は、暗い闇の心を糧とし、戦う戦士!――異形となった悲しみを、憎しみの力に変える者!』
『そして、黒き負の情念を、体現する戦士!――醜く愚かな欲望により起こる、嘆きを伝える者!』
片方は、全身を赤々とした高熱の炎を鎧のように纏わせている。
まるで1号ライダーのような形態と、炎によるマフラーをしているが、右上腕と左太腿から左膝にかけては実体化しておらず空っぽで、燃え盛る炎があるだけだ。
もう片方は、岩石の素体を絶対零度の青白い冷気で包み込んでいる。
これもまた1号ライダーを模した形態と、冷気によるマフラーをしているが、こちらは左上腕と右太腿から右膝にかけてが実体化しておらず空っぽで、凍えそうな冷気があるだけだ。
しかしそれでも、この二つの巨大な異形の顔と姿・・・・・・なにより、腰部分に巻かれている、バックルが特徴的なベルトを見れば、もう疑う余地は無い。
『我が名は――仮面ライダー、コア!!』
『我が名は――仮面ライダー、クラスト!!』
名乗りを挙げた二人の――究極の巨大ダークライダー。
少なく見積もっても、20m以上はあるような得体の知れない敵の出現に、その場にいる全員が固まった。
特に、
「やだ・・・・・・ヤダヤダもう冗談じゃない!!」
「まさか、こんな・・・・・・ライダーまで・・・・・・」
亜樹子とヴィヴィオは、完全にコアとクラストの存在に気おされていた。
『う、うう、ああっ』
『に、逃げろ!!』
プテラヤミーとキョウケンヤミーも場の雰囲気で、恐怖の余りに撤退してしまう。
そして、
『『ンンンオオオオオ!!』』
「所長!!」
「ヴィヴィオ!!」
コアとクラストの腕が振るわれ、亜樹子とヴィヴィオの立っていた場所が破壊されようとしたとき、
――バッ!――
良い人そうな青年が亜樹子を助け。
――ゲシッ!――
白髪の男がヴィヴィオを蹴飛ばした。
「イッタ〜〜い!」
「ハハッ、それだけ言えれば上出来だな」
ヴィヴィオは蹴られた部分(わき腹)を摩り、白髪の男はそれを見て軽く笑っている。
「大丈夫?」
「・・・・・・?」
一方で、良い人そうな青年が亜樹子に問うと、亜樹子は青年が装着しているベルトを見つける。
そして、白髪の男がしているベルトも。
「また仮面ライダー?――好い加減にしてッ!」
亜樹子はついに逆ギレを起こしてしまい、憤慨したように立ち上がる。
「仮面ライダーがいるから、危険で辛い事ばっかり起こるのよ!――お父さんだって!・・・・・・お父さんだって、仮面ライダーにならなきゃ・・・・・・」
最後には泣きそうな表情になる亜樹子。
青年は何とか泣くのを辞めさせようと立ち上がるも、
「ウザいっ」
――ドン!――
「イタっ!」
白髪の男が、亜樹子の脳天に手刀をかました。
「なっ――行き成り何すんのよ!」
亜樹子は怒鳴るが、白髪の男はそれを押し返す勢いで怒鳴った。
「起こったことを何時までもビービーと喚いてんじゃねぇよ!!――例えライダーが居なくとも、人の欲望がある限り、泣きたいことなんざ幾らでもある。・・・・・・お前の親父さんは、その泣きてぇ事の一つと、体張って立ち向かったんじゃないのか?」
コアとクラストが歩くたび、腕を振るうたび、全てのものが焼けやり凍ったりしてる中、刃介は説く。
「うん。君のお父さんも、きっと戦い続けることを望んだんだよ」
「・・・・・・どうして?」
亜樹子が青年に問うと、今度は白髪の男が言う。
「それがお前の親父さんの決断だったんじゃないか?どんだけ心身を八つ裂きにされようと、何かの為に、戦ったんだと思うぜ」
白髪の男は、亜樹子とヴィヴィオを見据えていった。
「それが例え、血の海に溺れ、地獄に沈んでもだ」
壮吉やレイズ以上に、数多くの血と罪を被ってきた男だからこその言葉。
彼は亜樹子とヴィヴィオから目線を外し、暴れ回るコアとクラストを見る。
それは、良い人そうな青年も同じだった。
「兎に角あいつらを止めないと」
そうすると、ゼロたちが彼等の前に現れる。
「まーた世話になっちまったな・・・・・・オーズ」
「力を合わせよう!」
「ブライよ。今一度、私たちと共に戦ってくれ」
「仮面ライダーとして」
二組の問いかけに、当然二人は無言で頷いた。
しかし、
「あ、そうそう。一つ忘れてたな。――俺等さ、本名知り合ってなくね?」
白髪の男がそういうと、
「左翔太朗・・・・・・探偵だ」
「僕は相棒のフィリップ!」
「私は『欲望』喰らいの魔人、無限ゼロ」
「そしてその妻、リインフォース」
風都組は名乗った。
「我刀流二十代目当主、鋼刃介」
「俺は火野映司って言います!」
彼等も名乗った。
そして、
【CYCLONE】
【JOKER】
【MAGICAL】
【LEADER】
四本のガイアメモリが囁き、
――キンキンキィィィン!!――
メダルを読み取る金属音まですると、
「「「「「「変身―――ッ!!」」」」」」
≪TAKA・TORA・BATTA≫
≪TA・TO・BA!TATOBA!TA・TO・BA!≫
仮面ライダーオーズ・タトバコンボ!
≪RYU・ONI・TENBA≫
≪RI・O・TE!RIOTE!RI・O・TE!≫
仮面ライダーブライ・リオテコンボ!
【CYCLONE/JOKER】
仮面ライダーW・サイクロンジョーカー!
【MAGICAL/LEADER】
仮面ライダーイーヴィル・マジカルリーダー!
四人の仮面ライダーが今此処に、肩を並べて戦うときが来た。
「行こう!」
「ああ」
四人のライダーは変身を終えると、すぐに走り出してコアとクラストに飛びかかる。
だが、
『『フアアッ!!』』
あの巨体で振るわれる力の前には、四人のライダーも取り付く島がない。
もう一度跳躍して攻撃を試みても、
『『フウウゥゥン!!』』
またしても振り払われる。
今度は建物の影に吹っ飛ばされるが、
『『ウオオオオオ!!』』
「「「「うわあああああ!!」」」」
コアとクラストはその建物の一部を蹴り、四人のライダーをまた吹き飛ばす。
初っ端からかなりの劣勢だ。
『これが仮面ライダーのおぞましき力だ!』
『活目せよ!我等と言う絶望の力をなぁ!』
コアとクラストはそう叫び、地面に腕を突っ込んで大きな穴をあける。
巨大な穴――そこから緑色と白銀の光が溢れ、コアとクラストの身にあたる。
するとどうだろうか、
『『―――ハアアアアアアアアアアッッ!!』』
コアとクラストから、緑と銀の光線が発射され、ライダー四人の付近は勿論、海を越えた先にある街にまで命中した。
光線が命中した箇所は、瞬く間に紅蓮の炎による爆発や、冷気による凍結などが起こっているなど、常識破りな威力を誇っている。
「なんだよこのパワー!?手がつけらんないぞ!」
「落ち着け。何かトリックの種があるはずだ」
慌てるオーズをおさめるブライ。
するとWとイーヴィルが、
『あの光・・・そしてコア・・・』
『もしかして、奴等の力の源泉は地球の中心にあるのかもしれない!』
ガイアメモリの深い知識がなければ出来ない、ぶっとんだ発想が出てきた。
「えっ?地球の中心って、地面の下?」
「おいおい、潜るのはいいいが、途中で熱と圧力でどうにかならないよな?」
『だが破壊する・・・・・・それ以外に勝利する方法はない』
『来てくれるかね?オーズ、ブライ』
四人がそうしてると、
『『ンンンンンンンンンン!!!』』
コアは塔の天辺にのぼり、クラストはその直下で、光線を円周状に振りまいている。
正直な話、このままでは風都も夢見町も破滅を迎える。
ライダー達のとった行動は、
【XTREME】
【GOLD・MAXIMUM DRIVE】
Wはまずエクストリームメモリでサイクロンジョーカーエクストリームに強化変身すると、ゴールドメモリをマキシマムスロットに挿入してサイクロンジョーカーゴールドエクストリームに二段強化変身した!
【MAGICAL/WISEMAN】
【XCELION】
イーヴィルも、まずはマジカルワイズマンにハーフチェンジすると、今度はエクセリオンメモリでマジカルワイズマンエクセリオンに強化変身した!
≪LION・TORA・CHEETAH≫
≪LATA・LATA!LATORARTAR!≫
オーズは、ライオンの頭、トラの腕、チーターの足をした、黄色い猫系のラトラーターコンボにチェンジする!
≪HAYABUSA・HOUOU・YATAGARASU≫
≪HAOURASU!≫
ブライは、隼の頭、鳳凰の腕、八咫烏の足――紅蓮の鳥類系、ハオウラスコンボへとチェンジしてみせたのだ!
姿を変えると同時に、彼等のビークルが現れる。
Wのハードタービュラー。
イーヴィルのイビルホイーラー。
オーズのライドベンダー。
ブライのシェードーフォーゼ。
「だったら行くしかないでしょ!」
「全くだぜ!」
オーズとブライはカンドロイドをビークルに投げつけた。
すると、ライドベンダーがトラカンドロイドと合体変形し、トライドベンダーに!
シェードフォーゼは、ハヤブサカン・ホウオウカン・ヤタガラスカンの三つと合体変形しては真紅となり、飛行特化型の”シェードフェニックス”となった!
四人はそれぞれのマシンに跨ると、そのまま空を飛びながら、コアとクラストがあけた大穴へと飛び込んでいく。
『『生意気な、させんぞ!脆弱な仮面ライダーども!!』』
コアとクラストは、四人のあとを追うべく、下半身はバイクに変貌させて大穴へと飛び込んだ。
*****
その頃、ヴィヴィオたちはというと、
『『ヒャーーーーーハッ!!』』
プテラヤミーとキョウケンヤミーに追いつかれていた。
『おのれ・・・!』
『折角貯めた力を奪われた・・・・・・!』
『『お前等の所為だぁぁぁ!!』』
八つ当たりもいい所な動機で二体のヤミーは三人に襲い掛かろうとする。
*****
一方でブライたちは、現在もマシンに乗りながら地球の中心を目指して飛んでいた。
当然、無事に着くはずはなく、
『フンッ!!』
『オオオッ!!』
『『ハアアアッ!!』』
コアとクラストが力任せに追走してきて腕を伸ばしてくる。
しかし、それでも逃げながら進んで生けるのは、一重にこの四人のテクニックあればこそだろう。
本来なら光の一片さえ届かない空間を、ビークルのライトと、コアやクラストが発する光を頼りに進んでいくライダー達は、遂に奇妙な光が出ていると思われる箇所を発見した。
「あれだ!」
明らかに人工ではない光。
そこへ向って飛んでいくライダーたちは、険しい障害物を難なく避けて進行した。
『『ウオ・・・・・・!?』』
尤も、コアとクラストはその巨大さが仇となって、網の目ように突き出た巨大鍾乳石に引っ掛かってしまう。
そして、
≪TAKA・TORA・BATTA≫
≪TA・TO・BA!TATOBA!TA・TO・BA!≫
≪RYU・ONI・TENBA≫
≪RI・O・TE!RIOTE!RI・O・TE!≫
オーズとブライは基本形態に戻りながら、Wやイーヴィルと一緒にバイクを降りて地に降り立った。
そこで四人が見たものとは、
「やはり地球記憶の泉が結晶化したものだ」
「それに次元記憶の結晶まで、空間の歪みで現れている」
緑の美しい光を放つ、山のように巨大な鉱石。
銀の美しい光を放つ、山のように巨大な鉱石。
「ダークライダーの悪しき魂が、ガイアメモリを通して此処からエネルギーを引き出している」
イーヴィルが状況を簡潔に説明した。
『あんな面倒なバケモノをつくりだすとはなぁ。それなりに力はあるってことか』
「それなりってレベ―――――」
なんだか聞きなれない声にWはとりあえず返答しながら姿を見ようとすると、そこには異形の赤い腕が宙に浮かんでいた。
「―――NOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!なな、なんだその腕みたいなの!?」
翔太朗はアンクの姿をみて大いに取り乱した。
「ビビりだな左よ。魔界では腕だけになるという体験は、大半の下級魔人がしているぞ」
「どんだけ暴虐な世界!?」
さりげにゼロがかました魔界トークにもツッコム。
「あ、あのー。こ、こいつのことは、気に・・・しないで」
『って、おい!』
「いやいや、気になんだろうオイ!!手だぞぉ!!」
Wはこれでもかというくらいに取り乱す。
「ったくよ、コア一枚だけで右腕しか復活できてないグリードなんて人間にも劣るんだぜ?一々驚いてんじゃないっつの」
『うふふ、怖がりな殿方なのですね』
ブライがアンクを指差しながら言っていると、後ろから聞き慣れた声が。
振り向くとそこには、龍の頭と翼と宝玉を生やし、鬼の如く屈強な上半身と天馬のように精錬された脚をした異形がいたのだ。
「な、七実!何時の間に?」
『今さっき到着いたしました』
「えッ、新しいグリード!?」
『しかも、俺さえ知らない奴だと!?』
七実は怪人形態であるキョトウの姿でここまでやってきたのか、背中に生えている翼を広げている状態だ。
当然、見知らぬグリードの登場に、オーズとアンクは驚く。
『詳しい自己紹介はまた何時かです。刃介さん、急いでアレを』
「ああ、そうだったな」
キョトウの言葉で、みなは漸く本題を思い出し、それぞれの武器を取り出す。
「「プリズムビッカーゴールド」」
「「ネクサスブレイブ」」
【PRISM】
【NEXUS】
Wとイーヴィルは、攻守を兼ねた矛と盾を出現させ、ゴールドプリズムソードとネクサスソードに、プリズムメモリとネクサスメモリをインサートする。
ブライとオーズも、三枚のセルメダルをメダジャリバーとメダマガンに投入した。
【CYCLONE/HEAT/LUNA/TRIGGER/METAL/JOKER・MAXIMUM DRIVE】
【MAGICAL/EVIL/ZODIAC/NAIL/HOPPER/WISEMAN・MAXIMUM DRIVE】
Wはゴールドビッカーシールドに六本のガイアメモリを、イーヴィルもブレイブシールドに六本のガイアメモリをインサートする。
≪≪TRIPLE・SCANNING CHARGE≫≫
ブライとオーズは、早速セルをスキャンして力を解放する。
まずは、Wとオーズが先攻する。
「「「オオオオオオオッ!!」」」
思いきり助走をつけてジャンプし、
「「「ハアアッ!!」」」
二つの斬撃を交えて、地球記憶の泉の結晶を完璧に砕いた。
後攻には、ブライとイーヴィル。
「「ブレイブボルテックストーム!!」」
「「ぶちまけろ!!」
此方は遠距離攻撃によって、次元記憶の結晶に攻撃し、これまた粉砕した。
これでコアとクラストへの力の供給はなくなった。
しかし、
――ドガァァァアアアァァァン!!!――
そこへコアとブラストが厚い岩の壁を破壊して此処へ突入してきたのだ。
四人は武器を構えるも、それさえ無謀だと言うかのように、コアとクラストは下半身は人型に戻すと、
『『ウゥゥオオオオオ!!』』
――バアアァァァアアアァァァン!!!!――
光線を放って四人がいる足場を粉々に破壊したのだ。
「「「「うわあああああああ!!」」」」
何十メートルもの高さからおとされたようで、先ほどの場所のような光はない、薄暗い場所に来ていた。
しかし、此処にはどうやら湖のような地下水が溜まっていることだけがわかった。
コアとクラストはその地下の湖に降り立つ。
『負けるわけがない!』
『仮面ライダーの記憶全てを得た我等が、こんな者どもに!』
コアは高熱で水を蒸発させながら、クラストは冷気で水を凍らせながら、激昂するように語る。
「それって、得た記憶が偏ってんじゃないの?」
「台詞にもありありと出てたしな」
『『なんだと!?』』
コアとクラストは、オーズとブライの物言いに怒る。
「そうだ。お前等は本当の仮面ライダーを何も知らねぇ!」
「貴様等が仮面ライダーを名乗るなど、一億年早いな」
そこへWとイーヴィルも加わった。
*****
同時刻の地上。
照井たち三人は、プテラヤミーとキョウケンヤミーによる空と地からの攻撃に苦しめられていた。
変身すら出来ず、ただ逃げるしかない現状。
そんな時、
「きゃあッ!」
亜樹子たちは転んでしまい、その衝撃でアクセセルギアとホッパーメモリが出てくる。
亜樹子はそれを直ぐに手を伸ばそうとしたが、そこへ照井とヴィヴィオの手も伸びる。
「竜くん・・・ヴィヴィオちゃん・・・」
「・・・・・・私達はやっぱり・・・・・・仮面ライダーを辞められないよ」
「えッ?」
その言葉の意味は、
「誰かを守るだけじゃない。大切な友達を護る為に」
「そう・・・・・・君を守るために」
「・・・・・・・・・・・・」
二人の言葉に、亜樹子は反論する気さえ起きなかった。
【ACCEL】
【HOPPER】
二人はガイアウィスパーを鳴らし、ドライバーを装着した。
「変身!」
「変・・・身!!」
メモリをスロットにインサートし、照井はアクセルドライバーのハンドルを握って廻し、ヴィヴィオはホーリードライバーのサイドレバーを作動させる。
【ACCEL】
【HOPPER】
加速の記憶を秘めた赤き戦士・仮面ライダーアクセル!
飛蝗の記憶を秘めた蒼い闘士・仮面ライダーホッパー!
二人は異形の力を取り戻し、変身した!
そこへ、プテタヤミーとキョウケンヤミーが襲い掛かると、
「フッ!」
「ハッ!」
アクセルとホッパーが身を挺して庇う。
「大丈夫か?」
「怪我はない?」
「うん・・・・・・」
返事を聞くと、
「さあ、振り切るぜ!」
「さあ!・・・決めるよ!」
仮面ライダーとしての全力を出しての戦いを始める!
*****
「自分の幸せを棄てても他人の為に戦う。それが仮面ライダーに真の強さだ!」
「その魂があればこそ、かつてライダーの遺志は、今でも私たちに受け継がれている!」
「だからこそ、私たちはお前等の存在を許さない!」
「仮面ライダーの名を穢す怪物め!」
Wコンビとイーヴィルコンビは、コアとクラストに指をさしてこう告げる。
「「さあ、お前達の罪を数えろ!」」
「「さあ、貴様等の欲望を差し出せ!」」
その決め台詞は見事に決まった。
「カッコいい〜!ねぇアンク、俺達もなんか言おうか?」
『バカか!!前見ろ、前!』
「とことんアホだなテメェは」
『はぁ』
「ちょっ、なんで俺だけに非難集中!?」
などとコミカルやってる間にも、
『『ぅぅあああああああ!!』』
コアとクラストは確実に迫ってきた。
*****
地上では、アクセルとホッパーがヤミー相手に激戦を繰り広げていた。
アクセルはエンジンブレード、ホッパーは魔力攻撃を絡めながら戦っている。
「頑張って!竜くん、ヴィヴィオちゃん・・・・・・」
そんな二人に亜樹子はせめてもの応援をする。
だが正直な話、戦況はおもわしくない。
斬撃も打撃も、ヤミーたちには思いのほか効果は薄く、逆に弾き返されているようにも見える。
このままではジリ貧となって敗北の色が濃くなり、勝機の糸が細くなったとき、
――ヴィンヴィンヴィンヴィンヴィン!!――
メダル状の弾丸がプテラヤミーに当たり、
――ザシュザシュザシュザシュザシュ!!――
鎖で繋がった連結刃二本がキョウケンヤミーに当たり、
【NATURAL・MAXIMUM DRIVE】
炎と氷と風と雷――四属性の斬撃が二体纏めてふきとばす。
それを放ったのは、
『お前等は・・・!』
そこにいたのは、
「仮面ライダーネイル」
茶色の体色、黄色い複眼、爬虫類っぽい姿、左腕にした鉤爪型武器(ネイルクロー)をしたメモリの戦士。
「仮面ライダーバース」
大型の銃を持ち、銀色の装甲と黒のスーツで身を包み、黒いU字型のバイザーと体中や頭部にあるガチャポン型カプセルが埋め込まれたセルメダルの戦士。
「仮面ライダーチェリオ」
二振りの忍者刀を握り、体中にカプセルが埋め込まれている点ではバースと同じだが、全体的なデザインは忍者をイメージさせ、バイザーも額金を意匠の素にしているセルメダルの戦士。
「新しい、仮面ライダー?」
「ディアンさんも、来てくれたんだ!」
なにを隠そう、ネイルの正体は照井の親友であり、テスタロッサ家の婿養子でもあるディアン・テスタロッサなのだ。
「アクセル。力を合わせるんだ」
「不組――組まない手はありませんよ、ホッパーさん?」
「今こそ、一致団結のときだ」
バース・チェリオ・ネイルの言葉に、アクセルとホッパーは黙って頷いた。
そこからは圧倒的な善戦!
アクセルとネイルとチェリオの斬撃、ホッパーの格闘技、バースの銃撃を上手く連携させて、二体のヤミーはたちまちセルメダルをバラまきながら地面に転がらせられる。
そこへ五人のライダーはトドメの一撃に差し掛かる。
【ACCEL・MAXIMUM DRIVE】
【NAIL・MAXIMUM DRIVE】
【HOPPER・MAXIMUM DRIVE】
アクセルはバックルのレバーを押し、ネイルは自身のメモリをマキシマムスロットに、ホッパーはマキシマムライドレバーを作動させる。
≪CELL BURST≫
バースはバースバスターの発砲で使われたセルメダルがたまっているセルバレットポットをジャンクションフレームから外し、フラッシャーマズルに取り付けてセルバーストモードにした。
≪CELL BURST≫
チェリオも忍刀『鎖』を一本の刀として合体させると、柄の末端からセルメダル六枚を投入し、刀身に送り込む。そして、鍔を動かして刀身を研磨するように上下させた。
これで此方の準備は完了!
『『アアアアアアア!!』』
二体のヤミーは半ば特攻するかのように突っ込んできた。
そこへ五人の同時攻撃が炸裂する。
セルバーストでの砲撃。
飛び後ろ回し蹴り、アクセルグランツァー。
脳天踵落とし、ネイルダウンフォース。
1号ライダーを連想させる飛び蹴り、ホッパーライダーキック。
そして、忍刀両断による必殺斬撃。
「「「「「ハアアアァァァァァ!!」」」」」
――ドカァァァァァン!!――
プテラヤミーとキョウケンヤミーは爆発し、大量のセルメダルに還元されてチャリンチャリンという音を立てていく。
*****
再び地下深く。
行き成りだが、オーズはコアに、ブライはクラストの手中に捕まっていた。
しかも、逃がさないように岩に若干埋もれさせている。
「「オーズ!」」
「「ブライ!」」
Wとイーヴィルは仲間の名を叫ぶ。
『チッ、こんなトコで死なれちゃ困るんだがな』
『口より手を動かしてください』
『フン!映司!』
『刃介さん、これを!』
アンクは赤いメダル――正確にはクジャクとコンドルのコアを投げ渡す。
キョトウも金色のコアメダルを三枚、ブライに投げ渡した。
「こいつが報酬かッ!」
ブライは嬉々とした声、
「これは・・・?」
オーズは少しばかり驚く声、
『苦労して見つけてきたんだ。丁寧に扱えよ』
『やるからには、必ず勝って下さい』
そういわれたオーズとブライは、コアとクラストに握りつぶされそうになりながら、必死にコアを嵌めていく。
だが、肝心のスキャナーを使おうとしたところで、
『『―――ンンッ!』』
コアとクラストは二人を空中に放り、
『『ウオオオオオ!!』』
「「うあああああああ!!」」
オーズを水の中、ブライを岩の中に殴って叩き付けた。
『映司・・・・・・』
『・・・・・・・・・』
アンクとキョトウが黙ると、
『『フッフハッハッハッハハハ!』』
コアとクラストが嬉しそうに笑っている。
「「・・・・・・・・・・・・」」
「「・・・・・・・・・・・・」」
Wとイーヴィルがそれを不愉快そうにしていると、
≪TAKA・KUJAKU・CONDOR≫
≪YAIBA・TSUBA・TSUKA≫
水と岩の中から聞こえるボイス。
≪TAJADOL!≫
≪YABAIKA・YAKAIBA・YAIBAKA!≫
コンボメロディが流れると、水と岩から飛び出してきたのは、真紅と金色の仮面ライダー。
進化してより飛行に特化した翼を得て両の眼を赤くした鷹の頭、優雅な雰囲気を漂わせる孔雀の腕、鋭い爪が生えているコンドルの脚。
大きな刀身が生えた頭、鍔のように堅固な装飾が発生した腕や肩、柄のように優美な模様が刻まれた脚。
赤き鳥類系のタジャドルコンボ!
金色の刀剣、ヤイバカコンボだ!
空中に飛翔し、見目麗しい羽を広げたオーズと――岩場に脚を引っ掛けながらも、己が周囲に刀と呼べるものを何百何千と創り出すブライ。
この二人から発生する”風”は実に雄大で、Wとイーヴィルのエクストリームメモリとエクセリオンメモリにさえ、その風が届く。
「「「「―――ハアッ!」」」」
Wは金色だった体の中央が虹色となり、背中に生えていた三対の翅も虹色の光を得る。
イーヴィルも体の中央が虹色になると、背中からは三対の黒と銀の大翼が生え、額には一本角まで生えた。
W・サイクロンジョーカーレインボーエスクトリーム!
イーヴィル・マジカルワイズマンレインボーエクセリオン!
最強にして究極、そして最終の形態が降臨した!
「フアアア・・・・・・!」
「一斉掃射・・・・・・!」
オーズは右の拳と突き出すと、コアの拳と張り合い、見るものの心を奪うであろう美しい輝きを放ちながらコアを退かせる。
ブライも創造した刀剣全てを一気にクラストへ浴びせると、クラストは体中にそれを突き立てられてある程度ながらもダメージを負わされて退いた。
Wとイーヴィルはその直後に飛翔して、オーズとブライに近寄る。
「さあ、これで決めるぜ」
「うん」
「最後の一撃にしようぜ」
「ああ、全力全開だ」
そうして、四人は二手に別れる。
Wとブライは上へと目指して飛翔したり、岩を駆け上がる。
イーヴィルとオーズは、より地下深くへと飛行していく。
【XTREME・MAXIMUM DRIVE】
≪SCANNING CHARGE≫
【XCELION・MAXIMUM DRIVE】
≪SCANNING CHARGE≫
そうして、Wとブライは凄まじい勢いで地上へ出てくると、遥か上空まであがり、一気に重力に従ってもう一度穴の中へと高速で落下していく。
一方でイーヴィルとオーズは、地球の中心核付近に溢れるマグマの熱を帯びて、上へと一気に飛び上がる。
そして、
「「ハアアアァァァアア!!」」
「「オオオォォォォオオ!!」」
「セイヤァァァアアッ!!」
「チェストォォォォオオ!!」
イビルレインボーエクセリオン。
ゴールデンレインボーエクストリーム。
プロミネンスドロップ。
我欲刀鋩。
コアとクラストは、前と後ろから必殺の合体キック技を直に喰らい、
『『ウオオオオオアアアアアアアア!!!!』』
凄まじい爆発を起こして消滅した。
当然、彼等の基盤となっていた、ガイアメモリとオーメダルも共に砕け散って。
*****
戦いが終わって、Wとイーヴィルは地上へ出てきた。
そして翅と翼を消して、地上にたつ。
「ぃやっったぁぁぁぁぁ!!」
亜樹子は確かな勝利を掴んできたWとイーヴィルの姿に歓声をあげた。
「竜くん、ヴィヴィオちゃん・・・・・・ありがとう」
「―――所長」
「亜樹子ちゃん」
そして、本当の感謝をこめて、アクセルとホッパーに礼を言った。
「ありがとう!仮面ライダー!」
そして、仮面ライダー達に。
「ハハッ」
「悪い気分ではないな」
Wとイーヴィルはメモリを閉じ、変身を解除して元の二人に戻った。
アクセルとホッパーも、そしてネイルもメモリをスロットから引き抜き、変身を解除する。
「「―――――」」
そして、バースとチェリオもセルメダルを取り外して変身を解除した。
バースの変身者は後藤慎太郎だった。
チェリオの変身者は、忍び装束をきた若い女性―――刃介の生き別れの妹の鋼金女だ。
金女は正体を見られる前に、凄まじい速度で去っていった。
後藤も、これ以上関わることはないとでも言うかのように歩み去っていく。
しかし、この二人には気になることがあった。
「オーズはどこに行った?」
(兄さん、ちゃんと帰れたんでしょうか?)
*****
ちなみに映司はというと、
「ふー、助かったぁ」
何故か外国のマンホールから地上に出ていた。
地上にあがり、そこにある町並みを見渡すと、明らかに日本離れしているのがわかる。
いた、それ以前にブラジルの国旗が立てられていることさえ考慮すると、
「・・・・・・リオの町そっくりだけど・・・・・・」
今一確信のいかない映司を確信させるものがやってきた。
それもかーなーり、身近な人物で。
一から十まで説明すると、なんだか水着に派手さを極めつけたような衣装を来た女性たちが、サンバのリズムで踊りながらこっちに近づいてくるのだ。
しかも、その一団の中には、
「あらー!映司くん!」
「知世子さん!」
クスクシエのオーナー・白石知世子がいた。
「映司くんもやっぱり―――カーニバル?」
「じゃあ、ここは・・・・・・」
「リオデジャネイロ!!」
要するに映司は、日本を基点にすると地球に裏側のにある陽気な国にやってきてしまったのだ。
一体どういうことなのか、こっちにも説明して欲しいが。
「私たち出遅れちゃって、町中みんな先に行っちゃったのよ」
「えっ・・・・・・?」
人が居ないと思ったら、理由はこれだった。
「映司くんも早く!」
そうして、知世子を初めとするブラジル人の方々に囲まれながら、映司はカーニバルに直行させられるのであった。
*****
トライブ財閥本社ビル。
そこの主であるルナイトの居住区間にもなっている階のうち、浴室では。
――シャアーーーー!――
「♪〜〜♪〜〜♪〜〜」
ルナイトが気持ちよくシャワーを浴びていた。
だがそんな時だった。
――ビカァァァァァン!!――
「っ!――ま、まさか!?」
いきなり前触れなく浴室全体を満たす閃光。
その光をルナイトは見たことがあった。
勿論、光が治まったときに何が起こるのかも充分承知している。
つまり、
――バタンっ!――
「やっぱりね・・・・・・」
「し、シルフィード!?な、なんで俺、風呂場なんかに!?」
簡単に述べると、次元並行移動装置は行きたい世界の行きたい場所を設定した場合、その場所として認知される範囲内においてランダムで出現するという特徴があった。
結果として、刃介が全裸姿のルナイトを押し倒すと言うシチュエーションが出来上がっているわけだが。
おまけにこういうときに限って不幸がやってくるものだ。
――ガチャ――
「刃介さん、ここで―――」
最悪すぎることに、七実が入ってきた――そして見られた、この状況を。
「ちょ、待て七実!これはだな!」
刃介は急いで事情を説明しようと、体を起こそうとしたが、
――ツルッ――
水に濡れた床のせいで手が滑ってしまい、崩れた体制を立て直そうとした結果、彼自身の不幸を倍増させることが起こってしまう。
こんなことなら、体制を崩しきって転んだほうがいいくらいに。
回りくどいのは止めて一言で形容する。
――ムニュ――
「んあぁぁん//////」
ルナイトの爆乳の片方を揉んだ挙句、股間の大事な部分に触れてしまっていた。
――プッツン――
「うふふふふ、お仕置きですね」
(あっ・・・終わった・・・)
この後なにが起こったって?
当然そんなモノは決まっている。
一方的虐殺って奴だ。
*****
さて、刃介が臨死体験してる間に、亜樹子の結婚式を見てみよう。
本番直前を迎えた亜樹子と、それを励ますヴィヴィオに、一人の女性が訪れていた。
「鳴海、亜樹子さんですよね?」
黒い帽子を深く被った礼装の女性。
顔はうまくみえないが、亜樹子とヴィヴィオは直感的に悟った。
((メリッサ、さん・・・・・・?))
「私、貴女に伝えたいことがあって来ました。それから、無限さんのご家族にも」
メリッサが伝えるメッセージ。
それはあのスパイダー事件の最後に、亜樹子たちも見ていなかった部分だ。
――俺はもう二度と娘には会えない――
メモリが砕けてもなお残った永遠の呪縛。
――だからメリッサ。娘が結婚する時には、歌を歌ってやってくれないか?――
それが壮吉の、亜樹子に出来る最後のプレゼントだった。
そして次には、レイズの遺志が伝えられる、
――のぅメリッサ。もし仮に万が一、ワシの弟が地上にやってきて出会う機会があったら、伝えて欲しいんじゃが――
メリッサを通して、ヴィヴィオに伝わる言葉。
――人を愛せ。そうすればきっと、御主はもっと強くなれる――
「そっか。お父さんが一番愛してくれてたのは・・・・・・私だったんだ」
「それに伯父さんも・・・・・・最後の最後まで、私たち家族や人間を、愛してくれてたんだ」
その掛け替えのない真実を知り、亜樹子とヴィヴィオはこの上ない笑顔をした。
そして、とうとう――結婚式が始まる。
神父の前に立つ照井。
客席で座る大勢の仲間たち。
探偵事務所、無限家、風都イレギュラーズ、機動六課メンバー。
大勢の人が見守る中、扉が開き、亜樹子の姿が現れる。
ただし、父親役の翔太朗の姿はなく、亜樹子は一人で一歩一歩と歩いていく。
当の翔太朗は、何食わぬ表情で客席に戻ってきた。
「アキちゃんと歩いてあげるんじゃ?」
「その必要はないんだよ」
「え?」
フィリップの疑問に、ヴィヴィオがそう答えた。
(そうでしょ?レイズ伯父さん・・・・・・)
ヴィヴィオが見据える視線の先には何があるかは常人にはわからない。
しかし、そこには確かに居た。
花嫁と腕を組んで歩く父親の姿と、それを嬉しそうに眺めている伯父の姿が。
それは幻なのかもしれないが――亜樹子とヴィヴィオにはハッキリと見て感じとれた。
―――何時の間にか、亜樹子は手に入れていたようだ。・・・おやっさんの・・・仮面ライダースカルの真実を。
―――そして、ヴィヴィオはまた一つを知って進んでいく。・・・兄上の・・・仮面ライダーデュアルの遺志を胸に。
なお、この後に照井と亜樹子の誓い、そしてキスが交わされると、ハシャギ立てるモノや拍手で讃えるモノの二種類に分かれていた。
そして遂に花束の番になると、
「いっけーーっ!!」
亜樹子が力一杯に花束を投げると、
「それは、わたしのもんやぁぁぁ!!」
明らかに人間離れした動きで、見事にキャッチした女が一人。
元機動六課の指揮官、八神はやて。
はやては花束を手に、顔を赤らめながら翔太朗の前に立って言った。
「しょ、翔太朗さん・・・・・・わ、私と結婚してください!!」
「・・・・・・・・・・・・」
はやての決死の告白に、翔太朗で無言で居るのかとおもいきや、行き成り立ち上がると、はやての顎を持ち上げ、
――チュッ――
接吻で返事した。
「これから一生、よろしく頼む」
翔太朗はそういって、はやてを抱き締めて。
「はい!よろしくお願いします!」
はやては抱き締め返し、また皆が騒ぎ始めた。
幸せは幸せを呼ぶものだ。
だとしても、その幸せはただではやってこない。
最初の幸せをつくった者から受け継がれるものまで、その幸せは相応しい想いを持った者にしか、きっと訪れないだろう。
だがしかし、ここにいる者達なら大丈夫だ。
この街には、みんなの希望の象徴がこんなに沢山あるのだから。
*****
その頃クスクシエでは、比奈は知世子が残した書置きとさえいえるかどうか怪しい、肝心な部分の抜けたメモを手に悩んでいた。
「もぉ、知世子さんも映司くんも・・・・・・」
行方が全くわからず、半ば孤立状態の比奈。
そんな時、店の扉を開ける音がした。
「ただいまー!比奈ちゃん!」
知世子は有無をいわさず、比奈に抱きついて挨拶した。
まあ、かなりフレンドリーな方法だが。
「知世子さん、やっぱり無事だったよ。ブラジルで踊りまくってた」
続いて入ってきた映司。
「何かあったのかと思って、旅費とか貯めてたんですよ!」
「えぇ?ごめんごめん、ホントにごめんね」
「まぁまぁまぁまぁ。とりあえず比奈ちゃんもこれ着て見ない?」
妙な流れのままに、比奈は映司らが持ってきたブラジルの衣装をきることになった。
しかし、そこにはただ笑顔があった。
まるで照明のように、人の心を照らす、明るい笑顔があった。
*****
所変わって、ここはシルフィードの寝室。
そこにある大きなベッドには二人の女性が腰掛け、一人の男が横たわっていた。
厳密に述べると、ベッドに腰掛けているのは、バスローブを着たシルフィードと無表情の七実。
横たわっているというより、七実に膝枕されちゃっているのは、全身ズタボロの雑巾モドキとなった刃介なわけで・・・・・・。
まあ、この部屋の主であるシルフィード本人は微妙な表情での乾いた苦笑いをしながら、
「あ――はははっ」
と短く笑った。
「笑ってる・・・場合・・・かよ」
「笑ってないとやってらんないのよっ」
刃介が妙に痛んだ声を出すと、シルフィードは身も蓋もないことを言った。
「あの・・・・・・」
――ビクっ!――
七実の声に、二人は思い切り戦慄した。
「一つ気になっていたのですが・・・・・・刃介さん」
「何かあったか?」
「懐から見えているソレは・・・?」
七実が指差したのは、刃介の着流しからはみ出して見えている十字架。
アルトリアの形見の品である物。
刃介は無言のまま、十字架を手に持ってこう返す。
「御守りだよ・・・・・・ダチ公との、約束の証だ」
――ありがとう――
あの笑顔を思い出しながら、刃介も微笑んだ。
もう二度と会うことはないとしても、二人が交わした時間と剣戟だけは、何時までに彼の心に刻み込まれている。
*****
”刀語の世界”
そこにある能登(今で言う石川県北部)―――星砂街道。
土ではなく踏み固められた硬い砂で構成された、海沿いの街道にある一軒の茶屋で、二人の人物がいて暢気そうに団子をくわえていた。
もっとも、暢気に団子を加えているのは、一人だけだ。
編み笠を被った背の高い男で、ぼさぼさ頭に筋肉質で引き締まった身体――傷跡だらけな身体を覆い隠すように、豪華絢爛な十二単を重ねて着たような、女物の派手な着物を羽織った男。
もう一人は、おかっぱ・・・・・・より少し伸びた白髪をしていて、男とは色違いの豪華絢爛な派手な着物を纏い、顔を隠すよう首に長い襟巻を巻いている小柄な女だ。
もう言うまでも無いが、鑢七花と奇策士とがめだ。
「どうだ、とがめ?」
「まあ、上々だな」
団子を銜える七花とは裏腹に、とがめは帳面と筆をもってして、絵を描いていた。
元々地形把握能力に長けていて絵心もある彼女の絵は、この辺一帯をよく書き表している。
「あー、いたいた。二人共、見っけ!」
などと、一人の女が駆け足で茶屋に歩いてきた。
金髪碧眼の和装の女、否定姫。
もっとも、金髪が前より短く切り揃えられ、着物も簡素なものになっている。
何より、右側頭部には『不忍』と書かれた仮面が――縁日の祭りで遊ぶ子供のように括り付けられている。
「ついて来るなと言った筈だ。この不愉快な女が」
「お生憎様。私がついてくのはあんたじゃなくて七花くんよ。この不愉快な女が」
とがめと否定姫はいつものようにいがみ合う。
「第一、私は頼まれなきゃ動かないような、冷血な人間じゃないからねぇ」
ここで話を少しズらすが、伝説の刀鍛冶にして史上最大球の占術師・四季崎記紀の目論見どおり、尾張幕府八代将軍家鳴匡綱が、虚刀『鑢』によって暗殺されてどうなったかを話そう。
残念ながらなのか、幸運ながらなのか。
それだけでは、歴史の改竄には到らなかった。
単純に匡綱の嫡子が九代目の将軍として襲名しただけの話。
匡綱はあくまで高齢による病死と言う形で、幕府は全てを隠蔽しつくした。
歴史なんて所詮は勝利者の日記帳で、嫌な事を書く奴は少ないから。
結果として幕府は民衆に対して表向きに、虚刀流と奇策士は旧将軍でも成しえなかった、十二本の完成形変体刀を蒐集した英雄として語り継ぐこととなる。
奇策士が鑢七実との間で交わした、鑢六枝の――虚刀流の名誉回復は、図らずとも達成され、とがめは実質的に約束を果たしたことになる。
そして、四季崎の先祖・四季崎記紀・四季崎の末裔が行おうとした、大規模な歴史への破壊工作は、とどのつまり失敗に終わったのだ。
ついでにいうと、本来ならこの三人は幕府に影ながら追われているはずだ。
それが飛騨鷹比等の関係者なら尚更だ。
しかし、三人が想像していたより、追っ手の数や頻度は少なかった。
「それにしても、あの我刀流には終始、助けられっぱなしであったな」
「言われてみればそうだな」
「あのぶっとんだ行動がなければ、歴史にも残らない大逆人が、のうのうと地図作りに勤しむ余裕もなかったかもね」
我刀流二十代目当主、鋼刃介は、天守閣から出る際に一枚の書置きを残していた。
”無頼、参上!(ざまぁ)”
なんて挑発感ありまくりの内容だった上、ブライの力量と危険度を考慮し、幕府は三人の大逆人より、一人の怪剣士の方に注意が向いて、多くの人材を無謀な捜索にあてているのだ。
そのお陰もあって、三人はこうして日本地図の勢作の為に旅をしていられる。
以前、とがめがいっていた、次なる嘘の目標――精巧な日本地図を作って高く売る為に。
本来ならば、叶えるつもりさえなかった言葉だが、今こうして実行に移しているところからして、如何に鋼刃介というたった一人の介入が大きかったを示している。
「尤も、貴様がそれに同行してるなど、夢にも思わんだろうがな」
「いやぁ。流石の私でもあそこから復権するのは無理だって。右衛門左衛門もいないことだし」
今にして思うと、この三人の編み笠や襟巻や仮面は、変装のつもりなのかもしれないが、それとも単なるイメチェンなのか?それは本人たちしか知らないだろう。
「四季崎記紀は結局、負けちゃったのよ。計算違いは、旧将軍から始まって、次は飛騨鷹比等・・・・・・そして容赦姫が決定的だったんでしょうね」
「俺から言わせて見れば、歴史の改竄なんてそれこそ夢物語だぜ。親を殺された復讐とか、誰かを好きになったとか、そんな理由のほうがよっぽどわかりやすい」
七花は団子を食べながら答える。
「例え百年後にこの国を、海の向こうからやってくる連中が滅ぼそうとしても、その時はその時の連中が、覚悟決めて戦えばいい話だ」
「初代の鑢一根が、四季崎記紀にそう言ってくれればねぇ」
否定姫はお茶を飲みながら感想を述べる。
「まあ改竄は失敗しても改変くらいはできただろうから、百年後の連中にもちょっとは根性出してもらいましょ?あ、そうそう。まだ言ってなかったけど、尾張城を抜け出す前に、武器庫にあった通常系変体刀九百八十八本全部に、塩水かけといたから錆びちゃうでしょうね」
((なんてことをするんだ・・・・・・))
刃介とアルトリアの間であれほどの死闘とドラマがあった間に、この女は悠長にそんなことをしてたのかと思うと、呆れざるをえない。
「これでうちの馬鹿な先祖がやらかした歴史の改竄行為の後始末は、あらかた終了って感じになるかしら」
「だとしても幕府は、貴様が破壊した通常系と、鋼が収集した完成系を含めた全ての変体刀を所持してると喧伝するだろう。千年の繁栄と言う、都合の良い幻想を夢見ながらな」
だがこの時、否定姫もとがめも、予想すらしていなかった。
四季崎記紀の欲望の矛先が、刃介の住まう異世界にあることなど。
「とがめ、地図の具合はどうなんだ?」
「流石にもう一度、日本を一周せねばならんな。精巧な物を書くとなると、時間も手間もかかる」
「そっか。じゃあ能登もう十分見たろうし、次は加賀にでも行くか?」
「無論そのつもりだ。というより、行き先は私が決めるのであって、そなたが決める訳ではないぞ」
三人は茶と団子を、飲み終えては食い終える。
「加賀はお金が一杯あるらしいわよ?ここらでそろそろ軍資金を補充しときましょうか?」
「そういう方面はあんたやとがめに任せるよ。その代わり、追っ手が来たら俺が戦ってやるよ。身体は癒え切ってないけど、女二人守るくらいには充分過ぎる」
七花らは席を立ち、団子と茶の料金を置いた。
「うむ。その調子で生涯、私を愛して仕えるがいい」
「当たり前さ。愛してるぜ、とがめ」
「ちょっとちょっと。いちゃつくんなら二人っきりの時だけよ」
形こそは歪で奇妙だが、ここにも平穏の形があった。
三人はそのまま茶屋を発って旅路を歩いていく――と思った矢先。
「ただしその頃には、あんたらは八つ裂きになっているかもしれないがな」
「「何故だっ!?」」
二人は無理矢理に決め台詞を織り込んできた七花にツッコム。
だが、それも日常の一部だとでも言うかのように、膨れっ面になった否定姫ととがめの表情は、何時もの微笑みに戻っていた。
鑢七花と奇策士とがめと否定姫。
目撃証言は、この時の茶屋の主人の者が最後で、ここからの彼等の足取りは杳として知れず、記録にさえ残ってない。
本当に加賀に向ったのか、旅の最中で天童将棋村や三途神社、濁音港などに訪れ、旧知の者達と再会したのか、その全てが定かではない。
だがしかし、この三人はことが終わった後にも、人と刀にまつわる歴史的な企みが失敗しようとも、短期間であれ長期間であれ、確かに生きていました。
それはきっと、誰もが望んでいたことでした。
本来ならば――復讐を果たせなかった者、目的を果たせなかった者。
志半ばで倒れた者、想いを遂げられなかった者。
負けた者、挫けた者、朽ちた者。
一生懸命頑張って、他のあらゆる全てを犠牲にしてまで踏ん張って、それでも行為が全く結果に繋がらず、努力を全く実を結ばず、理不尽に、あるいは不合理に、ただただ無残に、ただただ無様に、どうしようもなく後悔しながら死んでいった者達の――夢と希望に満ち溢れた、未来と欲望を与える前向きな物語は、ここで静かに幕を下ろすのでございます。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
作家さんへの感想は掲示板のほうへ♪