仮面ライダー×仮面ライダー ファズム&ブライ MOVIE大戦MEGAMAX
栄光の昭和ライダーと未来のメダルと七実の復活


西暦2012年。
ソレはある日、前触れもなく訪れた。
宇宙の彼方から現れた物体―――隕石。
名前だけを聞けば珍しいとは思わないだろう。
しかし、地球に到達し、地上に落下する程の巨大なサイズの物が複数同時に流星群のように降り注いだとすればどうだろうか。

一つの隕石は、友情の男の旗を揺らした。
一つの隕石は、復讐の男の運命を揺るがした。
一つの隕石は、時を越えた奇跡を起こした。
一つの隕石は、旅人たちの足を止めさせた。

かつて、記憶を巡る戦いがあった。欲望を巡る戦いがあった。そして、神秘を巡る戦いが巡っている。
三つの戦い―――それは時代ごとに区切られたモノ。決して交わらない異種の物語。
しかし、今こそ物語は奇跡の交差を果たす。

此の世で三度目の、特盛な銀幕舞台にて。







*****

東ヨーロッパ・A国

「このまま突っ込むぞ!」
「おう!」

そこでは四人の戦士がバイクを駆り、星屑忍者ダスタードに突撃していた。
迫りくる弾幕の嵐の中、彼らは愛機を止めたと同時に掛け声とともに高く跳躍し、敵陣に飛び込んでいく。

「ライダーきりもみシュート!」

一人の戦士が敵を掴み、きりもみ回転させながら天高く放り投げる。
回転によっておこった竜巻によって天高く舞い上げられたダスタードの一人は重力によって地上に激突する。

「仮面ライダー、1号!」

それは、最初の仮面ライダーだった。

「ライダー投げ!」

もう一人の戦士はダスタードの一人を抱え上げ、遠方へと勢いよく投げ飛ばした。

「仮面ライダー、2号!」

それは、二人目の仮面ライダーだった。

「Zブリンガーアタック!」
「ジェイストライク!」

そして、緑色の二人の戦士は愛機に再び乗り込み、風のように疾走させることで敵を次々と薙ぎ払う。

「仮面ライダー、J!」
「仮面ライダー、ZO!」





*****

地中海諸島・G国

「ここから先へは行かせん!」
「そこまでだ!」

同時刻。
そこでは四人の戦士たちがある物の落下地点にて敵を待ち受けていた。
粗雑に巻かれた包帯と顔の黒丸が特徴のミイラ―――屑ヤミーとの戦闘が始まる。

「―――V3ャア!」
「スカイライダー!!」

赤いトンボと緑のイナゴは、白と赤のマフラーを棚引かせながら敵にキックとパンチを浴びせていく。

「ロープアーム!」
「チェーンジ、レーダーハンド!――レーダーアイ、発射!」

もう一方は右腕のアタッチメントを換装してフックの付いた縄で敵を薙ぎ払い。銀色の蜂は両手の機能を切り替え小型レーダーをミサイルとして射出する。

「ライダーマン!」
「仮面ライダースーパー1!」






*****

南アメリカ・C国

「こいつらを隕石に近づけるな!」

彼らは宇宙より飛来した隕石を魔の手に落とす物かと、必死になって戦っている。
戦っているのはパーティーに参加するような礼服に、サソリや骨のような顔をしたマスカレイド・ドーパント。

「此処で食い止めるぞ!」

銀の鉄仮面に黒いマフラーの男は長いスティックを振り回し、周囲の敵を薙ぎ払っていく。
赤い仮面に白い装甲の男は体中から幾多もの武器を繰り出し、忍者のように敵を翻弄する。

「仮面ライダーX!」
「仮面ライダーZX!」

一方で、メカニカルな二人とは対照的に生物的かつ野性的な動きで縦横無尽に戦場を駆ける二つの影。

「お前たちの目的は何だ!?」
「ハァァ……!」

緑色の身体に赤いマダラ模様をしているオオトカゲの野生児は、ジャングルで遊びまわる獣のような動きで敵の予想を超える攻撃を仕掛ける。
片や、見るからに凶悪極まるグロテスクな姿をしたバッタの怪物は、その見かけに反し、高度な知性を匂わせる動きで戦っている。

「アーマーゾォォン!」
「シィィィン……!」






*****

中東北部・A国

「早くSOLUを回収するんだ」

隕石の落下ポイントで、白服姿の二人が、隕石の内部から銀色の何かを取り出す作業をしている。
そこへ

「「トオッ!」」

勇ましい声が響いた。
ダスタード、屑ヤミー、マスカレイドらを同時に相手しながら現れたのは、胸にSの称号を持つ電気カブトムシと、黒い身体に太陽の神秘を秘めた光の王子。

「待て!」
「逃がさんぞ!」

二人の仮面の戦士がそう叫ぶも、白服の二人は既に作業を完了させたのか、カプセルのような容器の中に問題の物体を入れている。

「行くぞ」

後の事は怪人たちに任せ、彼らは待機しているヘリの中へと乗り込んでいった。
戦士たちはそれをさせまいと必死に拳を振るうも、やはり数が多く、雑魚と言えども手間を要している。

「ストロンガー、エレクトロファイヤー!」
「RXキック!」

仮面ライダーストロンガー、仮面ライダーBLACK RXの攻撃が炸裂し、バイクに乗って突貫してきたマスカレイドを容易く撃破した。

だが、それは無意味なものに終わった。
白服たちを乗せたヘリはもう離陸し、空の彼方へと飛び去ってしまったのだ。

「やはり財団Xが動いていたか」






*****

財団X日本支部

そこでは一人の妙齢の女性を先頭に、三人の男女が歩いていた。
すると、三人の内、中央の壮年の男がある報告をするため会話を斬り出す。

「SOLUの回収に成功しました」

そこへさらに傍らにいる女性がiPadを操作し、日本で起きている特異な現象を映し出した。

「メダルももうすぐ入手できるでしょう」
「スイッチとメダル。二つの力を手に入れたとき、このプロジェクトは完了だな」

女は男勝りな口調で経過の順調さを理解したという旨の発言をする。

「お任せください」

壮年の男にそう言われると、女は僅かに薄らとした笑いを浮かべた。

「頼むぞカンナギ君」

そう言い残し、女は三人を残してどこかへと立ち去った。
残された三人の一人、カンナギは上役が立ち去った途端、雰囲気をガラリと変えた。

「そう……誰にも邪魔はさせない……」





*****

関東地方・太平洋沖
そこでは鴻上ファウンデーションとトライブ財閥が抱えている大勢の科学陣とライドベンダー隊が控えており、海に現れた暗い紫色の渦を監視している。
無論、監視しているだけでなく、きちんと遠方からも情報収集を行っており、事態の収拾を行うと必死になっている。

「空間が歪んでる……」
「あの隕石の影響か」
「解析を急げッ」
「もたついていると、協会が首を突っ込んでくるぞ」

科学陣がそうこう言い合っていると、空間の歪みの彼方から、異様な二つの光が覗き込む。
それは青と黄の光を伴った二人組の異形であった。
彼らは時空の歪みより垂直に降り立ち、銃口を向けて警戒を固めるライドベンダー隊と鉢合せする。

「―――どうやら、時間移動は成功したようだな
「あぁ……おぉ……」

黄色い瞳が光る仮面、青い鎧の上半身、赤い鎧の下半身、胸には逆三角の陣形で描かれた三体の生物の図柄。手には魚類を模した紅い凶悪の槍。
赤い瞳が光る仮面、緑の鎧の上半身、黄の鎧の下半身、胸には逆三角の陣形で描かれた三体の生物の図柄。手には野獣を模した黄の荒々しい弓。

「貴様ら何者だ!」
「止まらなければ撃つぞ!」
「好きにしろ。だが、命乞いだけはするな」

ライドベンダー隊に対し、青と赤の槍兵が冷たく言い放った。

「無駄……嫌い……」

続けて、緑と黄の弓兵が二つの単語だけを口にする。

「撃て!撃て!」

ライドベンダー隊は二体の異形に対して一斉射撃を開始する。
けたたましい銃声、排出される薬莢、怯えまどう研究者たち。

しかし、

「「…………」」

異形共は歩みを止めず、進み続ける。

「止まれ!」

そんな言葉など、意味を持たない。
二体の戦士は槍と弓を構えると、

「「―――ハッ!」」

力強く振り回し、それによって生じたエネルギーの波動により、ライドベンダー隊と科学者たちを一撃でノックダウンしてみせた。
異形の腹部のベルトのバックルに収められた三枚のメダルが光ると、異形は瞬く間に姿を変える。

「こんな雑魚ばかりでは、意味がない」
「闘争……悦楽……不足」

そこにいたのは二人の青年であった。
青い服を着た一人と、黄色い服を着た一人は、それぞれ赤い槍と黄色の弓を持ち、悠然と立ち去っていく。

その瞳に、何とも妖しい輝きを宿して。
だが、立ち去ろうとする彼らに対し、

「Happy birthday!」

典型的な、そしてこの場ではあまりに不似合いなお祝いの言葉が贈られた。

「Dear……なんと言えば良いのかね?」

それは科学陣が使っていたノートパソコンからだった。
画面には40歳当たりと思われる男が映し出されている。

「……仮面ライダー」
「ほう。これは興味深い」

立ち止まり、名乗ったその肩書きに、男は画面が多少あれようともはっきりと分かる笑顔を浮かべる。





*****

鴻上ファウンデーション。
世界的な一大企業の一つたるこの組織の本社ビルには、ある人物が招かれていた。

「後藤君!よく来てくれたね。……もうすっかり警視庁の刑事に戻ったようだね」
「ご無沙汰してます」

会長室には、この部屋の主こと鴻上光生と、招かれた客こと後藤慎太郎がいた。
あの戦いを終え、本職に復帰した後藤だったが、やはり長い間いた職場だけあり、緊張している様子はない。
もっとも、緊張していない理由は一つではない。後藤の興味を引くものが部屋中に溢れているのだ。

「これは?」

それは以前から目にした覚えのある、生物の姿を象った絵柄の記された大量の紙。

「財団と財閥が新たに共同開発しようと研究を続けているコアメダルだよ」
「え?」

新種のコアメダルの創造。
それの意味を知っている後藤は大いに焦った。

「本気ですか?そんなことをしたらグリードが!」
「純粋に欲望のパワーだけを利用するんだ。意志を持った怪物が生まれないように」

鴻上とて、虚無王らが引き起こした大事件の再来など望んではいない。
彼らは彼らなりに新しい道を模索しているらしい。

「……と思ったが、どうやら失敗したことが……今朝判明した」





*****

「―――未来の、仮面ライダー?」

鴻上の秘書である里中エリカが運転する車の助手席に座っている服飾学校の学生、泉比奈がキョトンとした表情で言葉を反復した。
また、彼女たちが乗り込んでいるオープンカーの隣には一人のくノ一・鋼金女が搭乗したバイク、ライドベンダーが同じスピードで並行して走っている。

不否(いなまず)―――その通りです。件の隕石により生じた時空の歪は、如何いう訳か40年後と現在を繋げる孔となっているのです」
「しかも、現れたライダーは戦いを愉しむことしか考えていない最悪な奴らで、この時代のライダーを倒すつもりらしいんです」
「ライダーが、ライダーに狙われるなんて……。それで里中さんと金女さん、一緒に映司くん達を迎えに来てくれたんですね」

あの最終決戦後、主だったライダーたちは海外へと足を運んでいた。
奇しくも、同じ道を歩まずとも、同じ目的の為に。
一人は単独で世界中を明日のパンツと日銭だけで渡り歩き、もう一人は二人の頼れる仲間と共に現在はヨーロッパ各地を散策している。
今頃は空港に到着し、帰国を済ませている筈だ。

「仕事です。火野さんは今、財団の研究協力員ですから」
「それに兄さんも、ルナイト会長や竜王と一緒に、800年前の技術を洗い直してるそうですよ」

映司にしろ刃介にしろ、旅をしながらデータ収集をする目的は、一重に割れてしまったコアメダルの復元。
つまり、アンクと七実―――かけがえの無い存在との再会にある。
比奈も信吾も、出来ることがあるなら何でも手伝おう、と思う程に、彼らの存在は大きかった。

三人が穏やかに話し込んでいると、唐突にそれは視界に飛び込んできた。
いや、三人がその存在を見落としていた、と言った方が良いだろう。

踏み込まれた急ブレーキにより鳴り響くタイヤと地面の摩擦音。
喧しく響いたその音が、三人の脳髄に現実を突きつけた。

「っ――屑ヤミー」

進むべき道路には、十数体もの屑ヤミーたちで溢れていたのだ。
屑ヤミーはセルメダルを二分する形で割り、放り投げることで誕生する。
つまり、大量のメダルを持つ者が意図的に放ったことの何よりの証明であった。

「早速お出迎えですね。里中さん、比奈さんのガード、お願いします」
「了解」

金女は里中に指示を出すと同時にヘルメットを脱いでライドベンダーから下りると、その細い腰に一本のゴツいベルトを装着した。
バックルにガシャポンのカプセルのようなものが付いたベルト。バックルの左側にあるスロットに銀色のセルメダルを投入し、右側のグラップアクセラレータを捻った。

「変身」

すると、カプセルが上下にパカっと開いた。
金女の周囲を薄らと光るフィールド・トランサーフィールドが覆い、複数のカプセル・リセプタクルウオーブが現れたかと思うと、それは身を守る装甲となって彼女の身体に纏わりつき、遂には顔を鉄仮面で覆い隠した。
額金を模した青いバイザーが鈍く光り、両のサイドバックルに提げられた鞘に納められた忍刀『鎖』が実体化すると、体を包み込んだ黒と銀の鎧が完全に起動した。

不忍(しのばず)

トライブ財閥が造り出したセルメダル専用の生体強化スーツ、別れの名を持つ忍者戦士、仮面ライダーチェリオが現れた。

「ハッ!」

里中も後部座席に置いてあったバースバスターとセルメダルを詰め込んだセルバレットポッドを手にし、弾丸を充填してフラッシャーマズルの下部にはめると、引き金を引いて次々と発砲を繰り返す。

――ヴィンヴィンヴィン!!――

セルの弾丸は屑ヤミーたちに命中していき、その痩躯を破壊していく。

チェリオもそれを見て、一枚のセルメダルをスロットに投入してグリップを捻った。

≪ANTOU・KAMA≫

無機質な電子ボイスが鳴ると、右肩のリセプタクルオーブが開き、内部から幾多もの機械のパーツが飛び出し、瞬時にチェリオの右腕全体に纏わりつきながら組み上がっていく。
腕に装着された本体の先にあるのは、大鎌の刃を爪の如く三つ備えたアタッチメント。
それはチェリオが腕を荒々しく振るうごとに仕込まれた鎖によって長く伸び、屑ヤミーどもを一挙に一網打尽にしていく。
これがチェリオに装備されている疑似変体刀が七振りの一つ、暗刀『鎌』である。

里中の支援もあり、元々鈍重で愚鈍な屑ヤミー相手ならすぐにかたを着けられる。
そう思った時、

――ビューーーン!!――

猛烈な風が巻き起こり、残っていた僅かな屑ヤミーが空の彼方へと吹っ飛んで行ってしまった。
明らかに自然の風ではない。
だとすれば、

「―――――アァ」

人為的なモノに決まっている。
風がおさまった時、そこには一匹の狂獣が聳えていた。

「ッ、こいつが―――暴走ライダー」

チェリオが身構えながら目の前の狂戦士を睨み付ける。
当の狂戦士は大弓を手に持ち、血走った瞳をこちらに向けている。

「チェリオ……戦……」
「話通りのバトルマニア、というかジャンキーですね。ここまで来ると」

敵意を包むことなく剥き出しにしてくる暴走者に、チェリオは暗刀『鎌』を解除し、新たに二枚のセルメダルを投入した。

≪SETTOU・ROU≫
≪SHATOU・GEN≫

右の前腕と左の肩のカプセルからパーツが転送され、瞬時に組み上がっていく。
右前腕には高速回転するチェーンソー型の切刀『鏤』が、左腕全体には弓矢型の射刀『鉉』が転送装備された。

「ハァッ!」
「フンッ!」

互いの弓から幾度となく放たれる矢の嵐。
足を動かしながら目まぐるしく立ち位置が変動しながらの攻撃にも関わらず、双方は確実に相手に当てる射をしており、双方とも巧みに躱している。
だが、そんな物は小手先に過ぎない。
射撃の応酬の最中で徐々に距離を詰めていく二人は、遂に直接火花を散らした。

チェーンソーの高速回転する刃と、大弓の強靭な刃が幾度となく鍔迫り合い、剣戟を鳴らした。

しかし、

「もっと……もっと……!」

それはかえって、この野獣に餌を与え、増長させる結果となってしまった。
味わう戦いの愉悦に、獣のライダーの戦闘意欲が倍増し、攻撃のテンポが上がったのだ。
相生忍軍の技術を受け継いだ彼女でさえ、対処しきれなくなるほどに。

「くぅ……!」

攻撃を捌ききれず、ダメージを負ってしまったチェリオ。
野獣が荒息をつきながら、トドメを刺そうとしたその瞬間、

――ガシッ――

誰かが獣の肩を掴んだ。

「ン……?」

誰かと思い、振り返ると、

「オイ固羅。誰の妹に手を出している」

ドスのきいた男の声が、一発の拳と共に放たれてきた。
まるで刃という刃を結集したかのような形をした黄金の右腕。
それで殴られた方は仰け反り、吹き飛ばされた。

「に、兄さん!」
「待たせちまったな、金女」

真っ白な髪、黒い着流し、黒いズボン、赤い瞳。
それらに併せ、長身で細身ながらも筋肉質な体格をした男は間違いなく、鋼刃介に相違なかった。
さらに、

「…………」

そこへもう一人の青年が現れた。
荒々しい雰囲気の刃介とは違い、穏やかな気配を漂わせている。

「映司くん!」

その姿を見て、比奈が名を叫んだ。
彼こそが大いなる器の持ち主、火野映司である。

ここに来てやっと主役が舞台に上がってきた。
しかし、上がってきたのは主役だけではなかった。

「お前らが仮面ライダーオーズ、仮面ライダーブライか?」
「獲物……上等……」

背後には何時の間にか、海のライダーと獣のライダーが並んで立っていた。

そして、

「「ムンッ!」」

長槍と大弓の刃を振るい、映司と刃介の身体を引き裂き、上方へ放り投げるようにして吹っ飛ばしたのだ。

「映司くん!!」
「兄さん!!」

比奈とチェリオが急いで二人の元へ駆け寄り、身体を揺さぶって二人を起こそうとしている。
だが、大きな声で呼んでも二人が目を覚ます気配はない。

「この程度の不意打ちでアウトとは……」
「退屈……不満……」

そんな中で悪党二人組が傲岸不遜な態度で失望の色に塗れた台詞を言い放つ。

――ヴィンヴィンヴィン!――

里中はバースバスターを構え、標的に連射するも、当てられた側は全くの無傷だ。

「フゥ……痒い……」
「おい。相手をする気なら先に言っておく。命乞いだけはするな、時間の無駄だ」

目の前の相手を敵とすら認識していない様子のまま、二人の悪が里中に詰め寄っていったとき、

「待て待て待てぇぇぇ!」
「俺たちを忘れんなぁぁっ!!」

一人の男の声と、一人の少年の声が足音共に響いた。
彼らは重みのある足音をバックに颯爽と現れ、敵の眼前で名乗った。

「戦うドクター・伊達明。世界の果てより只今帰国!」
「元火影忍軍が七代目、花菱烈火。ダチのピンチに馳せ参じたぜ!」
「伊達さん!花菱くん!」
「久しぶり!」

里中は助っ人たちの名を叫び、急いで後部座席に乗せていた二本のベルトと一枚のセルメダル、一枚のコアメダルを二人に差し出した。

「使ってください!」
「サンキュー!」
「待ってました!」

使い慣れたそれを手にした二人は、勢いよくバースドライバーとブレイズチェリオドライバーを装着し、伊達はセルメダルを、烈火はブレイズ・コアを投入した。

「「変身!」」

グリップが捻られ、二人の身体はシールドに覆われ、空中へと出現したリセオウタクルオーブから転送されたアーマーに身を包ませていく。

全身のリセプタクルオーブの周囲にはデータ収集用の赤い丸のマークが付けられた銀色のアーマー。
それ以外は正規品とほぼ同じスペックを備えたセルメダルシステムの試作品、仮面ライダープロトバース。

従来品の面影を残しつつ、紅蓮の炎を意識させるメタリックレッドに煌めく甲冑。
腰の忍刀『鎖』を抜刀し逆手に構えるのは、コアメダルによって再現された炎術士、仮面ライダーブレイズチェリオ。

「バースにチェリオ。お前らは楽しませてくれるのか?」
「さーて、お気に召しますやら!」

挑発的な言葉をライトに受けとり、意気込みながらプロトバースとブレイズチェリオが駆けだした。

しかし、海のライダーと獣のライダーは飛んで火にいる夏の虫とでも言わんばかりに迎撃を繰り出す。
腹部に一撃を与えられ、のけぞるプロトバースとブレイズチェリオ。

「っ……やるね」
「今度はこっちの番だ!」

二人はその場でジャンプし両脚蹴りをかますも、逆にその足を掴まれ、工事現場の資材置き場に投げ飛ばされてしまう。

「野郎……!」

二人はすぐに起き上がって反撃に掛かろうとするが、

「ホラ」

そこへ暴走ライダーたちが唐突に自分の武器を投げてよこしたのだ。

「え?」

それに戸惑った瞬間、

「フン!」

隙を突いた連続パンチが撃ち込まれた。
何発かいいのをもらった末、アッパーが決まったことで武器が手放され、持ち主の手元へと戻る。

「くっそ!出でよ、炎!」

ブレイズチェリオは片手から火炎放射器をも上回る勢いの猛火を放つ。
近距離からなら十分に効果を狙える奇襲じみた攻撃。
しかし、

「無駄な真似を」

海のライダーは槍を振るうと、強烈な水の波動が放たれ、ブレイズチェリオの火炎を掻き消してしまったのだ。

「んな……!?」

相性最悪の敵を前に狼狽するブレイズチェリオ。
そこへ、後方からバイクのエンジン音が響いてくる。

「変身!」

それは鴻上から依頼を受け、再び戦場へと降り立った後藤だった。
黒いメダルをベルトに落とし、転送されたアーマーを纏い、彼は仮面ライダーリバースに変身した。

「ハッ!」
「ヌン!」

リバースがジャンプすると、駆り手を失ったライドベンダーは海のライダーによって木端微塵にされる。

「おお、後藤ちゃん!」
「……いつも物騒な場所でしか会いませんね。……行きますよ」
「応!」
「うっしゃア!」
「私も行きます!」

≪DRILL ARM≫

リバースは右腕に近接格闘ユニットのドリルアームを装備し、

≪ENTOU・JUU≫

チェリオは完成形変体刀の炎刀『銃』を装備し、

≪CRANE ARM≫

プロトバースは右腕全体にクレーンアームを装備し、

「景気づけだ!」

≪CELL BURST≫

ブレイズチェリオは二振りの忍刀『鎖』を連結した大剣の硬貨投入口に6枚のセルメダルを投入し、鍔で刀身を研磨するように上下させた。
投入されたセルメダルのパワーが解放され、ブレイズチェリオは腰を低く構え、両手で持った忍刀を思い切り振り廻しながら叫ぶ。

「忍刀両断!」

並のヤミーなら数体纏めて殲滅せしめるであろう必殺の一撃。
巨大な光刃となって飛来するそれを、

「「ヌッ、うぅぅぅ……ハァッ!!」」

一振りの槍と、一つの弓が、弾いてしまったのだ。

「んなッ……!?」

目の前で起きた出来事に、ブレイズチェリオは仮面の下で表情を歪めた。

「オォォ……アアアアア!!」

そんな彼の心情などお構いなく、獣のライダーは咆哮を上げながら猛スピードで駆けていき、ブレイズチェリオに一閃を振るった。
攻撃を受けたブレイズチェリオは後方へと吹き飛ばされ、地面に引き摺られるようにして落下した。

「おい、大丈夫か!」
「余所見をするなぁ!」

プロトバースがブレイズチェリオを気遣うと、海のライダーも紅い槍を振り回してプロトバースに襲い掛かる。
プロトバースは反撃する間もなく猛攻によって仰向けに倒されてしまった。
だが、これだけで済ませはしない。

紅い槍は追撃として、倒れ伏しているプロトバースの腹部に一刺しを与えた。
ベルトのバックルに孔を穿ちかねない一撃をだ。

「あッッ!ぁぁぁ……!」

ドライバーが破壊されてしまい、プロトバースの変身は強制的に解除され、元の伊達明の姿が現れる。

「伊達さん!」

リバースが伊達に駆け寄っていく中、チェリオとブレイズチェリオが二人を守るようにして前に出た。

「この野郎!」
不抜(ぬかず)―――手加減抜きです」

≪GEKITOU・KUROGANE≫

ブレイズチェリオは胸部のカプセルから巨大な砲門装備・撃刀『鉄』を転送装備した。
チェリオも炎刀『銃』を構え、セルメダルを投入し、グリップを捻る。

≪CELL BURST≫
≪CORE BURST≫

「獄炎刀砲っ!」
「砲撃刀火ぁぁぁっ!」

『銃』と『鉄』から放たれた絶大な炎の波動。
互いに絡み合い、二重螺旋を織り成すようにして暴走ライダーたちに詰め寄っていく。
火焔が届いた瞬間、轟音が鳴り響き、激しい爆発が敵を包み込んだ。

―――が、

「…………ふん」
「……不足……」

彼らは立っていた。
さも、それが当たり前だと言うかのように。

「邪魔だ。消えろ」

海のライダーがそう言った瞬間、紅色の槍が一閃され、そこから生じた衝撃波がチェリオ目がけて飛んで行った。

「キャ……っ!」

避けようとするも、完全には避けきれず、手元に命中したことでの炎刀『銃』を手放してしまった。

「ウゥゥ……!アアアアアッ!」

――バヂッ!――

今度は獣のライダーのボルテージが急上昇し、隙だらけのチェリオに一瞬で接近すると、その大弓を振るってチェリオドライバーのバックルに一撃を浴びせたのだ。
チェリオの苦悶に満ちた声すら無視し、獣のライダーは今一度だけ攻撃を突き立て、チェリオドライバーを完全に破壊してしまったのだ。

「うっ……あっ……」

そうしてチェリオの甲冑が消え去り、残されたのは一人のくノ一だけ。
ブレイズチェリオとリバースはそれを見て怒り心頭となり、一矢報いようと雄たけびを上げて突っ込んでいこうとする。
しかし、その瞬間には既に獣のライダーと海のライダーが先手必勝とばかりに、瞬時的に二人の眼前へと躍り出た。

「お、おい!大丈夫か!?」

ブレイズチェリオが金女の身を心配して身を屈めた瞬間、

「グァアアアアア!!」

一匹の野獣が咆哮を張り上げ、一直線にブレイズチェリオを狙ったのだ。

瞬く間に距離を詰められ、大弓の刃が幾度となく振るわれ、その都度にブレイズチェリオの装甲に深い傷が入る。
凶暴な本能の疾走は止まらず、寧ろヒートアップを重ねる一方だ。
運悪く、嵩張る『鉄』を装着していた所為もあり、ブレイズチェリオは攻撃を躱しきることができないでいる。

「ンッ―――ガァッ!」

――パキッ!――

そして、遂にベルトのスロットに収められたブレイズ・コアへと凶刃は届いた。
端の部位が粉砕されるベルト、撒き散らされる精密機械群に混じって弾かれたのは一枚の紅きメダル。
しかし、地に落ちたそのコアメダルには、素人目にも致命的なヒビが入っている。

無論、ブレイズチェリオの変身も強制的に解かれてしまい、花菱烈火という一人の人間へと戻ってしまった。

「ハァ……ハァ……」

ケダモノとして戦場を跋扈したソレは、戦いの興奮で乱れた息を整えている。
その隙を突こうとする者は誰もいない。
隙を突こうとした瞬間、もう一人に刺し貫かれるのは目に見えているからだ。

「フン。この時代のライダーとはこんなモノか?」

当の海のライダーは槍を弄びつつ、自分たちに全く歯が立っていない四人のライダーを馬鹿にする態度を取り始める。
しかし、

「つまらんな―――」

――ザグッ――

「「―――ァガ……!?」」

次の瞬間、海のライダーと獣のライダーの背中には激痛が走った。
まるで何かを強引に突っ込まれ、掻き回されているような感覚だ。

「ったく、やっと隙を見せやがったぜ」
「思ったより手間取ったな」

そ二人のの下手人は乱雑な口調を口にする。
それは右腕を赤と金の異形に変えた映司と刃介だったのだ。

「まさか、アンク?」
「でも、何故火野に?」

刃介はわかる。
彼が人からグリードとなった存在であることは周知の事実。
しかし、映司はなりかけはしたが、戻ることが出来た筈なのだ。

「やはり、こいつらから相当な数のコアが感じられる」
「あの時、真木と一緒に消えたコアメダル、全部お前らの中にある。―――まさか時空を超えていたとはな」

刃介と同じく、普段は温厚なはずの映司までもが荒っぽい話し方をしている。
いや、それどころか声音まで変化しつつある。
一方で異形の腕で体内を掻き回されている二人は、苦しみを紛らわすように、武器を振るいながら叫ぶ。

「俺の物だ!」
「邪魔ァッ!」

槍と弓が振りぬかれる。
しかし、映司は上方へと跳びあがり、近場に会った資材で汲み上げられた高場に座り込む。
刃介も難なく弓の刃を受け流し、迫る第二撃の威力を上手く緩和して後方へ下がる助力とした。

「悪いな。こいつがなきゃ始まらないんだよ」

映司の右手には、赤と黄と緑のコアメダルが握られている。

「心配すんな。お前の駄賃なんぞに興味はないからさ」

後ろに下がった刃介は懐から血錆色のコアメダルを三枚取り出した。
石化し、封印されてしまった筈のそれらを。

「映司―――ッ!」

映司と思わしき男は、その姿の名と同じ名を叫び、タカとトラとバッタを刃介がいる場所から少しばかりズレた位置へと投擲した。
そこには、

「作戦成功だな、アンク!」

明日のパンツを引っ提げた棒を手にした青年がいた。
自分と同じ顔をした男をアンクと呼んだ彼は、刃介と共に奇妙なベルトを身に着ける。
そして、手にした三枚のメダルをバックルの窪みへと嵌め込み、バックルを傾けた。
そこから更にサイドバックルに提げられている円盤型のスキャナーを手にし、勢いよく滑走させ、メダルたちを読み込んでいく。

「「変身―――ッ!!」」

≪TAKA・TORA・BATTA≫
≪RYU・ONI・TENBA≫
≪TA・TO・BA!TATOBA!TA・TO・BA!≫
≪RI・O・TE!RIOTE!RI・O・TE!≫

流れ出す音声はコアに込められた命の力を。
巡る流暢な歌声は力の形を明確に示した。

二人の周囲を幾枚ものメダルが回り、そのうちの数枚が彼らの眼前で動きを止め、一つに重なってその身に張り付いた。
その瞬間、二人は文字通り、変身を遂げたのだ。

赤いタカの頭、黄色い虎の腕、緑色のバッタの脚―――仮面ライダーオーズ・タトバコンボ。
血錆色の龍の頭、双刀を収めた鬼の腕、天地を駆ける天馬の脚―――仮面ライダーブライ・リオテコンボ。

今ここに、欲望を司る王と神が甦った。

「久々だな、この感じ!」

ブライは長い間、地殻によって押さえつけられていた溶岩のような爆発的勢いで獣のライダーに突っ込んでいく。
オーズもそれに続き、海のライダーに立ち向かった。

「オラオラオラァァ!!」

ブライはオニアームに備え付けられた鍔無しの日本刀――魔刀『釖』を装備し、荒々しい剣技で獣のライダーを圧倒していく。

「ハーッ!」

オーズもバッタレッグの脚力を活かし、空中での連続蹴りにて海のライダーを押している。

「映司!メダル換えろ!」

そこへ映司の顔をした男は赤いメダルと緑色のメダルをオーズに投げ渡した。
オーズはそれを見事にキャッチし、すぐさまバッタとタカのメダルと取り換える。

「成程」

ブライもそれを見て、バックルに嵌っているメダルを別のメダルと取り換えだした。

≪KUWAGATA・TORA・CONDOR≫
≪RYU・MEGARODON・SMILODON≫

再び舞うメダル。
その内、オーズの頭は緑のクワガタ、足は赤いコンドルとり、ブライの腕は青い古代鮫、足は黄色い犬歯虎のものへと変化した。
亜種形態のオーズ・ガタトラドルとブライ・リュウメドンである。

オーズはクワガタヘッドからの電撃とトラアームから生えたトラクロー、さらにはコンドルレッグの鋭利な足技を駆使して海のライダーを翻弄する。
ブライはリュウヘッドからの息吹で敵を牽制しつつ、メガロドンアームに備わった二振りの槍――水刀『鑓』を巧みに振るい、スミロドンレッグの超高速移動で敵の背後をとって確実に攻撃を当てていく。

「映司、次はこいつで行け!」

戦いが熱を帯びだすと、映司の顔をした男は再び二枚のメダルを投げ渡した。
それを見てブライも彼らと同じく、メダルをチェンジする。

≪KUWAGATA・GORILLA・CHEETAH≫
≪YAIBA・MEGALODON・INOSHISHI≫

次はクワガタの頭、ゴリラの腕、チーターの脚を兼ね備えたタカゴリーターと、刀身の頭、古代鮫の腕、猪の脚を兼ね備えたヤイメイへと亜種変化した。

「オォォォ!」

オーズはチーターレッグの走力で一気に海のライダーに詰め寄ると、ゴリラアームを振り回し、海のライダーに裏拳を決めた。

「あーらよっと!」

ブライもイノシシレッグの突進力で獣のライダーに突撃すると、ヤイバヘッドの切っ先を突き出して敵にタックルをお見舞いした。

≪TAKA・TORA・BATTA≫
≪RYU・ONI・TENBA≫
≪TA・TO・BA!TATOBA!TA・TO・BA!≫
≪RI・O・TE!RIOTE!RI・O・TE!≫

二人はそこから基本形態に戻ると、オーズは大剣型ツールのメダジャリバー、ブライは大型拳銃型ツールのメダマガンを手にする。
オーズがメダジャリバーの刃を海のライダーに直撃させ、ブライが至近距離でメダマガンの銃撃を浴びせると、ふと不可思議なことに暴走ライダー達の動きが止まったのだ。
ダメージによるものではない。まるで心変わりでもしたかのようにだ。

その証拠として、海のライダーと獣のライダーはその手をオーズとブライの肩にそっと乗せた。

「え?」
「ん?」

二人が一瞬だけ間の抜けた声を出すと、

「「うッ……あぁぁぁ……!」」

先程とは打って変わり、彼らは苦痛の声を上げながら後ずさりしていく。

「邪魔をするなぁぁぁ!!」

青と黄の鎧は瞬く間に消失していき、後にのこされたのは、大きな槍と弓をもつ二人の青年の姿だった。

「「…………」」

敵の眼前で正体を晒した二人。
しかし、その瞳には決して薄れることのない敵意が満ちている。

オーズとブライが今の状況で自分たちに何もしそうに事もあり、二人は強大な色をした波動を巻き起こしながらどこかへと跳び去ってしまった。

「あいつら、まさか……」

逃亡した二人を見て、ブライは何かを掴んだ気がした。
彼らにはまだ、してやれることがあると。

まあ、それはそうと……。

「逃げられたか。出来ればもう少しメダルが欲しかったが……」
「チャンスがいずれ来るさ。焦るこたぁねぇよ」

少しばかり悔しそうにする異形の右腕の男に、ブライがのんびりとした口調で宥めた。

「それよりアンク。もうその姿やめてくんない?自分がもう一人いるのって、なんだか気持ち悪いよ」
「フン。気持ち悪いのはこっちだ」
「ちょ、オマエな……!」

オーズと男は言い合うも、一方的に男が話を切り上げ、オーズとブライから些かばかり距離を取った。
すると、男の身体と服装は赤い光を放ちだし、それは収まると、男の姿は右腕以外、完全に別物と化していた。

赤を基調とした服装、右寄りになった金髪、不愛想な表情。
それは彼が最初に人間に憑りついた際の姿―――

「アンクッ!?」

比奈が信じられないものを見る目で男の姿を捉え、叫んだ。
もう会うことは無いと思っていた人物が、このような形であらわれたのだから当然と言えるが。

「全く、三人とも先走らないで頂戴よ」
「お蔭様で私たちの出る幕は無かったな」

其処へ更に聞き覚えのある二人の女の声がした。
皆がその咆哮へ振り返ると、賑やかな表情で手を振る金髪の西洋美女と、腕を組み凛とした表情をしている黒髪の和風美女がいた。

「堅いこと言うなって。ルナイト、竜王」

ブライは朗らかな声でそう言った。
彼女たちこそが鋼刃介と共にある目的の為に海の外へと足を延ばした旅のお供である。

そして、

「はぁ……しようのない人たちですね」

自然と吐き出された溜息を吐く女の声。
知らぬ者たちは皆、アンクの搭乗に引き続き、更なる驚愕を受けた。

長い黒髪。死に装束のように白い小袖。青白い肌に痩せ細った小柄な体格。
そして何より、妖しい無機質な美貌を備えた女は、この上なく似合う溜息を今一度ついた。

「七実……さん……!?」

比奈がその名を呼び、最早どうやってこの感情を表現すればいいのか、わからなくなってしまった。
何故ならば、アンクも鑢七実も、命と言えるコアメダルを失い、この世から消えてしまったはずなのだから。





*****

その頃、海のライダーと獣のライダーの変身者は、とある雑居ビルの屋上の柵に身体を預け、苦しそうに身を捩っている。

「う、うぅ……おおおおおっ!!」
「アァ、ェァ……ヴォオオオオッ!!」

だが、それも直ぐに終わる。
咆哮と共に身体から夥しい量のオーラが放たれ、二人の身体はやっと安定した。

「く……大人しくしていろ……」
「コイツ……ジャマ……」

それは決して互いに対して言ったことではなかった。
その証拠として、二人の目は己の中の何かを押さえつけるかのように、妖しく煌めいていた。

それこそが、海神ポセイドンと風神テュポーンを名を冠した狂戦士らの本性であった。




次回

「伸ばされた手と未来の勇士と繋がる希望」



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


目次 次話>>

作家さんへの感想は掲示板のほうへ♪

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.