仮面ライダー×仮面ライダー ファズム&ブライ MOVIE大戦MEGAMAX
伸ばされた手と未来の勇士と繋がる希望
クスクシエ。
夢見町の一角にある日替わり式の多国籍料理店。
かつて映司とアンクが二階の一室で居候し、比奈と共に従業員として働いていた店である。
店長である白石知世子の趣向によって様々な国の料理のフェアが行われ、映司や比奈はその国の民族衣装のコスプレをさせられていた。
因みに、刃介の経営する鋼雑貨店のお得意様でもあり、調理器具を買い付けていた事もある。
そんな訳で、一同にとってかなり思い出深いこの店。
暴走ライダーの件さえも一撃で吹き飛ばすような朗報により、今日のクスクシエと店主の知世子の竜宮城フェアな空気は大いに盛り上がっていた。
「はい、アンクちゃん!思い切り食べて!」
「…………」
知世子は乙姫のコスプレをして大量の棒アイスを皿に乗せてアンクに差し出した。
「七実ちゃんも、好きなもの頼んで頂戴!遠慮なんて要らないから!」
「いえ。お気持ちだけ受け取らせていただきます」
一方で七実はやんわりかつ丁重に断っている。
最も、アンクは無遠慮にアイスを口にしているが。
「アンク。映司くん、頑張ってたんだよ。アンクのメダル、元に戻そうって」
「あ、いや……」
同じく、竜宮城の女中のコスプレをした比奈の言葉に、映司の表情と声が濁る。
「それに、七実さんも本当に良かったです。あの後、鋼さんかなり参ってましたから」
「その話は止めろ」
話題が自分にも振られてきたことに、いつにもなく刃介が刺々しい口調で制止しようとする。
「ホントホント。七実ちゃんがいなくなってからというもの、目つきは死んだ魚みたいになったり、ヤケ酒を煽りまくったり、果てにはその辺の電柱に頭突きをかましたりしたわよね」
「おい、止めろっつってんだろ!」
そこから更にルナイトからの支援砲撃が浴びせられ、
「ついでに、そこから脱したと思ったら、今度は数日間も放心状態となってしまい、世話をするのが大変だったな」
「開けるな黒歴史を!!そのまま閉ざしてくれ!!」
遂には竜王にまで空中爆撃をお見舞いされ、刃介の必死加減がヒートアップする。
「…………ふふ」
ふと、七実の笑い声が混沌とした空間で不思議と通った。
「あ、すいません。何だか昔に戻ったみたいで」
皆の視線に気が付いたのか、七実は笑うのをやめ、薄らと微笑みながら静かに語った。
その言葉を聞くと、皆は何だか穏やかな気持ちになり、自然とバカ騒ぎも収まった。
「まあ、確かに昔はたまにこんな感じにもなったな。たまにだが」
「何故だが、いざそう言われちゃうと懐かしく思えてきちゃうわね」
「全くだ。しかし、今は目の前の問題を直視せねばならないな」
「茶化したお前らが言うなよ!」
すっかりツッコミが板についてしまったのか、ルナイトはもちろんのこと、竜王のボケにまで機敏に反応するようになっている。
一体、ヨーロッパでの旅の最中に何があったのか、という疑問が尽きないが、今は深く追求しないことにしよう。
「ったく……。まあ、その、何だ……兎に角細かいことは後回しに―――」
「あぁッ!!」
「―――どうした火野?」
突如として何かを思いだし、大声を出す映司。
結果として途切れ、つくづく報われない会話に、刃介は一気に冷めきった声を映司にかけた。
「忘れた」
「何を?」
「明日のパンツ」
棒っきれに干すかのように吊るしてあった明日のパンツ。
どうやらそれを先の戦場に置き去りにしてしまったらしい。
「それこそ後回しじゃね!?」
「ダメですよ、大事な物なんですから!」
「アホかお前は!放っておいても誰も盗りゃしないだろ!」
「でも!」
「デモもストもない!おいアンク、お前からもなんか言ってやれ!」
「……何故俺まで……」
何時の間にか始まり、ヒートアップした漫才に巻き込まれ、アンクはアイスをかじりながら呆れるのであった。
*****
武蔵川総合病院。
ここの病室の一つには、一気に四人の怪我人が搬送されていた。
「プロトタイプ・バースは破損が酷く廃棄処分」
「……面目ねぇ」
病院のベッドで身体に包帯を巻きつけている伊達が意気消沈とした様子で呟いた。
里中はノーパソで状況を確認し、それを伊達と後藤に淡々と伝える。
「正規バースは通常メンテで使用可能です」
「…………」
本来なら朗報なのだが、後藤の表情は曇っていた。
一方で、
「派手にぶち壊されたものですね。ノーマルのチェリオはドライバーの大破、最早使い物になりませんね」
「不立――面目が立たないとはこのことですね」
「ですが、幸い炎刀『銃』は無事でしたので、返還しておきますね」
トライブ財閥の会長秘書のバット・ダークから相棒とも言えるツールの訃報を告げられ、病院着姿の金女もまた意気消沈としている。
不幸中の幸いと言える、師匠の形見が手渡されるも、これだけで戦えるほど仮面ライダーの力は安くはない。
「ブレイズチェリオはパーツ交換で何とか修理できます。しかし、コアは方は今使えばヒビが悪化して確実に割れてしまいます」
「あー……」
再起の可能性こそ残されているものの、やはり大破としか言いようのないブレイズチェリオの容態を聞かされ、烈火の表情が暗くなる。
「まあ、それ以前に四人とも、全治三週間なんですけどね。今はゆっくり静養してください」
「だけどよ、それだとあの馬鹿ライダーたちはどうするんだよ?」
バットの言葉に烈火が反発した。
その直後、扉が開き、病室に一人の青年が入って来てこう言った。
「その心配は無いっすよ」
雪のように白い髪、灰色のライダースーツが特徴の青年、凍空吹雪。
「話によると、俺っちらの会長が面白いモンを見せてくれそうっすから」
「不聞――初耳ですね、そんな話」
「サプライズとか言ってたっすよ」
相も変わらず体育会系の喋り方をする吹雪の物言いに、金女が珍しく眉をひそめた。
「因みにそれは一体……?」
「さあ?俺っちも詳しくは聞いてないんすよね。ただ、俺っちが言いつかったことは―――」
吹雪はドアの近くで戸に指をかけながらこういった。
「皆さんが誰かさんみたいに無茶しないよう見張れ、ということだけっすからね」
*****
所戻って、クスクシエ店内。
「…………」
「何か引っかかってるってツラだな、火野」
「あ、やっぱりわかります?」
「同じ場所にいたんだから、一応はな」
映司と刃介は先程戦った二体のライダーについて、同じ何かを感じ取っていた。
「あのライダー達は一種のグリードだ。存在を確立できず、人間を依り代としている未完成品ではあるが」
「ってことはやっぱり、あの人たちは……!」
「ああ。メダルの力に押されて暴走している。だが、侵食が完全ではないのも確かだ」
アンクと同じように彼らの体内を引っ掻き回した刃介は、一瞬にして暴走したライダーの現状を掴み取っていた。
そして、映司と似たような考えにも至っている。
「ま、今は取りあえず―――アレを片づけるか」
刃介は勿論の事、アンクや七実、竜王といったグリードたちの表情がたちまち変わり、正面の扉へと視線を集中させる。
――バッ!――
『『『『『うぅぅぅ……!』』』』』
扉が蹴破られ、幾体もの屑ヤミーたちが大挙して押し寄せてきたのだ。
「きゃあああああ!!」
「うぉあああああ!!」
何の前触れもなく出現した大量の異形を目にして、来店していた一般客らはパニックに陥っている。
「いい度胸だ。この面子相手に雑兵だけ叩き込むとはな」
もっとも、逆にそれを歓迎する輩もいたが。
「店長。さっさと客を避難させてくれ。怪我人が出て店の評判が落ちたら、俺も困るしな」
「わかったわ。そっちも遠慮なく暴れて頂戴!」
刃介の指示に従い、知世子は一般客を誘導し出口へと必死に向かわせる。
「さあ、こっちです!早く!」
「ふんみゅう!」
途中、屑ヤミーもいたが、それすら比奈が持ち前の怪力で押しのけていく。
一方で、刃介を筆頭に、アンク、映司、七実、ルナイト、竜王といった面々はそれぞれ店内における己の担当領域を定め、互いに邪魔をしないよう戦っている。
客を避難させながら、ということもあり人数の割には若干手間を要したが、それでも一分とかからずに店内の屑ヤミーは全て叩きのめした。
残るは外に溢れている個体と、それを送り込んだ者たちである。
*****
他にも屑ヤミーが送り込まれる可能性を考え、ルナイトと竜王にクスクシエを任せると、刃介たちは屋外へと出て事の張本人と出くわした。
彼らは得物の槍と弓を携え、堂々と姿を現す。
「今度はライダー同士、楽しくやりたいな」
「クカカ……!」
二人の青年は闘争心に満ちた笑みを浮かべ、こう叫んだ。
「「変身!」」
その言葉をトリガーとし、彼らの周囲をメダルたちを舞った。
≪SAME!KUZIRA!OOKAMIUO!≫
≪HYAENA!MONGOOSE!KUMA!≫
三つのメダルは逆三角を為して一つとなり、彼らの身体に溶け合った。
鮫のような青い仮面、鯨のような蒼い上半身、狼魚のような赤い下半身。
ハイエナのような緑の仮面、マングースのような翠の上半身、クマのような黄色い下半身。
仮面ライダーポセイドン!
仮面ライダーテュポーン!
ここに、海神と風神の名を冠するライダーたちが降臨した。
大海と森林を体現した色をみせる彼らを前に、刃介は隣にいる映司にこう言った。
「火野。たぶん、今の俺らが考えてる事は一緒だ」
「でしょうね、きっと」
「ちょっと可笑しくなっちまうが―――往くかい?」
「はいッ」
この状況に似あわぬ朗らかな笑顔を浮かべつつ問う刃介に、映司は毅然とした表情で答えを返した。
二人はベルトを着けることも、身体を異形に変えることもなく、真正面から堂々と歩み出したのだ。
まるで、この場に刃など不要、とでも言うかのように。
「お前ら、好い加減メダルに踊らされるのなんて、飽きたんじゃないのか?」
「ン……?」
誰に話しかけているのかわからない刃介の言葉に、テュポーンが首をかしげた。
「君たちは暴走してるだけだ。メダルの力に呑みこまれるな。手を貸すから!」
映司はそう叫んで、自らの手をポセイドンとテュポーンに向けて伸ばして見せた。
「フザ……ケルナ……」
しかし、その態度はテュポーンにとっては甚だ不愉快だったのか、彼は大弓「ジェリカルアーチ」を構え、エネルギーの矢を番えてそれを発射した。
荒れ狂うエネルギーの奔流が真っ直ぐに二人目がけて飛び、瞬時に刃介が右腕を異形に変えて盾にする。
盾となった腕に矢が炸裂し、周囲には爆炎と土煙が舞い上がる。
「うッ……」
「ギブアップか?」
「いえ、まだです」
吹き飛ばされそうになる映司に対し、攻撃を直に受けて尚余裕綽々の態度をとる刃介。
そんな刃介に問いかけられ、映司は未だ消えぬ光を瞳に秘め、前に進もうとする。
だが、アンクたちが二人を止めようとする。
「おい!おめぇら何やってんだ!?」
「見ての通り、あいつらを止める」
「止まるべきなのは、御二方では」
アンクと七実の制止の声を耳にし、刃介と映司はこう切り返す。
「七実。お前も解ってるんだろ。昔の俺たちと、あいつらが同じだってこと」
「…………」
その言葉に七実は押し黙った。
昔―――というのは、かつて恐竜の力と幻想の力に魅入られ、全てを無に帰す暴走に陥っていた時期の事を指している。
形こそは違えど、メダルの力に呑みこまれ、暴走している、僅かに己の意志が残っているという点では、彼らはよく似ているのだ。
「あの時、俺たちはアンクや比奈ちゃん達が止めてくれたみたいに。だから―――」
「俺たちの時とは違う。あんなの名前も知らない奴だろ、放っておけ!」
「知ってるよ!―――仮面ライダーだろ!」
映司と刃介は真っ直ぐな視線を同類に向け、右手を力強く差し出した。
「折角ライダー同士なら、俺はその手を伸ばしたい!」
「…………」
映司の偽らざる言葉に、ポセイドンとテュポーンの仮面で見えない筈の表情に曇りが見えた。
「ハッ、火野。今回ばかりはお前の御人好しに付き合うことにする。バカどもを叩き起こそうぜ」
刃介の言葉を皮切りに、映司と刃介は走り出す。
無論、ポセイドンとテュポーンは斬撃と矢を繰り出し、爆炎によって映司と刃介を吹き飛ばす。
倒れ伏す映司と、上手く着地しつつも隙が出来てしまった刃介。
そこへポセイドンは映司の身体に跨って紅き槍「ディーペストハープーン」を、テュポーンは佇む刃介の首に「ジェリカルアーチ」を突きつける。
「「…………」」
「「…………」」
沈黙する両者。
だが、それも数瞬のことでしかない。
ポセイドンは槍を振り下ろし、テュポーンは弓を振り抜いた。
ポタポタと地面に滴る血。
それは映司の二の腕と刃介の首の皮から流れ出ていた。
あの狂戦士らがこれだけの好機を逃す。
普通に考えれば有り得ないことだが、その有り得ないを引き起こす要因は彼らの中身にあった。
「や、やめろ……!」
ポセイドンたちは突然苦しみだし、獲物もろともに映司をたちを放ってしまう。
「動クナ……出ルナ……!」
テュポーンと共に、その体はメダルへと変質していき、そのメダルさえも内部に押しこめられてしまった。
そうして姿を見せたのは―――
「……俺は……」
「……やっと……」
映司と刃介がずっと見ていた、二人の青年であった。
*****
時は過ぎ、夕暮れ。
呪縛を打ち払った二人の青年を連れ、刃介たちはとある大量のバイクが置かれた廃材置き場にやってきていた。
ここならば雨露は凌げるし、何より人目を避けることが出来た。
映司はポセイドンから受けた腕の怪我の治療を比奈から受けていた。
簡単な消毒と包帯だけの簡単なものだったが、それでも少しばかり傷口が痛むのか、治療中の映司の表情は苦痛に引き摺られていた。
因みに、刃介の首筋の傷はセルメダルを数枚取り込むことで即座に回復した。
「ごめんなさい!」
「…………」
傷に痛む映司に対しポセイドンに変身していた青年が申し訳なさそうに頭を下げて謝罪した。
テュポーンに変身していた青年は無言なれど、その表情は実に苦々しそうである。
「俺たちのせいで、ホントに……」
「その……迷惑、かけちまって……」
二人の青年は罪悪感のせいか口調はただたどしかったが、そこにある謝ろうという思いだけは本物であった。
「湊ミハルに……音羽ユウ……だったよな?一々頭を下げるぐらいなら、こうなった原因を話せ」
「そうだよ。理由がわかれば、きっとライダー同士で助け合えるよ」
「……違う」
刃介と映司の言葉を、ミハルは重々しげに否定した。
「俺たちゃぁ……ライダーを名乗る資格がない……」
「資格……?」
「ここから40年後にも、人間を襲うバケモノがいて、奴らを葬る為のベルトが俺たちに与えられた」
「俺のは水の力で変身するんだ」
「そして俺は、風の力だ」
それを聞き、七実が双眸を鋭く細めると、その口からあることを言いだした。
「成程。出来ず、満たされず、ということですか」
その言葉の意を汲み取ったのか、ユウが忌々しそうに告白する。
「あぁ、そうだ。ミハルは水嫌いで、俺は力を求め過ぎた」
即ち、ミハルは変身すら満足にできず、ユウは変身こそできたが力に溺れてしまったのだ。
「……ククク……」
「本末転倒だな。人選能力ゼロだな、未来人」
ユウの告白にアンクが吹きだす中、刃介はそれを制止する仕草を取るも、嗤う代わりに辛辣な感想が飛び出した。
もっと他にいいようはないのか、と映司と比奈と七実が思っていると、
「そんな時、俺たちを助けてくれた人たちがいたんだ」
話しによると、ミハルとユウの元にポセイドンとテュポーンのメダルとドライバーを以て現れた白髪の老人と金髪の美女はこう言ったという。
”我々鴻上ファウンデーションとトライブ財閥が開発した、メダルシステムのライダーだ。これで君も仮面ライダーとなる。Happy Birthday!”
”もっと強い力が欲しいのでしょう?だったら、今日という日を、欲望まみれなワイルド系ライダーに生まれ変わるアニバーサリーにしてあげるわ”
「あぁ……鴻上さん、未来でもそんなことを……」
「でもよ、ルナイトも一緒ってのが引っかかんぞ」
映司と刃介が未来の会長たちの愚行に首をひねっていると、
「でも、敵は強くて、俺はボロボロで、もうダメだって諦めたとき―――」
ミハルたちは過去から流れ着いた大量のセルメダルとコアメダルに包み込まれてしまったのだ。
激しいエネルギーの奔流に押し流されそうになる感覚の中、彼らの手にあるベルトから声が聞こえてきたのだ。
”戦わせろ!もっと、もっとォ……!”
”沢山……戦ウ……!オマエノ……代ワリニ……!”
「要するに、未来のコアメダルに意思が生まれて……」
「使おうとしたら、逆に使われちまったってわけか」
「俺が弱いから……俺なんかライダーにならなければ……」
「俺も、頭に血が上りすぎてた……これなら、金髪女からベルトを受け取るんじゃなかった」
意気消沈とするミハルとユウ。
そんな彼らに対し、アンクは真顔で、
「そういうことだ」
ネガティブに陥る彼らの自己嫌悪を肯定した。
そんな彼に映司は諌めるようにシャツをアンクの顔に被せ、比奈に至っては椅子替わりにしていたタンクを持ち上げようとする。
「あァ、ちょっと比奈ちゃん、ダメダメダメ!」
映司が止めに入らねば、恐らく投げ飛ばされたタンクは自重によって上方から猛スピードでアンクに突っ込んでいったことだろう。
「……はぁ」
そんな一同の姿に、七実は相も変わらずやたらと似合う溜息をついた。
*****
時は更に過ぎ、深夜となった。
今夜は此処で野宿することとなった一同は、適当な焚火を炊いてそれぞれが陣取った場所で眠りに入っていた。
そんな時、座りながら寝ているアンクと刃介の傍に忍び足で歩むミハルとユウ。
その瞳は不気味な光を宿しており、今にも獲物に跳びかかる獣のようにさえ見える。
「メダルなら渡す気はないぞ」
「「―――ッ」」
だが、静かに告げられたアンクの一言で二人が動揺を見せた。
その直後、映司がミハルを、刃介がユウを羽交い絞めにした。
「やっと出てきたな!」
「狸寝入りすりゃあ、隙を狙ってくると読んだ甲斐があったな」
「お前らが表に出てこないと、メダルが抜き難いからな」
全ては計算づく。
わざと隙を見せることで誘いをかけ、こうして一気にコアを奪い弱体化を図っていたのだ。
「比奈ちゃん!」
映司に呼ばれ、比奈は両手がふさがっている映司の腹にオーズドライバーを押し当て、三枚のメダルを装填し、オースキャナーを走らせた。
「変身!」
≪SAI・GORILLA・ZOU≫
≪SAGOHZO……SAGOHZO!≫
映司はパワーに特化した、サイとゴリラとゾウの力の集約形態であるサゴーゾコンボに変身する。
『悪く思うなよ。こんな単純な手、引っかかるお前も悪い』
刃介もその身を黄金の鬼神とでも言うべき異形、グリード形態の我刀『鋼』と化した。
「大人しく良い子にしていろ」
そしてアンクがその右腕をミハルの胴体へと突き立てた。
アンクはその指先でミハルの体内で漂う幾枚ものコアメダルを掴み取り、腕を強引に引っ張り出してコアを確認する。
「面白い。これくらい梃子摺らなくては張り合いがない!」
「良イ……退屈……シナイ……」
邪悪な意志は依り代を解して口を開き、腕を振るうことで猛烈な衝撃波を生み出し、オーズとガトウの拘束を振り払った。
さらに、ミハルとユウの身体から大量極まるオーメダルがベルト共々に飛び出し、人型へと集約していく。
形を成したそれは得物を手にすると同時にユウとミハルを片腕で捕まえた。
「これで俺たちも漸く単独の存在を確立できたようだ」
「コイツラ、要ラナイ……ゴミ、捨テル……」
遂に単独での実体化が可能になったポセイドンとテュポーンは、ミハルとユウを放り捨てると、槍と弓を振るい斬撃波を叩き込もうとする。
だが、アンクが右腕から放った火炎とガトウの両目から放たれた光線によって相殺され、辺りは煙で満たされる。
その煙が晴れたとき、既に狂戦士らは用済みと言わんばかりに姿を消していた。
*****
翌朝。
一同はスマートフォンを通してテレビ電話をかけてきた鴻上の話しに耳を傾けていた。
「火野くん。鋼くん。未来のライダー達は時空の穴へ向かったよ。別の時代で戦いを続けるらしい」
「あれだけやって、まだ戦い足りないとは。殆どグリードだな、あいつら」
鴻上の報告を受けて、刃介が心底呆れたかのように呟いた。
「しかし、今やバースとチェリオのチームは負傷し、火野君も怪我を負った。今動ける手勢で勝ち目は……」
「行くに決まってんだろ。このままあいつらの好き勝手にやられちゃ堪らないからな」
「えぇ。止めないと、大変なことになります」
それを聞いて鴻上は、
「そう言ってくれると思っていたよ!Good Luck!!」
「おい、ルナイトは今―――」
急遽刃介が何かを訪ねようとしたが、その瞬間に通話は終了してしまい、刃介は舌打ちをした。
「あの、何か訊きたいことがあったんですか?」
「……昨日の晩からルナイトの奴、竜王ともども連絡がつかないんだよ。通話もメールも返してこない」
「あの人たちのことですから、無駄なことだけはしていないと思いますよ……」
映司の問いに刃介はぶっきらぼうな態度で答えた。
これまで数か月もの旅を共にしてきただけに、何の連絡も無しに姿を晦ましている二人の事が気がかりでならないのだろう。
七実はそんな刃介の不安を拭うように、耳元でそっと囁いた。
「そうだな。俺の不安はこんなもんだが、火野お前に憂いは無いか?」
「一つだけ……」
刃介の質問に、映司が極めて情けない声でこう返した。
「明日のパンツがない!」
「あ〜…………言ってたな、うん」
確かに昼間にそんなことを言っていた。
そうすると、比奈が映司の前に出てきた。
「あの、困ってるみたいだから、買ってみたというか……」
「なに?」
「その…………明日のパンツ!」
その手には紙袋が抱えられており、しどろもどろな口調と仕草をしている。
が、いざ中身を見せてみれば、そこには色とりどりのパンツたちが詰まっている。
「ありがとう比奈ちゃん!絶対勝てるって気がしてきたよ!」
人間、たった一つの気の迷いで判断が鈍り、戦いにも支障をきたす。
尤も、パンツがあるかないかでモチベーションが変わる、などというのは映司をおいて他にいないだろう。
「行こう、アンク」
「……ハッ」
そんな映司の調子に、アンクもいつも通りの嘲るような笑いを返した。
「ま、これで戦後処理もOKということで―――出撃するか」
刃介の言葉を号令とし、四人は戦場へと歩み出す。
「どうして!」
「何でそんなに、あんたら強い!?」
そんな余人を呼び止め、その強さのわけを問い質すミハルとユウ。
映司と刃介はそんな彼らに歩み寄り、映司はミハルに明日のパンツを渡し、刃介はユウに写真をみせた。
「俺のおじいちゃんの遺言で、男はいつ死ぬかわからないからパンツだけはいつも一張羅穿いとけって」
「俺にそんな覚悟があれば……」
「そうじゃなくて、肝心なのは、明日のってトコ。これは今日をちゃんと生きて、明日へ往くための覚悟なんだ。ミハル君たちは、その明日を守ってくれる仮面ライダーだろ?」
映司の語る覚悟に、ミハルは何も言えず沈黙するばかり。
「大丈夫。君が挫けた今日は、俺たちが守るから」
優しく論した映司は今自分の後ろにいる仲間たちを一瞥する。
これこそが、今の自分が守るべきものなのだと語るように。
一方、刃介がユウに見せた写真には、自分を中心に、七実、ルナイト、竜王、金女の五人が映っていた。
「これは……?」
「俺が守りたいものだ」
「守る……?」
口にしてみれば簡単だが、意味を理解するには難儀する言葉。
「俺は正義の味方じゃない。目の届く範囲でなければ、誰が何をしていようと関係ない。だけど、俺の大事な者を傷つけるというなら、俺はそいつを全力で斬り殺す。例え、神様が相手でも」
「それが、守る?」
「それだけじゃない。俺は好きなものは全肯定し、嫌いなものは全否定する。しかしよ、俺みたいな業突く張りでも、通さなきゃならない筋がある。自分で定めた信念って奴をよ」
「信念を貫く……」
「まあ、偉そうなこと言ってるけどよ、とどのつまり、誰に命じられたとか、義務とか使命とか、そういうの無しでも守りたいって自分が本気で思うモノが出来れば、お前も強くなれるさ」
そう語って刃介は写真を懐に仕舞い、首にかけている梵字の彫られたロザリオを指でなぞりながらこう結論づけた。
「英雄ってのは我の強いもんだ。だから、お前はきっちり自分らしく在れば良いんだ。そうすれば、力って奴は手に入る」
「俺らしく、いる……か」
*****
時空の穴が間近で眺められる港。
そこにポセイドンとテュポーンは佇んでいた。
「あれで、どんな時代でも、どんな奴とも戦い放題だ」
「……愉シミ……」
文字通り、彼らは目先の欲に釘づけとなり、今まさにタイムトラベルを再び試みようとしたとき、
「ア……来タ……」
テュポーンの野性的な感覚が、後方から迫ってくる者達を捉えた。
振り向いたその先には、しっかりとした足取りでこちらに歩み寄る四人がいた。
「折角助かった命を無駄にするつもりか?」
ポセイドンはそういうと、手の内にある割れたセルメダルを大量にばら撒き、十数体の屑ヤミーを量産する。
テュポーンも同じように割れたセルメダルを思い切りばら撒いて十数体の屑ヤミーたちを量産した。
「早速お出迎えか。映司、気ぃ抜くなよ」
「あぁ、この感じ、なんか久しぶりかもな!」
「屑どもが相手なら、良い準備運動になる」
「確かに。私もちょっと運動したいと思っておりました」
四人はそのまま屑ヤミーの群れへと突っ込んでいき、生身のまま徒手空拳で戦い始めた。
「そういえばアンク。お前が戻ってきた理由、まだ訊いてないんだけど!」
「気にするなと言ったはずだ!」
しかも、このように会話までする余裕まである。
「そうだぜ火野。俺たちは既に答えを丸投げされてるんだしな!」
そこへ刃介も会話に割り込み、
「みなさん。今はお喋りする時ではなく、勝つ時です」
「ハッ、違いねぇ」
七実の言葉にアンクが同意し、三枚のコアメダルを映司に投げ渡した。
刃介も異形の右腕から三枚のコアを取り出す。
「生きるぞ、全員でな」
「えぇ。みんな一緒に!」
そうして刃介と映司はこの先にいる敵へと向かっていき、アンクと七実は雑兵どもの掃除に精を出すことにした。
オーズドライバーとブライドライバーを装着し、確かな足取りで歩きながらコアメダルをセット。
カテドラルを傾けると同時にスキャナーを手に取り、力に限り叫んだ。
「「変身!」」
≪TAKA・TORA・BATTA≫
≪RYU・ONI・TENBA≫
≪TA・TO・BA!TATOBA!TA・TO・BA!≫
≪RI・O・TE!RIOTE!RI・O・TE!≫
仮面ライダーオーズ・タトバコンボ。
仮面ライダーブライ・リオテコンボ。
変身を完了させた二人は、それぞれメダジャリバーとメダマガンを手にし、ディーペストハープーンとジェリカルアーチを握りしめたポセイドンとテュポーン目がけて突貫していく。
切り結び、撃ちあう両者。
一見互角のようにも見えるが、ポセイドンとテュポーンはその荒々しい戦闘スタイルで戦場の空気を持っていき、戦いを優位に進めている。
「お前らとは戦い飽きたんだがな」
「つれないな。もっと付き合えよ」
ポセイドンの言葉にブライが挑発的な言葉を返し、オーズ共々今一度突っ込んでいく。
が、地力は向こうが上なのか、ポセイドンはオーズを掴んで海へ、テュポーンはブライを掴んで上空へと天高く跳躍する。
「映司!」
アンクは即座に思考を働かせ、三枚の青いメダルをオーズに投げ渡し、受け取ったオーズはそれに応じてメダルチェンジする。
≪SHACHI・UNAGI・TAKO≫
≪SHA・SHA・SHAUTA!SHA・SHA・SHAUTA!≫
シャチの頭、デンキウナギの腕、タコの脚をした青い水棲系のシャウタコンボ。
「荒っぽくいくぜ!」
一方で、ブライはテュポーンに身体を掴まれながらも体内から二枚のコアメダルを出現させ、それを既に嵌っている二枚と取り換えた。
≪RYU・WYVERN・DRAGON≫
≪RYU・WA・DRAGON KNIGHT!≫
龍神の頭、飛竜の腕、悪竜の脚をした紫色に輝く最強の幻想種たるリュワドラコンボ。
コンボチェンジした二人は海中と空中で凄絶な戦いを繰り広げだす。
オーズとポセイドンは互いに水棲生物のコアを秘めた者同士、最も力を発揮できる水中。
液状化を発動したオーズは水中での抵抗を失くすことで一気にポセイドンへと詰め寄り、巨大な八本脚を展開したタコレッグでポセイドンに手数で押しまくる手段に出た。
しかし、ポセイドンが掛け声とともに放った一撃でオーズは弾き飛ばされてしまう。
だが、オーズはそれでも諦めることなくもう一度ポセイドンに接近し、タコレッグでの猛攻撃に入った。
「フンッ!」
振るわれたディーペストハープーンの一閃。
それによりオーズは海中から弾きだされ、地上へと水飛沫を上げて転がっていく。
片やブライは、
「喰らえ!」
空間を叩き割り、そこから掴み出した大剣「メダグラム」を構えた。
≪GOKKUN!≫
三枚のセルメダルを刀身から鍔―――龍の咢から胃袋に当たる柄へと飲み込ませる。
そして、竜の顎をスライドさせることでセルの養分を絞り出す。
≪RYU・WA・DRAGON HISSATSU!≫
背と肩から翼を生やし、空中で姿勢を維持しながらエネルギーを纏った刃を思う存分振りかぶった。
剣より奏でられた歌声に呼応し、必殺のギガキリングスレイヤーが発動する。
虚無を司るのヤミーさえもこの攻撃には耐え切れずに爆散した。尤も―――
「ンンン……!ガアッ!」
「んなっ!」
強烈な風力によって飛行するかのごとく自らを空中に繋ぎとめているテュポーンは、ジェリカルアーチの弦を限界まで引き絞り、必殺技のヘブンリースルーザを射た。
二つの必殺技が激突したことで威力が相殺され、互いに攻撃は届かず終い。
二人はそのまま剣と弓をぶつけ合わせ、重力に任せて自由落下しながら剣戟を刻んだ。
そんな時だった、
「断罪炎刀」
テュポーンの背中に炎の刃が刻まれ、それにより生じた隙を突くことでブライはテュポーンを後退りさせたのだ。
「今の―――まさか……!」
そう。そのまさかである。
「不忍―――何時までも寝ているわけにはいきませんからね」
「金女……」
そこには額金と覆面で顔を隠し、焦げ茶色の忍び装束を身に纏ったくノ一、鋼金女の姿があった。
装束の下にある鎖帷子の透き間からは包帯が見え隠れしており、明らかに無理を通してここへ来たことを如実に示している。
「兄さん。私たちがこの程度で退くタマだなんて、思っていませんよね?」
「……ふぅ。そうだったな」
妙な自信を乗せた金女の言葉に、ブライは溜息を一つもらしながら仕方ないと強引に自分を納得させた。
来る前ならいざ知らず、既に来てしまったのなら、最早この場で言葉を紡いだところでどうしようもないのは明らかなのだから。
「つーか、お前がいるってことは……」
「はい。あちらをご覧ください」
と言われ、金女が指さした方向を見てみれば、海上にて後藤と伊達が水上バイクを乗り回し、ポセイドンの気を引くルアーの役目を担っているではないか。
しかも、港の倉庫付近で屑ヤミーを相手に格闘している里中と烈火の姿まで視認できた。
更にいうと、賊刀『鎧』と双刀『鎚』、悪刀『鐚』で武装した吹雪とダークの姿まで見えるではないか。
おまけに、
「痛み止めは30分しか効きませんから」
「それ越えたらさっさと撤退してくださいね」
「会長からのオーダーっすから」
「「「言うなよっ!!」」」
里中たちの無遠慮な警告により、彼ら四人の無茶は映司にまで知られてしまう始末。
「フン」
そんな彼らに対し、ポセイドンとテュポーンはバカバカしそうに一息吐き出すと、槍と弓を振るい斬撃波を連続して打ち出してくる。
それらの攻撃に晒されつつも、後藤や伊達は何とか躱していた。しかし、場所は水上だ。専用の装備があるとはいっても地上を走るオートバイとはわけが違う。
しかも、二人は水上バイクに乗り慣れているわけもなく、囮となってから一分程度で攻撃は機体に届き、二人は思わず叫びながら車体から投げ出され、水面に叩きつけられた。
一方で、
「ウザイ」
テュポーンも弓から矢を幾度となく射出し、地上で屑ヤミーを相手にする烈火や金女を狙う。
しかし、狂戦士のさがか、狙いは思いのほか乱雑で、彼らを仕留め損ない折角作った屑ヤミーを粉砕してしまっている。
だがそれでも、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、というように、テュポーンは苛立ち甘くなった精度を手数で補い、更に矢を射出するペースをアップさせる。
結果、遂に矢は烈火と金女の足元に命中し、二人は舞い上がった爆炎と共に空中へと投げ出され、背中から地面に叩きつけられてしまった。
「あっ……」
「拙いな」
芳しくない戦況にオーズとブライが顔を渋めている中、
――ブゥゥゥゥゥン!ブォォォォォン!――
二つのエンジン音があたり一面に炸裂した。
音の源の方向へと首を振ると、そこには黄色い水上バイク「アクアミライダー」に乗ったミハルと、小型戦闘機のようなオートバイ「ゲイルカンバッター」に乗ったユウの姿があった。
「ブライ、オーズ。あんたらのお蔭で、俺たちはやっとわかった。力は、どこまで行っても力だと。そして、俺たちが守る今日が、守るべき者達の明日になるんだ!」
「もう怖いだなんて言ってられない。仮面ライダーを動かすモノ、俺たちに足りなかったのは―――勇気と信念だ!」
そうして、ミハルはバックルにタービン型装置が埋め込まれたベルトを、ユウはバックルに風車が埋め込まれたベルトを装着。
一時的にハンドルから手を放し、腕を構えてこう叫んだ。
「「変……身!」」
そのキーワードによってベルトが起動し、二人の身体は水と風に包まれ、それが晴れたとき、彼らはまさしく変身していた。
青き水の未来戦士、仮面ライダーアクア。
緑の風の未来戦士、仮面ライダーゲイル。
ここに、40年後という遥かな明日を担う者達が、現代にその勇姿を現したのだ。
「あれが、未来の仮面ライダー!」
オーズは彼らの姿に、明日を生きていく者達の想いを見た気がした。
「何度モ……何度モ……、出テクル」
だが、テュポーンらはこの展開が気に喰わなかったらしく、ポセイドンと共に槍を振るい、矢を射る。
しかし、アクアはハンドルを巧みにさばき、ポセイドンが繰り出す斬撃を悉く躱していく。
本来ならば回避することなど至極難題なこれを当たり前のように熟しているのだから、アクアの技量には脱帽するばかりだ。
さらに、ゲイルは最早航空力学の常識を覆すような、まるでUFOのような動きを再現しており、テュポーンの射撃を完全に躱している。
予備動作もなく突然マシンが横へ、後ろへ、上へと直線的に進んでいくではないか。
「やるな、あいつら」
マシンの性能込みとはいえ、あれだけの猛攻を凌いでしまうアクアとゲイルの力量を見て、ブライは腕を組みながら感嘆する。
ポセイドンとアクア、テュポーンとゲイルの戦いは地上戦へと移り、接近戦へと縺れ込む。
「フゥン!」
「セェイ!」
アクアは水の流れをイメージした独特の動きでポセイドンを翻弄する。
時には穏やかに、時には激流のように、変幻自在な水を体現したその徒手空拳を見て、ブライは思わず竜王の流水剣に通じる者を感じていた。
ゲイルは彼の性格上、一方的に攻めるスタイルかと思いきや、自分からはまるで攻めず、相手が攻めたと同時にそれを捌き、その力を応用して反撃する。
言うなればカウンター系の戦い方をするゲイルを見て、ブライはこの掴み所のない風邪の如きやり方こそが本来の彼なのだと悟った。
「こ、こんなところで、戦いをやめるわけには……!」
「イヤダ……モット……ヤリタイッ!」
アクアとゲイルはこの戦法によってポセイドンとアクアを後退りさせた。
オーズとブライはその隙にアクアとゲイルに歩み寄る。
「オーズ、ブライ。一緒に!」
「ああ、頼む!」
「合点承知だ」
「うん、アンク!」
「映司!」
力強くうなずいた二人。
オーズはアンクからコアを受け取り、ブライはベルトのネストからコアを取り出し、再びメダルを三枚取り換えた。
≪TAKA・KUJAKU・CONDOR≫
≪TAJADOR!≫
≪YAIBA・TSUBA・TSUKA≫
≪YABAIKA・YAKAIBA!YAIBAKA!≫
オーズは紅蓮の鳥類系・タジャドルコンボ。ブライは黄金の刀剣系・ヤイバカコンボ。
己が信じる最高のコンボへと姿を変えて見せた。
そして、
≪SCANNING CHARGE!≫
≪YAIBA・TSUKA・TSUBA!GIN・GIN・GIN!≫
≪GIGA SCAN!≫]
「ハァァ……セイヤァァァ!!」
「我刀真剣!!」
スキャニングチャージにより、オーズは天高く飛行した直後、コンドルレッグの爪を展開しての急降下キック・プロミネンスドロップを炸裂させる。
ブラウはヤイバスピナーに三枚のコアをセットし、残るセルと共に同時スキャンすることで強大な刀身を形成し振り下ろす必殺の我刀真剣を決める。
「オーシャニックブレイク!」
「エアーズクラッシュ!」
アクアは助走付けてのスライダーキックを、ゲイルは疾風を右手に纏わりつかせてのチョップを。
「「ガアアアアアアアアアアアアアアア!!」
――ジャリィィィィィィィィィィン!!――
よって、ポセイドンはオーズとアクア、テュポーンはブライとオーズの必殺技を同時にくらい、断末魔をあげながら大爆発し、そこら一面にコアメダルとセルメダルを大量に撒き散らかして逝った。
「やったな」
「はい」
それを見届けたアクアとゲイルは、己のマシンに跨り。こういって元の時代へと帰って行った。
「「ありがとう!オーズ、ブライ!みんなの明日、必ず俺たちが守るから!」」
アクアミライダーとゲイルカンバッターを駆り、二人は時空の穴の彼方へと帰って行った。
変身を解除し、一同はその光景を見守っている。
「よし。じゃあ行くか」
「不否」
「あ〜、疲れた〜」
その後ろで、伊達たちはさっさと退散していた。
残された五人……いや、三人はというと―――。
「アンク。お前たちやっぱり―――」
映司が後ろを振り返り、アンクと七実に話しかけようとすると、そこにアンクと七実の姿は無かった。
「あれ?映司くん!刃介さん!アンクと七実さんがいない!」
比奈はそのことに気付いて騒ぎ立てるも、映司と刃介は実に冷静な態度であり、慌てる様子はない。
二人は懐からあるものを取り出す。
それは……。
「映司くん……まさか、二人は……!?」
真っ二つに割れたタカとリュウのコアメダル。
その無残な姿を再び見た比奈は、それがアンクと七実だと思った。
「いんや。俺と火野が空港であいつらと出くわしたとき、もしやと思ったが……コアは割れたままだった」
「じゃあ、どうして?」
「多分、あのアンクたちも……未来から来たんじゃないかな?」
穿たれた未来への穴。そこから現れし未来人。そして、如何いう訳か復活を果たした二人のグリード。
ここまで来れば、謎をとくのは僅か数個のピースをパズルにはめていくのと変わらない。
「つまり、俺たちが頑張っていけば、何時かの明日にコアメダルが元に戻って、アンクと七実さんにまた会えるってこと!」
「何時かの、明日……」
「ま、どんなに長くても40年。普通の人間のお前らでも、生きてる間には日の目が出るってことだな」
今から40年後と言えば、映司も比奈も老人といえる年齢になっている。
しかし、寿命で死ぬような歳でもないのだ。そうなれば必然的に、あの二人の姿と声を今一度見聞きできる、ということになる。
尤も、グリードに成り果てている刃介の体は満足に年齢を重ねず、若い姿のままこの先の何十年何百年を生きることになるのだろうが。
「―――さて、モチベーションも上がったことだし、ルナイトと竜王と合流して封印を解く旅の続きと行くか」
「封印?」
その言葉に比奈が反応した。
コアに元通りにするのではないの?という反応だった。
「あぁ。超完全体の我刀『鋼』の力を以てすれば、コアの復元なんざ朝飯前だ。何しろ、欲望の魔神だからな」
欲望のままに全てを創造し、欲望のままに全てを破壊する。
此の世を創った神の領域にさえ手を伸ばすことのできる力こそ、刃介がかつてより求めていた力。
「まぁでも、七実の奴、変身に使うコアの封印を解いてはくれたが、デシレのコアとフォース・コアだけは手付かずにしちまったんだよな」
「なんで、ですか……?」
「俺が怠けないように」
朗らかな笑顔を浮かべて刃介は即答した。
その笑顔は、七実が自分を信頼してくれている、という確信があるか故のものだった。
今、刃介の心の内には揺るぎ無い想いと確固たる決意で満ち満ちていて、すぐにでも零れ落ちてしまいそうな感覚にさえ陥っている。
必ず、愛しく恋しい女に、また会うことが出来る―――それが純粋に嬉しくて仕方なかった。
だがしかし、
――ズドォォォォォ!!――
「「「ッッッ!!?」」」
そこへいきなり、前触れもなく襲い掛かって来た無色透明の衝撃波により、三人は吹き飛ばされ、回収したコアメダルがあたり一面にばら撒かれてしまう。
直後に聞こえてくる足音。それが襲撃者のモノであることは聞くまでもない。
襲撃者はゆっくりと歩むと、他のコアのことなど歯牙にもかけず、六枚のコアメダルだけを拾い集めた。
「未来のコアメダル……!これが欲しかったんだ……!」
白服を纏った眼鏡の男は、ポセイドンとテュポーンの力そのものとも言える六枚を握りしめ、部下と共に黒い車に乗り込んでその場から去ってしまった。
「今のは……」
状況を飲み込めず、映司らが愕然と白服たちを見送るかのように立ち尽くしていると、
「刃介ぇ!」
「一足遅かったか!」
「ルナイト!竜王!」
そこへ、手に見慣れないベルトを持ったルナイトと腰に機械的な二振りの忍者刀を携えた竜王が駆けつけてきた。
「おい、あいつら何なんだ!」
刃介の怒鳴る様な問いかけに、ルナイトは正反対の静かな口調で率直にこう返した。
「財団X」
こうして欲望の章は一旦は幕を下ろした。
だが、次なる舞台、神秘の章がその幕を開けようとしていた。
次回
「颯爽のJとL/英・雄・邂・逅」
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